─ 福音のいけにえ ─

第6章



書いたの.ナーグル













「い、いやっ」

 目を大きく見開いてマユミが体を仰け反らせる。座り込んでいる彼女が、出来る範囲でゲンドウから距離を取るためにはそうするしかないのだ。だが、薬の影響で体に力が入らない彼女は大して動けるわけではなく、そんなものは一時しのぎにもならない。
 脅えて震え、後ずさって逃げようとしてももう遅い。
 凌辱者ゲンドウの大きな腕が、マユミの華奢な肩を掴み引き寄せる。

「ふっ、いただきます」
「先生、お願い、や、やめっ、て……はっ、あ、ううっ、ふむぅぅ」

 固く閉ざされた唇に、生暖かく吐き気を催すような粘膜が押しつけられた。拒絶の言葉は虚しく飲み込まれ、乱暴に唇を奪われる。到底認めがたい事態に、マユミの両目に大きな涙の粒が浮かんだ。

(いやっ、いやっ、いやぁぁ――――っ)

 肉親以外の異性とする初めてのキス。
 それは微かな腐敗臭が混ざった最低の思い出だった。こみあげる嘔吐感にマユミは体を折り曲げて咳き込もうとするが、ゲンドウは悪魔の錠前となって彼女に僅かな自由も許さない

「う、むっ、ふぅぅっ、うぐ、ひぐっ」

 叫びたい。大声を出して逃れたい。そう思うけど、でも、体に力が入らない。
 無抵抗を良いことに、ゲンドウの密林のような髭でチクチクこすられる。
 それがゲンドウの髭の感触なんだ、と思う間もなくねっとりした生暖かいナメクジが、唇をこじ開けんと押しつけられる。底の見えない暗黒の中に落ちていくような嫌悪感がマユミの心を責め苛む。

「うううっ、うう、んんあっ」

 イヤイヤと弱々しく首を振るが、ゲンドウの濃厚な口づけはとどまることを知らず、じゅぶじゅぶと淫らと言うにはあまりにも乱暴な音を立てて嬲り続ける。

(なんで、なんでこんなことに…)

 あの優しく、何くれとなく気を遣ってくれた、父親のように慕った碇ゲンドウが、こんな恐ろしいことをするなんて…。こんな、こんな血走った目をして固く閉ざされた口を開こうと、発情した犬みたいに…。そしてほのかな恋心を抱いた相手の碇シンジも、それを止めるどころか機会があれば自分を抱きたかったと臆面もなく言ってのける。

 信じていたのに。本当の家族のように、碇家の人たちのことを信じていたのに。
 だが、それは全て欺瞞だった。全ては、自分という獲物を捕らえるための罠だったんだ。人当たりの良い態度、気遣いに満ちた優しさ、暖かな笑顔…。それはみんな蜘蛛の巣を構成する糸だった。
 そして自分は巣に捕らわれた。
 屈辱の花嫁衣装で飾られ、心の純白を踏みにじられる。それは一人の女性として、マユミには我慢の出来ないこと。

「はうぅん、んふぅ、うく、あむ。ああ、せ、先生、こんなこと…」
「ぬふぅ、大人しくしたまえマユミ君。おとなしく、私に全てを捧げるのだ」
「や、やめっ。お願い、顔を、近づけないで。こんな、こんなこといけない、ダメなことだから!
 ふぁっ!? あふ、ううん、うん、ううっ」

 必死に足掻いて足掻いて、持久走並みに力を使ってゲンドウの唇をふりほどいたけど、すぐにゲンドウはマユミの顔を掴むと強引に唇を重ねてくる。その尽きざる体力はマユミを決して離さない。
 再びねっとりとしたゲンドウの感触に触れて、堰を切ったようにマユミの体から力が抜けていく。たまらなく嫌なはずなのに、心の奥のどこかで少し…喜んでいる自分がいる。嫌なのに少し気持ちが良い。
 ほんの僅かに残っていた、もしかしたらと言う気持ちが、今のゲンドウの態度と言葉で全てが消えてなくなった。

(うううっ。こんなこと、もう、ああ、でも、私、もう…)

「ひゅぶっ!? うう、く、ちゅ、ふにゅ、ちゅくっ」

 びくりとマユミの体が跳ね上がる。見開かれたマユミの目から、涙が滴となってこぼれ落ちる。

(や、いやぁぁぁ。舌、舌が絡んでくるっ)

 絶望で気が抜けた所為なのか、閉ざしていたはずの口が緩く開いていた。そしてそれを見逃さず、蛇のように、あるいは使徒アルミサエルのような動きでゲンドウの舌が口腔内に潜り込んでくる。喉の奥に粘ついた粘液が流し込まれていくのをマユミは感じた。。

