「ほら、アスカ、『あーん』して」
 「いや、イヤ!いやぁッ!」
 「どうしてですか?」
 「こんな、こんな汚らわしいコト、どうしてアタシがしなくちゃいけないのよ!」
 「反抗は許しませんヨ。ワタシが抱くレディはみんなフェラチオがダイスキなのです。だからアスカ、アナタもフェラチオがダイスキになるべきなのです」
 「あ、あんた、そんな勝手な言いぐさ!こんな乱暴を……マヤにも……ひ、ひぃッ……イヤぁッ!」
 目の前に差し出された肉の凶器に息を呑む。無礼な要求を拒否し、ぎゅっと歯を噛みしめた。
 だが、ごつい指に形のよい鼻をつままれる。
 10秒……20秒……30秒。
 それまでに激しい抵抗が彼女の体内から酸素を奪っていた。
 無意識につやつやとグロスを塗った唇が開き、新鮮な空気をむさぼろうとする。
 そこへねじ込まれた。
 「い、いやぁ……むぅぅぅッ……んんん!んぐぅぅぅっ!」
 「歯を立てたらダメよ……そんなことしたらオシオキだからネ」
 顎が外れるのではないかと思うほど極太の男性器に喉奥まで突かれ、クォーター美女は涙をこぼす。
 「おお、アスカの舌、柔らかくて熱くて気持ちいいよ。もっとぺろぺろしてください」
 「むぅっ……ふむぅぅぅッ……ふぅぅぅ……ん」
 「今日のために洗わずにおきましたからネ。たっぷり味わってください」
 カリの立った凶器に口内粘膜をごりごりと擦られ、その異臭を胸一杯まで吸い込まされて、彼女は屈辱に涙を流す。
 「ほら、もうじきオヨメに行くんだから、そっちでもだんなさまにサービスできるようにならなくちゃ……ね『碇アスカ』さん」どこからか声が……この声はたしか最上アオイ……メルキオール主任オペレーターで、ふだんはとても冷静で、アスカの冗談など軽くやり過ごす女性……のもの……がかけられ、アスカの意識は遠くなった。
 そして、獣じみた叫びとともに放出された。
 ゼリーのような塊を飲み干すことを強制された。
 拒否などできはしない。どうあがいても逃れられないよう頭をしっかり右手で押さえられ、まだ硬さを失わない巨根を吐き出す事も許されずに、さらにシルクの下着にかろうじて守られている乳首をこりこりと刺激されてしまっては。
 ほっそりとした喉がごくりと動いた。動いてしまった。
 「ふ、ふぁぁぁ……」アスカは泣きじゃくる。
 喉を、食道を、獣の樹液がおり下っていく。そして胃の奥までが獣の樹液で穢されてしまう。
 こんな野蛮で不潔な行為は婚約者にも許したことのなかったのに。
 「アスカさん、全部飲むんですヨ」
 ずるりとペニスを引き抜かれ、がっしりとおとがいを掴まれた。
 「んんっ!んんー。むー」
 吐き出すことも許されず、口の中にとどまっていた最後の一滴まで飲み干すことを強いられた。
 もがいても、暴れてもだめだった。
 脚をばたつかせての抵抗は簡単に封じられ、美しく豊かに成長した美乳の先をごりごりとねじり上げられる。
 それどころか「鼻を摘んで息ができないようにしてあげようか」と脅されてしまう。
 だから彼女は苦く穢らわしい液体を一滴残らず嚥下せざるを得ない。
 だから涙を流しながら、こくりこくりと喉を鳴らすのだ。
 「では、証拠を見せてください。おくちを『あーん』してください」
 ぽろぽろと涙をこぼしているとそう命じられた。彼女はなぜか言われるがまま口を大きく開いてしまう。屈辱で脳が灼けそうだった。
 「おお、ちゃんと飲めましたネ。じゃ、次は後始末ですよ。さ、舌を出してください」
 口腔に侵入した極太の指に柔らかなピンクの舌が捕らえられ、ペニスの先端が押しつけられた。尿道からにじみ出す白濁液をたっぷりと塗りつけられる。
 「おおお、ふううん……むぅぅぅ……」
 「ほーら、ちゃんと『味』を覚えてね。大丈夫。すぐに病みつきになるから」
 アスカの「飲み友達」である、カスパー主任オペレーター・大井サツキのとても楽しげな声が聞こえてくる。
 「さ、次は自分からぺろぺろしてクダサイ」
 「ひぃッ!」
 ぐい、とお洒落なショーツが引き絞られた。そのままぐいと持ち上げられて、ねじれた布地はふっくらとした股間に容赦なく食い込んだ。
 アスカの桜色の舌は拘束を解除されても彼女の意志とは無関係に動き、不器用にペニスを舐め始めた。言われるがままに血管が浮いた幹にも舌を這わせていく。買ったばかりのラブソファーの上で窮屈にかがみ、もはや剥き出しになってしまった白磁の美尻を無意識のままに振りながら。
 胃の底に溜まった精液がかっと熱を持ち、まるで全身に染みこんでいくように彼女には感じられる。そしてその浸透していった精液に思考まで支配されていくような気さえするのだ。
 いや、もう支配されているのかもしれない。
 引き絞られてほとんどひも状になったショーツから熱いしたたりがこぼれはじめていることにアスカは気づいてしまっていたのだった。
 そのクロッチをかきわけて太い指が彼女の肉裂にねじ込まれた。
 「おお!すごく熱くてヌルヌルしてますよ!すごく喰い締めて気持ちいいですよ!」
 「ああっ!ふ、太い!だめ、いや、あ……ぉ……ぁ……」
 たちまちのうちにGスポットが探り当てられ、爪で擦り立てられる。
 「ひぃっ!ああ!乱暴に、乱暴にしないで!んんんぅむぅぐぅぅッ!」
 「アスカ!ちゃんとおしゃぶりするんだヨ。言いつけを守れないとオシオキだよ!」
 アスカの抗議をものともせずに喉奥へペニスがねじ込まれられ、Gスポットとクリトリスが乱暴に弄り回される。
 「ひぃっ!ひはぁ……ふぅぅぅッ!んむぅッぅぅぅ!」

 自分の肉体がまるで玩具のように弄ばれる恐怖。
 乱暴きわまりない指遣いに反応してしまうことへのとまどい。
 獣のような匂いと味に頭の芯が痺れ、まともな思考ができなくなってしまっていることへのおどろき。

 これらすべてがアスカから抵抗心を奪っていた。
 紅茶色の髪を乱し、深いブルーの瞳から涙をこぼしつつ、惣流・アスカ・ラングレーはフェラチオ奉仕を開始する。
 通常男性のペニス並みに太い指で肉裂をピストンされ、花蜜でショーツをべたべたに濡らし、がくがくと全身を痙攣させつつ、言われるがままに頬をすぼめて男根を吸い、先端を舌でねぶりはじめた。

 「ね、シンジく……シンジぃ」
 碇シンジの耳元で伊吹マヤが吐息を漏らす。
 リビングのソファーの上で、窮屈に密着したふたりが取っている姿勢は対面座位。
 惣流・アスカ・ラングレーがよほど「欲しいとき」にしか取らないポーズだった。
 その姿勢でシンジとマヤは繋がっている。さらに彼女のむっちりとした太股はシンジの腰に密着し、細い足首はその後ろで絡まってさらに密着感を高めている。
 普段はキーボードを叩いているしなやかな手指は彼の背中へ回ってしがみつき、じゅうぶんに柔らかな双乳を押しつけていたのだった。
 「見て、見て……カレの『恋人』はね。オチンチンを舐めるのが大好きなのよ」ふふっ、とマヤは笑う。
 「貴男の『いつもの』恋人はあんなことしないんでしょ?潔癖性で気位の高い誰かさんは、あんなドレイみたいなコトなんて、絶対やらないんでしょ?」
 シンジは無言でうなずいた。
 彼のどこか虚ろな瞳には、惣流・アスカ・ラングレーが、彼の恋人で婚約者で、生死を超えた絆でつながっているはずのパートナーが映っていた。

 シンジが手を伸ばせば触れることができる距離で、彼女は鼻を鳴らしながら男のペニスを舐め回していた。
 碇シンジではなく、Nerv北米支部からやってきたクリスという漆黒の巨漢の生殖器をしゃぶっていた。
 スレンダーながらも肉感的な肢体をごつごつとしたクリスの指が這い回り、弄ぶたびに甘く素敵な鳴き声をあげ、さらに熱心に舌を動かすのだった。
 シンジとの交歓のときには最小限の照明しか「許さない」彼女が煌々とした明かりのなかで、アスカとシンジが二人で選んだソファーの上でミルク色の肌を桜色に染めて悶え、オトコへ口唇奉仕するさまを伊吹マヤをはじめとする同僚達に鑑賞されているのだ。

 「クリスってね、オンナのコにものを教えるのがとっても上手なの。ああやって、オチンチンの良さをしっかり教え込まれちゃうと……とっても、とっても大好きになるの」マヤは碇シンジの表情を観察しつつ続けた。「いやらしくて、淫らなことが、セックスやオチンチンが……とっても、とっても大好きになるの。そうよ、どんなにお高くとまっていても、どんなに貞淑でも、奥手でも、クリスの『恋人』になれば変わるのよ」
 マヤはゆっくりと唇を舐めた。彼女のぬめ光る唇もまた「恋人」によってセックスのための道具として造り替えられてしまったことが明白だった。彼女はささやく。
 「『せっくすが大好きで、オチンチンをくれるのならなんでもする、とてもスナオな恋人』にね」
 ああっ!とマヤの声が裏返る。彼女を貫いているペニスが急激に硬度と体積を増したのだった。
 「そう、そうよ……アスカはオチンチンが大好きになるのよ。とっても従順な恋人になるのよ。だって彼女は『いま』はクリスの恋人なんですもの。そう、あなたにはけっしてしてあげなかったことも大好きになるの。そうさせられちゃうの……ああン」
 「あらぁ、またおっきくなっちゃった……碇クン、ジェラシー?」熱っぽい声がかけられる。バルタザール主任オペレーター
の阿賀野カエデだった。絨毯に膝をつき、自分のショーツの中へ入れた左手を休めることなくシンジとマヤの結合部を見つめる瞳は欲望に染まっていた。
 「あ、ああ、シンジ……ああ、ああ!すごく乱暴!ああ!素敵!そう、そうよ!もっと、もっとぉ……」マヤがシンジの髪を掻き乱しつつ微笑む。
 「ああ、素敵……シンジったら……こんなに高ぶってしまって……そう、そうよ。アスカにしっかりおちんちんの『味』を覚えさせてから返してもらえば、あなたも同じコトさせられるわ……あの素敵で、凛々しい言葉が出てくる唇をあなたも犯すことができるの……あんな風に……んふっ」
 さらに熱量と硬度を増した肉杭に子宮口を荒々しくノックされ、マヤはシンジがさらに高ぶってしまったことを知る。
 「ああ、素敵……シンジったら……マヤをこんなに愛してくれているのね。ああ、もっと、もっとマヤを気持ちよくしてぇ……」あえて誤解してみせて、それから彼と口づけをする。唾液がしたたるほど濃厚に舌を絡ませて愛し合う。
 「ね、シンジ」かすれた声でマヤは「恋人」に呼びかけた。
 「わたし、わたし、いきそうなの、だから、ね……お願い、シンジも来て」
 「え、でも」碇シンジの瞳にはまだ躊躇と理性があった。
 「いいの。いいのよ」マヤの胸にいとおしさが溢れる。「中に出して。わたしの子宮に届くくらいに出して。いいのよ。アスカは生でしてくれないかもしれないけれど。『碇シンジのいま』の恋人である伊吹マヤは生でせっくすするのがだいすきなの。オトコのひとが出すせーえきがびゅるびゅるって子宮に届くと嬉しくってたまらないの」
 「ああ、マヤさん……マヤさん……」シンジがマヤを抱きしめ、ぐいぐいと腰を使い始める。
 「マヤって呼んで!シンジ、シンジ……ああっ!」
 「マヤ!マヤ!」
 そのとき、彼女は目がくらまんばかりの感動に打ち震えていた。
 あの惣流・アスカ・ラングレーに女として自分は勝ったのだと。
 あの碇シンジをこの瞬間、間違いなく自分のものにできたのだと。
 それがマヤの快楽を何倍にも、何十倍にも高めていく。
 彼女は無意識のうちに足首をシンジの腰にさらに固く絡みつかせ、彼の背中に爪を立ててしまう。
 耳にした者がすべて赤面するような淫歌を絶唱し、碇シンジの若い欲望を充足させるのだ。
 「マヤ!出すよ!出すよ!」
 「はい!ください!シンジぃぃッ!」

