─ 福音のいけにえ ─

第5章



書いたの.ナーグル












 拘束を解かれ、悪夢にうなされた幼女のように脅えた顔でアスカがシンジにしがみついている。そんな彼女を、優しく、そう…普段彼が見せる作った優しさではない本物の優しさの籠もった手でシンジは抱きしめ、髪の毛をなでつけている。

(ふむ。なんだかんだ言って仲は良いではないか)

 息子夫婦のベッドを椅子代わりに腰掛けてゲンドウは感慨深く頷いた。
 あれが今まで多くの女性を凌辱してきた夫婦の姿なのか。とてもそうとは思えない。
 脅えた妻を甲斐甲斐しく見守る若い夫、それが2人の全てだ。

(人の心とはまことに面妖なものだ)

 ユイは本音で言えばアスカが恋人ならともかく、シンジの妻になることを歓迎してなかったようだが、今の2人の姿を見ても同じ事を考えるだろうか。

(いや、あいつは2人を見ても認めようとはしまい。喩え相手がアスカ君でなく、マユミ君だったとしてもだ。あいつはなんだかんだ言ってもシンジの妻になる相手を認められない、とてもとても嫉妬深い女なのだから。
 ふっ、なんと言うことだ。今になってようやく分かるとは)

 だが、自分はそんなところも含めてユイのことを愛している。

「ふむ、ユイが呼んでいるな」
「え?」
「内線の4番が光っている。地下だな。恐らく、地下の祭壇にユイはいるのだろう」

 電話のコールランプの瞬きに目を細めながらゲンドウは立ち上がる。
 地下室には様々な施設が用意してある。
 発電機、ボイラー、浄水器。はては家族4人が半年過ごせる核戦争用シェルター。

 そして、屋敷の設計図にも記載されてない秘密の部屋がある。
 ゲンドウ達はその部屋を祭壇と呼んでいる。意味はない。気分の問題だ。

「楽しみだ。ユイは良いセンスをしている。マユミ君がどんな風に飾られているか」
「でも父さん、見るだけだよ」
「ふん、もう自分が選ばれるつもりになっているのか」
「父さんが選ばれる可能性があると思ってるの!?」

 いや、ないけど。
 しかしそこまではっきり言わなくてもいいんじゃないかマイサン、とゲンドウは思う。ネルフの秘密を全部話した上でサングラスをプレゼントするぞ。

「おまえは本当に、人を不快な気持ちにさせる天才だな」

 万が一マユミに選ばれたら、それはもうシンジが血の涙を流して悔しがるような凌辱を見せつけてくれるわ。
 もっとも、ユイが許してくれるとは…思えないが。

(どうせ、涙目で私を見てシンジに譲れとか言うだろう。くくぅ、私がユイの頼みを断れるわけがないではないかっ!)











「ほう、これはなかなか…」

 リンカーン顔負けの顎髭を撫でながら、心底嬉しそうにゲンドウは呟いた。絞ったスポンジ状態だった息子が、文字通り水を吸った海綿のようにムクムクと膨らみ始めるのを感じる。
 シンジは何か言いたそうにしたが、瞬きするのも惜しいのかじっと、ゲンドウと同じ獲物の姿を見つめ続ける。

「いらっしゃい、準備できてるわよ」

 それがユイのナイティーなのだろう、薄紫色のネグリジェを着たユイが籐の椅子にしなだれかかるように座ったユイが手を振った。切れ長のユイの瞳が「どうだ!」と言わんばかりに細められる。

「見事だ、ユイ」
「お褒めにあずかり光栄だわ。シンジは、どう思う?」
「うん、なんていうか…凄く、綺麗だよ」

 碇家の男達の目にさらされるマユミは、部屋の中央にある円形のベッドの上に、ぺたりと尻餅をつくように腰を付けて座り込んでいた。
 その瞳は輝きを失った黒曜石のように虚ろで、シンジ達のことに気がついていないのか、どこか遠くを見つめたまま、時折思い出したように瞬きだけを繰り返す。その惚けた様子は、まるで事後の余韻に浸る痴女か娼婦のようにも見えた。

