肉体決済 〜レイが全てを売り渡した放課後〜



04.綾波レイ牝奴隷化プログラム、第二章

停車と同時にモノレールから吐き出される乗客たち。
ドアからの流れに紛れ、レイと彼女を自分の第三、第四の手として使う相田ケンスケはその車両を抜け出した。
いくらも進まぬ内に、背後からはまたドアの閉じる圧搾空気の音が。
忙しなくまたドアを閉じて走り出そうとしている車内には、二人掛かりで不本意な絶頂まで弄ばれたあの少女が、自失状態のまま放置されている筈だった。

今日も罪も無い犠牲者に対し勝手なケンスケは、無茶をした。
最後には自らもズボンのファスナーを下げ、禍々しく立ち上がった性器を取り出して、前をめくり上げた彼女のスカートの影で白く濁った汚液を放ちまでしたのだ。
レイの指でのけられた薄布の守りを脇に、しっとりと涙蜜まみれにされてしまった少女自身にあてがい、ニチュニチュと擦り付け、そしてまたレイのもう片手にしごかせさえして、たっぷりと自分本位な満足を迎えていた。
ケンスケの一度の放出は、常に異様な多量さを見せる。
“手”の果たすべき役割の一つとして、今では呼び出された毎回のように射精を促す補助をさせられているレイが、あまりの勢いに慣れぬ内は手のひらばかりか服やあらぬところまで飛び散らされて嫌な思いをしていたほどだ。
それを足の付け根にしたたか浴びせられ、息を飲むような悲鳴を上げて脱力した―― きっと気絶に近いショック状態に陥ったのだ―― 彼女に、レイは何もしてやることが出来なかった。
同じ女として耐え難い感触と知る汚濁を拭ってやる余裕も無く、逃げ出した。

(あの人……)

ブラウスを乱し、皺と染みだらけになったグチャグチャのスカート。その下から覗く両肢には、何かぬかるむ液を伝わせている。
あからさまに何かあったと分かるそのままに見捨てて置いて、果たして彼女はあのままで―― と、気に掛からない筈は無かったが、しかしレイは、慣れたようにしれっとした顔で降りるケンスケの後に自分も続いた。

(……ごめんなさい)

どうすれば良いのか、或いは良かったのか、己を納得させられる答えは見出せない。
自分にどころか、彼女に対してもまるで無意味でしかない謝罪を胸の中で繰り返すだけだ。

駅構内を行き交う雑踏の中、すれ違いに幾度も肩をぶつけ、よろめき、何があろうと眉一つ動かさない冷血のと呼ばれたレイは、力ない足取りで俯き行く。
スカートのポケットに隠した手には、ひたらすの嫌悪感を伝えてくる精液の感触が。
ポケットの中も痴漢行為をさせられたそのまま突っ込んだせいでグチャグチャだった。
帰ればすぐに脱ぎ捨てたい。
恨めしいのは、こんな卑劣な振る舞いをさせるケンスケだった。

「なんだよ、そんな目で見るなよな」

せっかく良い気分でいるのにと、人混みを抜けて振り返った途端、レイのもの言いたげな視線にぶつかったケンスケがうんざり顔を作る。

「やめろとかまた言ったって聞かないぜ。綾波は俺の母さんかっての」
「……あの人があなたに何かしたわけではないでしょう? それなのに、どうして……」
「ああ、ああ、酷いことしてるよね、俺。ひょっとしなくても、すっげー悪人? 言われなくたって分かってるよ。……で?」

だから何さ? と。

「そんなこと、“自分の手”に言われるこっちゃないよね」

前々からだしと、さも平然と。

「俺がさ、裏っ側の方で普段何やってたかなんて元々興味も無かったんだろう? 今更さっきの子が一人目だとかいうわけじゃなし、気付きもしないで可愛そーな子が何人も出てんのそのまんまにしてた綾波がさぁ」
「……だから、何?」
「履き違えてんじゃないのってコト。俺は誰か他人に秘密を知られたわけじゃないんだぜ? 今の綾波は“俺の手”なんだからさ、そんな巻き込まれたとか、知ってしまったからにはとか、いっちょ前の口が聞ける立場じゃないだろ」

