エヴァンジェル隷奴

- 中編1 -



著者.ナーグル














 3つの画面それぞれで男達は本気を出して3人の美女達…綾波レイ、霧島マナ、山岸マユミを堕としにかかり始めた。
 こうなるといずれの画面も、1秒だって見逃せない。勿論、録画は完璧にしてあるがリアルタイムで見るからこそ得られる刺激という物もある。そしてアスカにはその為の技術がある。エヴァのパイロットだったからか、それとも2週間という短い期間であったが、みっちりとユニゾンの訓練を積んだからか。アスカは、自分自身を客観視することができるだけでなく、他人を…それもユニゾンしている他人の行動を自分の主観で見ているように感じることができる。
 そして陵辱劇の主演女優は彼女にとって黒子の数まで知っているくらいの親友だ。自分自身を客観視すると共に、親友達の感じているだろう恐怖、調教で植え付けられた快楽に対する期待、その他様々な物を自分自身の物であるように感じ取っていくことは容易い。ある種、オカルトめいた話であったがアスカは確かに、親友達の感情と彼女達の主観を同時に把握していた。

「…ああ」

 アスカは熱い吐息を漏らして、バスローブの胸元をはだける。まろびでる乳房は瑞々しく、やや赤みの強い乳首はフルーツの甘味を想像させる。左手で控えめに自ら愛撫しながら、アスカは枕元に準備しておいた奇妙に生々しい器具を右手に掴む。

「これから、私、犯される」

 忘我の表情でそう言うと、バイオテクノロジーで作り出された言わば生きている張型…リビングバイブでそっと自らの股間を慰める。バスローブ越しに撫でただけだったが、血の通った肉である生体バイブの熱を感じて思わず息をのむ。

(…………シンジ)

 震えながらローブの裾を割り、バイブの先端を差し入れると、女性の性的フェロモンを敏感に感じ取ったのかアスカの手の中でバイブが激しく身を震わせた。サソリか蜘蛛のような足が飛び出し、アスカの拘束をはねとばす。人間の男性器としか表現できないそれは魚のようにアスカの腕から跳ね上がって逃れると、信じられない素早さでローブの中に潜り込んだ。

「ひぅ…っ! くぅ…」

 太股や内股に触れるだけでなく、素早く這い回って配置を変えるバイブの動きにアスカますます息を荒くさせる。遺伝子レベルでプログラムされているから、いきなりアスカを犯したり、あるいは逃げ出して他の女性を犯したりと言ったことはない。テレビに映る親友達の苦境をアスカがユニゾンして感じ取り、その脳波を受け取ってから生体バイブはアスカを慰めるのだ。

(ああ、犯される…犯されちゃう…。あんな、薄汚いじじい共に…わ、わたし…)

 ゴクリ、と大きく喉を鳴らして唾を飲み込んだ。

「どうして、わたし、こんなことに、なっちゃったの…かな?」

 興奮しながらも無意識のうちに呟いた彼女の言葉は、彼女の本心なのかもしれない。











 いまでも目を閉じるとアスカは思い出す。身動きのとれなくなった弐号機を、アスカを守る初号機の姿を…。

 最後の戦いの日。とっさに展開したATフィールドを貫いてロンギヌスの槍が弐号機の顔面を刺し貫く。
 その瞬間、アスカの心臓は鼓動を止め、精神は凍り付いた。

 死んだ、と思った。

 左目が潰れ、脳を破壊される激痛 ――― は来なかった。絶体絶命の状況に、時間が遅く感じてしまっているのかと思ったが、どうもそうではないらしい。いつまでたっても痛みが襲ってこない。
 動転していたアスカだったが、やがて恐る恐るアスカは目を開いてみた。開いているけど見えない。
 左手でそっと頬と瞼を撫でてみるが、瞼は勿論、その下の眼球も無事だった。傷一つないことに戸惑っている間に、網膜が開いて焦点の合っていなかった瞳がゆっくりと焦点を結ぶ。

「初号機…シンジ」

 槍はアスカを貫く寸前で受け止められていた。

 間一髪、地面を引き裂いて現れた初号機は槍の穂先をつかみとり、そのまま再起動をした量産機と大立ち回りを演じていた。
 弐号機も全力を出して戦っていたが、それが児戯にも思えるような狂気の戦い。無敵の強さを初号機が示す一方で、量産機は破壊されるそばから再生し、また初号機に再生前よりも激しく破壊され、また再生し…。
 いつ果てるともつかない戦いは、やがて終わった。
 突然、地面をすり抜けて巨大なファースト・チルドレン…綾波レイが現れ、くっつきあって巨大な一個の肉塊と化した量産機もろとも初号機は天に昇っていった。世界が赤く輝き、そして闇が訪れた。

 赤い海の中を漂いながら、長い長い深い深い夢を見ていた。
 懐かしい、もう会えないと思っていた人と再会できた。嫌なこともなければ良いことも、それどころか他人も自分もない曖昧な世界。これはこれで気楽で良いかな、と思いかけたとき、どこからか声が聞こえた。

『綾波を、みんなを返せぇぇぇ―――っ!!』

 気がついたとき、世界は何もかも元に戻っていた。
 破壊された街、施設は勿論、全てではないが死んだはずの人たちまで帰ってきていた。ただ、碇ゲンドウとエヴァンゲリオンと呼ばれる巨神だけが地球上から消え失せていた。

 平穏な生活。平和な世界。最初の内こそ混乱は見られたが、やがてそれも落ち着いた。
 マスコミや国家は混乱に極みだったが全人類が奇妙な共通認識を持っていたからだろうか、その混乱もほどなく収まった。
 行方不明になったゲンドウにかわり、副司令だった冬月コウゾウが暫定的に司令代理となる。彼は混乱が生じないようにネルフとゼーレが所有していた技術などは徐々に一般に公開していき、最終的にネルフを解体することを宣言して、文字通りの残務をつとめることになった。

 こうしてアスカは一民間人として市井に放り出されることになったわけだが、当初は激しくシンジを憎んでいた。最後の戦いでぽっと出てきて、美味しいところだけ持って行ったずるい奴。エヴァのない平凡でつまらない世界を望んだ退屈な男。
 だけど、本当はわかっていた。命の恩人ってことだけが理由じゃない。その他諸々、いやそもそも言葉になんてできっこない。

