「あ、こら、ママはいまだいじなでんわしてるの!ちょっと、ダメよ、ママの髪の毛引っ張っちゃ!ごめんねぇ、どたばたして」
 ヨーロッパの自宅から碇シンジの携帯にかかってきた「加持」ミサトからの電話は、こどもたちが母親を呼ぶ声でひどく騒々しかった。
 「いえ、大丈夫ですよ」碇シンジは苦笑する。「こっちも出先ですから、うるさいんじゃありませんか?」
 「ううん、そんなことないわ。大丈夫。こっちはね、ちょっと目を離すと大変なの、あ!!パパのPCいじっちゃいけません。また怒られるわよ。こら、ペンペン!アンタもうちょっとまともに子守しなさい!あっ!逃げた!」
 しかしその口調はひどく幸福そうで、同時に母親としての自信に溢れていて、シンジは微笑を浮かべてしまう。
 「どう?式の準備は順調?」
 「ええ。大丈夫です」
 「『面倒っちぃコトやめにして、入籍だけにしておこう』なーんて考えちゃダメよ。ちゃんと式は挙げるのよ」
 「ミサトさんは入籍だけでしたよね」
 「そ、だから言ってるの。やっぱりウェディングドレスは女にとっては重要よぉ。ま、あのアスカだから、それは絶対譲らないでしょうけど」
 「……そうですね」ちくりと心が痛んだ。美しい婚約者が「花嫁修業」に出てはや一週間たっていた。少し乱暴に身体を動かす。かすかなうめき声が聞こえた。
 「あれ?アスカとなにかあったの?」シンジの声の変化に耳ざとくミサトが訊ねた。「まさかケンカ?」
 「いえ、違います。その、ここ数日、アスカとはあまり話をしてなくって」
 ミサトは溜息をつく。「だめよ、お互い忙しいし、すれ違いも多いとは思うけど。Nervの仕事は神経がすり減るものが多いんだから、ちゃんとシンちゃんが気を遣ってあげないと」
 「そう、そうです……ね」
 「そうよ。釣った魚にもちゃんとエサあげないとだめよん」
 「ええ、そうします。いえ、してますよ。パリのオートクチュールのドレス代だって半分出さされたし」
 「オートクチュール?パリで作るの?」
 「ええ、すごい金額でした」
 「本当にパリなの?」
 「……ええ。やっぱり……国産とは違うみたいです……よね?」
 「……信じらんない」愕然とした口調だった。しばらく沈黙したのちミサトは話題を変える。
 「しっかしアスカも式まであと一ヶ月ないのに、仕事をセーブしないでナニやってんだか」
 「えっと、その、いろいろ忙しいみたいで……」
 「ね」ごく気安い口調でミサトがたずねた。「それってアメリカ支部と関係あるの?」
 「え、ええっと……ええ」
 シンジの心はさらに痛む。寂しさと、それを上回る嫉妬で。
 「アメリカ支部……ねぇ。ふーん……で、どこの誰?アメリカ支部の」
 「えっと、クリスって方です」
 「クリス……ねぇ……あ!わ!こら!けんかはやめなさい。ね、ほら、お姉ちゃんなんだから、縫いぐるみ貸してあげても、ね?」
 代わりに聞こえてきたのは「ママ、ママったらいじわるぅー。どーしてあたしだけいじわるいうのぉ?」という泣き声だった。はぁっ、とミサトは盛大に溜息をついた。
 「ごめんなさいね。ちょっち立て込んできたみたい。また今度電話するわ」
 「こっちこそ、忙しい中わざわざありがとうございます。ミサトさん」
 シンジは携帯を切る。視線を下へ落として笑う。
 「辛いかい?マヤ」
 マヤは目に涙を浮かべたまま上目遣いでシンジを見上げる。
 彼女は答えない。揺れる瞳は彼の言葉を肯定しているようにも否定しているようにも見えた。
 「大好物だもんね。これ」
 彼女は答えない。代わりに周囲のどよめきが大きくなる。
 伊吹マヤ、彼女のお気に入りのリップで輝く唇は大きく開かれ、深々と碇シンジのペニスをくわえている。



真説・交換奴隷誕生記 -煉獄編-






 「じゃ、出すよ」
 「ん!んんん……んっ」あくまでも穏やかな彼の声にマヤは全身を震わせた。
 そうしてようやくマヤの唇を割り、喉奥深く挿入されていた碇シンジのペニスが引き抜かれる。
 「あ、ああ……」ピンクがかったルージュを塗られた唇から白い樹液が溢れそうになり、マヤは慌てる。再びシンジを上目遣いで見つめた。
 「上手だったよ。マヤ。けどね」シンジは彼女の柔らかな髪を撫でてやる。清楚なワンピースをウエストだけにまとわりつかせた彼女は、なめらかな肩と柔らかな双乳と、股間が透けるほど濡れそぼった薄いピンクのショーツに包まれた豊満なヒップをあらわにして居酒屋の畳にひざまずいてぶるっと全身を震わせた。
 「まだ」
 髪を撫でていたほっそりした指が頬をくすぐり、真っ白な肩を抱いた。
 「んんん……」声を出せない従順な人形を、シンジはそっと抱き起こす。膝立ちにした躰をぐるりと巡らせて、ほっそりとしたおとがいを持ち上げて、マヤに彼女を見つめる男たちの視線……その中には無機質なビデオカメラのレンズもあった……と表情を理解させる。
 「さ、マヤ、あーんして」
 ふるふると首を振る「許嫁」のほっぺたにちゅっと口づけてから碇シンジは耳元でささやく。
 「マヤ、僕の言うこと聞けないの?」
 「あ、んん……」碇シンジの婚約者は桜色の唇をゆっくりと開き、その小さな口の中が牡の白濁液で満たされているさまを涙ながらに披露する。
 「うわ、すげぇ」
 「あんな事までするんだ。可愛い顔して」
 どよめく室内にマヤは全身をピンクに染めた。
 「マヤ、みんなによく見てもらうんだよ。マヤがよーく味わっている様子を、ね?」
 彼女はもう逆らわない。頬に涙を伝わせながら、さらに大きく口を開けて白濁液からのぞくピンク色の舌をれろれろと動かすことまでしてしまう。
 「いいよ。マヤ」その言葉を聞いてから彼女はこくんと喉を鳴らし、碇シンジの精液をようやく嚥下した。再度あがるどよめき。
 「い、碇……すごいな」
 ゼミ仲間の言葉にシンジは微笑してみせる。
 「そんなことないよ。マヤがいやらしいだけだよ」目元を赤く染めてマヤはうつむいた。柔らかな乳房をそっと持ち上げ、先端をこりこりといじってやりながらシンジは言う。「マヤはね、何でもするんだ。何でも言うこと聞くんだよ」
 彼の左手がフィアンセのお尻を撫でまわし、ショーツをゆっくりと下ろしていく。くるりとショーツが剥かれて真っ白なお尻が、そして下腹部が露わになった。
 「お、おい……マヤさんの……」別の誰かが声を詰まらせ、シンジは数度目の例の笑みを浮かべた。
 「ええ、剃ってます。毎日ね」
 部屋中の誰もが、マヤに視線を注いでいた。
 その無毛の女裂に。そこからしみ出す牝蜜に。
 「さ、マヤ、もういちどみんなに挨拶して。『本当の』挨拶を……ね」
 耳元でささやかれ、頬に口づけを受け、ああ、とマヤは躰を震わせる。しかしその瞳には陶酔と被虐の色があった。
 「わ、わたし……」乳首をこりこりといじられ、うっとりとした表情で彼女はつぶやく。
 「わたし……マヤといいます。シンジさまの……ドレイです。おちんちんがだいすきで、はずかしいことがだいすきで、えっちなごほーしがだいすきなペットで……す」
 ゼミ仲間のだれかがごくりと喉を鳴らした。
 「ね、ちょっと教えられたらやみつきになっちゃったんですよ。マヤは」シンジが補足し、ぎゅっと彼女を抱きしめる。
 「さぁ、今日はね、僕だけじゃなくってみんなの奴隷になってほしいな」
 「あ、ああ……そんな……そんな……」大きな瞳に涙を浮かべ、彼女はフィアンセに慈悲を乞う。しかし乳首をこりこりといじられながら「どうして?マヤはマゾの奴隷だろ?どうして御主人様の言うことが聞けないのかな」とささやかれていくうちに彼女の理性はまた濁っていく。
 さらに「ほら、マヤはおちんちんが大好きだろ?今日はいっぱい舐めさせてもらえるし、握らせてもらえるし、そのうえいっぱい中出ししてもらえるよ」と耳たぶを甘噛みされつつ、なんどもなんども催眠術のように淫らな台詞が吹き込まれていくうちに、マヤの意識は朦朧としてくる。
 そして彼女は、女性としてのプライドも、人としての尊厳も投げ捨ててしまうのだ。
 「あ、あの……マヤは、マヤは、恥ずかしいことが、いやらしいことが大好きな、おとこのひとにごほーしするために生まれてきたいやらしいペットなんです……。その、あの……みなさんに……ご奉仕して……いいですか?」
 コケティッシュに微笑む彼女の真っ白な内股を、つうっと雫が垂れていく。
 彼らに否やはない。
 青年達がかちゃかちゃとベルトを緩める音が聞こえはじめるまでに、ほとんど時間はかからなかった。
 マヤの押し殺した嬌声が聞こえはじめたのは、そのすぐ直後だった。


 ……いったいなんだって、今日は女性参加者がゼロなんだろう。
 ……なに言ってるんだか。「今日も」だろ。

 ゼミのミーティングと称した飲み会が行われている居酒屋に、碇シンジが到着したときの主な話題はそれだった。
 週末にデートの相手もいない先客の男子五人による「つきあいの悪い女子たち」への愚痴を苦笑混じりに聞いていた碇シンジは、その婚約者の存在が羨望まじりの非難の的になってしまった。それはもちろん酒の肴としてのものであったが。
 だからシンジが「じゃ、呼びましょうか」と微笑んで携帯を取り出したときには、彼らはひどく驚いてしまう。
 なぜなら彼は、けっして婚約者を同級生達に紹介しようとしなかったのだった。正確には、相手がそれをひどくいやがっていたからだった。一度みなの要望に根負けしたシンジが電話をかけたときには、「冗談じゃないわよ。アタシ、そんな晒し者になるなんて絶対、断固として、嫌だからね!」と近くにいたものが聞き取れるほどの大声が受話器から漏れたほどだったからだ。
 しかしどういう心境の変化か、「彼女」は三〇分もしないうちに居酒屋の個室のドアをノックする。
 噂とは違って「絶世の美女」というわけではなかったが、その表情は親しみやすく、少し幼く感じる表情が愛らしい、十分以上に魅力的な女性だった。さらに、薄手のカーディガンとミニのワンピースに包まれた全身からは「自分が選ばれた幸福感」が放射されていて、それがさらに彼女を魅力的に見せていたのだった。
 「えっと、いぶ……いえ、マヤと言います。その、シンジ……く、シンジさんがお世話になっています」
 「ほら、みんなに挨拶して」と碇シンジに促されたマヤは自己紹介をしてぺこりと頭を下げる。頬を染め、はにかみながら。
 素直で従順なその様子に大学生たちは一様に好感を抱いた。
 さらに彼女……「碇」マヤはシンジに促されると、狭い個室のなかをまめまめしく動き回りメンバーひとりひとりにお酌をする。まさしくそれは、初々しい新妻のイメージ通りだった。
 メンバーのひとりがビデオを取りだし、撮影を開始する。マヤは一瞬表情を硬くするが、フィアンセに「マヤの可愛い姿、撮ってもらおうよ」と言われるとなにも言えなくなってしまった。
 狭い室内に詰め込まれたシンジの同級生たちにほとんど密着するような姿勢でビールを注ぐ彼女は、必然的に柔らかなバストを青年達にすり寄せ、ときにはむっちりとしたお尻を押しつけてしまっていた。
 さらに婚約者の友人たちを疑うことも知らない無邪気な彼女は、姿勢を変えるたびに膝上五センチのスカートの奥の薄ピンク色の下着を披露してしまっていた。
 「奥さん」などと冗談めかして呼ばれつつ、返杯を受けている(どころか一気飲みまでさせられていた)うちに少し呂律が回らなくなり、膝立ちでの移動でついバランスを崩してしまうほどになってしまう。
 だからシンジの学友達が、マヤの腰に馴れ馴れしく手を回し、さらにバストに手が触れても、彼女を支えるふりをしてお尻を撫で回しはじめても、それにふしだらな意志を感じ取ることができない。「あっ、ご、ごめんなさい。すみません」と彼女は真っ赤になって頭を下げるのだ。
 室内の雰囲気が獣性を帯び始めていることも、碇シンジがその様子を面白そうに眺めていることなども、もちろん気がつくわけなどなかった。

