深宴

第9話



著者.ナーグル


















「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁぁ。……あ、あうぅ。
 ………もう、もうやめ、て。許して、ください。はぁ、はぁ、はぁ。あぁぁ」

 マユミはマットの上に仰向けに横たわり、息も絶え絶えに呻いている。剥き出しになった胸や秘所を隠す気力もないのか、全身を汗とも粘液ともつかない汚液で濡らしたまま脅えている。悔しさを湛えた目からは月の滴のような涙をこぼした。

(く、悔しい…。こんな…こんなに酷いこと、されたのに…。わたし、わたし…。私の、体。反応してる。ご、ごめんなさい…シンジさん)

 しかし涙を流して反応していると言うことは、心が折れていない証でもある。
 客観的に言ってしまえば、さっさと心が壊れてしまった方が彼女には幸せかも知れない。そうすれば、少なくともこれから彼女の心は苦しまないで済んだはずだから。だが不幸が多かったが故に芯が鍛えられた、いや、元々気丈な性格であったマユミは壊れることが出来なかった。
 その気弱ながらも気丈な視線こそが怪物を、いや嗜虐趣味を持った人間を楽しませるとも知らずに。





(マユミ、マユミ…。あぁぁ、ご、ごめん。でも、まだ。まだなのよ。
 もう少し、様子を…見てから。助けるのは、それから。あぅぅ)

 ドイツの森林よりも暗く澱んだ心の中で何度も謝りながら、アスカはいつの間にかゆるめたドレスの胸元から手を差し入れていた。哀れな怪物の花嫁の姿に心を怪しくさせながら、乳白色の豊かな乳房をたおやかな指先で執拗に愛撫していく。豪奢なドレスの衣擦れの音に絡めるように、アスカは震えた吐息を漏らした。






 これで、終わったわけがない。身じろぎする肉の塊は更に過酷な責め苦をマユミに味合わせるつもりだ。
 たっぷりとマユミの汗と尿、口元を濡らす涎と涙、なにより愛液を吸って満足したのかほとんどの触手は姿を消していた。やはり、ほとんどは怪物の体の一部ではなかったのだろう。再び膨らみを幾分取り戻した妊婦の腹の中では、大量の線虫共が麻薬でも吸ったように泳ぎ狂っていた。あの古代生物のような触手が、先程まで体をはいずり回っていたなんて、想像することも恐ろしい。
 そして触手が変じた虫たち同様、本体である脳もまた喜びに狂っていた。
 こんなにも魅力的な女を妻に出来るのだから…。歯が一本もない蛞蝓そっくりの口元を、長く柔軟なナマコ状の下で舐め回してご満悦だ。











 彼は支配者の中でも特に変異が大きい存在だった。通常、支配者達のコミュニティでは変異の大きさに比例した尊敬と権力を保持できる。そして彼は肋骨、皮膚、心臓、目と共に最も大きく変異した一人だった。
 彼の変異は最もおぞましい物として記憶されている。

 気まぐれに神が与えた使徒アルミサエルの恩寵―――。

 それは彼に激痛とペストのような腐敗と出血をもたらした。
 皮膚は萎び、ひび割れ、溶けた脂肪は腐汁となって血液、リンパ線液と共に流れ落ちる。筋肉には内にも外にも黒い腫瘍が一面にでき、キノコが朽ち木を貪るように肉という肉を食い荒らしていく。歯は全て抜け落ち、骨は固さを失う。
 一方で神経という神経は太さと感度を増していき、溶け崩れる痛みに彼は文字通りのたうち回った。転がって地面で体を削り、その苦痛でまたのたうち回る。
 その苦しみを紛らわせるために、彼はひたすらに腐肉を食らい、女を蹂躙した。

 溶解人間…教祖は予想外の変異に苦しむ彼をそう呼び、哀れな姿と未来予想を楽しんでいた。どんな化け物になるか、それともこのまま異臭を放つ蠅も寄らない生ゴミと化すのか。
 改めて言うことではないが、教祖は強い性欲の持ち主と言うだけでなく、真性のサディストであり異形愛好者だ。

 教祖の疑問は彼の著しい変異が始まってから3ヶ月ほどして判明した。
 その日、教祖は彼に既に妻がいるにもかかわらず、運悪く捕まった若い女 ―― シンジやアスカ達がかつて通った一中の女教師 ―― を与えた。勿論、たっぷりと犯し、彼女の婚約者を目の前で八つ裂きにさせて反応を楽しんだ後で。

 下賜された直後、彼はその場で女を犯した。
 予兆でもあったのかなにか感じ取っていたのか、その場にいた全ての者達は宴が終わった後も巣に帰ろうとせず、一連の凌辱劇を見守っていた。
 皆が見ている前で彼は異様な高揚感と苦痛の中、吠え猛りながら女を求めた。腐汁を滴らせる人型のヘドロとなった彼はがむしゃらに腰を、恐怖と嫌悪で泣きじゃくる女に叩きつけていた。
 そしてたっぷりと血液混じりの汚液を射精し、所々骨さえも露出した体を女から離した瞬間、耐えきれないほどの苦痛に彼は体を二つに折って苦しんだ。ぽたぽたと腐った肉片と汚血が、精液で腹部を汚した女の上に降りかかる。
 それは血でなく羊水だ。その時が来たことを彼は悟った。

 骨が、卵の殻が、砕け、純化した魂が、生まれ出る!

 彼の顔面が縦に二つに割れた。心地よい開放感と共に、ボロボロに腐食して真っ黒に変色した頭蓋骨は、タマネギの皮を剥くより簡単に引き裂かれた。
 そして脳が脊髄を尾のように引きずり出し、苦痛の源である腐った体から抜け出した。
 外気の冷たさに身震いしつつ、ギャーとやかましく悲鳴を上げる女の腹の上にこぼれ落ちると、神経を振り回して本能に操られるまま一目散に暖かな巣を目指して這い進む。
 女は血走った目を見開き絶叫した。激痛と共に膨らんでいく腹と、ブルブルと先端を奮わせながら胎内に消えていく脳の尻尾を凝視し、望まぬ母親となることを悟ったのだ。その時、かろうじて残っていた女教師の正気は、失われた。
 狂った母にして未来の体の温かい胎内で、彼はゆっくりと体と母胎を作り替えていく…。根を張り巡らせ、子宮を犯し、肉に混じり、神経を奪い、ついには脳まで全てを支配する。
 女の馬鹿笑いと怪物達のざわめきの中、遂に彼は安住の地を得たのだ。











