深宴

第5話



著者.ナーグル



















 生白い脂肪の塊とほんのりと朱に染まった美女の絡み合い。
 アスカは呻くことも忘れ、2人の交合を見つめていた。

「はぁ、はぁ、はぁぁぁ…………っ。ん、んんっ!
 い、いかりく…。あ、あ――――っ!」
「良いぞ、良いぞぉ。締め付けがたまらん! おおう、おおう、おおおおおおぉぉぉ」

 ピッタリと体を密着させ、手と足を絡み合わせる蛇の交合のような性交はたっぷり30分以上続き、お互いがほぼ同時に達した時にようやく終わった。レイが拒絶しながらも受け入れ、ついには自分からしがみついて痙攣するように達するところを、瞬きをしない目でアスカは見た。悩ましくも理不尽な嫉妬にも似た負の感情が渦を巻く。レイに対する理不尽な感情がじわじわと心に広がっていった。

(レイ…。信じられないわ。あんなにいつもいつもシンジシンジって、シンジ以外の男の存在を認めてなかったのに。それが、シンジでない男に無理矢理犯されて、あんな声を出してアクメを…。無理矢理犯されたレイプだったのにオーガズムだなんて)

 美しくも気高い白菊は無惨に散らされた。
 レイは虚ろな瞳に涙をにじませ、未だ収まらぬ熱い吐息に胸を上下させる。油と汗に濡れた体は未だ火照り収まらず、手と舌の愛撫で赤く疼き続けている。脱力したレイの体を、教祖は何の意味があるのか手触りを確かめるように撫でさすった。
 今も長く緩慢な官能という波に小舟のように揺られているレイは、小さく呻くことしかできなかった。
 濡れ汚れたベッドの上でぐったりとしたレイの肢体は無惨ではあったが、女を匂わせて艶めかしくも美しい。

(男なら誰でも良いってのあんたは。シンジじゃないのに、感じるだなんて、受け入れるだなんて。
 ああ、でも、私…)


 濡れている…。

 ぬるりとした感触に背筋がゾクリと震える。手で触れてるわけではないのに、ぐっしょりと湿った股間のショーツが身動きすると肌に張り付いてくる。被虐と嗜虐が入り交じる複雑な感情の爆発。脅迫されたレイが不本意に達した瞬間、アスカもまた達していた。

 親友がレイプされてる姿を見て感じてしまう…。

(違うわ…。私はそんな女じゃない…。他人がレイプされてるのを目にして、濡らしちゃうような女じゃない…。
 レイが、悪いのよ…。そう、そうよ全部レイの所為だわ。私の所為じゃない。レイが、シンジ以外の男相手に感じるのがいけないのよ。裏切り者…裏切り者…裏切り者…レイの、裏切り者)

 レイがどんな思いでその身を捧げたのか、アスカにわからないわけではない。だがそう思いでもしなければ、自分の状態を誤魔化すことが出来なかった。自分がゲスな事を考え、それに喜びを覚えていただなんて認められるはずがない。だが、レイの股間からどろりとした精液がこぼれているのと同じく、それは間違いない事実だ。否定すればするほど、じっとりと汗が額に滲んだ。

(あんたが、あんたが犯されたりしなければ)

 口の中では達してしまったレイに対して毒づきながらも、その実、心の奥底では確かに興奮している。
 そんな黒くドロドロとした内面を決して認めるわけにはいかないのだ…。

(あ…)

 その時、手首が自由になっていることに気がついた。それまで鎖をジャラジャラとならすことしかできなかったはずの腕が、するりと拘束から解き放たれていることに気がついた。そう言えば、手首に感じていた圧迫が無くなっている。

(腕が、動く…。自由になってる!)

 試しに動かすと、柱に束縛していた鎖の輪からするりと手が抜ける。鎖で縛られていることと、さらに締め付けていたのが手首ではなく手首から先の部分だったことが幸いしたようだ。アスカにとって運が良いことに、以前の犠牲者を縛る時、針金と革ひもで縛られた犠牲者の女性の手首は完全に血流を止められ、さらに決して解消されない鬱血の苦痛に発狂してしまった。結局手首から先は壊死を起こし、数日で死亡してしまったことがあったためそれ以後は細い物で縛ることをやめていたのだが、世の中何が幸いするかわからない。
 さらに、怪物と狂人達の知能が低かったが故に縛る場所を間違えたことも運が良かった。

(暴れたから拘束がゆるんだんだわ。これなら、抜け出せる。逃げられる!)

 でも…。

 ちらりとレイに視線を向ける。
 レイを見捨ててはいけない。だが、いくら自由になったと言ってもこの数の狂人と怪物を相手に戦って勝てるとは思えない。ここは蛮勇を奮うところではなく、逃げて助けを求めることこそが最善なのではないか?

