肉体決済 〜レイが全てを売り渡した放課後〜



05.羞じらい誘惑、濡れた下着の聖処女が……

ガタンゴトンと、聞こえるのは車輪と線路、硬い金属同士が身をぶつけあう軋み。
走る車体がレールの継ぎ目を踏む度に、来る日も来る日も踏まれ続け、踏まれ慣れた軌道が―― またいちいち律儀に上げる、鉄の呻きでもあった。
しかしどこか穏やかな、寄せては返す波の音にさえ通じるリズムだ。
単調に刻まれ続ける一定のテンポは、疎らな人影に眠気を誘う。

時刻は、そんな目蓋を誰しもに特に重く感じさせる、昼と夜の境だった。
空席も充分。立つ必要はどこにも無いのだから、車両の内を前から後へ見渡してもぽつぽつとしか数えられない程度の乗客たちは、とっくにシートに背を埋め、首を傾げては船を漕いでいる。
復興特需に沸く第3新東京市中と言っても、郊外に向け、停車駅を暫く数えていけば直に空ききってしまうような路線がないわけではないのだ。
今日の綾波レイが放課後の乗車を指示されたのが正にそうで、レイは戸惑いを浮かべてケンスケを振り返ったものだった。

「……こんな中で、本当になの?」

無論、怪訝に眉根を寄せた眼差しは、色濃い警戒のそれであったが。

―― レイがケンスケとの取り引きの代償に強いられていた痴漢の手伝い。
それで誰かを泣かす側に立ち続ける苦痛を厭うのならば、まずはご破算にされるレイ客演のレズ痴漢ビデオ撮影の穴埋めをせよと。
白皙の美貌から更に蒼く血の気を引かせたのが、レイが代わりに主演となって撮影されてみせろという要求だった。
だが、いかにもな苦渋の末、いっそ気高くすらある決意に首肯してみせたレイは、それから七日を数えても尚、条件をクリア出来ては居なかった。
ただの一人の痴漢も、悲壮な表情で吊り革に掴まる彼女へ寄っては来なかったのだ。
ケンスケはただ、まだどこか安堵が多く混ざっていた最初の一日目の肩透かしからこちら、自身は手出しもせずにニヤニヤと様子を見守っていただけ。
ご丁寧にも、一日毎に増やした負債の利子なるものを書面に書き連ね、こんな卑劣な少年との約束にさえ誠実であろうとする愚かな少女に、焦燥を煽ってやっただけであった。
曰く、売り渡された「手」としての奉仕義務の放棄は、先日で何日目。
曰く、それどころか逆に、ケンスケの撮影活動を阻害して与えた損害がこれだけになっている――

……このままでは、いつになったら「手」を取り戻せるのか。
レイは、一日一日また請求書を積み重ねては見せ付けるこの術中に、易々と嵌められてしまっていた。
誰もレイの傍に寄って来ようとしない。
あれだけ欲望を剥き出しにして、獲物の少女たちへ手を伸ばしていたケンスケも大人しすぎる。
じりじりと焦りに追い詰められていったレイが、ケンスケの打って変わった紳士ぶりに苛立ちを見せるようになり―― つまりは、

(何故、触ってこようとはしないの……?)

