肉体決済 〜レイが全てを売り渡した放課後〜



03.同性いびり、恥辱の強制レズ痴漢訓練

分厚い雲が空を覆う、荒れ模様。
横殴りの雨が、宙にビルとビルの間を繋ぐよう渡された軌道を行くモノレールにも、激しく叩きつけられていた。
アルミ製の車体に中途半端に遮られて尚、そのザァザァという雨音は耳煩い。
為に、乗客たちは無意識の内、周囲の物音を拾い続ける自分の鼓膜に、普段よりも幾分か鈍感にやり過ごすよう命じていた。
車窓は湿気と冷房とで白く曇った壁となり、窓際から見下ろせるはずの景色を塞いでもいる。
そもそもがラッシュアワーで込み合った車内だ。窓の外を眺めようにも、皆がぎゅうぎゅう詰めに耐えている横顔や、吊革にぶら下がる手くらいしか目に入るものなどありはしない。
何より、仕事帰りだというその時間帯が皆を疲れさせ、無関心にさせていた。

だからこそ、綾波レイのような小柄な少女の存在は、周囲の大人たちの背丈に完全に埋もれてしまっている。
誰一人として気付こうとしない。
第一中制式のジャンパースカートに身を包んだ、この平均以上に目立って当然の綺麗な女の子が、傍目にも明らかに様子がおかしく、カタカタと小刻みに震え続けている姿だというのに。
男なれば、眺めて過ごせば車中の無聊も忘れるだろう幻想じみた雪白の美貌が、苦しげに眉根を顰め、くっと唇も噛み締めた煩悶も露わの相を呈しているというのに。
そして同じく、彼女との間に一人の―― やはり学校帰りらしい制服の―― 少女を挟んで向かい立つ、相田ケンスケの憎むべき痴漢行為にも、気付く者が一人としていなかった。

「……ぁ、いやっ、いや……」

『あ、あっ、あ……』と洩らされる、羞恥にまみれた微かな悲鳴。
それを強いているのは、たまたま乗り合わせたこの哀れな少女に、抱き付くように手を回しているケンスケだ。
苦々しいほどに手馴れた手付きがスカートの後ろを撫で回し、泣きそうになってその手を払いのけようとするのも、逆に前側にタッチを這わせたり、もう片腕を胸へと忍ばせてみたりとして、好きに翻弄していた。

「なんで……、どうしてこんなこと……」

レイにはしきりにいやいやとロングヘアを振っている後姿しか分からないが、きっと彼女は真っ赤になった目にいっぱいの涙を浮かべている。

「……やめて、やめてください」

か細い懇願も聞き入れられる筈が無い。
当然のように無視するケンスケは腕を動かし、『……や、やぁっ!?』と少女はまた一際の震えに背を藻掻かせる。
スカートの裾を巧みに引っ掛け、捲って侵入したのは折り畳み傘の柄だった。
ケンスケの淫猥な手付きの延長となって、プラスチック製の丸い握りが、その曲線で、年頃の少女が一番の恥じらいを覚える下着の底からをこすり上げる。
ぎゅっと太股を閉じて守ろうとしているのを、バールのよう使ってこじ開けてしまうのだ。

その握りの中には実は小型カメラが仕込まれている。
他にもケンスケが準備して来ている“商売道具”達と連携して犠牲者の穢されゆく様子を記録し、また新たな商売の種にしていくのだと、レイは知っていた。

「やぁああ……」

そう追い詰めて、ぐすぐすと鼻を啜る声だけでも価値があるのだとも聞かされていた。
『いやだいやだって泣いてる中にさ、あっとか言って、特別な悲鳴が入ってたりするとまた嬉しいんだよ、男ってのは』と聞きたくも無い説明と共にケンスケが端末から繋いでみせた地下ネットワークには、そんな下劣な趣味の男達がうじゃうじゃと蠢いていた。