 支配者の余裕で彼は新妻の肢体を見下ろした。複数本ある眼柄からの多角的な映像でじっくり細部まで楽しむ。
 すぐに犯しては勿体ない。マユミほどの美女は五感の全てで楽しまなくては…。

「いやぁ。もう、許して…」

 マユミは弱々しく身じろぎし、視線がくすぐったいのか両腕で肩を抱いて胸を守る。それでなくとも視線に敏感な彼女は、まるで100人の好色な男達の目にさらされているような気さえする。もじもじと体をくねらせている。
 そういった無意識の所作も含めて、なんと艶っぽいのか。意図せず男の獣欲を誘う傾城の素質。まだ彼らの夜は長い…。

「う、うぅっ…。お願い、誰か…」

 隠すために両腕に押さえられた乳房が、より豊満さを強調するように形を変えている。水蜜桃のような丸みを帯びた豊乳は、彼女のほっそりとした腕では、3分の1だって隠せてはいない。軟らかな肉の感触を目で確かめ、脳は満足そうに体を揺すった。

 なだらかで筋肉の盛り上がりをほとんど感じさせない肩はどこまでも白く、肌には黒子や染み、産毛の類がほとんど見られない。本当に綺麗な綺麗な肌だ。その肌には、背中の中程まである長く艶やかな黒髪が濡れ光って張り付き、黒と白で構成された退廃的なエロチシズムの装飾だ。
 荒い息と共に胸を大きく上下させ、全身を粘液で濡らしたマユミは汚されてもなお、美しい。

「み、見ないで、見ないで…下さい。うう、お願いします」

 恥じらって涙を流す姿がまた嗜虐心をそそる。
 粘液溜まりとなったマット上でマユミが身じろぎすると、じゅるじゅると粘つく音が響く。
 髪の毛、愛らしい顔、仰向けになってたわみながらも、まだたっぷりとした盛り上がりを持つ胸、うっすらと肋骨が透けて見えるほっそりとした腹、胸ほどではないが丸みを帯びたヒップ、むっちりとした柔らかさを持つ太股とその間の淡い陰り…。股間には清楚な顔に見合わぬ淫らな花びら、秘められた肉襞がひくついて雄を求めている。
 その全てが粘液で濡れ光っていた。そこを思うさま嬲りたい。そして彼女の楚々とした顔を秘所同様、淫らに歪ませたい!
 そうするのは自分自身。支配者『脳』がそれをする。なんという誇らしさ!
 粘液を毛穴を通して細胞の中に擦り込むことでいわばマーキングをすることはいわば勝利の証だ。教祖に従っている奴腹とて、これほどの美女を得たことはあるまい。

 もう見ているだけでは辛抱できない。

『ぐじゅるるじゅるるるっ。はへべべべっ、じゅらららっ』
「ああ、いやぁ! た、助けてっ! アスカさん、アスカさん、アスカさん…っ」

 脈動する紫色の触手が、一斉にマユミの体に絡みついていく。幾つも節に別れており、その表面には粘液だけでなく目に見えないほど小さい繊毛がびっしりと生えている。見た目同様、ミミズそっくりだ。

「誰か、助けて…。 助けてよぉ…誰か、誰かぁ! また、またなの? ああ、どうして、私が、こんな…」

 マユミの嘆きを伴奏に、美体を翻弄する触手の乱舞。その鮮やかさに、猟奇的な光景であることも忘れてアスカは目を奪われた。特撮映画の蛸だって、あそこまで見事に動けはしない。
 背中から生えたミミズそっくりな6本の触手は別々の生き物のように動きながらも、人の手以上に見事な連携でマユミを翻弄する。

 2本は両手首に巻き付いて完全に動きを止めてしまう。そして万歳を強制するように上方に吊り上げる。
 1本は左足首に巻き付き、罠にかかったネズミのようなジタバタを押さえ、やはり上方に吊り上げる。
 残る触手の内、2本は右足の付け根から膝までにかけて幾重にもからみつく。負傷した足首を押さえなかったのは、怪物なりの最後の良心だったのかも知れない。
 最後の1本は胴体に巻き付き、マユミの中心線を固定する。

「はぁぁ…、ん、んんぅ。
 アスカさん、アスカさん…! 助けて、助けて!」

 脳の背中から生えたのとは別に脇から生えた触手が2本、イチジクの葉そっくりな先端部分を背中と後頭部に添えてマユミを支える。

 文字通り絡み取られて吊り上げられ、粘つく糸を何本も引きながらマユミの体はベッドマットから引きはがされた。
 地に足が着かない浮遊状態というのは、殊更に恐怖を覚えるものなのだろう。力を入れることも出来ず、逃れることも出来ない。たとえ力を込めて蹴り上げても、暖簾に腕押しで触手のたわみに吸収される。心細さはいかばかりか。

「ああ、やだっ、こ、怖い。……な、なに? なんなの?」

 叫び声を寸前で飲み込んだマユミの眼前に、新たな触手がゆっくりと迫ってきているのが目に入った。胸元に折りたたまれて収納されていた、どことなく人の腕に似た二本の触手だ。
 半透明でホルマリン漬けの胎児のようなぶよぶよした手が何をする気か、どこを弄ぶ気なのか。その時、官能の熾火がくすぶる体がどんな反応をするのか、それを思うとマユミの心は恐怖に凍る。

(どうして、どうしてこんなに、いじめるの? 私、何か罰を受けるようなことをしたって言うの?)