負債の清算でだけ頭を一杯に。そう訴えかけるような目をしてみせ出したのが、駆け引きのしくじりの端緒だった。

「人が少ないから、また失敗するんじゃないかって?」
「…………」

大丈夫さ、今日は絶対にねと、ケンスケは不安げなレイに請合った。
ドアへと押しやる手が、ついでとばかりにつるりとスカートの小尻を撫ぜ上げる。

「っあ……」

長い睫毛を揺らす湿った吐息に、真後ろから耳元に囁きが重ねられたのだ。

「そのために、必勝策を教えてやったんだろう? 綾波がしくじりさえしなければさ、……大丈夫、今日こそ良いビデオが取れるって」

レイに続き、ケンスケが踵を電車の床に引き上げたとほぼ同時でね、ドアはぴったりと閉じた。
少ない乗客に二人を加えただけの車両も走り出す。

「……っ、ぅ」

『んん……』と、真新しい汗ばみの跡が残るうなじを震わす綾波レイの背後には、それでもまだ、随分な馴れ馴れしさでヒップをまさぐり続けているケンスケの手が張り付いていた。
スカート越しにも伝わる適度に脂肪の乗った柔らかさと、熟れた大人の女には無い青い手触り。
例え「手」を売り渡しても、それ以上をケンスケの慰みにさせるつもりなど毛頭無い―― 無かった筈の少女の鉄壁の拒絶が、今はそこに立ち塞がらないでいる。

「……くっ」

ゆっくりとヒップラインの丸みを楽しまれているのを、レイは唇を噛んで堪える。
そうして、伏せがちな瞳は声が漏れそうになる度、慌しく車内に走り、確かめた辺りの様子に弱々しい息をつくのだった。

「はっ……、ッ、あ!?」
「おいおいって、綾波ぃ? そこで落ち着いてるんじゃないだろう?」
「……待っ、やめ……っ」

ケンスケが親指をスカート地に食い込ませていた。
華奢な尾てい骨のすぐ下を窺う位置を突いた指の腹が、慎ましいまろやかさの谷間に沈もうとしている。

「やめて……」

人気の無い静けさを破ることを畏れる声が、ぎこちなく肩越しに。
学園に名高い鉄面皮美少女=綾波レイの、懇願でさえある押し殺した悲鳴へ返された含み笑いは、何を今更と、より一層の刺激で行う確認のまさぐりようだった。

「そんなところ……! ぁ、ああ……」
―― 綾波が随分とお困りみたいだったからさ、わざわざサービス価格で教授してさしあげたんじゃない。あっさり忘れちゃったってんじゃ、ないだろ? 天下の優等生サマがさ」
「……っっ、分かって―― 分かっているわ。だから、もうっ」

その手を退けてと、唇をわななかせるレイは必死の小声。
ケンスケの指の腹は、揉み解すように、少女という生き物が一番恥ずかしく尻朶に潜ませる菊花を可愛がっているのだった。

「……はぁっ、あ……、あ……」

執拗なマッサージが妖しく背をざわめかせるのだ。
ふるふると覚束ない手が腰から回り、制止をしようとはする。
しかし、そのままはっきりとした抵抗にもならず、逡巡の動きで痴漢行為に晒されている傍らに漂わされるばかりなのだった。
消極的ながら、レイははっきりとその羞恥を飲んで、ケンスケの手付きへ身を委ねてしまっている。
その意思表示に他ならない事実は、異性に好かれない自分だとのコンプレックスを抱き続けてきた少年を強く興奮させた。

「そそるぜ、綾波。もっと声を出せよ……、言っただろ? いやらしくして誘えってさ」
「くっ、……うっ、ッゥう……ぅ……」

氷で出来たような普段の居ずまいを撓ませて、牝としての仄かな媚態を嗅ぎ取れさえしそうな苦衷に陥っているレイ。
そろそろと降ろされたもう片手が悪質に、裾の後ろを持ち上げ、直にその美しい同級生の内腿へと忍び込む。

「あっ!?」

びくんと動揺するレイのスカートの内側に、むっと立ち込めた体温の上昇と、加えて見逃しようの―― 触り逃しようのない確かなぬめりの流れ落ちを確認して、

「よしよし、乾く間も無くまた濡れてきてんじゃん?」
「……っッ」

それで良いと。ケンスケは繰り返しになる吹き込みを行うべく、レイの耳を完全に隠す銀糸のショートヘアに荒い呼吸の唇を寄せた。
震えに連れてちらとだけ覗く真っ赤な耳朶に向かって、舌を伸ばせば厭らしく舐め上げも出来る距離で言う。