(……だけど、このままレイを見捨てていくなんて)

 逃げることはいつでも出来る。



 それとも、まだ見ていたい?



(このまま、逃げて…良いのかしら。ううん、抜けられてもきっと音がするし他の奴らに気づかれたら…)

 からからに渇いた喉がやたらと動く。
 今はまだその機会ではない。さりげなく他の拘束をゆるめながらもアスカはその場から逃げることを選ばなかった。
 既に自分自身も囚われの身であることを忘れたのか、すぐに逃げない言い訳をしながらレイの受ける責め苦を興奮しながら心待ちにしていた。彼女を見捨てられないという、甘美な憐憫を免罪符にして。











『ヒニダを連れてくるのだ』

 歓声が上がる。
 饗宴に熱狂しつつ、これから現れるそれを恐れている埋み火のような歓声だ。自然アスカの心拍が早くなる。

 教祖の言葉に従い、狂人達が何かを連れてくる。その慌てた様子から、よほどやっかいなことだろうことは想像に難くない。ヒニダ ――― 彼らの言葉を信じるなら、粗暴さ故に獣に変えられた彼らの先祖だ。恐らく、人間ではない。人間だとしてもそれは周囲にいる怪物のような存在だろう。それも彼ら以上に変異しきった。

 ぎ、ぎぎぃ…

 重く軋む扉の開く音、途端に鼻をつく湿った皮革のような独特の臭い。

 ドキリ―――

 アスカの胸が高鳴る。注射の順番待ちをしていた幼児期に感じた焦燥感が内蔵を疼かせる。何かが来る。アスカが予想だにしていなかった何かが。祭りのクライマックスはもうすぐだ。十中八九、これからレイはまた凌辱を受ける。また、目の前で乱れる女と男を見せてくれる。喘ぎ、悶え、啼く。そしてアスカの心の中に食らい優越感で満たしてくれる。

 汚されきったレイはシンジに相応しくない…。自分以外に彼の伴侶はあり得ない、と。
 それにしても、これからどんなことを…。

(この臭い、人間じゃ…ないわ。あいつらみたいな怪物? ううん、この感じは違うわ…)

 なんとか近づいてくる『何か』に視線を向ける。鎖をゆるめた今なら、それをアスカは見ることが出来る。音を立てないように、他の注意を引かないように出来る限り注意しながら首を傾け、そしてアスカは内心で歓声を上げた。

『グルルルルッ』

 無理矢理鎖を引っ張られ、息が詰まったことに不快なうなり声を上げるビースト。
 その禍々しい獣が引きずられるようにして近寄ってくるのに、疲れ切ったレイは気づいていない。彼女の無防備さと彼女にせまる危険にアスカの背筋はゾクゾクとする。

(あ、あれが…ヒニダ…レイの、相手…)

 一見したところ、ジャパニーズマスチフ…いわゆる、土佐犬によく似たシルエットをしている。体高は80センチ、体重は100キロ近くあるだろう。しかし、明らかに土佐犬とは違い、皮膚病にでもかかっているのか全身の毛はほとんどが抜け落ちてバンカーと芝が入れ替わった様な見るも無惨な有様だ。明らかに異常な形状に変形した、長さのちぐはぐな足でよたよたと歩を進める。前足の筋肉はあり得ないレベルにまで発達して盛り上がり、皮膜を突き破り、ケロイド状の筋組織が直に外気に触れている。骨は歪み、筋肉との圧力でぐちゃぐちゃだ。背骨は折れ曲がり、せむしの様にこぶが盛り上がって猪のようだ。

 ハイエナとも犬ともつかない面妖な怪物、それがヒニダと呼ばれる獣の正体だった。

(あれが、ヒニダ…!)

 生きていることそれ自体が恐ろしい苦痛に満ちた哀れで恐ろしい生き物。歩くだけで、息をするだけでもあの歪んだ背骨と足骨は痛むに違いない。マユミが見たらきっと恐ろしさより先に、その痛々しさと哀れさで泣いてしまう。だからこそあの狂人や教祖達が、淫祠邪教のシンボルとして扱うこともわかる。
 だが…。

(あれは…犬だわ)

 いくら異形に変じていてもそれは間違いなく犬だ。先天的に、生まれついての怪物ではなく、後天的な理由で怪物になろうとしている哀れな生き物。
 そうと気づいた瞬間、アスカは周囲の怪物と狂人達に目を向けた。

(あいつらも…そうなの?)

