「アスカ、満たされぬ愛」 ♯3 後編
 LHS廚(あくまでイメージ)ばーじょん。



玄関を前にして緊張しているボクの震える手がチャイムを鳴らす。

二つの意味で高鳴っていく鼓動。

姉と同じ人に恋をするのは本当に苦しかった…でも。


『いらっしゃいノゾミちゃん』
『あ、お、お邪魔しますシンジさん。これ姉からで、えっと、『舌平目のフリ、フリ、フリ…』』
『フランス料理の「フリカッセ」よ。 …うーん♪ いつ見てもカワイイ♪』
『あ、あの、そ、そんなに…頬擦りしないで……』
『いいじゃない♪ 減るもんじゃ…うーん、ホッペタすっべすべぇ』

半開きの扉から出てきたのは葛城さん。

『アスカ、ノゾミちゃん困ってるじゃない』
『いいじゃないミサト。
 ノゾミちゃんには何度も言ってるけどアタシこんな妹欲しかったのよ。
 髪の色も金色でアタシの方が近いし瞳も青だし…ホントにアタシの妹にならない?』
『あ、アスカさんはボクにとって、身近でもっとも尊敬できる女性ですけど
 ボクにはやっぱり父さんと姉二人、大切な家族ですから…ごめんなさい』


エプロンをつけたシンジさんが台所の方へ消えていく。
女の子のボクより似合うのは何故だろう。
ボクはそのまま彼についていく。


『うん、家族は大事にしなきゃね』
『……きょ、今日はボクも手伝ったんですよ。え、えっと』
『あらぁ、ノゾミちゃん真っ赤……シンちゃんに恋しちゃったのかな♪』



『まっさかぁ。こんなシンジにぃ?』
『き、気にしなくていいからね?』


そう言って頭を撫でてくれた彼の手のひらは本当に暖かった……。
気持ち良くて…あったかったの……。


◆ ◆ ◆

 

精液で溺れるという異様な夢で目を覚ました僕が見たのは純金で包まれた頭だった。


「ん…んん…………」

僕の体の上でノゾミちゃんが眠っている。
ヒカリの「黒」の反対と思える髪の色。
その白金に近い彼女の髪の隙間から見える3種類の唇で付けたと判る『鬱血』の痕。
その中には勿論僕の唇で付いたものもある。

唇の回りにこびりついてる半分ほど乾いた精液。
彼女の『ぬくもり』に包まれた『中心』。

つまり…………彼女は僕と「繋がったまま」眠っているんだ。


そう、僕は彼女も抱いた。


……ううん、違うね。 僕は彼女をレイプしたんだ。
アスカが漏らした話だと僕達三人は何か薬を盛られたらしい。
その結果だとしても、また僕はの心の中に『罪』を背負い込んだ。

「むにゃぁ」
「!」
「しんじさぁん……だぁい好きですぅ…」
「…寝言か…」


始めての痛みに耐えながら、それでも僕を喜ばせようとした痛々しい笑顔…。

僕の恋人である姉と尊敬していた女性の前で犯される。

初体験としてはあまりにも異常なのに。


『痛いけど、嬉しいです!こんな形でも……ボクは嬉しいんです!
 あねにはわるいけど、ずっと好きだったんですよぉ…』

 

 

(何でこうなったんだろう……)


この騒ぎを起こした張本人。
左腕で眠る朱金の髪を見ながら数時間前からの記憶を僕は必死に手繰り寄せる。

何故か怒りや憎しみと言った感情は湧かなかった。



◆ ◆ ◆


午後一時五十分。

ミサトさんとの思い出がいくつかある駅。
彼女は体の半分近い大きさの青いトランクと一緒に立っていた。


「遅い! あね…シンジさん?」
「ノゾミちゃんごめんね。 ヒカリは用事が出来たんで、僕一人しか来れなかったんだ」

事情を説明しながら僕は彼女のトランクを受け取る。

「……クスッ」
「? なにか変な事いった?」
「最近ようやくヒカリ姉さんの事を名前で呼べるようになったんですね…羨ましいな」
「じゃぁちょっと本部のほうで手続きが……ん?  ごめん最後なんて言ったの? 聞こえなかった」
「あ、こ、こ辺の町並みって変わってないな、って言ったんですけど」
「そうだね。あの……『大爆発』もここまでは届かなかったみたいだし」

