「アスカ、満たされぬ愛」 ♯2 前編
 LHS廚 (あくまでイメージ)ばーじょん。


−今の私はシンジの「女」−
それが私の誇り、そして誓い。
たとえアスカが相手でも、これだけは譲る気も、別れる気もない。
私はアスカが眠っていた時間も・・・四年間、ずっと彼を見てきたんだから。


 

◆ ◆ ◆



アスカが『北高』に編入した日、朝礼前に早速騒ぎが起こった。
事の発端は、高校に入ってからの新しい親友、石津ユリコの一言から。


「ねね、碇君」
「おはよう、石津さん。・・何かあったの?」
「今日さ、このクラスに編入してくる女の子が」
「ああ、それアスカの事だね」

がたたたたっ!


クラスの女子の大半(みんなシンジのファン)が椅子を倒しつつ立ち上がる。
まぁ、当たり前ね。クラス公認の『恋人』である私ですら、みんなの前ではいまだに『洞木さん』。
それなのに、いきなり『アスカ』と呼び捨てにしたら誰でも驚くもの。

「碇君、もしかしてあなたヒカリ放っておいてその『アスカ』って子と浮気・・・」

ユリコの容赦の無い一言に真っ赤になるシンジ。
からかわれてるの、判ってるはずなんだけど・・・。


「だ、誰が浮気なんか!なんで僕が洞木さん以外の人と・・・」
「ユリコ、アスカは私達の昔からの親友なの。私もアスカと呼んでるし、
 もちろんアスカの方も私達のことを『シンジ』、『ヒカリ』って呼んでるの」
「それって『元第三出身』の人って事?」

『あの戦い』をこの街で経験した、と言う事実はユリコ達にとっての私たちを小さな英雄にしている。
私達の正体を知ったらもっと驚くと思うけど、シンジにとっては苦痛でしかないから・・・。

「あの時の一連の事件のせいで体調を悪化させて・・・少し前までずっと眠った状態だったのよ。
 最近ようやく目が覚めて・・・」

私の説明にユリコが首をひねる。

「ねえ、学力大丈夫なの? 今の話だとその子、中二の学力しか持って無い事になるんじゃない?」
「それなら大丈夫。彼女、大学で飛び級で卒業してる秀才だから。
  ちょっと勝気って言うか、ある意味我侭な子で、最初はむっと来るかもしれないけど」

「『努力しても当たり前の事、って不当に評価されやすい』って言うもんね、天才や秀才って。
 判ったわヒカリ。私も積極的に付き合ってみる」

クラスの皆も、それには頷いてくれた。
お節介かもしれないけど、アスカにはいつも笑っていて欲しい。
きっと、私達がアスカを泣かせてしまうと思うから。


 

◆ ◆ ◆

 

「始めまして。碇シンジです」

私が始めて聞いた彼の声はノゾミがすねた時に良く私やお姉ちゃんにやる癖を感じた。
つまり「徹底した省略による沈黙」。
彼に対する最初の印象は「無理にでも自分を目立たせなくしている」だった。

そんな「碇君に対する気持ち」が「唯のクラスメイト」から少しずつ変わりだしたきっかけは、
綾波さんに対する彼の態度と行動だった。

彼が転校してくるまでの彼女はクラスの中でははっきり言って酷く浮きまくっていた。
一番の理由は誰ともしゃべろうとしない無愛想な点。
正直に言うと・・・・私も挨拶すらろくにしてくれない彼女に半ばさじを投げていた。

でも碇君は違った。
綾波さんに対して本当に根気良く接して、彼女の方から「おはよう」と挨拶を受けた時、
彼女をここまで変えた碇君に対して尊敬の気持ちと一緒に興味がわいていた。

動機が知りたかった私は、一度碇君に「綾波さんの事、好きなの?」と聞いてみた事がある。

彼の返事は「母に似てるから、今は家族みたいに見えるだけ」だと写真を見せてくれた。
この一枚しか無いと言う写真に写るお母さんの顔は反射した光にかき消されて良く見えなかったけど、確かに髪型とか雰囲気は綾波さんに似ていたと思う。

「よかった」
「え?何がよかったの?洞木さん?」

今考えると、私はもう彼の事を男性と意識し始めていたのかもしれない。


 