「あふっ、うぶぅ、ううっ。う……っ」

 涙を流しながら必死になって身をよじる。進入してくるゲンドウの舌を押し返そうと足掻くが…。舌と舌が触れあうたびに、徐々にマユミの意識が朦朧としていく。じわじわ、じわじわと冷えた手足が温まっていくように。ゲンドウの進入を追い出すことに必死になっていたマユミはそのことに気がつかない。
 抵抗すればするほど、逆に自分の防壁がとろかされていくことに…。

「はふぅ、ううん。ちゅ、ちゅく…ん」

 いつしか、とろんと惚けた瞳をしてマユミはゲンドウの凌辱を受け入れていた。潜り込み、ずるずると前後する舌を追い払うどころか、快楽に浸食された彼女の無意識は、貪るように愛撫を受け入れ、蛇の交尾のように絡み合わせて動きを同調させていく。

「ひゅ、むううっ…あ、ぶふ……んんっ、ひゃう、ちゅぷ、う、ううん。ううっ、んんんっ」

(なに、なんなの…わたし、どうして…)

 媚薬で熱を持った体は、抵抗のための接触であっても官能を呼び覚まさずにはいられない。もはやマユミは逃れられない。頭でわかっていたとしても、もう、その体は…。
 快楽で魂までも固まり、どんなに拒絶しても死に匹敵する快楽に理性を無くし、淫らな牝となるほかない。

「ひぁぁぁ。ら、めぇ、そんっ、そ、そぉん、な、こと。も、もう」

 桃色の舌は細胞の奥の奥までゲンドウの唾液を擦り付けられ、虫歯一つない歯は前歯の裏は勿論、奥の親知らずまで念入りに舐め尽くされ、唇は痛くなるほど何度も啄まれて。
 およそ2分、たっぷりと何もかもをゲンドウに蹂躙されたマユミは息も絶え絶えにそう訴えた。脳裏にひらめく快楽の火花に戸惑いつつ、空気を求めて喘ぐマユミの唇とゲンドウの不敵な唇の間に水飴のようにねっとりとした唾液の橋が架かり、やがて重力に引かれて滴り落ちる。

「あ……あ……あ……」

 唾液の糸をボンヤリと見ていたマユミは、ようやく自分がゲンドウの口づけの虜になっていたことに気づいた。快楽に赤く染まっていた頬が、今度は羞恥に染まる。眼鏡の奥の瞳を覗き込むゲンドウの眼差しが、羞恥をより一層強くして気弱な美姫の心を縛り付ける。

「ふふふふ。キスが好きなようだな」
「あ、あぁ。ち、ちがっ」

 マユミの唇が否定するように反駁しようとする。それをゲンドウは許さない。

「さあ、私の唾をたっぷりとのみたまえ」
「いや、やだ汚い…!
 ううっ!? ひゅぶ、ひゅ、ひゅみゅううっ……! ん、んう、ふぅぅ〜〜〜〜」

 再び、ゲンドウの唇がマユミの唇に重ねられる。絶望にマユミは心が砕けそうになるのを感じた。

(な、なんで、私…嫌なのに、嫌なはずなのに…)

 ある意味、強姦されるよりも衝撃的な唇を奪われるという行為。かなうなら、進入してきたゲンドウの舌を噛み千切ってやりたいと、心では強く思っているのに。

「ふぁっ、あぁっ。あうん、うう、ちゅ、ふみゅ、ちゅばっ。くちゅ、んん。はっ、ふぁっ。そ、んなっ……」

 ゲンドウの微かに加齢臭が混ざった舌の進入と、それに伴う唾液の味を心待ちにしている自分がいる。積極的に舌を絡め、突き離そうとゲンドウの胸を押していたはずの両手は、いつしか寄り添うように指を伸ばして、胸毛の感触を楽しむように軽く押し当てられていた。

(ああ、指の感触が気持ち悪い…。ジョリジョリってなんだか手袋に絡んでくる…。それに、この息も、凄く臭いのに…。嫌なのに…)

 逃すまいと抱きしめるゲンドウの体温を感じ、マユミの体はゾクゾクと胸を踊らせる。異様に器用なゲンドウの舌はそんなマユミの期待に応えるように縦横無尽にマユミの口腔を犯す。体の奥底からわき上がる快楽を、マユミは必死になって否定した。
 否定しないと行けないのだ。でないと彼女は自分で自分を許すことが出来なくなる。

「ふ、むうううっ、うっ、うう〜〜〜っ!」

 甘く感じていたゲンドウの唾液を抱きすべき毒と、心休まる肌の触れあいは嫌悪すべき感触と強く強く考える。媚薬の後押しもある体は、その否定的な考えに傾倒することに抵抗する。一瞬でも気を抜けば、体は嬉々としてゲンドウの口づけに全てを委ねようとしてしまう。

(ダメダメダメ、ダメっ、ダメなの! こんなことで、気持ちいいなんて思っちゃダメなの!
 ああ、でも…お腹の奥が熱くて…違うわ。私、そんな女じゃない。違うから、そんなの違うから!
 あうう、痺れそう。た、ただ触ってるだけなのに、手の平まで気持ちいい…。
 …ダメ、流されちゃ。こんなの、全然気持ちよくなんかっ、ない!)