 白子の怪物は人間が何らかの理由で変わったもの。異常に発達した腕、毛が抜け色素を無くした皮膚…。いずれもヒニダという犬と共通している。

(でも本当に人間なの? どちらにしてもレイは獣…に……)











『くぅ〜〜〜っ、くぅ〜〜〜〜っ』

 哀れな鳴き声で獣は呻いている。声だけならまさしく犬そのものだ。
 あの獣が、さらにレイを汚し堕としてしまう。アスカは唇を舐め、ぬるりと生暖かい愛液が内股を伝いおちる。知らず知らずのうちに、ゴクリと唾を飲み込んでいた。その音に反応したのか、ヒニダがじろりとアスカの方に頭を向ける。

『フッ、フッ、フッ』

 慌ててアスカは出来る限り体を動かさないように体を硬直させる。いま気づかれるわけにはいかないのだ。永遠にも思える数秒間がすぎ、プイとヒニダはアスカから顔を背けた。アスカには大して興味がなかった…というより、彼の注意を引くものが間近にあったからだ。

「ん、ん、んんっ」

 レイがビクビクと体を震わせる。ベッドから下ろされたレイは、替わって体操選手が使う鞍馬というか跳び箱のような台の上に腹這いになって寝かされている。寝かされていると言っても、横幅が30センチ、縦幅が1メートルほどなので、胴体が乗るだけで精一杯だ。手足は台の上に載せきれずに左右に力なく垂れ下がり、豊かな乳房は自身の胸の重みで隙間なく台に密着している。それにしてもレイの胸の隙間はきつそうだ。台の高さ自体は40センチほどなので、半ば四這い状態で手足をついているからあまり痛みを感じてはいないだろう。

(それにしても、なんて、みっともない格好を…)

 台さえなければレイ自ら犬のような四這いという扇情的な姿勢で誘っている。それが強制された物であることをアスカは一瞬忘れてしまう。レイは不幸にもアスカの方にやや傾いて顔を向けているため、その股間がどうなっているかは直接視認することは出来ない。だが、埃の付いたテレビに映るレイの背後からの映像は、今も松明の光で濡れ光るレイの股間を映し出している。犯された直後でだらしなく緩み、糸を引く白濁した液を溢している…。

「ああ、や、やめ…て……」

 レイの股間に、教祖は何か黄色い粘液をたっぷりと塗りつけている。シェービングクリームかビールのように泡立っているが、手に取った時の様子はハチミツか何かの様にどろりとした何かの液体だ。それを手に取り、擦り込むようにまんべんなく塗りつけられていく。
 尻、肛門、秘所、太股。
 特に教祖は重点的に自らの精液がたっぷりとたまっている膣内に重点的に塗り込んでいく。液体と愛液、精液で泡だった指先がグチュグチュと音を立てて出入りした。入るたび、出るたびに暖かくも心地よい感触でレイのビクリビクリと体が跳ねる。そんな風に感じたくないのに。
 レイは右に左に、触られた蝶の蛹のように腰を振って嫌がった。

(誘ってる…みたいだわ)

 アスカの考えたとおり、確かに端から見たら娼婦が男を誘うように扇情的な仕草だ。

『バウゥゥゥッ』

 そのレイに向かって獣は一直線に向かおうとする。それまでの渋りが嘘のような食いつきに、狂人は逆に押さえるように鎖を引っ張らなければいけない。だが、人間2人がかり以上の力で獣は前に進む。

「落ち着け…」

 愛おしそうに撫でる教祖の手をペロペロと鉛色の舌で舐めながらも、獣の目はレイに釘付けだ。もどかしそうに後ろ足で立ち上がると、獣は舌を出して激しく呼吸した。押さえきれず、狂人達は鎖をゆるめる。その瞬間、弾けるように獣はレイの股間にむしゃぶりついた。

「ああぁっ!」

 生温く吸い付く感触に顔を跳ね上げてレイが叫び声を上げる。じゅるりと粘つく舌が内股をこそぐように舐める。塗りつけられた液にかわって、奇妙に糸を引く涎の熱い感覚が太股を伝う。

『ちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶ…』
「や、んんっ。あっ、あ…………んんっ」

 鼻息荒く舌が触れるたびにレイの臀部が激しく揺れる。だが鼻先を突っ込むように獣は正確にレイの股間を、正しくは塗られたクリームを求め、獣特有の執拗さと持続力でしつこく舐め回していく。

「はっ、ああっ。あぁぁ…やめさせ、てっ」

 疲れ切った体は途切れがちな意識を失ってしまって泥のように眠りたいと訴えているのに、執拗にしゃぶられ、官能の刺激に翻弄されて意識を失うことは出来ない。間断無く続く甘美な拷問に、はしたなくも体をくねらせて反応してしまうことにさすがに屈辱を感じているのだろうか、レイの両の目から涙が流れる。