 碇シンジも、惣流・アスカ・ラングレーも気が付かない。
 ふたりが奈落へ足を踏み出してしまったことを。



真説・交換奴隷誕生記 -転落編-






 「月日が経つのは早いわねぇ。シンちゃんがアスカのお婿さんになるなんてぇ」
 「その言い方、なんだかすごく気になるんですけど。ミサトさん」
 ここは碇シンジとその婚約者が購入したばかりの新築マンション。
 そのダイニングでくだを巻いているのは「加持」ミサト。
 テーブルに転がっているのはビールの空き缶と手作りのおつまみ。
 まるで数年前を彷彿させる光景だった。
 違っているのはそのビールの半分を消費したのがミサトよりも背が高くなった碇シンジであること、もはやミサトが彼の保護者ではなくなっていることだった。
 「うわぁ、すっかり出来上がってる!ミサト!あんた、人ンち来てなに思いっきりリラックスしてるのよ!」
 バスタオルを若々しい躰に巻き付けたままアスカが現れ、大声で叫んだ。
 「だってーだってーシンちゃんのゴハン、美味しいんだものー」
 「だーっ!三人の子持ちになってもまだ、ご飯たかりに来るのかぁ!それも海越えて!」
 「ひさしぶりの日本だもの、オコサマどもはダンナにおしつけてきたんだもの、それくらいいいじゃないのぉ、ねぇ?シンちゃん?」
 「ぼ、僕に訊かないでください!」
 「だいたい、だいたいミサト、『シンちゃん』ってナニ?!その甘えた口調は!」
 「いいじゃないー。ねぇ?シンちゃーん」
 「うわ、ちょっとミサト、アンタいいトシして恥ずかしくないの?」
 「恥ずかしくないもーん。だって家じゃオコサマども相手に赤ちゃん言葉しゃべってるもーん」
 「う、うわ、うわぁ、ミサトどこか壊れてる。分かった。分かったら帰って!お願い!おうちへ帰りなさい!」
 「ちょっと、ちょっとアスカ!髪を濡らしたままだと風邪引くよ」
 「うるさい。アンタがミサトなんかにかまけてるからでしょ!ね、早くしてよ」
 「『早くして』って……なにが?」アスカの鼻にかかった甘え声になにやら不穏な予感を抱いてしまったミサトがたずねた。
 「シンジに髪をケアしてもらうの!乾かして、梳でといてもらって……ミサトぉ、なんかエッチな妄想してない?」
 「いや、ちょっと考えちゃったけど……ええっ!」安堵ののちに素っ頓狂な声をミサトがあげた。「アスカ、自分の髪くらい自分で手入れなさいよ。そんなお姫様じゃあるまいし。昔はそうじゃなかったでしょ?」
 「ふーんだ。今は昔とは違いますー。それにシンジもいいって言ってるんだしぃ」
 シンジの手を引いてアスカは自室へと消えた。明るいキッチンにミサトは取り残される。
 「なんだ。ちゃんとラブラブなのね。心配して損しちゃった」テーブルに頬をつき、彼女は微笑する。


 「ちゃんとシンちゃんと相談してる?今後のスケジュールについて」
 シンジがシャワーを浴びに行き、二人きりになったリビングでミサトはアスカにたずねた。
 「式のスケジュール?それならもう完璧」
 「……いや、そうじゃなくって」苦笑するミサト。
 「ハネムーン?それはあんまりきっちり決めてないの。そういうほうが楽しいし……」
 「違うわよ。ベビーのこと」
 「え?」
 「そ、大事なことよ。ある程度考えておかないと困る……」
 「産まないもん」
 「は?」急にかたくなになったアスカの声にミサトは振り返る。
 「産まないわ。アタシ、子供なんか作らないもん」
 「アスカ」ミサトは溜息をついた。「貴女がお母様のことでトラウマを抱えていることは知っているわ。だけどね、それは克服すべきものだし、愛し合っているカップルはまず、そういうことはきちんと話し合って……」
 「その必要はないの。シンジは分かってる。アイツはあたしを愛してくれてるのよ」
 「そ、そうかもしれないけど」
 「それともミサトは次の世代の『適格者』が欲しいからそんなこと言ってるわけ?」
 「違うわ。それは誤解よ。私はもうNervの人間じゃないし、エヴァにも興味がないの。私が心配なのはあなたたちのことだけ」

 事実ミサトにとってはそれはどうでも良いことだった。いや、世界のほとんどの人間にとってそれは望ましいことではないのだ。Nerv保有のエヴァのみが真の操縦者たる「チルドレン」により突出した能力を持つ状態が今後もさらに続くことは。
 エヴァはすべて廃棄されるべきだし、それが無理ならもう「チルドレン」には頼らないダミープラグのみの運用とすべきだ。
 エヴァの威力も恐怖も身に染みている彼女はそう理解していた。
 しかし、アスカはミサトの真意を理解できない。

 「じゃ、このことに関してはもう放っておいてくれないかしら?」
 「で、でもね、シンちゃ……シンジ君の望みは違うかもしれないし」
 「シンジは分かってるの。シンジはアタシの嫌がることはしないの。シンジはアタシを愛してくれているんだからそれは当然でしょ?」
 「それはそうだけど」ミサトはようやく事態を理解する。「とても大事なことだから、簡単に結論を出すのも、その結論に縛られるのも良くないと思うの。それに、きっとシンジ君も、アスカとの愛の結晶を望んでいると思うの」
 「いいの。アタシたちのことに首を突っ込まないで。もうアンタはあたしたちの保護者じゃないんだから」
 「アスカ……」ミサトは溜息をつく。アルコールとさっきまで抱いていた幸せな感情はいつの間にか消え失せていた。「それは分かったわ。その件についてはもう、私からは口にしない。だけどもし相談したいことがあれば、いつでも」
 「ないわ。今後もない。もう決めているの。シンジも反対しない。アイツはあたしを好きなんだから」
 「アスカ」ミサトの声が大きくなった。「さっきからずっと気になっていることがあるの。あのね、シンジ君はあなたのことを愛しているわ。すごく、とっても。だけど、だからといって彼があなたの言いなりにならなければいけないことなんてないの。彼はドレイじゃないのよ。あなたのためを思っての言葉も否定していないかしら?」
 「アイツはアタシの言うことを聞くべきなの。愛しているのなら。アタシを穢しても好きでいたいなら……」
 「アスカ……」ミサトは絶句する。彼女は、いやふたりはまだ「あれ」を引きずっているのだ。
 戦列から離脱を余儀なくされた少女にすがりつこうとした少年が行ってしまった恥ずべき行為を。
 大人達がしっかりしていれば、少年少女のこころが焼き切れるまで追いつめられなかったら決して起きなかったであろう事件を。
 ミサトは暗鬱な表情になる。

 彼らは世界を救ったけれど、私はこのふたりを助けられない。アスカが幸せと思っているものが過ちだと教えてあげることができない。
 それは哀しい結論だった。



◆ ◆ ◆



 「ねぇ、マヤ、ちょっとペースが速いんじゃない?」
 「大丈夫。これくらいがちょうどいいの」
 洒落たバーのカウンターで惣流・アスカ・ラングレーと伊吹マヤは肩を並べて腰掛けていた。
 ふたりが身につけているのはカジュアルなもので、Nervの制服ではなかった。今日はNerv技術部の名目上のナンバーワンと実質上のナンバーワンの二人そろってオフという珍しい一日だった。
 「良かったわね。いいものが買えて」
 「う……うん。確かにすごくよかった……けど……ぉ」口ごもるアスカにくすくすと笑うマヤ。
 「お給料2ヶ月分だものね。あれ、生地の染色からハンドメイドで、そのうえ縫製は本当にヨーロッパでやってるみたいね。きっとSSTO便で運んだにちがいないわ」
 アスカの足下には大きめの紙箱が置かれていた。
 その中に入っているのはオートクチュールで仕立ててもらったドレス。
 あと数週間に迫った彼女と碇シンジの結婚式、そのパーティの場で身につけるつもりのものだった。
 予想外だったのはその価格だった。
 ショーウィンドウで見つけたその上品な黄色のドレスを購入する意図を告げたところ、ブティックの女主人が持ってきたのはやたら細かな採寸表とものすごくしっかりとした契約書だったのだ。
 ぎょっとするアスカに彼女は告げた。これは既製品ではなくオーダーメイド品です。縫製はフランスで行うので時間もお金もかかりますよ。
 しかしそのドレスを身につけた自分を頭の中に思い描いていたアスカにとって、もはやそのようなことは問題ではなかった。
 少なくともその支払いの時までは。
 「その日」が数日前に迫ったとき、アスカはようやく現実と直面する覚悟を決めた。
 しかし貯金は日頃の浪費でやせ細っていたところを新居の頭金で蒸発し、カードも限度いっぱいまで使用済みとなるともう打つ手がなかった。
 そうだどうしてシンジに、未来の旦那様に頼まないんだろう。とアスカは思いついたがあまりにあんまりな値段へシンジが唖然とする(それも目に涙を溜めて)ことが分かってしまっている以上、言い出すにはかなりの勇気が必要だった。
 そこへ手をさしのべてくれたのが伊吹マヤだった。
 分割払いでいいから。と優しくほほえんで代わりに払ってくれたのだ。もうアスカとしては感謝する以外にできることはない。
 だから普段はお茶程度の付き合いが、いまのようにバーでの会話になってしまったのだ。