 ゼミのメンバーに挨拶をひととおり終え、「シンジの恋人として紹介された喜び」にひたりながらその彼の隣にマヤは腰を下ろす。少し体重を移動して、華奢な躯を長身の彼に預けた。
 「マヤ、ビール、いる?」と愛おしい婚約者に訊ねられた彼女は、少しとろんとした目で彼を見上げ、普段飲み慣れていないにもかかわらずうなずいてグラスを差し出した。
 にこりと笑ったシンジがグラスを満たした茶色の液体を「じゃ、いただきます」と頬を染めて口を付けようとするマヤの両手がシンジのそれに包まれた。
 そのままグラスはシンジの口へと運ばれる。グラスが半分ほど干された。
 「え?シンジ……くん?んんっ!!!!」
 問いかけようとするマヤの唇がシンジの唇にふさがれた。そのままビールが流し込まれる。
 「んっ!ふうぅぅぅん!」
 大胆すぎる婚約者に抗議しようとしたマヤはしかし、すぐに抵抗を放棄する。うっとりと目を閉じ、喉を鳴らして苦い液体と彼の唾液の混合物を飲み干してしまう。
 「おいおいおい……」あきれ顔のギャラリーのことなど、マヤの思考からは抜け落ちていた。
 甘美な感覚に支配されて、「愛おしい御主人様」と舌を絡めることだけに熱中していた。
 グラスの残りのビールをシンジの口から飲まされるころには、マヤはもう膝立ちすらできなかった。
 アルコールではなくシンジの唾液に酩酊した彼女は肩を抱かれ、ゼミのみなと向き合わされた。
 「マヤ」耳元でささやく碇シンジの声はどこまでも優しく、でも逆らいようのない響きがあった。「ここのゼミ、女子のほうが多いのに飲み会には出てくれないんだよね。だから今日は」シンジはちゅっと彼女の頬に口づけをする。「マヤがサービスしなくちゃ。ね?」
 マヤは「婚約者」の指が自分のカーディガンのボタンを外すのをただ見つめることしかできない。
 ふわり、とお気に入りの真っ白なカーディガンが肩からずれ落ちる。
 ぷつり、と首元のホックが外され、背中のファスナーがじりじりと下ろされる。室内の空気に直に触れた肌はひどく火照っていた。
 腰のところまでファスナーが下ろされたところで、伊吹マヤは上半身を露わにされてしまった。ウエストまでずらされたワンピースに両手を拘束された姿で、お洒落なハーフカップブラに守られた膨らみをさらけ出す。
 もちろんそれもすぐに取り去られてしまうのだ。碇シンジの「マヤ、ここ最近でずいぶん育ったね」という言葉とともに。
 ぷるんとまろび出たCカップをいやらしく愛撫され、愛らしい表情が甘くとろけていくさまを観察され、スカートをおへそまでまくり上げられて成熟したカーブを描く下半身を露わにされる。
 「いいコでしょ」声を失っているギャラリーにシンジは微笑んでみせる。「なんでも言うこと聞くんです。とっても素直なフィアンセなんですよ」
 そうしてぐいとマヤを跪かせ、テーブルに腰掛けた彼はスラックスのファスナーを降ろした。
 そして言う。
 「しゃぶって、マヤ」
 「あ……あ……そんな、そんな……」
 涙を浮かべるマヤのおとがいをついと持ち上げ、艶やかな唇をシンジはそっと撫でる。
 「どうしたの?マヤの大好きなおちんちんだよ。上手にできたらお口の中にたっぷり出してあげてもいいんだよ。ほら、マヤの大好きなセーエキが飲めるんだよ?」
 「あ……お……お願い……お願い、こんなこと、こんなこと、みんな見てるのに、見られて……私、できない……」と涙ながらに懇願しながらも、ブリーフを持ち上げる牡自身から彼女は目を逸らすことができない。むっくりと身を起こした肉茎のホルモン臭を認識してしまうと脳髄に一撃をくらったようにふらふらと唇を近づけてしまう。

 碇シンジの携帯が鳴り、彼が相手と親密な口調で話しはじめてもマヤはそれが誰からの電話なのか気にもかけなかった。
 彼女はその柔らかな唇で、熱い口腔で、フィアンセのペニスを味わい、奉仕することに熱中していた。
 「他人に注視されながらフェラチオを強要される自分」に酔い、先走り汁の匂いと味に酩酊していた。


 「どうです?可愛らしいフィアンセでしょ?」碇シンジはゼミ仲間たちに微笑んだ。
 「あ、ああ……でも……よかった……のか?」
 たっぷりマヤの胎内へ中出ししたのちに、不意に我に返ってしまったゼミ仲間へシンジはゆっくりとうなずく。口元に笑みを浮かべて畳を見下ろす。
 そこには彼女がいた。
 愛らしい表情を、唇を精液で汚され、女陰と菊門からも青年達の樹液をしたたらせて失神しているマヤがいた。
 「ええ、だって本当に嫌なら、叫んででも抵抗するはずでしょ。それなのにマヤは隣の部屋に聞こえないように必死で声を押し殺してたんですから。ね?マヤって本当に可愛いマゾでしょ?」
 「そ、そうか、じゃぁ問題ないんだ・・・ぁ」室内の空気ががらりと変わり、ゼミ仲間達はマヤの「味」と彼ら自身がどう楽しんだかを口々に語りはじめる。

 碇シンジはその中でひとり、それ以上誰とも話さずに笑っていた。
 いつのまにか彼の手に渡ったビデオを回し、精液で白化粧されつつも幸福そうに夢見るマヤの表情を撮影していた。



◆ ◆ ◆



 「ね、あなた」
 「ん?」サイドボードのタバコに手を伸ばしたところをぴしゃりと妻にはたかれた加持は、そのままの姿勢で振り返る。
 「今日ね、シンジ君に電話してみたの」黙ったまま続きを促す夫にミサトは皮肉な笑みを浮かべた。「するとね、ここでも出てきたわけよ。最近の『職場』でおなじみの単語が」
 「『アメリカ支部』かい?」
 「そ。すごい復興ぶりじゃないかしら。アメリカ支部」
 「……やれやれ」加持は溜息をつく。それは妻の皮肉っぽい口調に対するものだったのだろうか、それとも別の存在に対して呆れたためだろうか。「チビどもをようやく寝かしつけたのに、夫婦の会話がこれだとはね」
 「あらぁ、ピロートークで情報交換はこの『業界』の伝統じゃないかしら?」
 悪戯っぽく笑う妻の毛布をなおして加持は苦笑した。「なるほど……ねぇ。で、『彼女』の動静は?」
 「松代から一歩も動いてない。ネットワークも無線通信も、こちらの監視レベルでは不穏な動きはないの。もちろん第三新東京とはコンタクトの気配もない。でもたぶんどこかにすごい抜け穴があるんだわ」
 「F.A.B(FEDER-ALAGENT BUREAU)の公式書類にも『第三新東京の震源地』って書かれてたなぁ。いつのまにか魔女みたいな扱いをされるようになって。リッちゃん」
 夫の言葉にミサトはくすりと笑った。しかしその表情はすぐに愁いを含んだものに変わる。「松代に幽閉するくらいなら、政府は国外へ彼女を出すべきだったのに」
 「あんな希有な才能を放出するのは二の足を踏んだんだろう。ところがいつのまにやら手に負えなくなったってところかな」
 「でも、ここ十週間ほど日本政府の要人と北米統合軍の将官クラスが日参しているのよ。なにを研究しているのかしら」
 「直近二年ほどの論文はレジュメしか閲覧できなかったが、ニューロコンピュータをプログラムする言語に関するものらしい」
 ミサトは首をひねる。「……それってMAGIのプログラミングについてまとめ直したってコト?たしかに人格移植OSについてはまともな論文なんてないけど」
 「いや、彼女の性格から言ってそんなことはしないだろうな。要約にもMAGIについての記述は一切なかった。ただ、使ってる用語がおかしい。要約作成に変なプログラムでも使ったのかもしれないが」
 「たとえば?」
 「『HDLを実行するために必要な論理体系』とか『特化成長したニューロコンピュータに任意のノード結合を生成、同一の衝動を持たせることに成功した』とか」
 「電子工学と神経学が混じったような文章ね。錬金術でも始めたのかしら」
 「また魔女呼ばわりする。彼女、気を悪くするぜ」母親になってから少し短くしたミサトの髪を男は撫でた。
 「だけど……気になるの。リツコが生み出すものは、自意識過剰のお馬鹿さんをその気にさせてしまうもののよ」
 「気の毒なことだ」つぶやく加持の指にミサトは両手を重ねる。
 「……違うわ。彼女はそれを観察して楽しんでいるの。ガラス越しに、安全なところで、馬鹿者が野心にまみれて自滅するさまを。彼女は彼女の才能とその成果を弄んだ人々へ復讐しているのよ」
 「……ミサト」
 「彼女は私みたいな女じゃないから、バカな女じゃないから。リツコは……目の前の幸せがあればそれでいいと思えないの。だから!」
 ミサトは加持を見つめる。明度を落としたベッドルームでも彼女の瞳が濡れていることがはっきりと分かった。
 「アスカとシンジ君が彼女の道具にされてしまわないうちに、彼女の手の届かないところに置かねばだめ。あの二人はリツコにとって最上の『素材』なのよ。彼女を本物の悪魔にしないためにも、すぐに」
 「……ミサトはそう思っているわけか」加持は煙草に火を着けた。今度はミサトもそれを止めない。「しかしシンジ君とアスカちゃんに便宜を図るべき、と非公式に勧めたのは彼女だぜ」
 「リツコにとって大切なものはすべて失われてしまったわ。それに彼女が覗いた闇は途方もなく深くて暗いの」ミサトはつぶやいた。「私も信じたい。あれはリツコの良心の現れだって。でも、でも、違うわ。違うの……彼女は変わってしまったの」
 くるぶしまで水につかったセントラルドグマで赤木リツコと銃口を向けあったとき、ミサトは知ったのだ。