「あふぅ………………あっ、うん。………………うふ、んちゅ…ちゅぷ。ひゃ、や。ううん…………………………ふぅ、んっ。はぅ………………あっ。ふぅ、ふっ、んん……………………くっ」

 心の中の叫びは痛いほどに悲しい。
 うっとりとした表情は発情した女そのままに唯々諾々とゲンドウの唇を受け入れ、感触を楽しむようにゲンドウの胸に沿わせていた手はゆっくりとまさぐる。普段の彼女とはまるで異なる淫らな姿。

「は………………う、あああっ」
「ふっ。美味だったぞ」

 すっかりとマユミの抵抗がなくなった頃を見計らうように。
 『ちゅぷり』とたっぷりとした唾液の音も高らかに、名残惜しそうにゲンドウは唇を離す。マユミのように欠伸はおろかクシャミを人に見せることにも抵抗を感じる女性が、半開きになった口の両端から粘つく唾液を滝のようにこぼすのを見るのはたまらない愉悦だ。

「はっ、はっ、はぅ。も、もう。や、やめて……ください」

 強引な口づけから解放されたマユミは荒い呼吸で吐きそうなほどにえづく。だが頬はてかてかと輝くようなピンク色に染まっていては…。ユイとのお互い合意の上でのセックスでは見ることの出来ない。この懐かしい表情にゲンドウは激しく下半身が高ぶるのを感じた。

「そうだな。マユミ君の淫らな体は我慢できない状態のようだ。そろそろ次のステップに進むとしよう」
「や、違う。違います。これ以上、変なことしないでって」

 快楽に支配された状態で本心をねじ曲げて拒絶する。あの熱を帯びた吐息は明らかに官能の情意に満ちている。今すぐにでも犯され、男の精を受けないと気が狂いそうな官能に支配されているというのに、弱いようでかなりしっかりとした女性だ。改めてゲンドウは心の中でマユミの評価を書き換える。ちょっと突けば堕ちると思っていたが、これはなかなかに楽しめそうだ。

「ふっ。マユミ君は子供がどうやったら生まれるか知ってるだろう。まさに今私たちがしていることでだ。それを君は変なことと言うつもりか」
「そ、それは」
「言い返せないだろう。ならば何も問題はない」

 奇妙な正論に言葉を無くすマユミに優しくキスをする。不意打ちにマユミは目を見開き、言いかけていた抗議は飲み込まれる。
 だが今度のゲンドウの行為は先程と違う。
 触れあう唇をずらし、マユミのチャームポイントである左顎の艶黒子を、こそぎ取るように舐める。舌先で飴を転がすようにチロチロと嬲ると、鼻で短く寸断されたような息を漏らしてマユミは喘いだ。彼女の引きつった首筋にじわじわと強くなる焦りを象徴するように、汗が浮かび始めていた。

「あ、ああっ。あっ、あっ、あっ、あっ」
「艶黒子のある女は情が深い。たしか私の小説でそう書いたとき、君は否定しなかったな…。今はどうかね。身をもってそれを証明しているか…くははは」
「やめ、お願い…っ。私は、ちが、違う、あ、あれは。先生の、話に、あわせた、だ…け」
「そういえば先程は口を塞ぎ続けていたので、声が出せなかったのだな。たっぷり聞かせてくれたまえ」
「はぅ、や、やっ。や、だ。そんな音を立てて、き、汚い…あああぁ」

 ゲンドウの唇が顎から頬、耳へとターゲットを変更する。涎の後を残したまま、ぺちゃぺちゃとことさら聞こえるように音を立てて舐めしゃぶる。

「ん、んんっ。やめ、て」

 髪を掻き分け耳たぶを舐められた瞬間、ゾクゾクとした悪寒にマユミの体が震える。ふとゲンドウが眼をしたに凝らすと、股間を包み守る純白のショーツにうっすらとした染みが浮かんでるのが見えた。どんなに拒絶しても、巧みな愛撫にマユミの体は反応せざるを得ない。この破壊的に罪深い体を楽しめる幸運をゲンドウは神に感謝する。

「むふふ。さて、そろそろそのたっぷりとした美巨乳を楽しませてもらおう」
「ひやぁあ、ああ。やぁ」

 軍艦のように無骨な左腕が、男の手に僅かに余るほど豊かな乳房を捕らえる。下から支える程度に力を込めると、タプンタプンと柔らかな質量が手から肘、肩と重みを伝える。指が僅かにめり込む感触がたまらない。獣のように鼻息も荒く、ブラジャーの刺繍の凹凸を指先で確かめるように撫でさすった後、おもむろにゲンドウは強く揉んだ。