NERVが用意したワゴン車にトランクを乗せる音を利用して『また』僕は聞こえてない振りをした。
少し卑怯なのは判ってる。


ノゾミちゃんが何故か僕にどうしようもなく惹かれてるらしい、と言うのはヒカリに聞いて知っていた。
コダマさんにも気に入られてるみたいだし、洞木家の女性陣と僕は相性良いんだろうか…。


好かれてるからって手を出す気は全く無いけどね。
ヒカリ公認の『愛人』なんて………………一人いれば十分だよ……はぁ。
おまけに「私もシンジの愛人になりたい!」ってヒカリに公言してるコもいるし。
もしアスカがその事まで知ったらなんて言われるか……。


「それじゃ行こうか」
「はい!」


◆ ◆ ◆

 


日向さんの運転で、僕らが乗った電気自動車は音も無く本部へ向かって走り出した。


「えっと、さっき言っていた『姉の用事』って何ですか?」
「うん、この前見せた写真で僕達が着てたウエットスーツもどき、覚えてる?」
「えっと、プ、プラ…」
「『プラグ・スーツ』だよ、ノゾミちゃん。 あ、自己紹介がまだだったね、俺は日向マコト。
 二人の同僚で今日は君を本部まで送る運転手」
「洞木ノゾミです。 これから宜しくお願いします」


日向さんに向かってぺこりと頭を下げるノゾミちゃん。
ヒカリ以上に素直なんだよね、彼女は。


「うん、これからよろしくね」
「それでね、今日はその『プラグ・スーツ』を新しく作り直す為に採寸しに行ってるんだ。
 定期的に作り直さなければならない上に、体形とかなりシビアに合わせなくちゃいけなくてね」
「でも、本来の予定ではまだ一月ほど先の事だと思ったんだけど違ったかい?」


あの頃からの癖と言うべきか、今でも日向さんは僕らの日程を良く覚えてくれている。
それを伝えるべき人はもういないのに…………
聞いた話では生涯独身を通すつもりらしい。

 

「あ、ヒカリの話だと

 『予定のままだと夏休みのど真ん中に採寸日が入っちゃうから、完全休養日を増やす為にも
 採寸日を前倒しして今日やってしまわない?
 伊吹代行の許可も貰ったし、週末だから今日の授業は昼間まででしょ?』

 って香崎主任から連絡があったそうです」


 ノゾミちゃんが今日来る事を知らなかったらしい。
 冷静な香崎さんも間違える事あるんだ、とこの瞬間は笑っていられた。

 

「成程。 有休はキッチリ使い切る主義のナギサちゃんならそう思うだろうな」
「夏休みを一日でも多くみんなと過ごしたいからノゾミには悪いけど行って来るって。
 『歓迎会の準備は昨日したから手早く済ませてくるね』って言われたよ」
「もう…いつも嫌な事は先に済ませようとばかりするんだから…」


五分ほどして他ならぬ日向さんの『武勇伝』がある第18ゲートから本部に進入する。


「……あ、そう言えばシンジさん」
「ん、なんだい?」
「さっき言ってたボクの手続きって何ですか?」
「えっとね、ノゾミちゃんを契約職員扱いにしてIDを発行しようって事になったんだ。
 そうすれば生活費も簡単に支給できるし、本部にも入れるから学校が休みの日なんかに
 気が向いたら簡単なお手伝いをするだけでバイト代も別に出るらしいよ?」
「努力しだいで、もしかしたら俺達よりも給料高くなるかもね」

