INNOCENT TABOO case Asuka & Rei



泡姫美少女中学生、被虐の刻印

「別にここのベッドが本物のお化け屋敷みたいにボロボロでもさ、関係ないって」

ととんっ、と軽快に駆け寄って来て、リュックサックを背負ったムサシがアスカをからかった。

―― っ」

苦く甘美な錯覚に囚われていた一瞬は消え去った。
聞こえた気がしたレイの悩ましい吐息も、名残とて残っていない。
アスカが居るのは、数年前に閉鎖された保養所。廃墟と呼ぶにはあまり荒れた感じがしない、そのフロントだ。
碇家のバスルームではない。
隣にいるレイも、そして目の前にやってきたムサシもきちんと服を着ている。膝を出したいつもの制服半ズボンではないが、小学生の遠足スタイル定番である、動きやすいジャージの上下。
ハイキングに向いた格好は、この子らの親にどんな説明がなされているのかをアスカに想像させる。
彼女自身の場合、母親は古い付き合いのユイの名前だけで簡単に首を縦に振ったから、特に偽装を凝らすこともなかった。
不自然に着飾って見られるの避けたので、とっておきの黄色いワンピースではないが、スカートと揃えたデニムジャケットはシンジと買い物に出た時に買った物。着た姿ははじめて見せる。
下に着た黄色のシャツは、少しだけ胸元が大胆なものだ。
付け加えるなら、ジャケットと同じ意匠になっているこの膝上丈のスカートは、前をボタンで綴じ合わせる造り。
その気になればだが、つぷつとボタンを外していって大胆に太腿を見せることも、更に上まで開いてしまって下着に包んだ恥丘を丸出しにしてしまうことも、そのまま最後まで外して落としてしまうこともできる。

実質ユイが保護者になっているレイは泊まり掛けで出掛ける―― それもシンジと―― というイベントに意味をどう見出しているのか、いないのか、普段の格好とあまり変わらない。
無地のシャツと、チェックの入ったスカートは、どこかの私立の制服を思わせた。
実に無造作で、泊まり用の大きめのバッグを手にしていなければ、そこらへの買い物とそう変わらない風。
もの自体は決して安っぽくもなく、確かなものなのだけれど。

それでも、ムサシはいかにも嬉しそうにレイの格好を褒めた。
殆どが学校帰りに行われる『レッスン』だから、彼らに私服を披露することはあまりない。だからだろう。
アスカの服装にも、すぐにその造りに気付いた様子を見せ、物分かりの良いといった顔で意味ありげに頷き頷き、鑑賞していた。
しかし、いくら褒められてもアスカには嬉しくない相手。
まして、シンジよりも先に褒められてしまったのも面白くなく。あっちに行きなさいよとばかりの無視も通じぬと諦めてからは、自分たちで場所を変えるがてら、フロントからすぐ上がれる客室フロアへと散策の足を向けていた。



◆ ◆ ◆

「待て待てってさぁ。ほら、あんまり使ってない辺りとか行くとさ、割れたガラスとかそのままになってるかもって、先生も注意してたろ?」

日に焼けた悪ガキ大将らしい容貌に似つかわしく、体力に不足は無いのだろう。
ムサシの背中から小山のようにはみ出すリュックは小学生には大きすぎる気がするも、埃っぽいカーペットを踏む足取りに危なげなところは無い。

「そんなに慌てて確かめに行かなくても、心配無用なんだって。今晩のアス姉やレイ姉には、さ」

さっさと顔の見えない所に行ってしまいたいアスカやレイの行く手を遮るように、前へ回る。
『邪魔よ』と言われるより先に後ろ歩きに切り替えて、三歩程度の間隔をキープ。あくまで彼女らの目の前からは退こうとしない。
上級生コンビの美人な顔を見上げながら続けるのは、いつものニヤニヤ笑いだ。
またこいつらか……と、アスカらの方は実に嫌そうな仏頂面であるのだが。
本気で睨めば壱中の教師すら口を噤む、強い癇気の持ち主にも、ムサシはと言えばすっかり舐めきった態度。

「なぁ? ケイタ」
「ん、そうだね。そうだと思うよ。気にしなくても良いんじゃないかな」

いつも二人組で行動しているケイタもやって来て、彼が執心らしいレイの横に付いた。
イガグリ頭をしたこちらの少年は、中学の先輩達の前へ立ち塞がったりするほど露骨さは見せない。が、似通った馴れ馴れしさを感じさせるのは変わらなかった。

