「水妖の性・・・福音館の天使たち」


written by ひらやまさん

二.

・・・長い長い凌辱の一夜が明けた。

白い魔性の少女に、夜を徹して玩弄された碇ユイは、完全に意識を失って、裸身のまま寝台の上に身を横たえていた。

やがて、外も白みがかった頃、早々に朝餉の準備を済ませ、部屋を訪れたメイドの少女葛城ミサトが、そのユイの姿を目の当たりにすることになった。

「えうぅっ、・・・ゆ、ユイさまぁっ!?」

心ならずも主人であるアスカの、妖しい含みがある命に従ってしまったミサトだが、これほどまで早くユイに異変が起ころうとは予想していなかった。

しかも、これはいったい?・・・情欲の余韻に浸りきった艶かしく上気した肌。
生々しい大人の女の性臭にまみれたユイの無残な姿。

少女の身とはいえ、時折、勘気の強いアスカの気まぐれで、侍従を勤める少年カヲルの慰み者として宛がわれるミサトには、この新参の女教師の身に何が起きたのか、容易に想像が付いてしまう。

世俗の関りを自ら絶つかのように、人里離れて建てられたこの福音館には、男は侍従の少年渚カヲルしか存在しない・・・だが、しかし・・・昨晩は確かに?

昨夜のカヲルとアスカのきつい仕置きを思い起こし、しばし身震いするミサトだが・・・
とにかく、今はユイの介抱を急がねばならなかった。

「ああぁ、ユイさまぁ・・・、なんて、おいたわしい・・・」

思わず熱くなる目頭を、小さなこぶしで、ぐしぐしと擦り続けるミサト。

仄かに憧れていた聖母のような優し気な面影は、いまやその片鱗も窺えなかったが、それでも、ユイの美しい裸身は、成熟した女性の全く別種の美を、数えで十四になったばかりの少女に見せ付けていた。

「・・・ぅ、み・・・、ミサトちゃん?」

「ユイさまあっ、おめざめですかあっ!!」

「・・・はっ、あたし?」

自分のしどけない姿を、小さなメイドの少女の眼に晒していることに気付き、慌ててシーツを掴み取り、身体に巻きつけるユイ・・・だが、いつもの心理的な余裕なぞあるはずもない。
火が付いたように頬が赤らんでしまい、なんとも言えぬ気まずい雰囲気が拭いきれない。

ミサトは健気にも意に介さない素振りを保ち続けている・・・が、それでも昨晩ここで何があったかくらいは、少女の身でも想像が付くであろう。

(い、いやだ・・・、こんなふしだらな姿を、ミサトちゃんの前で晒してしまうなんて)

人外の・・・、あの巨大な怒張に幾度も子宮を蹂躙され、屈服の媚声を搾り出されるように繰り返していた様を、つい今しがたの出来事のように克明に思い出してしまうユイ。

それでも、夜が明け、ようやく真っ当な人間の住む領域に立ち戻った心持ちである今では、まるで夢幻の中の出来事のように思える・・・いや、無理にでもそう思いたかったのだが、少女との生々しい交接の痕跡は、他ならぬユイの豊麗な肉体にしっかりと刻み込まれていた。

「・・・・ゆ、ユイさまぁ?」

「・・・だめ、見ないで・・・・ミサトちゃん・・・」

恥じ入る気持ちが募りすぎて、まるで、ミサトのいたいけな瞳に、何もかも見透かされてしまうような・・・甚だ、不条理な想いに囚われてしまうユイ。

「は、はい・・・で、では、あ、あさ・・・朝餉の準備が整っておりますので・・・・」

ばたばたばた・・・

生々しい情欲の跡に塗れたシーツを大急ぎで取りまとめ、顔を真っ赤にしながら慌しく退室するミサトの後姿を視線で追った後、ユイは、情けなさに思わず顔を覆った。

ここまでの醜態を晒してしまっては、しばらくの間は気恥ずかしくて、はるかに年下であるミサトの顔さえ、まともに見れそうもない。


(そ、・・・それにしても、あれはいったい・・・?)

まるで、自分の若い時の姿(・・・と言っても、たかだか数年前の事ではあるが)を写し取ったような、あの白い少女は一体何者なのであろうか?

ドイツの二重身(ドッペルゲンガー)や、イングランドの伝説にある邪精霊ワッフの共歩きという名の怪異・・・もしくは、三重の志摩・菅島の海女の間で知られる、共潜(ともかづき)という名の怪(あやかし)は、自分の姿にそっくりであるという。

・・・そして、それを目撃した者の運命の悲惨さも、また共通している。

(な・・・なんて、バカなこと・・・この文明開化も久しいご時世に!!)