「そっか…わたし、シンジのことが好きなんだ」

 なんでシンジのことを嫌い嫌い、大嫌いって思ってたのかようやくわかった。
 大嫌いだからいつもシンジのことを考えていたんじゃなくて、大好きだったからいつもシンジのことを考えていたんだ、と。

 本当に唐突な中学卒業を間近に控えた15歳の誕生日直後でクリスマス直前のある日。唐突にアスカは自分の正直な気持ちに気がついた。勘違いじゃないことを何度も確かめ、そして確信したとき鼓動が高鳴り、どこまでもどこまでも急上昇。アスカの爆弾発言に、直前までたわいない世間話をしていた一同はそのまま流しかけ、ついで言葉の意味を理解し、言葉を言ったのが誰なのかを確認、勘違いじゃなかったことをもう1度確認して絶句した。

 自分の気持ちに気がつき、正直になろうと彼女が決めたのなら話は早い。
 世界はバラ色。着せ替え人形、クマのぬいぐるみ、落書き帳。全てが輝いていた。世界は彼女のためにあった。なんにでもなれる、無敵の万能感に満たされたまま、アスカは大学院への進学やネルフ研究職などの推薦を全て断り、エヴァパイロットだった経歴以外は平凡を絵に描いたような少年と一緒に時を過ごすことを選んだ。
 いずれ、アスカはライバル達と牽制しあいながらもシンジに告白して、結果はどうあれ一人の人間として幸せな生涯を送ることは確実だ。それは不可避のことだとアスカも、周囲の人間達も思っていた。だが、それは不可避なことではなかった。











 どこか高級ホテルの一室のようにも見える、某病院のVIP専用の個室にて淫魔の饗宴が行われている。一組の男女が、ダブルサイズのベッドの上で猥らに絡み合い、悶えている。

「あ、うぅ……………くっ……………ふっ………ひっ、ひぅ」

 甘く切ない感情を押し殺すような、途切れ途切れの喘ぎ声を漏らして青白い肌をした美女が悶え狂う。メリハリのあるグラマーな肢体を看護服で包んだ彼女は現役のナースであり、老人は心臓の病気で入院している患者だった。

『こらこら、今更逃げるな。逃げられやせんのじゃからな』

 70を過ぎた醜怪な老人…彼は表向きは引退した与党の元代議士であるが、裏の顔である犯罪組織の中ではNO.7と呼ばれている。組織内のマネーロンダリングを主に行い、一方で不動産の売買や高利貸しなどで多額な裏金を作り出している。

 老いも衰えもない妖精のような美貌を持った美人看護婦を、対照的なまでに枯れた老人が陵辱する。それは冒涜的ですらあった。
 老人の吐く息は生ぬるく腐臭がし、生命力に満ちたレイの体を撫で回す指先は冷たい。火照った彼女の肌には老人の指の冷たさは痛みすら覚える。一方で老人の紫色の舌と唇は熱くぬめり、柔肌を貪るように吸い付く。たまらなく気持ちが悪かった。
 老醜と言うほかなかった。

(こんな人に…私は……)

 黄色く濁った肌は脂肪が付きすぎで弛み、皺のよった手指はレイの溢れんばかりの蜜を掻き集めんと蜘蛛のように蠢いている。指が位置を変えるたびにレイの体が小さく震えた。レイのシミ一つない肌とはあまりにも対照的な人間だ。明らかに異常だとレイは思った。レイの反応と若い肌の感触を堪能し、瑞々しさを褒め称えながらもマスクの奥で光る目は彼女の若さと健康に対するあからさまな嫉妬が見て取れる。情欲はあっても、愛情や労りはない。若さを吸い取ろうと本気で考えている目だった。
 本能的に嫌悪と恐怖を覚えたレイだったが、老人の執拗な愛撫で全身に力が入らなくなった彼女には逃れるすべはない。

「いっ………………う…………………ぅ」

 抱きすくめられ、老人の呼気を肌に感じた瞬間、知らず知らずのうちに涙がまた流れていた。
 相手がシンジだったら…。
 思っても詮無いことだったが、それでもレイはそう思わずにはいられない。このうえなく猥らで救えないほど惨めな虜囚…それが今のレイ。

「くっ…………………いかり………くん…」
『おお、柔らかい肌だのぉ』

 本来なら喜び、神の祝福そのものである思い人の名前も、今は拷問具となって彼女の壊れそうな心を責め立てる。

「はぁ………………あぁ」

 ベッドの上で体を起こした老人はレイの背後から抱きつき、無遠慮に乳房の膨らみを掴み、興奮で堅く凝った乳首のあたりをつまみ、こねくり回してくる。そして舌は…レイの首筋に浮かんだ汗を舐め取る。小さく悲鳴を上げ、レイはびくんと体を硬直させた。

「ひぃ!? う……ん…………んん」

 ぎゅっと強く唇をかみしめて声を堪える。痛みで刺激を打ち消そうとするように。鉄錆の味が口中に広がっていく。

(くぅ………碇、くん)

 嫌々と首を振って拒絶し、男の舌はかまわずレイの首筋に涎をなすりつけていく。嫌悪にレイは全身を鳥肌たせた。嫌なはずなのに股間がじわりじわりと熱を帯びだし、濡れた下着が肌に吸い付いてくるのを感じる。あり得ない、とレイは思うが熱さと粘つく下着が張り付く感じは紛れようもない現実だ。
 首筋をぴちゃ、ぴちゃと舌鼓を打ちながら舐られ、間をおいてレイの押し殺した呻きが漏れ始める。

「あ……………んんっ………くぅ………………ぃ…………ふぅ」

 顔を真っ赤に染め、目尻に涙を浮かべ、啜り泣くのも嫌なのか唇をかみしめて必死になって声を堪えていた。

「く、ふぅ………ん………………あぁ。い……や………」
『そろそろ、看護婦さんにやってもらおうかね』
「な……に、を? くぅ…」

 耳たぶをはむはむと甘噛みしつつ、老人はそうささやく。快感に全身を震わせて戸惑いながら、レイは男の真意を探るように濁った瞳を見つめる。宝石や太陽の光にも喩えられた神秘的な赤い瞳に気圧され、老人は唾を飲み込んだ。だがその神秘的な女性を自由にしている事実に自信を深め、老人はレイの両胸をぎゅっと力を込めて握りしめた。