「ねぇ、レイお姉ちゃん」

レイは友人扱いをしたことは一度もないし、ペットに向ける程度にすら優しい目を向けたこともないのに。
飼い犬あたりが上機嫌に尻尾をふりふり主人にそうしていそうな、近すぎる位置。
それだけの接近が自分には許されると考える者のする、壱中で『クール綾波』信者を自称する連中あたりなら嫉妬垂涎モノの、至近ポジションだ。
クラスメイトとして過ごしている男子達であっても、同じ真似をしようものなら、レイがそんな渾名を奉られた所以たる無言のプレッシャーでもって、いたたまれなく追い返されるだろうに。
だが実態として、それが彼女らとムサシたちの間に培われた距離感というものだった。

「だってさ、俺らと一緒にお泊まり、なんだぜ? 今晩は。このいかしたラブホテルでさ」
「……っ」

とっさに出ない言葉。
いつの間にか乾ききったアスカの口の中、舌も強ばったように。
よほどでなければ万事を無表情でやり過ごす相棒も顔を顰めつつ、『ホテルではないわ』と、いやらしい思惑を丸出しで増長するムサシたちに釘を刺そうとしていたが、アスカは何のあしらい方も浮かばず、詰まってしまっていた。

「ん、たしかに。ラブラブする方のホテルじゃないよなー。でも、変わんないだろ」

子供っぽい決めつけで言うムサシだけれども、大雑把に指しての言葉には、レイも上手く返せないでいるようだ。
確かに、カーペットが敷かれた細い通路の左右にずらずらと長く、客室のドアだけが続いている様子は見た目に同じ。ホテルと呼んでも、間違えだと言えたのか。
小学生の子供に保養所との違いを言っても仕方がないし、じゃあ何が違うのか、そういや旅館とホテルも何が違うの? だのと、更に質問を重ねられると、口下手なレイとしては弱る話だ。
助け船を求めた気配もあったが、アスカはアスカで苦手意識を覚える話題の向き。
「ホテル」という単語をムサシたちに口にされてしまうと、思い出さずにいられない嫌な思い出もあるのである。

「朝までずっと一緒なんてのは、暫くぶりだよね」
「いつだっけ。ユイ先生と一緒に海に行ったよな。すげー立派な、外国のみたいなホテルでさ。アス姉も覚えてるだろ? そこで俺たち、はじめてのセックスしたんだもんな。……へへ、思い出の初夜のホテルってやつ?」

動揺してはいけない。少なくとも、顔に出してはいけない。
そうと良く分かっていて、己に言い聞かせようともしていたが、アスカが思い通りに出来たものかは、益々ニヤけ面が憎々しさを増すムサシの態度が物語っていた。
にやけた顔をいつまでも眺めさせられるのも流石に不快で、アスカは結局くるりと踵を返し、元来た道を戻るしかなかった。

「あー、よく考えてみれば初めては朝だったから、初夜とは言わないか。朝這いじゃなくて、やっぱ夜這いにしとけば良かったな」
「ユイ先生、起こしに行けって言っただけだったけどね」
「怒られなかったし、アス姉もレイ姉も文句言わなかったからアリだろ。へへ、二つ並んだベッド両方で、タイプ違う美人ねーちゃん達にアヘ声上げさせるってのも、無茶苦茶楽しかったよなぁ。ケイタ」
「……許した覚えはないわ」
「そりゃ、いちいち口で言ってもらわなくってもさ、分かるってのが―― あるじゃん? 特に、俺らぐらいのカンケイになるとぉ♪」
「レイお姉ちゃん、可愛かった……」

テレテレと言うケイタが、黙って引き返すレイの手を握ろうとしてくる。
弟の手を引く姉の図、などという微笑ましい構図になるには、ねだってくる弟役のケイタの上目遣いが、あまりにいやらしかった。
ムッとして振り払うレイだったが、ケイタは気を悪くした風でもなく、少し足早になった彼女の後を付いていく。
彼ら曰くの「初夜」、すなわち、『レッスン』をあくまで意中のシンジを相手にするに必要な技術、知識のための予行の場としていたアスカたちの「けじめ」が破られた一件。思い出話だといって盛り上がられたのでは堪らないこれについても、道すがらの口慰みにしようとしてか、止める気配一向に、である。

「……やめて」

堪らず、レイでさえ制止が出る。
吐き捨てるような声色だったとて、ムサシやケイタにしてみれば「相手をしてくれた」だ。
つけ込んでくるし、調子づく。
―― けっして、反応してやってはいけない。
一線を越え、実態としても彼女らにとってでも「深い関係」となってすら、避けるよう心がけていたことなのだが、それでも言わずにはいられなかったのだろう。
ある意味もう今更なムサシ達だけではないのだ。この場は。

(あ、やだ……)