「あ…………はっ、あぁん!」

 音を立てて黒髪が振り乱され、それでなくとも震えていたマユミの体が大きく痙攣し、樹脂で固めたみたいに硬直した。

「――――っ!
 やぁぁぁぁぁ。お願い、やめてぇぇっ! ああああ、それ、やだぁ!」

 焼け付く苦痛じみた快楽。ただ、胸をやわやわと揉みほぐされてるだけなのに。それも愛のない行為にもかかわらず。予想を遙かに超える性の電流に翻弄されて、マユミは別人のように叫んだ。清楚な美女の姿は微塵もなく、快楽という山津波にも似た奔流に振り回される淫らな女の姿が底にはあった。

「いやいやいやいやっ! 嫌です、もう嫌ぁぁ――――っ!
 ゲンドウ先生、うあああぅ、や、やめて下さい……っ! それ以上、む、胸を、し、死んじゃうっ、死んじゃいますっ」
「………………むぅ、ただ胸を軽く揉んだだけなのだが凄い反応だな。これはますます楽しみになってきたぞ」

 首筋をペロペロとキャンディーを楽しむように舐めていたゲンドウだったが、さすがにマユミの断末魔じみた悲鳴には驚いていた。

(ふむ。敏感な娘だと思ってはいたが、敏感にもほどがある! けしからん!
 なんと淫乱な娘なのだ!)

 男の獣性を化学反応のように呼び覚ますマユミには、罰を与えなくてはならない。固く心に誓うゲンドウ。昨日までの彼女ならともかく、今のような有様では、ただ彼女が電車に乗っただけで、我慢できずに痴漢してしまう犠牲者が後を絶つまい。
 不退転の覚悟を刻むようにマユミの首筋にキスマークという印鑑を印す。

「ちゅば………………なんと甘くかぐわしい。いかん、いかんぞそんなことでは。これはシナリオを大きく逸脱している。だが、問題ない。まったく淫乱な体だな、マユミ君は」
「ひゃう、ち、違います。わたし」

 好き勝手にマユミを論評する。まるで自分が男無しでは生きていけないみたいに言われて、マユミは情けなさで涙が溢れる。だが、否定の言葉はどうしても途中で止まってしまう。

 ぐにぐに、もにゅ

 鷲掴みにされたブラジャーの布地ごと執拗に揉みこまれる美巨乳。スポンジに染み込んだ水を絞り出すように、甘美なる快感が胸から全身へ広がる。その度に背筋が震え、言いかけていた言葉は虚しく喘ぎ声へと変わる。そしてその事実に、自分が淫乱だというゲンドウの言葉が本当のように思えて、マユミの否定はどうしても力を失ってしまうのだ。

「っくぁ――――、あ、うふぅ」

 白く美麗な首筋を吸血鬼にさらけ出す処女のように仰け反らせて、マユミは堪えようもない羞恥と甘美なる快楽に喘いだ。汗で濡れた背中や肩に張り付く髪の毛も、豊かな胸も、喘ぐ体に合わせて上下左右にぶるんぶるんと揺れる。ブラで固定されていても重たく揺れる乳房の豊かなこと。

「あふぅぅ、うううぅぅぅっ。先生ぃ、げ、ゲンドウ先生…やめ、やめてぇ。ああ。お願い、胸を、胸をそんな風に、さ、触らないでっ」
「おおお、何という素晴らしい胸なのか。覚えているかねマユミ君。かつて書いた『美乳魔法少女シズカ』の一節を。シズカは美乳が特徴で執拗な胸愛撫を描写したが、そのモデルは君だったのだよ」
「そ、そんな…ことっ」
「親の仇が相手にもかかわらず、彼女もこんな風に胸を徹底的に愛撫されて絶頂を迎えたな…」
「わ、私も、あんな風に…い、いやぁっ」
「私はスーツ越しに君の体を夢想し続けていた」

 ゲンドウの告白は、あまりにも無惨だった。
 中学を卒業するまでは、どちらかと言えばやせぎすで貧相な体つきだったマユミだったが、高校に進学してからは徐々に、痩せた体型はそのままに胸は大きく育ち始めた。友人が冗談めかしていったグラビアアイドル並みのスタイルに成長した彼女は、必然的に町を歩くだけで情欲に満ちた視線に晒されていた。

(でも、シンジさんと…ゲンドウ先生だけは、そんな風に見ていないって、そう思ってたのに…)

