ボクのヒミツたいけん


Scene.04
Original text:通行人Sさん


 男の子なんて、誘えばすぐにやりたがるのだと思っていた。
 特に鈴原みたいに、相田と一緒に隠し撮り写真なんて売ってるようなスケベな奴だったら、ほいほいついてくるに違いない――
 そう思っていた。

「いきなり抱いてくれ言われて、抱けるか!」

 学校帰り、なんとなくを装って自分の家にトウジ誘ったヒカリは、少しだけ世間話をした後で「SEXって興味ない?」と切り出した。我れながら直截的だと思ったが、その時はそうするしかないと思った。何せトウジは女の子に部屋に誘い込まれたのにも関わらず、いつもと態度をかえようとはしなかったから。友達に言わせれば、男の子なんていつもスケベなことばかりを考えているものだという。女の子に誘われて密室に行こうものなら、すぐに後ろから腕を廻して抱き締めようとするものなのだと。
 鈴原トウジは違った
 っていうか、ヒカリの「友達の彼氏」のことを、即トウジに当てはめようというのがそもそも間近っている。ちなみにここで強調すべきなのは「友達」ではなく「彼氏」である。
 そう。
 この時点でヒカリは、すっかり思春期の男女がすべき交際のための第一段階、欠かすことの出来ないビッグ・イベントたる―― 《告白》をすることを忘れていたのだ!
 いくらこの年頃の男の子がほとんど年中スケベェなことを考えているとは言っても、いきなり「つきあっている」という前提なしに「SEXしよう」では引かないほうがおかしい。つーか引く。ケダモノ的に常に女の子にスケベェしたがっているような内向きなむっつりタイプでもなければ、こういう展開にのっかかるということはちょっとない。ヒカリがその辺を失念していたのは、トウジはぎこちなくであるが自分の想いに気づいて態度を改めていたという事実があったのと、その後で妄想で突っ走ったあげくにマスターベーションのオカズにトウジを使用し続けていた結果として、ヒカリの中ではとっくに自分らは相思相愛のカップルということに認知されていたのである。
 ……なんだかイタイオンナっぽくなってしまっているが。

 ―― と言う訳で、前述のトウジのセリフになるわけだ。
 
「イインチョ、一体どないしたんや?」
「……………………」
 
 ヒカリは上着を脱いで上半身はブラだけとなっていた。よりかかってその胸はトウジの胸板に当たって潰れているけれど。ジャージ越しに心臓がドクドク動いているのが聞こえる……ような気がする。トウジがなにやら言っているが、聞こえていない。あるいは聞いていない。この段階で彼女は現実から半ば目をそむけていた。冒頭での「抱けるか」と言う言葉がかなりの衝撃となって彼女の心を揺さぶったのだった。

(どうしよう……私、こんなことまでしたのに……)

「イインチョ、はよな、服きいて、あんまり女子がこういうことはやなぁ……」
「なんで? なんで私を……」
「なんで言われてもやな……」
 
 トウジは困った。
 据え膳食わぬわ男の恥とかいう言葉が浮かぶが、「男」としてこういうのはなんだかやだなぁと彼は漠然と思っていた。つまりは単なる格好つけである。確かに自分らはなんとなくではあるが付き合っていたっぽくはある。だが、なんというか、そのことについての思いを確認しあったことはない。そういうのは大切なことではないか、と柄にもなく思っていたりする。肉体の関係にいたろうかというのならなおさらだ。
 そう。
 この時のトウジはそういう少年だった。
 
「そんなのって……そんなのってないわよ……!」

 だが、ヒカリにはそういう少年らしい論理というのは通用しない。
 彼女の中では、トウジが自分を抱き締めて愛撫してペニスを突きこんで中で果てることまでが決定済みだった。気になるのはそれが気持ちがいいかどうかだ。その前の、抱いてといって拒まれるなどという選択肢は存在していない。
 だからヒカリは、そのままの状態から力を篭め、トウジをベットに押し倒した。



◆ ◆ ◆



(どないする?)