閉口させられるのは、もしもこの取り引きの前に気付いて、そして止めろと言ってきたなら―― 話は別だったろうけどという言い草だ。
徹底的にレイを自分の付属品か何かのように扱うつもりだと言っているのである。

「綾波は俺なんか興味無しで、全然無関係の人生歩んでるんじゃない。たまたま……、綾波の手は俺のになって役立って貰っちゃってるけど、綾波自身はそのまま興味無しで生きてってくれて良いんだぜ?」

俺はシンジやトウジとは違うもんなと吐き捨てるように覗かせたのが、滅多に見せないケンスケの生の感情だったかもしれない。
レイはそこに、目の前の同級生が自分やシンジ、四番目の適格者だった鈴原トウジへと抱いていた薄ら寒い情念を覗いた気がした。

(彼……)

身構えるものがあった。
迂闊な取り引きを結んでしまったかもしれない。
取り引きの結果、さまざまな嫌な思いに耐えねばならなくなったのとはまた別の意味で、この相田ケンスケという、以前はシンジとも親しくしていた少年と関わりを持ったこと自体が間違った選択であったかもしれない、と。

「……ああ、それから綾波」
「……なに?」

それ以上の口を利くのさえ億劫に、手を洗いたいとトイレへ向かおうとしていたレイへ呼び止めて、睨むなよとニヤついている。

「結構遠くまで付き合わせちゃったし、親切のつもりのアドバイスさ」

痴漢を行うためだけに乗車していた市内環状線モノレール。
レイはここからまた自身の帰路に付かねばならない。

「どうせなら今の内に下着もどうにかしといた方が良いんじゃないの?」
「……!」

カッと、覚えた羞恥に熱く目が眩んだ。
平手を浴びせようと鞄を持たぬ反対の手が動き掛けたが、そのこびりついたままのケンスケの精液の感触がレイを押しとどめた。



◆ ◆ ◆



『じゃ、また明日よろしくな』

そんな言葉を背に浴びて、早足に。レイは女性用トイレの洗面台前に自分を立たせていた。
逃げ込んだといっても良い。
相田ケンスケは嘲笑を向けていただろう。

「……くっ」

蛇口をひねり、冷たい水に乱暴に手を擦り合わせる。
いくら洗っても、手が赤くなるまで擦り合わせていても、ぬらついた精液の感触は消えていない気がした。

顔はまだ上げられない。
上げれば、そこに鏡越しに目の縁をを真っ赤にした顔と向かい合うことになる。
そのことが無性にレイは悔しかった。

そしてなによりも、その背後、誰も居はしない空間に、あの癇に障る薄い笑いを浮かべた少年が立っているような、そんな錯覚が拭えないのだ。

―― 自分もいやらしく濡らしてたくせにさ

「……っッ!?」

聞こえる筈の無い声。
強く頭を振って否定する。
しかし、股の付け根の冷えた感覚は現実だった。

―― 偉そうに難癖付けておいてさ、自分もあの子の股と俺のチンポ触ってて気分出したんだろう?

『なぁ、綾波』と、幻に囁かれる。

「……違う! 違うわ……。私は……あなたとは違うもの。……消えて!」

目を瞑ってそう叫ぶレイに、トイレに入り掛けてきた女性が怪訝な顔をして引き返していた。

「……っ、くっ」

歯を食いしばらねば、悔しくて堪らない―― そしてあの少年には死んでも見せたくは無い何かが溢れ出しそうだった。



◆ ◆ ◆



蛇口からの水流に手を浸し続けてどれほど経ったか、ふと感情の渦から顔を起こすと、着信音を切っていた携帯に誰かが掛けてきているという、低いバイブレーションの響きがあった。
ふらふらと無意識に取り出して見た表示にああと呻く。呻かずにはいられなかった。