 大きな胸に育ってからは人の視線にことさら敏感なマユミは、常に男達の尾籠な妄想に満ちた…時には女達の嫉妬混じりの…視線を感じていた。それはあまりに視姦する瞳が大量で執拗だったときには、夜荒い息と共に冷たいシャワーを浴びて火照りを覚ます、そんな有様だった。だからこそ、そんな目で自分を見ていないゲンドウ達を心から信頼できたのだ。

(それなのに、全部、嘘だったなんて! 信じたくないっ! 信じたく、ありません……)

「う、うううっ。嘘だと…言って、下さい。せ、先生まで、そんな目で私を見てた、なんて……………あ……はぁうっ!」

 羞恥も忘れる悲しみの声が無惨に断ち切られた。ブラ越しにプクリと盛り上がった乳首をつままれ、マユミの体が跳ね上がる。白く薄いブラの刺繍の下にうっすらと浮かぶ乳首とそれを囲む控えめな乳輪を人差し指と親指で挟み込んでコロコロと転がす。

「はっ、はぅ、はぁん、だ、ダ、だぁっ、だめぇ。む、むねあああぁぁっ!」
「胸を触られるのは…はふぅ、ほふぅ…いやか?」
「い、嫌…です。変に、変になって、あああ、嫌です。他人に、好きでもない人に、触られるなんて…。そんなの、絶対に、イヤぁ」

 荒い息を吐きながらゲンドウは右手を脇に伸ばす。ベッド脇のテーブルに置いてあった水筒を手に取ると、おもむろに中身を嚥下した。。正体は不明だが、健康ドリンクのような黄色で、妙な粘りけを漏った液体を上手そうにゲンドウは飲み干す。ねっとりと濡れ光る舌がペロリと唇を舐め回した。

「ふっ、だが触るなという意見は却下する」
「そんな、私、もう嫌なの。さわら、ないで…」
「君の胸は魅力的すぎる。触ってるだけで私の愚息が高ぶる、高ぶるぞ。ほら、見たまえ。いや、実際に触ってみると良い」

 愛撫に耐えようと儚げにゲンドウの腕を握りしめていたマユミの腕を取ると、そっと下に…ゲンドウの股間で隆々と首をもたげる毒蛇の首へと導く。

「は、はひっ!?」

 シルクの手袋越しに感じる熱さ、太さ、堅さ、そして先走りのぬめりの感触にマユミは言葉を失った。そして、意識が向いていなかったとは言え導かれるままに、そんな物を握りしめさせられたことに彼女の意識が壊れたテレビのようにスパークする。

「や、やだぁぁっ。触らせないでください! そ、そんな汚いの」
「何を言っている。さあ、優しく掴んで、激しくしごくんだ」
「や、ひぃ、いやぁぁぁ。ひうんんんっ」

 見たくなかったグロテスクな物体を直視してしまう。吐き気を催す嫌悪で、マユミは飛び上がったように体を震わせる。だが、肝心要のゲンドウのペニスを握りしめるマユミの右手は離れない。恋人達の抱擁のように、きつくだが優しくゲンドウのペニスを握りしめたまま、マユミの震えに会わせて微妙に前後に動くことしかできない。

「な、なんで…」

 一瞬、恐怖で手が固まったと思うマユミだったが、それにしては様子がおかしい。本当に、手が離れない?

(ユイの仕込みは万全だな。彼女の意志はともかく、薬に囚われた体は男の精を求めている。いや、彼女も内心では求めているのだ。だから、手を離したくとも離せない…)

 あくまで想像であるし、敢えて教えるつもりもないが。
 戸惑うマユミの手の中でペニスがビクリと大きく脈打ち、先端から先走りの汚液を溢れさせた。追い打ちをかけるように、左胸を愛撫していたゲンドウの腕の動きが激しくなる。

「はぁん、あん、やぁぁっ。気持ち……………悪い。き……汚い、胸が、あ…熱い……ん、です。はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…はぅ、くっ。胸が……苦しい、切ない…。
 あああっ、や、そんな乱暴に…う、うそっ、そんなの、そんな、やぁぁぁぁっ」

 撫でさすり、つまみ、くすぐり、揉みしだく。柔肉をこねるなどと言う生やさしい物ではない。乱暴な愛撫に肩ひも緩みはずれ、豊かな乳房の大半がさらけ出される。そのきめ細かい肌にはうっすらと汗が浮かび上がっていた。徹底的な愛撫という凌辱に晒され、たまらずマユミは背筋を仰け反らせた。

「ふふふ、処女とは思えない乱れようだ。それにこの柔らかさと弾力はどうだ。
 さてはマユミ君。ダメだなんだと言いながら、ずいぶんと胸を可愛がられたと見るがどうかね。しかし、君は間違いなく処女だ。と言うことは、自分でずいぶんと可愛がってきたようだな」