 あの戦略自衛隊の突入と人類補完計画の「発動」がからくも終息した二週間後、酸鼻を極めた現場をひとり見回っていた病み上がりの彼女は、この極秘施設最下層でリツコと再会したのだった。
 綾波レイと呼ばれた存在を、その原形質サンプルから日常の記録に至るまで焼夷手榴弾で焼き尽くし、スプリンクラーの放水を浴びながら笑っていたリツコの姿はミサトの背筋を凍らせるに十分だった。
 だがリツコがロシア製の大型拳銃をレイを生み出した培養器に向けたとき、ミサトは制止の声とともにUSPをリツコへとポイントする。
 「邪魔しないで。ミサト」その穏やかな声をミサトは巨大な銃口をのぞき込みながら聞くことになる。
 「よしなさい。リツコ、もう終わったの。それに、それは『彼女』が生まれた……」
 リツコの返事はしかし、五発の銃声だった。
 滑らかに向きを変えたリツコの拳銃により中枢部を完璧に破壊されたそれは、もはやいかなる生命をも生み出すことができないのはミサトの目にも明白だった。
 「これで終わり。彼らの作り出したものはすべて終わり。あとに残ったのは、母さんとわたしが作り出したものだけ、MAGI、エヴァ、それに……」
 リツコは微笑み、H&Kを構えたままのミサトをよそに歩み去る。
 だがミサトは見たのだ。声は発さなかったものの、リツコの唇が紡ぎ出した言葉を。
 リツコは言ったのだ。
 「チルドレン」と。

 ……シンジ君、つがいの籠の鳥が鎖につながれた獅子のことを心配しているなんて、ずいぶん妙な話だとは思わないかい?
 ……もっとも、その獅子は自分が獅子だと気づいていないし、鎖につながれていることをさほど苦にしていないようだけど。
 すすり泣く妻の髪をそっと撫でながら、加持は寝室の天井を見つめている。



◆ ◆ ◆



 「アスカ!」
 研究棟の廊下に響いた声に自分でも驚きながら、碇シンジはもういちど彼女の背中へ呼びかける。
 「アスカ!」
 二度目の呼びかけで白衣を羽織った彼女は立ち止まった。しかし振り返ろうとはしない。
 少し駆け足で近づいて、白衣の肩に触れた。びくりと彼女は凍りつく。
 「あの……ごめん。驚い……た?」
 アスカの表情をのぞき込むシンジ。はっと息を呑む。
 彼女はどこかが変わっていた。決定的になにかが変わっていた。
 何よりも婚約者に変化を感じさせたのは、その瞳だった。
 青珊瑚色の瞳には異性の心拍数を跳ね上げる色が宿り、濡れた視線は媚態すら帯びていた。
 さらにその身体のライン。
 バストの膨らみははっきり分かるほどボリュームを増し、Nervの制服を鋭角に窮屈に持ち上げていた。
 白衣に隠された背中からヒップへかけてのラインも一週間前とは異なっているようにシンジには思える。急激に盛り上がるカーブには男の視線を吸い寄せてしまう色艶すら帯びるようになっていたのだった。
 しかしそれなのになぜか、彼女はひどく華奢になったように思えるのだ。
 「アスカ、その、痩せた?」弱々しい笑みを浮かべつつシンジは問う。だが彼女は無言のままふるふると首を振るだけだった。
 小さく深呼吸をしてからシンジは婚約者に提案する。「ね、もう、その、もう……やめよう。こんなこと」
 「……」アスカは無言のままだった。再び歩き出そうとする。
 「アスカ、僕が、僕が馬鹿だったんだ」
 アスカの背に向かって碇シンジは続けた。

 ミサトからの電話を受けた夜、マヤを先に休ませてひとりソファーに腰掛けていたときに自分たちがいかに異常な状況に陥っているか気づいたのだと。
 たった一週間、アスカに会えなかっただけでひどい喪失感を得てしまったことを。
 自分がアスカと暮らした日常がいかに輝きに満ちていたかを。
 それはひとり木漏れ日を浴びて歩く大学のキャンパスで確信に変わったのだと。
 だから彼は午後の講義を放り投げ、滅多なことがなければ訪問することもない研究棟に駆けつけたのだと。

 それはまさしく愛の告白だった。
 アスカは立ち止まる。
 その肩が震えていた。うつむいていた顔がゆっくりと持ち上がって再び追いついたシンジを見つめる。瞳からは涙があふれていた。
 「ね?帰ろう。アスカ」
 無言のままだったアスカが不意に白衣のポケットに手を突っ込んだ。ハンカチを取り出す。
 涙が溢れる目元ではなく、口へとそれを持っていく。
 そのときだった。
 「どうしたんです?遅いので心配しましたヨ」
 はっと振り返る二人。
 「さァ、アスカ、見せてください」
 それはクリスだった。そこはアスカの専用のオフィスだった。
 肉色の掌で彼女を室内へ差し招いていた。まるでそこが自分の部屋であるかのように。
 そのクリスの表情がどこか凶暴なものに変わる。
 「おや、そのハンカチ、どうしたんですか?まさかギブアップですか?」
 立ちつくしたアスカの手からハンカチが落ちた。かすかにゆっくりと首を振る。
 「さ、おいで。アスカ」
 ふらりと彼女が歩き出す。クリスの方へと、落ちたハンカチなど見向きもせずに。
 「おや、碇サン」いま気付いたような口ぶりだった。「どうです?アスカは変わったでしょ?」
 「あ、あの、クリスさん」意を決した口調で呼びかけるシンジを堂々と無視し、クリスはアスカの肩を抱いた。
 「クリスさん!」大声を上げたシンジに彼はにやりと微笑む。
 「ドーゾ中へ。じっくりお話ししましょうネ」
 クリスとアスカに続いてシンジは部屋へ足を踏み入れる。
 圧搾空気の音ともに扉が閉じた。
 廊下には踏みにじられたハンカチが落ちている。

 「さて、どうです?彼女、とてもキレイになったでしょ?」
 個室のビジネスチェアーに座るクリスはシンジに笑いかける。大股を開いたクリスの脚の間には白衣を脱ぎ落としたアスカが立ちつくし、ずいぶん窮屈になった制服姿を披露していた。
 むっちりとしたヒップを撫でまわされても、つんとしたバストを下から持ち上げて遊ばれても、腰回りのカーブをいやらしく指が伝っても、アスカはクリスに逆らおうとしない。
 ただすがるようなまなざしで婚約者を見つめていた。
 シンジは無言のまま彼を睨みつける。
 だが、クリスはにやにや笑いを止めようとしない。玩具を見せびらかす意地悪なこどものような表情を止めようとしない。
 その表情がくるりと変わる。
 「オオ!忘れていましたよ。アスカには課題をあげていたんです。ちゃんとできたかどうか確認しないと」
 アスカのウエストを抱えていた掌が彼女の細い肩を掴み、ぐいと力を込めた。たまらずアスカは床に膝をつく。
 「さ、アスカ、お口を開けてください」
 「!!!」アスカが無言の悲鳴を上げた。なんども首を振る。
 「どうしてですか?『証拠』がなくなっちゃったんですか?ほら、『あーん』するんですヨ」
 太い指がアスカのおとがいを指でつと持ち上げ、碇シンジと無理矢理に向き合わせる。
 「さぁアスカ、『シツケ』の成果をハズに見てもらうんですヨ」
 涙を流して首を振るアスカ。しかしクリスが机の上に置いてあったリモコンを取り上げ、彼女に見せるとしゃくり上げながら桜色の唇を開く。
 「あ、ああ……あす……か……ぁ」
 シンジは絶句する。
 分かっていた。想像はついていた。
 自分自身、同じことをやったのだから。
 だが、それはやはり衝撃的な光景だった。

 碇シンジの「本当の」婚約者、その小さな口は牡の白濁液で満たされていたのだった。

 「おお、ちゃんと吐き出すこともしなかったですね。とちゅうで飲んだりもしていない」
 艶やかな彼女の髪を無造作に撫で、巨人は笑った。
 「さぁ、飲みなさい。感謝とともにネ」
 精液をため込んだ口内でれろれろと舌を動かすことまで強いられていたアスカの表情が翳る。
 だがクリスはその躊躇いすら許さない。
 大きな手のひらが彼女の口をふさぎ、注がれた精液を一滴残らず飲み干すことを強いるのだ。
 「む、むううぅッ」
 アスカが浮かべた苦悶の表情、それはクリスが左手で操作するリモコンで淫らにとろける。
 羽虫の飛ぶような音が聞こえるなか、アスカはひざまずき、悩ましい視線をシンジへ投げかけながらこくりこくりと喉を鳴らす。
 さらにクリスに命ぜられたとおりに「あーん」して、巨漢の精液をすべて飲み干したことをシンジに見せつけた。
 「アスカ……」
 シンジは絶句するしかない。
 彼女がクリスのペニスを口と舌を使って愛撫するさまをなんどもビデオで見ていたにもかかわらず。
 そのビデオのなかの彼女の「進歩」を……断固として拒否しては強引に銜えさせられ、涙ながらに哀願しつつ舌で舐めさせられ、うっとりとした表情で唇をすぼめて太い幹を愛撫し、切ない表情で「お願い」をしてから毛むくじゃらのボールを舐めあげる……を鑑賞し、マヤにその欲望を叩きつけていたにもかかわらず。
 彼女が喉を鳴らして精液を飲み下すほどの淫人形と化したことを、自分の目で確かめてしまうと。
 「どうですか?立派に成長したでしょう?」クリスは朗らかに笑った。「ワタシのスペルマをお口に入れたまま、この建物の端まで行って戻ってこさせたんです。一昨日までは途中で吐き出していましたね。昨日は我慢できなくなってとちゅうで飲んでましたヨ。ええ、碇サンの『シツケ』もずいぶん参考にさせてもらいましたネ」
 そうなのだ。アスカの表情は、マヤが飲み会で見せた時のそれとまったく同じだった。
 彼女は惨めで淫らな精飲人形である自分に陶酔しきっていた。
 彼女は男の性器を舌で舐め回しているうちにどうしようもなく昂ぶっていた。
 どんな牡でも……老人でも、小学生でも……欲情させてしまうほど卑猥な笑みを浮かべていた。
 「ホラ、これが証拠です。アスカはちゃんとできるようになりましたヨ」
 クリスがPCの画面を見せる。
 そこには白衣を羽織ったアスカが映っていた。
 それは研究棟のセキュリティゲートのカメラ画像だった。それはシンジが彼女を見つけるほんの数秒前の映像のようだった。
 彼女は頬を染め、カメラに向かって口を大きく開けていた。
 Nervの主席研究者、惣流・アスカ・ラングレー、その小さな口が牡の白濁液で満たされていることをカメラの映像は克明に写し取っていた。
 「アスカ……」青年にはさきほどの剣幕はみじんもなく、泣き出しそうな表情になっていた。
 打ちのめされた碇シンジにクリスは満面の笑みを浮かべる。
 「ネ?アスカはとても素直になったでしょう?ワタシに貸し出して正解でしたねぇ」
 「そんな、そんな……」
 「正解ですヨ」漆黒の巨漢は断言した。にやりと唇をゆがめてアスカを見下ろす。「ホラ、アスカ、碇サンに躾けの成果を披露なさい。アスカのオクチがどんなにキモチいいか知ってもらうんだヨ」
 「そ、そんなの……できな……い」アスカはつぶやく。しかしその声はとても小さく勢いもないどころか、どこか媚びるようなところさえあるのだ。
 「なぜデス?」クリスは嗤った。「アスカの目の前にいるのは、アスカのフィアンセですヨ。アスカはフィアンセのチンポ、舐めるのがイヤなのですカ?」
 「だって、だって、だって……あ……ああ……ぁ」
 ぶぅん、と羽虫の音が大きくなった。アスカの瞳から意志の光がゆっくりと消え、澱んだ欲情がそれに代わる。
 「さぁ、アスカがおしゃぶりダイスキになったところを見てもらいなさい」男に耳元でささやかれると、人として最低のところまで落とされて、人生最高の快楽を一週間にわたってたっぷりと与えられてきた彼女はもうさからえない。
 固く食いしばっていた口元がだらしなく緩み、がくがくと躯を震わせる。
 そうして彼女はアスカの形をした人形になってしまう。
 彼女は膝立ちのままふらふらと婚約者へとにじり寄り、彼のウエストに手を回すとスラックスに顔を埋める。ピンクの舌がいやらしく唇をゆっくりと舐めた。
 「あ……えっちな、えっちなニオイ、してる……御主人様とおんなじ……だぁ……」深く深呼吸する彼女の横顔はとても幸せそうだった。
 そうしてくんくんと鼻をならし、さっきからどうしようもなく硬く熱くなっているシンジのペニスに柔らかな頬を擦りつけて牡のフェロモンを堪能すると、アスカは彼のベルトに手をかけて幼女のようにあどけなく見上げておねだりをするのだ。
 「あ、あの、アスカに、アスカのおくちにオチンチンをおめぐみください」
 もはやアスカには碇シンジが見えていない。
 彼女に見えているのは「ペニスを持った発情したオス」にすぎない。
 「ぎんぎんにスラックスの前を固くしているオス」にすぎないのだ。
 「ね?いっぱいご奉仕いたします。アスカのおくち、とっても気持ちいいんですよ。今朝もクリスさまにほめていただいたんですから」
 首をかしげ、猫のように瞳をきらめかせて愛らしく微笑む。
 「アスカ……」こくりとうなずくシンジ。
 しかしそれはアスカの欲情にまみれた流し目に気圧されたからではなかった。それは彼自身の衝動によるものだった。
 だからアスカが歓喜に震える手でベルトのバックルを降ろし、ファスナーを降ろすと、その美貌を碇シンジはぐいとつかみ、ブリーフの前を大きく突き上げた部分に押しつけてしまう。愛らしい顔をぐりぐりと強引なまでにペニスに擦りつけ、下着越しの快楽を得ることに夢中になってしまう。
 「あぁっ、あ……ん」
 快楽に支配された男の行為に彼女は逆らわない。ふんふんと鼻を鳴らし、男の下着についた先走りの染みを発見すると、紅唇からぺろりと舌を伸ばしてたちまちのうちに布地をベタベタにしてしまう。
 そうしてシンジのそれのカタチがはっきり分かるくらいにまでブリーフを濡らしてしまったころ、「彼」は今までアスカが聞いたことがない口調で、アスカが初めて耳にする「命令」を下すのだ。
 「アスカ、直接舐めて」
 彼女は婚約者を見上げる。
 アスカを見下ろすシンジの瞳には断固とした意志と、澱んだ炎めいた情念が浮かんでいた。
 「アスカ」静かな声は彼女の理性を麻痺させる。その声は命令を出すことに慣れたものでしか出せないものだった。
 彼のウエストに回っていた手が貴重品でも扱うかのようにブリーフにかかった。
 「違うよ、アスカ」シンジの唇には薄い笑みが浮かんでいた。「手は使っちゃだめ。口だけでするんだ」
 アスカは逆らわない。逆らえるはずなどない。
 唇で布地を挟み、ゆっくりと、ゆっくりと降ろしていく。