「山岸さん…?」

 怪訝に思ったシンジが言葉を書けるが、マユミはゆらゆらと体を揺らしたまま反応しない。ただ、のろのろと首をもたげ、初めて虫を見た赤子のようにじっとシンジを見つめる。

「薬を使ったか?」
「ん、ちょっとね。あ、大丈夫。変な後遺症とか障害が起こったりはしないから。
 今は媚薬がもたらす酩酊期。もう何分とかからずに正気に戻る。そして、彼女が今まで体験したこともないような快楽に彼女は飲まれるわ」
「なるほど。それならば一安心というわけだな。ならば彼女が正気になるまで、もう少し目の保養をさせて貰おうか」

 衣服としての機能のほとんどを放棄している薄いベビードールドレスの下に、うっすらとマユミの肢体が浮き上がって見える。

「ほほぅ…これは、予想以上だな」
「父さん、鼻息荒いよ」
「貴様もな。アスカ君が上で休んでいるからと言っても、おまえの鼻息は五月蠅すぎるぞ」

 たわわに実った美乳は、極限まで薄く編まれたレースの装飾も美しいランジェリーに包まれ、乳首の膨らみが薄布越しに見て取れる。小降りのスイカをぶら下げてるような胸の下はすぐに細くくびれ、細腰が重そうに上半身を支えている。ヒップは上と対になっている同じく繊細なレース編みのショーツだ。ガードルをつるすガーターベルトが細腰を締め付け、繊細な両手は白無垢のアームロングで守られていた。
 そして何より、その美術品のように美しい髪を飾る、蜘蛛の巣を編んだようにキラキラと光るウェディングベール。
 彼女の手足を縛り、体に絡みつくピンクのリボン。

「なるほど、花嫁…って趣向なんだ。それとも、プレゼントボックスかな」
「は、あ………………あっ」

 ようやくシンジ達に気がついたのか、何かを言おうとするようにマユミは口を開け、おどおどした態度で顔を伏せた。
 まだ完全に目が覚めたわけではないが、自分の体に感じる違和感にもじもじと体を揺すっている。
 ユイがさっぱりとした笑みを浮かべる。

「ふふふ。眠り姫の目が覚めるわ」

 ユイの予言とも言える言葉は、10秒後に裏付けられる。

「あっ、んっ………………あっ。ふぇ、ふぁああっ。
 ………………し、シンジ、さん!?」

 唐突にマユミの目に光が戻り、目の前にいるシンジの姿に驚愕する。そして、自分の置かれている状況に言葉を失う。

「うあ、な、なんで、シンジさんが? そ、それに、私の、この格好。やだ、どうして? 私、縛られて…。そうだわ、確か、ユイさんに、私」
「そうよマユミ」

 ビクリ、と飼い主に睨まれた犬のようにマユミの体が硬直する。悲しいかな、マユミの小動物のような精神はすっかりユイに隷属していた。その弱さ故に這い蹲ってでも生き残ろうとあがく本能が、ユイの圧倒的な威圧感に恐怖し、従順になってしまい逃げることも忘れてしまう。

「あ、ああ。ゆ、ユイ、さん」
「目が覚めたみたいね。残念だったわね、悪い夢じゃなくって」
「わ、私、じゃあ、やっぱり…」

 眼鏡の下で、瞳がわななくように震える。脳裏に、いつのことか分からないけど、恐らくほんのちょっと前のことが浮かび上がる。
 女同士でという禁忌に身も世もなく泣いていたマユミに、ユイは想像も出来ないことを行い…遂には脆弱な彼女の精神は慎み深くも優しい暗黒の世界に逃避することを選んだのだ。