 自問するトウジだが、答えなどでようはずがない。
 格好をつけてヒカリを押しのけるという選択肢が「男」としては最も見栄えがするっていうか、「らしい」行為に思われたが、そこまでしていいものかと躊躇わせるものが今のヒカリにはある。それに何より、この美味しすぎるシチュエーションに対して何もしないというのは、さすがにもったいないと思えるのだ。悪友の相田ケンスケに言わせれば「涙を流して悦ぶべき状況」であろう。そしてそうであるとは彼としても異論がない。
 しかしである。

(イインチョは何を焦っとるんや?)

 気になった。

(ここまできたら、後には引けないのよ……)

 ヒカリはトウジの両手を抑えながら、内心でそう反芻していた。
 自分がやろうとしていることが中学生らしからぬ行為であることは百も承知だった。だが、友達もやっていることだし、相手との合意が得られたら子供が出来るとかしなければ問題ないだろうと思っていた。だが、現実はトウジは自分を抱くのを躊躇っている。SEXをしたがっていない。こんなはずじゃなかった。こんなことでは……。

(鈴原に……嫌われる……)

 思考はひどく極端から極端に走っている。初めてが上手く行かなくて別れることになったとかいう雑誌で読んだ経験談とかが脳裏によみがえってきた。そうでなくてもこのままで何事もなく終わったならひどく気まずくなってしまうだろう。
 だから。
 上手く行かせるしかない、とヒカリは思い込んでいた。論理の整合性など求めてはいない。そのように思ってしまったのだ。
 とはいえ、ヒカリはトウジを押し倒しても、その後どうすればいいのかということについての具体的な方法を知らなかった。このままトウジの服を脱がせばいいのだろうか? それともトウジのペニスをいきなり咥えて舐めしゃぶればいいのだろうか。いきなりそんなことをするとさすがに度を越えた淫乱と思われないだろうか。されに聞いた話ではひどく苦いとかしょっぱいとか……とりあえずブラを外そう。そう決めてから腰掛けている位置をずらし、背を伸ばした時、ヒカリは己の最も敏感で他人の手の触れたことのなヴィナスの丘に、何か硬いモノが当たったのに気づいた。

(これは――

 これは―― 鈴原のおちんちんだ。
 ヒカリは布地越しに伝わるその感触を、それと認識した。間違いない。鈴原のおちんちんが硬くなっている。勃起している。自分の感触と行為に興奮している……!

(そうか……意地張っていたのね……)

 熱い衝動とともに奇妙な冷静さがヒカリの中に湧き出した。
 トウジが何故えに自分を受け入れないのかについて、彼女はかなり正確に把握することができた。きっとこの「男らしい」に固執する少年は、簡単に手出ししないことこそが男らしいと思い込んでいるのだ。

(だったら、私は……)

 このまま引いて、そのうち鈴原から求めてくるのを待つ方が―― そういう考えも一瞬だがあった。しかし何よりもヒカリは、布地を越えて伝わる感触に興味を引かれていた。バイブとは違う「硬さ」を持つ人間の生のペニスは、一体どんな感じがするのだろう? 
 せめてもう少しこの感触を味わってみたい……ヒカリは思った。
 
「鈴原……」
「何や?」

 実は布地越しに感触を得ているのはトウジも同じであった。腰の上にかかった圧力がヒカリの何処の部位からもたらされているかなどは考えるまでもわかることだし、ヒカリの方のように具体性は欠いているが、確かに「柔らかさ」を感じてもいる。自分のペニスがあれこれと中途に物を挟んでいても、決して今まで触れたこのない「そこ」に押し付けられている……それを考えると血液は局部に集中し、硬度は増すばかりであったのだ。
 だからトウジはヒカリに声をかけられたとき、それをどうにかしようと必死に耐えていた。このままずっとそこにそうしていて欲しいなどと考えていた自分をどうにか封殺しようともがいているところだった。