「ひっ、あっ、そんな……!」

そんなことも知らずに、少女は思う通りの悲鳴を上げさせられ、後になって耳にする購入者達に『ああ、きっとこれはあそこを触られてしまったんだなとか、ひょっとすると感じちゃったんじゃねぇのってね』と、映像共々、淫猥な想像を膨らませる素材を撮られてしまっている。

「やめてください……。触らないで、ああっ、そこは嫌ぁぁ……」

この卑劣漢が仏心を起こすことなどありえない。
泣いているだけではどこまでも貪られてしまう一方だと、もう悟っている筈だ。
かつてのレイならば、声を上げて周りの大人たちに助けを求めれば良いのにと疑問を覚えるだけだったろう。
だが、こんな恥ずかしい目に遭わされている事実自体、誰にも知られたくないと震え、縮こまる愚かな心理が、この頃のレイには理解出来るようになっていた。
なによりも、

(今は……罪を犯しているのは、わたしも同じだから……)

陰鬱な自覚がそれを幸いだと肯定さえしてしまう程に、レイもまたこの悪辣な性犯罪者の圧迫下に置かれていた。

こんなことをしている、させられていることを、シンジには知られたくないと思う。
そんなことにならないよう、お願いだから騒いだりはしないでと祈ってすらいる。

(……卑怯なのは、私もだわ)

そう忸怩たる思いのレイには、少女の肩越しにケンスケが目配せをしてきていた。
抵抗を掻い潜ってショーツのほのかな膨らみをまさぐろうとする興奮に息を荒げつつ、やれよと、手順通りの“参加”を促していた。
今では抗いがたい強制力を持ち始めた視線に抗うことも出来ず、レイは震える手を持ち上げる。
レイのものでありながら、同時に今はケンスケのものであることを優先せざるをえない、その手を。

(……ごめんなさい)

途端、後ろから密着しているがために、長い艶やかな黒髪しか見えていない彼女がビクリと背を震わせた。
『……ひっ!?』と上がる新たな悲鳴。
そんなまさかという驚きは、彼女が予想だにしていなかった二人目の“痴漢”の出現によって、心底泣き出しそうに追い詰められたことを示していた。

(ごめんなさい、ごめんなさい……)

同性として、この見るからに大人しそうな雰囲気の少女の恐怖と屈辱を痛いほどに理解しながら、しかし、憎むべき性犯罪と共に逃げられぬよう彼女を挟み込み、そして今、前側からの侵入と同期した動きを命じられているまま、犠牲者のスカートの中へと手を忍ばせ―― まさぐる。

「はあっ、あっ、ぁああ……ぁ! いやぁぁ……!」



◆ ◆ ◆



この放課後も、レイは、込み合うモノレールの中に犠牲者を捕らえ、歪んだ欲望を満たそうとする相田ケンスケの第二の手として“使われて”いた。
大勢の人間が一所に詰め込まれていながら、それでいて誰もが誰もにも注意を払わないようになる条件の揃った、この檻のような車内。
だからこそ、一人も気付くものがいない。

「っあ、あ! アアッ! やっ、あう……!」

既にたっぷりといじられてしまっていた少女だから、望むと望まざると、意識が集まって敏感さを増してしまっていた可憐な狭間だった。
そこに予期せぬ不意打ちとなったレイの指先が、するりと下着をのけて――

「そんな……!? だめっ、だめです……。あ、ああ……指が、あ……。や、やぁあ……入って……こないで……」
「どうだい、上手いだろう? その“手”は、さ」

(……言わないで)と俯きはしても、レイは素早く探り当てた小さな入り口へと、白魚のようなその細い指の先をゆっくり挿し込んでいくのを止めない。

「ひぁ……あッ、あッ」

ケンスケが合図をしてきた時点で、慎ましい花びらは恥蜜にまみれ、不本意な綻びを強いられてしまっている。
レイはそこに、同性ならではの適切な、そしてそれだけに残酷な愛撫を加えてしまう役割を果たす。