 しかし意外なことに、マヤはアスカが考えているほど取っつきにくい女性ではなくなっていた。当時のアスカでさえ鼻についた潔癖性も少女趣味もいまはさほど気にならなくなっていた。
 ミサトに絶縁を宣言してしまったアスカにとって、年長で相談できる女性がマヤしかいなくなってしまったこと、そしてアルコールの酔いが原因かもしれない。
 いや、むしろその潔癖性をアスカが引き継いでしまったのではないかというような会話がバーの片隅で繰り広げられたのだった。

 「だけど羨ましいわ。あなたたちって」
 「そう……かな?」ごく普通の世間話から突然変わった話題にアスカはとまどった。
 「そうよ。だって運命的に知り合って、そのままずーっと付き合ってきて、そしてゴールインですもの。なんだか純愛って感じで」
 なんだ、やっぱりマヤの少女趣味って治ってないじゃないの。アスカは苦笑する。
 「技術部のほとんどがそう思ってるみたい。よく話題になるもの」
 その技術部の「ほとんど」を構成しているのが女性であることに気が付いて(自分の身体についての細かなチェックを男性技術部員に任せたくない。とアスカが強く望んだことがその理由だった)アスカはうなり声をあげた。
 「だって、ふたりともお互い以外に付き合った人、いないんでしょ?」
 「そ、そういうわけでは……」たとえば加持さんとか、と言いかけてアスカは口ごもる。あれは一方的な感情だったことは確かだし、加持が家庭を持っているいま、あまりこだわるのも変に思われるだけだ。
 それに「アイツ」がアタシ以外のだれかと付き合っていたとは思えないし。
 ……アルビノの肌、紅の瞳。
 ぶるっと身震いをしてアスカはグラスのカクテルをあおった。
 ……違う。あれは恋愛なんてものじゃない。
 少女のままの姿で彼女の記憶に残っている「適格者」と自分の婚約者の関係について深く考えるのはあまり愉快なものではなかった。
 だからアスカは肩をすくめただけだった。
 「それにね」マヤはにまっと笑う。「ふたりともお互いが初めての相手で、そのうえお互いのカラダしか知らない。ってのもポイント高かったりするのよ」
 「な、ななな、なにを」クォーター美女の肌がトマトかリンゴの微速度撮影のように紅くなった。
 「だってさー、なんだかんだ言ってくっついたり離れたりしてる訳でしょ」
 恋愛経験が豊富、ということは複数の異性との性体験があることなんだ。といまさらながら気が付いてアスカの血圧は上昇してしまう。
 「オペレータールームでそういう会話してるわけ?」
 「女の園ですもの、もうすごいわよぉ。拘束時間だって長いんだし。昨日のデートの報告会で、何回『ごっくん』したかもレポートするコもいるし、『前のカレシ』と違うところを開発されちゃってどうしよう。とかすごく嬉しそうに言うコだって」
 「誰よ誰よ!カエデ?アオイ?それともサツキ?それともサブオペの娘?」だいたいなに、その「ごっくん」って、アタシなんか、絶対シンジのアレなんか口にしないわ。そのうえ「違うところ」ってまさかまさか……世界が、世界が違いすぎる。
 「内緒。参加を希望するなら教えてあげる」
 ……これで潔癖症が完治しちゃったわけだ。これは喜ぶべきなんだろうか。それとも……。
 「と、とにかく、今後オペレータールームではワイ談禁止!いい?」
 アスカのうわずった声にマヤは笑う。
 「無理よ、無理」
 「だめったらだめ。だいたいさ、マヤなんておつきあいしてる人だっていないのに、そんな会話されてて気にならないの?」
 マヤは首を振った。「ならないわ。だって……おつきあい、してますから」
 「うそ……」今度こそアスカは絶句する。「だ、だ、だれ?誰なのその人?アタシの知ってるヒト?」
 「知ってると思う。北米支部から派遣されているクリス」
 「え……あの……でっかい人?」
 復興したばかりの北米支部からノウハウ構築のために派遣されてきたNerv職員の姿を思い出してアスカは身震いした。
 漆黒の筋肉の塊とでも表現できそうな男性の発散する雰囲気に、彼女はどちらかというと怖じ気づいてしまっていたのだった。さらにアスカに対して示す興味には嫌悪すら抱いていたのだった。
 同時にその存在はどちらかというとマヤにとって嫌悪の対象になるようにアスカには思えたのだが。
 「いつから?」
 「二週間くらい前……かな」
 「それって、『彼』がこっちに来てすぐじゃないの?」
 「そうよ。初日から……ね」
 カウンターに突っ伏し、朱い頬……それはアルコールのせいだけなのだろうか……を大理石のカウンターに押しつけながらマヤは言う。
 「すごいのよ。クリスったら。もう、いままでの自分がなんだったんだろうっておもってしまうくらい……素敵なの。彼が望むことなら、どんなことでもしてあげたい。って思うくらいなのよ」
 アスカの背筋に悪寒が走った。
 マヤの言葉は恋愛感情とはまったく違うところから紡がれているように彼女には感じられたからだった。
 「アスカちゃんはシンジ君と愛し合ってる?」
 いきなりの問いにもかかわらずアスカはこくんとうなずいた。マヤの告白に衝撃を受けていた彼女は、ここがバーの中であることも、ひょっとするとこの会話をだれかに聞かれているかもしれないことも意識から抜け落ちていた。
 「そうよね。もうおつきあいを始めてずいぶんになるんですものね」
 「そ、その、その昔から……その、シてたわけじゃないわよ」
 「分かってるわよ」マヤは微笑む。「アスカちゃんは好き?シンジ君と愛し合うのは」
 ためらいののち、ゆっくりとうなずく。その様子はまるで少女のようだった。
 「よかったぁ。二人ともナイーブだから」
 「そ、そんなこと……シンジなんてもう、あんな顔しててスケベなのよ」
 くすくす笑うマヤにアスカは顔を真っ赤にして愚痴をこぼす。

 「……そうなんだ。アスカちゃんが『ゴー』を出さないとだめなんだぁ」
 「そりゃそうよ。だってアイツ、毎日、その……欲しがるのよ。ったく、ケダモノじゃないんだから。それにね、ちょっと優しくしてあげるとつけあがって、このアスカさまに『AVみたいなこと』を要求してくるんだから」
 「まぁまぁ、彼も若いんだし、アスカちゃんみたいな魅力的な恋人がいたら当然よ」
 「でも……でも……」
 「だけどちょっと意外。アスカちゃんってかなりお堅いのね」
 「そういう訳じゃないけど」
 「……あまり好きじゃないの?」
 「えと、うん、たぶん」
 ……シンジを愛していないわけでは全然ないのだ。
 アスカは心の中でつぶやく。
 ただ、セックスの先につながる事に嫌悪を抱いてしまうのだ。
 原始的な肉欲……孕み、子供を産み落とすことに恐怖を抱いてしまうのだ。
 「……ごめんね」マヤがすまなさそうにつぶやき、アスカは慌てる。
 「そ、そんな、謝んないでよ。マヤが悪いんじゃないんだし。それに、アタシ……シンジとのアレ、嫌いじゃないの……キモチ……いいし……」
 初々しい羞恥で頬を染め、アスカはカクテルをあおった。

 そう、嫌いじゃないのだ。
 いっぱい、いっぱいキスしてもらって……唇やうなじ、指先、それに身体の隅々まで……彼が子犬のような眼差しでアタシを見上げ「いい?」と尋ねる瞬間が好きなのだ。それにアタシが微笑みで応え、彼の熱くざらざらとした舌が肌に触れるのを待つ瞬間が好きなのだ。
 それから……アレが入ってくる感覚は好き。なにか満たされていくみたいで。
 アタシの上でアイツが気持ちよさそうにあえいだり、その瞬間に泣きそうな表情になるのを見るのもとてもスキ。アイツに、シンジにこんな快感をアタシがあげてるんだ。って思うとぞくぞくしてくる。

 「だいじょうぶよ。愛し合っていれば、ちゃんと彼も理解してくれるから」
 「……うん……うん」
 「みんな、応援してるしね」
 「うん……ありがと……」
 マヤの言葉がアスカにはとても嬉しく、頼もしいものに感じる。ぱっと顔を上げる。
 「あのさ、マヤ」
 「なぁに?」
 「……これからも、相談して……いい?」
 「もちろんよ。私でお役に立てるなら」
 「ありがと!マヤ!」
 ミサトという庇護者から完全に絶縁してしまったアスカにとって、マヤのような存在は願ってもないものだったのだ。
 だからアスカは彼女の浮かべる複雑な表情になど、気づくはずもなかった。
 マヤのまだ幼ささえ残る貌によぎる嫉妬と欲望の感情になど、気づくはずもなかった。



◆ ◆ ◆



 そっと足音を忍ばせて近づく。
 ぜんぜん気づいていない。
 知らぬ間に口元に笑みが浮かぶ。それはどこか獲物を狙う肉食獣じみたところがあった。
 そして背後から……。
 「手ぇ抜くんじゃないわよぉ!」
 「うわぁぁっ!」
 ぎゅっと抱きつく。
 「わぁ!だめ!アスカ!危ないよ」
 フライ返しを取り落とさんばかりに碇シンジは仰天していた。
 くすくす笑いながら惣流・アスカ・ラングレーはNervの制服に包まれたしなやかな肢体をさらにフィアンセへと密着させる。
 「ほらぁ、ちゃんと料理に集中する!アナタの恋人は残業までして頑張ってるのよ。感謝しなさいな」
 「……アスカの給料、アスカが全部使っちゃうくせに」
 「なにをー。学生のブンザイで。マンションの頭金アタシの貯金から出したじゃない」
 「……生活費は僕の信託からじゃ……痛い痛い痛い」
 ぐりぐりと青年のこめかみを攻撃しつつ、アスカは幸福を噛みしめていた。

 「ね、ちゃんと講義受けてる?サボって合コンいったりしてないでしょうね。変なバイト入れたりしてない?」
 「アスカ、『尋問』は口の中を空っぽにしてから」
 うなり声を上げて、彼女のため「だけ」に作られた料理を飲み込む。そして相手を睨みつける。
 しかし、彼女が食事をする様子を天真爛漫な笑顔で見つめていた相手に対し、怖い顔をし続けるのはとても難しいのだ。
 だから彼女はすぐにくすくす笑いはじめる。
 「さ、報告よ、報告。アンタのボスの惣流・アスカ・ラングレーに包み隠さず報告するのよ」
 ふぅっと溜息をついてから、でも楽しそうに彼は話し始める。
 他愛のない大学生活のことを、ごく普通の日常のことを。
 それをアスカはとても嬉しそうに見つめている。
 Nerv本部本部技術局第一課所属の予備役二尉、碇シンジがその「本業」である学生としての一日を語る様子を。