 マユミの啼き声が止まった。
 桃色に染まっていた頬が、一瞬で血の気を失った。快楽ではなく恐怖と羞恥でガクガクと体を震わせる。
 ゲンドウの言葉は痛いほど的確に、事実を言い当てていたからだ。マユミの態度だけでもそれは証明されている。

「あ、あ………………な、なんの、ことですか。わ、私は」
「図星だったか」
「ちがっ」

 そうすれば嫌な現実は全て夢だというように固く目を閉じ、首を振って否定する。眼鏡の下の瞼から、大粒の涙がまた幾粒も真珠の滴となってこぼれ落ちた。だが、否定しつつもマユミはそれが嘘だと言うことを知っている。いつ頃からか…そう、シンジと出会い転校という別れを経験した頃に覚えた胸を使った自慰行為。愛撫は…最初の内はおっとりとした彼女らしく、控えめに胸を触る程度だった。しかし胸が育ち始めた頃から愛撫はいつしか大胆になり、手に余る乳房を揉み、乳首をつまみ転がすようになった。そして数ヶ月前から自慰は決定的な変化を持つようになった。

(いや、いやぁ。こんな事、思い出したくない! うううっ、私、どうして…あんな事…)

 シンジと偶然にも再開した日の夜。蘇るシンジとの思い出と共に初めて…秘所を触る愛撫を覚えた。快楽と言うより苦痛を堪えつつ、興奮で小指の先程に肥大したクリトリスをつまみ、ゆっくりと包皮を剥き、そしてジンジンと痺れる官能の渦の中、初めての絶頂を覚えた。
 閉ざされた瞼の向こうの夢ではシンジが優しく微笑んでいた。




 最初の内は。

(ああああっ。わ、私は…わたしはっ)

 でもその夢は途中からドロドロと渦を巻きながら入れ替わり、シンジが悲しそうに見つめる中、男達にレイプされる妄想で終わっていた。自分は、電車の中で自分を盗み見る中年のサラリーマン、セクハラまがいの接触を図る職場の同僚や上司達に輪姦される妄想に包まれ、マゾヒスティックな感情と共に絶頂を迎えていたのだ。

「違う、違います…私、私…そんな淫らな女じゃ…」

 泣きじゃくり、否定するマユミの言葉に力はない。
 シンジに抱かれる想像で自慰をした回数など数えるくらいしかない。実際は、ほとんどがレイプされる妄想での自慰行為ばかり。夢の中で、最も嫌悪するタイプの不潔で図々しく、いやらしい男達に最もおぞましい姿勢で、最もおぞましい行為を強要される…。正常位、後背位、騎乗位、側位、座位、それ以外にも名も知らない様々な体位。
 自分の秘めた嗜虐性に、そしてそれを見抜かれたことにマユミは死にたいと本気で思うくらいに深く絶望を覚える。そんな彼女に悪魔のように熱くて冷たい言葉でゲンドウは囁く。

「誤魔化さなくも良い。言葉ではなんと言いつくろっても、この、ブラジャー越しでも吸い付くような手触りと瑞々しいまでの弾力が全て物語っている。君は執拗に、何度も、胸を使った自慰を行ってきた。
 さあ、もっと良く私に見せたまえ!」

 言葉と同時にマユミのブラジャーをむしり取る。
 愛撫とマユミの汗でくちゃくちゃにされていたブラジャーはあっさりと引きはがされ、マユミの美巨乳は凌辱者の目の前にさらけ出された。

「きゃああっ」
「ほぅ!」

 マユミの悲鳴にゲンドウの感嘆の溜息が重なる。慌ててマユミは手で隠そうとするが、勿論ゲンドウはそれを許さない。妄想の中で1万回凌辱した胸が今ここに…。
 羞恥に赤く染まるマユミの顔はたまらなく嗜虐心をそそる。そして、なんと豊かで美しい。彼女は泣き顔こそがよく似合う。

「はぁあ…み、見ないで。お願い…」
「聞こえんな」

 マユミの哀願を聞き流し、誘うように震える左の乳首を左手でつまみ、右の乳首を口元が柔肉にめり込む勢いでくわえ込む。誕生プレゼントを目前にした子供のように幸せな焦燥感で胸を焼き、ゲンドウは己の欲望を解き放った。甘いマユミの汗の味を堪能しながら、唇でハムハムと柔肉を甘噛みしつつ、ざらざらした舌で乳首と乳輪をこそぎ取るようにねっとりと舐める。

「は、はっぅ。やうぅぅぅ。な、舐めないでぇ」

 首を左右に振ってマユミは拒絶した。ちくちくと肌に刺さるゲンドウの顎髭の感触が気持ち悪い。じょりじょりと擦りつけられると、指に刺さったまま残ったトゲのように後を引いていつまでも忘れられない。