「……いかり、くん……」

その携帯に記録されているあまりに少ないナンバーの中でも、特にレイにとっては重要な、碇シンジの携帯からの呼び出し。
声を聞きたいと強く思う。
すぐにでも携帯を開いて、呼び出しに応えたい。
今、シンジの声が聞きたかった。

「いかりくん……」

でも、出来ない。
レイは泣いていた。

たったついさっきに、自分は一人の少女を穢したのである。
本意ではなかった。契約を楯に強いられて。それらは言い訳にはならない。
レイは、自分可愛さに彼女を、そして今日までの彼女たちを見捨てて、踏み躙ってきたのだ。

シンジはかつて、人を傷付けてしまうよりも自分が傷つく方が良いと叫んだことがある。
そんな少年なのである。
だからこそ、自分のような可愛げの無い人間にも優しい笑顔を向けてくれるのだろう。
それに比べ、この鏡に映る綾波レイのなんと醜いことか。

「声を聞きたい……、助けて欲しいの……」

でも、それは出来ない。

その手に別の男の匂いを残したまま彼の少年と向かい合うことには、レイの中に育まれた乙女が怖気づく。
シンジが悲しむような、他人を傷付ける綾波レイであるままに微笑みを貰うのは、彼の優しさをさえも裏切る思いで耐えられない。
その不器用でも誠実であろうとする生き方を、綺麗なと憧れた気持ち。レイが碇シンジを想う、その大切な気持ちに、今の自分が相応しくないと思えるのだ。

―― このままではシンジの前に立てない。

シンジに会いたいが為、苦渋を伴いつつも受け入れた選択だった筈が、気が付けばレイは自分からその視覚が失われているのではないかという恐怖を覚えていた。

「……どうすれば良いの……?」

表情を暗く閉ざし、レイは自問自答する。
このままではいけない。相田ケンスケの手として、彼の悪事に加担させられていてはいけないのだ。
だが、だからといってどうすれば良いのか?
幾ら呟き問おうとも、諦めたようにコールランプも消えてしまった携帯がレイに応えることは無かった。



◆ ◆ ◆



―― それで? “手”を返して欲しいって、まさかお願いするだけで済ますつもり?」

まぁ、“冷血”綾波のお願いってだけでちょっとしたレアだけどさと、ケンスケはおどけてみせる。

「俺がそんなお優しい性格をしてるだなんて思われてる筈はないよな。もっと禄でもない噂ばっかりだと思うし、実際もねぇ」

『知っているわ』と、返された声はただ簡潔。
にべも無く、少年の機嫌の良さにもまるで付き合おうという様子が見られない。
響きは、夏の狭い室内のムゥッとした淀みにさえ染み入る澄んだ美少女のそれであっても、それが愛想というものにはとことん欠けた、彼女のいつもの態度である。

「あなたが無償で何かをしてくれるとは思ってないわ」
「……ハハ、きついね、綾波」

放課後のいつもの時間。写真部室に現れ、さてとといつもの奉仕をケンスケが口にしかけたのも制し、要求を口にしたのは、何やら決断するところのあったらしい顔のレイだった。

「買い戻させて欲しいの。……わたしの、手を」
「……へぇ?」

ギシリと回転椅子を鳴らし、彼女に向いていた―― 正しくは、彼女にズボンの前を向けていた―― 姿勢を机へと戻すと、ケンスケは面白そうだという顔を作った。
傍目には邪悪極まりない企みをしているように映る、内実そのままの例の表情だ。
奇しくも構図はレイが最初にこの部屋を訪れ、ケンスケに頼みごとをしたその日の再現だった。
ただ、手遊び代わりにいつも磨いていたカメラは机の端に置いたまま。

「金なんかいらないぜ。これも言ったよな? それで手を買い戻すってどうやってさ?」

ニヤニヤとしつつ、レイが何を言い出すつもりなのかを顎でしゃくって促す。

「これ以上、俺の手伝いをするのだけは嫌だからって、そう言ったよな?」
「……ええ」
「つまり、電車ん中での撮影とか。俺の手になって、女優ちゃん達を可愛らしく鳴かせてくれるのは金輪際御免だってわけ?」