 「明日は定期訓練日だよね」食後のお茶を飲みつつシンジがたずねた。
 「そうよ、ヤワな生活しているアンタをびしびししごいてあげる。覚悟なさい」
 「……ただのシンクロテストじゃないの?その……戦闘……訓練?」不安な表情になるシンジにアスカは苦笑してしまう。それだけではない。さらに彼の困った顔を見たいと思ってしまうのだ。
 「さぁ、どうでしょうねぇ。『被検体のスタミナとシンクロ率の関係を調べる』という名目で20キロのランニングに腕立て伏せ100回、ついでに腹筋300回。なんてメニューが組んであるかも」アスカの口元にはいささか意地の悪い笑みがあった。
 「なんだ。そっちか」シンジはあからさまにほっとする。「使徒戦役」以降に行われた戦闘訓練に対し、碇シンジは嫌悪をあらわにしていた。

 新生Nervはその「訓練」において、驚くほど明確にその仮想敵を定義していたのだった。
 Evaの敵はもはや使徒ではない。
 Evaの敵は人が作り出したもの、あるいは人そのもの。

 碇シンジとアスカが所属する組織、そしてそれをバックアップするUNはそれを隠そうともしていないのだった。
 「そっちか。ってナニよぉ。じゃぁもっとイジめてあげる。負荷付きのランニングに……そうそう、高山環境でのテストもいいかも」
 「……あんまりハードな訓練だと、晩御飯が外食になるよ」
 「……それが脅しになると思う?碇シンジ」
 「あした、牛肉の特売日なんだけどな。惣流・アスカ・ラングレーさん」シンジが悪戯っぽいまなざしでフィアンセを見つめる。
 「……そんな脅しに乗らないわよ」
 「ミンチから手作りのハンバーグのつもりだったんだ……」
 「さ、最近ダイエットしようと思ってるの」
 「いいワインも買い置きしてあるのに。残念だね」
 「……この卑怯者!卑劣漢!そーやってアンタはいつもアタシを堕落させるんだから」アスカは満面の笑みを浮かべていた。「いいわよ。超簡略版のテストにしてあげる。とっととシンクロに成功すればそれでおしまい。あとはスーパーへダッシュ!いいわね?」
 「テスト、一回だけ?」シンジは眉をひそめた。「過酷な訓練」がアスカの冗談であることは最初から分かっていたが、それでもシンクロテストが一度しか行われないというのは妙だった。
 「そ。それ以上は許可も出なかったわ」いぶかしげなフィアンセにアスカは表情をさっと切り替えた。「シミュレータを使っての訓練なんて言語道断ですって。UNの査察官がいなければ、本格的なテストはいっさい許されないのよ」

 これが最大の理由だった。
 これがシンジが一見気楽な生活を送っている理由だった。
 人類の運命を天秤にかけ、ごくわずかな者達が「次なる階梯」を目指すために作られた人類補完計画は野望を完遂することはできず、自己崩壊した。
 Nervは解体され、研究機関としてUNと各国政府の二重支配を受けることになる。
 アスカとシンジが所属する「Nerv本部」は本部機能を実質的に失い、日本政府とUNのコントロール下に置かれたのだった。
 「最小限の」流血と暴力をもって。
 しかしNervの新たな支配者たちにとって、世界でもはや二人しかいない「適格者」は切り札であり、英雄であり、同時にこれ以上なく危険な存在でもあった。
 「使徒戦役」ののち、復興した第三新東京で高校生活を送った彼らを監視し続けていた「彼ら」は笑顔で進路を提示した。
 惣流・アスカ・ラングレーにはNervの研究者としてのポスト、それも数年のちにはNervの研究開発部を任せても構わない。という含みを持たせてのものが。
 碇シンジには同じくNervの研究スタッフとしての職が、エヴァンゲリオンのパイロットとしてのものが。
 しかし同時にそれが檻であることも二人には分かっていた。
 彼らは国外へ出ることは原則的に許されず、第三新東京市を離れることさえも事前の申告が必要なのだから。
 ふたりはそれを拒否しなかった。
 いや、それこそ望んでいたものだった。お互いに離ればなれにならないですむのなら、その程度の条件など気にもならないほど、シンジとアスカの絆は固いものになっていたのだった。

 だが数ヶ月後、碇シンジは正パイロットから予備パイロットに降格させられ、常勤から非常勤の職員へとその立場を変えた。
 シンジの見せた異常なまでのシンクロ率に、「彼ら」は恐怖を抱いたのだ。
 だからアスカに勧められたシンジが大学への進学を望むと、「彼ら」は諸手を挙げて賛成する。
 二人が実質的な軟禁を受け入れる限り、「彼ら」はひどく寛容な態度をとろうと決めていたのだった。
 なぜなら二人の能力を「彼ら」はまだ必要だと信じるほど、世界は平和からほど遠いのだった。
 たとえ、使徒など来なくとも。

 「でも……僕はそれでいいと思う。起動実験なんてしなくてもエヴァの研究は進むんだから。ね?そうだろ?」
 「どうだか。だけど、なにかをやろうとするたびにUNにお伺いを立てなきゃならないなんて辛いわ」シンジの言葉にアスカは肩をすくめる。

 彼女が自分の携帯電話にメッセージが入っていることに気が付いたのはそのときだった。



◆ ◆ ◆



 「えっと、あの、その、マヤ、あ、いや、伊吹です」アスカの耳に聞こえてくるのは、伊吹マヤから届いたボイスメールだった。
 「明日のき、起動確認実験なんですけど、ちょっと予定が変更になります。予備電源の交換作業が急遽入ってしまいました。あの、あ……あ、ですから、セットアップ作業はマルキュウマルマルからヒトナナマルマルに変更……」
 「ちょっとですってぇ?」アスカは舌打ちをした。夕方に試験始めちゃディナーの予定がめちゃくちゃじゃないの。
 しかしMAGIによって転送されたマヤからの内線電話はアスカの感情とはお構いなしで続く。
 「……です。セ、セットアップ作業は通常よりも……そ、その、あ、じ、時間がかかると思うの。電源テストの都合もあるから。その、どたばたしちゃってごめんなさいね」
 ……第三新東京開発室のボスなんだから、もうちょっと威厳を保ってほしいよなぁ。
 つっかえるどころかときどき声が裏返るメッセージにアスカは苦笑してしまう。
 その後、もたもたと謝罪の言葉を繰り返し、マヤのメッセージは途切れる。
 だが、録音は終わらない。無言のままの時間が過ぎていく。
 ……ったくあのドジっ娘、受話器をちゃんと置いてなかったんだわ。
 十数秒じっと耳を澄ましたのち、苦笑しつつアスカは電話を切ろうとする。
 「あ、あああ、おぉぉ……ッ」
 「終了」ボタンにかかった指が動きを止めた。
 「な……に?」
 眉がひそめられるのが、動悸が速くなるのが、体温が上昇していくのが自分でも分かった。
 「あ、あはぁ……ン。んふぅっ、ふぅン……あ、はいって……はいって……く」
 「どうしたの?」声をかけてくるフィアンセに片手をあげてみせ、アスカは自室へと身体を滑り込ませる。
 電話のボリュームを上げた。
 「……誰?この……声」
 答えは分かっていた。だが、そうつぶやかずにはいられなかった。
 「あ、ああ、ふ、ふとぉぉい……ああ、ああ、もう、もう、もう、お仕事終わったから、もう大丈夫だから、ね?ね?もっと、もっと……」
 ひどく艶やかでそして甘く、電話の向こうの声はだれかにおねだりをしていた。
 「ひはぁッ!お、おお……う。あ、突かれてる。奥まで、奥までぇぇぇ」
 衣擦れの音、リズミカルに肉がぶつかる音、そして「素敵、ああ、素敵!もっと!もっと!もっと!おおッ、いひッ!はあぁぁん!」と獣じみた淫唱。
 「……マ……ヤ……なの?ちがうよ……ね?」
 それは愚問であった。
 いままで耳にすることのない音色ではあったが、これは間違いなく伊吹マヤの声だった。
 男女の営みに狂悦しているアスカの上司の淫声だった。
 崩れるようにアスカは椅子に腰を落とした。脚に力が入らない。受話器越しに聞こえてくるよがり声……それはもはやまったく言語としての体をなしていない……は、彼女の精神を浸食しつつあった。
 「お、おおッ!あはぁ……ン。あ、ああっ、あっ!」
 ……やめよう。こんなこと、ずっと聞き続けるなんて失礼だ。それに、それに、こんなの、不潔だわ、オフィスでセックスだなんて、こんな、こんな変なコエ、キモチワルイし……。
 しかし、彼女は電話を切ることができないのだ。
 粘っこいうめき声と、時に子犬のような、時に子猫のような甘え声にじっと聞き入ってしまう。
 それどころか、伊吹マヤの姿態をつぎつぎと思い浮かべてしまうのだ。

 タイツごとショーツを引き下ろされ、ついさっきまで整頓されていたデスクに二つ折りにされて「彼」に貫かれるマヤ。
 「彼」の肩に足首をのせてごりごりとピストンされると、我慢できずにピンク系のルージュが塗られた唇から部屋中に響く悶声を発してしまうマヤ。
 あるいは横倒しに上半身をデスクに押しつけて、まるで犬がオシッコをするように片脚を高々と抱えられ、ずんずんとピストンされているマヤ。
 破れたタイツをまとわりつかせた肌理細かで控えめなヒップに巨漢の獰猛な下半身が容赦なく叩きつけられるたびに、男性経験のほとんどなかった秘花から猥汁をあぶくをたてて溢れ出させるマヤ。
 のど元まできっちり閉めていたファスナーをじりじりと下ろされて、清楚なブラジャーを引きちぎられるように外されるマヤ。
 控えめだけれどもつん、と立ち上がったバストの先、その固くしこった震える果実に無骨な黒い指……掌だけは異様なほどに肉色な……が伸びると……。
 「だ、だめぇぇ!ああっ!ゴリゴリしないで!ひ、ひ、ひねっちゃいやぁ!だめ、らめ、らめぇ、す、すごく敏感になっちゃってるの!悪戯、悪戯しないでぇ!」と絶叫してしまうマヤ。
 乳首を弄り回されて軽く絶頂に達したところで、乱暴な衣擦れの音とともに制服も下着もすべて剥ぎ取られ、「あ、ああぁ……MAGIに、MAGIに見られてる……」とろれつの回らないつぶやきを漏らすマヤ。
 「お、おおおッ、イ、イクゥゥゥ……ま、また、またイっちゃうぅぅ!」と叫びながら全身を痙攣させ、机の上の置物を床へ落としてしまうマヤ。
 澄んだ音をたてて陶器が砕けても気にもせず、「あ、ああ、出して!出してください!なかに、お腹のなかにいっぱい出して!」と泣きわめくマヤ。