「ちゅば。ちゅぷ、ぶちゅ、んちゅぶ、れろ…ちゅ。ひゅぶぶっ。ぷあっ。
 ふぅ、ふぅ、ふぅ…………はぁ、さすがに息苦しいな。だが、問題ない」
「きゃあっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あん、あっあっあっあっあっ。し、舌で…。ひゃうぅっ。ああ、髭が擦れ、って…ひっ!?
 か、噛まない…で、あうぅ………………んんっ……はぁぁぁ」

 ぷるぷると震える乳首を転がすと熱く火照った吐息がこぼれる。ハァハァとマラソンでもしてるように忙しない呼吸でマユミは喘いだ。右に左に首だけでなく体全体をよじって、どうにかゲンドウの手から逃れようと必死だ。

「んあっ、はっ、はぅ。だめ、あ……やぁ、ああ、ん、あはぁ」

 口元から顎髭までをねっとりとした涎で濡らしたゲンドウは満足げにほくそ笑んだ。

「このまま、食いちぎってやりたい愛らしさだ」
「そん、なっ。だめ、噛まないでっ、ひぎっ!」
「うむ、うまい」

 わざと強めに乳首を噛むとマユミは顔を引きつらせてビクリと体を硬直させた。うっすらと歯形が残る程度の力でコリコリと弾力を楽しむ。

(その脅えた眼…どこかしらシンジに似てる。ふっ、愛くるしいぞ)

 肌は吸い付きそうなまでに白くきめ細かい。ゲンドウが下から抱えて上下させるだけで綺麗な球形をした白い乳房はぶるぶると水風船のように揺れ、控えめで小さな乳輪とその中心のサクランボのような乳首がこれまた弾むように揺れた汗がうっすらと浮かぶ様は、冷えた水蜜桃のように生々しく食欲をそそる。普通、豊かな胸はどこかしら清潔感をなくすものなのだが、マユミの胸に限ってはそれが全く見られない。

(あの乱れようとこの柔らかさから判断すると、恐らく…中学時代から愛撫を繰り返し育て上げてきただろうに)

 その頻度がどの程度かはわからないが、乳首の色は微塵も黒ずみがない健康的なピンク色だ。媚薬の作用で痛いほど屹立し、濃さを増していても処女の証拠の清純さは失われない。それを思う様に嬲る自分の指はさながら五本足の毒蜘蛛だ。ぷっくりと膨れた乳首をつねり、はじき、指の腹で挟んで弾力を楽しむと、マユミは喉を奮わせて甘ったるい強制をあげる。浅黒くゴツゴツした自分の腕とはまるで違う柔らかい肌との対比…。

「ふふふ、どうした。手の方が止まっているぞ。指と手の平全体を使って激しくしごくのだ」
「あ、あふ、あうううぅ。そ、そんなこと」

 だが根が素直なマユミは、ゲンドウの言葉を拒絶しつつも…手はゆっくりと気が狂いそうなほどもどかしい速度で前後に動き始める。
 長さは20センチほどもあろうかというゲンドウの長大なペニスは、やたらとゴツゴツした血管が表面に浮かび上がり、竿と亀頭部分の境となるカリの部分はトリケラトプスのような凶悪な段差を持っている。

「んっ、んっ、んっっ。あ、あうぅ。こ、んな………くぁっ」

 シュルシュルと布地とゲンドウの竿が擦れる音、にゅちにゅちと粘っこく手に張り付く先走りの感触がダイレクトにマユミ達に伝わる。

(あ、ああ。やだ、また、ビクンって、ビクンって動いてる…)

 手の中で更に太さと熱と堅さが増していく。
 てかてかと光る赤黒い亀頭部分が風船のように際限なく膨れていくのがわかる。その熱と堅さが最高潮に達したとき、手の中のペニスがどんなことになるか…。喩え本物のペニスを見るのがこれが初めてでも、編集者としてゲンドウの本を読んできたマユミにはそれがわかる。
 そう、こんな時どんな風にすると男が喜ぶか…文章を通してだが知っている。

「ふぅ、うっ、ううっ。もう、許して…」

 手の平の窪みにゲンドウの先走りを溜めると、カリ部分の溝をこそぐように指先でなぞる。そして指と手の平全体で隙間なく全体を包むと、チュクチュクと淫らな音が部屋に響く勢いで手を前後させる。

「ぬおおおおっ!
 そ、その調子だマユミ君。うぬぅ、負けてられん。こっちも君の胸を、くっ…なかなかやるな。と言うか、ううっ、上手いぞ。いや、上手すぎる…おおっ、むほおおっっ」