「は………っ」
『その大きな胸で膿を絞り出してくれんかね』

 最初、レイには意味がわからなかった。しかし揶揄するように胸をこね上げ、間に挟んだ物をしごきたてる老人の手の動きで言わんとしていることを理解した。人として人の群れの中で生きている以上、その手の猥談の類から完全に無縁に生きることは不可能に近い。彼女の友人なり、同僚なりがそういった話をしているのを、聞くとはなしに聞いたことはある。

「わ………………わかり、ました…」

 淡々と呟き、うなだれるように頷いた。逆らうことはできないし、パイズリなんてしたことがない、そんなの知らないと言うこともできない。そうすれば老人はきっと不機嫌になる。どんな調教をしてきたのだと調教師を叱責するだろう。彼が不機嫌になると言うことは、レイにとって決して喜ばしいことではない。
 ふらつきながらベッドから降りると、レイは上着の隙間に手を差し入れ、ボディラインもあらわに上半身を包んでいる上着の拘束をはずしていく。病院で働くと言うことは時に急患や嘔吐する患者の汚物などで汚れたり、あるいは苦痛のあまり周囲の物を無差別に掴んで暴れる患者がいたりと汚れることは日常茶飯事だ。そういった事態に対処し易いように、あるいは着替えやすいようにレイの勤めている病院のナース服は簡単に脱ぐことができるようになっている。
 前をはだけただけで、簡単にナース服は脱ぐことができる。はだけると同時に、レイも戸惑うくらいに育った乳房が溢れるようにまろび出る。少しサイズが合わない上着を脱いで胸の締め付けがなくなったことでホッとため息をつきながら、レイは慣れない感覚に僅かに眉をひそめた。

(ブラジャー、じゃない。……水着?)

 漠然と服の下には下着を着けていると思いこんでいたが、実際には彼女はワンピースタイプの白い水着を着せられていた。下着とは違う、ざらつき全体を締め付けてくる感触にレイは戸惑う。意識すると胸だけでなくお腹の辺りもコルセットのように締め付ける感覚があるし、尻の割れ目に布地が食い込んでくる感覚もある。妙なことをさせられている、とレイは思った。

(どうしてこんなことをするの?)

 これも調教師の趣味、あるいは指示なのだろうか?

(調教師?)

 脳裏に浮かんだ単語に違和感を覚える。知らないはずなのに、確かにその単語を彼女は知っている。ゲンドウやリツコを凌駕する圧倒的なまでの驚異と尊敬をその言葉に感じていた。

(どこで聞いたの? どうして私はこんな言葉を知っているの?)

 自分自身に対する疑念が溢れる。冷たい雨が朝から晩まで降り続いた日に感じるような、漠然とした胃を締め付けるような不安が襲う。もっとも信頼できる人間であるはずの自分自身が信じられない、どんなに恐ろしいことだろう。

(夢…? それとも…まさか、記憶、が?)

 消されている。確かにネルフにはそう言う技術があった。だが…本当に?
 ―――刹那、脳裏にシルエットになった男の姿が浮かび、彼がしてきたことがフラッシュバックとなって明滅する。
 馬乗りになった男がレイの胸をこねくり回していく。漠然とした夢のようなイメージの中で、彼女はバストファックを、パイズリを叱責を受けながら行っていた。『下手くそ』『もっと丁寧にやれ』『こねながら舌先で舐めろ』と罵倒を繰り返し受け、そして『今のは良いぞ、忘れるな』とたまに誉められる。男のペニスをくわえたままの彼女の頭をワシワシと乱暴に撫でられる…。叱責に怯えていた彼女が、たまにある賞賛に小さく喜んでいる…。

(いまのは…なに?)

 疑問と不安が胸の内で渦巻き、もどかしさにレイは吐き気を覚える。だが、今の彼女は先ほどのフラッシュバックの映像を深く思い出す暇はない。

『さあ、早くしてくれんか』

 ベッドの端に足を投げ出すように腰掛け、黒光りする一物を誇示して老人がレイを急かしてくる。薬でも使ってるのか、鋼鉄と言うより硬質ゴムと言った感じの些か不自然な勃起状態の一物だが、若い頃はさぞ女達を啼かしてきたと思わせる凄みがあった。亀頭部分は亀と言うよりひしゃげたプリンのようで、竿の部分は腫れ上がったように太い。密生してはえる白髪交じりの陰毛は腹毛や太股の剛毛に繋がり、老人の獣めいた精力を否が応でもレイに思い知らせる。従わなくてはいけない…そう思わせる咽せるほどの性欲。

「は…い」

 水着の肩ひもをずらし、改めて両の乳房をさらけ出す。自分でも驚くほど勢いよく両の乳房が大きく揺れた。ピンク色の乳首がぶるぶると上下に揺れる。

『ほほぅ、これはよい』

 老人の目がこれ以上ないくらいに喜悦に満ちた。全部脱ぐことは彼を失望させるらしく、上着を脱ぎ捨てようとしたレイはそこで制止させられる。
 ため息をつくとレイは老人の足の間に跪いた。両手で胸肉を掬い上げるように持ち上げると、数秒間のためらいの後、ゆっくりと眼前に再び突きつけられる一物をその間に挟み込んだ。老人の指とは対照的なまでに熱い一物が肌にくっつく感触に、レイは「ふぅ…」とため息のような呻きを漏らす。

『ほほ、そのまま』
「は………。く………ぅ……」

 気持ち悪い。生暖かくて、ぶよぶよして、臭くて。掃除してない風呂場やトイレの排水溝にたまっている正体不明の白いどろどろを直に触ってるほうがまだマシだ。この老人に対して、一片でも愛情を持つことはあり得ない。

(なのに、なぜ?)

 まるで自分の体が淡雪になって、老人の一物に触れているところから溶けていっているような感じがする。僅かに顔をしかめると、おずおずとレイは自ら胸を揉み始めた。

「ん…………ん…………ん…………んっ…………」

 機械のように規則正しく、半球形に盛り上がった柔らかな乳肉で豪棒をこねくり回す。そう、機械になってしまえばいい。人形になってしまえば、気持ち悪くない、嫌じゃない、惨めじゃない。何も考えず、何も感じない。

(人形…人形に、なる)

 かつてアスカがそう言ったように、全身を縛る感情という糸を切り離し、男の言うがままに動く操り人形になってしまえば…。
 胸に手を添え、一物全体を圧迫して擦るようにして刺激を与えていく。手や口でするのに比べれば緩慢な刺激であるはずだが、支配しているという征服欲は大きい。老人はレイの氷の面が溶けていく姿に呻き声を漏らした。

「はぁ……ぅ」

 そして人形にならなくてはと思っていた彼女は、胸をとろかせるような心地よい熱に身を委ねて、甘い猫のような声を漏らす。

(どうして、こんな、熱くて、胸が、苦しいの?)