ふと、脳裏に浮かんだ迷信めいた想いに、ユイは懸命に頭を振った。

これらの怪異に犯されたという話までは、さすがに聞かないし敢えて知りたくもなかったが・・・
あれこれと思いを巡らせる度に、全身に怖気が走ってしまう・・・ともすればまた惑乱しそうになる精神を、懸命に抑えこみ正気を保とうと努力を続けるユイ。


(しっかりなさい、ユイ・・・、旦那様から・・・ゲンドウ様から授かった大切な子供たちがあなたの帰りを待っているのでしょう!!)

とは言うものの、昨夜の怪異の齎した昏い悔恨の念は、さすがに、この明朗で健康的な未亡人の心身の活力を著しく殺ぎ落とし、気鬱にさせるに充分だった。





やがて、その日も陽が高々と中天に達した頃・・・ユイは何事もなかったかのように取り繕い、年若い女主人であり、ただ一人の生徒でもある少女、惣流アスカの前に立ち、いつも以上に毅然とした姿勢で教鞭を振るい続けた。


「ですから、御維新の功労によって、新たに加わった華族には、参政権と共に貴族院の・・・・・・(ぅくっ!!)」

しかし、昨晩の心身の疲労が癒えぬままでは、さすがに無謀が過ぎた。
耐え難い頭痛と脱力感が、刻一刻とユイを蝕んでいく。

婦人解放運動の気運を尊び、その魁を自ら任ずるかのように、職業婦人としての誇りを強く抱くユイとしては、年端もゆかぬ少女たちに、これ以上余計な負い目を持ちたくなかったのだろうが・・・。

「あ・・・・うぅっ!!」

一際、強い眩暈感に襲われたユイは、とうとう膝を折り、そのまま気を失って倒れてしまった。





深い深い、泥のような眠りの中・・・ユイは、奇妙な夢を見ていた・・・・

どこまでも昏く深い水底・・・、そこに黒い球体を孕んだ、なにか白く巨大なモノが佇んでいる。

(あれは・・・人?・・・それも女の姿の?)

その背には、さらに巨大な白い翼のようなものが生え出で、北欧神話の世界樹(ユグドラシル)のごとく広大な空間の中を、どこまでも・・・どこまで拡がっていく。

明らかに尋常な風景ではない・・・これは、いったい何処なのであろうか?

暴風神スサノオの支配する不浄の地と言われる”根の国”か。

それとも、イザナミイザナギの国生みの最中、流された水蛭子の漂着したという”常世之国”。

あるいは、異国に伝わるシャンバラやアバロン、桃源郷といった他の異なる世界なのか。

博学なユイとて、未だかって、そんなものを見知ったことはないのだが、それにしては・・・この風景は、異様にリアルな既視感を伴っていた。

(・・・もしかして・・・、これは?)

生きとし生ける者たちの・・・記憶の奥底に刷り込まれているという原初の光景?
巨大な白い影の周囲に群れ集い、行き交うものは白い鳥・・・いや、魚たち?


・・・いや、それらもまた、確かに人の形をしている。

・・・その中のひとつが、すこしずつ視界の中で大きくなる。

・・・まるで、胎児を思わせるような撓められたような四肢といびつな体躯

・・・そして、その顔、その紅い瞳は・・・確かにあの!!






「はっ!!」

幻想にしては、妙に生々しすぎる臨場感にあふれた情景が、不意に掻き消える。
再び目を覚ましたユイの眼前には、涙で顔をくしゃくしゃにしたミサトの顔があった。

「ゆ、夢?・・・・あ、・・・あたし?」

「ユイさまあっ、やっとお目覚めに・・・・あ、あのっ、お、御加減は!!?」

「あ、・・・そうか、私ったら、アスカさまの前で倒れちゃったのね・・・?」

こくこく・・・と、力の限り、首を縦に振るミサト。

「ね、ミサトちゃん・・・アスカさまは・・・何か仰ってなかった?」

「あ、あのぉ、・・・ご主人さまは、ゆ、ゆっくり休んでほしいと・・・お、仰せです」

「・・・・そう?」

「は・・・はい、こ、この地の気候や水が合わないからかもしれないと・・・お、仰って」

使用人の立場としては、甚だ不謹慎ながら、そのミサトの言葉を、ユイは意外に感じた。
些か高慢に過ぎるあの美少女のイメージからは、いまひとつ似合わない寛容さに思えるが・・・

しかし、この気弱なメイドの少女が気を利かせて、このようなことを口に出すわけはないのでおそらくは事実なのであろう。

(はああ・・・・やれやれ、・・・重ね重ね不甲斐ないことね、ユイ)


ふと、窓の外を眺めると、もう日が暮れかけている・・・。

実に半日近くも人事不省のままだったことに気付き、深々と嘆息するユイ。
その間にも、ミサトは甲斐甲斐しく働き、替えの寝巻や暖炉の薪の支度を整えていく。

こうなってしまった以上、ユイは、もはや腹を括って、アスカの言葉に甘えて静養するより他に選択肢はなかった。

(それにしても、あの光景はいったい?・・・ああ、此処に来てから、本当に奇妙なことばかり)