ふと見れば、引き返してきたフロントで、各々少し離れてグループを作っている子供達がちらちらとアスカらを窺っていた。
いずれの顔にも馴染みはない。
それぞれでおしゃべりに興じているようでありながら、隠しきれないこちらへの興味が窺える。
名前の紹介もまだ済まない間柄。そして、小学生にとっての中学生という、年上へゆえの遠慮か。直接声を掛けるのは躊躇している様子。
それでも、盗み見るようにしてくる顔に揃って浮かんでいるのは、はじめて引き合わされた時のムサシやケイタと同種の期待である。
マナの小さな姿が混ざる女の子だけのグループにもそれは見付けられるのだから、男子に限ったものですらないようだった。

『ええっ、ほんとぉ〜!?』

何事か身振り手振りを交え、こちらを指さすマナ。と同時に、友人らしい彼女たちが揃って目を丸くし、視線を向けてくる。
自分たちの噂なのだろうが、マナは一体なにを話したのか。
またぞろ、不安というか、落ち着きの悪さが首をもたげてくる。
自分たちは揃って人目を惹くと、自覚、自負の類はあった。
だから通常であれば、あの手の視線やひそひそ話は、この図抜けた容姿への憧れなのねと、かえって良い気分にもなれるものなのだが。
しかし。
マナの披露したらしい何らかの話に驚いた顔でいた少女達は、そこを境目にしてやや様子が変わったと感じられるのだ。
きちんとジャケットの前を閉じている胸の辺りやスカートの付近を、やけに舐め回すように。そして一緒にいるムサシたちとアスカたちを交互に見やり、比較して半信半疑の何かを見定めるかのような、そんな目付きに。
興味津々に目を輝かせる一方で、頬をポッと赤らめてもいて。マナの話す一言一言にどよめきさざめき、そしてムサシ達が声高にアスカやレイとの思い出―― 彼らにとっての武勇談―― を蒸し返す内容へ側耳立てては、『いやだぁ〜』とはしゃぎ立てる、黄色い声。

(どうせ……)

マナにもムサシらと同様、アスカは色々と知られてしまっていた。
なにしろ、ムサシたちと同じ歳の小学生の癖に、ユイから一足早くレッスンを受けてシンジを誘惑したマセガキで、後塵を拝したアスカらにとっては「先輩」。
淫らな訓練を受ける仲間同士となってからは、機会を共にすることも多い。
そのお陰で、女の子同士で性器の舐め合いまでした仲なのだから。

(あいつらもおばさまの生徒なら、聞いても意味が分からないようなお子様、なんてことはないだろうし)

マナも仲間に聞かれただけ、アスカたちのことを教えるのだろう。
彼女が分別のない、口の軽い女の子だということはない。それはアスカも認める。
鼻持ちならない悪童のムサシや、ケイタだってそうだ。
いずれも歴としたユイの教え子であり、やって良いことと悪いこと、秘密を守る重要性については叩き込まれている。
「生徒」間でも秘密にすべき事柄はあると言い聞かされている筈だけれども、こうして直接顔を合わせる場面が出来たからには、口を噤んでおく必要も無いと判断されて当然。
改めて制限を申し渡されでもすれば別だが、日常生活で接触することも殆どない彼女たちは、例えばアスカにとって緊張すべき鈴原トウジや相田ケンスケなどとは事情が異なる。
となれば、『わ、綺麗なひとぉ』と騒いでいた彼女らに披露するには、さぞや食い付きの良い話題となること請け合いだ。根がおしゃべり好きなマナが、ねだられて応えない理由は無い。
様子を窺えば、目の合ったマナがにっこりと、いかにも屈託が無いように見える笑顔で目配せを返してきた。
霧島マナのグループの女の子達だけではなかった。
今や、20名近い子供達の殆どが、飛びっきりに美しい上級生の二人と、その彼女たちを「やさしく調教してやり」、「メス奴隷がご主人さまにするようにご奉仕してもらっている」という自分たちの仲間に、憧れの視線を注いでいた。

「バスの中でも、こちらを気にしてる子が多かったわ」

ぽつりと、レイが言った。
その表情からは嫌がっているのかどうなのか、アスカにも想像が付かない。
だが、言うまでもないのだろう。
同じ場所に来て、同じツアーに参加した者同士。アスカもレイもまた、彼ら彼女らと同じ穴の狢でしかないのが、客観的な事実というものだろうから。

(……やだ)

アスカはまたスカートの内側、バスに揺られている間中からフィットしない違和感がつきまっていた下着のあたりを意識した。
他にしておけば良かったのに。なんでこの、際どいショーツを選んでしまったのか。
さんざんに悩んだお気に入りの一枚。
結局はマナをはじめに小さな女の子達も来るからと、見栄を張ったものだ。
ユイの薫陶からか上品ながら大人びたデザインを履くレイを普段から見ていて、いざ一緒に旅行に行くのならという負けん気もあった。
しかしそれは、同性に向けた勝負に留まらない予感があったからではないか?