「ああ……あ、ああっ。ん、あっ。ああっ、あっ、あんっ。も、もう…だ、め。きつい、の。これは…なに…。こん、なこと、わたしは…こんなこと、するために」

 ずるり、と音を立てて秘所全体が舐め回されていく。陰毛どころか産毛も余り生えていないレイの体は滑りが良く、感触自体を楽しむかのように獣はリズムを取りながら舌で凌辱していく。

「うまれてきたんじゃ、ないもの。
 だから、やめ……いかり、くん。いかりくん。ふぅ、ああぁ。ああああっ。やめ、て。碇君の顔、思い出せなく、なるっ…から。
 うっ、ううん、うん、うん、うん、うあっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はぅっ」

 戸惑ったようにレイは首を振り、背筋を大きく反らす。舌先は擬似ペニスとなって貪欲に淫唇を犯していた。大量の涎と共にレイの膣内に潜り込み、奥に塗りつけられたクリームをこそぎだしていく。グロテスクにも見える小陰唇はぷっくりと腫れ上がったように充血し、意志ある生き物のように獣の舌に絡みつく。湿った鼻先がぷくりと盛り上がった真珠のようなクリトリスをつつき転がし、それでなくとも敏感なレイの体をビクビクと跳ね上げさせる。

「あ、はっ。んぅ〜〜〜〜〜っ。うっ、ううっ。とけて、いくっ。私が、とけて…」

 汗が止めどなく流れ、白い肌がピンク色に上気していく。息は潤み、震えを帯びる。

「ああう…………っ。うう………っ、ぐぅ、あっ。あうっ…………おうっ」

 手が途切れがちに吐息を漏らす口元に行く。声を堪えたいのか、それとも内からせり出すような官能を押さえようとしているのか…。

「…んんんっ!」

 レイの反応ににやつく教祖によってクリームがレイの股間よりもっと上、肛門の周辺に垂らされる。当然、それを追って獣の鼻先も上に移動し、ある意味秘所以上に敏感な肛門に舌先が触れた。さすがにレイも肛門を舐められることには抵抗があるのか、これまでになく嫌悪と拒絶を表情に滲ませる。

「耐えられないのなら逃げても良いぞ。一言、そう言えばいい」
「な………………にを、言って、るの」
「信用できないか?」

 言葉と共にぽたぽたと更にクリームが背筋に垂らされる。腰の窪みのクリームだまりを追ってさらに獣は体をずらす。

「ひっ…」

 その瞬間、氷、鋼などと形容されたことすらあるレイの表情が、女学生のような驚き顔に変貌した。
 てかった尻に触れる人間よりも熱い体温、ほんの僅かに残った和毛が尻を擦る感触、なにより人以外のモノがしがみついてくることに対する恐怖。その変わりように、快楽と嫌悪で歪めることは出来ても驚き顔にすることが出来なかった教祖は楽しそうに笑った。

「どうしたね。早く言わないと…」

 クリームが腰の辺りから、背中の方に振りかけられる。

「ああっ」

 さらに獣が体をずらし、背中を舐り上げながら前足で横腹にしがみついてくる。倍以上の重さがある獣の重量と圧迫感が心と体を押しつぶす。肩越しに獣を振り返り、次いで脅え戸惑った表情で教祖の方を見やるレイ。

「………もう、やめ」
「おっと、待ちたまえ」

 後先考えずに言いかけたレイの言葉を教祖が遮る。「言え」と言ったかと思えばそれを中断させる。彼が何をしたいのかわからず、不安にレイは眉根を寄せる。もったいぶってる間に更に獣はレイの体に強くしがみつき、ペロペロと情熱的に背筋を舐めてきているのだから気が気ではない。











(ああ、レイ…信じてるわよ)

 見ているアスカは興奮と深海底に澱んだ泥のような期待に身を震わせた。シンクロでもしたように教祖が何を言おうとしているのか、手に取るようにわかる。レイの言葉次第で、地獄を見るのは自分だというのに、不思議とその恐怖がない。
 なぜなら。











 耳元で何事か囁かれたレイの表情が絶望に曇る。
 目を閉じて小さく頭を振り、何かの間違いであって欲しいとでも言うように小さく呻いた。

「…できない、わ」
「そうかそうか」

 うなだれるレイと対照的に、教祖は満足そうに何度も頷いた。そして瘧のように震えるレイの背中から首筋にかけてクリームを垂らしていく。

「うううっ。ああ、いや…なの。でも、私が、逃げたら…押さえられない、から」
「そう、その通りだイバ。おまえが拒絶すれば、あそこにいるおまえの友が身代わりになるのだ。大人しく、御子との初夜を受け入れろ。ヒニダと使徒たちは体の変形に常に苦しんでいる。それを忘れるためには、喰うか、いたぶるか、性交をするしかないのだ。御子の苦しみをその身で癒してやれ!」
「逃げ、ない。だめ…私が逃げたらアスカが犠牲に、なってしまう、から。私が、全部、引き受けないと。
 アスカも、霧島さんも、山岸さんも…私が守るもの」

(やっぱり…!)