 ……あ、あぁ……これって、これって、ビデオと同じコト、してる。
 ……マヤが玄関でハダカでやってるコト、アタシがしてる……。
 ……レイプされてそのままドレイになっちゃったあのマゾっ娘と同じように、アタシ、オチンチンのニオイに夢中になってる……。

 シンジとマヤの行為をビデオで見せつけられ、クリスによって与えられる苦痛と快楽のレッスンで彼女の舌遣いから口上までも記憶してしまったアスカは、軽蔑すべきマゾ奴隷と同じ行為を嬉々としてして続けていた。
 やがてくるりとブリーフを剥かれたシンジの下半身から、急角度に立ち上がったペニスが現れると、滑らかで柔らかな頬をすり寄せてアスカは吐息を漏らすのだ。
 「あぁ……素敵」うっとりと瞳を閉じてアスカは舌を突きだし、丹念に丁寧に、根元から舐め上げていく。
 裏のくびれに達すると小刻みに舌を動かして硬く熱い肉の棒が震えるさまにどきどきし、先端まで達すると透明な汁を音を立ててすすり、傘の部分にちゅっちゅっとフレンチキスをする。
 「ふふっ、おいし……」上目遣いにくすくす笑い、また竿全体に唾液をまぶす行為に没頭する。れろれろと幹の根元まで降りくだると、さらに舌を進めて睾丸の皺のひとつひとつを愛おしげにしゃぶってゆく。
 アスカの舌愛撫でさらに雄竿が固くなるにつれ、彼女の鼓動もまた早くなっていく。
 そうしてついに我慢できなくなったアスカはふっくらとした唇を大きく開き、威圧感すら漂わせている婚約者の性器を深ぶかと口内に受け入れてしまう。
 「ふぅ……ん。っふぅぅ……ン」
 熱気と雄のフェロモン臭とその硬さに彼女はたちまち夢中になった。
 唾液をたっぷり乗せてくちゅくちゅと先端部を味わい、くびれの部分を舌先で愛撫する。
 さらに角度が急になっても、シンジの腰にしっかりしがみついてアスカはフェラチオに没頭する。昂ぶるに従って大きくなっていくペニスの脈動がずくんずくんと脳裏に反響し、彼女の思考も記憶も打ち砕く。
 「さぁ」シンジに促されるまでもなく彼女は奥深くまで肉茎を飲み込み、間抜けに見えるほど頬をすぼめ、卑猥にじゅぼじゅぼ音を立てつつ口唇奉仕をエスカレートさせた。自分がどんなに卑猥で、恥知らずな行為に夢中になっているかなど気がつくわけがない。
 ただ、自分が舌を絡めている性器が愛おしくて、好きで好きでたまらないのだ。
 「ごしゅじんさま」のお許しがあるのならずっとずっと舐め回し、お口でしごいていたいくらいだった。
 婚約者の手が髪飾りの輝く赤みがかったブロンドにかかり、ぐいと力を込めてかちんかちんになったペニスを喉奥まで押し込んでも、アスカは抗議の悲鳴ひとつあげない。
 うっとりとした表情で、教え込まれたとおりのディープスロートを始めてしまうのだ。

 碇シンジは目の前の光景をいまだに信じられない。
 彼のフィアンセである惣流・アスカ・ラングレーが、あの凛々しく気高い彼女が、彼の生殖器に口唇奉仕することに夢中になっているなんてあり得ないはずだった。
 タイトスカートをむっちりと持ち上げるヒップを無意識に淫らに振りながら、跪いてペニスを舐めているなど冗談のはずだった。
 アスカがあらゆる口唇奉仕を調教される様子を自宅で何回も見ていたはずなのに、いざそれが目の前で、それも自分に対して行われている状況はとても現実のものとは思えない。
 しかし、高慢なまでな美貌を無様に歪めてまでアスカが行うバキュームフェラの快楽は本物だった。
 彼女の柔らかで温かな舌がシンジのペニスに与える刺激は、シンジの思考をなんども白熱させるほど甘美なものだった。
 そう、これは真実なのだ。
 漆黒の巨漢のペニスによって、奉仕の心とテクニックを覚え込まされた美しい許嫁は、いま、彼のために唇を、舌を、喉を使って奉仕しているのだ。
 勝ち気な言葉を過去にシンジへ投げつけていた「おくち」でシンジのペニスを夢中になってしゃぶっているのだ。
 そう、彼女が幸福なのは間違いなかった。
 そうでなければこうも素晴らしい表情を浮かべるはずなどないではないか。
 そうでなければ、全身を快美感に震わせて、おしゃぶりだけで絶頂を迎えることなどあるはずがないではないか。
 そう、その幸福を彼、碇シンジが与えていることも間違いない。
 なぜなら彼女にペニスを与えているのは彼なのだから。彼女にフェラチオを許しているのは彼なのだから。
 彼は微笑む。そう、これはあやまちではないのだ。
 彼は確信し、同時に美しい婚約者の喉奥へたっぷりと射精する。
 彼女への「ご褒美」として。あくまでも彼女の望みに応じて。
 喉を鳴らしてアスカが白濁液を飲み干し、濃い汁のおかげで少しかすれた声で「アスカにザーメンをお恵みいただいてありがとうございました」と感謝するのを聞いて、シンジは完全に理解する。

 これはあやまちではないのだと。


 「よしよし、よく頑張りましたネ、アスカ。碇サンも大満足のようですヨ」
 碇シンジのザーメンをお口で絞り出したアスカは、期待に満ちた眼差しでクリスへと振り返る。にやりと笑うクリス。
 「では、ここに登って見せながら出しなサイ」
 男は机をぱん、と叩いた。こと仕事に関しては必要以上に几帳面なアスカによって、PCの載ったテーブルは綺麗に整理されていた。
 ハイヒールのままふらふらとよじ登る。つきだしたお尻がひどくエロティックだった。
 二人に背中を見せたまましゃがみ込み、制服のスカートを腰まで上げた。ブラウンのパンティーストッキングに覆われたむっちりとしたショーツが丸見えになる。そのままアスカはなんの躊躇もなく、くるりと下着を下ろしてしまう。まるでトイレにでもいるかのように。
 ミルク色に張りつめたヒップとダークブラウンのストッキングとのコントラストは強烈なほどだった。
 碇シンジは息を呑む。
 「あ、あ……アスカの準備ができたところ……どうか……ご覧ください……」
 頬を紅潮させて、とろんとした顔つきで美女は肩越しに振り返る。
 そしてきゅっと唇を噛みしめて下腹部に力を込めはじめる。
 「あ、は、あは……っ、ふぅ……ン」
 悩ましい声とともに、ぶぅーんという羽音が大きくなっていく。慎ましいココア色をしたアヌスがひくんひくんとうごめくさまがシンジからもはっきりと見えた。
 「あっ、あ……あん!」
 くぐもった羽音が急に鮮明になった。
 アスカの排泄のためのすぼまりから鈍く銀色に光る卵……直径三センチほどの楕円形のなにかがなかば顔をのぞかせていた。それは高速で微細な振動を繰り返しているらしく、シンジにはそのシルエットがぼやけて見えた。
 「あ、あはぁぁ……ッ。ふぅぅぅん」
 括約筋に直截与えられる刺激にアスカは感極まった声をほとばしらせ、がくんがくんと頭を振って泣き悶える。
 しかし淫らな努力を彼女はやめようとしない。
 下腹部に力を込めてはアスホールからの快楽に脱力するというサイクルを繰り返しつつも、アスカの肛菊からのぞくその銀色の卵は着実にその大きさを増していく。
 「ふぅぅッ!くぅぅん……はぁんッ!」
 硬質な音ともに機能的な机の上にそれは落ちる。
 それは落ちたあとも振動を続け、まるで昆虫のようにするすると重厚なマホガニー板上を移動して無機質な明滅を繰り返すディスプレイにぶつかった。
 それはシンジにとっても見覚えのあるものだった。
 それはクリスから届いた「面白い道具」のひとつだった。シンジはそれを、ワイヤレスで操作できるバイブレーターをマヤに用いたのだった。