既に晩冬だというのに、暖を取る用意が一切成されていない、昏く冷気に満ちた一室の中。

・・・そこに、亡き惣流公爵の忘れ形見である、ひとりの幼い少女の姿が在った。

華族の・・・それも高位の公爵令嬢らしく、等身大の少女人形のように優美に着飾ったアスカの傍らには侍従の少年カヲルが、常に影のように付き従っている。

アスカの肢体から、纏っていた深紅のイブニングドレスが、まるで薔薇が散るように、足元にはらりと落ち、朱金の糸のような髪に縁取られた、か細い諸肩が顕わになる

その下方、舶来の、半ば拘束衣じみたコルセットの丹念に巻かれているストラップや、過剰な飾りリボンを、カヲルがひとつずつ外していくたび、アスカの幼い顔立ちに、
ごく微かに、見掛けの年齢相応の開放感が浮かんでいく。

やがて、コルセットも外され、これもまた飾りリボンが豊富な絹のドロワーズ姿になるアスカ。

他に纏っているのは、まるで小動物の外耳を連想させるような赤いヘッドドレスと、繊細な刺繍やフリルがあしらわれたリボンタイのみである。

乳白色の肌、しなやかな細い四肢、そして、ようやく膨らみかけた薄い胸・・・、まるで、小天使か妖精を思わせる可憐な裸身は、もし背に透明な薄羽が見えたとしても決して見る者に違和感を匂わせないであろうが・・・病弱な身と言いながら、この寒々とした空気の中に肌身を晒しても平気なのであろうか・・・。

困窮の欠片も伺えない、豪奢な住いの中に在りながら、あまりにも奇妙なことであるが・・・・

「さ、・・・カヲル、これも脱がせてちょうだい」

高貴な育ちだけのことはあり、アスカは、使用人であるカヲルに裸身を見られても何ら動じる素振りもない。

銀髪の美少年も、また無表情で、蒼白い裸身を晒す小さな主人の佇まいを整えていく。
こちらも高貴さを漂わせる玲瓏な美貌には、昨晩の・・・、哀れなメイドの少女の菊座を貫き犯した時の冷酷さは微塵も窺えなった。


「ふんっ、ほんとに頑固な女ねー・・・・、ま、案の定、無理が祟ったみたいだけど」

唐突に途絶えていた会話が再開される・・・交わされていた話題は、やはりユイの事らしい。
天使の似姿のような愛らしい容貌に似合わない辛辣な舌鋒に、カヲルが応える。

「なかなかに責任感の強い女性(ひと)だね・・・ま、それは認めてあげないと」

「でも、アレって・・・ヒトの女には、その・・・とっても、キモチいいっていうじゃないっ。どーせすぐに骨抜きになっちゃって、もうお勉強どころじゃなくなっちゃうわよ!!」

「・・・かもね、でも油断は禁物だよ・・・彼女は、極めて意思の力が強い上に、とても賢い。ボクらのことを、色々嗅ぎ付ける前になんとかしないとね」

「・・・・ふんっ!!」

この冷淡な少年にしては、珍しいことにユイに関心を寄せていることを悟り、アスカは面白くなさそうな表情を浮かべ、半ば強引に話題を転じた。

「・・・それにしても、もう新しい”赤目”が生まれるなんて・・・」

「そう、喜ばしいことだね・・・ボクと番いになるモノが、ようやくこの世に産まれてきたんだ」

「父様(ファーター)が、苦心して探し当てたこの土地が、アタシたちに適している証拠なのね。それに・・・なんだか、あの女も思ったよりずっと馴染むのが早いみたい・・・」

「驚くほど高い適応性だよ・・・あのリリンの女性に、キョウカ様ほどの資質は期待してなかったけど、これはもう望外の成果と言っていいね・・・ボクらにとっては僥倖ということさ・・・」

「じゃ、・・・・あの女が、これから?」

「・・・そう、この異郷の地における、ボクたちの新たな礎となる」

「・・・・・・・・・・・」

結局、話題がユイに戻ってしまい、アスカの翠色の大きな瞳に珍しく困惑の色が浮かんでいる。

(気にいらないわ・・・あのおせっかいで生意気な女が、かっての母さま(ムッター)のように)

感情が昂ぶっていくに連れ、アスカの美しい碧色の瞳に、まるで、夜行性の禽獣のような妖しい輝きが宿っていく・・・その様は、当たり前の人間のものとは到底思われなかった。