 教祖が何を要求していたか、予想通りだった。
 そして、レイがどういう選択をするのかそれも予想、いや違う。レイの選択はわかりきっていた。たとえこれが死の選択だったとしても、レイが選んだことはわかっていた。






(でも、あなたのそんな殉教者めいたところは大嫌いよ)




 命どころか、魂まで堕ちてしまうような危機に陥った時、人の本性と本音は痛いほどハッキリと現れてしまうモノなのかも知れない。











 悲痛なレイの顔と、テレビに映る腫瘍状のおできが一面に浮いた獣の極太のペニスにアスカは息を呑む。形、太さ、見た目どれも人間とはあまりにも違いすぎる。まるで自分自身が今犯されでもしたように心の中で小さくアスカは呻いた。
 クリームを舐めつつ、レイに体を擦りつけたことで興奮したのか、獣…ヒニダのペニスは所々が白くなるほどの怒張となり、いまだ濡れ光るレイの秘所にそのサラミソーセージのような亀頭の先端を押し当てている。

(あれが、レイの、中に…)

 こんなになってもまだどこか殉教者のような気高さと清楚をもったレイが、どんなに乱れて泣き叫ぶのか…。そして病の獣との交姦への嫌悪の泣声が、先程教祖に犯された時のように、いつ甘美な官能に啼き声を上げるようになるのか。もうアスカは自分の心を偽ってはいない。レイは耐えようとするだろう、でも先程の教祖との性交で嫌と言うほど思い知らされたはずだ。

(無理よ。あんた、シンジ以外の男に犯されて感じちゃうような奴なんだから)

 自分から求めるように男にしがみついて! 受け入れて! シンジ以外は眼中にないとか、彼のためなら死ねるとか言っておきながら!
 シンジのことを愛するどころか、名前を呟くことだっておこがましい。

 もはや真実などどうでも良かった。

(犯されればいいのよ。シンジを裏切ったあんたには、それが、お似合いなのよ。そして、そのみっともないところを、細大漏らさずに見て上げるわ…。シンジに、聞かせて上げる。嫌われちゃえば、避けられちゃえばいいのよ)











『ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ』

 涎まみれの舌をこぼし、尻尾まで振りながら獣はレイの細く引き締まった腹にしがみつく。

「ううん…」

 顔を伏せてレイは呻く。今夜こうして絶望するのは何度目だろう。もう既に犯され、射精されて今更だという気持ちもあるのに、周囲から突き刺さる視線を意識してしまう。こんなにも、痛みを覚えるほどに視線にもどかしさを覚えるなんて…。怪物、狂人、教祖、犬、そして…アスカ。アスカの視線を感じる。じっと見ている。その瞬間を見て欲しくない、とレイは思う。見られたくない。羞恥の感情を今ハッキリと自覚した。

(これが、羞恥…恥ずかしいという心。私、泣いてる…)

「…見ないで」

 小さく、蚊の鳴くような声を漏らすだけで精一杯。
 アスカは瞬きを忘れた目で食い入るように見つめた。レイの気持ちは痛いほどよくわかる。だけれども、アスカは顔を背けることが出来なかった。レイの痴態は淫らであるが故に美しい。

『こふっ、ふっ、ふっ』
「ああ…」

 獣の腰の動きが止まり、レイの体がひくりと震えたことで、獣が狙いを定めたことがわかる。
 テレビのブラウン管には充血し、赤く染まってもどこか控えめな無毛の恥帯に、紫色に充血した肉の塊が押しつけられている光景が映し出されている。犬のペニスは人とは大きく形状が違う。だが獣のそれは一面にケロイドのようなひきつれがあって、明らかになにかの病気に罹っていることを伺わせる。
 梅毒、エイズ、疥癬、淋病など詳細はわからないが禍々しいイメージがアスカの脳裏に浮かぶ。

(レイにも罹るの…かしら?)