ケンスケは『はぁっ』と、わざとらしいため息をこぼしてみせた。

「折角、今日一日の詰まらない授業も我慢して、綾波のやわらか〜いお手々でこのズボンの中でムラムラきてるチン×コ一発抜いてもらうの、楽しみにしてたんだけどなぁ」
「…………」
「……ちぇっ」

付き合い悪いな、と。
突付いてやっても、背中越しにそこに突っ立ったままだと知れるレイの気配には、毛ほどの揺らぎも無い。

―― この綾波レイは、ケンスケの愉しみの今度の生贄になってくれるだろう校区全体でもとびっきりの美少女は、違うのだから。

たとえヌードモデルのあからさまなポーズに彩られたビニ本を与え、選り抜きの過激AVを見せ、無垢に淫逸な知識を詰め込みんで「学習」させてやったとしても、そうそう容易くポルノムービーに登場する哀れなヒロインのようになってはしまわない。
ケンスケが要求した手淫の奉仕を、ビデオの中の奴隷ヒロインそっくりそのままの手付きでやってのけるようになってはいてもだ。
そう上手にやってのける技術を身に付けたということと、ケンスケが望んだように恥辱漬けの攻略メニューが進んだということは同一ではない。
今までの獲物たち―― レイのように、選りすぐりのスペシャルターゲットを堕とした時でも大体はそうだった―― とは、あくまでも違っている。

『“俺の手”なんだから、チ×ポコしごいてオナニーしてくれんのも当然だよな』と、そう契約を盾に毎日のようにこの部室に跪かせ、手ずからにファスナーを下ろさせて、ビンと期待に勃ち上がるペニスへの奉仕をさせてやっていても、未だにどこか、医者が患者の患部をいじくっているだけかの如き風情で、鼻白ませてくれることがある。
わざと「発射」のメカニズムを教えず、最初その真っ白な頬にたっぷりと浴びせてやったというのに、顔色一つ変えずハンカチで拭い落として済ませただけのことはあるというものだろう。
たかだかこの程度に嬲ってみせたとしても、そう簡単には楽しめる反応を引き出せるものではない。
堕とされた痴態を無遠慮にあげつらうケンスケの言葉責めに、堪らず真っ赤になって肩を震わせてしまうような、そんな彼女達とは違うのだ。

(……でも、最初からすると大分良い線まで、素っ気無いとこをグラつかせてやれたとは思うんだけどなぁ……)

調教メニューのつもりでいた一連の仕掛けの進捗の悪さ、手応えの不確かさに首を捻るも、気を取り直し、

「それで?」

ケンスケは、少し萎えかけたのを表面に出してはいまいなと取り繕い直して、促した。

「……あなたに情報をもらった代価に、等価交換分の債務を背負うと約束したのは私。私だけだわ」

言って、レイは憂いを浮かべ、ルビーにも等しい輝きを持つ筈の眼差しを鈍く床へ俯かせたようだった。

「何の関係も無い誰かを苦しめるのはやめて。あの子も……」

濁し際の言葉に忸怩たると、珍しくその無関心顔で何事も通していた裡が覗いていた。

「別に、綾波の払う代金を昨日のあの子とかにもおっ被せてアレやってるってわけじゃあないんだけどな。気にしないで良いんだぜ?」

どっちにせよ、痴漢フィルムは人気の商品であるし、撮影は以前からも行っていた。
そして今後も取りやめるつもりは無い。
レイが欠けるとなれば、それ以前に戻るだけだ。
ただ、レイには「手」として手伝ってもらっていただけだから、

「罪悪感なんか覚える必要は無いんじゃないの? 別に、綾波が自分であの子にいたずらしてた―― 楽しんでたって言うなら別だけどさ」
「馬鹿を言わないで……!」

声が大きくなってしまったのは、あの綾波レイであってもやはり動揺を隠したものであったからか。
冷血、人形と呼ばれる常からは考えられないほどの、キッと睨んだ、赦さぬの貌。