そのアスカの姿を・・・、カヲルは、無言のまま、これもまた独特の紅い瞳で見詰めた後、眼前の頑丈そうな鉄の扉に手をかけた。

据えた臭気、そして、重々しく軋むような音と共に、広大な空間が視界の中に広がっていく。
其処には、驚くべきことに、何処かへと続く長大な水路が存在していた。





アスカの言葉が、半ば実現したかのように、ユイは、その日から体調が整わぬまま、床に伏し無聊を託つ身となった。

あの水妖の少女に凌辱された夜以来、どうにも、まともに食欲が湧いてこない・・・その上、時間が経つに連れ、更なる異様な症状が、徐々に顕在し始めた。

「あ・・・・ううっ!!」

通常の人の本能に基づくものとは、全く異質の渇望が、ユイを苛み続ける。

・・・強いて言うなら、異物嗜好(parorexia)に近いであろうか。

それ自体は、主に妊娠中の女性が悩まされる症状で、既に出産を済ませたユイにも覚えがあったが、現在感じているものは、それともどこか異なったものである。


・・・咽喉がひりつくような異様な渇き。

・・・しかし、それは、何を口にしても癒されることはなかった。

そして、それに伴って間歇的に襲ってくる発熱が、・・・まるで、細胞のひとつひとつが燃え尽き別のものに変質していくような異様な感覚を生みだしていく。

「ゆ・・・、ユイさまぁ・・・」

発作の度に苦しむユイを、ミサトは半泣きの表情で見守るしかなかった。

当初は、不謹慎ながらも、大好きなユイを独占出来ることを密かに喜んだミサトだったが、もはや、そのような心理的な余裕は完全に無くなっていた。

「ああ、だいじょうぶ・・・だいじょうぶよ・・・泣かないで、ミサトちゃん・・・ね」

ユイにしても、可愛がっているミサトが傍に付いてくれるのは、心の励みになるらしい。
自分のために献身的に働く少女の労苦を、病を圧して優しく労ってくれる。

(ああっ、ユイさま・・・、ど、どうしたらいいのっ!?)

幾度と無く続く発熱と大量の発汗、そして渇きを訴え、食欲は相変わらず湧かないようである。

辛うじて水程度は受け付けるものの、それによって充足することもなく・・・拙いながら懸命に心を尽くして用意した食事には、箸を付ける素振りもない。

いかな献身的な看病を続けようと、医術の知識に乏しい少女の身ではこれ以上如何ともし難い。

なんとか医者を招き、きちんとした治療を施さなくてはと焦るのだが、一使用人にすぎない立場では、どうすることもできなかった。

アスカは、そのうちに治まるなどと言ってはいるが、その言葉にどれだけの根拠があるものか知れたものではなかった(・・・第一、そう仕向けたのは、当のアスカなのである)、しかし、臆病なミサトに、アスカに異を唱える勇気なぞ芽生えるはずもなかった。



それでも、努力の甲斐あって、数日後には、なんとか落ち着いたかに見えたユイであったが・・・

ふと目に付いた・・・簡単に纏められたミサトの黒髪の隙間より覗く、細く白いうなじ。
その時、ユイは、そこに流れるものまで、透けて見えるような気がした。

・・・ごく

「!?」

無意識に浅ましく咽喉を鳴らしてしまうユイの顔を、顧みたミサトが思わず目を瞠る。
見慣れたはずのこの令夫人の美しい顔に、何やら名状しがたい異相が浮かんでいる!!


「・・・み・・・ミサトちゃん!!」

「えう?・・・・ゆ、ユイさま?」


ユイらしくもない必死の形相に気圧され、思わずびくりとして顔を伏せてしまうミサト

「き、今日は、もういいわっ!!・・・、さ、早く、お仕事に戻りなさい!!」

再度、顔を上げた時、やつれはしたものの、敬愛する普段の優しい表情に戻ったことを確認して、一度は安堵するが、・・・さらに、投げかけられたユイらしくもない余裕のない口調に、まるで、無形の壁に弾かれたように身を竦ませてしまうミサト。

「えううぅーっ、・・・わ、・・・、わかりましたぁ」

悲しそうな少女の大粒の瞳・・・、その端に滲んだ涙が、戦慄くユイの胸に焼き付いてしまう。
それでも、自覚できぬ何かを察したのかのように、ミサトはユイの言付けに従って、とぼとぼと退室していく。


「あ・・・・あ、ごめんなさい・・・、ミサトちゃん」

しばらくの後、ようやく異様な発作が治まったユイだが、その胸中には様々な悔恨の念が浮かんで止まなかった。

立つ事も儘ならぬ身となってしまっては、なんとか生家の乳母やか、恩師だった冬月老に連絡を取ることを考えなければなるまい。

・・・やはり、軽率だったのかもしれない・・・旺盛な勤労意識や生来の好奇心を抑えきれず、ゲンドウとの間に授かった大切な子供から離れたまま、身の自由を無くしたに等しい現在。

得体の知れぬ少女の妖(あやかし)に、あろうことか貞節の証を剥奪され、一晩中犯され抜かれ、あられもない泣き声を上げ続けた、あの忌まわしい夜から、彼女の心身の何かが変容しつつあった。

(それにしても・・・さっきのあの感覚・・・・あれはいったい?)

