深宴

第2話



著者.ナーグル














 どうして自分なの? と涙で濡れる眼で絶望的な状況を見やる。

「はぅ、ううぅぅ」

 手首が折れそうなくらい強い力で握りしめられ、苦痛にマナは呻いた。そのまま無理矢理、万歳をするように頭上に掲げられる。座り込むことで抵抗しているため、肩に掛かる痛みは相当な物だが、しかし無防備に胴体を、胸…つまりは心臓をを怪物達の前に晒すことに比べればマシだ。

「やっ、だっ!」

 しかし、白子の怪物は恐ろしい力で吊り上げると、その華奢な両手首を吊革の輪の間に通した。幾ら女性の手とはいえ、そのままでは手が通ったりはしない。だから彼(限定的に彼と呼称する)は無造作に手を握り込んだ。

「おっ、がぁぁぁぁっ!」

 骨が擦れあう鈍い感触と息がつまる苦痛に、マナは声にならない悲鳴を上げて悶えた。
 マナの苦痛を楽しむように、ゴリゴリと、手の平の中で執拗にマナの手を転がした。血走った目でマナは呻く。あまりの痛みに涙が溢れでた。後悔が涙と共にどんどんわき上がる。こんなことなら、意識を失ったままでいれば良かった。少年兵時代の負傷を治療する過程で、多くの麻酔薬を服用していたのだが、その所為で彼らが使った薬から物の数秒で覚醒してしまうだなんて。
 覚醒したなら覚醒したで、大人しく寝たふりをしていればこんな痛い思いはしなかったはず。

 でも仕方がない。

 肩に担がれたところで目を覚まして、アスカ達が同様に連れ去られようとしているのを目にした瞬間、後先考えずに、真横を歩いていた怪物の頭を全力で蹴り飛ばしていた。
 不意をつかれてまともにバランスを崩した彼は、首をあり得ない角度で曲げて、その場に昏倒した。いや、死んだ。少なくとも、致命傷を負った。
 ツンと鼻を刺す刺激臭がする。臭いの元は男の腰の辺りにできた水たまりだ。筋肉が緩み糞尿の類がこぼれだしたのだが、目に滲むような刺激臭は多量のアンモニアが混ざっているからだろう。耳から血を流し、死にきれずに手足の先端を小刻みに痙攣させている。

 ふと異臭を感じて顔を上げると、レイの紅玉のようなそれとは違う、濁った血の塊のような瞬きもしない赤い瞳が覗き込んでいるのと視線があった。ちょっと首を動かせば肌が触れあうほどの至近距離からの視線に、マナは暴れることも忘れて凍り付いた。

「はぁ、あっ」

 ぞくぞくと背筋が震え、ガリガリガタガタと不愉快な不協和音の耳鳴りがする。

 彼らが仲間を失ったことで怒ったことは間違いあるまい。
 ちらり、とマナは視線を動かして背後でのたうつ肉塊に目を向ける。

「あーあーあーあーあああ。だじゅげ、で。や、だ。じにだぐ、にゃ、じにだぐなー」

 死にきれず、皮を剥かれて筋肉や血管を剥き出しにした酔っぱらいの男が呻いていた。舌をむしられ、まともに喋ることも出来ずに。彼の周囲には怪物達が数人、衣服を真っ赤に染めた姿で座り込み、殊更嬲るようにゆっくり男の肌に指を沿わせている。傷口に指を差し込んでぐぢぐぢとかきまぜる。そして飴を舐めるようにチュパチュパと音を立てて指をしゃぶった。他の一人がまだ皮膚が残っているところを抓ると、ミチミチと胸が悪くなる音を立てて皮膚と、その下の脂肪をむしり取られる。皮膚と脂肪の切れ端を、ガムでもしゃぶるみたいに口元に運ぶ。

 ちゅぱちゅぱ、くちゃくちゃ、じゅぷじゅぷ

 男はゴボゴボとうがいをしてるような悲鳴を上げて、無くなった手足を振り回して男が暴れた。端から見たら、芋虫が這ってるよりも意味がない行動だ。
 時折、怪物は接吻するように男の口元に舌を這わせる。ナメクジのように長くて黄土色をした舌が縦横無尽に蠢く。じゅるじゅると言う音を立てて男が窒息しないように、自らの喉の渇きを癒すために血を啜った。