日向さんが話に加わって来る。

「……その代わり、嫌な事もある。申し訳無いけど君の生活に干渉しない条件でうちの保安部から
 女性スタッフが護衛と言うか…監視に付く。
 君のお姉さんは今世界で4人しかいない重要人物だからね。
 お姉さん達を手に入れる為の人質にされても困るんだ……プライバシーには十分気を付けるけどね」

ノゾミちゃんはトンネルの赤い電灯の下、しっかりと頷いた。


それからさらに十分後。

「今日俺は夜勤なんだ。 『歓迎会』出れなくてごめんね、それじゃ!」

そう言い残した日向さんと別れ、僕達は庶務課でノゾミちゃんのカードを発行する手続きを取った。



◆ ◆ ◆



『ふぅん、ノゾミちゃんってそんなに綺麗になってたんだ。
 これは……今日の「楽しみ」が増えたわね』
「た、楽しみ?! なんか悪戯でもする気?」
『アタシ、最近のノゾミちゃんやコダマさんの姿って写真を含めてまだ見た事無いのよ。
 うん、美味しい『料理』作っておかなくちゃね』
「そ、そう? うん、それじゃお願いします……帰る時には電話するね。 それじゃ、また後で」
『待ってるわ…寄り道なんかしないでよ?』


携帯で連絡を取る僕の傍、手続きの締め括りとしてノゾミちゃんは職員用カードを作ってもらっている。
低いぱすん、という音共に二枚のカードが発行機から出て来た。

「えっと、こっちの白地に写真付きのカードがIDカード。
 本部に入るに必ず必要になるからね。
 で、そっちのエメラルド・ブルーのカードがマネーカード。
 テレホンカードからここの食堂なんかの料金の支払い、いろいろ条件があるけど
 前もって許可をもらえれば限度額無制限のクレジットまで出来る
 お金の事ならほぼ無敵なのがこのカード。

 そう言えば昔のこのカードって色が真紅でね。『鮮血カード』って不評だったんだ」


そう説明しつつ彼女のIDカードを見ると

「うわ、写真うつりも良いなぁ、ノゾミちゃん」

洞木家で一番メリーナさん…『亡くなった』フランス出身のヒカリたち三姉妹のお母さん…
の遺伝が強いノゾミちゃんは姉妹の中で唯一遺伝した金髪を額の中央で分け、
背中側の髪は肘の辺りまでたらしている。
その髪は緩やかなウエーブを描いていて、髪の分け目から額がカッコ良く見える女の子。
肌は日本人のもの(色?)で、この写真も「金髪碧眼の日本人形」みたいに見える。

アスカが『動』の美しさなら彼女は『静』の美しさって感じか。

 

「そ、そんな事無いです。 ボクなんか」

うわ、照れてる表情もかわいいな…。


「そんな事ないよ。だってあの頃の僕なんか酷かったよ?」
「今だから言えるけど、シンジ君って最初の頃は確かに仏頂面だったわね」


IDカードを見ていた僕達の顔の間にひょいと顔が割り込む。
最近ショートからボブカットに変えたその頭は

「わっ!」
「マヤさん!」

マヤさんは僕とノゾミちゃんを軽く一瞥して「彼女だけなのね」と微かに呟く。
疑問を感じる前に二、三歩後ろに退いた彼女はにっこりと微笑んだ。


「私は伊吹マヤ。ここの技術部の主任代行よ」
「洞木ノゾミです。 よ、宜しくお願いします」

リツコさんの『遺品』の白衣から手を出して握手を済ませると

「あ、そうそう、ヒカリちゃんからの伝言で『採寸用のスキャナーが故障したらしいから
 ちょっと時間が掛かりそう。だから先に帰って歓迎会始めて良いわよ』って」
「でも、早く姉にも会いたいし、出来れば一緒にシンジさんの家に行きたいし…」