碇ユイ主催の英会話教室の、懇親旅行。
あの「おばさま」の、アスカやレイにいやらしいレッスンを施してくれる淫らなひとの、誘った一泊二日。
共に来たのは、ユイの介添えで処女を捧げたシンジだけではない。
いつの間にかなし崩しに、そしてアスカ自身の否定できない淫らさが理由で、こちらともずるずるセックスを重ねてしまっているムサシとケイタ。
同じようにシンジに抱かれ、ムサシたちとのセックス修行を続けるレイもいる。
悪ガキ二人組と同い年のマナだってそうだ。
であるなら、やはりユイの教え子だという少年たち、少女たちも似たようなものと見ておいて良かろう。
実質的には乱交グループでしかない集団の中に、アスカは参加している――



◆ ◆ ◆

「ねえ、ねえっ」

いつしかアスカたちは、ムサシとケイタを押しのける勢いで近寄ってきた子供達の只中に立たされていた。

「お二人って、ユイ先生の息子さんのガールフレンドだって話なんですけど、ほんとなんですか?」
「あ、知ってるー。今日一緒に来てるよね。シンジ先輩のことでしょう?」
「うっそ、こんなチョー美人なのに、シンジ君みたいにぱっとしないやつと付き合ってんの? 俺のカノジョになってよー」

ぽっちゃりとした少年が、『違うわよっ。まだ決着付いてないだから!』と抗議するマナに大笑いしつつ、自分をアピールするかのようにグイグイと寄ってくる。
彼もまたすぐ別の少年に脇へ押しやられ、さながら一種の、アスカとレイへの挨拶、自己紹介の場と化した感があった。

「腰、高ぁーい。足、長ぁー」
「赤い目、うさぎさんみたいなのね」
「へへ、でもこんな綺麗な先輩たちが俺たちの仲間なんだなぁ」
「ユイせんせーも美人だし、赤木先生ンとこのマヤさんだって美人じゃん。おっぱいちょっと小さいけど」
「あれ? だったら赤木先生は美人に入んないの?」
「綺麗だけどさぁ、怖ぇーし。俺、苦手。こっちの惣流先輩のが好みだな。マジもんの金髪だし。……ね、やっぱ下のお毛々もキンパツなの? 見せて欲しいなぁ」
「ばっか、ああいう凄みのある美人にさ、跪いて貰ってフェラしてもらうのが堪んないんじゃねぇか」
「ちょ、ちょっとアンタ達……」

最初あった遠慮も、その場の盛り上がりに任せてどこかおざなりに。
自分の肩ぐらいまでしか背のない子供達だといっても、こう囲まれてしまうと圧倒される。
しかも、次第に話題はエロティックなものに―― アスカもどこか聞き覚えのある別の大人達の下品な噂まで混じった、際どいものになっていくのだ。
当然、その俎上にアスカ達自身が上げられるのも、避けられようがなかった。

「ってことは。な、ムサシ。お前らも当然しゃぶってもらってんだろ? このガイジンの先輩にさ」
「へへぇ、当ったり前だろ〜? アス姉やレイ姉には俺たちがフェラテク教えたようなもんだしさ。も、毎回のように飲ませまくりだってばよ」
「うーわ」
「やぁ〜だぁ〜!」

少年らのどよめきと、女の子達の黄色い声が上がった。
カァッと、アスカの頬が熱くなる。
『げひひ』といやらしく胸をそびやかすムサシには、子供達から尊敬にも似た眼差しが向けられた。

「ムサシ! アンタ―― って!?」

怒鳴りつけようとしたところで、アスカはたじろいだ。
さわがしい笑い声達にも混ざらず、眼鏡を掛けた大人しそうな顔をアスカに負けず赤くしながら、じっと見詰めてきている少女に気付いたのだ。
彼女をまっすぐに吸い寄せているのが、まさに今し方卑猥な自慢に供された自分の唇だと悟り、アスカは慌てて顔を背けた。
ここで手をやって口元を隠すのは、あまりにあからさまで、却ってからかわれやしないだろうか……。
隙を見せまいとやっきになるアスカは、そのことでも身動きが取れなくなっている。
そこにだった。急ににゅっと、一本の腕が突き出されてきたのだ。

「ね、ね、惣流センパイっ。良ぃ〜いモン見せてやるよ。ほら、これこれ」

さっきの小太りの男の子だった。
拳骨を握ってはいても、別に殴りかかってきたわけでも、もっと失礼な意図で触ろうとしてきたわけでもないらしい。
言って、ジャージの腕を肩までまくって見せる。
『……は?』と見返してみても、よく意味が分からなかった。
脂肪の付いた、ただぽっちゃりとした二の腕だ。いかにも運動とは無縁そうで、なまっちろい。