「あッ、アァッ、あー……!」

小刻みに震える両腿の隙間へ差し入れた手のひらの、外側の親指と小指とで特に敏感な肌をさすさすと―― せめて宥めるようにしながら、じりじり、じりじりと。
少女の分泌してしまった悔しい潤滑油を使い、丁寧に、決して傷付けたりしないよう、充血してしまった粘膜の奥に侵入を進める。

(ごめんなさい……、ごめんなさい)

そう心で何度も謝っていても、犠牲者に乙女にとっての最大の苦しみを与えられるよう、ふんだんに取り揃えられた資料と自分自身を練習台にすることとで鍛錬を積まされたその指先を、女の弱点に細杭として打ち込んでしまう。
そうして、抗いようも無くなった彼女をケンスケと二人掛かりで、不本意ながらもたっぷりと嬲り者にしてしまうのだ。

「……っっ! ふっ、はぁぁーっ。ああーっ!」
「へへへ、やるじゃん。見ろよ彼女、突っ込まれて随分良さそうじゃない?」

カッと頬が染まるのは、恥知らずな技術を褒めらるように言われ、悔しさと羞ずかしさを駆り立てられたから。

「あぁ……ぁ、やめ……ぅあ、あ……やめぇ……ぇ」

しかし、震える睫毛の赤い瞳が伏せつ伏せつつしつつも、己が手に啼かされる少女の様に魅入られたかのように眼差しを変えてゆくのは、レイ自身の心に浮かんだざわめきのせいだった。

「はっ……く、くぁああん……ン」
「ほんと、上手くなったよなぁ」

少女の胸を揉みこんでいるケンスケは、秘部への責めはレイに任せ、自分はそこへ傘の柄のレンズを向けることに専念している。
撮影完了後に編集されるムービーには、あえやかな悲鳴を背景に、明らかに同じ少女のものと知れるほっそりとした指が、しとどに濡れそぼってしまった場所を刺激する様子が大きく映し出されていることだろう。

「折角だからもっと奥までさ、……教えてやれよ」

膝までぬるぬるにしてしまい、すっかり足に力が入らなくなってしまっている少女を、もっと泣かせてしまえと唆すケンスケの声。
その悪辣な囁きも、聞き咎める者がいないのが今この空間だった。
『……ひっ、いっ、いやぁぁ』と萎れた悲鳴を上げて逃げようとするのさえも、誰の耳にも届かないでは、全くの無意味でしかない。

だから、誰も気付かない。
ただでさえ白い顔立ちを、ついさっきまでは貧血を心配させるくらいに青褪めさせていた筈の彼女が、機械人形のように無感情に振舞う綾波レイが、やがて妖しい紅潮に頬を火照らせてしまっていたのにも、誰も―― 相田ケンスケの他には、気付かないのだった。



◆ ◆ ◆



「あうっ、ふっ……ッ! もうっ、ゆ、許して……」

哀れ、二人組みの痴漢―― 彼女はそう信じている―― に挟まれ、制服の下を好き勝手這い回られての急所いびりにすすり泣く声。
それを聞きながら、同じ少女の膨らみを持つレイの胸の裡には、冷たい罪悪感をじわじわと押しのける別に何かが広がりつつあった。
自分が何をしてしまっているのか。そのことを考えてしまってはあまりに辛いから、レイはを意識を払い、ただ粘膜に埋めた指先の感触だけを見詰めている。

(また……熱くなった)

それはきっと気のせいではないと、とっくにその儚い皮膜に届くまで挿し込んでまでいる人差し指でくじる。にちゅと、確かめるように。

―― ッふ、ぅうンン!」

声が跳ねた。瞬間の、オクターブの上がった端に含まれていた甘ったるさを、耳を澄ませ待ち構えていたレイは確かに聞き取る。
今間違いなく、(……指、締め付けたもの)と。それはの筈だと。

