ボクのヒミツたいけん


Scene.03
Original text:通行人Sさん


 ヒカリは処女をバイブに捧げた。

 姉が持っていたものだった。
 高校生のくせにコンパだかなんだかで酔って帰ってきた日の夜、介抱するヒカリの前で鞄からぶちまけて見せた。
 なにやら留学してきた友人から大量にもらったとか言っていた。
 アメリカだかヨーロッパだかでは、この手のジョーク商品の展覧会が行われるぐらいに世間では受け入れられているらしい。
 ……そんなことを言い訳がましく言っていたが、その内の幾つかが袋から出してあったことをヒカリは目ざとく見つけていた。
 誓って言うが、それを一つだけ自分の部屋に持ち帰った時は、盗むつもりはなかった。
 ちょっとどんな感じか試してみて、すぐに返そうと思っていたのだ。
 その時は、だが。

 ヒカリは世間では固い女だと思われている。
 クラスの委員長などという役割を真面目にこなそうとしていることからそういうイメージがついたのだが、彼女にして見ればそんなことは真面目さの証明にはならないというだろう。
 何故なら自分はオナニーを毎日しているから。
 指とかじゃない。
 中学生のくせに。
 バイブを使って。
 毎日毎日毎日―― だ。
 最初は下着の上から押し当てて上下させていた。直接触れるのは不潔なような気がしていたから。それに震動で膣口を刺激させるだけでもヒカリはそれまでの指での自慰とは比べ物にならない快感を得ることができた。あるいはそれは姉が使ったかも知れないバイブを、しかも勝手に持ち出して使っているという後ろめたさ―― 背徳感が生み出していたものかも知れない。
 やがて刺激への渇望は下着を脱いでの行為に移行していった。
 下着ごしのもどかしい感触を幾度となく繰り返す内にそうなっていくのは、半ば以上に必然だったろう。自分の愛液で毎日のように汚すと洗うのが面倒だとか、そういう副次的な理由があるにせよだ。

 バイブを丁寧に洗い、初めてそれを自らの中に入れた時のことをヒカリはよく覚えている。

 指などより太いそれが膣口に入り、震える。
 ヒカリはその瞬間にハねた。
 興奮が軽い絶頂に達しさせたのである。

「あ、うううぅぅぅッッ」

 万が一にも他の誰かに聞こえちゃいけない―― 反射的に口を塞ぎ、喘ぎ声を噛み潰そうとする。
 それでも漏れた。
 獣がうめくようだった。

 そのほんの入り口とは言え、一度快楽の絶頂を覚えたヒカリの体は、毎日のようにバイブを膣口に入れて上下させることを望むようになった。心も、また。
 どんな味なのかと一度舐めた時、ぞくぞくしたのだ。
 擬似的なフェラチオに、脳が様々な“持ち主”を想起させ、それはまた彼女に興奮を生む。
 ただ、入れるとは言っても二十センチばかりの細身のそれの、亀頭が埋まる程度までだだった。
 処女に対するこだわりは、この時のヒカリにも少しばかり残っていた。残っていたからこそ興奮の度合いは増していたのだが。 
 しかし、それさえもどうでもいいと思うような領域に入り込んだのは、初めての直接の刺激より二十日ばかりたってのことだ。
 ヒカリは浅い抜き差しで絶頂に達するまでに自分の体を開発しきった。
 一晩に幾度となく全身を硬直させ、学校でいる間でさえもそのことを思い出して雫を垂らすまでに。

「全部を挿入したら、どんな感じになるんだろう」

 それはたまらないほどの魅力的な誘惑に思えた。
 浅く入れただけでこれほどの快楽を得られるのだ。自分の中に全てを差し込んでバイブを震わせたら、膣の柔肉をプラスチックと樹脂の冷たいザラザラがこすり上げる……。
 ヒカリはバイブを口に咥えてそのことを夢想した。
 今以上の快楽なら――
 想像しながら達した。
 意識は朦朧としたまま、ヒカリは自分の唾液に濡れたそれを押し込んだ。
 微かな痛みに一瞬、我れに返る。
 小学生の頃に体育の授業で一度破れていたはずの処女膜の存在を思い出した。元々薄いほうだったので簡単に破れ、細い糸のような血の筋が太ももを伝っていた。
 あれから二年で、再生したかも知れない。
 痛いかも知れない。
 しかしそれだけだった。
 処女膜なんて、その程度のものなのだ―― そう思った。

 ヒカリはもう躊躇わず、奥までへと挿入していった。



◆ ◆ ◆



 痛かった。

 ただそれだった。
 突き入れた時の興奮は一時だけだった。
 思ってたほどでもない感触に、ヒカリの心はやがて少しづつ温度を失いつつあった。

(本当に、こんなのでヨクなるのかしら……)

 ヒカリは知らなかったが、膣の内部はそれほど快感を得られる部位ではない。
 むしろ小陰唇や大陰唇、膣口の方が感じやすい。
 初めての挿入ならなおさらだ。
 古い閨房術には「九浅一深」という言葉がある。
 単純に言うと浅く九回突いて、一度深く突きこむというストロークのことである。これは焦らすための技術と解されてきたが、実際はそうではない。膣の浅い部分の方がより感じやすいということについての経験則が生かされた言葉だったのだ。無論、精神的には深く自分の内部を満たしてくれる感触というのも捨て難いものがあるし、それをなかなかさせないことによる「焦らし」も計算にあっただろう。それに膣の奥にある子宮口―― ここは感じやすい場所でもあるが、あんまり突きすぎても痛いだけだ。それもあっての「一深」ということか。
 ヒカリは無論、そのようなことを知らない訳で……。
 軽い喪失感と少しばかりの後悔が残った。

 それからはしばらくはそれ以前のように浅く抜き差しして、時たま深く突いてみて様子を見たりということを繰り返し……少し慣れ始めた頃、ヒカリは同級生で想い人である鈴原トウジと寝てみようと決心した。
 ヒカリがいかに快楽を追うことに熱中していたとしても、少女としての夢想家な部分は何処か夢見ている。
 もしかしてこんなバイブじゃなくて、鈴原のペニスならば満足できただろうか?
 心の一部分が囁く言葉に、肉体と心の大半が「そんな訳がない」と答えを返す。

 初めてはみな下手くそだと、よく耳にしていた。

 ヒカリの同級生は言うまでもなく中学生だが、経験したなんて娘は何人かいた。そのどれもが最初の相手が初めての同級生だった場合、下手くそで独りよがりだと言っていた。

『なんかさぁ、アダルトビデオで見たこととかやりたがるのよ』

 無理やり咥えさせたり、ほぐしてもいないアナルへと指を突きこみたがったり。
 せめて爪ぐらい切っていて欲しいのに―― そんなことを零したりもしていた。
 
 ヒカリが性に対する興味がありながらもマスターベーションでの快楽の追究に走ったのには、そのような伝聞が影響している。
 自分の手で得られる快楽なんかに到底およばない男の子の荒っぽい行為……。
 考えるだけでぞっとした。
 でも。
 
(やっぱり初めてぐらい、好きな人とすればよかった)

 それが後悔。
 ヒカリに残っていた、少しばかりの後悔。
 
 だから。

(まだイッてないうちにしちゃおう)

 少しでも処女性を残しているうちに……。
 それが彼女の決意だった。



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