「む゛あ゛――――っ!」

 遂に男は頭を電車の床に打ち付けるようにして暴れた。彼の目の前で、千切られた腕をセロリでも囓る様に食している怪物の姿に、遂に正気を失ったのかも知れない。シャクシャクボリボリ。あるいは、苦痛に耐えかねて、死ぬことを願っての自傷行動かも知れない。ドンドンガンガン。

「ぶぶぶっ、ぶぶぅっ! うぎゃ――――っ! ぎゃあ、ぎゃあああああああっ!」

 喉奥の血を啜っていた怪物が、うるさい黙れと言うように血に染まった口で男の右目に口づけした。いや、違う。
 じゅるり、と音を立てて男の眼球が眼窩から吸い出されていた。











 もう見ていられない! 聞いていられない!
 神様、いるんならお慈悲を! あの人を、あの人に速やかな救いを与えて下さい!

「助けて、助けて助けて!」

 血が凍り付く恐怖と生理的な嫌悪に身を震わせてマナは泣きじゃくった。名も知らない男のために涙を流し、しゃくりあげながらマナは祈った。なにより、自分とアスカ達の救いが来ることを願った。
 この怪物達は文字通り血も涙もない。そしてその一体を、偶然とはいえ蹴り殺してしまった。どんな恐ろしい行為で彼らは仕返しをするのか。

「イヤぁ、いや、いやっ。あんな風に、あんな風にされるのは、私、やだよ…! 助けて、シンジ、シンジぃ!」

 死にたくない、あんな風に苦しみ抜いて死にたくない。と呟き続けるマナ。
 当面彼女の願いは叶えられる。彼らはたとえ仲間の一人を殺したのだとしても、彼女を殺すつもりはさらさら無かったのだ。しかしながら彼らの復讐は、実に陰惨な形でマナに帰ってくることになった。

 みゃあみゃあ、ぴちゃくちゃとワケのわからない猫のような言葉で囁きあっていた彼らはどこかに連れて行く前に、

「ふぐ、くっ、ううぅぅ。やめて、怖いからお願いだから」

 食欲は男で、性欲はマナで。
 まずはこの場で満たすことにしたのだから。











「う、うう、死にたく、ない…」

 抵抗虚しく、両手首を吊り輪に通した姿でマナは拘束される。
 ゆるく肩を包んでいた薄墨のジョーゼットのショールはむしり取られて床に落ちる。まるで、儚く散る彼女を哀れむ椿の花弁が散るように。
 こんなことになるなんて…。
 無防備な肩や鎖骨をさらされてしまい、さらにはカットドレスの胸元をふんわりと盛り上げる隆起まで無造作に見つめられて、悔しさと羞恥でマナは顔を赤く染める。

 マユミや、レイ、ヒカリのように一言で言えば巨乳に分類される友人達ほどの大きさはないが、健康的で張りのある胸は男の欲情を誘うに十分だ。怪物達の一体が、血に染まった腕を無造作に胸に伸ばす。布越しに触れてくる感触にマナは背筋を凍らせた。

「ひっ…や、や、さわら、ないでよ」

 ベタベタと赤く染まった手が胸を撫で回していく。夜藍色をしたドレスが毒蛇みたいなまだらに染まっていく。愛しい男に見せようと、彼女らしいセンスで選んだ快活な衣服が、ただの一度も彼の目にとまることなく汚されていく。

「ひどい、ひどい…。さわらないで、汚さないで…。ああっ」

 腰に巻いたサテンのベルトが千切られるようにほどかれる。胸襟の隙間に指を差し入れ、一気に左右に押し開かれた瞬間、マナは顔を背けて呻いた。服が破かれ繊維が悲鳴を上げる。ボタンははじけ飛び、白く飾り気のないブラが露わにされる。拘束がゆるめられた瞬間、「ああ」と呻きながら涙を流した。

「ああ、う、だめ、ダメ、ダメ、なのよ。シンジ助けて…」

 背後から手が回されてくる。別の一体が、後ろから抱きすくめるようにして胸を触り始めた。

「はぁ、ううぅ。し、死にたくないよぉ。食べられたく、ない」

 ざらざらした瘡蓋のような手の平と枯れ枝のような指が、似つかわぬ優しさで隆起を愛撫してくる。背筋がぞっとした。まるで悪い夢の中にいるような非現実的な感覚。

(早く覚めて、早く! 悪い夢は早く消えてっ!)