 大きく縦に開いた女性器のような口から、悪魔の七本触手があふれ出てくる。貝の取水管状の突起から飛び出てきたのは、薄緑色で一面に充血したような赤い筋が走った透明触手だ。太さは直径1cmほどで全体的にほっそりとしているが、先端部は他より一回り太く、野菜のゴーヤか土筆のようにゴツゴツした突起で覆われている。仮に秘所に挿入されれば、瘡蓋状の突起は予想不可能な刺激を与えてくるだろう。
 最後に、体の真ん中で隆々とそそり立ち、存在感を誇示していたペニス…によく似た触手がゾブゾブと不気味な蠢動音をたてながらマユミに迫ってくる。人間の性器と同じく、急激に堅さと長さを増す触手は、長さは1.5メートルほどで飾りのないうす桃色をしている。先端から20cmほどの部分は皮膜がめくれ返っており、赤剥けて他より一回り太い。カリ首を張りだたせた人間の亀頭そっくりだ。

「う、うそ、嘘でしょ…。そんな、鯨みたいなの、そんなのいや、いや、いや、イヤぁ…」

 実際、太さこそ人間の平均よりやや太いくらいだが、(全体の)長さは鯨顔負けだ。
 必死になって首を振り、体を揺するが触手は決して離さない。それどころかマユミの両手をW字型、両足をM字型に開き、標本のカエルさながらに、いや美しい生贄にカエルの喩えはそぐわない。展翅台の蝶のように左右に開いていく。そう、今のマユミは囚われ飾られる淫らな蝶。淫獄のくびきからは決して逃れられない。

「い、いやっ、いやぁぁぁ。こんな、格好…」

 内気な彼女は、当たり前だがこんな格好はシンジの前でだってしたことはない。こんな彼女曰く娼婦のような格好は。
 それを怪物とはいえ男の目の前で、無理矢理させられてしまう。全てをさらけ出された衝撃のあまり、マユミの眼鏡の下の目は大きく見開かれ、羞恥と屈辱に震えた。

(こんな、ああ、全部、全部、見られてる…。恥ずかしいところも、何もかも)

 両手両足を広げた格好のまま、無力なマユミはゆっくりと怪物の方に引き寄せられる。
 ペニス状の触手がジリジリと顔に向かって伸びてくることに耐えられず、顔を背けるマユミ。閉じた瞼の向こうに熱を感じ、ブルブルとマユミは震える。

「あ、あああぁぁぁ。ああああぁ…。あっ、あ…んっ。 や、ちょっ、ひぃっ!」

 触手の表面を包む油状の粘膜の内には、胡椒粒のような小さな固まりが幾つも浮かんでいる。それが肌をなぞる感触は蛞蝓や虫が肌を這い回る感触にどこか似ているが、一方で猫の舌で舐められているようにむずがゆく、心地よい。

「はぅっ、きゃううぅっ! う、ひぃうううぅ。うっ……うっ、うっ、うっ、うっ」

(やだぁぁ、いやよぉ…こんな、くすぐったいの、こ、声が、出ちゃう)

 たちまち糸の切れた操り人形のようにマユミの全身から力が抜け落ちた。小刻みな痙攣と喘ぎ以外のことを忘れた体を、触手の十本指が弄んでいく。なだらかな双丘に指がめりこみ、先端部を絞り上げられ、たまらずマユミは啼き声をあげた。

「んん、んくぅぅ…。うっ、ううっ、あはぁぁ。……やっ………やっ…いや。どうし、てっ」

 とても耐えられない、とても正気でいられない。
 おぞましい見た目にもかかわらず、怪物の愛撫はどこまでも執拗で優しい。人間としての尊厳と、女としての矜持を刈り取るような愛撫に体は秒間隔で反応してしまう。

「あうっ、うっ…。はあぁ、はぅ、う……んんっ。許して、耐えられ、ない…ああぁ。あ、ん、あぁぁ」

 怪物の愛撫は執拗で的確で、一言で言うならテクニシャンだ。
 粘液をローション代わりにマッサージするように表面を撫でさすりながら、痛みを感じる寸前まで強くもみ、それからふっと力を抜く。刹那、官能の痺れが抜けないうちに、触手は位置を変えて違う部分を締め付ける。
 マユミの弱いところをマユミ以上にわきまえた指使いならぬ触手使いで、ただ揉むのではなく指状の触手が乳首をつつき、指の間に挟んでこねくり回す。乳房は柔らかく、だが大胆に。乳房よりやや硬くて弾力がある乳首をコリコリ強くしごく。

「んっ、んんっ、んうぅ。………い、痛い…」

 敏感で刺激に強く反応してしまうマユミにはとても耐えられない。ビクビクと小動物のように脅えながらも反応してしまう。

「……うぅ、はうぅ、いや、だぁ…。胸、触らない、で。いやぁぁ、いや…いや………うっ…ううっ。ああっ。………ん、あっ」

 眉根を寄せて異変の源を見つめると、ペニス触手が腹の上に灼熱の粘液の後を残しながら、きつく深い胸の谷間に潜り込もうとしているのが見えた。肌に吸い付いてくる感覚に戸惑いながらも、マユミは怪物が何をしようとしているのか悟った。

(な、なんで、そんなこと…。し、シンジさん、わたし、汚され、ていく…)

 密着した胸で肉棒をサンドし、こね上げるようにして豊かな乳房で愛撫する…バストファック、いわゆるパイズリをしようとしている。
 シンジに抱かれる時、彼のお気に入りなのか、たびたび要求されることはあったが、まさかこんな怪物まで同じ事をしようとするなんて。ほんの一瞬とはいえ、シンジと怪物を比べてしまったことにマユミの心は暗く陰る。

(シンジ、さん…。ごめんなさい…わたし、あなたのこと)

 腕触手が乳房全体を掴むと、たっぷりとした乳肉を左右に押し開く。

「いやあああぁぁ…」

 うっすらと汗の滴が浮かんだ胸の谷間に、音を立ててペニス触手が潜り込んできた。同時に左右から腕触手を添わせ、凝った乳首同士を擦り合わさるほどぴったりと乳房を寄せる。Fカップ超のマユミの胸だからこそ出来る特殊愛撫。たっぷりとした乳肉は重量感と質感を増し、太い触手であってもすっぽりと隠れてしまう。

(ううう、気持いいなんて…感じちゃ、ダメ…。でも、ああ)

 歯痛のように胸全体が疼く。それは心地よい甘い疼き。ふわふわと波の上で揺られているようにも感じる。
 気持ちとは裏腹に、熱を帯びた脈打つペニス触手によって胸全体をとろかされてしまいそうだとマユミは思う。口を開ければ、その都度なにがしか甘い喘ぎが漏れてしまう。こんな、媚びた声なんて出したくないのに。

「はぅ…うっ……あっ、んっ。………きゃう、うっ、ひぅっ。ん、あっ」

 突然、喘ぎを中断させて戸惑った声を上げるマユミ。ふと額に疼く物を感じた彼女が固く閉じていた目を開けると、文字通り目と鼻の先に赤黒い肉塊が浮かんでいたからだ。密着された胸の谷間をこじ開けて、ペニス触手の先端が顔をのぞかせていた。鎌首をもたげた触手先端部の小さな亀裂から、精液じみた白濁した粘液がにじみ、マユミの首筋、さらに口元に滴り落ちる。
 怪物が始終はなっている垢や腐敗臭など物ともしない精液の悪臭にマユミは顔をしかめた。