 意識を殺せない…。

(息が、苦しい……。それに、やっぱり……ん…記憶が、消されてる…)

 彼女の奉仕にぎこちなさはほとんどなく、意識せず歩くのと同じくらい動きは自然だった。意識しなくても簡単にできるくらいに同じ事をさせられているのに、記憶の断絶がある…。いくらなんでも初めてでこんなにスムーズに、上半身を揺すりながらパイズリなんてできるはずがない。彼女の中の疑念は確信に変わった。
 彼女達を拉致した黒幕にはネルフ関係者がいる。既に彼女達がさらわれてから、相当な時間が経っているはずなのに、助けが来る気配も何もない。それはつまり、必死になって彼女達を捜しているだろう、シンジ達を影であざ笑う存在が、シンジ達の側にいると言うことだ。
 それはつまり、彼女達をさらった組織はネルフと何らかの繋がりがあると言うことになる。それはネルフからの助けが来る可能性が、蜘蛛の糸よりも細く、頼りなくなった証拠だった。

(……碇君。もう、会えないかも、しれない)

 諦めが彼女の氷を溶かしていったのか。
 徐々にレイの体が熱を帯び、呼吸が荒くなっていく。彼女の昂ぶりと比例するように中途半端な堅さだった老人の一物は、レイから生気を吸い取ったのか堅さと若さを取り戻していく。

「はっ、はぁ。はっ、はっ、はっ……ん……」

 ボリュームのある胸に一物を挟んで休まずにこねまわし、熱い肉の狂器を刺激するレイ。息は荒くなり、顔がいっそう赤く染まっていく。上半身を激しく揺さぶり、息をするのも大変なレイの意識は朦朧としている。
 やがて、ひょこりとレイの胸の間を押し開きながら、硬度を取り戻した老人の一物が顔をのぞかせる。真っ白なレイとはあまりにも対照的な黒い竿、赤黒い亀頭がレイの眼前で揺れた。

「はぁっ? はっ、あっ、はっ、はぁ…はっ、はぁ、はぁ…………あぁ」

 威圧するような隆起をレイは思わず凝視してしまう。次に何をどうすればいいのか、彼女は全て知っている。記憶にはなくても、体は覚えている。
 鼻腔を刺激する異臭にたじろぎつつ、濡れた唇を開き、おずおずと舌を伸ばすと亀頭に口づけをする。心臓の音が大きくレイの耳に響いた。

「んっ…」

 さらに巨大な亀頭に舌を這わせ、筋に沿って涎の跡を付けながら胸の隙間を出入りする亀頭に口腔奉仕していく。時には亀頭全体を飲み込むようにしゃぶり、口腔内の温かく柔らかな感触で老人を身震いさせる。

「ちゅ…………んんぅ、ふぅっ……うっ…ちゅぷ…んっ」

 胸をこね回す動きに併せるように、ゆっくりとレイは首をグラインドさせる。

「ちゅぷ、ちゅ…れろ、ひゅぶ…ちゅ……んっ……んんっ…むっ」

 唾液がダラダラとこぼれ、一物のカリ首部分から竿部分にまでまんべんなく絡みつき、いやらしく濡れ光らせる。唾液は胸の谷間にまでこぼれてローションとなって動きを滑らかにしていく。

(ああ、硬い……すごく……)

 レイの舌先に感じる唾液に塩辛い味が僅かに混じる。雄の臭いに興奮したのか、老人が先走りを溢すと共にレイの愛撫の動きはスムーズになっていく。

(これで……硬いので………犯される…)

 憎んでも憎みきれない至上最悪のゲス野郎。アスカあたりならきっとそう例える最低な男に犯される。その時の光景を妄想する自分に戦慄する。だが、想像の中で犯される自分は拒絶し、必死にシンジの助けを求めながらも望外の快楽に狂っていた。

(わたし、なにを、考えてるの?)

 想像の中にシンジの姿はない。助けに来てくれない。想像の中の自分は、想像の中のシンジの救いの手に抱かれてはいない。犯されながら、シンジの名前を叫び続けている。シンジを想うほどレイの奉仕は熱を帯び、激しさを増していく。その手管は熟練の域に達していた。レイ自身が戸惑うほどに。
 ぎゅぅ…っと痛くなるほどきつく一物を胸で締め付け、胸の谷間から飛び出た亀頭をくわえ込むとチュウチュウと音を立てて吸い付き、カリ首に沿って舌がなぞる。ネットリとした唾液がだらだらとこぼれ落ちる。

「ああっ……。ちゅ、んぅ……んんっ…ちゅ、くちゅ…はぁ……」
『お、おおおっ。ああ……お、あ、だ、待て』

 背骨を貫くような甘美な刺激に老人は呻く。心臓が止まりそうだ ――― 比喩抜きで体中が震える。娼婦さながらの奉仕技術に恍惚とした顔をしていた老人だったが、股間をうずかせる刺激が頂点に達する寸前、あわてて彼女から身を離した。
 このままレイの整った顔に顔射するのも趣があって良いが、年が年だけにそう何発も弾が続かない。

『…激しすぎる。はふぅ、ひふぅ、はぁ、はぁ、はぁ…』

 油断すると噴き出してしまいそうな余韻に老人は浸る。余韻にビクビクと震える孝行息子に苦笑しつつ、今のレイの奉仕の凄まじさに嘆息せざるを得ない。これほどまでに猥らで清楚な女を抱けるとは感無量だ。さすがはNO.9が自分に匹敵する宝石だと評価した女なだけはある、と彼は素直に感心する。

「あ………………っ。はぁ…ぅ」

 奉仕しつつ自分も感じていたのか、惚けた表情のレイがおずおずと老人の顔を見上げてくる。孫のような年齢の女性の上目遣いは、老人の止め処ない支配欲をいっそうかき立てる。

(なんといい顔をする…。是が非でもワシだけの女にしたい…)

 彼女は月の滴が形となった甘露そのものだ。NO.9に最高の女を所望したとき、彼女は一晩で1億という信じがたい値の女を紹介すると言った。大きく出たな、とその時は思ったが、なるほど確かに。レイになら一晩で1億払っても惜しくはない。しかも嬉しいことに接待だから今夜の伽はロハで良いと言っていた。勿論、言葉通りに只な訳はなく、いずれ何らかの形で借りを返せとNO.9は言っているわけだが…。
 借りなど幾らでも返してやる。この飢えと獣欲を満たせてくれるのなら。レイを自分だけのモノにできるのなら。

「あの……なにか…」

 なにか失敗でもしてしまったのかと、レイは無表情ながら強ばった顔をして見つめている。よく見れば昂ぶっていたはずの肌は冷えきり、総毛立ってすらいる。急に奉仕を中断させられて、レイは何か粗相があったのではないか、罰を受けるのではないかと戸惑っているのだ。
 白い肌を整った顔を黄色みがかった精液まみれにしてやりたい。そんな欲望がむくむくとわき上がるが、老人は何とか自制する。

(あと1,いや無理すれば2行くか?)