「大変だったわよ。意識のないあなたをここまで運んで着替えさせるのは。髪の毛が生乾きなのは勘弁してね」

 言われてみれば、肩に触れる髪の毛はうっすらと湿っている。だが、そんなことは問題ではない。

「あ、あなたって、人は…」
「まだそんな反抗的な目が出来るのね。思った以上に気が強いじゃない。結構だわ。私としても、そんな簡単に折れられたらつまらないもの」

 凄まじい屈辱と恐怖にマユミはうなだれる。

「それより、早く決めちゃいなさい。もうそんな時間ないわよ」
「じ、時間…。そ、それに決める、って」
「私としても、最初は冗談のつもりだったんだけどね。でも、せっかくなんだし決めさせて上げる。
 シンジとゲンドウさん、どっちに処女を奪って欲しい?
 ほら早く。もう1分もないわ。1分以内にあなたの体は何もかも思い出す。媚薬に対する防御反応と現実逃避で一時的に忘れていた快感が、一気に蘇るわ。精液を子宮にまで注がれない限り決して解消されない地獄の快楽が!」
「は、あっ、ああっ。そんな…」

 先程、ユイが本の触りと言っていた官能の疼きを思い出す。あれで触りだとしたら…本当に狂ってしまうかも知れない。

「それにあなたの中の媚薬カプセル。そのことも忘れちゃダメよ」
「そ、そう言えばそんなモノも…。あ、ああ。わたし、どうすれば」
「選ぶのよ。あなたを抱く相手を。さあ! その人の名前を言いなさい」

 明らかに興奮した様子でユイが叫ぶ。自分の息子が妻以外の相手を抱くことを、あるいは自分の夫が自分以外の相手を抱くことを奨励するこの狂った言葉。

(お、おかしいです。この人、本当におかしいですよ!)

 戦慄きながらマユミは縋るようにシンジを見つめた。
 潤んだ瞳がシンジに固定される。見る間にじっとりとした汗が全身に浮かび、マユミの呼気が目に見えて荒く早くなっていく。豊かな胸から脊椎まで火傷のように疼く快楽が走り、中学生時代の切なくも甘酸っぱい思い出が蘇る。

(あああ、シンジさん、シンジさん、シンジさんっ)

 狂おしい疼きが、麻酔の覚めた抜歯痕のように強くなっていく。
 毛を剃られたことで明らかに肌触りが変わったショーツがじわりと湿っていく。
 うっすらと濡れた唇が開き、何かを求めるようにくっとマユミの舌がくねる。
 言ってしまえ。そうすれば楽になれる。こんな形であっても、愛しい男と結ばれる。

(うううっ。し、シンジさん…。私を裏切った人、だけど、でも、やっぱり、私、シンジさんのことが…)

 体の内で悪魔が囁く。蜂蜜のように甘く、核弾頭のように危険な誘惑だ。
 シンジが欲しいと、言ってしまえ。
 言って何が悪い?
 いや、我慢するのがよいことだと誰が決めた。むしろ我慢は悪だ。
 欲望を解放しろ。

「はぁ、し、シン……あっ」

 言いかけた言葉が寸前で止まる。
 今まで気づかなかったけど、興奮を隠そうともせず小鼻をぷくぷくと動かすシンジの横に、無言の存在として立ちつくす男の姿がある。興奮してるが、明らかに困った表情を浮かべた ―――― 少なくともシンジのように欲望丸出しではない ――― ゲンドウの長身があった。
 困ったことがある度に助けてくれ、時として厳しく、優しく見習い編集者である自分に接してくれた、父親のように想っていた相手。

「げ、ゲンドウ…先生?」

 意識せずマユミは呟く。
 それはマユミが選んだ、と言う意味の呟きではなかったのだけれど、小さいが確かな呟きを、レーダーのように研ぎ澄まされていたユイとシンジ、そしてゲンドウの鼓膜は確かに聞き取っていた。

「な、なんですって!?」
「嘘だっ、父さんが、僕じゃなく、父さんがだなんて…!」
「むっ! 良い人作戦成功か!?」

 明らかに予想外の結末に驚き戸惑う三人を他所に、マユミは喘ぎながらなおも言葉を続ける。

「た、助けて下さい…。私の体変なんです…辛いんです…切なくてもどかしくて」

 それが本当の自分の選択だったのか、自分がどっちの崖に飛びついたのか良く理解せぬままマユミは手を伸ばそうとする。だが、手首の所でリボンに縛られていてどうにも上手く動けない。

