嘆願の部屋で触手


Original text:ナーグルさん


 「なかなか強情だな」

 薄明かりの中、机に座っている男は淡々と呟いた。その感情を感じさせない声に彼女は腐臭を感じる。男の立像のよう強ばった顔に浮かぶ、刺すような視線。色眼鏡の奥からでも、その視線を感じ取ることが出来る。

 視姦されている…。

 つま先から頭まで舐め回すように。男の想像の中で、自分はどんな姿をしているのだろう。
 おずおずと…既に当初のけたたましさと不遜な態度は微塵も見られない…彼女は何度目になるかわからない許しを請う。飢えたオオカミに対する命乞いより可能性がなかったとしても、彼女はそうせざるを得ない。

「もう…許して。私は…スパイ…なんかじゃ…ない」

 じゃらり…と、頭上で縛られた両手を拘束する鎖が鳴る。すっかり乾ききった唇が震え、縋るような上目遣いが男を見る。心の底からの言葉なのか、それとも何か計算が働いているのか。

「ふむ…。強情だと言ったが訂正しよう。筋金入りとな」

 顎を乗せたまま組んだ手で顎髭をさする。反射的に彼女は身をすくませた。男が顎髭を触ったとき、なにがしかの拷問が始まるのが常だった。バタフライマスクを付けた、金髪黒眉ボンデージ衣装の女性に鞭打たれたことを皮切りに、それはもう色んな事をされた。
 そのとき、大切に守っていた処女も…。
 しかし、彼女はまだ知らない。そんなことは、これからされるだろう事に比べれば、取るに足らない出来事なのだと。

「やだ、やめて…やめてよ。ううん、やめて、下さい」
「それは本気で言っているのかね、戦略自衛隊所属の霧島マナ君」
「!!」

 揶揄するような男の言葉に、彼女は…霧島マナは僅かに目を見開いた。直後、同様を悟られないように平静を装うとするが、男はめざとくその変化を見逃さない。もうすっかりばれているのに、それでも虚勢と嘘を塗り固めなければならない少女。

 この瞬間が最高なのだ。

 我ながら下衆な考えに、組んだ手で隠した口を歪める。

「…なんの、ことですか。私は、ただ転校してきただけの、普通の」
「黙れ」

 男は彼女の言葉を遮る。まだ遊んでも良かったが、そろそろ我慢の限界が来ていた。痛いほどズボンの下でいきり立つ息子にほくそ笑む。

「隠すな隠すな。お前の本心は分かっているぞ。本当は期待しているのだろう。忘れられないのだろう」
「違う! 違います! 私は、そんな」
「確かに最初は苦痛に涙を流して嫌がっていたな。だが、今はどうかね? 既に陵辱された回数が二桁を超えた今では? 以前は、自殺できないように色々処置を施していたな。だが、今では?」
「あ、ああ。違う、違うわ。私は、そんなこと…期待なんか、してない。嘘よ、嘘…。
 シンジ、シンジ」

 立ち上がり、ニヤリと男は笑う。
 彼女の呟いたシンジの元になった遺伝子を、今までさんざん胎内に注ぎ込んできたといつ教えてやろうか。

「ふっ、今日は少しばかり趣向を変える。先日、やっと改造が終わった物でね。赤木博士め、全くもって使えない女だ」

 上着を脱ぎ捨てる。

「こないで! いや、近づかないで! 私はスパイなんかじゃありません! ネルフのことなんか知りません! エヴァンゲリオンとか言われても、何のことか…わかりません」

 しおれたように茶色の髪を生やした頭が項垂れる。
 一歩一歩近づきながら、男はシャツを脱ぎ捨てた。それなりに鍛えているが、下腹の出た裸体。

「そう言いつつ、その期待に膨らむ胸は何かね?」
「む、胸は普通膨らんでます」
「ほう? 初めてお前を抱いたときは、まさにマナ板という感じだったがな。私がその膨らみを育てたというわけだ。おっと、怒った顔も全く持って魅力的だ。レイが持っていない、感情を感じさせる。素晴らしい」