 バスルームで犬這いにしてのセックスの最中に、大量浣腸でひくつくマヤのアナルにそれをにゅるりと押し込み、ぶるぶると作動させてやると、従順な人形はバネ仕掛けのそれに早変わりした。
 敏感になった直腸付近で暴れ回るバイブレーターに性感を直撃された彼女は、大理石のタイルの上で愛らしい絶叫を上げ、失禁しながらなんどもなんども絶頂を迎える。
 子宮口をノックするペニスに振動が感じられるくらいにボリュームを上げると、マヤは涙と涎でぐしゃぐしゃになった顔を歓喜で歪めて「しんじゃいます!あ、あたし!きもちよすぎてしんじゃいます!」と叫んだ。
 だが「意地悪な」夫はそこであらゆる刺激を止めてしまったのだ。
 電気仕掛けのアナルの玩具も、凶暴までに硬くなったペニスの運動も止めてしまったのだ。
 さらに高い頂きを目指していたマヤは最初あぜんとし、次に理由を尋ね、ついには泣きながら懇願する。
 意地悪しないでくださいと、イきそうなんです。どうかお恵みをくださいと。
 答えは弱々しい振動だった。
 涙をこぼしてセックスをねだるマヤにシンジは尋ねる。
 あの夜、オペレーター達が碇邸を訊ねた夜になにがあったのかと。
 マヤが沈黙を守れたのは、シンジがペニスを引き抜こうとするまでだった。
 彼女は告白する。

 電話で地下駐車場に呼び出され、そこでクリスに約束の履行……惣流・アスカ・ラングレー嬢を堕落させること……を求められたこと。
 拒もうとする意志も車中に引きずり込まれ、ショーツをずらされてずぶりと貫かれるまでしか持たなかった。
 思考を白熱させたところに耳元で「マヤは無理矢理犯されて、ニガーのドレイにされてしまったのに、彼女はあんなに幸せでいいんですカ?」とささやかれると彼女の心には大きな亀裂が入ってしまった。
 「マヤの親友タチも、最初は泣いて嫌がってましたが、今はどうです?ワタシのペニスがダイスキになりましたよ。今はマヤに感謝してますヨ。アスカもきっと……」と吹き込まれると、「あ、アスカが、アスカがぶっといチンポの……黒人のペニスの虜になるなんて、そんな、そんな……」とうっとりとつぶやいてしまっていた。
 そして、淫らで背徳的な要求をささやかれつつ地下駐車場での交わりを強いられ、絶頂寸前まで連れて行かれた瞬間に極太のペニスが引き抜かれると、マヤは陥落してしまう。
 それが望まぬ絶頂のはずなのに、卑劣な男とセックスをすることなど潔癖症の彼女には耐えられないことのはずなのに、快楽中毒者となった伊吹マヤは誓ってしまったのだ。
 ……アスカを陥れることを。
 ……碇シンジを誘惑することを。
 クリスのペニスに全ての穴を掻き回してもらいたいがために。
 約束されたアスカの未来に疵をつけることができる期待のために。
 同性ですら圧倒される輝くばかりの美しさ、それを翳らせることができるという暗い悦びのために。

 ……ディスプレイにぶつかってぶるぶる振動している銀色のそれ、アスカが男達の視線をあびつつ、「排泄」したのはまさしくそのバイブレーターだった。

 「いやぁ、碇サンのビデオの通りでしたね。このバイブは女性をとてもとても素直にしますネ」
 シンジの心を見透かしたかのようにクリスは邪悪に笑った。
 「アスカもね、お尻に飲み込むととっても従順になるんですヨ、泣きながらハメて!ハメて!ってねだるんですよネ」
 ああ、とアスカが肩を震わせる。しかし彼女のうなじは快美感でピンクに染まっていることがシンジには見て取れた。
 「さぁ、全部ひり出すんですよ、アスカ、ブルブル震えるウンチを出すトコロ、フィアンセにしっかりお見せしなさい」
 「ぜ、全部って!」
 「ええ、見ていてください」絶句するシンジにクリスはうなずく。「アスカ、ちゃんと数もかぞえるんですヨ」
 「は……い」
 振り返ったアスカの瞳は屈辱と被虐の悦びに染まっている。

 「は……はぁ……はぁ……あ……ぁ……」
 マホガニーのデスクの上では四つの銀色のタマゴが甲高い音を立てながら踊っていた。
 「出しちゃった……シンジのまえで……シンジに見られてるのに……」
 お尻を突き出したまま、ぐったりとデスクに突っ伏してアスカはつぶやく。
 薬液を注入されて強制される排泄とは異なり、自身の意志での行為であることに、さらに薬液ではなくより生々しい「固形物」をデスクにひり出すさまを婚約者にさらしたことにアスカは打ちのめされていた。
 だがそれも、クリスがこう言うまでのことだった。
 「よくがんばりましたね。では、ハメてあげましょう。どっちがいいですか?」と。
 その声を聞いたとたん、アスカは叫んでしまったのだ。
 「おしり!アスカのお尻の穴を犯してください!クリス様の固くてぶっといペニスでアスカのアナルを掻き回してください!」
 彼女の願いは叶えられた。
 軽々と抱きかかえられ、本来アスカのものである椅子に腰掛けたクリスの膝に乗せられる。
 アスカの下腹部が許婚の視線にさらされる。
 赤みがかったブロンドの若草で飾られていたはずのそこは完全に無毛だった。
 幼女のように滑らかにされて、涎を流して卑猥にうごめく花弁と、ルビーのように充血しているクリトリスが剥き出しになっていた。
 「お手入れ」されているんだ。
 シンジは改めて理解する。
 彼女は「淫隷の証」を刻印されてしまったのだと。
 クリスの男根の快楽を思い知らされ、体も心も、プライドもなにもかもを捨てる道を選んだのだと。
 まったくの無防備で、全面的に牡に降伏し、おんなの秘肌に刃物をあてられてもとろけるような笑みを浮かべる映像をなんども見せられていたにもかかわらず、シンジはショックを受けていた。
 それはきっと、浴室でマヤの「おひげ」に剃刀をあてる儀式ののちには、かすかに取り戻していた自尊心や反抗心が完全に蒸発しきっていたことを知っていたからだろう。
 アスカも同様だった。彼女はまったく抵抗も躊躇もなかった。
 アヌスを凶悪な鰓傘にちょんちょんとつつかれると、彼女は完全な性器として開花した菊門をひくつかせ、「はやく、はやくぅ」とつぶやいていた。
 邪悪な器具でたっぷり性感を高められた尻穴に「おあずけ」された彼女は婚約者の目の前だというのに、「ね、ね、はやくぅ!はやくぅ!アスカのアナルにクリス様のオチンチンはめて……」と息も絶え絶えに懇願する。
 節くれ立った肉塊を肛門に突き立ててもらうために、クリスに促されるままに恥知らずな嬌声を美しい唇からほとばしらせる。
 「……はい。アスカの唇のバージンはクリス様に捧げました」
 「……そうです。お尻のバージンもクリス様のものです」
 「……ま、前の孔のバージンはシンジが……でも、でも、初めて中出ししてもらったのはクリス様です!」
 ついにずぶずぶと肛門を貫かれると、碇シンジを見つめながら「ああ、ああ、ああ……いい……アタシ……しあわせ……」と溜息を漏らすのだった。



◆ ◆ ◆



 「リツコ、貴女はなにを企んでいるの?」
 「私が答えると思う?」ディスプレイを眺めていた赤木リツコは微笑む。「ミサト、あなたって相変わらずね」
 「答えて。アスカちゃんとシンジ君をどうするつもりなの?」
 「自分で調べなさい。昔からの悪い癖ね」
 「アメリカ支部はN2機関の暴走事故跡の管理以上の業務をやっていない。つまり事実上存在しないのと同じ。そこからやってきた男には前歴もなにも……映像すらないのよ。それに、MAGIとはまったく異なるニューロコンピュータについて述べた貴女の論文。一番古いものでさえも閲覧許可も出なかったわ」
 早朝の誰もいないオフィスにミサトの声が響いた。だが、その真摯な声も極東のリツコには届かない。
 「まだ断片ね。でも、それは正しい破片よ。がんばってパズルを組み立てなさい」
 ふふっ、と笑い声とともに回線は切れた。
 「これは……これは、ゲームじゃないのよ」ヨーロッパの朝の光のなかで、加持ミサトはつぶやく。



◆ ◆ ◆



 「あぁ、あぁ……アスカが、アスカちゃんが……」
 「『囚われのお姫様』って感じだね。マヤ」ふかふかの絨毯にぺたんと腰を落としているマヤは髪の毛を撫でられる。「とても可愛いよね」ステージ上でライトに照らされるアスカを見上げるシンジの声はとても楽しそうだった。
 「皆様、高額が予想される『商品』でございます。どうか十分にお確かめください。肉質、声、締め付けに感度、蜜の味も確認のうえ、ふるってオークションに参加ください」
 「んんんッ……くぅぅ……ん」
 アスカはくぐもった悲鳴を上げる。
 一体何人の男たちの指に穢されたのかももう分からない。
 大事な黄色の高級ドレスを身にまとった姿で天井から吊されている奴隷姫アスカは、黒絹の目隠しで視覚を封じられていたのだから。
 ヒップラインがくっきりと映えるタイトなラインが膝上二〇センチで途切れ、膝すれすれまでは優美なフレアが描かれるドレスの中にも「入札予定者」の手は容赦なく侵入する。サイド紐のショーツはとうに抜き去られ、色柄にデザイン、さらにはステッチをしとどに濡らした蜜の匂いまでアナウンスされていた。樹脂ケースに収められたそれは、きっと高値で入札されるだろう。
 だからアスカは男の指が前後の穴に侵入されても耐えるしかない。締まった足首には細いハイヒールのストラップだけではなく黒革の足枷が巻かれ、閉じることもできないのだから。
 すべすべした太股を、奇跡のようなカーブを描くヒップを撫で回されても逆らうことはできない。無礼な痴漢の指に快楽を得ていることが誰にでも分かるほど彼女の吐息は悩ましいものだった。
 手探りでもすぐに分かってしまうほど充血したクリトリスを弄られると、無意識のうちに「いい、いい、すごく感じちゃう……」とつぶやいていた。
 ふっくらとほぐれ始めた肉襞をじゅぶじゅぶと掻き回されると、「いや、いや、イヤぁ」と泣きながらもその指を巧みに食い締めてさらなる快楽を得ようとしまうのだった。
 「ちゃんと指二本入るよう拡張されてますな」と人差し指と中指でアナルをこじられても、彼女は一切の抵抗を放棄していた。生意気にも彼らに逆らえば「おや、奥の方で震えているコレはなにかな?」と意地悪にもバイブをコツコツ弾かれて、必死になってこらえている淫歌をホール中に響く声で奏でてしまうからだ。
 もっとも、従順に男達の指を受け入れていても、いや、だからこそとても感受性が高くなってしまった「A嬢」はもう五回も恥ずかしい「イキ声」と「イキ顔」を「入札予定者」達に披露してしまったわけだが。
 一週間前よりもずいぶんボリュームを増したバストも標的にされていた。
 採寸のときよりもずいぶん大きくなったアスカの胸の膨らみは、ブラジャーなどなくとも魅惑的なシルエットでつやつやした高級生地を持ち上げ、その先端のしこりぐあいまで「入札予定者」らの視線にさらされ、それだけでは飽き足らない彼らに指で、手のひらでその「ばっつんばっつんに」ドレスを持ち上げる双丘をいやらしく愛でられるのだった。
 「さて、皆様『現品』の確認は終了いたしましたでしょうか」司会者の軽妙な声が薄暗いホールに響く。
 「どれも皆様にとってたまらない内容ではないでしょうか。売り上げの『一部』は」ここでどっと笑いが起きた。「サードインパクト復興基金に加えられますので、ぜひぜひ高値の入札をお願い申し上げます。さて、最初の『入札物件』は……」
 静まりかえったホールに司会者は叫ぶ。