この福音館に滞在してからというもの・・・いったい幾つ目の疑問になるのだろうか?
思わずミサトのか細い首にむしゃぶりつきそうになった、あの異様な渇望はいったい・・・?


・・・ひくっ


「あ、・・・ああっ!!」

そして、また・・・ユイの身中に新たな異変が現れ始めた。

ようやく発作が収まったかと思えば・・・今度は、またあの夜のように体の芯が疼いてたまらなくなっていく。

「ああっ、いやああっ、あ、あたしの身体・・・いったいどうなってしまったのっ!?」

かぶりを振る度、見る者に聡明な美少年のような印象を与える短く整えられた髪が乱れ散り、滲み出る珠のような汗によって、蒼褪めた額やうなじに艶かしく張り付いていく。

あまりに堪え難い肉の欲求・・・進歩的な職業婦人としての意識とは裏腹に、意外な程に古風な貞操観念を抱くユイは、必死に耐えようと試みるのだが・・・

こみ上げる自制や克己の念も空しく、ユイの理性は確実に肉欲に侵食されつつあった。

(はあ・・・はあ、ああ、な、何て淫らがましい・・・まるでさかりの付いた雌猫じゃない!!
ゆ、ユイ、あの子たちに恥ずかしくはないのっ!?・・・しっかりしなさい!!)

高まるばかりの情欲は、あの異常な渇望以上に魂を焦がし苛んでいく。
一度、忍耐の堰が断ち切られれば、もう止まらなくってしまう・・・。

まだ若く豊潤な肢体は、自分の意思を裏切り、すでに肉欲への耐性を失ってしまったかのようだった。
とうとう、はしたなさを自戒する余裕さえ無くし、下腹部に指を添わせ始めるユイ。

「ああっ、あっ・・・・も、もう、だめっ・・・あついっ!!」

持って生まれた女の性(さが)に、もはや煩悶するばかりのユイのしなやかな指が、しっとり潤み、牡を求めて、甘やかな蜜壷と化した性の器に浸されていく。

くちゅ・・・くん

「ひぅ、ひっ・・・ひぃんっ!!」

鋭敏になりすぎた粘膜のもたらす刺激に、水面に跳ねる若鮎のように背筋を反らせながら、酸欠を起こしたかのように、せわしなく口を開閉させるユイ・・・その下腹部の、これもまた呼吸するかのように、ひとりでにひくつく貪欲な陰唇の中にもどかしげに指を躍らせていく。

(ああ・・・あっ、もっと・・・・もっと・・・ほ、欲しいのっ!!)

ユイは、幾度も幾度も緩急を付け、絡みつく柔襞を摩り続ける。
しかし、そのか細い指だけでは、子宮に火が付いてしまったかのような劣情は抑えようがない。

「あ・・・、あっ、こんなのじゃだめっ、・・・・ああっ、だ、誰か、殿方の・・・」

まるで色狂いと紛うばかりに際限無く昂じる欲望に、思わず目が眩みそうになるユイ。
だが、生憎と彼女に宛がわれた寝室には、張子の代用になるようなものは存在しなかった。

ふと、暖炉に用意した焚木が視野の端に入ってくるが、いずれも彼女の二の腕ほどの太さがある。
切り口も荒々しく、衛生面の観点から見ても、彼女の望む形での使用には堪えない・・・。
敢えて自慰に用いれば、この貞淑だった未亡人の陰門は、忽ちずたずたになってしまうだろう。

已む無く、ユイはよろよろと立ち上がると、薄い洋風の寝巻きの裾を、はしたなくたくし上げ、傍らにある一目で高価なものと判る黒檀の小卓まで足を運び、その微細な彫刻の施された瘤のように膨らんだ脚部を股で挟みこむと、躊躇い無く熱く盛り上がった性器を圧し付けていく。

あまりに恥知らずな所業に、しばし目が眩まんばかりの羞恥に捉われるユイ・・・

だが、小卓の精緻なモールドがじわりと秘裂を食み、かちかちに硬くなった淫核に擦り付けられていくうちに、咽喉からひとりでに鼻にかかったような甘ったるい艶声が漏れていく。