だから、確かめる。

「ッアア……、ああ! あああ!!」

ひょっとしたら、感じ取ったと思ったこれは間違いで、この子は本当に嫌がっているだけ。自分はただ苦痛を与えているだけなのかもしれないから。
だから―― 確かめる為に、また指先をいやらしく蠢かせてしまう。

「あっ、アアア! だめっ、あっ、あっ、わたっし……こんな、こんな声……!」

『ンン、ンーッ!』と、少女は自分の喉の出してしまう媚びた悲鳴にすら辱められて、泣きそうになって口元を押さえても、

(熱い……。熱くなって、溢れてきてる、の? ……教えて。あなたは今――

「だめっ、声が出ちゃ……ァアーッ!」

今や明らかな積極性を見せ、処女のきつさを持った秘奥をほじくるレイの指に、少女は熱せられた反応をなんとか押し殺すだけで精一杯の有様だった。

同じ女の造りを持つ同性同士だからこその、そしてケンスケの所有する「手」として、要求される働きを遺漏無くこなすために習得させられた的確なテクニック。
それが甘い拷問となって揮われて、少女の進退を窮まらせているのだ。

「そんな……ぁ、そんな深く―― なんて。わたっ、わたし……そんな深くまで……あっ! ないっ、ないのにっ……!」

自分での秘め事にも未体験であった湧き水の源深くまで、その細くしなやかに感じる指が没してしまっている。
敏感なピンク粘膜の小経にそよそよと遊ばれると、ジーンと腰の奥に響いて、熱いものが溢れ出しそうになるのを必死にこらえねばならなかった。
それも殆ど無駄でしかなく、クロッチの内側に他人の手が入り込んでしまっているショーツや内股に、自覚出来るほど垂れ出していてしまえば、情けなさが堪らなくこみ上げてくるばかりだ。

少女は白い喉をしゃくらせ、羞恥と悲しい昂ぶりが流させた涙を頬に伝わせる。
いやよいやよと啜り洩らして。
やめてください、助けてと泣いて。

それでも、ケンスケにぷつぷつとボタンを外され、今やブラジャー越しだけで胸を揉みしだかれてしまい、レイに蜜まみれのスリットにペッティングを受け続けて、小鹿のように弱々しく震える獲物の乙女ははっきりとした喜悦を訴えてもいるのだった。
レイが指先に神経を集中させる度に、ぶるりと背筋を震わせ、噛み殺した嬌声を悩ましげに。
(悦んで……いるのね?)と、卑劣な痴漢行為に加担した罪悪感を払うように、たった一つの罪滅ぼしと―― そうケンスケが巧みに刷り込んだ、気持ち良さを与えてやれる方法にレイが熱心になるほど、なるほどに。

「いやぁぁ……こんなのは……あっ、あっ、やっ、いやぁぁ……」

そしてレイは、少女のスカートに潜らせた右手に、手首まで伝わりだしたぬめる快楽の証を得て、上手くやれたと息を吐くのだ。
辱めてしまっている。それは間違い無いのだけれども、

「なぁ? ほんと上手いだろう、こいつ。ほら、俺もモミモミって、ね。い〜ぃ気持ちにさせてやるからさぁ」
「い、いやです。あっ、ううっ……。お願いですから、もう……もう、やめてください……」
「どうせ周りは誰も気付いてないって。俺らも誰にも言わないからさ、だったら君がいつも一人でシテるのと変わらないってことじゃん? 気にせずにそのまま気持ち良くなってろって」
「そんな……あ、あたしっ、うそです! こんなことされてっ、き、気持ち良くだなんて――
「そう? コリコリって何か当たってるじゃない。先っちょ硬くしちゃってんじゃないの?」
「あ、あうぅう! 胸っ、やめっ、ああーっ! うそっ、うそぉっ……!」

―― でも、あなたは……“発情”している。

「ンあ、ハ! はぁーっ!? そこは……ッ、わたし……ああっ、わたしの胸、だめぇぇ……」
「……ほらほら、な? 言ったろ、責任持って最後までシてやるから、安心しろって」