「ふ、ふふふははははっ。なるほど、そういうことか」

 腹を抱えるようにゲンドウは笑った。
 久しぶりに心の底から愉快な気持ちになったのか、その山賊めいた顔は本物の山賊よろしく邪悪な笑みに歪んでいた。

「そう言うことだ。悪いな、シンジ」
「う、ぐっ……!」

 大股にマユミに近寄るゲンドウの後ろで、拳を握りしめながらシンジが絶句する。キリキリと奥歯を噛みしめる音が室内に響き、たち上る怒りの気配で空気さえも揺らいでいるかのようだ。

「ああ、そうかよ。勝手にしろよ2人とも」
「そうさせてもらう。おまえはそこで私たちの睦み合いを見ているが良い」
「ふん。還暦が目前に見えた父さんが本当に彼女を抱けるのか、ここで見てやるよ」

 顔を真っ赤にしてわかりやすい悔しがりようだ。若いな、とゲンドウは腹の中でほくそ笑む。素質は自分以上だが、まだまだ経験が足りなすぎる。ちら、とシンジからマユミに目を向けると、突然のシンジの怒りとノシノシと象のように近寄るゲンドウに戸惑っている。明らかに、彼女は抱かれる云々に納得して自分の名前を呟いたのではない。ただ、弾みで言ってしまっただけだ。

「ふっ、だが、抵抗する女というのも、久しぶりで面白い」

 思えば、リツコは切っ掛けは相手の意志を無視した力づくの凌辱だった。ナオコの場合は、一方的に吸い取られていくようなユイとの結婚生活に疲れて、弾みで、甘えさせてくれる相手に溺れたワケなのだが…。そうだ、ユイと言えば。

「本当に良いのか?」

 確認するようにユイに視線を向けると、その時初めて気がついたのかユイがハッと顔を上げた。明らかに興奮状態で我を忘れている。小娘…そう見下している相手が、よりにもよって息子ではなく、夫の方を選んだという事態に夜叉の形相だ。怒りで息がつまり、顔を赤黒くしたユイに普段の美しさは見られない。
 そう、久しぶりに見る妻の顔。
 醜い嫉妬という面をかぶった女の顔がそこにはあった。

「ユイ?」
「か、勝手に、抱けば」

 吐き捨てるように呟くと、よろよろと貧血でも起こしたように椅子に座り込む。
 明らかに、彼女は困惑しているようだ。様々な最悪な想像を行い、自分自身の嫉妬心すらも楽しむ享楽家のように思えるが、その実、実際にその現場に遭遇したとき容易く自分を失ってしまう。

「ユイ…」
「強がらなくても、良いんですよ。私より若くて綺麗なマユミを、ゲンドウさんは抱きたいと思ってるでしょう」
「むっ、それは否定しないが、だが君が」
「私は、何も言わないわ。決めるのは全てゲンドウさんだから」

 口調こそ冷静だが、妻が明らかなヒステリー状態になっていることをゲンドウは悟った。静かに怒るタイプではないのだが、いずれにしろ彼女の内心は煮えたぎっているだろう。思えば初号機の頃から切れると凄まじかったが、それにしてもこれは…。
 昔の人間は、これを狐に憑かれたとか言って魑魅魍魎の仕業と考えたと言うが、それも無理ないかも知れない激しい憤りようだ。

「ふふ、そうね。女の私から見ても、凄く魅力的だし…、私より彼女を抱きたいと思っても批判はしないわ。でも、あなたが彼女を抱くって言うなら…」
「抱くというのなら?」
「ちょっと実家に…いえ、冬月先生の家におじゃましようかしら」