 「マヤ、マヤ、だめよ……執務室でそんなこと、だめなんだから」いつのまにかアスカはうわごとのように受話器へ向かってつぶやいていた。
 だから、何度も、何度もドアがノックされていることにまったく気が付かなかったのだ。
 「……アスカ?アスカったら!どうしたの?」ドア越しのせっぱ詰まった声も耳に入らなかったのだ。
 「な、なんでもないわ、なんでもないの!訓練時間が変わるってマヤに言われて、ちょっと考え事してただけなの!」アスカはうわずった声で答える。
 「……そうなの?それなら……いいけど」
 「う、うん。ごめんね。心配かけて」
 ドアの向こうにあったフィアンセの気配が消え、キッチンから水を流す音が聞こえてきた。
 アスカは安堵の溜息をついた。
 さらに耳を澄まし、心配性のフィアンセが戻ってくる気配がないことを確認すると、ぎゅっと目を閉じて右手をゆっくりと動かしはじめる。
 制服のスカートをまくり上げて露わになったショーツ、その中にいつのまにか入り込んだほっそりした指を動かして、独り遊びを再開させはじめる。
 ぬるぬるとした孔の中を一心不乱にこすりながら、電話から聞こえるマヤの声と同じリズムで密やかに啼き声をあげはじめた。
 一〇分強に渡る再生が終わるとアスカは震える指でそれをリピートし、淫戯に再び没頭し始めた。
 受話器から聞こえてくる猥らな睦言に耳を傾け、それに自らの唇の形を同期させて。
 端末をおいたデスクに横たわり、大きく股を開き……想像上の伊吹マヤと同じポーズで……激しく指をピストンさせる。

 その夜、アスカは生まれて初めて自分からセックスをねだった。



◆ ◆ ◆



 「今日は遅くなるから、こんなに早く来なくても良かったのに」
 アスカの目の前で伊吹マヤは微笑していた。
 それはいつもどおりの清楚で少しはにかむような微笑みだった。
 その表情にも肢体にも荒淫の痕などはみじんもなかった。
 衣服にも室内にもおかしなところはなかった。
 「あれ」は自分の幻聴に過ぎなかったのだろうか。とアスカが考えてしまうほどマヤは常態そのものだった。
 ……あれはやっぱりだれかのイタズラだったのかしら。あの真面目なマヤがオフィスでオトコと……するなんて。
 「でも、いろいろテスト前に終わらせておきたい仕事だってあるし……」適当に言葉を濁しつつ、アスカは室内のあちこちへ視線を巡らせる。
 「あ……」
 「どうしたの?アスカ」
 「え、あの、えっと、ほら、アレ、どうしたの?」
 「『アレ』?」小首をかしげてアスカを見つめるマヤ。その表情にはなんの動揺も見られないのに対し、アスカの心拍数は一気に上昇していた。
 「ほら、あれよ。陶器でできたちっちゃな猫のオブジェ。リツコが松代へ移る前にマヤにプレゼントしたでしょ」
 「……ああ、あれ、壊れちゃったの。書類を片づけている最中に落としちゃって……先輩にどう謝ろうかしら」
 「そ、そうなんだ。それは……その、残念ね」
 「うん、とても残念だわ。とてもね」

 ……やっぱり、やっぱりあれは幻でも、演技でもなかったんだ。
 ……この部屋で、この机で、マヤは誰かと……誰かと……セックスしていたんだ。
 マヤの執務室を辞去したのち、廊下の壁に背中を押しつけてアスカは動悸を静めようとしていた。
 あの真面目で几帳面な女性がああまで我を忘れて、乱れて、あんな恥ずかしいことを口にしてねだるなど、アスカの想像を遙かに超えていた。
 しかしなによりもアスカを戦慄させたのはマヤの表情だった。
 尊敬し、慕っていた先輩……赤木リツコからのプレゼントを失ったことを、その言葉とは裏腹にまったく残念に思っていないことをその表情は明白に物語っていた。
 「たるんでるわよ。いくらなんでも」彼女はつぶやく。しかし上司が執務室で淫行に耽っているからといって、それだけでは非難できないことを大人になったアスカにも理解できた。
 それよりも、それに影響を受けてしまっている自分のほうが問題なのだ。
 「気合い入れなきゃ。またシンクロ率下がっちゃう」
 リミッターの使用が検討されている碇シンジと異なり、アスカのシンクロ率は穏やかな下降線をたどりつつあった。
 ぱん、と両手で頬を叩き、きりりと表情を引き締めた美女はしっかりとした足取りでハンガーへ向かう。



◆ ◆ ◆



 ぷしゅぅ、と圧搾空気音とともにドアが開くと、壁にもたれていたフィアンセがぱっと瞳を開いた。にっこりとアスカに向かって微笑む。
 少し溜め息をついてからアスカはシンジの髪に手を伸ばす。「ほら、まだ髪の毛、濡れてる。ちゃんと乾かさないと。それにこのシャンプーの匂い、安物だわ。この職場、本当にけちなんだから」
 「ごくろうさま……アスカ」頭ひとつ小さい女性に髪の毛をくしゃくしゃにされながら、彼女がそうできるように少し膝を曲げながらシンジは言う。「さ、帰ろう。帰ってご飯食べよう」
 「……うん」アスカはうなずいた。鼻の奥がつんとする。
 三時間。それがアスカがシンクロまでに要した時間だった。いままでのレコードでは最悪に近い。
 それに対してシンジが必要としたのは三秒だった。それどころか、急上昇していくシンクロ率に恐れをなしたUNの遠隔オブザーバーは数値が五〇%を越えた瞬間、回線越しに金切り声を上げて試験中止を命令したのだった。
 エヴァパイロットとしての役割が自分にもはや求められていないことをアスカはきちんと理解していた。むしろ「エヴァの脅威は減りつつある」ことを示すための役割をアスカが果たさねばならないということも分かっていた(もちろん「碇シンジ」という存在があればこそなのだが)。
 だが、それでも辛いのだ。かつて自分の唯一の存在理由であったものからずり落ちていく感覚は。
 だから、彼女は望んでいた。
 自分に価値を見いだしてくれる存在を。
 自分に唯一の価値を見いだしてくれる存在を。
 彼女にとっても、その「存在」にとって不幸だったのは、アスカ自身がその望みについて気が付いていなかったことだろう。

 「お疲れさまぁ」
 「さぁ、帰りましょうか」
 不意に声をかけられて、アスカとシンジは振り返る。
 「そういう、らぶらぶな行為はおうちですべきだと思うんだけど」制服をざっくりしたシャツとスカートに着替え、帰り支度を整えた阿賀野カエデが苦笑していた。
 「まぁまぁ、若い恋人たちにはスキンシップが必要なのよぉ……きっと。人目なんてはばかっていられないんだわ……たぶん」ワンピースに薄いカーディガンを羽織ったアオイの口調はどこかひがみっぽいところがあった。
 「あ、えと、ああっ!」慌ててアスカがシンジから離れた。確かにシンジの髪の毛を確かめているその格好は熱烈なベーゼをかわしているように見えなくもない。
 どぎまぎするエヴァパイロット達に主任オペレーター二人は顔を見合わせ、苦笑する。
 「ね、これから食事に行くけれど、二人はどうするの?」
 「すみません。その、準備してあるんです」カエデにシンジが答えると主任オペレーター達はがっくりとうなだれる。
 「碇君ってほんと、よくできたお婿さん……だと思わない?アオイ」
 「そう思う……それに引き替え、こっちはファミレスでのゴハン。それも深夜」
 「レンジでチンしたみたいな料理を、女ばかり四人で食べるのね」アオイの言葉にカエデが続けた。
 「で、でも、うちだってその、普通のハンバーグだよ、うん、その、ファミレスのやつとそんなに変わらない……と思う」
 なにか抗議しようとしたシンジの脇腹に肘鉄を決めつつ、アスカはこわばった笑みを浮かべた。
 「あら、ハンバーグなの。碇君お手製の……」とカエデが栗色のショートヘアを振りつつ溜息をついた。
 「そうなんだ……だーりんが作ってくれるお料理を、ふたり『だけ』で食べるのね。らぶらぶしながら……」眼鏡をきらりと光らせてコメントする冷静なアオイの口調がむしろアスカとシンジの背筋を寒くする。
 「あ、アンタたち、アンタたちどこか歪んでない?」アスカは猛然と抗議した。
 「歪んでいると言えば歪んでいるのかも」
 カエデの言葉にアオイが続けた。
 「勤務時間長いし」
 「ストレス多い職場だし」
 「オトコいないしー」
 「それなのに目の前でチューとかしてるしー」
 「えーい!やめんかー!チューなんかしてないわよ!」アスカは叫ぶ。頭がくらくらしてきたのは疲労や空腹のためだけなのだろうか。
 「し、シンジ、なんとか言ってやって、この嫉妬深いオンナどもに」
 「あ、あの……よろしければ、ウチでご飯、食べませんか?」
 「こっ、このバカぁ!」悲鳴を上げたのはもちろんアスカ。
 「ああっ!碇君ってさすがによく分かってるわ。職場のモチベーションを保つのはそういった気配りってことに」アオイが胸元に手を当てて微笑む。
 「良かったわ。あなたの良心がまだ残っていて」とカエデが口元を歪め、ポケットから携帯電話を取り出した。「ってことで、みんな碇邸に集合よ。いいわね」
 「「みんなって?」」アスカとシンジが同時に叫ぶ。
 「マヤにサツキよ。私たち、かたーい絆で結ばれているのよ」
 「深夜のファミレスで築いた絆でしょうに」アスカは辛辣な口調で言い返したが、カエデはいささかもダメージを受けていないようだった。
 「さぁ碇君、行きましょう。美味しい食事が待っているわ」カエデがシンジの右肘にするりと手を滑り込ませた。
 「え、ええっ!」
 「ああ、とっても楽しみ。わたし、Nervに勤めていてよかったっていま初めて実感したぁ」アオイがシンジの左腕に右腕を絡ませてささやく。
 「こらこらこら!ナニするの!離れなさい!」
 アスカの抗議をものともせず、オペレーターたちはシンジを引きずっていく。