「おっとっと、そうムキになるなよ。だから、契約を思い出してくれよってこと。あれはあくまで綾波から譲ってもらった“俺の手”がしたことだからさ、綾波はなんにも悪くないってことだろう?」

それでもと頑なに詰め寄るレイに、ケンスケは『ハッ』と鼻を鳴らしたのだった。

「ま、良いけどねぇ。……でも、高いぜ? “俺の手”は、さぁ」
「……ネルフにある、あなたの興味を引くような情報。それではだめだと、あなた最初に言ったわね」
「いまさらだからね。ンなおっかないものよりか、俺の興味はもっと下衆寄りだよ」

レイは、知ってるわと答えた。

「……あなたと取引をして、それから今日まで。分かってきたことがあるもの」
「へぇ?」
「……あなた、どうして最初にもっと正直に、私から一番欲しかったものを取っていかなかったの?」
「俺が遠慮したとでも言うのかい? ―― まさか、これでも欲望には正直なつもりなんだけどな」
「ええ、あなたは……人手代わりにこの手を寄越せなんて言うよりも、もっと私を女として利用しようと取り引きをしてくる人間の筈」

例えばと並べてみせる。

「あなたはまず、女の子の……私の裸が見たいのでしょう?」

だからいつも、校内のあちこちに仕掛けたカメラで盗撮を行っている。
女子達の着替えの様子や、下着まで脱いでしまった姿を記録し、収集し、そして悦に入っているのではないかと。

「まぁね。否定はしないよ」
「……それに、あなたが大切にしている本も、映像ライブラリも全部そう。それが生物の本能だから不思議ではないけれど、あなたはその中でも性交への興味を抑えられない性格をしている」
「スケベだって言や済むことだろうに、また回りくどいねぇ」
「資料にと渡されたものはどれも、女性の裸、特に胸やお尻、性器を一番の見世物にしていたわ。あなたはそれを見て、資料の中の男性と同じように喜んだり、満足を得たりする代わりにして、そして本当の性交をしたいと願っていたのでしょう?」

それら目の前の男が抱いているのだと指摘する欲望が、全て前提として自分自身を向いているのだとまで前提にしておいて、レイは平然と続ける。

分かっているのだろうか? それはつまり、己の体を―― 以前とは比べ物にならないほど生々しく、取り引きの材料として吊るしてみせていることなのに。
女性に生まれ、誰よりも恵まれた美を天に与えられておきながらも、あまりにその女性であるという事実に無頓着に振舞う少女ではあるものの、ケンスケがそう呆気にも取られるほどに、今日の綾波レイは際どく踏み込んできていた。

「……だからあなたは、私の体を一部でも自由に出来る機会を得たのなら、何よりも、そういった肉体への関心を満たすことを第一に求めた筈」
「……世間にはいろんな趣味があって、中には手フェチなんてのも……って、綾波にゃまだ言っても分かんないか」
「……手、フェチ?」
「ああ、良いって。それは余計な話だったからさ」

はははと白々しい笑い声を立てながらも、本気なのかとケンスケは忙しく頭を巡らせる。

もう、ポーズを取り続けるだけの余裕は無くなっていた。
あまりにもレイの申し出は美味しいものだったからだ。
特に、これまでに毒牙に掛けてきた少女達ほどには上手く策が運ばずにいると焦りを覚えていたばかりだけに、向こうから都合が良過ぎるほどの話を持ちかけてきた―― この状況を、コントロールし損ねるわけにはいかない。
クールに、クールにだぞと自分で言い聞かせる。