 ジタバタと暴れる。意志がどうとかそう言った問題ではなく、反射的な行動だ。たとえその所為で1秒後に死ぬのだとしても、これ以上良いように弄ばれるなんて耐えられなかった。

「ああああああぁぁぁっ!」

 きつく抱きしめられ、マナは思わず悲鳴を上げた。痛かったわけではないが、背中に触れる怪物の肌の感触に生理的嫌悪を剥き出しにして声を出すしかないのだ。

「助けて、助けて…! 嫌だっ」

 下からすくい上げるように手の平全体で包み込み、ぐにぐにと感触を楽しむように揉みしだかれる。またとめどなく涙が溢れる。自分の胸が、こんなにも柔らかくて張りがあるんだと言うことを、こんな形で思い知らされるなんて。

「うっ、うっ、ううっ。やだよぉ、こんなのやだよぉ」

 恐ろしいほどの丁寧さと、愛情さえ感じさせるような執拗な愛撫は、徐々に、マナの体をほぐしていく。

「あ、あぁぁぁっ。はっ、はぅ。こんなの、嘘、よ」

 勿論、こんな状況下での愛撫なんて気持ちが良いと思うはずがない。マナは微塵も感じていない。だが、執拗な愛撫は快楽を感じさせなくとも、執拗に刺激を与え続けて熱を持たせ、その堅くなっていた体をほぐし、徐々にその指先を受け入れる下地を造っていく。指がシルクのブラごと稜線を歪めるたびに、ヒクリとマナの背筋が震えた。愛撫の途中、意図せず指がブラ越しに乳首を擦った瞬間息を呑む。

「はぅ……ああっ。はぁ、はっ、はぁ」

 暴れて息が上がり、空気を求めて忙しなく呼吸をしたことで体温が上がったことを、脳が感じていると誤解したのかも知れない。いや、きっとそうだ。だが、誤解であろうと上昇した体温は彼女の体を望まぬ方向に堕としていく。ただの息切れのはずの偽りの喘ぎに、不自然でない純粋な喘ぎが混じり始める。いつしか、マナは手首を捕らえる吊革を、ぎゅっと…縋り付くようにきつく握りしめていた。

「うぅ、あぅ。はっ、な、なんで、なんでなの…。違うもん、違う…もん。ううっ、はぁ、でも、なんで、こんなに、息が切れるの。感じたくないのに、嫌なのにっ!
 お願いだから、反応しないでっ」

 冷静に考えれば、それが快楽から来た喘ぎではないとわかるはずなのに、混乱しきった彼女はそれが快楽による物だという誤解を受け入れてしまう。頬はどこまでも赤く、吐く息は上気し、衣擦れの感触が痛いほど意識に突き刺さる。息をするのに支障を来すほど体温は上がり、滲んだ汗はレイヤーボブの髪を一面ぐっしょりと濡らすほどにあふれ出る。
 熱病にかかったように焦点が合わない潤んだ瞳が、ゆらゆらと水面の波紋のような困惑に揺れた。

「うう、うううっ。や、だ。もう。ふっ、うぐぅ」

 快楽による物なのか、そうでないのか。経験の少ないマナにはもうわからなかった。抵抗しなくなった揉みくちゃにされたブラはまくり上げられ、直に怪物の指がマナの乳房を這い回りだす。ざらざらした指は、通常の男との睦事とは全く違う刺激でマナの嫌悪を、あるいは官能をほじくり出していく。

「あっ、ああっ。はぁ、はぁ、んっ、はぁ。あはぁ、はっ、はぁ、んあ、あん、ふぁぁぁ」

 首筋、うなじ、胸元や鎖骨の窪みに汗が流れる。匂い立つようなマナの汗の匂いに怪物達も興奮したのか、2人同時にマナの乳房を弄ぶ。2人同時という予想不可能な愛撫にマナは首を仰け反らせ、固く閉ざされた瞼のまつげが切なく震わせた。