◆ ◆ ◆



 「あ、あのさ、明日もあるから、もうお開きにしない?ね?」
 「却下」
 「拒否」
 「反対」
 「反対三、賛成ゼロ、アスカの提案は拒否されました。ちなみに私も反対。碇君、ワインもう一本開けていいかしら?」
 「あ……あはは……」
 サツキにカエデ、アオイに無慈悲に拒絶され、さらにマヤにワインのお代わりまで要求されたアスカは引きつった笑いを浮かべた。
 隣にフィアンセの気配があった。横目で見る。
 「あんたったら、アンタってヤツは……」そこには秘蔵のボトルを抱えたシンジがにこにこしながら立っていた。深夜だというのに大声を出してしまう。「どーこーまーで搾取されるつもりなのよ!」
 「……アスカがそんなこと言いますか?」アオイがぼそっとつぶやいた。
 「でも、ほら、みんな喜んでくれてるし」
 「タダメシ食べられてお酒も出てくりゃそりゃ喜ぶわよ!ったく」
 制服にエプロンを身につけた姿でアスカは溜息をつく。ここはシンジとアスカの住むマンションのリビングキッチン。シンジが下ごしらえしていたハンバーグにサラダ、食後のコーヒーまでしっかりたっぷりと胃袋に収めたMAGIのオペレーター娘たちは、ここへ来る途中に買い込んだアルコール類を全て平らげ、さらに追加のアルコールまで要求しはじめたのだった。
 夜が更けるにつれテンションが上がってくる同僚達に、アスカはもはや防戦一方だった。それどころか、
 「あ、こら、サツキったらどこ行くのよ!トイレはこっち、玄関は向こう!」
 「まだよ、まだ帰らないわよ。それにトイレでもないの」サツキが妙にろれつの回らない口調で言った。「シンジ君とアスカたんの愛の巣を見学するの。まずはベッドルームからー」
 「ああっ!こら!サツキ!アンタお酒に強いくせして酔ったふりなんてするなー。やめなさい!」
 「賛成!」
 「賛成!」
 「大賛成!」
 アスカの抵抗もむなしく、残りの三人も立ち上がって寝室へと向かおうとする。
 シンジはただ唖然としているだけだった。
 「も、もうイヤ。あんたたち、あんたたちなんてもう友達でもなんでもないわ。ただのエロオンナよ」
 大急ぎでドアの前に立ちふさがり、三人娘の侵攻を阻止しようとする。
 「シンジ!アンタも手伝いなさい。ここは絶対防衛線よ」
 「そんな大げさな」
 「大げさじゃないわよ。アンタ、女のコワサを知らないのよ!ベッドルームなんかに侵入を許したら、明日のオペレータールームでどーいう根も葉もないウワサが飛び交うか分かったもんじゃないわ」
 「……根も葉もないんだったら……ベッドルーム見ても見なくても一緒じゃない?」
 シンジの言葉にうっと詰まるアスカ。しかしぶんぶんと首を振った。
 「だめだめだめ、絶対だめ。噂に真実味を持たせるには『ある程度の事実の裏付け』が必要なの!アンタぜんぜん分かってない!」
 「アスカするどーい」
 「というわけで、突破ー」
 「包み隠さずお姉さんたちに見せるのよ」
 「ま、まぁ、明日になったらみんな忘れてると思うわ。きっと」マヤが真実からかけ離れているであろう気休めを口にしたとき、彼女の携帯が鳴った。
 「あ?」慌てて取り出した携帯の表示を見たマヤの表情がさっとかげった。
 「どうしたの?マヤ」
 「なんでもないわ、ちょっとごめんね」アスカに謝りつつ、マヤは廊下へ出て何事か話しはじめた。
 アスカとMAGIオペレーター達の「攻防戦」が再開される。
 きゃあきゃあとかしましいその様子よりもしかし、シンジはドアの隙間から見えるマヤの様子のほうが気になっていた。
 なぜなら彼よりも年長の女性はなにか怯えるように、小声で電話に向かって話していたのだった。
 マヤが振り向き、シンジと目が合った。はっと瞳が見開かれた。瞳が震え、視線が下を向く。
 廊下の明かりに照らされたマヤのうなじが紅潮していることに彼は気づいた。
 そのままマヤは玄関へと向かう。
 「マヤさん?」
 後を追ったシンジへマヤは振り向かずに言う。「あ、あのね、ちょっと下に人が来てるみたいなの。そ、その、私に話したいことがあるって」
 早口でそれだけ告げると外へ出る。不審げなシンジの目の前でドアが閉まった。



◆ ◆ ◆



 「へ、へぇぇ、貴男がマヤの……ねぇ」
 アスカが強ばった笑みを浮かべていた。
 「そんな言い方……しないで。その、恥ずかしいから」マヤが頬を染めてうつむく。だがそういいつつも彼女は隣の男の腕にしがみついたままだ。
 「ハハ、マヤさんは恥ずかしがり屋なんですヨ。そんなにからかわないであげてください」
 愉快そうに巨漢は笑い、マヤをぎゅっと抱き寄せる。ああん、とマヤは鼻声で抗議する。
 「あの、クリス……さん……はこちらで何の任務で来られているんですか?」
 シンジが慎重に言葉を選んでいた。アスカの配慮によってNervの内部事情から極力遠ざけられていた彼は、クリスがUN主導で再建されつつある北米支部から派遣されてきたことしか知らない。
 「はい。まずはMAGIシステムの構築ですネ。マヤ先生にお世話になってます」にっこりと微笑む男にシンジはうなずく。
 「で、でも、ごめんね、迎えに来てもらったのにおじゃましちゃって」マヤが頬を染めたままアスカに詫びた。
 「いいのよ。だってマヤが『紹介したい』って言うんだもの……ね」アスカは笑う。その表情は好奇心で満ちていた。「やっぱり女って変わるのね。すごく積極的になったっていうか。はい、どうぞ」
 「だ、だって……」アスカからコーヒーカップを受け取るとマヤは言葉を詰まらせ、もじもじしながらクリスへ密着し、彼へとカップを差し出すのだ。

 うわぁ、なんていうか、ここまで献身的になると気味が悪いなぁ。
 アスカは内心でつぶやいた。
 アタシだってシンジに「あーん」して食べさせてもらうコトもあるけど、あるけど……。
 この漆黒の巨人は、見かけとは異なりひどく如才なく振る舞い、同時にユーモアも発揮してのけたのでアスカは彼への警戒心を解きつつあった。でも、それでも彼女は違和感を感じてしまうのだ。
 同時にその理由にもおぼろげながら気づき始めていた。

 ……あ、このスキンシップが気になってるんだ。アタシ。
 マヤの身体、ずっとクリスが触ってるんだもの。
 なんだかいやらしい手つきで、それに、マヤの反応も……アタシだけじゃなくってシンジや同僚のみんながいる前なのに。

 そうなのだ。
 クリスの極厚の掌はひどくなれなれしくマヤの肩を、腰を抱きよせているのだ。
 太くごつごつした指がさわさわとマヤの太股を、下腹部を、胸の膨らみを這い、その弾力を味わっているのだ。
 それなのに、伊吹マヤはそれを拒否することもなく、どこか虚ろに嬉しそうに巨漢に身体を預けているのだ。
 さっきまできれいに揃えていた膝小僧がいつのまにか緩み、むっちりとした内腿とデニムのミニスカートの最奥までをシンジたちにさらけ出すことさえあるのだ。
 アスカやシンジの言葉に上の空なばかりか、ときおり熱い吐息すら漏らすありさまなのだ。

 それはカップル同士の愛情確認でも、親密さの発露でもないようにアスカには思える。
 ただ、伊吹マヤという楚々とした女性がどう変わってしまったかを、人前にもかかわらず男の指にどう反応するのか見せつけようとしているだけに思える。

 そのクリスがマヤの耳元に口を寄せ、何事かささやいた。
 マヤの目が見開かれ、小さな悲鳴が漏れる。
 「……マヤ?」
 だがクリスがマヤをぎゅっと抱きしめて、太い指先で彼女の震える唇を撫でつつなにかを笑顔でささやくと、こくりと彼女はうなずいたのだ。
 「……マヤ?」
 「あ、あのね。アスカ」
 「え、え、なに?」
 「シンジ君と一緒にテレビとか見てるの?」
 「……う、うん」
 その言葉にマヤはとろりとした笑みを浮かべた。その彼女にまたクリスがなにかささやく。
 するとマヤはじわじわと膝を崩し、さらに腰を前へ突き出して彼女を見下ろす位置にいるアスカからもスカートの奥が見えるような姿勢を取った。
 「あ、あの、マヤ」
 「二人で並んで座って見てるの?」
 「え、えと、違う……わ」
 「どう……違うの?」
 「……あ、あの……いつもアタシは絨毯の上に座ってて、シンジがソファー……かな」
 「そうなんだ。じゃ、手を握ったりもしないんだ」
 「え、うん、そうね」
 「そうなんだ。でもね、並んで座って、肩を抱いてもらうと、すてきなのよ」
 「あ、でも、テレビ見てるときはソッチに集中したいし……ね」
 「じゃ、見ているときに悪戯されたり、したりすることも……ないの?」
 「い、いたず……ら?」
 クリスがマヤの耳元でささやくと、マヤは空虚な笑みとともにきわどい質問を重ね、あるいは卑猥な姿勢をエスカレートさせていく。

 ……なんだか、なんだか、マヤって操り人形みたい。
 アスカは思う。
 クリスの意のままの言葉を話し、クリスの意のままに姿勢を変える、伊吹マヤの外観をした人形。
 いまのマヤはそのような存在へと変化してしまったようにアスカには思えるのだ。

 マヤは全身を恋人にまさぐられながら、アスカに甘い吐息混じりの質問を続けていた。
 恋人に何事かをささやかれるたびに頬を染めて、自身の人格を疑われるようなはしたない質問を続けていた。
 いつしかアスカもマヤの問いがどういう意図で出されているものなのか、自分がどう答えたのかよく分からなくなっていた。
 なぜならアスカも目を逸らせなくなっていたのだ。
 マヤのデニムのスカートの奥から、そこから覗くショーツの染みから。