◆ ◆ ◆



その日の『二発目』は他ならぬ彼女自身から。

「惣流・アスカ・ラングレーです。よろしくお願いします」

そう、ここまでは良かったのよ・・・・。

「今、シンジと「同棲」してます♪」

「「何ぃーっ」」

《やっぱり浮気してたの》とか《二股は許さんぞ、碇!》とか《洞木さんと言う人がいながら》とか
さまざまな怒号がシンジに向かってどんどん飛びまくる。

「私も碇君と一緒に住んでるの忘れてる?  私の時はみんな騒がなかったのに・・」
「だってあんた達はそれが当たり前な関係じゃん」

ユリコの一言に『うんうん』とうなずく一同・・・・・・担任の飯島先生まで頷いてる。

またみんなにからかわれたと気付き、二人して真っ赤になった。

この時、動転していた私達は『クラスの皆にも二人の関係が知られている』と言う事実があっさりとアスカに知られた事に気付かなかった。


 

◆ ◆ ◆



『不潔よぉ・・・誤解も六階も無いわ』

アスカが碇君と葛城さんの家に同居していることを知った時、私が発した台詞が確かこれだった。
別に秘密にされた訳ではなかったけど、何故かムカッときて。

その日、『訓練』で綾波さんが予想以上に優秀だったせいでアスカが一度逃げた時も

『女の子泣かせたのよ!責任とりなさいよっ!』

泣きながら走って行ったアスカの為に言った台詞だったのに、
言った後で『なぜこんな台詞言ったんだろう』とさらにムカムカッと来て。

(あ・・・そっか、そうなんだ)

碇君が他の女の子と仲良くして欲しく無い、と思っている自分に・・・気付いた。
碇君を好きになっている事が判ったのはこの時。


『訓練』が終わっても、二人の同居は解消されなかった。
そんなある日、碇君たちが待機と言うことで来れなかった修学旅行から帰って来た時、二人の雰囲気が微妙に違っていて、二人には小さな・・・でも確かな『絆』が出来ていて。


私は・・・・二人に出来た『自分には無い』絆に嫉妬していた。


その後もずっと碇君を見ていたから、彼がアスカの事をなんとなく好きになり始めている事も、
アスカの方も「加持さんとは月とスッポン」とか言いながら、実際はまんざらでも無い事も判る。


一方私は碇君達の方を見ていたかせいか、いつの間にか「鈴原のことが好きらしい」と言う噂が立ち始めていたのには正直驚いた。

アスカはこの噂を鵜呑みにして、私の気持ちが鈴原じゃなく碇君に向いてるなんて思いもしなかった。


私達は山岸さんや霧島さんの存在にやきもきしながら、それぞれの見方で碇君を見ていた。


 

◆ ◆ ◆


「何であんな事言ったんだよ」
「別に間違いじゃないじゃない」
「だからって、思い切り波風たてまくることも無いと思うの」

屋上での昼食は久しぶり。
アスカがいて、シンジがいて。後は鈴原と相田君が居ればあの時のままなんだけど、
疎開先でそれぞれの生活を始めた二人との再会はまだ。

「こうして屋上でご飯を食べるのって、久しぶりね」
「ジャージや相田・・みんな、どうしてるのかしら。・・・シンジは知ってる人、いる?」
「ケンスケなら第二でカメラマンのアシスタントやってるって。
 忙しいのは嬉しいし、修行になるけど『Rもの』の仕事が多くて困るってぼやいてた。

 トウジは妹さんとニューヨークでボランティアをしてるみたいだよ。
 洞木さん宛のメールに
 『今は子供が義肢を使いこなせるようにする為の訓練の手伝いをしてる』って」

「ふーん・・・」


 

◆ ◆ ◆



あの頃の私は一度だけ碇君とデートをした事がある。
私達家族でお母さんのお墓参りをした帰り、やっぱりお母さんのお墓参りの帰りらしい碇君にばったり出会ったのがきっかけ。

アスカはその日、私の内心の思惑もあって、お姉ちゃんの知り合いの男性とデートに出かけている筈だったから、挨拶に始まって、挑発に近かった姉の一言と碇君の『じゃあ、行こうか』と言う言葉に誘われて、一時のデートを楽しんだ。

その時のプレゼントが嬉しくて・・・・。


「なんか、変だ・・・私・・とまんないよぉ」

今までにも悶々とした事はあった。碇君が笑ったのを見たりした時なんかに。
そんなときはシャワーを浴びたりすれば収まったけど、今日はそれで収まらなかった。
ご飯を食べている時も、テレビを見ている時も、お風呂に入っている時も。
『私だけに見せてくれた彼の笑顔』が忘れられなくて。