「んあああぁ、触らない、でっ。こんなの、き、気持ち悪い、よぉ。くぅ、気持ち、悪い、の。気持ちよく、なんてっ」

 マナの正面から愛撫に参加していた怪物の口から、蠕動する芋虫のような舌がまろび出てきた。

「ん!? あ、あああぁあぁぁ、あはぁぁぁぁぁっ」

 舌をのぞかせるように、濡れた唇を大きく開けて喘ぎ声を漏らす。砂糖菓子のような喘ぎ声は止まらず、ビクビクと痙攣するように震える首筋や胸元が、粘つく涎を擦り付けられながら舐めまわされていく。

「あああ、うあああぁぁぁ。き、気持ち、わういぃ」

 さらにビクン、ビクンとその度にマナの体が震え、乱暴にゆすられてギシギシと吊革が音を立てる。体重を支えるはずの足はほとんど萎え、彼女の体重がずしりと両腕にのし掛かる。

「うう、痛い、痛いよ。ああ、ダメ」

 それは腕の痛みによる泣き言だったのか、それとも心の痛みに対する泣き言なのか。怪物が指の間に挟んで転がしていたピンク色の乳首は痛いほどに硬くなっており、また同時に執拗に愛撫されたことで十分にほぐされていたが、鮫肌のような舌が絡みつき、次いでピラニアの歯を生やした口が大きく開き、口一杯に乳首ごと乳房をくわえ込んだ時、大きくマナの体は跳ね上がった。

「うああああああああああああっ!」

 喰われる!
 噛まれて、食いちぎられる!

 ちゅぱちゅぱと赤子のようにしゃぶられながら、マナは絶叫した。見開かれた目は血走り、ガタガタと車両が揺れるほど激しくマナは体を揺すった。

「イヤ、イヤイヤイヤ――――っ! 食べないちゃダメ、噛まないでぇ――――っ!」

 涙をぽたぽたこぼしながらマナは必死に哀願した。
 なにかが張り付き、吸い付かれる感触に胃が裏返りそうだ。

「ひぃぃ、ひぃぃ。はう、うぐうう。うっ、ううっ。だめ、ダメなのよぉ…」

 幸い、怪物にそうする気はなかったのか、さも美味そうにマナの乳首を堪能し続けていく。汗、肌の香、舌先に感じる産毛の感触、堅く凝った乳首からうっすらと感じる甘い味…。怪物の口腔内はただの粘膜ではなく、ひたすらに柔らかくて一面に小さな突起状の物があり、充分湿らせれば吸盤のように全体で張り付くのだ。
 そうと知らないマナは予想外の感触と、ときおりチクチクとした歯先が触れるたびにビクン、ビクンと体を震わせて泣き声をあげた。

「う、うううっ、いや、いや、食べちゃダメ…。すっちゃダメぇ…。あ、いたっ。ひっ…。ああ、美味しくなんか、ないんだから…。だめ、食べちゃ、やめてやめて…。怖い、怖いよ。ああ、シンジ、シンジぃ」

 いつの間にか、更に別の一体の怪物がマナの足下に屈み込んでいた。戸惑いながらもその気配を感じ、何をする気なのか…そう思ったマナだったが、あきらめ顔のままうなだれるだけでもう抵抗する気力はなかった。されるがままのマナの片足を掴んで開かせると、怪物は無理矢理スカートの隙間に顔を突っ込んだ。裾が山切りに裁断されたスタイリッシュなデザインのスカートだが、それはスリットが入っているのと同じ様な物で、故に容易に怪物の進入を許してしまう。

 ストッキングとショーツ越しに感じる怪物の息の熱さ。
 プチプチと音を立ててストッキングは引き裂かれ、ざらざらした舌がショーツを横にずらし、直に秘唇を愛し始めた。

「あ、はあぁん」

 思わずマナは熱い溜息を漏らした。
 勿論、感じたのではない。だが、彼女の知っている人間の舌とはまるで違うその感触にどうしても声が出る。覚悟をしていても、条件反射で体が反応してしまう。

「あ、あっ、うっ、ううっ」

 うっすらと濡れた恥毛を掻き分けながら舌が筋に沿って上下していく。ぴったりと貝のように閉じられた秘裂にそってゆっくり、ゆっくり。

「くぅぅ…。うっ、だ、めぇぇ。あっ」

 ブラッシングするように丹念に淫唇をなぞっていると、徐々に、マナの意志に反して蜜がにじみ出てくる。
 クチクチ、チュクチュクと唾液と愛液が混じった水音が車内に響く。