少し迷ってからマヤさんはノゾミちゃんに切り出した。

「じゃあノゾミちゃん、ちょっと時間良いかしら?」
「何ですか? えっと…伊吹さん」
「マヤでいいわよ。 一応貴方は職員扱いだから健康診断を受けて欲しいんだけど…。
 今日受けちゃう?  今二時半だからそうね…基本的な検診だけだと四時で終わり。

 けど明日の朝一番に今日出来なかった分を受けて貰うため、もう一度来てもらう事になりそう。
 六時ごろまで時間を貰えれば今日一日で完全に検診は済むわ…どうする?」

「それじゃ…マヤ…さんは姉の仕事が終わる時間って…想像できますか?」


小首をかしげて考えるマヤさん。
いまさらながら思う。
このときの彼女は何を考えていたんだろう。


「そうね、かなり深刻な故障らしいし、今あのスキャナーは壊れた一機しか無いし…
 確実な事は言えないけど、多分…六時半頃になりそうね。
 但し…全てが淀み無く順調に終わったとして、よ」
「判りました。 姉を待つついでに、という事で全部受けます」
「長崎からの長旅で疲れてるのに御免なさいね。 あ、シンジ君は来ちゃ駄目よ♪」

そんな事しませんよ、といいながら両手を振る。

「それじゃ僕は指令代行に呼ばれているので、ノゾミちゃんの検診の間にそれを済ませてきます。
 ノゾミちゃん また後でね」


軽く手を振って、僕はノゾミちゃんと別れた。

 

◆ ◆ ◆



『アスカよ!この携帯は今マナーモードになってるわ!
 どうしても外せないの。 申し訳ないけどまた後でかけて頂戴!』

 

午後5時48分。

 

ノゾミちゃんの第一中学校編入手続きの書類などを受け取った僕は
彼女の待つ第八階層の喫茶室「ひやしんす」へ向かう。

彼女はもう来ていて、窓際の席から手を振って僕を呼んでいた。


「ここって凄いですね。 ジオフロントってこんな風になってたんだ…」
「うん。 始めて見た時は僕も驚いたよ。 あの頃は天井全体がああなっていたんだけどね。
 今は八割が撤去されているけど色んなビルがぶら下がってたよ。
 あ! 僕はほら、そこにあるあの車両輸送用のレールから見たんだ」


あの時の僕はミサトさんの隣で何も知らずただ感動していたっけ…。


「そう言えば今のノゾミちゃんと同じ14歳の時だったな……」
「あ……!」
「ん?」


声のほうに顔を向けるとノゾミちゃんの顔は真っ赤…あ!
ちょうど二人の顔がキス出来そうなほどに近付いていたのに気づいて。


「何真っ赤になってるの?」
「え!? あ、こ、香崎班長、何か御用ですか」


彼女は「香崎ナギサ二尉」。
僕らのプラグスーツを始めとする『消耗品』の管理と補充を担当している。
サード・インパクト以降に本部に再入所した数少ない人物だ。

彼女も『六時半まで待って駄目だったら帰る』と言う伝言をヒカリから貰っていた。


この時始めて僕は違和感を少し感じたのを覚えてる。
ヒカリ本人も本部内にいるのだから伝言を頼まなくても端末を使えば連絡を取れるはずだし、
何より本人がここに来れば良いのに。



◆ ◆ ◆



午後6時30分

結局その後もヒカリと連絡が付かなかった僕等は彼女の伝言の通りに家に帰っていた。


「えっと、荷物はとりあえずお姉さんの部屋に…」
「お帰りっ!!」
「うわっ! な、何驚かせてるんだよアスカ」
「お、御久しぶりです、アスカさん」
「ほらほら、トランクはアタシが部屋に置いて来るから二人はリビングに行きなさい!
 特にノゾミちゃんは疲れてるんだから」