「あっ、あっ。あっ………ああっ。…いやぁぁ…ううう。
 い、いや! そんな、胸、揉んじゃ」

 前後に体を揺すられ、乳肉で挟まれたペニス触手が愛撫される。硬軟両方の肉と肉が触れあう。
 ペニス触手を愛撫すると言うことは、同時に、マユミの胸もまた愛撫されると言うこと。柔らかな乳肉に埋没する灼熱の肉塊。熱いはずなのに、ぞくり、ぞわりとマユミの背筋が凍り付く。指が縋る物を求めて大きく開き、痙攣しながら強く強く握りしめた。
 触手が前後するたびにずりゅ、ぬちゅ、と音を立てて粘液が溢れ、マユミの口からも荒い息が溢れる。何度も何度も乳房は弄ばれ、粘液でぬめった乳房が淫蕩に色づいていく。

「あふぅ、ん、んん、くぅぅぅ。胸、ばかり…いや、いやぁぁ…。あ、あうぅ」

 快楽の源になった大きな胸に意識を向けている間に、大きく開いた口の中に、柔らかな唇をこじ開けてペニス触手の先端が潜り込んでくる。口の端から涎が溢れ、舌で押し返して吐き出そうとするが、そんな儚い抵抗すらも楽しみながら、容赦なく触手はマユミの口の中を犯してくる。

「や、ぶっ、あぐぅぅぅぅ! おぐぅぅぅぅ! ひゃぶ、ぐっ、助けっ、んちゅ。………ぐぅぅっ!?」

 目を見開いて全身を硬直させるマユミ。最も敏感な股間の秘所と最も恥ずかしい肛門に、脳の口から生えたゴーヤ状の触手が触れてきている。うっすらと充血し、愛液を滲ませる淫唇をこじ開けるように先端が押しつけられ、まだ包皮に包まれているが硬く充血して自己主張している小さな凝り ――― クリトリスを触手がつつく。

「あふぅ――――っ!!」

 殴られたような衝撃に全身を強ばらせてマユミは啼き声を上げた。だが、その声は触手に喉を塞がれた所為で、くぐもった呻き声にしかならない。内にこもる叫びにますます体を強ばらせ、ビクビクと痙攣しながらも反射的に膝をすりあわせるマユミ。必死の思いで太股を閉じようとするが、太股を縛る触手はそれを許さない。

「うううぅぅ、ううぅぅぅ。あうぅぅぅ…! ふぅ、う、ぐぅ。うう……ううっ。うぐ、あぅぅ…」

 マユミの最も敏感な部分に潜り込むゴーヤ触手だが、さほど太くないとは言えその侵入は予想外なまでにスムーズだ。愛液を全体にまぶすように擦り付けると、無造作に頭を潜り込ませる。うすく口を開いていた淫唇はたやすく口を開き、つるりと先端を飲み込んでしまう。
 しかし、マユミにとっては体が引き裂かれるような苦痛の方がまだマシだっただろう。
 自分の体が意志に反して受け入れてしまう。それはマユミにとって裏切り以外の何物でもないのだから。

「んっぐ、んっ、んんっ。んふぅぅぅ…。あうぅ、あうぅ…あお、ふぅ……ひぅ………」





(ああ、マユミ。いま、中に入れられて…。ふ、震えてる。背中をあんなに反らせて、足なんて爪先まで真っ直ぐ伸ばして、ビクビクって…)

 長く尾を引く哀切な苦悶が見守るアスカの鼓膜を奮わせる。
 苦鳴と共に全身を引きつらせるマユミの裸体と触手の絡みに興奮を隠せない。グロテスクでありながら心惹かれる光景。
 それはかつて彼女が見たレイと教祖、ヒニダの性交を見た時と同じかそれ以上の興奮をアスカにもたらしていた。

 あのゴーヤ触手の襞と膣口の襞とが絡み合って、きっと得も言われぬ快楽に翻弄されているのだろう。じっとりと額に汗を浮かべ、眉根を寄せてウンウンと唸っている様子から見ても、相当な快楽を味あわされていることは間違いない。
 マユミの苦しみように、助けなきゃ…そう思うのだけれど、なぜか体が動かない。

(あれが、もし、私だったら…)

 勿論、そんなことあってはならない。仮にゲームみたいにリセットできるとしても、そんな状況になるなんて絶対にごめんだ。

(で、でも)

 見ている内に、触手に吊り上げられ、全身の穴という穴をほじくられて悶えているのがマユミではなく、マユミよりも肌が白く、背が高く、髪が金色に輝く碧眼の人物に変わる…つまりは自分自身に。今アスカの股間や胸をいじっているのは自分自身の指ではなく、触手の先端であり、怪物の舌先…。

(あんんぅぅ、触手、に弄ばれ、て…。あんな、惨めったらしく、泣き声を。私は、私は絶対に、あんな風には…ならない)





 秘所に数センチほど潜り込んだ触手が、愛液を泡立たせてかき混ぜていく。ずちゅずちゅじゅぶじゅぶと音を立て、愛液は涎となってこぼれベッド上に滴る。ぐったりと脱力したマユミは、髪の毛の先まで震わせてなすがまま。一方的に体を揺すられ、その度に「うんうん」と呻く。
 それを良いことに、前の穴だけでなく後ろの穴…つまりはうっすらと黒ずんだ肛門をこじ開け、ピンク色の腸内の感触を求めて更に別の触手は潜り込んでくる。

「おぶっ、うううっ! ぐぅぅぅ〜〜〜〜〜っ! お、おふぃり、らめっ。あっ! んんん――っ!」

 初めてのアナル体験だが、それは思っていた以上に痛みはなかった。それどころか喉元までせり上がってくる異物感がどこか心地良い。きつい締め付けにめげずに潜り込んだ触手は、中で勢いよく蠢動し同時にグルグルと右に左に旋回してマユミの敏感な部分を刺激していく。