「ああああぁぁ」

 割れ目の中に舌先が潜り込んできた瞬間、腰を震わせてマナは戸惑ったような声を漏らした。戸惑いで何度も瞬きを繰り返し、何か言おうと数回口を開け、結局黙り込んだ。今感じたのは、間違いなく、快楽の疼きだった。そうと悟った瞬間、どっと冷たい汗が流れた。

「嘘、嘘。嘘…よ。そんなこと、あるわけ、ないもん。そ、そうでなきゃ、あ、あああっ。そこは、ち、違う」

 舌先が潜り込んだのは膣側でなく、少しずれた位置にある尿道口の方だ。もちろん、幾ら細いと言っても奥まで舌先が入るほどの余裕なんてない。だが、紛れもない性感帯だ。

「ふぁ、あっ、だ、ああっ。ぬ、抜いて、お願い! やだ、だめ、ダメダメぇ!
 あ、ああああっ」

 ずるりと舌が位置を変え、今度は正しい方向、つまりは膣の奥へと潜り込んでいく。まだあまり濡れていない膣の中を、蛇のそれでなく、ミミズが進むように前後に蠕動を繰り返しながら。表面にびっしりと細かい毛でも生えているんじゃないか、そう思うような感触が体内に侵入してくる。それはマナに人間との性行為では決して味わえない予想外の快楽をもたらしていた。

「はぐっ、あぐっ、はっ、はぁ…。お腹の、中に、ああ、あはぁぁぁ。な、なに、これ」

 すっかり腰砕けになったマナの体は抱え上げられ、2人の怪物に両方乳首を舌で可愛がられ、ちゅぱちゅぱとしゃぶられていた。

「んっ、んっ、んんっ。うう、うふぅ」

 赤ちゃんに母乳をあげる母親は、こんな感じなのだろうか。場違いなことにそんなことを考える。すでにマナはまともに物を考えることが出来なかった。胸全体が性の坩堝になったような刺激が全身を走り、股間は疼き、下半身全体が融けて崩れていく。

「はぅ、うっ、ううっ。気持ち、良いのか悪いのか、ああ、わかんないよ。なんで、どうして、こんな、こんな」

 なんで胸を触ってくるのか、なぜ秘所を愛撫するのか…。はたとマナは思い至った。彼らがしているのは、単に射精を行うことを目的とした凌辱ではない。マナを追いつめるような、官能地獄に落とし込むことを目的とした凌辱だと言うことを…。

「ま、まさか、そん、な。はっ!?」

 気がついた時、正面から腰を抱え上げられていた。そして両足は膝裏を相手の肩に乗せるようにして、大きく割り広げられていて、剥き出しになった秘所が怪物の眼前にさらけ出されていた。大きく体を屈曲させた怪物ならではのスタイル、と言えるかも知れない。

「う、あ、いやぁっ! イヤぁぁぁぁ!」

 たっぷりと嬲られ、湯気さえ立てている淫唇に怪物の肉棒が押しつけられていた。
 以前、みんなでヒカリの家に遊びに行った時、彼女の飼い犬がマユミに懐いてその腕にしがみつき、やたらと腰を振って彼女を困惑させていたことがあった。とどのつまり、発情期になっても相手がいなくて欲求不満になった犬の代償行為であったわけだが、その時見た、奇妙に細くて真っ直ぐな犬のペニスに似ている、そう思った。

 それが自分の肉の中に埋没しようとしている。
 人以外の生き物に、犯されようとしている。

 違う、とマナは思った。吐き気を催すこれは人間に言うみたいに肉棒とか、一物などといった物ではない。動物的な、ペニスという以外にあり得ない物だった。長さは15センチをやや超えるほどだが、太さは1センチ少々しかない。これなら、濡れ方が足りなくとも容易にマナの中に入り込むだろう。