「バカ、暗くしろって。暗く。あとライト要るだろ?」
「そうだった、そうだった。えーと、そうだ、端っこの方行こうぜ。あっち暗いし」

よしと頷いた子供達の盛り上がりぶりに背を押され、アスカも付いて行かざるを得なかった。
レイも戸惑いながら連れて行かれている。
ちゃっかり手を握って引っ張っているのはケイタだ。
そしてフロントも端の方へ行くと、窓にトタン板が打ち付けられており、夕方だという時間以上の薄暗さがあった。
ドヤドヤと喧しい輪に包まれた形で移動したアスカたちは、あらためてそこで、誰かが荷物から持ってきた奇妙な懐中電灯に照らされ、少年が自慢したがった物が何だったかを見せられた。

「これって……」
「……刺青? でも、さっきは見えなかった……」

レイも息を飲んでいた。
放たれる明かりはやけに青白く、通常のものではない。
だからこその効力か。太めの二の腕から肩にかけて、無かった筈のものが浮かび上がっていたのだ。
ライトを浴びた途端くっきりと、肌に輝き出した文字達。光それ自体が凝縮されたかの青白い蛍光色で、記されていたのは短い一文だった。
『ユイ先生命』と読むことが出来る。
自慢げにぴくぴくと鼻の穴を膨らませつつ、彼が説明を添えた。

「ブラックライト・タトゥーって言うんだぜ?」

タトゥー。やはり、刺青の類か。
つまりは、おそらくは彼の童貞を奪って快楽に満ちた大人の世界へ踏み入れさせたユイに熱を上げて、のぼせたまま入れてしまったのだろう。
―― 子供の癖に。まずそう呆れが湧いた。
こんなのを許すなんて、おばさまも何を考えているのかしら?
さすがに不信が込み上げる。

「……軽々しくするものじゃないわ」

レイが眉を顰めていた。
彼女がユイの親戚だとは、そのよく似通った顔立ちからも分かることだ。
ムサシやケイタが最初苦手がっていた一つの理由に、不機嫌にさせるとまるでユイを怒らせたかのように感じるせいがあった。

「ち、違うって」

慌てたように周囲の子供達も弁解した。

「これ、その内消えちゃうインクなんだよ。なんか、はじめはお風呂に入っても消えないけど、半年くらいしたら段々薄くなっていって、消えちゃうって」
「最後には跡も残らないっていうからさ。半年かそこらぐらいなら別にいいかな、とか思って」
「で、アンタらも入れてるってわけね?」

確認するアスカに、驚いたことに何人かの女の子までが頷いてみせる。
聞けば、以前にユイが連れて行った怪しげな「フリーマーケット」で入れたらしい。
ユイの仲間や、その同志とも言うべき性的倒錯者達の大規模な結び付き―― ネットワークが開く、互助イベントのようなもの。一般的な手段では手に入らない道具やノウハウを融通しあい、様々な変態趣味を満たすための催しが開かれる、そこで。

「なんか、ユイ先生の知り合いだっておじさんが露天出しててさ。簡単だから、って」
「……あり得ないわ。だって、刺青よ……?」

いかにも気軽に言う様子に、アスカの抱く刺青への重苦しいイメージと通じるものは感じ取れない。

「そういえば、インスタント・タトゥーなんてのをファッション気分でしてる子達もいるって聞くけど……」
「そ、そそそ! そーなんすよ、先輩。こんなの全然大したことないって」

かつて、犯罪者のシンボルそのものとして刺青が扱われていた時代に生きた親たちの感覚を、アスカは受け継いでいる。
けれども、もっと若いムサシたちの世代では違うのかもしれない。
ううん……、と唸りだしてしまったアスカに、小太りの少年が『だって』と言葉を重ねた。

「興奮するんだぜ? すっごくさ。……ほら、見ろよ」
―― きゃっ!?」

言うが否や、振り向いて手を伸ばし、一人の女の子を前へ引っ張り出した。
先ほどアスカたちにさせるフェラチオ奉仕の具合についてムサシが披露し、仲間を湧かせた時、彼女の唇をじっと見詰めていた少女だ。
前髪を眉のラインで切り揃え、他は日本人形のように長く伸ばしている。
少しだけ、眼鏡の下の怖じ怖じとした上目遣いに、シンジに似たところがあった。

「こいつ、俺たちとケーヤク、しててさ」
「あ、そんな……。いやです……」

真っ赤になってそう身をよじっても、本気で抗う様子を見せない少女を両サイドから押さえ付けてしまって。アスカが止める間もあればこそ。
くるりと後ろを向かされた少女は、そのままジャージのズボンを細い太腿まで引き下ろされてしまった。
殆ど同時に、また別の手で可愛らしいバックプリントの入ったパンツまでが、脱がされてしまう。