「あくっ、は、ひっ・・・んんっ、んっ・・・」

食が細くなり、些かやつれはしたもの、むしろ凄惨なまでに際立ったユイの美貌が、この上もない淫らな色艶を増していく・・・。

・・・きし・・・・きし・・・

そのまま、まるで慎みを知らない娼婦のように、ユイが切なげに腰をくねらせる度、見目の美しいたわわな乳房がはちきれんばかりに上下に踊っていく。

その火照りきった美肉や、蕩けるような喘ぎ声は、おそらく如何なる謹厳な紳士や無垢な清童でさえ一匹のあさましい牡に変貌させてしまうであろう。

「ああんっ、・・・ああっ、あおぉっ、おぉっ、あああぁああぁーーーーっ!!!」

獣じみた喘ぎ声を抑えきれず、乱舞する豊満な乳房を捉え、荒々しく揉みしだきながら、さらに前後に腰をゆすり、また夥しく羞恥の涙を流すユイ。

しかし、そこまで生々しい痴態を晒してさえ、現在のユイを満足させるほどの快感は得られなかった。

「いやああぁっ、たりないのっ、・・・たりないのぉっ・・・・ああっ!!」

熱い情欲に苛まれ、爛熟した果実のような乳首を捏ね回し、ユイが込み上げる肉欲を吐露していく。
性の悦楽を思い出してしまった、うら若い寡婦の疼きは、いまだ癒されることを知らなかった。

「はあぁっ、き、気が狂いそう・・・・たすけて・・だれか・・・あたしっ、もう!!」


懸命に救いを求めるユイ・・・最後の堕落の一言を、懸命に呑み込む忍耐も既に限界に来ている。

救済の意味は、もはや、ユイの内で、獣欲の満ち足りるまで犯し抜かれることに塗り替えられてしまっていた。

それは、この人里離れた洋館の中では、到底叶うはずもない願いに思われた・・・が。


ぎぃ・・・

木枠の軋む音に気が付き、顔を巡らせると・・・いつのまにか、外に面した窓が開いている。
そして、周囲に漂う鮮血のような香り・・・まるで、あの夜そのままの・・・・。


「・・・ひっ!!」

ユイの魂が凍てつき、あれほど炎のように燃え盛った劣情が、瞬間静まったように思われた。
そして、恐る恐る向ける視線の先には、忘れもしない・・・あの水妖の少女の姿があった。

「・・・ま、・・・・・また来たの?」

最も忌むべき存在の接近にすら気がつかないほど自慰に耽っていたことに、ようやく気付き呆然としてしまうユイ。

だが・・・当の魔性の少女は、先日とはずいぶんと趣が異なっていた。

感情を一切表さなかった、死魚を思わせるあの異様な瞳は、もはや外見通りの・・・
生き身の美しい乙女の姿にふさわしい、澄んだ輝きを宿したものに変化している。

そして、あのネガティブな影のようだった容姿に、まるでアスカの朱金の美髪と鮮やかな対比を成すような蒼銀の髪が新たな彩りを加え、以前とは比較にならぬ存在感を湛えていた。

「・・・う、うそ・・・・そんな」

如何なる理由に拠るものか・・・かってユイを凌辱したあの人外の魔性は、まるで血肉を伴ったひとりの可憐な少女に転生したかのようであった。

身を硬直させるユイに、しなやかな身を摺り寄せ、まるで母親を見つけた幼子のように甘える紅い瞳の少女。

「あ・・・・」

赤子のように無垢な紅い瞳の輝きは、まるで、生家に残した大切なひとり息子のシンジのものを連想させる。

(・・・これが・・・、ほんとに、あたしを犯した・・・・あの?)

ひとたび、シンジのことを思い起こした時、理性とは別の次元の・・・母の本能である保護意欲が込み上げて止まなくなる。

そして、それと入れ替わるように、少女の面持ちに、今度こそ確かに娘時代の自分の面影を見出したユイの胸から、恐怖や警戒心が少しずつ霧散していく。

(ま、・・・惑わされてる?・・・あたし?・・・で、でもっ・・・こんな不思議な事っ!?)

水妖の少女が、警戒心を懸命に維持しようとするユイの頬を、仔犬のように愛しげに舐め上げる。

黙ってそうされるうちに、若い寡婦の胸に、怖れや嫌悪の代わりに、思いも拠らなかった微かな期待が首を擡げかけてくる。


(ああっ・・・・こ、今夜も・・・あれでするの?・・・・・・・・するのね!?)


ひとたび凍てついたかのような劣情が、またしても欲望の劫火に炙られ、蘇生していく。

ユイの顔に、いつしか薄っすらと張り付く微笑には、まるで、恋焦がれた異性との逢瀬を迎えた乙女のような濃厚な色香が宿っていた。

・・・ごくっ

白い頬を上気させ、気恥ずかしくなるほど咽喉を鳴らしながら、少女の股間に知らず知らず期待の眼差しを向けてしまうユイ。

亡夫ゲンドウに、性の悦びを一通り教え込まれた熟れた肢体は、久方振りに思い出した快感に、湧き上がる欲望を禁じえなかった・・・だが。

(・・・・えっ、な、ないっ!?)