 暗い期待に心が躍る。








 ズブ………


「ん、んんっ……!」

 人間とはまるで異なる形状のペニスの先端が、ズブズブと音を立ててレイの中に挿入された。人間のそれと比べてもかなり大きな大型犬のペニスはレイのサイズにはかなりきついが、それでも十分に濡れていたレイはそれを受け入れていく。

(ああ、なぜ…私の、体は…)

 心の中の嫌悪と屈辱とは裏腹に、ゾクゾクと背筋に痺れたような震えが走る。襞を巻き込みながら進入する圧力を感じた瞬間、快感とは違うが、紛れもない熱がじわりと膣内に広がった。薄れかけていた熱が体全体を火照らせていく。

「うう…………っ。い、や…なのに。ああ。いかり…くん」

 レイのだらしなく開いた口元から涎が伝い、小刻みに体を震わせる。ずしりとのしかかる獣の重さに抗うように腰を左右に振るが、がっしりと前足で腹を掴む獣は決してレイを逃さない。

「ふぅ、んん…。はぁぁ、あぁぁぁ」

 レイの呻きにシンクロさせるようにぐっとつま先立つように ―― 踵なんてないが ―― 獣は腰の位置を高くした。角度がきつくなり、更に深くペニスが挿入される。
 瞬間、レイは顔を伏せる。

 じゅぶっ

「はっ…! くぅぅんっ」

 顔を伏せた次の瞬間、大きく胸を誇示するかのように背筋を仰け反らせる。
 世界が逆さになったような刺激にレイは呻き声を上げる。彼女としては「やめて」とか拒絶の言葉を口にしたつもりだったが、嫌悪と吐き気から来る震えが意味を持った言葉を出すことを許さない。

「はぅ、んっ、あっ、あああぁぁぁ。うご…ぐっ。おぅ、くっ」

 先端部のみを挿入した状態のまま、激しく獣は腰を前後させていく。リズミカルとか高速などといった言葉では収まらない、がむしゃらな動き。三センチ間隔で腰を前後させ、入り口部分を徹底的にえぐり、穿ち、ほじり出す。

『はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ』
「んっ………んっ………んっ………んっ………んんんっ」

 獣の喘ぎと押し殺すようなレイの呻き声がシンとした空間に響く。

 よほど具合が良いのかそれとも生物としての本能か、獣は大きく開いた口元から舌と一緒に泡だった涎を溢し、目を血走らせる。レイの背中に黄ばんだ涎が水滴を造り、同時にレイの内股には大量の粘液…レイの意に反して漏らした愛液と獣の先走りの精液が滝のように流れていた。ぽたぽたと緩く開いた太股の間に、水滴が幾つも滴り落ちる。

「あうっ。ううっ、早い…こわれ、る…。碇君、あ、すか…やまぎ、さん、きりしま、さん」

 探るように彷徨っていた手が、ぎゅっと台座にしつらえていたハンドルを掴んだ。自転車か何かからもぎ取った物の流用品らしいが、レイにとってはそのサビが浮いた薄汚い物と、心の中のシンジと友人だけがすがれる物だ。ぎゅぅ…と握りしめる手の筋が痛々しいほど引きつる。

「うううっ。うあぅ、ああぁぁぁ。はぁ、はぁ、はぁ、ああ…。うううぅ」











 アスカは息を呑む。

(なんて、なんて…………みっともないの)

 全身を色づかせて体をよじり、息を荒げて悶える親友のはずの美女の姿にアスカは状況も忘れた。みっともない、醜い裏切り者と心の中で毒づきながら、しかし飛び散る汗や滴る愛液、耳をくすぐる喘ぎ声に美を感じた。三センチ間隔だった挿入のストロークが更に深く長くなるにつれてレイの体からますます力が抜けていく。

「ふう、うっ、うんんぅ。ぁぁ…いかり、くん。たす…」

(シンジの名前を呟くな!)

 罵りながらも目が離せない。テレビに映される一人と一匹の結合部のアップ。そこにうつるペニスの根本が膨らみ始めている。見ること自体は初めてだが知識としては知っている。

(あれって、確か…交尾の時に抜けなくするための奴)

 いよいよなんだ。
 ゴクリ、と喉の奥に唾をのみこむ。











「あ、ああっ。そ、んなっ。き、きつい…の」

 押しつけられる異物感にレイは戸惑った声を上げた。ここ数分間で初めての意味を持った言葉だ。いやいやと首を振り、必死になって逃れようとするレイだったが、惚けたように見ていた教祖が耳元に口を近づけて囁く。

「ほら力を抜け、口から息を深く吐き出すんだ。でないと入る物も入らないぞ」
「な、んで…こんな」
「友達が大切なのだろう? それに、ここまで犯されてるんだ。瘤を入れられるくらい構わないだろう」
「ん、んんっ。いや、入れないで」

 じゃらりと、覆い被さる獣とおそろいの首輪に結びつけられた鎖がならされる。音を立てて心が凍り付いた。

(………そう、なのね)