 ベルトをはずし、下着ごとズボンをずらす。密集した剛毛の中で鎌首をもたげる性器に、精一杯の抵抗としてマナは顔を背けた。また、あれで犯されるのだ…。

「もう、もうやだ。シンジ、助けて助けに来て…。ムサシ…ケイタ…」


 しかし…。


 秘密の扉を幾つも超えた先にある『ゲンちゃんの裏部屋』の所在を知る者は、彼と彼の愛人である赤木リツコしか知らないのだ。それ以外でこの部屋に入った者も勿論いるが、ある者は故人であり、ある者は目隠しをされた上で連れ込まれたのでどういうルートをたどったのかわかるはずもない。薬を使って夢と思わせた者もいる。
 マナを救うヒーローが登場する余地はない。

「さて、お楽しみの時間だ」


◆ ◆ ◆



 男が…碇ゲンドウが持っていたリモコンのスイッチを入れる。

「ポチッとな」

 さりげに、年がばれる発言を忘れない。

「ひぃぃっ!」

 悲鳴を上げたマナは、出来る限り体を小さくし、壁にぴったりと体を押しつけてゲンドウと距離を取ろうとする。

「良いのか? それで」
「いや、いやぁぁ! 近づかないで!」
「それはかまわんが。だがな、スライムは壁から染み出てくるのだよ」

 ゲンドウの言葉は当初なんのことかわからなかったが、すぐにマナは合点がいった。

「はひぃぃ!? なに、なにこれ!?」

 壁に押しつけられた腰や背中に感じる、冷たくぬるぬるとした感触に悲鳴を上げる。慌てて壁から離れようとするが、1メートルほど離れたところで彼女の逃避行は終わりを告げる。目の前で自分のうろたえようを楽しむゲンドウがいたからが一つ。両手を鎖で拘束されていたからが一つ。
 そしてなにより、背中に張り付いた緑色の粘液が自分を壁の方に引き戻そうとしていたからだ。

「や、やだ。引っ張られる」

 栄養不足と虐待で弱った足を踏ん張るが、じりじりと引きずられていく。寝間着のような薄く白い服が、びりびりと音を立てて裂けていく。

「ああ、言い忘れていたが。そのスライムは石油製品が大好物だ。それから、人の排泄物などもな」
「あ、ああっ…きゃあああ――――っ!」

 風呂場で石鹸を踏んだように足を滑らせ、マナは背中から地面に倒れ込んだ。予想していた衝撃はマナを襲ってこない。かわりに、固まりかけのセメントにつっこんだような、不気味に柔らかいクッションが全身を包む。

 ぬちゃり…と湿った音を立てて、手が、足がスライムの中に沈み込む。

「やだ! やだぁぁ――!」

 腰や胸まで沈み込み、湿って体に張り付いた衣服が溶けていく。炭酸飲料をかぶせられたような微妙な感触に、マナはこれまでで最大級の悲鳴を上げる。

「きゃう! はぁあううううぅ――――――――っ!!!」

 体を仰け反らせるマナを捕らえたまま、ぞわぞわと、まるで意志を持つようにスライムが動いた。細腰の周囲の絡まり、さするように粘液が蠢く。くすぐったいような感触に、マナは顔を左右に激しく振って抵抗する。

「ひっ。いいん! くすぐったい!」


◆ ◆ ◆



 ちゅぷ…ぬちゅり…ぷちゅる。

 人の手のように形作った粘液が、乳首を堅くして天を向く健康的な乳房に覆い被さる。そのまま、愛撫するように粘液は蠢いた。体の内から込み上げてくるような快感の中、彼女はただひたすらに深く息を吸い、はき続ける。