 いずれにしても老人は残弾全てをレイの中にぶちまけたかった。処女のまま開発したとNO.9は言っていた。
 それに先ほどからずっとレイに奉仕されてばかりいる。年と肥満のせいで無理が利かない体と言うこともあり、彼自身がそれを望んだことだ。レイに自分の力を見せつけたいという欲求がむくむくと大きく膨らんでいく。

(泣きそうなのを必死に堪えながらも騎乗位で動いてもらうのも良いが、やはりワシが動いて啼かせるのが一等良い)

 その為には場所を変えなくては。この肥満した体に無理をあまりさせずに無理をさせられる場所へ。
 怠惰に、重たい足を引きずるようにして老人はベッドから降りた。運動不足と老化で萎えている足だが、他人の肩を借りながらなら、まだ何とか歩くことはできる。

『くくっ、看護婦さんや。肩を貸してくれんかね』

 男の一挙手一投足にビクッとしていたレイだったが、促されるままに体を支え、顎で指し示した先…ベランダに通じる両開きの大窓に向かって足を進める。
 どっしりとしたというには些か以上に重すぎる老人の体重に骨をきしませながらも、どうにかベランダの大窓を開き、吹き込んでくる外気の冷たさに体を震わせる。老人はレイの温もりを奪いながら、無造作に顎で進むべき場所を指し示す。

「あそこは…」

 二人のまっすぐ正面には、ほのかな湯気を立て、泡で水面を波打たせている円形の小型プール…ジャグジーが備え付けられていた。見た目は普通だ。きっと、見た目通り普通のジャグジー風呂だろう。だがレイには地獄で罪人を煮る大釜のように思えた。これから、淫餓鬼とでも言うべき老人の飢えを満たすため、レイは煮られてしまうのだ。
 それにしたっていくらVIP用の病室とはいえ、贅沢にもほどがあるとレイは思う。この施設にかけられた予算の10分の1でも他に使えば、どれだけの人命を救うことができるのだろう。やはりこの老人は最低だとレイは強く思う。
 そしてレイは自分が水着を着せられていた理由を悟った。

(たぶん、私は、あそこで…)

 お湯の中なら浮力が働く。萎えた老人であってもレイに奉仕させるだけでなく、陵辱することができる。ちらりと盗み見た老人の顔に浮かんだ笑みは、レイの予想を太陽が東から昇るのと同じくらい確実に証明していた。











『さて、こっちにこい』

 どうにかこうにか湯船に身を浸した老人は、骨の髄まで熱が染みこむ感覚に頬をゆるめる。水は良い。体が軽くなる。本当の自分を取り戻した気がする。きっと人間は水中で生まれ、水中に帰るのが本当なのだ。

 老人とは対照的に、レイの心はさめていた。リラックスしたカバが浮いてるみたいだ、と老人の姿を見てレイは思う。いや、そうじゃない。その喩えはカバに失礼だとすぐに思い直した。わざわざ思い直すくらいレイは老人に対して嫌悪の情しかわかない。このまま泡と共に溶けてしまえばいいのに。
 既に口と胸で奉仕してなお躊躇するレイの手を掴むと、老人は強引に湯の中へ引きずり込んだ。

「あ…………」

 痛みが現実的な感覚を取り戻し、ぼんやりとしていた悪夢を吹き払う。
 小さな悲鳴。バランスを崩し、顔から湯船に突っ込んでしまう。鼻を打つ感触、見開いた目に湯が染みる。赤い瞳は氷。氷は湯の中で溶ける。彼女は自分が泣いていることを悟った。鼻の奥に水が流れ、浸透圧からくる痛みが頭の中を刺激する。

(鼻、痛い…)

 久しく感じたことのなかった痛みと平衡感覚の狂いにレイは混乱し、手足を振り回すように湯の中で暴れる。面白がるようにレイの頭を老人はつかみ、溺れさせようと言うのか湯船の中に沈めてヒヒヒと気味悪く笑う。絶望から死んだ方がマシだと一時思ったレイだったが、溺れる…死ぬかもしれないという状況に体は自然と反応した。
 無意識のうちに上を、水面を目指し、手に触れる確かな物を求め、小指でも引っかかればすがりつく。

「ぶっ…………くはっ…………………あっ」

 何分も経ったような気がしたが、実際は精々十数秒の混乱の後。
 湯を滴らせながらレイは顔を上げ、空気を求めて必死に喘いだ。銀髪が濡れて顔に張り付き、滴を垂らして銀色に映える。彼女が喘ぐと、胸の中に甘い空気が満ちていく。皮肉なことだが、心が死にたいと思っている以上に、体は生きていたいと思っている。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 大きく肩で息をし、濡れた前髪ごと額を拭い、目に染みる水を払うため瞬きを繰り返す。そして漸く、レイは目と鼻の先でニヤニヤと笑う老人と、彼にしがみついている自分に気がついた。

 こんな顔をしていたのね、とレイは頭の大きさに比べれば小さな矮人のような顔を見つめた。
 想像以上に深い湯の中に沈まないよう、しがみついていたのは老人の弛んだ上半身。胸毛は退色して生姜色、肌は染みや小さな黒子だらけで潰れた虫の内臓を思わせる。濡れてなお加齢臭と腐臭が鼻腔に飛び込み、レイをこれ以上ないくらいに不愉快にさせる。だが、嫌な臭いのはずなのに、ムスクのように奇妙に後を引く臭い。自分が予想外に男の体臭を嫌がっていないことに、ビックリしたとしか表現できない顔をしてレイは老人の顔を見つめる。先ほどのじたばた足掻きは、全部老人の手の内だったのだろうか。

(嫌がってたことも、死にたいと思ってたことも、全部、全部…予想通り…なの?)