紅い瞳の少女の細くしなやかな両脚の付け根には、一晩中ユイを射抜き通した、あの猛々しい器官は存在しなかった。

やはり、外見通りにふっくら盛り上がった・・・まるで剥き身の茹卵のような柔肉の丘に、細糸を食い込ませたような切れ込みが、ただ一筋存在するだけである。

「・・・あ、ああっ・・・・そんなっ!!」

過度な期待が、ひとたび裏切られた時の・・・目が眩むような落胆に襲われるユイ。

あれほどに理知的だった女教師とて、本能に根付く欲望の前には、例外と成りえなかった。


・・・ぞろり

「あ・・・くっ」

その時、いったい何に反応したものか・・・ユイの懇願を叶えるかのように、”女”の芯中に、新たな・・・、そして、今までの内で、最大級の異変が生じ始めた。

なだらかな下腹部から恥骨、尾てい骨、そして膣口に至るまでの部位が、異様に熱を帯び始め、何かが、ユイの胎内で膨張していく・・・。

「あんっ、ああっ・・・な、何っ!?・・・・はぁうぅっ!!」

ひとたまりもなく、また、あの獰猛な怒張に貫かれた時のように、生々しい喘ぎ声を漏らしてしまうユイ


・・・・だが、驚くべきことに、事実は全くの逆だった!!

まるで、溶岩塊を思わせる灼熱の滾りが・・・ユイの下腹部からじわじわと迫り出してくる。

・・・・みし、・・・みし

「ああーーーっ、そ、そんなっ!!」

やがて、それは熱い迸りを伴い、ユイの”女”の徴(しるし)を内側から強引に抉じ開けながら、屹立していく!!

「んんっ、あっ、あっ・・・あーーーーーっ!!!」

あまりに強すぎて、苦痛と紛うばかりの目の眩むような快感・・・、それが収まったとき・・・
ユイの股間からは、まるで癒えた生傷のように鮮やかな桃色の突起が生え出ていた!!


「ああっ、いやああああああぁぁあーーーっ、そんなっ・・・そんなっ!!?」

激しくかぶりを振り、狂い掛けた音程で絶叫するユイ・・・到底信じられるものではない・・・。

しかし、暗がりの中・・・しかも、すぐにユイの膣内に捻り込まれ、直視したことこそないが、彼女は、その感覚を文字通り肌身で覚えていた。

ユイを犯した魔性の少女の、猛々しい擬似陰茎のごとき器官は、まるで未知の寄生生物のように、自分自身の胎内に潜んでいたのである。


・・・ごく

ユイが意を決して、恐る恐る、そのか細い指を添え、触れてみると・・・

びくっ・・・びくんっ!!

「あああおぉっ!!」

まるで割礼され、空気の中に剥き出しになった淫核のように鋭敏すぎる器官に悶絶するユイ。
それは、あたかも根を張ったかのように、ユイの肉体の深奥部にしっかりと癒着していた。


一方、身悶えるユイを見守る白い少女の顔には、罪のない歓びの表情が浮かんでいた。

いたいけな小動物のようなそれは、さして知能が高いようには見えないが。
どうやら生き物としての直截的な欲望や、それに直結する行為には反応できるらしい。

・・・ちゅ・・・ぷ・・・

ユイそっくりの顔を、そっと寄せて、少女がその可憐な唇で猛々しく突き出た器官を愛おしげに密封していく。

「ひああぁっ、あっ・・・やっ、だ・・・だめえっ、おいたはだめええっ!!」

白い少女の歯の無い乳児のような口腔部は、以前と同様、愛蜜に満ち満ちた柔肉の器のようだった。
思いのままにユイを味わい、啜っていく白い少女。

「んんっ・・んっ・・・んっ」

少女の口腔の中は、いかなる生身の女の粘膜にも勝る快感に満ち満ちていた。

ちゅ・・・ちゅ、ぷ・・・くちゅ・・・

「あひいっ、あっ、だめっ、ゆるしっ・・・、あっ、・・・あああぁあーーーっ!!!」

ユイは、まるで童貞の少年のように、たちまち惑乱し、目も眩むような快感に、ただ声を限りに泣き叫び、気をやりっ放しのまま、随喜の涙を流し続けた。

それに反応して、ぴちぴちとした活魚のような舌を、更に生々しい器官に絡み付かせていく少女。
まるでユイと交わるたびに、少しずつ智恵を付けていくようである。


・・・つゅぷ・・・ん

やがて、一通り満足したかのように少女が顔を離すと、美貌の寡婦の股間から屹立した猛々しい器官と、その可憐な唇の間に銀色の粘液のアーチが架かる。


・・・それは、この世のものとも思えぬほど淫靡を極めた光景だった。


「・・・はあ・・・はっ・・・、はあ・・・」

肩を大きく揺らせ、絶え絶えの息を継ぐユイ・・・、もし、あのままの状態でいたらめくるめく快美感の中、完全に正気を失ってしまったかもしれない。

・・・が、その荒い息使いさえ途絶させるかのような、新たな衝撃が彼女を待っていた。


「!!?」

寝台の上で、うつ伏せになった少女が、高々と肉付きの薄い尻を掲げ、ユイを誘っていた。

薄い臀部の肉のあわい、そして、か細い内腿の狭間に在って、殊更に存在感が強調される・・・あの剥身の茹卵のようにすべすべとした可憐なふくらみが、微かに綻んで、ユイが抉じ開けてくれるのを待っている。