「うんんっ、うううっ、あううぅぅ!
 ひっ、ひぃ、うううぅ………いっ、ひゅぐ。……ううっ。おぅ、あうっ! あうあうぅ〜〜」

 全身を貫く刺激にともすれば意識を持って行かれそうになり、直後、再び襲ってくる刺激に意識を覚醒させられる無間地獄。いつの間にか、マユミのわななく両手は自らの豊乳を左右から支えていた。力を無くしたマユミは触手の操り人形だ。手で胸を押さえるように強制されて、彼女と手を重ねるように、触手が上から押さえつけてきている。そしてそのまま、まるでマユミ自身の手によってペニス触手をしごかせている。
 快楽でふやけた胸に、手がめり込み、溶け合っていくような不思議な感覚。

(こんな、ことって…。うう、どうして、こんなお化けまで、どうしてそんなに、胸ばっかり…。酷いわ…酷すぎる)

 好きで大きいわけでも、敏感なわけでもないのに。
 思い出せば学生時代、彼女をつけ狙った痴漢達もマユミの胸を背後から抱きしめ、両手で愛撫することをことのほか好んでいた。記憶に残る最も酷い物は、揉まれたマユミが息も絶え絶えになり、滲んだ汗で下着が見えるほどブラウスが透け、立っていられなくなるほど執拗に愛撫された。触手の愛撫は、その時の痴漢の指使いを思い出させた。

「うううっ、うっ、むぅ、うっ。うううぅぅ…。ふぐっ、ちゅぱ、あっ、あむ、ん、ちゅく、ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅぷ。ちゅるっ」

 次第にマユミの呻きが変化し始める。息苦しさから無意識の動きで舌が絡み、食いちぎる代わりに甘噛みをすることが精一杯になった時からだろうか。それとも、まるで自慰をしている時のように率先して自らの胸を揉み始めた頃か。
 積極的にペニス触手にくちづけし、くびれやデコボコに沿って舌を這わせていく。喉奥の粘膜でいきりたつ先端部を受け入れながら、微妙に苦みを帯びた唾液ごと溢れる粘液を飲み干していく。

「うぐっ。ちゅば、ちゅぶ、あ、ぷはぁ。あ。ああぁぁ、もう、もう、はぁ、はぁ、はぁ。あ、はぁ、はぁ、はぁ、ああ、う、うぅ…」

 唐突に大量の唾液を撒き散らしながら、ペニス触手がマユミの口から引き抜かれた。
 鎌首をもたげていた触手は、空気を求めて喘ぐ彼女の顔を見下ろしていた。惚けたマユミの眼前で、尿道口に似た先端部の亀裂が大きく開いていく。

「あ、な、まさか…。やめっ…ああっ!」

 「やめて」と言いかけたマユミの口と顔に向かって、精液に似た白濁した液体が吐きかけられた。口の中、髪、鼻先、頬、眼鏡にまで全てが汚液で汚される。

「ぐっ、がふっ、ごほっ、ごほっ。うう、や、ごぶっ。ぐぅぅ…」

 顔射なのか口内射精なのかわからないほど大量の精液にマユミは、咳き込み、必死になって精液を吐き出そうとした。咳き込む口から、たらりと大量の粘液がこぼれ落ちるが、せっかくの命の元を吐き出すことを許さず、再びペニス触手がマユミの口を犯しにかかる。

「……………おぅ、ぐぅ。うぅ……うん。………ぅっ。ぐ、ぐう…。ううぅぅぅ〜〜〜」

(いやぁぁぁ、これじゃあ、吐き出せない。こんな、苦いの、口の中にいつまでも…)

 白濁の粘液で泡立つ口内を触手がかき混ぜていく。
 あまりの息苦しさに耐えかね、嫌悪を堪えてゴクリ、ゴクッ…と音を立ててマユミの喉が動いた。背に腹は代えられないとはいえ、口の中一杯に溜まったゼリーのようにドロドロした精液を、恥辱と共に飲み干していく。舌先に触れる感触から、精液の中には小さな魚の卵に似た柔らかな粒が無数にあるのがわかった。

「はぁ、はぁ、はぁ…ああ、はぁ、ふぅ、はぁ、ふぅ。うう、ん、ふぅ」

(ん…なに、これ。卵…まさk。ああ、でも、私、なんだか変。変よ。わたし、おかしく、なっちゃった? あ、暑い…ううん、熱い。まさか、これ…毒、だったの? …唐辛子、舐めたみたいに、体の中から)

 息苦しさから暑くなってると最初思ったが、すぐにそうでないことがわかった。にじみ出る汗の量は明らかに異常で、なにか異変が起こっていることマユミに教えていた。
 戸惑う間にも内側から熱が溢れてくる。
 いつの間にか、とろんと惚けた目をしてマユミは機械的に触手を口腔愛撫していた。

「あふ、うっ、うううっ。ん、ちゅ、ちゅぷ、ちゅく、ちゅ、ちゅ、くぅ」

(ああ、熱い…熱い、自分の体が、自分の物じゃなくなったみたい…頭が、ぼーっとして。だめ、意識をしっかり、してないと、アスカ、さんが、助けに、来て、くれ…た……とき…)

 ふと我に返って、あるいは疲れて舌先愛撫をやめると、その度に乳首を捻られ、股間を貫くゴーヤ触手がビチビチと魚のように暴れる。そのつど、マユミは慌てて舌先を駆使してペニス触手をしゃぶった。

「うん、ううん。んちゅ、ちゅっ…。も、だめ、です。はぁ、はぁ、はぁ…。
 あっ、ああ、ひゃう! ま、待って、ご、ごめんなさい、うう、…きゃうぅっ! うあ、あぅ、あっ、ん、ちゅぷ…ちゅ、くちゅ、ちゅ、ちゅっ」

 見ているアスカが自分が男だったらと思わせるほど、情熱的な口腔愛撫は勢いを増していく。
 口だけでなく、ペニス触手を挟み込んでのバストファックは今も継続中だ。愛撫の動きに合わせて前後左右に勢いよくピンクの乳首が振り回され、マユミ自身による愛撫はぎこちないがそれ故に予想外の刺激をもたらしていく。愛撫は触手と胸の両方を快楽で溶かし、膣と肛門をほじくるゴーヤ触手はマユミの下半身を爪先までも痺れさせる。
 そして、脳の体から千切れ落ちた幾本もの細い触手…というより蛞蝓がマユミの全身を這い回り、流れる汗を舐め取っていく。その多くはマユミの乳房の頂点に集中し、まるで母乳が出ることを期待しているかのように乳首にしゃぶりつき、ちゅくちゅくと音を立ててピンク色の乳首を貪っている。

「んふ、ふぅ、ちゅ、ちゅぱっ。あうぅ、あふ、ん……………。あぁ、あぅ、うっ。はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。ああぁぁぁぁ」