「はぁぁぁぁっ。あ、ああぁ………。ひっ、ひぃ、ふぅぅぅぅぅ」

 唯一自由になる首を激しく左右に振り、乳首を転がされ乳房全体を愛撫される快感に小刻みに体を痙攣させる。薄明かりの中、徐々に衣服が溶かされてピンク色の乳首と白い乳房が衆目の目にさらされていくのは、たまらなく淫靡だ。

「うくっ、ふっ……ううっ」

 スライムの中に囚われた指先が、すがれる物を求めて堅く握りしめられる。まるで宙に浮いているような感覚は、彼女の恐怖心をいや増し、身の危険を感じさせることでより性感を高めていくのだ。

「はぅ、あぅ。切ないよ…怖い、怖いの」

 M字型に開かされた足の間に、たっぷりと粘液が集中していく。
 ニヤリとゲンドウは笑った。当初のうろたえぶりもどこの行ったのか、口では拒絶しつつも体は貪欲にスライムを受け入れていく。開かれた足の間の淡い恥毛が濡れる様を、愛くるしい顔に似合わぬ開発されたスリットを、最高の娯楽を楽しむようにゲンドウは観察し続けた。

「ふっ、さんざん私の味を教え込んでやったからな。受け入れる準備は万全か」
「ひ、酷いよ…。どうして私がこんな目に…」
「ふっ、君はシンジの良い友人だったが、全て君の乳が悪いのだよ」
「…シンジ? お父さん? あなた、一体彼の…ああぅ!」

 マナの悲鳴を合図に、乳房を愛撫する仕方が、揉みしだくことから撫で回し、舌で舐めるような形に変化する。薄緑色のスライム越しにぐにぐにと変形する双丘に、ゲンドウは目を細めた。

「ふむ? どうやらすっかりと服を食べ尽くしたようだな」

 彼の言葉通り、マナの体を包んでいた服はすっかりと消え去り、緑色の固まりの中に仰向けになったマナの裸身が浮かんでいた。つま先までピンと伸ばし、ふくらはぎを痙攣させてマナは呻き声を上げ続ける。

「ひゃ、ひゃうぅ。そんなの、はぁぁ、だめぇ」

 涙をにじませ、マナは体を仰け反らせて呻く。力無く喘ぐ口元から流れ落ちた涎が、スライムの上に落ち、ゆっくりと取り込まれていった。開脚させられた足の間、成熟した淫靡さを持つ秘所から溢れる愛液も、きっと同じように吸収されているのだろう。このまま、彼女も取り込まれてしまうのだろうか。

「ふっ、乳首が立っているぞ。イヤらしい女だ。拷問だというのに、喜びに震えている」
「ちがう、違うぅぅ〜〜〜。私は、喜んでなんかぁ。あはぁ……」

 敏感な胸は、今も責め続けられている。断続的な痙攣が強く激しくなっていき、マナの全身から匂うような色気が立ち上った。

「はぅ、あぅあぅ。い、いいひぃ!」

 眼鏡の位置を直し、ゲンドウは淫らに喘ぐマナの姿に満足そうに頷いた。性の喜びに腰を振り、貪欲に快楽を貪る一輪の華。まだ青い蕾だった彼女をここまで開花させたのは、他ならぬ自分自身なのだ。

(シンジの奴め。泣いて悔しがるが良い)

「ふふふ、いけ。いくと良い。それが呼び水となり、スライムはお前の中に進入する。体の内から徹底的に犯されるが良い」
「や、やっ! やんっやめぇ! ひぃ、あぐぅぅ――――――っ!」

 真っ赤に紅潮した顔をドロドロの汗で化粧し、マナは異生物との戯れに我を忘れて叫んだ。もう、何も考えられない。今はただ、この快楽に身を任せることしかできないのだ。

 そしてこの後は? 体の中から犯された後は?

 へそまである一物の先から先走りを溢れさせる髭の大男、碇ゲンドウが文字通り腰が抜けるまで自分を犯し尽くすのだろう。
 薄れ行く意識の中、マナはスライムの一部が胎内に進入していくのを感じていた。



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From:触手のある風景