それはのことで、そうなったらこうして鎮めてやらねばいけない、と。
ケンスケが少女に囁くようにしつつ、その実、背後のもう一人にこそ聞かせ、仕込んでおいた歪んだ認識を喚起させるための「いつものように」というキーワードが、思惑通りに作用してレイをまた決心させてしまうのだ。

―― せめて、こんな酷いことをあなたにしてしまう私の、幾ばくかの償い代わりになるだろうか。
―― こんな卑怯な男に苦しめられるばかりでなく、私に、あなたの“発情”を鎮める手伝いをさせて欲しいから。

そんな、それもやはり紛れも無く卑怯な考えで、レイは繰り返す。
だって、と。

(……あなたのここはこんなにヒクヒクとして、悦んでいるのだもの)

“あの人たち”も、そうだった。
年頃の女の子が発情してしまうのは当たり前のことで、だから、あの人たちがいつもしているのと同じように、そうなったらただ鎮めればいい。
それは別に、なにも可笑しくはないことなのだから。

少女が、清楚な雰囲気とは裏腹にして『はああっ……』と切なく立ち上らせる、牝の淫らな発情サイン。
そこに、ケンスケの「手」とされたレイが予想だにせずして見せられた盗撮カメラ越しの、“彼女たち”の姿が重なっていた。



◆ ◆ ◆



『うあっ……、あっ、はぁっ……』

その瞬間レイは、モニタに映し出される光景をそのまま見続けてはいけないのではないかと、他のどんな女子生徒たちの時以上に震えてしまっていた。
盗撮監視用のモニターの一つ。そこには学校のとある階の女子トイレが、個室全ての中の様子をいくつものウィンドゥに並べて撮影されていて、その一部屋を今“使用”しているのが、他でもないレイも良く知る、他の誰よりも縁深い―― 惣流・アスカ・ラングレーだったのだ。

『くっ……ッ、クゥッ……、くぁ、あ、ああ……』

背筋が総毛立った。
抑えた喘ぎの呼吸を、空恐ろしいほどに高性能のマイクが拾っている。
くちゅり、くちゅりと、個室に入ったまま便座に腰掛ける素振りすら見せず、壁に背をもたせ掛け、自らのスカートの中に潜らせた両手で秘所を刺激しているらしい。
そんな湿った音までも、細大漏らさずレイに聞かせてしまっているのである。

なんてことと、声を失うしかなかった。
己が目がたった今捉えている事実が、あまりに認め難い。
傍らでは、ケンスケは彼女が座らずにいるせいでカメラに肝心のスカートの奥までが映らないことを罵っていたが、そんなことは耳にも入らず、呆然としていたのだ。

(何故……? あ、あなた、そんなところで何をしているの?)

綾波レイは、友人ともライバルとも言い切れぬ彼女がしてみせているその行為を知らなかった。
知識としては把握していた自慰とはこれを指すのだと、そう理解したのは、ケンスケが繰り広げられるクォーター同級生のオナニーショウに、

『へへへ、惣流のやつ、随分激しいじゃん。あれ絶対両手で指入れちゃってるよな? グチャグチャ、グチャグチャって、エッチな音立てて掻き回しちゃってさぁ』

と、欲望を隠しもしない態度であけすけに解説して見せたことによって。
目にしてしまった瞬間は、ただ、レイには当てはめるべき形容を浮かべることすら出来ない淫靡な歌声に、うっとりと目を瞑った表情に―― 良く知った顔の演じるその全てに、息を飲まされていた。

だが、そこからがレイの常識を揺るがす衝撃の一幕のはじまりだった。
今日は何の空恐ろしい偶然かと信じられぬ思いの目の前で、分割表示されている個室の一つに、そしてまたその一つに、隣の個室に、次々とレイの動揺を誘う顔ぶれが、まるで計ったかのように立て続けに入室してきたのだ。