 ……マヤったら、マヤったら……みんなのいるところで濡らしちゃってるの?嘘、うそだよね?そんなこと、嘘だよね……。

 「そうなんだぁ……あ、あのね?シンジ……くん」アスカの内心の呼びかけに応えず、クリスになにかささやかれたマヤはラブソファーからふらりと立ち上がる。クリスへ振り返ったマヤの瞳には涙が浮かんでいた。
 巨漢は分厚い唇をゆがめて笑う。
 「あぁ……」おぼつかない足取りで数歩すすみ、シンジの隣にマヤは腰をおとす。
 「え?」
 「あのね、あのね、シンジ……くん。知ってる?私の部屋ってソファーが四つあるんだけれど、どれも一人がけなの」マヤはぎくしゃくした笑みを浮かべつつ、アスカの婚約者に身体をすり寄せた。
 「え?」
 「!!」それはアスカも同じだった。シンジ同様息を呑んで凍りつくしかなかった。
 「マ、マヤ……さん」
 「あ、あのね……だから……ね、こ、こんな風に……してるの」マヤはシンジを見上げた。ゆっくりとしなやかな両手が持ち上がり、震える指先が彼の背中へ回る。「ああ……」と吐息を漏らしてから少し身体を浮かせる。
 「あっ!マヤ、マヤ……さん」
 シンジは呆然と彼女を見下ろすしかない。
 シンジの膝の上にはデニムのミニスカートに包まれた小さなお尻が乗っていた。
 伊吹マヤの柔らかく、むっちりとした弾力を保ったヒップの心地よい重みと体温がジーンズの布地越しに感じられる。
 そしてシンジのTシャツの胸には伊吹マヤの柔らかな双つの膨らみが押しつけられていた。
 「あ、あのね、いつもこうしてるの。だ、だって、ソファーはひとりがけなんですもの」
 マヤの動悸が速まっていることにシンジは気づく。同時に、自身の心臓もものすごいビートを刻んでいることにも。
 マヤは続ける。「こうやって、マヤは部屋では抱っこされてテレビを見たり、お酒を飲むの。ね?私たちって素敵な恋人でしょ?」
 それはマヤとクリスを指すものなのか、それともいまのマヤとシンジを指すものなのか。
 最初は緊張し、怯え、つっかえていたものの、しだいに陶酔の色が濃くなっていくマヤの言葉を耳元でささやかれている碇シンジにはもう分からない。
 シンジの太股へよじ登っていくうちにずり上がってしまったスカートを直そうともせず、十分に脂肪の乗った太股や、レースをふんだんに使った白いショーツから視線をそらせなくなってしまった碇シンジにはもう分からない。
 マヤの行為はさらにエスカレートする。小さく声を上げながらMAGIシステムを統べる女性はもじもじと腰を動かすと、熱を持ち、硬さを帯びて盛り上がった碇シンジの股間にお尻を押しつける姿勢を取ってしまう。
 「あ……硬い……硬くて熱い……アツいものが……わたしの……わたしの……」つぶやくマヤ。その彼女の表情から、まだ残っていた羞恥と知性が抜け落ちていさまを眺めているうちに、シンジもまた判断力を失っていく。
 「あはぁっ」マヤは艶笑を浮かべた。その唇をゆっくり、いやらしく舐めるさまを碇シンジに見せつけ、こうささやく。
 「そう、そうなの。こんな感じ。かったーいおちんちんでお尻をぐりぐりさせられながら、マヤはリビングですごすの」
 シンジの呼吸が荒くなりつつあることにマヤは気づいた。

 ……ああ、あの、あのシンジ君がわたしに欲情している!アスカの目の前で、アスカがすがるようなかおをしてるのに、シンジ君、シンジ君ってかちんかちんになってる……。
 ……ああ、わたし、わたしって、こんなに淫らコトしてる。マヤって……もう変態なのね。

 諦観と欲情が伊吹マヤの理性を完全にショートさせた。
 子犬のように鼻をならしつつ姿勢を入れ替え、青年の胸板に背中を押しつける。
 そのままぐいっと脚を開き、青年の左右の膝にそれぞれのせた。デニムのスカートが腰までまくれあがってもまるで気にしない。
 「ね?ね?落ちちゃわないように支えて?ね?」と甘え声を上げながらシンジの両手を自分の腰へ回させる。
 そう、伊吹マヤは碇シンジを「椅子」として大股開きの着座姿勢を完成させてしまったのだ。
 「あはぁ……」マヤは吐息を漏らした。「硬くって、熱いもので、お尻、ぐりぐりされてる……アスカぁ……このソファー……とっても……素敵」
 碇シンジの下半身にショーツの谷間をぐりぐり押しつけ、マヤは言う。
 「マヤ……アンタ……どうしちゃったの」ようやく言葉を絞り出すアスカへのマヤの答えは恥知らずな嬌声だった。
 「あ、ああ……このソファーったら、マヤに悪戯してくる……マヤのエッチなところ、悪戯してくるのぉ……ああン、素敵、すごく素敵だわ……このソファー」
 「シンジ……シンジ!やめて!そんなことしないで!」
 だが魅力的な女性にペニスを刺激されながら、柔らかな身体を押しつけられている青年は、もうその指を止めることはできなかった。
 剥き出しになった太股を、ピッタリとして双丘の膨らみが強調されたトップスを、彼は夢うつつな表情でゆるゆるさわさわと撫で回してしまうのだ。
 「碇サン、そのドール、すごく抱き心地がいいでしょ?」シンジの正面に座ったクリスが満面に笑みを浮かべていた。
 「従順で、柔らかくて、すごくスケベなドールですから、碇サンもきっと気に入りますヨ」
 「シンジ……シンジ、ダメ、だめだったら!バカぁっ!やめなさい!しっかりするの、しっかりしてよ、そんないやらしいことマヤにしないで……」
 しかしその声は、ひどく小さくか弱くて、アスカが愛する男性の耳には届かない。
 「サツキ、来なさイ」
 「あ……は…ぁ…い」
 整った表情をどんより曇らせて、アスカの背後に立っていた大井サツキがふらふらとクリスへと歩み寄る。
 「サツキはほんとうに、いいケツしてますネ」彼はそのスラブ美人の腰を掴み、ちょうど目の前になるように立たせ、成熟したヒップラインを強調するデザインのスカートを両手で撫で回す。
 「は……あ……」カスパー主任オペレーターは吐息を漏らしながら、されるがままになるばかりか、男の指が膝丈のスカートの上から桃尻をこね上げるとくりくりとお尻を振ってしまっていた。
 「サツキはひとりで暗い道を歩かないようにするんだヨ。男につけられて狭いところで後ろからヤられちゃいますからネ」
 「そんな……コト……」ぽっと目尻を染めてサツキは首を振る。「そんなぁ……後ろから、顔も見えないまま……」彼女はその妄想に陶酔しきっているようだった。
 「サァ」にやりと笑い、男は自身の膝をぽんと叩く。サツキはなんのためらいもなく、クリスに密着した。
 「ヨシヨシ、いい子ですね」軽々とサツキは持ち上げられ、目の前のマヤと同じ姿勢を取らされる。
 男の股間に深く腰を下ろしてタイトなスカートを腰までずりあげ、ココナツ色のパンティーストッキングと下着が丸見えになる恥ずかしい開脚着座姿勢に。
 「碇サン、いまからそのドールの『操作方法』を教えてあげマス。ワタシがこのドールにするのと同じようにしてくださいネ」
 クリスがシンジに微笑みかけた。
 大井サツキは酔ったような、幸福そうなとろんとした表情のまま、クリスの胸に身体を預ける。
 アスカは気が遠くなりそうだった。

 ……そんな、みんな……どうしちゃったの?こんなの、こんなの、ヘンよ!おかしいよ……。
 しかしアスカは声を上げることもできない。熱を持ったように頬を赤く染め、喉をからからにして見守ることしかできないのだった。

 「さ、碇サン、まずはドールをもっといい声で鳴かせましょうネ。こんな感じで」
 「ああ……ン」サツキが切ない悲鳴を上げる。
 「あぁ、ああ……んふぅぅッ」続いてマヤも叫び声を上げた。
 クリスの指がサツキの量感のある乳房を、少し遅れてシンジの指がマヤの柔らかな胸を揉みしだきはじめたのだった。
 マヤもサツキも男の指で乱暴に膨らみのかたちを変えられつつ、衣服の上から先端をごりごりと刺激されていた。
 「このドールたちはですね、意地悪にしてあげるといいんですよ」クリスが指を鉤爪のかたちにした。ぐいと力を込める。
 「ひぃん!」サツキが唇を噛みしめる。
 「お、おおぉ……」マヤが鳴いた。
 しかし彼女たちは抵抗しない。それどころか男の剛棒に押しつけた腰をうごめかせ、男達にもっともっとと無言のおねだりをはじめる始末だった。
 サツキのハイネックのカットソーが、マヤのカーディガンとキャミソールが脱がされ、下着が剥ぎ取られる。しかし二人は逆らわない。ただおとなしく人形のように衣装を剥ぎ取られていく。
 こりこりと両乳首をいじりまわされると二体の人形はひどく甘い色に染めた調べを……耳にした者を……男も女も……さらに淫らさせる調べを……奏でるのだった。
 「イイですねぇ、碇さん。上手ですよ。マヤがイイ声で鳴いてます」クリスがにやにやと笑っている。マヤのとろけるように柔らかな膨らみをぎゅっと絞り上げ、親指と人差し指でその先端の蕾をダイヤルを回すようにいじっていたシンジもつり込まれるように笑った。
 「じゃ、次はスベスベの肌をいじって遊びましょうか」
 クリスとシンジの指が、それぞれの女体の上を這っていく。マヤとサツキの淫歌のオクターブがしだいに高くなった。
 「イイ手触りでしょ?」クリスがシンジに笑いかけた。「たっぷりナカダシしてあげた後に、アナから溢れたザーメンをたっぷりすり込んであげると、こんなに良くなるんですヨ」

 アスカは震えが止まらない。足下が沈み込むような感覚すらあった。
 ……どうして、どうしてこんなことに。
 阿賀野カエデと最上アオイをすがるような表情で見つめてしまう。
 ……笑って……る。楽しそうに……そんな。
 カエデとアオイは空いているソファーに腰を下ろし、唇を笑みのかたちにしてクリスとシンジを観察していた。
 時折お互いになにかをささやき、くすくすと笑いながら。
 その二人の視線がアスカのそれと交わった。
 「うそ……うそ……」
 もうじき碇・アスカになる彼女は、少女のように震えることしかできない。