 「『A嬢』の唇でございます!五件までの入札となっております!」
 会場に招かれた客達は狂ったように手元の端末を叩き、同時にステージ背後の数字が瞬く間に上がっていく。

 アスカの、「A嬢」の唇にルージュが丁寧に塗られる。「世話役」は彼女の同僚である先輩でもある三人の女性たち。
 オフィスで付ける落ち着いたベージュ系の唇が貪られ、唾液を飲まされる。
 デートの夜に付けるグロス系の輝きも、「落札者」に舌を絡められて吸われてしまうと剥げ落ちてしまう。
 休日の定番の明るいピンクの唇を喰い締めても長い舌に侵入され、歯茎から下の裏までねろねろと舐め尽くされる。
 娼婦のような紅から甘い吐息を漏らし、ちゅっと舌を出しては入札者にぱっくりくわえてもらって全身を震わせた。
 そうして自宅同様にナチュラルなクリアリップを塗った唇から、あごまで涎で濡らしながら、いやらしく男と唾液の交換を行うのだった。


 「さぁ、次は……『A嬢のおみあし』でございます!入札は二件!」

 彼女の足枷をつなぐ鎖が外され、クッション入りのサドルにまたがらされる。スカートが無惨にまくりあげられてガーターストッキングに飾られた美脚があらわになった。
 サドルの高さが上げられ、「A嬢」のハイヒールの爪先がかすかに地面に付くところまで調節されると「落札者」が、彼女の美の崇拝者がステージに招かれる。
 彼女お気に入りの黒檀色のヒールが脱がされた。
 「あっ!あっああぁぁぁぁ!」
 アスカが悲鳴を上げる。ストッキングに包まれた右脚をひざまずいた「落札者」の口に含まれたのだった。そのままれろれろ、ちゅうちゅうと吸われて彼女は半狂乱になった。
 さらに左脚先からは異様な感覚が伝わってくる。
 「え……なに?なんなの?」
 柔らかく、熱い熱気が。やがてそれが硬く、さらに熱くなり、なにか粘ついた感触すらあるのだ。
 「!!」自分がなにをされているかアスカは気づき、なんとか足首を握った男の手をふりほどこうとする。しかし、落札者はがっちり掴んで離さない。
 「い、いやぁぁ、やめて、やめて!アタシのアシ!そんなことに使わないで!」
 ブロンドを振り乱して彼女が懇願する。かなうはずもない。
 「やめて!やめて!オチンチン、オチンチンをこすりつけないで!」
 そうなのだ。
 彼女の左脚の落札者は、滑らかで温かな彼女の爪先を、足の裏を、その甲を用いて自分のペニスを刺激していたのだった。
 ついに男は彼女の脚にしがみつき、甘い汗の臭いを嗅ぎながら腰を上下させてペニスをすりつけるようになった。
 「あ、あぁ……あぁ……いやぁぁ……」
 アスカはもう逆らえない。
 右脚をさわさわと撫で回され、舐められる快楽と、左脚を「ヘンタイ」の自慰の道具にされている倒錯した感覚に「A嬢」は硬直し、やがて革張りのサドルの上で腰をスライドさせるようになる。
 やがて彼女の脚の落札者たちは我慢の限界を超え、ため込んだ樹液をびゅるびゅると解き放つ。
 彼女のすらりとした、蠱惑的な脚に、それをさらに魅力的に見せていたハイヒールの中に。
 そうして恭しく白濁液に満ちたヒールを再び彼女に履かせるのだ。
 敏感に事態に感づき、泣きながら拒絶する彼女の足首をがっちり掴み、きっちりと履かせた上できちんとストラップも止めてあげるのだ。
 熱く粘ついた液体に浸される爪先からの感触に彼女は数回ものエクスタシーを迎えさせられ、深紅のサドルに濃い染みをつけてしまっていた。

 「では、彼女のこのミルク色の『肌』を味わいたい方は?ご覧ください!このドレスのカットからのぞく滑らかな背中!染み一つありませんよ!」

 万歳する形で天上から吊された彼女は背中を舐め回され、鎖骨にキスをされて全身を震わせる。
 さらに抵抗を許されぬまま左右から腋下を十分以上しゃぶられて、会場のオークション参加者の耳を存分に愉しませる甘くいやらしい泣き声をあげながらオーガズムを迎えさせられる。
 全身を弛緩させ、ときどきひくりひくりと痙攣する彼女の表情には白痴じみた歓喜の色しかない。


 「いよいよ皆様お待ちかねの……『A嬢』の花園でございます!さぁ、どんな味がするでしょうか?前後それぞれ一名様!」

 両手を拘束された美姫は片脚立ちを強制される。右脚に巻かれた枷がかちりと固定され、バレリーナのような姿勢で雌芯と菊花を披露する。
 「落札者」がひざまづき、熱い吐息を美姫の下腹部に吹きかけた。がくりとのけぞり澄んだ声で慈悲を乞う「A嬢」。
 「……お願いです。お願い、お願い、そんな、そんなことやめて、見られてるのに、みんな見てるのに……あ、ああああっ!ひ、ひぃぃぃン!!」
 ふたりの口づけを受けたとたん、彼女は全身を硬直させ、豊かな感受性の持ち主であることを参加者達に披露する。
 それに励まされてか、男達の下の動きはさらにエスカレートして、彼女を別の存在へと変える。
 クリトリスを甘噛みされながら、肛菊の皺を舐められたときには意識が遠くなる。
 尖らせた舌にGスポットをつつかれると目の奥で白熱の火花が散った。
 彼女の唇から出てくるのはもはや言葉ではなく、発情した牝のあえぎでしかない。
 アナルに長い舌をねじ込まれ、ざらついた舌がゆっくりと動き回ると、アスカは無毛の花弁をほころばせて甘い蜜を溢れさせる。
 それを音を立ててじゅるじゅるすすられるころには、彼女は抵抗するどころかむしろ積極的に男の顔に下腹部を押しつけるようになっている。


 「続きましては、彼女の『指』を我がものにするのはどなたでございましょうか!ああ、あの指に絡みつかれ、しごかれれば即昇天間違いなし!なんと羨ましい!」

 手枷を外されてステージに跪いた彼女は、求められるままそっと手を伸ばして剥き出しのペニスに指を絡めた。
 「みんなが見てるのに、見られてるのに、アタシ、アタシ……オチンチンしごいてる……」
 虚ろにつぶやきながらも熱心に献身的に、情熱的に牡の性器を娼婦さながらのテクニックで高めていく。
 やがて顔めがけて放たれると、恍惚とした表情のままピンクのマニキュアが塗られた指ですくい取り、音を立ててちゅうちゅうとその指をしゃぶってしまうのだ。


 「さぁ、『A嬢』の『お口』で天上の快楽を得られるのはたったの三名さまですよ!」

 「お口だけ」ということで、再び後ろ手に拘束される「A嬢」。
 司会者に促されて唇を大きく開き、さらにピンクの舌を突き出す。唾液が顎を喉を汚しても、やがて与えられるであろう「ごちそう」への期待が不快感を上回る。
 異臭を放つ肉塊が舌にのせられただけで彼女は軽いエクスタシーを得てしまった。
 不自然な姿勢のまま、口腔を舌を、喉を用いて彼女はペニスに奉仕する。
 「御主人様」に調教されたとおりに、「ご褒美」への期待に胸を震わせながら。


 たっぷり放出したペニスへの口を使った「後始末」が終わると手首の拘束が外された。
 彼女を拘束しているのはもはやチョーカー代わりの首輪だけ。
 しかし、彼女はステージから逃れようとはしなかった。
 大事なワンピースを剥ぎ取られ、汗と蜜でぐしょぐしょになったそれが買値の三倍の価格で落札されても、ぺたんとステージに腰を落としてスポットライトに照らされていた。
 欲望の対象物として、淫らな玩具として扱われる自分が、アスカにとってはたまらなくあわれで同時に愛おしいのだ。
 次に自分のなにが「売り物」にされるかを想像するだけで、胸奥が締めつけられ、同時に花心から蜜があふれてしまうのだった。


 「ついにやって参りました。彼女の特等のアナルです!卑劣な罠に捉えられ、肛虐調教の末にアナルセックスの快楽に目覚めたうら若き女性!その尻穴の締め付けを心おきなくお楽しみいただけます。ごらんください、十分に調教されながらもこの淑やかなアヌスを!」

 後ろ手に拘束され、前屈姿勢で吊された彼女の双臀を司会者が拡げた。
 「A嬢」の後ろのすぼまりがカメラで拡大されて室内がどよめくと、その気配だけでアスカの前門は濃い蜜を吹き出した。
 日本人とは根本的に異なるプロポーションを強調する姿勢を強いられたまま、ヒップをぴたぴたと叩かれる彼女に会場の室温は急上昇する。
 伊吹マヤもまた例外ではなかった。
 ソファーに腰掛ける碇シンジの脚のあいだに座り、ペットのように髪や顔、首筋を指でくすぐられていた彼女もオークションを鑑賞しているうちにどうしようもなく昂ぶってしまったのだった。
 だから絨毯に手足を突き、腰を高く突き上げた姿勢を取るよう命じられると、他人の目などまったく気にせずにいそいそと従ってしまう。
 短めのカクテルドレスをまくり上げられ、パンティーストッキングとショーツが同時にくるりと剥かれた。
 ずんと貫かれる。
 はぁっ、と幸福な溜め息をつき、ふと視線を横へやる。
 そこでも饗宴が始まっていた。いや、あちこちで女の嬌声と切ないうめきが聞こえはじめている。
 隣席でマヤと同じ姿勢で後ろから貫かれていたのは十代後半と思われる少女だった。
 彼女を犯すパートナーもまだ若い。シンジと同年代だろうか。さらにその面持ちは絨毯に爪を立ててひんひん鳴いている少女とひどく似ていた。
 「あ、あン……お、お兄ちゃん……すごい……よぉ」
 淫靡な表情のままあげるこどもっぽい少女の声がマヤの推測を裏付けた。
 だが、少女に欲望を叩きつけている兄は難しい表情のままオークション端末を見つめている。そこに映っているのは「A嬢とのアナルセックス権」の予想入札価格だった。
 荒々しくペニスを引き抜き、快楽への中腹で置き去りにされて呆然としている妹を立たせる。
 「お、お兄ちゃん?」おぼつかない足取りのまま強引に兄に手を引かれ、若いカップルは会場から姿を消した。
 ……見られるのが嫌だったのかしら。でも、最後まで見学すれば、もっと……燃えるのに。でも、途中退場する招待客のひと、ほかにもいるのね。
 確かに薄暗い会場の出口に向かうカップルは彼らだけではなかった。
 マヤの疑問はシンジがピストン運動を始めると同時に蒸発する。最初はこらえていた甘え声がしだいしだいに大きくなっていく。
 もちろんマヤは気がつかない。碇シンジが浮かべる表情に。
 端末を見つめる彼が浮かべる表情は、隣席にいた彼が浮かべているものと同じだった。