『あっ、は……。きゃうっ、ン―― ンン!』

栗色のショートカットを揺らして、霧島マナが感に堪えぬと喉を喘がせていた。
白いプラスチック製の蓋に腰掛けて、腿を引き寄せる形に持ち上げ、脚を開き。そうすることでより広げてしまって深く指をくぐらせられる様にとでもいうようなポーズで、やはり秘部を熱心にまさぐっていた。

『きゃふっ、ッゥンん! ンッ、ンッ、ンッ、ンッ……!』

男子が見ている前ではどころか、同じ女子の前でだってして見せるのは恥ずかしい卑猥なMの字開脚になり、すっかり下ろしてしまった下着は―― そこはトイレなのだから大胆でも何でもないのだろうが―― 右足首に引っ掛かった状態にある。
そうしてしきりに、盗撮カメラが真正面で捉えるつるつるの恥丘の割れ目を、二本揃えて伸ばした指でなぞり続けていた。

『……あっ、あっ。あっ、あっ……感じちゃうよぉ……』

後から後からぬるぬると滲み出すラブジュースを潤滑油に使い、没頭していた。

『……ん、ンン……ぅン……』

更にまた隣の個室。真っ赤になった顔を俯かせてしまって、山岸マユミがスカートの裏にすべすべのお腹が見えるほど捲り上げてしまっている。
裾をぎゅっと握り締めつつ、もう片手ではショーツの下で休み無く湿った音を立て続けにさせている。
普段は物静かな性格をしている彼女だったのに、見ている内にもっともっとと行為をエスカレートさせていく一方だ。
自分で意識してのことなのか、そのスカートを握っていた手をそろそろと持ち上げて自分の胸を、その頂を探り出すような手付きで、

『あ、あ、あ……。やっぱり……こんなに、硬くなっちゃって……い、いやらしい。私、いやらし……』

熱に冒されたような火照った声で、ぐりぐりといじり出してしまう。

『だ、だめっ……だから……あ、あむっ、ん゛っ―― 。ん゛ぅぅ! ん゛っ、ん゛あぁう! ふーっ!』

遂には、声を殺しに慌てて取り出したハンカチを銜えて、それで安心したようにまた耽りだす。
清楚な純白の生地がすっかり愛蜜で汚れてしまい、ぴっちり張り付いてマユミの花園が内側から爛熟してしまっている様子を見せるそこを、リズミカルな指遣いで。

眼鏡のレンズが曇るほどになっているのは、それだけマユミが体温を上げてしまっている証拠。
まさかケンスケという少年の好色な目に餌食とされているなどとは思いもしない事だろうが、そうやって恐ろしいことに、乙女のこれ以上無い乱れきった秘め事の一部始終は、密かに設置された撮影装置を通じて隠れた観客に供されてしまっているのだ。
そうやって手に入れた全てを“商品”と言って恥じない、この卑劣な少年に。

(……!?)

また別のウィンドゥの中。親友である赤毛の美少女が、徐々に力の入らなくなっている様子でずるずると背中からずり落ちていっている―― その壁に向かって薄板一枚、腰を突き出し、便座に手を付いた前屈姿勢ではじめてしまった洞木ヒカリに至っては、破廉恥にもスカートの下に下着すら付けていなかった。

『ぁ……は、ぁぁ……は、恥ずかしい……』

そんな格好で自分を触って追い詰めて、ひくひくと悶えながら突っ伏していってしまうものだから、高々と掲げるようにしてしまったお尻はスカートが剥がれ落ちて丸見え。
剥き出しの女性が綺麗なピンク色にぬめついている様まで、しっかりとカメラに録画されてしまっていたのである。

『こんなに……なっちゃうなんて……。ああ、どうしよう……私……もう、もう―― !』

すぐ隣にはアスカが、そしてマナが、マユミが居るのよとレイは言ってやりたかった。
或いは、と、確かめたかった。
だのに、ヒカリはそばかすの残るあどけない顔をきゅっと切なく顰めさせながら、憚りの無い声を上げていくのだ。