―― もう待たないぜ」

ヒクン、と。
肩を震わせる少女は、その一言で、歴戦の戦士だったファーストチルドレン=綾波レイから兎か小鳥かの小動物のように変貌して、脆い横顔を見せてしまう。

「今日は間違いなくそこらのゲスト様を誘惑してやって、たっぷり痴漢してもらうんだ。その為にそそる顔になるように準備してやっだたろう?」
「分かっているわ……っあ、分かっているから……」

ああと、もう恥ずかしいシミでショーツの底をじゅくじゅくにさせてしまっていたレイは声を上擦らせるばかり。
分かっているからこそ、泣き出したいくらい悔しいのも、汚らわしいと耐え難いのも我慢したのだとは―― 今は言い返せない。

「ついさっきだもんな。分かってるよな?」
「……ええ、ええ……」
「トイレでここも弄くってやって、準備してやっただろう?」
「そうっ……ッツ、だから……だから、さわらせたわ……」

愛液が筋引いて垂れ流れる内股を上がり、今や、最もレイが守るべき処女のスリットを撫でるように下着の上から刺激しているケンスケだ。
だがレイは、(そうで、なければ……!)と、恨めしさをぶつけたいのもクチュクチュと。
『……っああッ、くぅううっ!』と、手玉に取られてあやされてしまって、

「俺にまた借りを増やしてまで“お膳立て”してもらったんだもんな、ここで無駄にするなんて馬鹿はしないんだよな?」
「あなたは……っ、い、言ったわ……。わたしが……雰囲気があんまり固いからだって。男の人は……いやらしい子を、その……そんな子を選ぶって」
「そうさ、そうだよ、綾波ぃ。だから、な?」
―― ふぁ、っくうッ!?」

ひょいと除けられたクロッチを過ぎって、ケンスケの指先がレイの入り口に浅く突き立てられた。
喘ぎ喘ぎ、レイは前後の秘口を同時に愛撫されて畳み掛けられる官能微熱に塗れながら、つい先ほどにその肢体に授けられたレッスンを再確認する。

「いやらしく、エッチな顔でさ、誘うんだよ。まってるばかりじゃダメってわけさ、積極的にいかないとねぇ」
「っク、くっ、……ダメ、こ、声が……」
「聞いてもらえって、これ。綾波が生まれて二度目の指マンでひぃひぃ悦がってる、いやらしぃ〜声をさぁ」

聞かされるもう一方は、クチッ、クチッと耳朶を熱くさせるような、ぬかるみと化した狭隘な前庭で遊ばれての、ネバ音だ。
いくら乗客が疎ら、近くに誰も立っても居ないとはいえ、声は絶対に踏みとどまらなければならない一線を越えているのではないか。その危機感も意識に確とは留めがたい。
すっかり、精神を揺さぶられてしまっていた。

(いけない……。こんな、こんな……状態は……)

こんな傍若無人なタッチに襲われればどんな感覚を味わされてしまうのか、結果から言えば、経験の無さからきた無防備さというものだった。
迂闊だったと、今にして思い知らされていた。
冷静な判断力を取り戻さねば危険すぎると、千々と乱れた精神状態を立て直そうと懸命になってはいた。
―― だが、手遅れ。

「……ハッ、ハ……!」

ここに及んで、悪魔的な自制心を自らに課していた少年は、完全に痴漢趣味を開放してきている。
そうやって指先で犯しにくるケンスケに、今日はじめて他者を教えられた秘所の粘膜を、そのささやかな亀裂の端の粒芽をまで許してしまって、

「ほれ、コリコリって、コリコリってしてやるよ。悦いんだろ? 俺の手もビチョビチョにしてくれちゃってるし、バージンのくせに随分とスケベなクリじゃん。へへ、その顔だよ」