 声にならない悲鳴を漏らし、マユミは全身を小刻みに震えはじめた。ヒクヒクと腰と太股が震え、ぽたぽたと淫臭漂う汗が流れ落ちる。突然、ペニス触手が口から引き抜かれた。時を同じくして、股間に潜り込んでいたゴーヤ触手の全体が脈打ち、大きく震えはじめる。

「あうっ!? う、ん、んんん、あぁぁぁ…。はひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃ…」

 汚れたレンズの向こうに滲んで見える触手から粘液が噴き出し、マユミの胸を汚した。べっとりと吐き出された精液は、重力に引かれるまま稜線に沿って流れ、滴り落ちる。

「う、うう…うぐっ」

 無防備なマユミの体は、更に大きく裂けそうなほど広く足を左右に広げさせられ、脳に引き寄せられていく。
 マユミの股間の先には、ペニス状の触手がコブラのように鎌首をもたげていた。何本もある触手の中でそれを選んだのだろうが、太さ、堅さ、色…どれもまさにマユミのためにあつらえたようだ。

「い、いや…。やめて、やめて、お願い…そ、そんなの、入れられ、たら。私が、私じゃなくなっちゃう。
 シンジさん、シンジさん、シンジさん…!」

 ジタバタと暴れるマユミの両腕は後ろ手にねじ曲げられ、さらにエビのようにきつく背骨を折り曲げられる。大きくM字型に足を開かされていなければ、さながら江戸時代にあった海老吊りの拷問だ。苦痛と息苦しさに息を詰まらせ、体を震わせるマユミ。

「いや、やめて、やめて。ねぇ、お願いだから…。助けて、助けて。無理、無理よ。神様、神様」

 じりじり、じりじりと距離がつまっていく。30cm, 20cm, 10cm, 8cm, 5cm
 耐えきれず、生贄の新妻は目を閉じて顔を背けた。

 閉じた瞼の裏で、マユミはなぜかそれまでの生涯に起こったことを思い出していた。
 死の間際に見る走馬燈のように。

 暖かな暗闇の中から始まり、子守歌を歌う母親、突然の殺人劇と両親との別離。
 冷たい施設と養父との出会い、各地を転々とする生活、友達も出来ずいつも一人。
 生きている意味を感じられない人生が変わったのは、14歳の夏にシンジ達と出会ったから。使徒、エヴァ、全てが夢物語のよう。
 養父の転職に伴い長野の第二新東京市に腰を落ち着けるようになり、友達も出来た高校時代。
 大学に合格し、進路なども決まってバラ色だったはずの将来は、事業に失敗した養父が破産すると同時に終わりを告げる。
 高校をやめ、知り合いの紹介もあって近所の看護学校に通うようになった18歳。
 次第に酒浸りになり、荒れていく養父。
 そして養父との別離。ふっと、姿を消し、それっきりどこにいるのか、生きているのかもわからない。
 かつてのようにまた内気で物静かに戻ってしまったが、無事に看護婦になり、第二新東京市の大学病院に勤務するようになった。
 22歳の時、テロで怪我をしたVIPの専属看護婦となった。そのVIPこそ、彼女が愛し、また彼女を愛してくれた彼女にとって初恋の男性である碇シンジ。

 シンジは言ってくれた。

『僕が一緒にいるから。もう、絶対に君に辛い思いをさせたりはしない…』

 シンジは、そう、言ってくれた、けど…。
 言って、くれた、けど。

 熱い固まりが淫唇を押し割り、侵入してきた瞬間、回想はステンドグラスのように粉々に砕け散った。シンジの顔と言葉は消え失せ、深奥を貫く怪物の生殖器以外、何も知覚できなくなる…。

「ああぁぁ…。あっ、ひぐっ、いやぁぁぁ――――っ!!」

 甲高い悲鳴が響き渡った瞬間、アスカは自分自身が犯されでもしたかのような熱と圧力を自分の下半身に感じた。瞬きを忘れた血走った目で食い入るようにアスカは一人と一匹の交合の瞬間を見つめた。

「は、はぐっ、は……ああ、あああぁぁぁ。ああぁぁぁぁ。いやぁぁぁ、無理、あああ、だめ…あ、うぅぐぅ…」

 限界ギリギリサイズのピンク色のペニス触手が、測量用の鉄杭のさながらに打ち込まれていく。膣襞を巻き込み、かき回しながら出し入れを行うと、マユミの柔らかな下腹がゆらゆらと波打ち、太股から爪先までがブルブルと小刻みに震えた。
 雄と雌の肉の喜びを交歓していく灼熱の悪夢。細胞を茹だたせる快楽が内側から込み上げ、爆発するように脳に達する。全身の細胞が溶け崩れさせるような快楽は、マユミの頭の中をかき乱していく。嫌悪と快楽で惑乱されたマユミは幼児のように泣き叫んだ。

「うう、い、ひぃううぅぅぅ! いや、いやぁ、いやよ、いやぁ――――っ! こん、なっ。こんなの本にだってない! いや、こんなの!
 シンジさん、シンジさん助けてぇ! シンジ…あああっ!」

 ばさり、と鳥の羽ばたきのような音を立ててマユミの髪が振り乱された。現実を受け入れがたいのか左右に振り乱されるマユミの頭はガクガクと震え、引きつった首筋から鎖骨、胸元にかけてじっとりと汗が浮かんでいる。

「ああ、あぐ、あぐぅぅ…。うそぉ、嘘よぉ…。や、……が、はっ、ひぃぃ――――っ!」

 より深く貪ろうとしてか、脳が姿勢を変えると共にマユミの姿勢も変化する。弾力ある子宮口をなぞりながら膣内の位置をずらすペニス触手。息を詰まらせて大きく首を仰け反らせるマユミ。小刻みに痙攣する体が、寝そべった(?)怪物と対面座位なのか、それとも騎乗位なのかはよくわからないが、ともかく怪物と向き合うようにしてその上に跨らせられる。重力に引っ張られて生殖器が挿入されていく。

「待って、待って、お願い! 入らない、はいらな、あっ………あぁ…うぅ。入って、ああ、入っちゃ…う」

 苦痛の悲鳴ではないが、苦痛を堪えるそれにそっくりな呻き。
 筋を吊るほどに足を強ばらせて抵抗したが、すぐにぴったりと互いの腰が密着する。マユミは拒絶の悲鳴を唐突に途切れさせると、ガクリと頭を垂れた。犬のように舌を出して喘ぎ、全身からぽたぽたと大量の汗を滴らせている。体の芯から感じているのだ。
 シンジではない。シンジで無いどころか、人間でさえないのに。