『あんっ、あんんンぅ、ンーッ! 良いよぉ……、すっごく、すっごくイイよぉ!』

仔猫のように甘ったるい啼き声を上げていたマナが絶頂に達したのか、はだけたブラウスの間に小ぶりの乳房をふるんと震わせて仰け反る。
白く晒した喉首に、ヒクヒクッと今際のそれにも似た痙攣が走るのをレイは見た。
暫しの硬直の後には、鳶色の瞳はトロンと濁り、口元には14という歳を疑う涎の跡がだらしなく残る。
マナは、華奢な肩を上下させながら余韻を噛み締める、白痴のような笑み顔だった。

薄壁一枚を隔てただけでそうも悩ましく息を弾ませて、お互いに気付いてはいないのか?
レイはもう声も無い。
瞬きさえ忘れたかのように、愕然と赤い瞳を見開いたまま。
きっともう、繰り広げられる友人たちの生出演ショーを最後まで見届けてしまうまでは、呪縛が解けなくなっていたのだろう。



◆ ◆ ◆



普段はプライドの高さに相応しく、凛と振舞っている彼女だった。
クラス編成が変わった今も損な級長の立場を引き受けて、それでも誠実に務め上げるあの友人は、レイの横で下品に笑われて『淫乱なんだよ』などと嘲られるような娘ではなかった。
日本人形のような長い黒髪の綺麗なあの少女も。
そして、過去の酷薄なスパイ時代の翳りなど今ではおくびにも出さず明るく振舞う彼女も。
皆、レイの知る限りでは、そんな見ている方が顔が熱くなってしまうような表情など、見せたことはなかったのである。

今のレイは、片手で数えてすら余る相手だけを視界に納め、その他の全てを切り捨てて生きていた人形少女ではない。
シンジという少年を自分の意思で選んだ時から、アスカやヒカリといった言葉少なくながらも共に時間を過ごす相手を増やし、そして彼女なりにも互いというものを知ろうと努めて不慣れな人付き合いを学び、いつかシンジに心配されてばかりではない―― 当たり前に友も笑顔も知る豊かな生き方へ届いてみせると願う、そんな生まれ変わった女の子なのだ。

それだけに、ある一面では特に未発達だった彼女に友人たちが生々しく見せ付けた「性」は、日頃の姿とあまりにかけ離れていたせいも相俟って、受け止める素地すら存在しなかったところを強かに揺り動かした。
レイを己の思うがままに穢し、しゃぶり尽くそうと狙うケンスケの前では、致命的とすら言える隙を作ることに繋がったのである。

『あぁ、そうか。随分驚いてるみたいだけど、つまり綾波って、まだまだお子様だったってこと?』

だから、信じてしまった。

『知らないの? あんなの当たり前だって。もう俺たちも年頃ってやつじゃん。体がそうするようにって出来上がってきてんだからさ、ムラムラしてきたりすんのも普通だろう?』

ただの生理現象ってやつだよ、と。内心にほくそ笑む本音は隠したまま、邪悪に吹き込んでレイの理解を誤らせた言葉を。

『人間様っつったって結局はドーブツなんだぜ。だからさ、発情って言った方が綾波には分かり易い?』

人間には発情期というものが無い代わりに季節を選ばない生殖が可能であり、つまりは一年中を通して、いつも発情期にあるのと同じ。
だから、自分たちの年代のように体が成熟してくると、自身で処理する方法を覚えるのだ―― と。

『トイレってのは、生理的欲求の解消に使うための場所だろ? 要するにそういうことだよ、綾波』

納得のゆく説明だと素直に頷いてしまったのが、茫然自失の体にあったとはいえ、レイの致命的な失敗であった。

そうして、言葉巧みにもたらされた一滴の毒。
それと気付かせぬまま飲ませることに成功したケンスケの毒が、綾波レイの無垢な精神に、密かな腐食を及ぼしはじめたのである。




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Original text:引き気味
From:エロ文投下用、思いつきネタスレ(3)