一向に身代わり撮影もこなせないこのままではと、苦々しさも必死に飲んで“アドバイス”を請い、連れ込まれるままの駅のトイレ、個室の中で受けた淫らなまさぐりを。
服の下に差し込まれる手もそれが教えだからと許容させられ、嫌悪に震える拳を必死に握り締めながらスカートを捲り上げられ―― 散々に触られほぐされて、白い肌をピンクに火照らせきった「直前の状態」まで待っていかれてしまった、『これなら、こうすれば大丈夫』を。
レイは切れ切れの口上で再確認するしか出来ない。

「いやらしい……貌を、して。痴漢をされるのが大好きな……いんらんな、おんなのこに、なって……」

堰を切って叫びを上げてしまう寸前を見切る、年の頃に不釣合いに熟達した相田ケンスケという憎むべき少年に、知らず、彼の触り方による悦びを憶え込まされ、開発を受けながら。

「自分から股をひら……っ、ンあっ……あ、下着を見せて……誘う……ぅあ、あ、ああ!」

限りなく官能が昇華する極みに近付けられては足踏みを繰り返す、狂おしい焦れったさに炙られていく。

「あっ、あっ、ああっ、あ、あー……ぁ、ぁ……」

いつしか声を殺す努力も見失い、寧ろケンスケの慎重な―― 今日まで注意深く、うかうかと他の痴漢に大事な獲物を横取りされないよう策を弄してきて、ここまでの支度を整えた―― そのコントロールの方に、抑制を委ねてしまい、

(これっ、い、良いわ……。ぁ、もう少し、もう少しで……これ、分かりそう、なのに……。あ、ああ……また……またっ、届きそうなところ、だったのに。どうして……)

レイの心に席巻しようとしているのは、一つ、また一つと増えるシンジへの申し訳なさでも、使徒との戦いにも並ぶ力を振り絞り用心せねばという、相田ケンスケとの知能戦への覚悟でもなかった。

なにしろレイは、取り引きをしたいとあの写真部室の扉を潜った時から、幾重にも張り巡らされた罠の中にあったのだから。
身近な友人までもが痴態を晒す映像素材。
その培った知識の上で、レイ自らがケンスケの「手」として痴漢の振る舞いに及ぶこと数度。
罪も何の関わりも無い少女たちを泣かせてきた、言うなれば実践の日々は、確実にレイを導いていた。
感じるということ、淫らなそれがどんなものなのか、もうレイは知っている。
十二分に知っている。
ただ、他人が官能に溺れゆく様子を観察するのみでいた自分が、その身で直に確かめることになるこの日を待って、密かに準備させられていただけなのだ。

景色を流れさせる窓からは、夏の夕陽がきつく差し込んでいた。
乗客の少なさがブラインドの殆どをそのままにさせていたから、車内、縦長の空間は妙に明るく陰影もくっきりと。
並ぶ座席も吊り広告も、全てが茜色に浮かび上がっている。

その落ちかけた陽の色に燃え上がった頬の色を紛れ込ませて、漸くケンスケの指から開放されたレイは、朦朧と熱を帯びた足取りで一歩、通路へ踏み出した。
よろと不確かな足取りには、細い足首を覆う黒のソックスにまで侵食してきている淫らなシミがある。
乱れの直されないままのスカートの内には、幼い発情の徴を滴らせている泉が、これもケンスケの指に薄いショーツの守り一枚をだらしなくずらされたまま、ヒクヒクと、尚も涎を垂らして息衝いているのだ。

「自分から、誘う。自分から……誘う、の」

そうすれば――
よろめくように歩くレイの潤んだ瞳に、長椅子にぽつんと座る一人が映り込む。

「そうだぜ、綾波。いっちょガバーッと股おっ広げて見せてやれ。手ぇ突っ込んでもらってたっぷりいじって貰えよ。そうすりゃ、ちょっとは俺の貸しも減るかもよ?」

くふふとほくそ笑むケンスケが、そのちっぽけな背中を見守っていた。



◆ ◆ ◆



社会的動物であるヒトの場合、他人の接近も日常的範疇であればさして敏感になったりはしない。
ケモノが自分の周囲に張り巡らせる警戒ライン、より広域的には縄張りを主張するようなものは、もっと曖昧でフレキシブルなのだ。
とりわけ公共の場所と類される中でも密集度の高い電車などでなら、見知らぬ他人と体を密着させることも珍しくなく、人はそれを当たり前と許容する。
しかし無論、個人が無意識下に定める他人との境界線も厳として存在はしているのである。