「え、ええっ!? ウソっ、この子……!」

つるんとした小振りのお尻が丸出しだった。
そこにまたブラックライトの懐中電灯が向けられて、丁度尾てい骨の辺りに文字と記号が浮かび上がる。
記号は矢印。下向きに指す先はスモモを思わせる谷間に隠されたアヌスだろう。
そして文字は二行、『2015年×月×日開通』、『5年3組有志、責任調教』と刻まれていた。

「ああん、やだ……恥ずかしい……」
「これって……」

か細く言う少女の顔も真っ赤だが、目撃してしまったアスカも、これ以上なく赤面してしまっていた。
しかも少女の態度に、本物の拒絶は結局浮かんでいない。

「へへ、こいつ良いとこのお嬢さまなのに、すっげーマゾでさ。ビデオとかでSM奴隷のタトゥー羨ましそうに見てたから、俺たちでお小遣い出し合ってイレズミしてやったんだよ」
「首輪もプレゼントしてあげたんだよ。それで付けるとこビデオに撮ってさ、ユイ先生みたいな牝ドレイ契約の誓いってやつ、させたわけ」

信じがたい話ではある。
少年達とはクラスメイトだと言うからには、やはり彼女も見かけ通り話にならない年齢なのに。もうそんな、大人顔負けの倒錯した性に魅入られてしまったというのか。
聞き辛さを感じつつも、アスカは尋ねてみずにはいられなかった。

「あんた……。それで良かったわけ? その、こいつらに……一度に何人も相手にしたりとか、お尻でとか。第一、奴隷だなんて……」

普通にボーイフレンドを作ったりすることを、考えていないのだろうか。
たとえ、「ゴッコ」の要素が強いものだったとしても。クラスの男子達に共有される性奴隷に志願してしまうなんて事をしていたら、まともな恋愛が出来るチャンスなど、掴めないのではないのでは。
押さえ付けられ、恥ずかしそうにしながらも、どこか恍惚として見える潤んだ目でいるのだから、信じがたい思いに空恐ろしさも混じる。
それとも、こうでもしないと叶いそうにない酷い恋を、この子もしているというのか――

「どうだよ? お前。惣流先輩と綾波先輩に恥ずかしいケツマンコ見て貰ってさ。感じてるんだろ? わたしは皆様のいやしいアナル奴隷なんですぅ〜って、言ってみろよ」
「……ぁ。は、はい……」
「ちょ、アンタたち……?」
「いいんです。み、見て下さい。惣流せんぱい……。私の、このいやらしいアナル奴隷の、その、本性を……」

歳不相応なエロ知識を蓄えた同級生達に仕込まれたらしい、自虐的なセリフ。
つっかえつっかえでも、変態趣味を告白する口上に躊躇いは窺えなかった。
もう捕まえておいて無理矢理にしなくても良いと見た周りが離れると、おずおずと自分で手を伸ばし、可愛らしい尻たぶを左右に引っ張ってみせる。
そして、ペニスどころか指一本入るかどうかというちんまりとした肛門と、その下の無毛のスリットを差し出してきた。
言葉の通り、見て下さいと。

ユイの生徒、そしてこんなものまで肌に入れて、アナル奴隷ですなどと口にするのだ。当然、処女でもないのだろう。
驚くべき事にたったこれだけやり取りの間に、もうこの子の秘裂にはうっすらと、ブラックライトを反射させる潤いの兆しが浮かんでいる。
この少女は、ムサシやマナと同じくらいの小学生なのに、肌に自分をこうも辱める証拠を刻んでしまって、それでうっとりとした息まで漏らしてしまっているのだ。

「信じらんない……」

この子がこれなら、さっき私もと言っていた他の娘達の肌には、どんなタトゥーが入れられているのやら。
思わず口をついて出たが、実のところには肌寒さを伴う納得もある。
早熟すぎる性に幼い身を焦がす子供たちなんて、今や別に、アスカには驚くことでもないのだから。

ムサシにケイタ。子供の頃から出入りしているユイの家で、尊敬できる立派な大人だと思っていた彼女といつもセックスをしている二人は小学生だ。
マナもそう。
そしてシンジ。事もあろうに実の母親に導かれて童貞を卒業した彼だって、中学生にすぎない。
まだ子供だし、法律で一応結婚できますとなっている歳にも届いていない。
そんな中学生にすぎないシンジが更にまた、もっと幼い子供達に混じって母や小学生のマナを抱いている。
そのシンジ目当てで、この頭のネジの外れたセックス集団の仲間にしてもらったアスカやレイたち自身にしても、十四でロストバージンしました、アナルセックスもしています、乱交だって日常茶飯事です、だなんて、世間にとても言えたものではない。