 唐突に聞き苦しい呻き声を漏らしてゲンドウの愛撫が止まる。耳元の呻き声にビクリと体をすくませると、虐げられた人間特有の怯えと共にマユミが問いかけた。

「…………ひぅぅ。な、なんですか?」
「い、いや怒ってるわけでは、ぬふああっ!?
 まさかと、ほふぅ! 思うが、はぅほぁ! け、経験があるのかね…ふぬおっ!?」
「け、経験なんて、そんなの…あるわけが、ないじゃないですか…」

 そう、実際の経験なんかない。全てゲンドウの著書からの受け売りの知識だ。

「そ、それでこれかね!? くっ、そっちの素質があるのだな…」
「か、勝手なことを、言わないで下さい…ううっ(ま、また大きく)」
「おお、シナリオを修正しなければ…! むおおおっ! ぬううっ、こ、こっちの手が止まって」

 もはやマユミの胸を愛撫するどころではなく、そのまま手淫を受け入れるゲンドウ。ユイとのめくるめく時を過ごすため、薬を飲みつつ3週間溜めに溜めた欲情のために、今の彼はとことんまで防御力が落ちている。本来なら、ほんの一撫でされただけで射精してしまう状態だったのを、今まで鉄の精神力で押さえてきたのだが、さすがにもう限界らしい。
 ゲンドウの愛撫が止まったことで余裕が出来たマユミの手淫はますます的確に、適切な速度と強さでゲンドウのペニスをしごきあげる。

(ぬううっ! も、もうダメだ)

 くっ、と歯を食いしばるとゲンドウはぞっとするほど強ばった声でマユミの耳元に囁いた。

「出すぞ…受け取りたまえ」
「え、え、ええっ? ちょ、ちょっと待って下さい。だ、出すってまさかここに」

 戸惑いで瞬きを何度も繰り返すマユミ。ゲンドウの意図することを悟って、慌てて逃げようとしたが既に遅く、彼女の華奢な体はしっかりとゲンドウに抱きしめられていた。
 そして、そんな状態になってもしっかりとゲンドウのペニスを掴んでいたマユミの手の中で、凶悪な迸りが解放された。

「きゃ、きゃああああっ! で、出てる…い、い、いやぁ――――っ! な、なに、これ!?
 なんなの、なんなのこれ!?」

 ビュクンビュク、ドクドクと明らかに大袈裟な音を立ててマユミの手の中に白濁した体液が大量に、それこそマユミが受け止められないほど大量に吐き出された。
 声もなく、息をすることも忘れてマユミはその生暖かい汚液の感触に固まった。

「う、う…………………ううっ」

 手の平はおろか、肘や、お腹にまで迸りがひっかかるゲンドウの射精の勢いには、小説などの大袈裟な表現を知っているマユミも声がなかった。

(な、なに、これ…く、蜘蛛の糸を束ねたみたいにネバネバがいっぱい…。あ、あり得ない…こんないっぱい)

 普通、一度の射精量は2〜3ccくらいのはずなのに、明らかに今のゲンドウの射精はそれを軽く十倍は凌駕している。

「ふむ、驚いてるようだな。なに、何も問題はない。あまり誉められたことではないかも知れないが、私は少々体を弄っていてな。シンジも大人になったことだし、二人目が欲しいと思っていて、確実性を増すために改造手術を受けたのだよ。副精巣だけでなく、腹の中にも精子が貯められるようになっていて最大300ccから貯めておける。一度に射精する量は50ccを超えるぞ」

 ゲンドウの自慢をマユミは聞いていない。それよりも言葉が持つ恐ろしい意味に囚われ、恐怖に体を震わせていたからだ。
 1度に出すのが50ccで300cc貯めていられるなら、それなら後何回ゲンドウは…。

「あ、あう、あああっ」
「その恐怖に震えた目は良いな。実に」
「そんな、そんな、そんなぁ」

 歯の根が合わないのかガチガチと音を立てて震えだすマユミは、今何を考えているのだろう。改造という言葉で自分を人外の物のように見ているのかも知れない、そうゲンドウは思う。思うなら思えばいい。ある意味、それは間違いではないのだから。

「ふぅ、それにしても君の手は温かいな。一度出したはずの愚息が、また、元気になってきたぞ」
「あ、ああっ」

 まだペニスを掴んだままだったマユミは、慌てて強ばった指を外すが既にゲンドウは次のステップに移っていた。
 柔道選手のように素早い動きでマユミの背後に回ると、首筋に顔を埋めるように抱きしめた。

「むふふふ、まだ放してはやらんよ」
「いや、だ。放して! 嫌よ、いやぁ!」
「すぐにそんなことは言えなくなる。なぜなら、君は布越しにとは言え男の精に私の精液に触れたのだから。じわじわと染み込んでくる男の精を感じて、直に君は自分を保てなくなる」
「何を言ってるんですか」

 耳に息を吹きかけつつ、ニヤリとゲンドウは笑った。

「さて、その強がりがどこまで保つかな?」









初出2004/12/31

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