「……?」

敢えて空いた車内、必要性もなく距離を詰めて近付くその少女こそが、男の警戒ラインを踏み割った侵入者だった。
ギッと硬いスプリングを軋ませ、すぐ脇に腰を下ろす小柄な気配に。
―― 近すぎる。
そう、いかにも疲れこけ、居眠りに首を倒していた男がいぶかしげな顔を持ち上げる。
くたびれたスーツで腕を組み、ラッシュ時には望むべくもない空間的余裕を、ガニマタ足を左右、行儀悪く伸ばしきって満喫していたサラリーマン風の彼。
彼がチラと目線を寄越し、そして欠伸交じりに辺りを見回してみせることで、改めていくらでも座席は空いているぞと無言の内に邪魔を告げてきたのも、レイには分かっていた。
向かいの長椅子にも誰も座っては居ない。
その向こうに直角に背もたれを向けて並ぶ二人掛け席の列に、いくつか乗客の頭が覗いている。
普通ならもっと座り心地のいいそちらへ向かうか、せめて間を空けるべきだろう。
少なくとも、混んでもいないのに肩を寄せて座ろうというのは他人同士がとる距離ではない。

「……はぁっ」

軽い身じろぎに迷惑そうなため息が続き、男が自分からその距離を取ろうと腰を浮かす。
だが、レイは幾ばくかの遅れを置いてまた距離を詰めるのだった。
じりとスカートを巻き込んでシートの上をずらし動かした小さな腰が、二人きりで座る長椅子にまるでごくごく親しい仲のように、ぴったりと並んで。

「うん……?」

今度こそ男は変な顔をした。なんだこの娘はと。
そうであってもレイには、胡乱なとあからさまに迷惑がっている男を逃すわけにはいかないという、切迫した理由があるのである。
―― 言われた通りに遂行する。遂行するしか、ないの……。そう自分に言い聞かせ続けている。
他人事の様に知らぬ顔でレイを放り出したケンスケが、同じ車両のどこかから見張っている筈だ。
猶予は無いと念を押されている。
自分には逡巡している余裕さえないのだとの強迫観念が、相手への迷惑を慮る気苦しさも、今からしようとする恥知らずな振る舞いへの抵抗感も、レイの視界から遠ざけてしまっていた。
故に、清楚な顔立ちをしたその白い美少女は、また一段と大胆なアプローチに踏み出し―― 男の肩にその身を寄せたのだった。

ぎょっと横を向く彼は、近くの中学の制服を着た彼女が、良く見れば驚くほどに美しいと知り、荒げて上げかけた声を抑えた。
レイはさらに決心を進め、しなだれかかる様に体重を預ける。
誤解しようのない媚態に、男の目付きはさっと好色な意味合いを帯びた。

「なんだい……、どうしたんだね、お譲ちゃん?」

どこの遊びなれたバカ女子中学生かと思ったらと。
綺麗に切りそろえたショートの毛先が掛かる横顔は、こう冒険的なほどにに誘ってきていながら、初々しく頬を真っ赤にしてしまっているのだ。

―― へへ、驚いたってか? 当たり前だぜ、オッサンよう)

思惑通りに運ぶ様を離れた席から背もたれの隙間越しに、当然に録画しながらのケンスケが、そうニヤリと唇をひん曲げる。

(なにしろ、ウチの綺麗どころでもナンバーワンの清楚、純粋系アイドル様だぜ? 痴漢志望なんですって誘ってくるなんざ、フツー有り得ないって)