 「さぁ!『A嬢』のアナルセックス権、二名様まで落札です!」
 アスカの尻穴についた価格は驚くべきものだった。それはマヤの年収に匹敵したのだ。
 しかしだからこそマヤはアスカに同情し、同時にひそかな優越感を抱いてしまう。
 自分の躯のパーツを快楽のための道具として競りにかけられるなんて、アスカったらなんて可哀想なのかしら。
 それなのに、あんなに夢中になっちゃうなんて。
 きっと彼女には「素質」があるんだわ。
 無意識のうちに腰を振ってペニスに快楽を供給しつつ、マヤはアスカに同情する。
 そのマヤの女襞を擦り立てていたペニスが不意に引き抜かれた。
 「あぁん……意地悪しないでぇ……」甘えるように唇を尖らせて振り返る。
 碇シンジは難しい表情で、いつのまにか隣に立っていた黒服と小声で言葉を交わしていた。
 「そうですか。それくらいならば何とかなるでしょう。準備を」シンジがうなずくとオークション係員は無言のまま一礼して立ち去った。
 「シンジ……さま?うっ!」マヤの首輪が強く引かれる。
 「おいで、マヤ」シンジにささやかれ、隣席だった少女と同じくふらふらと彼女はオークション会場の出口へ向かう。
 「失礼」会場の出入り口ですれちがった若者と肩をぶつけそうになり、シンジは詫びた。相手は軽くうなずく。
 マヤはその男性に見覚えがあった。それは隣席で妹を犯していた青年だった。
 彼はたった一人でさきほどのブースに戻る。心なしかその足取りは軽いようにマヤには思えた。
 ぐい、とマヤの鎖が引かれる。小声でシンジに謝罪しつつ、彼女は会場をあとにした。
 その背後では「A嬢」が一人目の落札者の極太ペニスに「潤滑剤」代わりの唾液を舌を使って丹念に塗りつけている。
 「あ、ああ、こんなごつごつしたモノが……ああ、アタシのお尻の穴、掻き回してくれるのね?ああ、ああ……嬉しい……ああ……」
 猫がミルクを舐めるような濡れた音の合間の、熱を帯びたつぶやきをマイクは忠実に拾っていた。


 「あの……あの……もう……帰るんですか?」
 つぶやくように伊吹マヤは「御主人様」に訊ねる。彼の本来の婚約者であるアスカが陵辱されるさまを碇シンジが最後まで見ようとしなかったのは、彼女にとって意外だった。

 ……ひょっとしたら、つらくなったのかしら。恋い焦がれる女性が犯されるのを見せつけられたのだから、あたりまえなのかもしれないけれど……。

 だが、同時にマヤは期待してしまうのだ。アスカを渇望する碇シンジがその欲望をマヤへぶつけることを。
 いままでがそうだったように、「アスカの身代わりの、代替品のアナ」である屈辱と寂寥感に震えながらも、圧倒的な快楽に溺れることができるにちがいないのだ。

 ……シンジさま……帰る途中で我慢できなくなっちゃう……かも。
 ……帰り道の公園で犯されたりしたら……わたし……。

 「ここだよ、マヤ」
 彼女の淫らな妄想は青年の言葉で中断された。目の前のドアが開く。
 「あ……ベッド」そこは巨大なベッドが中央に置かれた十畳ほどの空間だった。ソファーとバスルーム、さらに映像端末が置かれ、ピンクがかった壁紙からしてそこが性交を目的とした場所であるのは明らかだった。
 「ああ……シンジさまぁ」マヤはにっこりと微笑む。そう言うことのようだった。あの淫らで美しい競売に我慢できなくなったカップルは別室で愛を交わすのだ。
 マヤは黒髪を優しく撫でられながら、巨大なベッドに横たわる。キスをねだろうとマヤは瞳を閉じる。睫毛がそっと震えていた。
 キスはされなかった。代わりに金属の擦れる音が聞こえた。
 マヤは目を開ける。シンジはいつのまにか立ち上がっていた。
 「え?え?どうしたの?……くッ!」ベッドから身を起こそうとしたマヤは首が絞まり、再びベッドへ倒れ伏す。
 「え?鎖……?」大きなベッドの柱と彼女の首輪のあいだには頑丈なリードが存在した。マヤが伸ばす手からシンジはするりと身をかわした。壁にもたれて腕を組む。
 「あのね、マヤ」シンジは微笑む。ゆがめた口元は父親そっくりだった。「アスカの入札に参加しようと思っているんだ。アスカの前のアナのね」
 それが自分にどう関係するのかが分からず、黙ったままのマヤに彼はさらに微笑んだ。
 「マヤに協力して欲しいんだ。競売を見ていて分かったでしょ?アスカの人気ってすごいんだよ。だから」ぎしりと音を立ててマヤの枕元に彼は腰掛け、そっと髪を撫でた。「お金が足りなくなりそうなんだ」
 まだマヤには事態が理解できない。沈黙する彼女の耳に声が聞こえてくる。

 「お兄ちゃん!おにいちゃん!こんなのやだよ!たすけて!やだぁ!こんなのやだぁ……」
 押し殺した女性の悲鳴が、歓喜のあえぎが、喜悦のすすり泣きが。
 「ずいぶん壁が薄いんだ。きっとわざとだよ」シンジの言葉にマヤは震えることしかできない。壁一枚隔てた隣にいるのは彼女、オークション会場で隣席にいた少女に間違いない。
 続けて聞こえてくるのは複数の男の声。

 「オラァ!おとなしくしろ!もっとケツの力抜け!」
 「キミのお尻のバージン、高かったんだからね、みんな楽しみにしているんだよ」
 「アナルセックスしっかり覚えてさせてやっからな、これで兄妹でいくらナカダシされても安心だぜ!」

 「……そんな、そんな……あのコ、あのコ、お兄さんに……売られ……た……の?」マヤは歯の根が合わないほど震えていた。
 「そうみたいだね。きっと彼、ずいぶん急いでいたから、アスカとアナルセックスする権利に入札するつもりかな?もうじき『二人目』の入札が始まるころだし」
 そうなのだ、この部屋はオークション参加者のパートナーが売春させられる場所なのだ。 「いや、いやぁ……お願い!売らないで、わたしを、わたしを売ったりしないで!こんなのいや!お願い……お願いだから」
 涙をこぼして懇願するマヤをシンジは嘲笑った。
 「どうして?ゼミのみんなに抱かれたときはあんなに楽しそうだったじゃないか。それにこんどの人達はすごいんだよ。マヤもきっと大満足するよ」
 「ちがうの、ちがうの、ちがうの……」
 ……あのときだって嫌だった。終わったあとに自己嫌悪から立ち直れないほどだったのだ。
 ……それが今度は「商品」として他人に嬲られるのだ。それも別の「性奴隷」を購入するための資金として。
 ……こんな惨めな地位に貶められて、もし、もし感じてしまったら……あまりの気持ちよさに自分を喪ってしまったら……。
 マヤは恐怖に震える。そんなことになったら、自分はもうどうしようもないところにまで堕ちてしまう。
 快楽に負けて「セックスのための商品」になることを選択してしまったら、もう自分はヒトでなくなってしまう……。
 戦慄するマヤ。そのときドアがノックされる。振り返りもせずに「どうぞ」と応えるシンジ。
 現れたのは五人の巨漢だった。
 「見てごらん、マヤ」髪を撫でてやりながらシンジは身をかがめ、泣きじゃくるマヤにささやく。「彼らはオークション参加者の『資金調達品』目当てにやってきたんだ。ほら、会場付近にたむろしていたひとたちがいただろ?それが彼らだよ」
 マヤは自分自身を抱きしめて、躰をぎゅっと縮めてしまう。少女のように声もなくおびえていた。
 「みんなクリスさんくらいあるね」無遠慮に彼らの股間の膨らみを眺めてシンジは言った。「彼らは『ジャパニーズドール』が大好きななんだって。小柄で、肌が綺麗で、従順で、締まりが良くって、とてもエッチだからだいすきなんだってさ。マヤだってこれだけのペニスに一度に愛してもらえるんだ。嬉しいだろ?」
 鎖を外され、立つように命じられた。肩を抱かれて男たちの方へ連れていかれた。軽く背中を突かれて筋肉ではちきれそうなシャツに、前をはちきれそうなほど膨らませたジーンズ姿の男たちへと押しやられる。
 「ああ……」
 巨大な男たちに囲まれる。そそり立つ肉の壁に、伊吹マヤは自分がこどもに戻ってしまったような錯覚すら抱いてしまう。
 マヤの華奢な躰を見聞するかのように男たちは手を伸ばした。
 おとがいを掴まれて持ち上げられる。「上玉だな」げらげら笑いながら唇に太い指を入れられると、牝奴隷マヤはその指にうっとりと舌を絡めてしまった。
 さらに無遠慮に胸の膨らみを確かめられ、ドレス越しにお尻を撫で回される。
 「ケツでセックスしたことはあるか?」耳元で尋ねられると目尻に涙をこぼしつつ「はい」と答えてしまう。
 「じゃぁ、存分に楽しんでくださいね」端末に入金を確認したシンジがうなずくと、五頭の野獣はマヤを貪りはじめる。
 あっというまにカクテルドレスが破り裂かれ、ブラジャーが引きちぎられた。ベッドのマットレスに小さな躰を弾ませるころ、パンティーストッキングは無惨な姿になっていた。
 誰かの手がショーツを脱がせようとしたときには、だれかの太い指が彼女の秘口と菊門にずぶりと侵入していた。
 悲鳴はすぐに甘やかな泣き声に変わり、それすらもすぐにくぐもったうめきになった。巨大なペニスが彼女の喉奥まで突き込まれたのだった。
 「マヤ」彼女に背を向けたまま碇シンジは呼びかける。「クリスさんには了解が取れているから、好きなだけ楽しんでね。壊れちゃってもかまわないってさ」
 彼女の手では握りきれないほど太いペニスを左右それぞれしごきはじめたマヤには、彼の言葉は届いていないようだった。だがさらにシンジは続けた。
 「このあとにもあと一名、お客様がいるからよろしくね。その人は『黒人達に輪姦陵辱されてさんざんイカされて、すごく敏感になった大和撫子のアソコ』を犯すのが大好きなんだって。もうどこかの部屋でマヤがすごくいやらしいことされるのを見物しているみたいだね」
 室内に取り付けられた複数のカメラがそれぞれ作動し、彼女の痴態を克明に追っていた。
 「……お買いあげありがとうございます。ケンスケ……さん」
 小声でつぶやき、彼は扉を閉めた。父親そっくりの笑みを浮かべつつ。
 それでも廊下まで、伊吹マヤのくぐもった獣じみた歓喜の歌は響いていた。



◆ ◆ ◆



 「アスカ、ただいま」
 碇シンジはドアを開け、満面の笑みを浮かべる。
 そこにいるのはあと二週間で「碇アスカ」となる女性。彼女は慣れない正座で「夫」を出迎えていた。
 「……おかえりなさい……ませ」三つ指を突いて深々とお辞儀する。剥き出しの背中は脂汗でぬめっていた。
 「もういいよ」そう言われてアスカは顔を上げた。頬をうっすら上気させ、珊瑚色の瞳を濡らして彼を見つめるアスカをシンジは純粋に美しいと思う。
 「じゃぁ、つぎの『ご挨拶』も頼むよ」その言葉にクォーター美女は一瞬凍りつく。しかしのろのろと手を伸ばして許婚のズボンのベルトを緩め、ファスナーを下ろす。
 「……ご奉仕させて……くださ……い。あな……た」できるだけ無関心で機械的に振る舞おうとする彼女の努力は常に実らない。気高い彼女のプライドが、やがて与えられる快楽に震える心が、男達がもっとも喜ぶ反応を……かすかな反抗と嫌悪と、それを上回る媚態を……彼女の言動に与えてしまっていた。
 「さぁ」
 促されるとアスカは膝立ちになり、硬く張りつめた碇シンジのペニスへバラ色の唇を用いたフェラチオ奉仕をはじめてしまう。
 玄関に立ったまま他愛もない「今日の出来事」を語るシンジのペニスを口で愛する彼女は、首輪とソックスと革製の頑丈な貞操帯以外身につけることを許されていない。
 だからたっぷりと唾液をのせて傘のくびれを舐め回すうちに、薔薇色の乳首をかちんかちんに勃起させているところも許婚に観察されていた。しかしアスカはもうそんなことは気にならない。牡のフェロモン臭に酔い、先走り汁の味に夢中になっている彼女はそんなことは気にならない。
 それに、シンジがポケットのなかで操作する「鍵」。
 これがアスカの下半身に甘美な屈辱を与えていた。
 羽虫のささやき声……それも複数……が大きくなるにつれ彼女の口舌奉仕はさらに熱心に、献身的になっていくのだった。