「ああ、ああああああっ、だ、め、はなし、てぇ!」

 それは根本から先端までほぼ同じ太さで全てが性感帯である粘膜に覆われており、わずかに先端部分がサラミソーセージみたいにゴツゴツとしている。その中心から、そこだけ柔らかいふやけた細麺のような長さ3センチほどの突起物が飛び出ていた。
 普通なら、ただ粘膜の色そのままにピンク色をしているのだろう。だが様々な感染症や皮膚病、あるいは得体の知れない性病にでもかかっているのか、まだらになっているペニスの至る箇所に口内炎のような吹き出物、陥没、それが治って肉腫のように盛り上がった物、さらに治りきってない物、化膿して膿を出している物など、目を覆わんばかりの有様だ。

「そんな、そんな!」

 ぞっと背筋が凍り付く。ただ犯されるだけでも耐えられないのに、こんな汚染された物でだなんて。あまりの嫌悪に喉元にせり上がった嘔吐感が限界を超えた。途端に、忘れかけていた車内に充満する垢の臭いと血の臭いが鼻孔を刺激した。

「……………はう、うっ。うげぇぇぇぇっ、げぇっ、うぷ、うげぇ、げぇ」

 せめてもの抵抗とばかりに、怪物の顔にはきかける。
 だが、犬なら逃げもしただろうが、怪物は逆に、美味そうに顔にかかった吐瀉物を舐め取り、笑うように大きく口を開けた。血まみれの口の中には、まだ食べかけの、酔っぱらいの男性の肉片と、眼筋がついたまま虚ろに見返す眼球があった。

「ひぃぃぃぃぃぃっ! はぶぅっ!? うぶぶうぅぅ!」

 悲鳴は怪物の口で塞がれる。舌と舌が絡まる。全て吸い込まれていくような感触、怪物の唾液の苦み、塩辛い犠牲者の血肉の味、押し込まれるピンポン球…。

「うあぅ! あう! あう! うあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 荒々しく首を振って怪物から顔を背けると、吐瀉物ごと何もかもをマナは吐き出す。それこそパーティで食べた物も、吸った空気も、自らの血肉も、魂さえも。
 ギイッ、ギイッと大きな音を立てて吊革が軋んだ。手首は赤く、所々に血が滲む。それでもマナは体全体を揺さぶって暴れた。人の肉を口にした事実にマナの心は砕ける寸前だった。

「ぷあっ、はっ、やだ、もう、やだっ、ああっ!?」

 ぐぅ…と腰が押しつけられる。

「や、ちょっと、待って、まだ、心の、準備がっ」

 言いかけた言葉は断ち切られた。
 内臓を掻き分けてくる圧迫感に、前屈姿勢を強いられていたマナの背中が、火で炙られたように逆に反り返った。

「はっ、あ、ああぁぁぁぁぁ。は、はいって、あ、あん、ああああぁぁぁぁ」

 拒絶の言葉は途中で意味を成さなくなった。焼け付くように熱く、固く、ヌルヌルとしたペニスがじゅるじゅると挿入されていく。あまり濡れていなくとも、十分に自らの分泌物…カウパー氏腺液や膿、先走りの精液など…でコーティングされ、細いペニスは容易にマナを蹂躙していく。

「あああぁぁぁ、あっ、あっ、来る、なか、あぁぁ〜〜〜」

 割り開かれた淫唇は、待ちこがれたご馳走を呑み込んでいく。

「そんな、そんな、ゆ、っくり…! うう、うそぉ、よぉ」

 ああ、と悩ましい吐息と共に首を振る。湿った髪が振り乱され、汗の滴をまき散らす。顔を背けたのは、せめて、犯されている自分を見ていたくないという彼女の抵抗だったのかも知れない。
 しかし…。

「あ、うっ、うっ、うっ、ううっ、はぁっ。うっ、痛っ、痛っ、あっ、んぁっ」

 怪物の動きはあまりにもゆっくりだった。
 どんなに嫌でも、目で見ていなくてもその動きを意識しないわけにはいかない。ゆっくり、ゆっくりと膣奥をつき、引き戻していく。

 ぬちゅ…ぬちゅ…ぬちゅ…ぬちゅ…。

「あうぅぅぅぅ、うぅぅぅぅ。や、だぁ、よぉぉ。そんな、の、ああぁぁ。だめ、だよぉ。か、感じたくないよぉ」

 怪物が腰を動かすたびに走る、冷めたヤスリが潜り込む痛み。それが徐々に、薄らいでいく。5回に一度、苦痛ではなく、腰がひくりと跳ね上がる甘やかな刺激。

「ふぅ、んん、あああぁぁぁ〜〜〜〜っ。だ、くぁぁぁっ。し、死にたい…」

 慣れていっている、順応していっている。徐々に痛みや嫌悪より、快楽が勝っていく。それがたまらなく恐ろしく、呪わしい。
 なんで人間の体は、環境に、適応してしまうのだろう。直にこの体は、この苦痛を苦痛と思わなくなってしまう。