 囚われの身。

 逃れられない。

「う、ううう、うう…。いかり、くん…。ごめん、なさい。はっ、はぁ、はぁぁぁぁぁぁ」

 長く尾を引く息を吐き出す。それでなくとも細いレイの腹が背中にくっつくくらいに空気を絞り出し、朧に感じるくらいに下半身から力を抜く。
 押しつけられていた瘤が、滑るように潜り込む。

『ばるっ、ふっ、ばうっ』
「はっ、んんんっ!」

 吠え声と呻き声をバックに、強引に花弁を押し開きながらまだ小さな瘤が膣口に挿入された。端が切れそうなほど大きく開いた淫唇は、瘤をのみこむと同時に溜息をつくようにきゅっっと縮まった。

「あう、うっ、うううぅぅぅ!」

 膣口を内側から一杯に押し開く、瘤の圧力とゴリゴリとした感触にレイは押し殺した呻きを漏らして全身を痙攣させる。膣口周辺の性感帯を全て刺激されているということもあるが、それ以上に太さと熱さに痛みすら覚える。大きく背筋が反り、緊張で腹部がガチガチに強ばる。

「うううっ、ううううっ、うううう〜〜〜〜〜〜っ」

 痛みに泣く子供のような呻き声。レイの全身からどっと汗が流れた。体は熱を帯びて赤くなったところと、苦痛から来る冷や汗と鳥肌で青白くなったところとがある。その青白くなったところである、鳥肌の立った背中に再びクリームを垂らしながら教祖は再び囁く。

「痛いか、イバ」

 返事もしないままレイは肯定するように首を縦に振る。ほくそ笑むと教祖は口元を歪めた。

「みんなそう言う。だがな、すぐに良くなるぞ…」
「うっ…。うっ…。ううっ、そんな、こと…。
 んふぁぁっ!?」

 突然、それまでの苦痛の呻きとはまるで違う小娘のような声をレイは上げる。そろりと膣の最奥を舌先でなぞられたような感触に驚いてしまったのだ。

(な、今の…は、なんなの?)

 ゾクン、ゾクンと火傷のような疼痛が体の奥からわき上がってくる。いや、これは痛みと言うより快感の疼きだ。
 根本にある瘤まで挿入されたことでこれ以上のピストン運動は出来ない。瘤は更に苦痛を感じるほど中で肥大化しているため、無理に動けばレイは文字通り身を裂く痛みに苦しむことになるはず。それなのに、今感じたのは…。

(どういう、ことなの?)

「ふふふ、戸惑っているようだな」

 教祖はレイの頤をつかむと、身をかがめてその唇を奪う。ちゅばちゅばと音を立てて無抵抗のレイの唇をたっぷりと堪能すると、教祖は殊更ゆっくりと囁いた。

「外から見ることは出来ないが、ヒニダの魔羅は瘤を入れても縦横無尽に中で動くんだそうだ」
「な、にを…」
「よっぽど良いらしい。どんなに嫌がった女でも、最後にはみんな終わるのを未練がましく思うほど、淫乱によがり狂うようになったぞ」
「そんなこと、ないわ。ありえない…もの」

 おまえもきっとそうなる。

「うそ、待って! あ、あはぁぁぁ――――っ」

 なにか言いかけたレイだったが、その言葉はレイの口から漏れることはなかった。
 ぬるりと生暖かい大量の粘液の感触が膣内に広がる。精液を出された、そうレイが自覚する間もなく、それは突然蠢動を開始した。

「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、ああ――――っ!」

 精液の海を泳ぐようになにか細かいものが無数に蠢いている。大量のウジ虫が膣内にぎゅうぎゅうに押し込まれ、そしてもぞもぞと動いている。フラッシュと共にそんなイメージがレイの脳裏によぎる。

「おうっ、うっ、ううあっ。わたしが、こんな、ことっ」

 そしてウジ虫の中で恐ろしいほどの自己主張をする極太のペニス。それが、あり得ないことにレイの膣内を前後している。

「な、中で…。こんな、けずられ、てるっ。ああ、や、んん――――っ!」

 またゴブリと音を立てて精液が噴き出てくる。お腹がふくらむ。膣内だけにいられなくなった精液は他に逃れようとするが、出口は塞がれてるため子宮の奥に流れ込んでいく。熱い物がどんどん奥に流れてくる、生命を植え付ける病んだ、間違った生き物の精液が…。

「やめ、てぇぇぇ…」

 それは初めてだったかもしれない。レイの感情を剥き出しにしたような拒絶の叫び。
 そう、確かに恐ろしいとレイは思った。
 かつての自分がゲンドウに捨てられるかも知れないと思った時、使徒と戦い、特にアルミサエルとの戦いでも感じたことのない恐怖にレイは駆られていた。