 たっぷり「飲ませていただいた」あと、アスカはむっちりとしたお尻を振りながら犬の姿勢でバスルームへと追いやられた。
 脱衣所で恭しく「旦那さま」の服を脱がせる。その間、碇シンジは自分の手など一切使わなかった。汗を吸ったジーンズを脱がせて財布や携帯などを取り出す。
 大きめのキーホルダーのついた銀の「鍵」が床にこぼれ落ちる。
 はっと息を呑むアスカ。ちらりとシンジを見つめ、彼が気づいていないことを知るとそれに手を伸ばしてすくい上げ、貞操帯の鍵穴に差し込む。
 いや、差し込もうとする。
 だが……。
 「どうしてっ!どうして!どうして……」
 「アスカったら、それが何をするものなのか分からないんだ」
 優越感と侮蔑がミックスされたシンジの笑い声に、アスカは体温をさらに上げ、泣きながら己の下半身を快楽で拘束する「貞操帯」を外そうとする。
 しかし、できないのだ。
 アスカは自分が手にしたそれをどう使えば貞操帯が外れるかが分からない。銀色のそれを闇雲に貞操帯に押し当て、擦りつけるばかりだった。
 「アスカ」すぐ目の前にシンジの顔があった。「お仕置きだね」笑顔はとてつもなく冷酷だった。彼女の手から鍵が滑り落ちた。
 「さ、綺麗にしてあげる」
 うっすらと鞭の跡が残るミルク色のヒップを軽くはたかれ、泣きながらアスカは浴室へと這った。
 そこで貞操帯を外してもらう。
 おへそのすぐ下の鍵穴に銀の鍵を差し込みくるりと回す。たったそれだけでロックは外れた。
 「どうして……アタシ……こんな簡単なことが分からない……の?」愕然とした口調になるアスカ。「ただの鍵じゃない?なぜ?な……あふぅ……ン。くぅぅ……ん」
 婚約者がゆっくりと貞操帯を外すにつれ、膣口に埋め込まれたバイブが押し出されてくる。柔軟性を持ち、小指ほどの大きさしかないものの、微振動を繰り返す卑猥なイボイボは彼女の理性を麻痺させつづけていた。
 そして後門に埋め込まれた「銀色のタマゴ」はびりびり震え続けて甘く残酷に彼女を肛逆の虜としてしまっていた。
 浴室で「ごしゅじんさま」の好奇の視線に曝されつつ、しゃがんでの排泄を強いられても逆らえない。「アスカのおひげ、伸びちゃったね。あとで剃ってあげようね」とクリトリスをくすぐられれば、甘く泣きながら下腹部に力を込めてしまう。
 「ひとつ……め。くっ!ふぅぅぅ……ん」とぶるぶる震える銀のタマゴを浴室のタイルへ産卵したときには、輝く笑みを浮かべている。
 全身をボディーソープでぬるぬるに磨かれて、再び幼女のような無毛になった「碇アスカ」は求められるまま再びシンジの下半身に美貌を埋め、ペニスだけではなく睾丸にも菊門にも舌を這わせて奉仕する。さっき自分がそうしていただいたようにボディーソープを肌に塗りつけ、弾力を持ち、同時に柔らかな双胸の膨らみで許婚の全身を清めていく。
 高級娼婦さながらのご奉仕を行っていくうちにアスカはさきほどの驚きを忘れてしまう。

 普段の生活では鍵を使うことなどごく当たり前にもかかわらず、自分の貞操帯の鍵を手にしたとたん、それが「鍵」だと分からなくなったことを。
 それどころか「鍵と錠前」の概念すら消えてしまったことを。
 クリスに連れられて松代へ向かうまで、こんなことはなかったことを。

 やがて「許可」をいただいたアスカは御主人様にまたがって、その極上ボディの奥深くまでペニスをうずめる。嬌声と歓喜の声をあげつつ、素晴らしい締め付けのテクニックを発揮して碇シンジをうめかせる。
 「ああ、アスカ……上手だよ。アスカのプッシィ、とても具合がいいよ」

 ……結局アスカの「前でのセックス」の権利を落札しなかったのは正解だったな。
 羽のように軽く、柔らかでみずみずしい肉体をおのれの肉棒で玩ぶシンジは思う。
 あまりに高騰したアスカの「落札価格」はマヤを強制売春させた程度の上乗せではどうにもならなかったのだった。
 結局彼女の秘裂を貫いたのは、どこかの犯罪組織のトップだった。
 男は司会者の制止を振り切り、まだアナルセックスの最中の彼女を犯したのだった。
 肛門性交の快楽に身を任せていたアスカは真珠入りのペニスに前を貫かれた瞬間に、会場中に響き渡る声でオーガズムに達したことを告げてしまった。
 二本の雄棒が薄い粘膜を挟んでごりごり動き回る感覚に「凄い!凄いのぉ!すごく気持ちいいの!」と泣き叫ぶ。
 直腸を子宮を交互に突かれる衝撃が、自分が見せ物になっているという事実さえ忘れさせてしまう。
 一〇分経たないうちに「A嬢」は陥落する。
 手首を拘束する鎖が外されると、彼女のしなやかな腕は膣孔を犯し続ける男の猪首に回り、おどろおどろしいタトゥーの浮かぶ背中を抱きしめた。
 左右の耳孔を舌でなぶられると頭の中まで白熱して男に問われるがままに答えてしまう。

 もうじき結婚することも。
 一週間前まで、「たった一人の」男しか知らなかったことを。
 強引に悦びを教えられて、このオークションに参加したことを。
 「たった一人」はこのことを知っていること。お尻の穴までぺろぺろしてあげると反対しなくなったことを。

 会場のどよめきはアスカをさらに快楽の高みに連れて行く手助けをしただけだった。オークション開始前に抱いていた自尊心も恐怖も未踏の快楽の前ではなんと言うことはなかった。
 さらに、「目隠しを取って、お前のエロい貌を皆様に見てもらえ」と言われるとこくりとうなずいてしまう。司会者によって解かれた黒絹の下から現れた美貌は、会場の男女を問わず息を呑ませるものだった。
 その欲望に染まった瞳は、誰もが侮蔑の笑みを浮かべてしまうものだった。

 そしてついに、彼女は新たな階梯を昇ってしまう。
 数回目のエクスタシーを迎えたあと、耳元の悪魔のささやきに負けてしまったのだ。
 「はい!はい!アタシ!アタシ!これ、これが大好きです!いろんなチンポに犯されていっぱい気持ちよくなっちゃうのが大好きになっちゃいましたぁ!」と絶叫してしまう。
 さらにエクスタシーを迎えた直後に、敏感になった精液まみれのアナルと秘口を掻き回されているうちに「ああ!ああ!すごい!すごいの!アタシ……こんなにキモチよくしてもらえるのなら……なにも……いらない……」と満ち足りた表情でつぶやくのだった。
 たった一人をのぞいて会場中が彼女の告白に拍手で応えたのち、司会者が「じゃぁ、皆様に飼っていただいたらどうです?共有のセックスペットになってしまえば貴女はきっと毎日信じられないくらいのエクスタシーを味わえますよ」とそそのかすと、
 「うん!うん!なる!アスカ!みんなのペットになる!ペットになって、ごほーしして、ずっとずっとキモチよくしてもらうんだもん!」と無邪気に宣言してしまったのだった。

 「アス……カ」がっくりと膝を落とすシンジ。しかし彼にも分かっていた。
 満場の拍手と嘲笑を浴びつつも、絶頂に肢体を震える惣流・アスカ・ラングレーの美しさは比類なきものであることを。


 しかし彼の手元には「鍵」が、彼女の「所有者」の証があった。
 それをシンジに渡した旧知の女性は言った。
 ……貴男が約束してくれるのなら、これらの鍵は貴男のものよ。もっとも、鍵は全部で三つあるんだけれどね。
 ……貴男をUNに惑わされたりしない限り、ドレイのアスカの所有権、その一部は永久に貴男のものよ。戸籍上も貴男の「所有物」にしてあげる。もっとも、所有権の優先順位はこちらで決めさせてもらうけど。

 碇シンジがその提案を拒否することなど、できるわけがない。


 「ああ、アスカ、アスカってすごく気持ちいいよ」
 自身の選択に改めて自信を持ったシンジにアスカは新妻らしくぽっと頬を染めて「……当然……よ。御主人様にいっぱい躾けていただいたんだもん!うまくできないとお尻を鞭でぶつんだから……。でも『昨日』、初めて誉めていただいて、アスカすごく嬉しかった!」と告げる。
 「『昨日』だって?くそ、さんざんアスカを楽しんだんだ……僕のなにが悪かったんだ……」
 つぶやくシンジの瞳に嫉妬の炎が宿っていることを、アスカはまったく理解できない。奉仕の悦びと快楽と、次にアナルを掻き回してもらえるという期待で胸をいっぱいにして、蜜壺奉仕をつづけていた。

 だから、二人は気がつかない。
 脱衣所の籠に入れてあるシンジの携帯がなんども鳴っていることを。
 録音モードに彼の携帯が入るたびに、その相手……葛城ミサト……が叫びに近い声を上げていることも。

 その内容が、

 「シンジ君!!どんな方法を使ってもいいから、アスカを連れてそこから脱出なさい!リツコが研究しているものは『人間の脳』、脳のニューラルネットワークを書き換えて心も記憶も衝動も作り直してしまう技術なの!
 彼女は手始めに在日駐留軍から提供されたクリス・エバンス軍曹という男性の脳をいじったの。菜食主義者だったらしい彼はプログラムどおりの獣になったわ。テストとして、その男は敬愛する上官の娘を言語を絶するやり方で乱暴したらしいわ。貴男の話している『クリス』ってきっと、きっとその人!気をつけなさい!彼は身長が二メートル近い黒人よ。
 そう。彼女はEvaよりももっと有効な軍事研究に関わっていたの。思考も記憶も衝動も同じコピー脳を作ってこれとクローン技術を組み合わせれば……。
 お願い!なんとか逃げなさい!リツコはあなたたちを第三新東京に縛り付けるためだけに、その技術を濫用するはずよ。手遅れになる前に逃げなさい。
 馬鹿みたいなことを言っているって思うかもしれないけど、信じて。あなたたちはあらゆる情報から遮断されているの。貴男が知っているのは、彼らが『知っても構わない』と考えた情報だけなのよ。たとえば……たとえば……フランスなんて、全土が巨大なクレーターよ。オートクチュールなんて作られるわけないの!贅沢品も高度な工業製品も、第三新東京が主要な生産地よ。あなたたちは騙されているのよ!」

 ……というものであることも二人は知るわけがない。

 碇シンジとその妻であり、彼の知らない人物の奴隷でペットであるアスカにとって、それはもはや意味のある情報ではない。

 なぜなら二人はこの瞬間、とても幸福なのだから。


-fin-





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Original text:FOXさん
From:エロ文投下用、思いつきネタスレ(3)