「はぁ、あぁぁぁ〜〜〜〜〜」

 折れそうなほどに首を仰け反らせたマナの唇の端から、涎が粘つく糸を引いて滴り落ちた。
 全身を快楽に染め上げ、細かな官能の痙攣に支配されたマナは、誰が見ても、快楽に支配されていると言うだろう。細いが固く長く逞しい異種の生殖器を嬉々として受け入れ、無意識のうちに苦痛を避けるように、つまりはより貪欲に快楽を求めるように怪物に腰を押しつけ、左右に振り始めていた。

「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あはぁぁぁっ。んあ、あっ、ゴリゴリって、ゴリゴリって、擦られて、る、よぉ」

 ゆっくりと引いたペニスの先端が膣壁の一部を擦りあげる。

「あふっ、あはぁぁぁぁぁ」

 そこがマナのツボだったのか、これまでにない甘い喘ぎを出して体を震わせた。感電したようにビクン、ビクンと大きく体を震わせて、汗の滴を幾つも溢した。流れている涙は間違いなく嫌悪と恐怖によるもの、だけど、それがほんのわずかでも快楽による物ではないと言い切れるだろうか。

「あうんっ、うん、ううっ。あ、やぁ、だぁ…。感じ、たく、ないのに。嫌なのに、ううう、気持ちよく、しない、でぇ…よ」

 この怪物は焦れると言ったことがないのか。逆にマナの体の方が耐えきれなくなったのか、いやいやとマナは首を振りだす。相変わらず、気が狂いそうなほどにゆっくりとした動きだが、それ故に嫌と言うほどその存在を感じさせる凌辱。

「はぁ、あぁ、ううん、あぅ、やめて、やめ…て。いやいや、いやぁぁ。あ!?
 ああ、なに、なによなんなの」

 膣内でペニスが大きく膨れだすのを感じる。
 射精、出す、出される。膣内、子宮の奥、精液、受精、妊娠―――!?

「あああ、ああっ! あおおおおっ、あおおぁぁ――――っ!!」

 獣のような呻き声を漏らしてマナは体を痙攣させた。
 膣内で爆ぜるように精液が吹き出したのを感じ取った瞬間、マナの体が硬直し、線が切れたように瞳から光が消えていく。奇妙に水っぽく、さらさらしているが熱い。膣壁を叩き、子宮にまで流れ込んでいった。そして熱い精液はこれ以上ないくらいたっぷりと、まるで犬の交尾みたいに大量に注がれて、ついには結合部から溢れて滴り落ちた。
 ぶるっと濡れた犬のように身震いした。

「いって、ないもん」

 確かに、絶頂は迎えていない。だが言い訳するようにマナは呟いた。そうしないと、心が折れてしまいそう。

 ぐちゅっ。

「ひゃ、ひゃうん。いやぁあぅんっ」

 唐突に膣の壁を固いペニスで擦りつけられ、性感の中心を刺激されて可愛らしい悲鳴を上げてしまう…。射精ペニスを抜きもせず、再び怪物は凌辱を開始したのだ。
 ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、と犬のように呻き、先程よりほんのちょっとだけ速い動きで怪物は腰を動かした。

「だめ、だめ、ああ、今度されたら、わたし、ああ、わたし、こんな動物レイプでいかされちゃう…!」

 ちゅぷ、じゅぷ、ずちゅ。たっぷりと濡れほぐれた膣はイヤらしい音と共にペニスを受け入れる。今のマナはもう少しも痛みを感じない。ただ、最後まで甘えることが出来なかった父のような存在感を腹中に感じ、メトロノームのような正確さでペニスが前後するたびに意識せぬまま甘い喘ぎを漏らすのだった。