言ってみれば呟きは、かつては恥じることの一点も無かった生き方の名残が、悪徳へ身を沈めた今のアスカにさせたもの。
未だ吹っ切れない良識。現状の異常さへの、開き直りきれない嘆き。清く正しく生きて、恋愛小説のようなステップアップで想いを実らせたかったという、未練。
そういったようなもの。
けれど、アスカの堕落の一部始終を知るものにしてみれば、ただの偽善にしか見えないもので。
十数年間ずっと「良い子」で過ごしてきたアスカが、咄嗟に昔通りに自分を取り繕おうとした姿など、ただみっともないだけでもあった。

だからついつい、ムサシなどは嗜虐心を疼かせるのである。

「そう? そうでもないだろ。信じられないってことは無いと思うんだけど、お二人さん」

にいっ。いじめるのに良い取っかかりを得たとほくそ笑む様子は、悪だくみ中のガキ大将そのもの。
年下たかだか11歳の小学生なのに、さんざん痛い目を見せられてきたアスカを、それだけで不安に落とし込む。

「な、なによ。何が言いたいってのよ」

表向きには申し分のない優等生で通るアスカたちの、裏の顔。一途な恋がいつしか歪んだマゾヒズムにさえ繋がった性遍歴を、傍らでずっと見てきたのがムサシだ。
こんな場合、指摘してやるべきはと、当然心得ている。
たっぷり気を持たせるように間を取って、ちらり思わせぶりに顔を向けたのは、ぽっと頬染めながらも静かに佇んでいた、線の儚げな美少女の方。レイにだった。
つうっ……と視線を這わしていって、私立の制服めいたチェック柄スカートのあたり。覆い、包む布地を通して、そこにひっそりと隠されている筈の、レイの薄いヘアの生えたあたりに目を留める。
密着で寄り添っていたケイタが相棒の意図に気付き、くくっと薄く唇を釣り上げた。
そのまま、一方的に握っていた手を放して、膝上丈のスカートから守られていなかった膝へ、白い雪のようにすべすべとした太腿へと、一瞬で撫ぜ上げて、不躾に侵入させる。

「……あっ」

スカートの中に忍ばせてしまえば次にはもう、薄い布きれの上を好き勝手にまさぐりだす蛮行。
ぶるぶると震えるヒップ、ショーツの前、そして特に過敏に反応した底部のクロッチにと。
人形めいた雰囲気をやはり女の子の身体として裏切るやわらかさに、たっぷりと掌を押し当て、指もぞつかせて。
そんな暴挙同然に出たのは、不意のことに『……あっ、っンぅっ』と唇を噛みしめるレイがいくら柳眉を逆立てさせても、すぐにそれどころでなく慌ててしまうと読んでいたからだった。
果たして、ニタリと放たれたムサシの言葉、

「実体験からって言うか、特にレイ姉は、さ」
―― っ」
「共感、出来ちゃうんじゃね?」

即座、思い当たるものがアスカの脳裏にも。
ブラックライト・タトゥーによるアナル奴隷の刻印を晒していた少女から、一時にして皆の顔が向く中心を移されたレイは、完全に動きを凍らせてしまっていた。

「れ、レイ……」

アスカもまた、息の止まる思い。
自分のことではないとはいえ、レイは大切な親友なのだ。
―― だから、止めときなさいって言ったのに。
それは今更に言おうにもやるせない非難であり、悲鳴であった。
こんな薄暗い場所でも、普段が普段の青白い肌をしているものだから余計に目立つ紅潮を、首筋にまで示してしまって、

「…………」

無言で羞恥に俯く親友が、それでも決して後悔していることは無いと知っているアスカは、呻くしかない。
そうして、子供達が軌道を外れようとする熱い息遣いでざわざわと見詰めている最中。
二十人で一箇所に集まった密集ぶりが幸いのものの、それでもいつ気付かれてしまうか、気付かれずにやり過ごせるだろうかの煩悶に、レイは身を捩る羽目となってしまった。

「っ、ッぅううう……ぅ、や、やめて……」
「んー? 別にさ、気付かれたって困ること無いと思うんだけど。ここにいるの、みんな仲間なんだよ。お姉ちゃん」
「だからって……」
「ふふ、でもお姉ちゃんが嫌だって言うなら、僕も今は秘密にしててあげるね。……ココ、のこと」