「うっ…ううっ。ああぅ。うっ…いやぁ、いやっ、いや」

 全身が苦痛じみた快楽に包まれていく…。

 細い触手が巻き付き、大きさを強調するように絞り上げられていた乳房が大きく揺れた。重力に引かれたマユミの胸は男の握り拳よりも大きく、柔らかな質感そのままに勢いよく揺れて脳とアスカの目を楽しませる。白く豊かな乳房とその先端のひっそりとしたピンク色の乳首。胸の大きさに比べると乳輪はさほどの大きさはなく、如何にも日本人的な体型をしているとアスカは思う。
 思えば、マユミの裸体を見る権利は今までシンジだけの特権だった。
 それを今、あの怪物が特権を楽しんでいる。これは、怪物による権威の失墜を意味しているのだろうか?

 違う、とアスカは思う。
 自分やシンジは、余人には及びもつかないほどの苦労を重ねて、今の地位を手に入れたのだ。あんな怪物は、その足下にだってすり寄ることは許されない。それなのに、マユミがその怪物に犯されている理由はたった一つ。

(そもそも、マユミは、私たちの…シンジの、側にいても良い、女じゃ、なかったのよ)

 レイが凌辱されるのを見ていた時、ここまでアスカは一方的なことを考えたりはしなかった。もしかしたら、アスカは(アスカから見て)なんの苦労も実力もなく、シンジの側にいて彼に愛されているマユミに我慢が出来なかったのかも知れない。

(そう、これは、きっと。罰なのよ…)











「うう、ううっ。やめ、あうぅ…うっ。うう、はぅぅ。う、ぐぅ!
 あん、ああんっ。おねがい、だから…。もう、やめてぇ」

 ロデオの馬のように勢いよく突き上げられると、ガクガクと体を揺らしてマユミは甘い喘ぎを漏らした。膣をえぐられるだけでなく、微妙に盛り上がった肉の瘤がそのたびにマユミの肥大したクリトリスをつついてくる。ガツガツとぶつかる刺激も合わさり、力を無くした両足は痙攣するように震え、男の腰にしがみつくように脳の下腹部を締め付けている。

「うううぅぅ。はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…。ひぃぃ、ひぃ、はっ……あ、くぅぅ」

 目を開ければ、無理矢理こじ開けられた股の間に潜り込むピンク色の触手が嫌でも目にはいる。それは限界まで差し込まれ、マユミの腰にぶつかってはパシパシと乾いた音を立てていた。濡れた襞がこそがれ、かき回される淫靡な水音もそこら中に響き、感じていること、怪物の凌辱を歓喜でもって受け入れている事実をマユミに突きつける。

「あうぅ、あううぅ。…ううっ。うっ、うっ。……ぐ、ふぅ。ふぅ、ふぅ、ふぅ…。いや……ああ、もう、あぅぅ」

(そ、そんな、ことぉ…。ち、違う、のに。私は、私は、そんな、感じたく、なんか、ない…のに)

 脱出方法などを考えることもままならず、千々に乱れる心と体に、自分が涙と愛液を絞り出す肉の水筒になったかとさえ思う。

「うう、いうっ! ぎうぅぅ…。もう、ああ、ま、またっ」

 襞を巻き込みながら勢いよくペニス触手が出入りを繰り返す。
 やがてビクビクと大きく脳の体とペニスが震えたのを、諦めを持ってマユミは受け入れた。悔しさと惨めさにきつく口を噛みしめ、ぎゅっと強く手を握りしめた。

「あ、ああああぁぁ! に、妊娠、しちゃ、う。だめ、中、ダメ! ああ、いやぁぁ…」

(もう、もう、だめよぉ、ダメ、なのに…。一体、何回、私のなかに、射精すれば、気が、すむの…?)

 射精から一拍遅れて、マユミの体も小刻みに震え、胎内でますます存在感を増す脳の生殖器を締め付けた。甘くきつく柔らかな甘美なる締め付けに耐えきれなかったのか、再び新たな粘つく体液…怪物の子種…精液が膣内に迸る。

「ひ、ひゃう、あうぅぅ!」

 大きく腹を波打たせ、肩で息をするマユミ。もう、この怪物…脳は20分以上もただ執拗に生殖器を蠕動させてマユミの膣を犯している。それも人間の性交とは比べものにならない、気が狂いそうな快楽を撃ち込んでくる。マユミはもう妊娠したって良いから、やめて欲しいとさえ考えていた。それが異様な状況に混乱した末に出た誤った考えだとしても。

(やめて、もう、やめて。せめて、ちょっと休ませて、よ。か、感じたく、ない…! 好きでもない人に! 人どころか怪物に犯されて、生きていたく、ないのに…。それなのに、私の、体、は…。ああ、ま、また…)

「ああっ! お腹が、熱い、また、またぁ! 助け、助けて、もう、いや…。
 あ、アスカ、さん。助けて…」

 もうマユミには正気は残っていなかった。
 今の彼女は、楚々とした清潔感に溢れる山岸マユミという美女ではない。淫らに上気した息を漏らし、秘所をしとどに濡らし、娼婦さながらに喘ぎ、膣をほじくられるたびに絶頂を迎える快楽地獄の囚人なのだ。

「あ、ああぁ! ひぁ、あぁぁぁぁ…」

 何度目かもわからない絶頂で大きく体を仰け反らせ、腹の底から絞り出すような声でマユミは啼いた。

「助け、助けて! 助けて、下さい。ああ、アスカさん、どこ、どこなの…! はやく、助けに、来てっ…。
 ううう、やだ、また、イっちゃう! うく、シンジ、さん、ああ、シンジさんっ!」

 その甘い声に誘われたのか、手持ちぶさたになった腕型触手がそろそろと伸び、眼前でぷるぷると勢いよく揺れている乳房を掴み、リズムをつけて愛撫していく。重力に引かれたマユミの乳房は、ずちゅずちゅと粘ついた音をたて水風船のように形を変える。胸から全身に広がる刺激に耐えきれず、脹ら脛を痙攣させてマユミは体をくねらせた。堪えようとしても、愛液がじわりじわりと染み出すのを押さえられない。