だが、少女の顔に淫蕩な翳りはない・・・、むしろ、まるで母猫に粗相をした股間を清めてもらおうと、じっと待っている仔猫のような、頑是無い愛らしさを醸し出ている。

(ああっ、だめっ、ユイ、お、女の子にそんな・・・そんなことしたら、あなたは・・・)

思いも寄らぬ誘惑に心乱れるユイ・・・もし、これに負けてしまったら・・・
満ち満ちる至高の快感と、その行為そのものが、きっと彼女をけだものに堕としてしまう。


まだ異性を知らなかった少女時代の似姿を姦す・・・それは、堕落と自己愛の極地であろう。
だが、しどけなくも愛らしいその姿は、抗い難い吸引力を放ち、心を惹きつけて止まない。

実際には、ユイは、もうとっくに正気を失っていたのかもしれない・・・男根を生やした事で生じたに違いない牡の滾るような征服欲や、母性に根付く包み込むような保護欲が綯い交ぜとなり、胸の中で変質を繰り返し、より強く滾っていく様である。


「ああっ・・・あたし、・・・あたし」

ついに・・・少女の高々と掲げた丸い腰の中心のふくらみに、湧き上がる思いの全てを込めて接吻するユイ。

少女の白くか細い咽喉から、まるで本物の仔猫のような甘い声が尾を引くように流れる・・・

それを耳にしたユイは、ついに堪え切れなくなり、膝立ちになり、もどかしげに腰の高さを合わせ、狙いを定めていく。

硬く緊張したままの突起が、そっと、この上なく柔らかく小さな肉の門扉をノックする。
その意味も知らぬまま、粘膜同士の感触を愉しみ、心地よさ気に腰をくねらせる白い少女。

・・・つぷ

ユイは先端を含ませ、しばしの間、膨満による異質感に少女を馴染ませると、ひとたび深く息を吸い、そのまま一気に貫いた!!


「はぁあううううぅーーーっ!!!」


ユイと少女の切なげな喘ぎ声が、ほぼ完璧な唱和(ハーモニー)を成した。

白い少女の淡いふくらみの中は、想像以上の・・・言葉に尽くしがたいほどの快感に満ちていた。

入り口は、まるで咥えこむかのようにきつく封印され、その内部では、まるで甘い蜜に濡れた粘膜の襞が自ら蠢き、鋭敏すぎるユイの剥き出しの粘膜に蕩けるような抱擁を繰り返していく。

ユイは、霞み行く理性の中で、ほんの一瞬、何故に世の男がああも貪欲に女を求めるのか完璧に理解出来たような気がした。

気をやりっ放しで、なおもこみ上げる業火のような快感の中、狂ったように身悶え泣き叫ぶユイ。

ちゅぷ・・・ちゅぷ・・・

くぐもった淫猥な水音が、女たちの淫らな二重奏の伴奏となり、ソドムの性宴の繰り広げられる寝室の中にいつまでも流れていく。

そして、少女の誘惑に目が眩んでしまったユイは、重大な過ちを犯していた・・・その胎内に直結した男根の模造は、本物の男性の生理のように果てて終わることを知らなかったのである。

「はあっ、ああっ・・・ひぃあっ、ああっ、こ、こんなのって!?・・・ああっ、とける・・・とろけちゃうっ・・・あ、ひっ・・・、いやいやあっ!!」

・・・果たして、ユイは、この世のものとは思えぬ快楽に狂いゆく精神(こころ)の中で、自ら最も鋭敏な器官を、甘い香りのする食虫花の中に投じてしまったことに気付いたであろうか。

ユイと白い少女は、この上もなく深く交わり合い、文字通りに互いの初穂を奪い尽くし・・・、

・・・そして、互いに、女の芯を深々と犯されていた。


「ああんっ・・・あっ、ひぃんっ、ひっ・・・いいのっ、・・・き、きもちいいのおっ!!」


永劫の如く続く、狂喜に満ちた快美感の中、絶叫するばかりのユイの瞳に、ミサトの見た異相が・・・

・・・まるでアスカのものを思わせる、あの翠(みどり)色の輝きが、仄かに灯りはじめていた。

(続く)



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