「じゃ、じゃあお言葉に甘えて…お邪魔します」


そのとき『僕が始めてきた時』の事を思い出してそのまま言った。


「駄目」
「え? ボク何かおかしい事言いましたか?」
「何もおかしい事言って無いわよ?」

軽く頭を振って

「そうじゃなくて…此処はノゾミちゃんの家になるんだよ? だったら他の台詞があるじゃない」
「あ! なるほど、そういう意味ね」
「ほら、家に帰ったときは?」

この一言でようやく納得したらしいノゾミちゃんは小さな声で一言。

「た、ただいま」
「「お帰りなさい」」



◆ ◆ ◆



「このにおい何? お香?」
「ラベンダー、ですね」

ヒカリの部屋に手早くトランクを入れたアスカはすぐにお茶を淹れ、話を始める。

「そう言えばさ、この前ヒカリが作ってくれたカレーは美味しかったんだけど
 何でミサトがいた頃シンジの料理のレパートリーにカレーが無かったのかしら?
 『カレー味』すらないほど徹底してたわね」

思いっきり顔が引き攣るのがわかる。
ペンペンにいたってはひっくり返ったからねぇ。

「ミサトさんのカレーには…正直トラウマがあるんだよ、僕は勿論、ペンペンにもね」
「トラウマ?」
「例えば…豚骨スープのカップラーメン+レトルトカレー+たっぷりのマヨネーズ」

「「うぶっ!?」」

二人とも軽い吐き気を催したようだ。

「想像出来た? ノゾミちゃん?」
「それで…どんな味、です?」

乾いた笑いしか出来ない。
言いたくない、っていうか言う為に『思い出したくない』。

「だから、『トラウマ』」

「……納得」




◆ ◆ ◆



「コダマさん、元気だった?」
「コダマ姉が元気じゃない時を知りたいです。 毎日お仕事忙しくて帰る暇も無いみたいだし。
 ペンペンを一番大事にしてるのってコダマ姉ですし」
「ペンペン…久しぶり……会いたいわね」

アスカは少し懐かしそうな顔をして

「時間が出来たら会いに行きたいけど大丈夫かな…
 無理やり家に泊まりに言った時とか、結構迷惑掛けちゃったからね」
「そんな事気にしないでください。
 あの時、ボクもコダマ姉も…勿論姉も本当に迷惑なんて思ってませんでしたよ。
 アスカさんの事は姉から本当に良く聞かされてましたし…
 強くて魅力的で…ボクにとってアスカさんが最も尊敬できる女性なんですよ」

「アタシが?」
「はい。 何時も姉はアスカさんの自慢ばかりしてました」
「そう…」


◆ ◆ ◆

 

そして一時間後、始まりの鐘がなる。


「今更だけど、ノゾミちゃんはこっちに来て良かったの? 向こうには友達もいたでしょ?」
「ええ……何人かは」
「恋の相手とかは?」
「げほごほっ!?」
「ノゾミちゃん!大丈夫!?」

ノゾミちゃんの背中をさする僕の背後からアスカの一言が飛ぶ。

「あ、そうか、ごめんごめん……ノゾミちゃんもシンジの事、大好きだもんねぇ」
「あ…!」
「な、ななな何言い出すんだよアスカ!」

ドキドキしちゃうじゃないか………あれ?
動悸が治まらない。
むしろ頭に血が上っていく。
動機が耳に響いてくる。

女性が…ヒカリが…ノゾミちゃんが……それ以上にアスカが…。


      欲しい!


な、何を考えてる!?僕は!
さっきから僕の『あそこ』は今までに無い位に堅くなってるし!


「ボクよりも…ごほっ…酷そう…大丈夫ですか?」


頬を赤くしたノゾミちゃんが泣いてる、と思える程に潤んだ瞳で覗き込んでくる。

あ…ノゾミちゃんはヒカリとは違う匂いだ…じゃなくって!

耳鳴りもひどくなる。 頭がくらくらする。

…本当に小さい唇だな…。

引き込まれるようにキスをしそうになって…あわてて頭を振る。

でも…気になる。

アスカの瞳より色、濃い気がする…。



◆ ◆ ◆



ピルルルルルルルルルルルル!