 それがどういう意味を持っているのか。
 冬月が年甲斐もなくユイに対して抱いていた濁った感情を、ゲンドウは骨身に染みるほど知っていた。そして当然、ユイも冬月の感情に気づいている。その上でこんな事を言うと言うことは…。

(なにを、何を言ってるの…)

 突然始まる痴話喧嘩をマユミは言葉は勿論、体の疼きも忘れて見入っていた。どうもゲンドウが自分を抱く、という形になっているようだが、そんなの、彼女としても納得できる話ではない。何を勝手に話を進めているんだろう。確かに、マユミはゲンドウを慕っているけれど、それでも好きな異性は、少なくとも好意をもった相手はシンジだけなのだから。
 なにより、このままゲンドウに抱かれるなどユイの悋気が恐ろしいのは勿論、それ以上に嫌悪が先に立つ。

(げ、ゲンドウ先生…やだ、私、やだ…)

 逃げたくても、逃げられない。いつの間にかシンジの姿も室内から消えている。
 籠の中の鳥…。

「あなたはどっちを選ぶのかしら? とりあえず…私、5時までにはリニアに乗ってるから、止めるならそれまでにね」
「ふむ、了解した」

 意味ありげにニヤニヤと笑うと、ユイはそれ以上何も言わずにどこかしら肌寒い岩の部屋から出て行った。。
 なぜだろう。マユミにはユイの瞳が、細波に揺れる水面のように震えながらも、その焦燥さえも楽しんでいる…ように思えた。

「……ふっ、冬月が三年前から不能状態になっていることは調査済みだ」

 ゲンドウは笑う。とりあえず、マユミと2時間のめくるめく時間を楽しんでから、ユイを迎えに行けばいいか…。間に合わなくても、不能の冬月が相手なら心配はいらない。理解のある妻とその趣味に心の底から感謝する気持ちがあふれ出る。
 そう、彼は彼女の両親以上にユイのことを理解している。先程の喧嘩は本気の喧嘩ではない。勿論、ユイの女としての、妻としての感情はゲンドウにマユミを抱くなんてして欲しくない、と考えているのも間違いない。だが、ユイは…そう言う女なのだ。

(未公認だが公認か。せっかくだから、浮気させて貰うとするか)

 いや、浮気でなく、本気になっても良いかもしれない。正直ユイに着いていくのはだいぶきつくなった。ここら辺で気弱に支配者に傅くしかできない美女に食指を伸ばすのも、悪くはない。そう、もしかしたらユイ以上に彼女を…。

 スリッパを脱いでベッドにあがると、四つん這いでベッドを軋ませながらマユミに近寄る。
 顔を引きつらせるマユミを、落ち着かせようとしたんだろうが……………まったく逆効果の笑みを浮かべて、ゲンドウは囁くように呟いた。

「待たせたな、マユミ君。すぐに、君を解放してやろう。甘美にして天井知らずの世界にな」
「え、や、や…」

 ゲンドウの手が、愛玩動物を撫でるようにそっとマユミの頬を撫でさする。

「ひっ」
「出来る限り気を遣うつもりだ。だがすまんが私は優しく抱く、と言うことは分からない。君の気持ちも考えず、一方的に抱くことになると思うが、我慢してくれ」
「や、やだ。近寄らないで、触らないで」
「ふむ。せっかくの趣向だがゴスペルもなければブーケも指輪もない。だが、安心したまえ。
 忘れらない結婚式にして上げよう」

 ゲンドウの顔が近づいてくる。

「既に挙げられていたから些か異なるが、レイズベールと行くか」

 レイズベール…。
 花嫁のベールをあげて、最初の祝福…つまり口づけをすること。
 体の疼きをも凌駕する恐怖と嫌悪、拒絶の感情。
 間近に感じる男の体温と質感、鼻孔をくすぐる体臭に戸惑い、媚薬の所為でウットリしながらもマユミは悲鳴を上げることを選んだ。

「い、やぁぁっ」

 そしてそれが、ゲンドウがマユミに叫ばせた最初の悲鳴となった。










初出2004/11/15

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