邪魔して台無しにしてしまうのでなければ、下品な口笛を吹いてレイを冷やかしてやりたいところなのだった。
それほどに、レイはしっかりと言い付けを守っている。
自分から男を誘う痴女中学生少女―― 、それがケンスケが与えた役回り。実に上手に演じて見せているじゃあないかと。

(ま、あのショボイ面ならやり過ぎるってことも無いだろうし、せいぜい夢のような一時ってやつを楽しんでくれよな)

じろじろとレイの姿を眺め回している内に、男の表情も完全にこの望外の幸運を喜ぶものへと変わっていた。
羞じらうように背けられてはいるが、品の良さを感じさせる整った横顔はどうか。実に美しい。
線の細い顎のラインが、男に荒々しい衝動を覚えさせた。
整った美貌から視線を降ろせば、控えめながら、見た目の年頃通り女性を主張しだしたと思しき胸の辺りがふっくらとブラウスを持ち上げている。
しかもだ。

「おや、なんだね? そんな格好をして。ボタンが外れちゃってるんじゃないかな?」

これまた誘っているとしか思えないと、制服姿は乱れたものなのだった。

「…………」
「黙ってちゃ、オジサン分からないんだけどねぇ」

そろそろと男の手が伸びた。
おっかなびっくりながらで、少女のスカートに。そしてまだ恐る恐ると―― 、皺の寄った生地から眩しく伸びる、揃えられた細い腿へ。
レイはふると肩を揺らしたが、抗いはしなかった。
安心を確かめてしまうと、それでもう、すっかり男の手は大胆になったのだった。

「あっ……」

なんて素晴らしい感触だと、さかんに撫で回す。
思わずレイが洩らした声も、一層その鼻息を荒くさせた。

「ひょっとして……お譲ちゃん、痴漢にでも遭ったのかい?」

さわさわと中学生少女の瑞々しい脚を堪能する一方で、でもと、

「なぁに、心配はいらないよ。おじさんがついていてあげるからねぇ……」

“振り”にもなっていない慰めを猫撫で声で掛けつつ。
好色な視線は、第二ボタンから幾つかが外れてしまっている隙間から、純白のブラウスの下を凝視する。
覗くブラジャーさえも本来の位置からズレて下がり、カップのはがれ掛けた柔らかな盛り上がりをそこに認めることが出来ているのである。

「災難だったねぇ……。その可愛いオッパイも……その、モミモミされちゃったのかい?」

あけすけ過ぎる言葉にレイは耳まで熱くさせて俯く。
しかし、男に触らせている太股は、震えを抑えようとしながらもそのままだ。

「なんて酷い……ああ、酷いやつなんだろうね。お嬢ちゃんみたいな女の子に、そんな酷いことをして……。きっと嫌で嫌で堪らないのに、勝手に揉み放題にされちゃったんだろうね」

投げ掛けられる言葉はある意味殆どが事実で、益々レイは居た堪れなく、俯いていってしまう。

一方で、レイを可愛い見掛けに寄らず、援交慣れした不良生徒なのだと思い込む男だったが、口にした『痴漢被害』のフレーズに連なった妄想が、思わぬほどに股間を硬くさせていた。
痴漢が云々などとは、最初から手を出す言い訳のつもりでしかない。
が、レイの侵し難い神秘性さえ漂わせる美貌を見ていると、この娘は大人を誘っては淫行三昧している尻軽なのだと思いながら―― 痴漢に弄ばれ、言葉通りの清純な涙に泣き濡れる、哀れな姿が浮かび上がってくる。
無残なと感じ、そしてその空想の惨状に背中合わせの嗜虐心を覚えるのだ。
そうしてハァハァと息を荒げる男だったればこそ、