「確かにさ、綾波のオッパイとかの方が自分のものにするなら嬉しいよ。それは認める。……で? そんなこと言い出すって事はさ、つまりさぁ……」

どこまでが露骨に滲ませて逃げられないボーダーラインなのか。
慎重に―― ケンスケはそう見極めながらと抑制しているつもりの、しかし、あからさまにいやらしい期待を浮かべてしまった顔が、勢い良く椅子を回してレイに振り返った。
向けた両手は卑猥な手付きワキワキと、空中に何かを揉みしだくゼスチャーをしてみせて、さしものレイにだってこれが通じないわけはないだろうと、言下に確認するのだ。

「自分がなに言ってるか、分かってんの? 分かってない筈ないよなぁ〜。綾波だって、俺が女の子をどうするかってのは、昨日まででさんざんに手伝ってくれて実際知ってるわけだし」

果たして決然と、きつく唇を結んだ顔でレイは頷いた。

「……他の誰かを踏み躙るくらいなら」

『……我慢するわ』と、受け入れる意思があることを、確かにケンスケに向かって言ってのけたのだ。
真摯なその瞳の色に、ケンスケはこの寡黙過ぎる少女が想いを寄せている少年の影響を嗅ぎ取らずにはいられなかった。

「あ、そ。そりゃ結構。良いよ、良いよぅ? 綾波が是非そうして欲しい、私のオッパイを差し上げますから受け取ってください〜って言うならさ、……交換したげても良いよ」
「……そう」
「そう、じゃないだろう?」

イライラとこみ上げる、殊更に攻撃的にならずにはいられないささくれのような衝動。
それが、ケンスケにこのチャンスをどう活用するのかを決めさせた。

「ありがとうございますって、ちゃんとお礼は言って欲しいな。何てったって、俺はまた、綾波の頼みごとを聞いてあげるって言ってるんだぜ?」
「……そう、ありがとう」

今度ははっきりと嫌悪を浮かべて、冷たさの増した声で返したレイだった。
いくら人の心の機微に疎いところの見える彼女だとて、恩着せがましい言い様にいやらしさを感じないわけはない。

―― で、と」

ギシリと、回転椅子が軋みを立てる。
ケンスケは弾みを付けて立ち上がると、ごみごみとした部室の中央に辛うじて確保された狭い空間に立つレイに近づき、無造作に手を伸ばした。
険を帯びた表情は前を向いたそのままに、赤い瞳だけがチラと、年頃を迎えた男女が無意識の内に保とうとする不可侵の距離を越えようとするケンスケの動きを追う。
不快げに見やってもほっそりとした肩の曲線にポンと気安く置かれたそれを、しかし拒絶はしない。出来ない。

「まぁ、ほんとに綾波のここ――

尚も図々しく制服の表面を滑り下りる手が、レイの控えめに膨らんだ部分に被されても、

「貰っちゃっても良いんだけどね?」
「……っ、くっ……」

ゆっくりと力をこめ、慎ましやかにも成熟を迎えようとする小高い丘の感触を計ろうとする五指が、レイが今口にしたばかりの取引材料を確かめる動きだったから。
故に、ケンスケの「好意」を請い、新たな契約を結んで欲しいと希望したレイには、ここは耐え忍ぶべき時なのだ。

「……っ、ん……」

レイは何も言わず、抗わず、ケンスケが左右の胸を交互に揉むままを許した。
でなければと、言われずともはっきり匂わされている。
これまでは大人しく一線を引いてみせていたケンスケががらりと態度を変えてきたのは、レイの弱い立場を意識させるやり取りを踏まえた上のことだ。
いわばこれは彼女の意思を問う試しなのだと、その名分を示されていては、否とは言える筈が無い。

「ふふふ、綾波もやっぱりこれからだよな。学園随一のお姫様のオッパイとなると感激モンだけど、オトナの人と比べればまだまだどっか足りないって感じ?」
「……っく」
「あ〜、でも、この硬さの残った青い年頃ってのにも、好きな人多いだろうしね。特に、オッサン連中にはさ」
「……胸では……っく、取り引きをしないと言うの?」
「ん? 別にただの感想だよ。感想。気を悪くしたんならゴメンってさ。文句があるわけじゃないよ」