「ん・・碇君・・・くぅ・・・はぁ・・・あん・・・・おさまらない・・どうして・・・?」

碇君を想うだけで、こんなにも気持ち良いと感じる。そろそろと胸を触るだけで、鼓動が早くなる。
ベッドのシーツに残る冷たさ、枕のレース飾り、枕元に置いたお姉ちゃんのエッチな本。
肌に触れるすべての物が、刺激になって私の気持ちを高めていく。

今の私はとことん貪欲で、純粋に快楽を求めていた。

「いかりく・・・・・・シンジくぅん・・・・もっとさわって・・・」

今、体を触っているのはもう私の指じゃなく・・・・碇君の指。
「指」が始めて触る「あそこ」は体のどこよりも熱くて、そこ以外は何も考えられなくなる。

「欲しいよぉ・・シンジくぅん・・・・気持ち・・ひっ・・良さでいっぱいになりたいよ・・・」

かすかな痛みと一緒に私のあそこが指を飲み込んでいく。
奥に入れると痛みが強くなるのに、それでももっと入れたくて。
もう頭の中には快感とたった一つの笑顔しかない。


薄く開いた目に小さい輝きが見えた。その輝きの元は雑誌の上にのってる一組のイヤリング。
始めて男の子からもらった・・・・シンジ君の気持ちのこもった私だけの紫と銀の輝き。

そして・・雑誌のページには、胸の先端にピアスをした女性があられもない姿を晒してる。

(気持ちよさそう・・・)

もう、私の頭に歯止めはなかった。

手は私の意志を離れて・・・ううん、私が望んだ通りの事をしている。
左の乳首にイヤリングを付けた時、イヤリングの鎖が発するチリン、チリンという音が「洞木さん」と私を呼ぶ碇君の声のように感じられて。

すべての快感が彼が与えてくれているものだと思えて。
粘つく音を盛大に立てながら、両手であそこを弄り回す。

「っひゃはうっ! んんぅぅ・・・しんっ!・・くんっ!」

両方の乳首に付いたイヤリングから来る痛さと気持ち良さ。
「痴態」とか「劣情」とかそんな言葉が似合うほどに乱れに乱れていく私。
 

そして・・・。

「シン・・・・碇くぅん!!」


ふわふわしたものに包まれながら意識を失って・・・・。
翌朝「やっぱり好きだったのね。『碇くぅん』て言ってたみたいだし」とお姉ちゃんにからかわれた。


でも、この頃から私達の関係は崩れていく。



◆ ◆ ◆



学校の階段、その踊場で抱き合う碇君とアスカ。 
碇君を諦めて、噂通りに鈴原の事を好きになろうとして。
でもやっぱり諦められなかった。
『鈴原との事』と嘘を付いてのアスカへの相談。
使徒との戦いで負傷した鈴原の説得。

赤木さんの『お願い』。
私を頼りにして来て・・・・・・泣いたアスカ。
街を吹き飛ばしたあの爆発と新長崎への疎開。


そして・・『あの日』。
人々が『サード・インパクト』と言うあの出来事を私は正直ほとんど覚えていない。
それでも、全く覚えていない殆どの人々と違って、私は一言だけ・・・覚えてる。
綾波さんの『碇君達をお願い』という一言を。



◆ ◆ ◆



私がアスカの携帯に連絡したのはその翌朝の事。

『はい。そうりゅ・・・』
「あ!良かった!アスカ!?私、ヒカリ!大丈夫だった!?」
アスカの携帯に碇君が出たことに気付いた時は驚いたり怒ったりと忙しかったけど、
アスカが意識不明と知ったとき、私は「そうなんだ・・・」と呟くしかなくて。

碇君に『洞木さんがそばに居てくれるならアスカも目が覚めるんじゃないか』
とアスカの看病を手伝ってくれないかとお願いされた時、何故か『喜んで』と二つ返事で了承していた。
たぶん・・・まだ碇君との繋がりがある、と信じたかったんだろう。


約二月ぶりに出会った彼は・・信じられないくらいにカッコ良くなっていた。
背が伸びてて、表情にも以前のような弱々しさはなりを潜めてて。

でも、その瞳に映っているのは私じゃなくて。
私の初恋はそのとき終わった、と思った。


・・・・・そのときは。



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