「……おやぁ?」

まさぐり続けている腿とスカート生地との狭間の感触にその異常を見つけてしまった時、ぶしつけに要求してしまえたのだろう。

「ね、お嬢ちゃん。ひょっとしてこれ……パンツもどうかされちゃってるのかい?」
―― っッ」

大きく動揺を見せて跳ねた肩。
間髪を入れない反応に、男はやに下がった顔を嬉しそうに崩れさせた。

「……ね、見せて……くんないかな? お嬢ちゃん、スカートちょっとだけ捲ってさ、見せてよ」

ああと内心に呻いても、それこそがケンスケに指示された誘惑の手管であったから、

(しなきゃ、いけないから。……これくらい、なんてことないもの)

ただ事前にレクチャーされた手順を遂行するだけなのだと、自分に唱えながら。
レイは、震える手で裾を摘んだのだった。



◆ ◆ ◆



(ああ……)

愁眉に曇るアルビノの麗貌に、苦悩は濃い。
スカートはすっかり皺にされてしまっている。
男が見れば、理由への想像に劣情的な翼を逞しくさせて当然の、そんな痕跡を残す乱れ方。
たった今、だめ押しとばかりに二度目の侵入を受け、内側をいやらしくかき回されていた証左だ。
『牡を誘うフェロモンってものをさ、出すんだよ』と、乗り込む前のトイレで性器への刺激を受けた折には、事後に服装を直す余裕があったのではあるが――

『何を……!?』
『おっと、手を退けとけよ。こいつが綾波に約束した今回の“商品”なんだぜ』

入れといわれた狭い個室の中、後ろ抱きにされていきなり胸を揉まれたのがその時。
抗おうとするのも、レイ自身が先立って求めた“情報提供”がこれだの言で縛られた上、指示されて、わざわざ下着以外の服を全て脱いだ姿に。
壁に手を突かせた真っ白な背中へ、うへへと覆い被さってきたケンスケだった。

『よしよし、分かるだろ? 綾波のここ、自分でシミになってるって』
『……ッ!』
『こんだけ……オッパイと一緒に念入りにいじってやってたからさ』
『あ、あっ、あっ、あっ!』
『ほら、ニチャニチャ言ってる』

トイレの他の利用者に聞きつけられはしまいか。
もしやこのトイレにも学内と同様、ケンスケの盗撮カメラが仕込まれているのではないかと。
「手」として数々の悪行に付き合わされてきた結果の誤った学習効果であるが、状況に意識するものがある少女の気の急きをも策の内で。
レイが頭を冷静に働かせる暇も与えず畳み掛けてきた、濃厚なペッティング。
二本の指で、突き出した白いショーツのお尻から幼い秘唇をたっぷりなぞられた。
淫靡な発熱を促される果肉を割るついでの中指で、下着に浮いたスリットから弄り進んで敏感な真珠も突付き上げられた。

『はふっ、う、ううう……!』

引き出されてしまったのが、がくがくと戦慄かせる下肢の間へ滴るほど響いた、肉体の反応だった。

(これっ、は……!? あ……ぁあ、嘘、濡れてる―― ! わたし、濡れて、しまっている……!?)

常に警戒を怠らなかったレイが、ケンスケの淫手を躰に受けるのはそれがただ二度目。
巧みにガードを解かざるを得ないまで追い込まれた一度目さえ、制服越しに、しかも下腹部の密やかなデルタゾーンには掠らせもしていなかったのに。

『ハ、ぁ……!』

ひんっ、と真っ白な喉首が晒される。
たった一押し秘蕾に接触した往復に、どんな実験や実戦でも出はしなかったような声が上がってしまう。

『これでしっかり分泌されたってことだよ。……分かんないなら、電車もう一本遅らせておこうか?』
『ふぅっ……ぅ。う、う、う……!』
『ふふ、その分さぁ……』
『いいっ、良いから……!』
『あれ? イイって、あれあれぇ? そんなにキモチ悦いって? 俺の手なのに、あの綾波がねぇ〜?』
―― っ、ッ、んんっ、もうっ……やめっ……ッ!』