 全部が全部じゃないだろう。でも、こうなることを彼はあらかた予想していたようだ。
 ああ、と心の中でため息をつく。
 逃れられない。自分はこの老人の手から逃れられない。

 レイの様子に老人は何度も頷いた。要領を得たもので、彼女のそれが屠殺される家畜が見せる諦めと同じだと気がついていた。政界の黒幕として君臨する彼は何度もレイのようになる人間を見てきた。自分のやってきたこと、抵抗の全てが無駄だったどころか、全て手の平の内だったことを人が知ったとき、その心は凍てつく。何をやっても無駄。自分が家畜だと悟らせることが肝要なのだ。

 レイの表情がなくなる。ぼんやりと目を開いて老人のなすがままでいる。

(犯されるのね)

 ぞくりと背筋が震える。ただ犯されるのではない。たぶん、きっと…。

「碇……くん」

 それは離別の呟き。もう二度と会えない。

(だって、私は死ぬんだもの)

 犯され…死んで、生まれ変わる。もう今までの自分ではいられないから。明日の自分はどこまで堕ちているんだろう…。

『なんだ、反応しないつもりか? くっくくく、どこまでその虚勢が張れるか…』

 湯の中で下着ならぬ水着がずらされ、こんもりとした恥肉が剥き出しにされる。直に水流が敏感な場所に触れて、小さく息を吐いたがそれだけだ。無抵抗なのを良いことに、老人は着せ替え人形さながらにレイを弄んでいく。濡れたナース服の上着は肘の辺りまでずらされ、後ろ手にレイを拘束する縛めにされている。腰の辺りに絡まるだけになっていたスカートは、むしり取られてジャグジーの水流に揉まれて上へ下へと湯船の中を舞っている。

「…………………………っ」

 剥き出しにされた乳肉を掬い上げるように掴むと、弾力を確かめるように老人は数回力を込めて揉んだ。ぐにゃりと手の中で捏ねられ揉まれ、柔らかな乳房が形を変える。

「くっ…!」

 思わず苦痛の呻きを漏らすレイ。だが、老人が力を緩めて鋭かった痛みが引くと、かわってじわりと波紋のように広がる快感に戸惑いの呻きを漏らした。

「………あ、あぁ…………?」

 小鳥のように小さく小刻みに左右を見るレイの感度と反応を褒め称えながら、老人は薄桜色の乳首を赤子のように口に含んだ。陶器のように白い肌に色づく淡い花びら。粘つく唇が吸い付き、すべすべした乳首に舌が絡みつく。

「―――っ! くっ、んんっ」

 痛いほど強く吸い付かれる。深紅のキスマークはきっと数日間は消えずに残る。
 ぶるぶると小刻みに体を震わせ、レイは首を仰け反らせる。吸い付かれて痛い…痛いのに、気持ちが良い。痛みだけでなく、快感を伝える針で乳首を刺されている。ぐりぐりと肉をほじくり、針に塗られた毒がレイを狂わせる。

「んっ! あっ! ひぅっ!」

 これまでの常に声を押し殺していたときとうって変わって、初めて感じる乳首への峻烈な刺激に反応して、首を振ってレイは喘ぐ。見えない手に捕まれて、空中に押し上げられているような頼りない浮遊感に翻弄される。

「ふ……………くっ、ぅぅ………はぁ…………あぁ……………」

 レイの反応に気をよくした老人は、更に執拗に乳首を攻める。強くするだけでない。乳首を優しく舌で転がし、うっすらと血管が青く透ける乳房に涎をたっぷりとなすりつける。乳首だけでなく、胸全体がレイの弱点と見て取り、左の乳房を揉みし抱きつつ、右の乳首を唇で挟んで転がし、歯で甘噛みする。ビクン、ビクンとレイは大きく体を震わせる。そして再び『ちゅうぅぅ』とたこの吸盤のように乳首を吸うと、声にならない悲鳴を上げてレイは大きく体を仰け反らせた。

「あぁ! ひっ、ぎっ! あ、あぁ…………いぁ………………はぁぁ………………はぁ……ん………くぅっ!」

 柔らかいレイの体は老人が心配になるくらい大きく後方に仰けぞる。躍動感に溢れる肢体が水滴を光のシャワーのように纏って跳ね、快感を堪えようと無意識のうちに口元を両手で押さえてレイは身をよじらせる。だがくわえついた老人の唇は、決してレイの乳首を逃さない。心臓が一つ鼓動するたびに、レイの快感は倍になって彼女の官能を高めていく。

「はぅ…っ!」

 と小さく呻くとレイは体をくねらせる。愛撫の手を一時休めると、ヒィ、フゥと息を荒げながら老人はレイの耳元で囁いた。

『ワシは、何だ?』

 不気味な言葉だとレイは思ったが、よく考えることもせず、唾をゴクリと飲み込み、つっかえつっかえレイは応える。

「か………かん、じゃ。うぅ……」
『おまえは?』
「かんご…ふ」


『か、かん、かっか、看護婦の、仕事は、な、ななん、だ?』
「かんじゃ、に………うぅ………尽くす、こと」

 我が意を得たり、と老人は何度も頷く。レイにしがみつくように顔を近づけると再び質問をする。

『それなら、良いな?』
「なに…が?」
『わ、わしは、病気だ。だから!』
「…だから?」
『若さをくれ。おまえの、処女を、看護婦さんの処女をわしに、くれ』

 その時、レイは股間を先ほどからツンツンと無遠慮につつく靴底のような弾力を持った物体に気がついた。

(んっ………んんっ……こ、れ。くぅ………)

 小さいが長く尾を引く息を吐くと、レイは顔をしかめた。嫌だ、無理だと思ってるのに、体は言うことを聞いてくれない。ジャグジーの泡がはじける音が子守歌のようにレイの意識をぼんやりとさせる。

「ん、うん」

 小さく、だがはっきりレイは頷いた。老人の顔が喜悦に満ちる。
 くねらせていたレイの腰は小刻みに震えるだけとなり、充血して肥大したラヴィアの中心に老人の一物が押し当てられる。昂ぶりを押さえられないまま、レイは老人の顔を見た。半開きになったレイの口から、涎が垂れる。湯気の中に奇妙な臭い…たぶん、性感を昂ぶらせる薬草か何か…を感じたが、全ては手遅れだった。