「う、うう、そんな、こんなの!」

 気持ちが良いと感じ始めている。全身が震え、膣が喜びに震え始めている。教祖の言葉通り、胎内をえぐる獣のペニスを気持ちが良いと思い始めている。

「あああ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、あ、あああぁぁ。だ、め、だから。はぅ、うく、碇君、助け…てぇ。私が、私じゃ、無くなって、いくぅ」

 心より先に、体が先に順応していく。きついだけだったはずの獣のペニスをしっとりと濡れた膣は受け入れてしまっている。膣全体が、レイの体全体が受け入れるようにペニスを締め付けてる。締め付けると、ペニスの感触をより強く感じられて、ますます気持ちが良くなっていく。

「はひぃ、くっ、ひっ、いかりくん、いかりくん、ああ、いかりくん。いかり……くん」

 溶けていく。膣全体が疼いて痺れて血液が沸騰していくみたいで。
 視界が、赤く染まっていく。

(まるで赤い海――――)

 赤い海、LCLの向こうに見えるシンジの顔がぼやけていく。

「はぁ、はぁ、あああっ。やめ、てっ。うう、いかり、くん。こんなとき、わたし、どうすれ…ば、良いの?
 熱いの、熱いの…。んんん〜〜〜〜っ」

 気が狂ったように獣はレイの背中を舐め、時に肩に歯形が残るくらい強く噛みついてくる。だが、それすらも感覚の嵐で混乱したレイは気持ちが良いと感じてしまう。レイの白い腹が波打ち、太股がブルブルと震え始めた。喘ぎに混じる蜂蜜のように甘い息…。

「ああ、ああ、やめて、どうして、こんな、いかりくん、いかりくん、いかりくん! ああ、いかりく…んんっ」

 普段は猫のように吊り上がってるレイの目が、今は悲しみと官能に彩られ、快楽に染まって垂れ下がる。意識しても止められない、疼きが全身を貫く。

「あああ、ううううあああああっ」

 ぎゅう…っと強く膣がペニスを締め付ける。ゴボゴボと大量にたまった精液が音を立て、また既にゼリーのように固まり始めた一部の精液がぐちゅぐちゅとかき回される。

『おう、おう、あおおオオオオオン』
「んぁっ、んぁっ、ふぁああああっ!」

 獣のペニスが膨れあがり、ペニスのでき物の凹凸がわかるほど敏感になったレイの膣は唐突に収縮を始める。

「っ、ああっ、碇君、いかり…くっ! ああああぁぁ――――っ!!」

 精液が爆発したように吹き出し、同時にレイの意識は真っ白な光で一杯になった。気持ちが良い。気持ちが良い。自分が溶けていく、自分が自分でなくなっていく。ふわふわと浮いているように持ち上がっていく――――。

(いかり、くん)

 ガクガクブルブルと震えていたレイの体が、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。獣は意識のなくなったレイの体を押さえつけたまま、先程よりは勢いが弱まっているが今も執拗に体を揺すっていた。











(あんた犬相手に! 汚らわしい雌犬って、自分で証明するだなんて!)

 尻と尻を向かい合わせるいわゆる尾結合状態になりながらも、意識のなくなったレイを相手に、獣は今も交尾を続けている。その姿にアスカは唇を舐めながら、そろそろと鎖の輪から手を抜きだしていた。
 戦いの中で身につけた勘が告げている。
 レイが意識を無くした今、次の標的が自分になるだろう事を。

(冗談じゃない)

 逃げようと思えばいつでも逃げられた。一応、友達として彼女の運命を見届けないといけないと思ったから、放ってはおけないから逃げなかったけれど。でも、レイの望みは自分が犠牲になってでもアスカ達を逃がすことだった。逃げられたのに逃げなくて、レイと同じ運命を辿るなんて、それはレイの望むことではないだろう。
 もっと早くに逃げていれば、レイへの凌辱が止まったかも知れない。そう思ったけれど…。

(悪いけど…逃げるから。でも、絶対に、助けを連れてくる)

 だから、今はいったんこの場を離れる。
 レイの痴態に目がいっていた怪物や狂人、教祖達はアスカがいつの間にか磔の柱から降りていることに気づかない。

 気づいた時には…。
















『!! あの女はどこだ!? 探せ、捕まえろ!』


 背後からの罵声とキーキーとわめく鳴き声を尻目に、アスカは闇の中をひた走った。とにかく、この場を逃れるために…。しかし、ぽっかりと開いた闇の開口部をくぐり胎洞のような通路がどこに通じているのか、アスカは知らない。

「ちくしょう、一体どこを行けば…!」


 その時、アスカのみ身に何か…人の声のような物が聞こえた。泣いているような、怒っているような甲高い女性の声。


(こっち…から、誰かの声が)









初出2005/12/03

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