『この、綾波のオッパイにさぁ』と感嘆したかの声で、少女が小さく呻くのも構わず、グニグニと傍若無人にもてあそび回す。
ケンスケにしてみれば、今までは偶然を演出して程度にととかくに警戒されぬよう振舞ってきた枷を離れ、やっと巡ってきた綾波レイの肉体を、直接に蹂躙する機会なのだ。
窺い続けた味わいを、そうあっさりと手放す気はさらさらない。

「……っ、……んん……!」

じっと前を睨んだまま不快さだけを堪えている様子のこの美少女には、女の性感帯の一つを男に責められながらも尚、快感をかみ殺そうとする掠れた悲鳴などを愉しませてくれるほどの仕込みの成果は現れていない。
しかし、それでも制服越しに胸の頂を捉え、あの鉄壁の拒絶を男に張り巡らせていた綾波レイの乳首の感触を、コリコリと好きに弄ぶ興奮は、ケンスケにたまらねぇやと満足を与えていた。

「買戻させてくれるというなら、早くして……!」
「まぁまぁ、それは後でゆっくりと決めようじゃない」
「……ッぅ、っく!」

いやらしく蠢く掌の中、膨らみの形をおもちゃのように変えられ続ける気分の悪さに、ついに我慢強いレイの唇からも耐えかねた声が上がる。
意に介さずはぐらかすケンスケは、やわやわと陰湿に揉みこねる手はそのままに、また次の場所への興味を実行に移そうとしていた。

「だから、胸じゃなくても、さ。綾波が言った通り、俺が欲しいとこなら他にもいっぱいあるから、そこから綾波が手の代わりに何を譲ってくれるのか、選べば良いよ」

すっともう片手を腰から回す。

「……っあ、いや……!」
「へへ、このお尻も魅力的だぜ?」

スカートの上から撫で上げられた悪寒が、レイの背を駆け上がった。
とっさに振り払おうと身を捩じらせる。
が、ゆっくりバストを揉みしだいていた手がその途端、思い出せよとばかりに強く握り込んできた痛みに、それが既に無言の契約を交わした内のことだと突き付け直されては、奥歯を噛み締めるに留めるしか無かった。

「……っう、んん……」
「もう少し、もう少し、ね。綾波のこの――

「商品」をさと、ケンスケは学園の男達誰にもが許されることのなかった至宝の美少女の胸と、ヒップを撫で触り、

「確かめさせて貰ったら、俺が色んな子相手の取り引きで付けてる帳簿を見せてやるよ」
「んん……うっ、あ……帳簿……?」
「そうさ、他のやつらがどんなものを俺に支払ったか見れば、参考になるだろう? 取り引きの支払い方にもオプションが結構あるんだよ」

裏で売り捌いた盗撮写真を片手に、彼らが募らせただろう妄想をそのまま実現して、無抵抗に抱きすくめられたアイドル同級生の肢体をまさぐり続ける。
股間がいきり立っていた。
誰かに話してみせたところで、あまりに高嶺の花に過ぎる綾波レイのことであれば、一人として信じようとする者はいないだろう―― そんな、彼のようなうだつの上がらぬ一般人生徒たちには夢物語同然の美少女を餌食にしているのだから、当然だ。
しかも、密着させることでこわばりに痺れて覚える快感の元は、そのレイのふりふりと嫌がって逃げ惑う柔尻なのである。
ズボンの中でそのまま漏らしてしまうかもなと思ったが、構わずケンスケは、突き出せばどこもかしこもふにと夢心地に返すやわらかさの堪能を選んだ。

「……だ、だったら早くして……。すぐに……っ、決めるから。……手を、返して……!」

レイもさすがに堪らない。
ハァハァと獣丸出しに荒い息を首筋に吐き掛けられ、何度もその白い手を汚されてきた汚液の噴出器官が、グイグイと腰に押し付けられているのである。
無感情娘だと呼ばれる彼女であっても、少女誰もが生まれながらに備える本能的な狼狽に襲われて、躯が(いや……!)と震え上がってしまう。

「……ッア、はっ! はあぁっ!」

当たり前の女の子なら、もうこの、胸や腰をまさぐられている時点で悲鳴を上げて逃げようとする。
それをただ身体の表面を撫で回させれているだけに過ぎないと、差し迫った危険性をなどは認めてはいなかったレイ。
だが、牡に組み敷かれることを運命付けられた牝という性の意味するところを、発情した牡の恐ろしさを、彼女の意識以上に肉体の方が知っているのだ。

(な、に……? 何なの……?)