「はぁ…………ん…………」
『良いな、良いな?』

 吸い付かれて痛々しいほどに赤くなった右の乳首を指先で捏ねながら、老人の左手はレイの尻たぶを鷲づかみにする。少し痛いけど、たまらなく気持ちが良い。
 ぐい、とレイの体が引き寄せられる。

「んんっ。ん―――っ」

 亀頭がレイのラヴィアを押し開き、湯を巻き込みながら半分潜り込む。目と口を固く閉じ、レイは顔を背けた。長く押し殺したような呻きが聞こえるが、レイにはそれが自分の声だとわからなかった。

(こんな、簡単に、入るなんて…)

 自慰をした事のないレイだったが、それでもこんなに簡単に挿入できる物なのだろうかと疑問がわく。驚く間もなく、ヌルリと亀頭全部がレイの膣内に挿入された。

「んっ! ふっ………ぐぅぅ……」

 ぽたぽたとレイの上半身から滴がこぼれる。これは水滴が落ちているのだろうか、それとも汗が流れているだけなのだろうか。たぶん、その両方だ。一瞬、レイは目を見開いた。醜悪な老人に抱きすくめられ、胸を揉まれながら犯されようとしている自分の姿がかいま見えた。

「あぅ、うんんっ」

 深い、深い虚無の夢に落ち込んでいく。

「ああぁ……………はぁ……あぁぁ…」

 じりじりとレイの体を侵略する男根の存在を感じる。男を知らない膣口だったが、意外なほどスムーズに亀頭の太さと圧力を受け入れ、押し開かれていく。

(熱い…の)

 一物を包み込むとろけそうな快感に老人も喘いでいる。耳障りな、だからこそ記憶に残る声が響く。

「う…………くっ、ふ………うぅ」
『処女、処女膜を感じるぞ。きつい、ここから、きついぞ。い、いくぞ、いくぞ?』
「う、ううぅ……」

 鋭い針を刺すような痛みを感じている。亀頭が何倍も大きくなったような違和感を覚える。サイズの違うねじが、むりやりねじ穴にねじ込まれていく。痛みと共に強ばった柔肉が引きつり、膣が押し広げられていくのを感じる。鼻の奥に乾いた粘土のような臭いがする。

「うっ、うっ、うっ、ううぅ」
『お、おおぉ…』

 いつの間にかレイはしゃくり上げて泣いていた。涙がぽろぽろと、知らないはずの壊れた眼鏡を手に取ったときのようにこぼれ落ちる。喉が痛かった。痺れたように股間が痛かった。なにより心が痛かった。

「あぅ、うっ、あぅぅ(わたし、泣いて…る)」

 自分は何をしているんだろう。レイは自分がわからなかった。間違ったことをしている、と言う確信はある。でも、患者に尽くすのは看護婦の、医に関わる人間の債務のはずだ。
 それに、さっき言ったではないか。患者に尽くすと。老人の老いという病を癒すため、若さを補充する、処女を捧げると。

「はぁ、はぁ、はぁ……………い、かり………くん」

 アスカの言うとおりに、シンジのために大事にしていた処女まで捧げて患者に尽くすことこそ、彼女の勤めなのだ。きっとシンジは誉めてくれる。
 大きく、深く息を吸い込み…レイは投げ出すように老人の胸にしなだれかかった。大きき、豊かな胸が押しつけられ、むにゅりと形を変える。撃たれた水鳥のように手をばたつかせ、片方だけだが手を上着の拘束から引き抜き、老人の火照った体にしがみついた。

「あ、はぁ……んんんっ」

 限界まで伸ばされたゴムひもが切れる寸前のイメージ。吸血鬼の心臓を撃ち抜く杭。
 老人が両手に力を込めてレイを抱きしめ、レイもまた、患者がそれを望んでいることを表情だけから察して、自ら腰を押しつける。

「ひぐっ………あうぅぅっ!」

 見開かれたレイの瞳がわなわなと震え、溺れた猫が飼い主にしがみつくように、老人の体にすがりついた。食いしばった口から呻きとも断末魔ともつかない喘ぎが漏れる。
 二人の行動のベクトルが揃ったとき、それまでの逡巡と抵抗が嘘のような滑らかさで、ふやけたナマコのような一物がレイの胎内に飲み込まれた。処女膜を巻き込むようにして、老人の一物がレイの胎内深くに打ち込まれたとき、切り裂くような痛みがレイの腹部で嵐のように渦巻いた。

「はぐっ……………ひ…………はうっ、あううぅぅ……っ」

 ビクンビクンとレイは全身を痙攣させる。目を白黒とさせ、息をすることも重労働なのか断続的に吸ったり吐いたりしている。

(い…たい…)

 ぬるりとしたものが…血が流れているのを感じる。血を流さない女のはずの彼女が、皮肉なことに命を生み出す行為で血を流している。不浄な血が老人の一物に絡みついていく。老人の内に吸収されていく。

(これで、患者の…治療が…)

 若返る。元気になる。レイの助けで。
 頭の中の冷静な部分が、そんなわけがないだろう。と突っ込みを入れているが、レイは煩わしいとばかりにその意見を無視した。

(立派に、看護婦してる。碇君は、誉めてくれる)

 閉じた瞼の裏で、シンジが頑張ったねと誉めて…

「はぅぅ!?」

 唐突に老人は腰を動かし、シンジの顔をかき消されてレイは悲鳴を上げる。
 薬で昂ぶったレイの体は既に痛みを感じておらず、老人の激しくも巧みなピストン運動に翻弄され、叫び声がせつなげになった。

「あっ……………あっ…………くっ、いああぁぁっ!」

 さぐるように老人の手がレイの全身を撫で始め、下から突き上げながら一物で膣内をかき回す。処女を失ったばかりで些か腫れていたが、しかし調教のためだろうか。既に出血も止まり、老人の浅く早く、深く重く突き入れると声を上げてレイは悶えた。

「ひっ……………ああ…………だめ……………あぁ……………あ、んああ、あっ」

 ジャグジー風呂の水面が激しく波打ち、子供がふざけて遊んでるようにこぼれ落ちる。薬湯の匂いが一杯に満ちていく。湯の中にレイの愛液が滲み出ていく。
 挿入に巻き込まれてお湯が膣に流れ込むたびに、レイは大きな快感を得ていった。