レイのスカートの中で、最も体温を上げてしまっている場所。そこにケイタの指先が忍び込んで、もう密かに撫ぜ回すといった域を越えて、完全な前戯としての動きで探り回っている。
クロッチの縁を潜った中指なぞは、必死に力を込めた股の付け根にお尻の方まで『ズ、ズッ』と強引に長く、全関節を伸ばしてしまって。緊張するレイの秘唇を端から端まで、芋虫の蠕動さながらに擦り上げる。『くにゅり、ふにゅ、ふにゅにゅ……っ』と、綴じ合わされた隙間に少しだけ覗く花びらを、揉みほぐす。
薄い小陰唇は、マナらのようにやっと十歳を過ぎたかの幼さに比べれば幾分大人だとしても、それでだって未発達もいいところ。
しかし、女の子の一番敏感な場所を構成する一つなのだ。
切ない感覚が否応なしにわき起こってしまい、発汗と共に少女の甘い体臭が立ち上る。

「はぁ、ぁ……。ああ……」

刺激されもしない胸の先端には、しくんと動揺を誘う疼きが。
加えてはケイタの親指が、その腹でもって更に増して敏感な部分を襲ってくる。
早くもじっとりと愛蜜の湿りを帯びだしたショーツの上から、はじめはそのシミを拡げる動きで。しまいにはこれも薄布と素肌の間に隙間をこじ開けて直接、屹立しかけたクリトリスを嬲ってくる。
そして其処、小粒な真珠に似た肉芽から剥いてやる包皮にこそ――

「そう、ここの、コレのことは、ね♪」

―― ッ、っッ、くっ、うううぅんっ……!!

懸命に息を殺し、レイは俯かせた火照り顔に普段通りの表情を保たせようと苦闘する。
ふら、ふらりと力が抜けそうなところを、なんとか踏みとどまり続ける足下。支えるべき、スカートから覗くほっそりとした脚自体すでに、小刻みに震え続けている。
不埒者への折檻を加えるべき繊手は、スカート地をぎゅっと握って、淫らにうねらせたくなる腰を堪えることで手一杯。
我慢しないと、みんなおかしいって思うわ。がまん、しないと……。
レイは必死だった。
いやせめて、押し殺しきれないのなら、ムサシにからかわれて恥ずかしがっていると思わせるぐらいにはと。

それも所詮は、だった。
どんな小声にひそめてみても、これだけ近ければちゃんと聞き取れてしまう。そんな当たり前に気付けない辺りの限界。
お尻を丸出しにしてしまっていた少女も、もう体を起こして向き直っていた。膝まで下ろした剥き出しの下半身はそのまま、レイの方に。
レイはもう、まともに頭を働かせる意志の力というものを、乱されきっていたのだった。
スカートに肘まで突っ込んで、下着の中を玩んでいる小さな掌に。実質の所、そのたった二本の指に、である。

(レ、レイっ……。馬鹿ぁっ、なんてエッチな顔しちゃってんのよぉ)

愚かにもまるで気付くことの出来ぬまま、寡黙な美貌を、見紛うばかりの官能的醜態へ歪ませている親友。
『うわぁ』とも、『やだぁ』ともつかぬ、入り交じった欲情の感嘆。子供達のざわめきを感じつつ、もうどうにもならないと捨て鉢な気分にさえなるのが、レイの一足先の陥落を見せつけられつつあるアスカの、歯軋りする胸中だった。

的確に弱みを突いてたじろがせる、言葉責め。
力任せの派手な動きをせずとも、たちどころに少女の身に官能を呼び覚ます指技。
いかに壱中指折りの優等生、『氷の綾波レイ』だとて、馬鹿も同然に頭をおかしくされてしまう、テクニックの数々。
それをユイから伝授された子供達が、今日は常の二人どころではない。
男女入り乱れて、二十人。
たとえ、ケイタ達がこうも鮮やかにレイを追い詰めてみせた理由に、何度も何度もレッスンにベッドを共にしてきた回数という、キャリアがあったにしても。「綾波レイ、惣流・アスカ・ラングレーの弱点、性感帯を知悉している」というアドバンテージが、いつ二人から仲間達に渡るとも分からない。
怯えに近い懸念に呻くアスカだったが、しかし既に脅威は彼女自身のすぐ側にだって迫っているのだと、一瞬でも忘れるべきではなかった。

(……ひっ、ッあ、あ、あああっ……!?)

背中にぴったりと立った、別の人間の体温。
デニムスカートの自分のヒップに、体格差を意味する低い位置から押し当てられてきた感触が、先ほどの小太りの子のどこの部分かは考えたくもなく。
何も言えずただ、アスカはごくりと、唾を飲んだ。
耳の奥に、やけにピッチを上げた自分の鼓動が響いていた。



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Original text:引き気味
From:【母子相姦】淫乱美母ユイ2【寝取られ風味】