懸命に指を噛んで押し殺そうとするレイに、返せる余裕もないと承知で悪質な念の押し方までしてからかい嬲り。
最後には、“サービス提供の完遂”を確認までされてしまった。
はぁはぁと蓋を下ろした便座に寄りかかって、無防備にも差し出したままの股間から股布をぴらと、たった一枚の守りを無造作にめくり除けられ――

『おほっ、綾波のヒダヒダ、きっれぇ〜なピンクじゃん』
『っあ、は、は……っ、何を……!』
『おっと、怒んなって。準備バッチリだなってだけだよさぁ』
『……っ、くっ……』

シンジにすらそんな不躾に覗き込まれるのを許したことはない。
そのことにレイは無性に悔しさと苛立ちを覚えたのだった。

だがその直後、慌しく身繕いする間中に真っ赤な目が向けていた刺々しい視線に、ケンスケは寧ろ愉快そうにしていたのではなかったか。
少なくとも、学園の双璧、氷の美貌がくれるブリザードさながらだとさえ称せられる睨みに恐れ入っていたのであれば、電車に乗り込んだとたんにまた悪戯を繰り返したりはしなかっただろう。

そうして再度乱れされた、美少女女子中学生のいでたち。
男に好きにさせている膝の上、それ以上に進めばたちまち察知されてしまうすぐ先に、レイに用意だと授けられた一つの“準備”が待ち受けているのだ。
あまりにも恥ずかしいのだが、言わば罠だとレイは認識している。―― そう、聞かされていた。

『それでとどめさ、絶対失敗しないって。ちゃあんと、痴漢して貰えるよ』

捲って見せ付けてやるんだ、捲って見せて頂戴よと。
そうしてしまう以外に選択の余地無く、いよいよ瀬戸際に立つ指先はスカートの裾に掛けられたまま、小刻みに震え続ける。

「ね、お嬢ちゃん、さぁ……?」

元は少女から擦り寄ってきたのだから―― そんな態度でべったりとレイの横に張り付いている男は、焦れったそうな手の動きですべすべの内腿の奥を窺う。
今日までの報われぬ悲壮な決心の日々とでは違う、はっきりと意思を見せてきている興奮が、欲望が、見て取れるのだ。

(大丈夫だわ。これなら、きっと……)

確かに、確かにあの不愉快でならない相田ケンスケは、当てになることを言う。
最初の取り引き以来、どんなに悪意が透けた言葉であっても、偽りを口にすることは無かった。
覚える嫌悪がどれだけ抵抗を覚えても、明晰な頭脳がそこだけは否定出来ず、評価せざるを得ない。

言われるままにめくり上げてしまえば、たちまちに男の手は潜り込んでくるのだろう。喜び勇んで。
今度こそそうしてレイは、痴漢の獲物にされる自分を、痴漢ビデオの録画を“成功”させることが出来る。

「……っ、うう……っッ。あ……っ」

待ちきれず入り込もうとした手を思わず制止して、股の間を閉じてしまった。それはしかし、今のレイが従うべき行動の指針的には間違いなのだ。

(……いけない)

それでもと、摘んだ指先には硬く力が入ってしまう。
単純に考えれば、レイは視野狭窄に陥っているだけなのだが。
時間を掛けてレイの反応と思考を読んでいったケンスケの誘導が、この所詮は純粋培養の少女を見事に縛り上げているという寸法だ。
もはや彼女に、思い直しはありえない。
ただ遅れようとも、決断を出す内容はただ一つ。

(ああ……)

切ないため息に諦めを浮かべ、レイはそっと裾を捲り上げていった。
男には無粋な邪魔でしかなかった一枚が、ヴェールのように剥がされていく。
現れる少女の股間に目を皿にして―― そして男は、スカート越しに得た感触通りの、既にして半ばショーツを脱がし降ろされていた光景に、歓声を上げたのだった。




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Original text:引き気味
From:エロ文投下用、思いつきネタスレ(5)