「くっ、くひ……………ひぅ…………あい、あ…………んんっ」

 たまらずレイが仰け反ると、注挿にあわせて重く豊かな胸がゆっさゆっさと派手に揺れる。破瓜の痛みを忘れ、快感に全身を支配されたレイは舌を出して犬のように喘いだ。

「んっ。はっ……はっ……はっ……はっ……はっ。ひぁっ…………ああ」

(溶けて、いく。心も、体も)

 老人の一物に犯されて、子宮と膣が溶けて一つになっていく。初めて感じる忘我の快感にレイは狂わされていく。さっきから何度も何度も意識が途切れているのは、気絶するほどの快感に達してしまっているからだろうか。

「あっ、ああっ………ああぁ、いかり、くぅ…………」

 目前の老人の顔と、瞼の裏のシンジの顔が重なり、溶け合い、区別がつかなくなっていく。レイは恐ろしいような、嬉しいような不安定な気持ちのままで二人の顔と、レイの中での存在が混じり合うのを受容していた。

(最低最悪の人。患者の人。気持ちいい、凄いことを、して…くれる人)

 たぶん、レイの生涯でこんなにも気持ちの良いことをしてくれる人は、彼以外にいないだろう。処女を失い、絶頂に達することがキーだったのだろうか。レイは全てを思い出していた。
 調教師は言っていた。
 レイは、組織のNO.7と呼ばれる老人への贈り物だと。レイを、彼女の親友達をさらい、理不尽に蹂躙する簒奪者に饗されるのだと。

『彼好みになるように、彼以外には馴染む女とするためにレイを調教している。おまえも最高の隷奴ならば、その期待と調教に応えて見せろ』

(身勝手…でも、彼の言葉は、嘘じゃ、ない)

「あう、くっ…………ひぅ、はっ、はぅ」

 とろんとした目をしてレイはガクガクと体を揺らしている。
 瞬きするたびに脳裏で雷光がきらめく。瞼のシンジと瞳に映る老人の顔が完全に溶け合っている。

(碇君…優しい人。ポカポカする人。そしてたぶん、私が愛している人)

 大好きなシンジと大嫌いな老人は一つになった。
 二人が同じなら、犯されたって、おかしくはない。

 大嫌いで、大好きで、優しく、乱暴に、理不尽に、運命的に、愛されて犯される。

(それは、とてもとても気持ちの良いことだもの)

「あぅ……ううぅ…っ」

 老人の腰の動きが激しさを増していき、吹っ切れたのかそれとも…正気を失ってしまったのか。レイは顔を紅潮させ、うっすらと笑みさえ浮かべながら積極的に老人の陵辱を受け入れた。柔らかく包み込みながら老人の一物を秘所が締め付け始めていた。

「ひぁ…………だ…………め…………き、くっ…る。……ああ……ん、あぅ……………はぁ」

 目を飛び出すように見開いた老人は、狂おしいほどの快楽に言葉を無くしていた。快楽に翻弄され、正気を無くしていたのはレイだけではない。

『も、もう駄目じゃ。せ、精液、ザーメンを、おまえの中に…!』

 股間の一物が自分のモノとは思えないほどに熱く、硬くなっていく。背骨と腰が悲鳴を上げるのもかまわず、老人はレイに顔を近づけ、強引に唇を奪った。

「あ……………んんっ」

 驚いたように一瞬目を見開いたレイだったが、静かに瞼を閉じると自分から舌を差し出し、自分から積極的に男のキスを受け入れる。舌と舌が絡み合い、唾液がお互いの間で交換される。唇が触れあい、歯と歯がぶつかって小さくカチリと音を鳴らし、痺れるような刺激に顔全体に火がついたように感じる。

「ん………んぐっ、うんんっ………ううん、うっ。………んぅぅっ!」

 キス…シンジとする大切な儀式。シンジとキスをしただけで心が温かくなり、体中から力が抜けていく。だから老人とのキスも、とてもとても気持ちの良いこと。

『む、じゅぶ、ぶおっ!?』

 想像以上に積極的で甘美なキスは老人にも予想外だったのだろうか。不意打ちの快感に、鉄の意志で錠前はあっさりと解除された。老人の股間にお馴染みの痺れが走り、そして、彼が驚くほどに大量な、子宮に溢れる熱い迸りがレイの胎内に流し込まれていった。

「んんっ! んっ、ふむぅ―――っ!」

 唇を奪われたまま、レイは胎内に溢れ、染みこんでいく精液に圧倒された。全身を小刻みに震わせ、喘息患者のような不規則な息をしながら嵐となって血管と神経を浸食する絶頂に悶える。それが「イく」ということだと理解することもできず、レイは全身を硬直させ、大きく一度ブルリと震えた。

「は………あ……………」

 小さく呻き、ぐったりとレイは倒れ込んだ。まだ一物が挿入されたままの秘所が精液を全て搾り取るように締め付けている。だが、当のレイは肩で息をしたまま、うっとりと老人の胸に頭を預け、息も絶え絶えの様子だ。
 絶頂の余韻にぶるぶる震えながら、レイの意識は夢界を漂っていた。
 そして、自分がもう組織の手から、快楽という淫獄から逃れられないことを悟っていた。

(もう、だめなの…ね)

 調教師が何度も何度も繰り返していた言葉が響く。

 隷奴になれ。
 男と見ればまたを開く淫乱ではない。拒絶し、嫌がり、抵抗するだけではない。
 嫌がり、拒絶しつつも男を誘い、その欲望を完全に満たす禁忌の隷奴となれ。

(隷奴…に、な…れ)

 もう、戻れない。たとえたった今組織が壊滅し、助けが来たとしても…もう自分は手遅れだということをレイは悟っていた。行為が終わると同時に、老人とシンジの混同は収束していた。なんでそんなことを思ってしまったのかさっぱりわからない。今となっては憎しみと嫌悪しか感じない。老人の存在も何もかもが恨めしく、呪わしかった。それなのに、老人に全身を預けて、揺りかごに包まれたような気分のまま甘ったるい喘ぎ声を出していることしかできない。

(私は、どうなったの?)

 どうしようもなく恐ろしかった。自分が自分でなくなっていく。

(調教師が、言うみたいに、隷奴に…なってしまったの?)

 たぶん、きっとそう。

 碇君 ――― 心の奥で小さく呟く。そして絶頂の揺り戻しに体を震わせると、小さく、レイは嘆息した。












初出2010/02/17 

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