「はう、あぅっ、また、ダメ…。ああ、胸は、だめ、なの…。おっぱい、触っちゃ…ひぃ、あんっ。シンジさん、しか、触っちゃ…。ああ、あうぅ。ち、乳首、ダメ…だめ、だめ…。
 ああっ。あうっ! うう、く、狂っちゃい、そう…」

 断続的な喘ぎ声を漏らしているマユミは勿論、性交に没頭している脳はその存在に気づかない。
 ただ一人、隠れて成り行きを見守っていたアスカだけがそれの存在に気がついた。
 そろそろマユミを助けようかと、衣服を整え、武器を片手に立ち上がろうとした時、影から音も立てずに忍び寄るそれの姿が見えた。

『じゅぐぐぐ、じゅばっ。はうはうはうぅ』
「う、うううっ。だめ、だめだめだめ、ああっ! また、また、またっ! 助けて、アスカさん、綾波さん、マナ! …し、シンジさん!
 ああ、い、いやぁぁぁ――――っ!!」

 瞬く光が何度も何度もマユミの瞼の裏で明滅を繰り返し、再び彼女の体が痙攣する。黒い炎に焼かれ、心に先駆けて凌辱を受け入れた膣も子宮も強く弱く、しがみつくように生殖器を締め付けた。同時に、マユミの胎内の生殖器が爆発的な勢いで膨れあがり、大量の…文字通り溢れるほど大量の精液をマユミの胎内に噴き出した。

「ひ、ひぎぃぃ…!! い、いいっ、いた、あー! あっ、ああっ! あああぁ――――っ!!」

 痛みを感じるほど大量に吐き出された精液に苦悶混じりの悲鳴をマユミは上げた。
 彼女の悲鳴は、既に冷たく冷え切ったベッド上に投げ出されたことで途切れた。投げ出されると同時に挿入されっぱなしだった生殖器が引き抜かれ、大量の白濁液がこぼれ落ちる。

「う、うううぅぅ…。うう、な、なに…」

 マユミはまだ何が起こっているかは気づいていない。ただ、大きくそそり立つ脳の威容と股間で隆々とそそり立つ先程まで自分を可愛がっていた生殖器を、恐怖に震えながら見つめていた。
 今度は、アレで何を…。

「た、助け、て…。お…あさま、お、とうさ……。は、う……」

 すっかりと体力を消耗しきっていたマユミは、眠るように瞼を閉じそのまま意識を失ってしまった。

『ぐぎゃああああっ! じゅば、じゅばばばっ』
『ふぅおぉぉっ! し、ぃ、だ。よこ、よこせぇ』


 唯一、アスカだけを観客として脳の解体ショーは繰り広げられた。
 脳はこの突然の闖入者に激怒した。触手を振り回し、捕食用の強酸の体液を迸らせて対抗するが、柔らかな背中に何度も鉄の塊を叩きつけられ、傷口から大量の体液を噴水のように迸らせていく。脳の体を動かす原動力は筋肉の収縮ではなく、ほとんどが体内の水分が移動することによるもの。
 つまり、最初に致命傷を貰ったことで勝負は既についていた。

 自分が死んでいく事実を受け入れることも出来ず、脳は愕然としながらもなおも儚い抵抗を続けていた。逃げれば助かるだろう。しかし折角見つけ、捕らえた極上の女を前にしてはおめおめと逃げることなど出来る相談ではない。この、単に変異しただけの、なんの特徴もない支配者に報いを受けさせなくては…!
 思いとは裏腹に体液を失うと共に触手は萎び、体はドンドン縮んでいく。対照的に全身には、蛮刀がつける傷が幾つも増えていく。

『ぐ、ぐあぁぁぁぁぁ』

 とうとう、人間で言えば耳から耳へ通すように、蛮刀で頭部を刺し貫かれた。
 たまらず、脳は全身を振り立てて襲撃者をはねとばすとベッドから滑り落ちた。中枢神経の近くを傷つけられたことでパニックになり、外敵に襲われたカタツムリがするのと同じように、慌てて本体を殻の中に…つまり、かつて寄生して作り替えた女の腹の中に引き戻していく。

 刃渡り50cmを超える蛮刀を突き刺したまま…。

『ぶぎゅりっ……!!』

 限界まで膨れあがった風船に包丁を突き立てればどうなるか。
 それが、支配者『脳』の最後だった。

 ベッドの下が影になってアスカから見えなくて幸いだった。急速に広がる水たまりだけでもどんな有様なのか容易に想像がつく。だが、現実はアスカの想像なんて足元にも及ばない。











(恐れていたことが…。他の、他の怪物が)

 喉までせり上がる酸っぱい胃液を必死に飲み込み、アスカは目を見開いてマユミをじっと見つめる新手の支配者を見つめた。見た目は地下鉄内で見た奴とさほど…いやまったく同じに見える。マユミを襲った化け物のように、人間の名残すら残していない、と言うことはない。
 しかし、どこか雰囲気が違っている…とアスカは感じる。

 ともかく、完全に自分の選択ミスだ。アスカは筋が浮くほど強く手を握りしめる。
 当初考えていた作戦では、性交に没頭している怪物の隙をついて背後から襲いかかり、マユミを奪還した後、背後の丘を登って線路に向かう予定だった。計画の狂いは、なかなか踏ん切りがつかずに行動が遅れてしまったこと。せめてもう5分早く行動していれば…!

(いや、まだよ。1対1ならまだなんとかなるかもしれないわ。どうせマユミを犯すだろうから、その時にあいつを倒して、とりあえず、マユミと一緒にどこかに隠れ…)

 アスカのそんな予定はあっさりと覆される。
 新手の支配者は追われた犬さながらに意識を失ったマユミを抱え上げると、後ろも見ずに駆けだしたのだ。

「そんな、ちょっと待ってよ!」

 思わず漏れたアスカの声が聞こえているはずなのに、その支配者は足をゆるめることさえしない。

「待って、待ってよ! マユミをどこに連れて行く気なのよ!」

 慌てて隠れていた部屋から飛び出し、支配者が走り去った方に目を向けるが、彼は既に姿を消していた。ただ、うっすらと、砂の上に足跡を残して。

「そん、な…。なによ、それ。嘘でしょ」

 呆然とするアスカの背後の暗闇の向こうから、いくつも怪物達が呼びかう叫び声が聞こえてきていた。







初出2006/07/23 改訂2006/07/25

[Back] [INDEX] [Next]