ベストの裏に侵入し、レイの乳首をキュッキュッとブラウス越しに摘み出そうとしている指。
ぴったりと双臀のカーブに掌を張り付かせて、スカート生地をレイのその引き締まった谷間に押し込むほど、潜りこもうとしてきている中指の先。
キュッキュッと引き伸ばして苛め、グイグイ、グイグイと谷奥の秘蕾を窺おうとする。

「……んんっ、んぁあああっ!」

既にもう、蟻走感を伴って痴漢の手探りを仕掛けてきている手の感触は、自身で判然としない最大限の警戒感の対象へと変わっていた。
平静さを取り戻してまた声を堪えようとするのも叶わず、わけも分からぬ冷たい汗が額に滲み出す。
肩を捩じらせ、無意識に首を左右にイヤイヤと、もがく。―― あの、人形娘の綾波レイがだ。
その反応は、ケンスケをやっとらしくなってきたかと喜ばせるもので、

(なに、何なの……?)

レイでなければ誰だってそれを知っている。
身を穢される危険に直面した女の子の、当たり前の恐怖なのだと。

「……は、離して……。もう、充分でしょう……!」
「慌てんなって、まずその前に綾波にはやってもらうことがあるんだから」
「……っは、はっ、はっ?」
「ペナルティをさ、支払って貰わなくっちゃね」
「……!?」

不穏な言辞。何の話だと身を強張らせてとうとうケンスケを押し戻したレイに、ケンスケは唇を吊り上げた。
頬に朱が差し、プラチナ色の前髪が乱れ、額に、項に張り付いている。そんな艶っぽさを見出してしまう姿の美少女に睨まれても、悪事を重ねたケンスケには追い詰められた獲物のようで、昏い欲望をそそりしかしない。
クックッとさも愉快そうに、言い放ったのだ。

「もうとっくにそいつは俺の手だって、そういう契約だったのにさ。今頃になって反故にしたいって言うんだぜ、綾波は。クーリングオフももう効かないっての」
「……何をしろと言うの?」
「だったら、新しい取り引きの前にまずその契約破棄の分、埋め合わせをして貰うしかないだろう?」
「言った筈よ。私はもう、誰かを自分の都合に巻き込むような真似はしたくはないの」
「良いぜ。最大限、綾波のしたいようにハイリョしてあげるよ。でも、俺の今日の撮影スケジュールを他人の都合でご破算にされるのも嫌だからね」

電車での痴漢映像撮影は行う。ただし、レイがそう言うならばと、何気ない口調でさらっと要求した。

「じゃ、今日は綾波がされちゃってよ」

良く伝わってこない。何が言いたいのと、そんな表情をしている目の前の少女に、畳み掛けるように、

「綾波は痴漢しなくって良いって言ってんの。俺も今日はやらないって約束してあげるよ。これで誰か他の子が嫌な思いをすることもないだろう? その代わりにさ、綾波が適当に引っ掛けて痴漢―― されちゃってよね。それを撮影して、今日のスケジュールをクリアってことにしといたげるからさ」

レイの元からとても健康的とは言い難い顔色が、一層血の気の引いた白さを見せる。
怜悧で持って鳴らす綾波レイが、ケンスケの期待通りに浮かべた動揺。
自分がなにをされるのか、何をされるのを受け入れねばならないのか、理解した徴だった。




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Original text:引き気味
From:エロ文投下用、思いつきネタスレ(3)