「「ひ!」」


電話の呼び出し音が突如として響き、慌てて僕等は離れた。

「ちょ、一寸待っててね? すぐ戻ってくるから…待っててね?」

自分が何を言ってるのかも判らない。

気持ちを落ち着けるため、アスカよりも先にテーブルの上にあった子機をとる。

「も、もしもし、葛城です」
『あ、シズナです。ノゾミは無事着いたかな?』
「は、はい。 連絡遅くなってすいません。 健康診断を受けて………!」
『? どうしたんだい?』

ノゾミちゃんが僕に体当たりするように抱き付いていた。
丁度彼女の頭が僕の胸にすっぽりと収まる。
僕の硬くなったおちんちんが彼女のおへそらしい窪みに引っかかっている気がする。
それが彼女にも判るらしく、顔はもう真紅に見間違えるほどに真っ赤だった。
足ががくがく揺れて、足の間の床には雫がぽたぽたと落ちている。

雫は…絶対汗じゃない。


「シンジさん……熱いよ……ボク…怖い…頭…変になりそう…」

すぐ側にいる僕ですら聞き取り難いほどに小さい声。

あれ…? この状況、どこかで…。

 


アスカが僕が持っていた子機を取り上げて、代わりに話し始める。


「あ、叔父様。 お久しぶりです、アスカです……はい、最近退院できまして…はい。
 ノゾミちゃんですが疲れが出ちゃったみたいで……はい、シンジが今布団へ運んでます。
  ……そうですね、じゃあ明日電話するように言っておきます。
 はい、それじゃ、お休みなさい…(ピッ)…………さてと」


今思えば直前までのアスカの行動から、飲んだ紅茶に薬品を混ぜていたんだろう。
けど、その時の僕を支配していたのは自分とノゾミちゃんのシンクロした鼓動。
いつの間にか僕の手はノゾミちゃんの腰と肩を抱き締めている。


そしてふすまが開く音。


「さぁシンジ! 電話の通りお布団まで運んで頂戴!」


ドン!


いきなり突き飛ばされた僕はそのまま後ろに数歩よろけつつ移動した後
そのままヒカリの部屋へ転がり込む。
ノゾミちゃんを精一杯抱き締めて、彼女が傷つかない様にした。


「ひゃっ!」
「痛……っっ」

 

強かに後頭部をぶつけ、うめく僕の耳に呆然としたノゾミちゃんの声が聞こえる。

 

「…………姉………?」

 

そこにいたのは緑色のノースリーブだけを着たヒカリだった。

躰中に精液と鬱血の後をを付けて。
目はたった一つの欲望に輝いていて。
勿論自分の意思なんて読み取れない。

まるで幽霊のように…僕たちに近づいてくる。


「アスカのいうとおりぃ…やっと来たぁ…しんじぃ…ちょうだぁ…い」


僕は声にならない叫びを上げた。
でも、それはヒカリの口で塞がれる。


◆ ◆ ◆


カチャ

『えっと、葛城です。 すいませんがただいま重要な用事があって出られません。
 御用の方は発信音の後にお名前とメッセージの記録をどうぞ。
 もしすぐにでも返事が必要な重要連絡でしたら、確実な手段ではありませんが
 用事がある人の携帯まで連絡される事をお勧めします。  それでは』

ピーーッ

『あ、そっか。今頃はノゾミちゃんの『歓迎会』の真っ最中だね。
 まあ、たいした連絡じゃ無いし、こっちで良いか。

 日向です。 ヒカリちゃん、スーツ用のスキャナーの修理だけどたった今終わったそうだよ。

 香崎班長からの伝言も貰ってるよ。
 『今日は一時間も拘束してごめんね。 都合が良い日に連絡頂戴。すぐに準備するわ』
 って伝えてくれって。 それじゃ、良い週末を』


プーッ、プーッ……。

 


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