「抱いてくれなくていいから」
「…………………」
「せめて、あなたを感じさせて……」
「………………ッ」

「せめて〜〜させて」という言葉に男は弱い。
 強さを望んでいるような男ほど、特に。
 そういう弱弱しい(っぽい)懇願をされると、はっきりと拒否が難しくなるのだ。
 それに、その後のヒカリの行為がまた拒否を難しいものにさせた。



◆ ◆ ◆



 体全体を密着させるように、そっと圧し掛かる。

 ヒカリは頬をトウジのそれに寄せ、胸をトウジの胸に押さえつけ、脚を広げてトウジの腰の上に己の腰を置いた。

「イインチョ……」
「鈴原……暖かいよ……とても暖かくて……ドキドキする……」
「そやな……」
 
 それ以上に言葉はない。
 ヒカリは頬ずりしながら、全身を小刻みに動かした。
 いや。
 全身を小刻みにするのを誤魔化すために頬ずりをしたというのが正しい。
 全ては鈴原トウジという少年の体の感触を、体温を、ペニスの硬さを味わうためだった。

 そして、初めて全身を密着させた家族以外の異性の体は、何よりも勝る性具になった。

 押し潰していた胸は二度三度揺すっただけですっかり硬くしこり立ってしまい、ブラに擦れて甘い痛みを生み出し始めた。伝わってくるトウジの動悸の音と体温がそれをなしたのだとヒカリは思った。人の暖かさはなんというここちよいものだろう。そしてなんて気持ちがいい……!
 秘所にある硬さもまた、よい。
 ヒカリの下着は数度押し付けただけで濡れた。花弁の下に蓄えられていた蜜が溢れたかのようであった。すぐにトウジのズボンにも染み込み、擦り合わせるたびに濡れた音がした。そしてその音がまたヒカリを興奮させる。

「や、やめい、やめいって……イインチョ……!」

 トウジはその音を聞いた時になって、ヒカリが自分の身体を使って何をやっているのかを察した。
 このままでは不味いと思った。何がどう不味いというのかは解らなかったが、股間には「熱さ」としか言いようのない何かが集まってきている。このままではそれが弾けてしまうとおもった。
 弾けて、出てしまう。
 それはなんとしても避けたかった。
 両手でヒカリの肩を掴み、離そうとするが、できない。ヒカリはすでにその手をトウジの背中に廻していたし、両足をトウジの腰に挟み込むように巻き付けてた。

「鈴原……鈴原……! 凄くイイ! わたし、あなたを感じてるの! 感じて気持ちイイの!」
「やめ。やめ、やめ……これ以上されたらアカン! 出るって! 出してまうって……!」

 ヒカリはその言葉を聞いた時、体の中の何かに火がついたような気がした。自分の中には蝋燭がいっぱい立っていて、そのほとんど全てには小さな小さな火がついている。しかしその奥にある一番大きな、少し離れたところにある蝋燭にはついてなかった。つけたいのに、つけられない、少しだけ遠いところにある蝋燭。もどかしくてもどかしくて気が狂ってしまいそうな気さえしていた。今、この瞬間、それにも火が点ったのだ。そしてそれが何だったのか、ヒカリは解った。解ったような気がした。

「ああ! ああっ! 凄いよ! イイ! イイ! イイ! 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!」
「出る! 堪忍や! 出る! 出るぅぅぅぅぅ!」

 最後の瞬間にいたるまでの数秒間、ヒカリは声さえもだせていなかった。頭の中は白い闇に飲み込まれ、腰と胸から伝わる熱さとむず痒さが一気に爆発して電流のように全身を痺れさせた。
 そしてトウジもまた、股間に集まっていた「熱さ」を爆発させた。
 その瞬間には離そうとしていた両手で弓なりに反ろうとしていたヒカリの背中を抱き締め、自分の腰をヒカリのそれにすりつけるように押し上げていた。

 ……数分後、股間が妙にひんやりするのを感じなから、トウジは自分の唇にヒカリが吸い付いているののに気づいた。
 もう、対抗する気力はなく、トウジはヒカリの唇に思う様に任せた、


 それが、二人のはじめてのキスだった。



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