「ゆるし、て、よぉ。やだ、もう、やだ、いやだよ」

 ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ。

 もう精液だけじゃない。
 色々な物が自分の中から出てきてる。自分も愛液を出している。中途半端に高ぶっていた体は、中途半端に一時停止されたことで余計に怪物の凌辱に反応してしまっている。こんなにイヤなのに。わかっているけど、体の高ぶりは止まらない。

「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、ああっ。もう、死んじゃ、うよ」

 マナの喉の筋が引きつり。大きく首が仰け反る。

「あうっ、あうあうっ。ああう、あっ、ああぁぁ〜〜〜〜〜っ」

 指ほどの太さのはずのペニスが大木のような大きさで犯してくる。喉から、突き出る。怪物のペニスで支配されてしまう。
 雌に、堕ちちゃう。
 大きく体が波打った。

「い、イくっ。ひぃっ、いうっ、い、いぃっ。いっ、いっ、いっ、い、イヤ!

 瞼の奥で光が瞬いた。











「あ、あああぁぁ」

 どれくらい時間が経ったのだろう。既に時間の感覚がない。なんどもなんども、気が狂いそうなほどゆっくり、弱いところを重点的に擦られ、舐められ、えぐられて。途切れ途切れに呻くマナの中から、ゆっくりと怪物はペニスを引き抜いていく。
 当人はもっと堪能していたかったようだが、他の仲間にせっつかれてイヤイヤ…だったが。
 血、膿、精液が混じった粘液がこびりつくペニスとぱっくりと開いたマナの秘所の様子に、満足そうに怪物は頷いた。よほど具合が良かったのか、口元には笑みさえ浮かんでいる。

「もう、や、だ…よ」

 ぐったりとしていたマナは戸惑いに目を見開いた。再び、大きく足を広げられるのを感じる。また犯されるのか…。そう思ったマナは諦めの混じった視線を向け、そして予想以上の運命に魂が凍るほどの衝撃を受けることになる。

「だめ、それは、だめ、ダメよ。お願い、やめて、やめて」

 ヒクヒクと痙攣する、文字通りの血ダルマになった男…もはやそれを人間と呼ぶことに抵抗があるが…が怪物の腕に抱えられていた。目も鼻も耳も手も足も、下あご、全身の皮膚をむしり取られ、ピンクの筋肉に薄黄色い脂肪がその表面を覆い、青と赤の血管が網の目のように走っている。これこそまさに生きた人体標本だ。
 ショック死しようにも裂いた脇腹から射し込まれた怪物の腕が直に心臓マッサージをすることで、死ぬことも出来ない哀れなトルソ。巧妙に大きな血管は傷つけず、傷つけたとしても上から粘土のような青黒い泥を擦り付けられていて出血多量で死ぬことも出来ない。
 ただ、死を間近に感じ、生存本能よりも子孫を残すことを優先して過剰に暴走した性欲により隆々とそそり立った肉棒だけが全てだった。

 「それに」、私を、犯させる?

「いぎゃぁぁぁぁ! やだ、ああああ! やめて、やめさせて! やだよ、こんなのダメだよ!
 酷い、酷すぎる! 酷すぎるよ!
 お願いだから、それだけは、それだけはやめてぇ!」

 体を揺すって怪物達は笑っている。
 股関節が外れそうなくらい大きく広げられた足の間に、男の胴体が挟み込まれ、破裂しそうなほどに固くなった肉棒の先端が、秘所に押しつけられる。

「こんな、こんなの! これならまだ食べられた方がマシだよっ! ああ、いや! いやっ、いやぁぁぁぁぁ!
 あ、ああぁぁ―――――っ! あ―――――っ!」

 ズルリと肉棒が潜り込んできた。怪物の細いペニスとはまるで違う、熱くて太くて悲しいまでに命を感じさせる…。

 爆ぜた。

 何もかもが爆ぜた。

「きゃああぁぁぁぁぁぁ!」

 ボタボタと愛液と精液が糸を引いてこぼれる。
 ぐちゃぐちゃと肉をかき回す音と、マナの気が狂ったような悲鳴が車内に溢れ、みゃあみゃあぺちゃぺちゃと怪物達が囁きかわす声が。
 しばらくガタガタと車体が揺れる。そして数分後、唐突に車内の明かりが全て消えた。
 がさごそ、がさごそ。
 なにかが蠢く音がする。

 そして誰もいなくなった。







初出2005/11/16 改訂2005/11/19

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