 「あ、あ……シンジくぅ……ん。素敵……いやらしい指、感じちゃう」マヤが感極まった声を上げている。ときに戦略兵器に匹敵する破壊力を持つシステムを操り、ときにチェロを奏でる繊細な指が好奇心のままに、そして酷薄なまでのアドバイスに従って残酷に彼女の肌を愛撫すると、伊吹マヤは純粋な快楽に支配されてしまうのだ。
 目の前に碇シンジの婚約者が立ちつくしていることも気にならない。
 聡明で勇敢で美しい彼女にどんなに軽蔑されることになるかも気にならない。
 伊吹マヤはどろりとした笑みを浮かべ、アスカを見つめながらよがり声を上げはじめる。
 「シンジ君!シンジ君!ああ!上手!すごく気持ちいいわ」
 マヤは部屋中に響き渡る声を上げはじめる。
 「あ、あ、あ、あ……」大井サツキも恥知らずなうめきを響かせている。普段は物静かな女性がぐらぐらとロングヘアーを乱しながら泣き叫んでいるのだ。
 「じゃ、そろそろ『ペニスの孔』をいじってあげましょうネ」
 熱に浮かされたようにシンジはうなずく。
 「じゃ、ワタシのやるとおりにしてくださいネ、まず、ドールのアナをいじるユビは人差し指と中指の二本です。イイですね?」
 アスカがはっと息を呑む。そろえて突き出された二本の指、それはアスカが肉洞に納めたことのあるペニスよりもずっと太いのだ。
 クリスは指をにちにちと動かすとシンジは黙ったままうなずき、それは婚約者をますます絶望させる。
 「指はですね、ここから入れるんですよ」
 アスカに勝るとも劣らない白い肌、その肌がピンクに染まるお腹のあたりを二本の指はとことこと進み、おへそを軽くくすぐってからウエストのゴムをくぐった。
 「あ、あはぁッ……あ……」サツキは期待に満ちあふれた表情で、男の手が自分のショーツへ侵入していくさまを見つめている。
 「ホラ、碇サンも」促されたシンジもマヤの白いショーツの中へと手を忍ばせた。
 「あ……うれしぃ……シンジくん……」
 息を荒げてマヤの下腹部をまさぐっていたシンジの表情が強ばった。
 「気が付きましたか?」にんまりとするクリス。
 「そんな……マヤ……さん」
 「そうですよ、碇さん。なんといっても『ドール』ですからね」
 「あっ!ああっ!シンジ君!ああぁっ!い、いッ!そ、そんな……は、激しいのは……あッ!」
 シンジの右手がぐい、と動いた。
 マヤの肢体が反り返る。涙と涎をこぼしながらがくがくと全身を震わせる。
 マヤの下腹部からくちゅくちゅとぬるま湯を掻き回すような音が聞こえ始めた。
 「マヤさん、マヤさんって……こんなに、こんなに……」
 シンジはうわごとのようにつぶやきながらショーツの中の指を動かしていた。それは婚約者を愛するときにはけっしてしないような激しい指遣いだった。
 「おお、碇さん、マヤのアナ、暖かくてキツくて、ぬるぬるしていいでしょ?」
 ショーツの中の動きがさらに激しくなり、マヤの声がさらに高く細くなった。
 それが碇シンジの答えだった。
 クリスはにっこりと微笑み、さらにその視線がアスカへ向けられる。
 「カエデ、アオイ、マヤとサツキの下着を脱がせてあげなさい」
 ああ、と二体の人形が悲痛な叫びをあげ、見学の二人はくすくす笑いながらソファーからたちあがるとそれぞれマヤとサツキの足下にひざまずいた。
 「ほら、サツキ、そんな格好じゃストッキングがダメになっちゃうわ」アオイは落ち着いた口調でそう言うと、サツキの大きく広げられた脚をぎゅっと閉じさせる」
 「う、ふぅぅぅッ」サツキのグレーの瞳が見開かれた。脚を閉じたことで、蜜壺を蹂躙するクリスの指が与える刺激がさらに強くなってしまったのだ。
 「じっとしてるのよ。サツキ」アオイがつぶやきながらくるりとストッキングとぐずぐずに濡れたショーツを長い脚から抜き出しているあいだ、サツキは涎をこぼしながら全身を痙攣させ、クリスが与えてくれる快美感でどろどろにされていた。
 一方、マヤの足下に膝をついたカエデはすぐには彼女の下着を下ろそうとしなかった。
 マヤの大親友である彼女は興味津々の眼差しで、ぐねぐねとマヤのショーツの中を動き回るシンジの指を観察してから、
 「ほら、マヤ、もっといじってほしいでしょ?もっと泡立つぐらいずぶずぶしてほしいでしょお?」と微笑みながらたずねるのだ。
 そうして、マヤが息を絶え絶えにしながらも「うん!うん!そうなの!もっと、もっとシンジ君に玩具にされたいの!」と叫ぶのを聞くと、彼女に腰を浮かせるように笑顔で命じるのだ。
 さらに「すっごーい、マヤのパンツ、すごくエロい匂いしてるわ。それに信じられないくらいベタベタ」と部屋中のみなに聞こえるように指摘して、マヤの意識を白熱させるのだ。

 だから、惣流・アスカ・ラングレーはそれを見てしまう。
 伊吹マヤを指姦しようとしたシンジと同様の衝撃を味わうことになる。
 「ほーら、ぬげまちたよー。マヤちゃん」ニコニコしながらカエデがショーツを剥ぎ取ったマヤの下腹部にも、「ぐちゅぐちゅ凄いオトさせてるわね、サツキ。オシッコ漏らしてない?」と冷静にアオイに尋ねられつつストッキングを抜き取られたサツキの下腹部にも、成人女性ならあるべき飾り毛が存在していなかったのだ。
 あるのはわずかなカミソリの跡だけ。
 ふたりの成熟した女性は、つるつるの下腹部に媚粘膜をひくつかせて男の指を挿入されていたのだった。
 彼女たちは、幼女のように一切の翳りのない脚と脚の付け根から愛蜜をしたたらせ、あさましい声を張り上げていたのだった。

 ……「ドール」なんだ。
 アスカは絶望していた。
 ……マヤも、サツキも……「彼」に変えられちゃったんだ。恥ずかしいことが大好きな、ケモノみたいな「ドール」に。
 恥ずかしいトコの毛も剃られて……つまり、なにもかもが「彼」の所有物にされてしまったんだ。
 きっと、きっと、アオイもカエデも……そう。
 「彼」がここに来たときから、こうなることが分かってたんだ……。
 アスカは恐怖する。
 しかし、同時に、どこか完備で、切ない感情を抱きつつあることを無意識のうちに理解していた。

 アスカが立ちつくすなか、指によるセックスで伊吹マヤと大井サツキはなんども絶頂を迎えさせられた。
 クリスの「指導」により、マヤのGスポットを探り当てたシンジは人差し指と中指の腹で交互にマヤを残酷に高みへと何度も何度も連れて行った。
 そのあいだも空いた左手で小振りの乳房の先端をぎりぎりと弄び、泣き悶えるマヤの唇と舌を蹂躙した。
 それは、アスカにとって初めて見る光景だった。
 いままで「なにか」するときには必ずひとこと断ってからの愛撫があたりまえだった碇シンジが、呼吸を荒くしたまま乱暴に、強引に、自らの欲望と好奇心のままに女性を弄んでいるのだ。
 それも、婚約者の目の前で、信頼をまったく裏切るかたちで。
 普通なら激怒すべき情景のはずだった。
 しかし、アスカはただ怯え、歯を鳴らしながら見つめることしかできない。
 逃げることもできず、ただ立ちつくすことしかできない。
 「あ、ああっ、うぅン」痙攣の後にサツキは股間から間欠的な飛沫をしぶかせた。十数回にも及ぶ強制的な絶頂を迎えさせられた彼女はそのままずるずると絨毯の上へ崩れ落ちる。
 「碇さん、こうやっていっぱいいっぱいイかせておいて、全身が敏感になったところでペニスをハメてやるんですヨ。そうすれば、この『ドール』たちはもっともっとキレイになるんですヨ」
 シンジはうなずくと、かちんかちんに前を膨らませたジーンズを剥ぎ取らんばかりに脱ぎ捨てる。
 美しく、親しく、淡い好意を持っていた女性をいままで膝の上で快楽に泣かせていたシンジの心から、美しく気高い婚約者の事はもはや抜け落ちてしまっているようだった。
 ただもう、いきり立つペニスを美しく愛らしく淫靡な人形の孔に入れてやることしか考えられないようだった。
 クリスの口元がにやりと歪む。
 「さ、アスカ、来なさい」
 どきん、と心臓が高鳴った。恐怖で全身が震えはじめる。
 「いや、いやよ……そんなの……や」
 「どうして?」
 「なぜなの?」
 カエデとアオイがいつのまにかアスカの隣に立っていた。そっと手を……いや指先を軽く握られる。
 「さぁ」
 「いらっしゃい」
 軽く引かれた。
 「あ……」アスカは足を踏み出してしまう。手を振り払うこともなく、その場に脚を踏ん張ることもせず。
 そうするだけで二人から手を振りほどくことができるというのに。
 それが分かっているというのに。
 しかし、アスカはクリスの前へと脚を進めてしまう。
 そうしてクリスにひょいと抱き寄せられてしまう。
 圧倒的な質量感と牡の匂いにアスカは圧倒される。
 もがいてもそのまま絡みとられ、唇を奪われた。
 そのまま舌に侵入されそうになり、死にものぐるいでぎゅっと歯を食いしばる。
 しかし歯列を舐め回され、おぞましさに頭の芯までぼぅっとしたところで、尻を軽く叩かれた。
 子犬のような悲鳴を上げたところでぬるりとクリスの舌が入り込み、口蓋をでろでろと舐められ、ついには舌を絡ませての濃厚接吻に持ち込まれる。
 彼女のくぐもった声は、もはや睦言にしか聞こえない。
 そのまま無理矢理アスカは男のヤニ臭い唾液を飲まされる。
 ちゅっ、ちゅっ、と軽いキスで意表を突いてから、強烈に舌を吸い出され、びっくりするほど長いクリスの舌に付け根まで舐め回される。
 婚約者と伊吹マヤが濃厚なペッティングをかわすさまを見せつけられながら、アスカはシンジ以外許したことのない唇を蹂躙されるのだった。
 シンジが苦労しながらブリーフを脱ぎ、先走り汁で湯気が立ちそうなペニスを露わにすると、マヤが鼻を鳴らしつつそれにむしゃぶりつくさまを見せつけられているとき、アスカは全身にキスを浴びながらエプロンと制服を剥ぎ取られていた。
 マヤの奉仕に我慢できなくなったシンジがその喉奥に発射しても、彼女がうっとりとした顔のままこくこくと喉を鳴らし、最後に白い粘液を絡みつかせた舌で自分の唇をうっとりと舐めるさまを、すぐ向かいのソファーで半裸にされつつアスカは見せつけられるのだ。
 そうして、アスカをシルクの下着だけ剥いてから、クリスは悠然とアスカの婚約者に呼びかける。
 「碇さん、それじゃ、ワタシの『ドール』とあなたのを取りかえっこしましょうか」
 伊吹マヤの肉壺に碇シンジが忘我の表情でペニスをゆるゆると突き入れたところで尋ねるのだ。
 子猫のような甘え声を上げて、シンジにまたがったマヤがしっとりとした肌をすり寄せながらしがみつく状態で確認を取るのだ。
 碇シンジが拒否できるわけなどなかった。
 極上の美少女と愛を育んできたとはいえ、肉の交わりについてはまだ幼いといっていい関係しか維持できていなかった彼が、剥き出しの快楽に曝されて抵抗できるわけなどないのだった。
 無言のまま、腰を振りはじめるシンジにクリスは「オーケィ!ではこっちも始めましょうか」と陽気に叫ぶのだ。

 自分が、いやシンジも含めて罠に落ちたことを理解したアスカが抵抗を試み始めた。
 しかしそれも、クリスにとっては前戯にすぎないのだった。



◆ ◆ ◆



 「見て、見て、シンジくん」ひくひくと彼の肉茎を締め付けながら、マヤがうっとりと言う。
 「クリスが、新参の『ドール』にお情けをあげるところよ」
 そこには無惨な姿の惣流・アスカ・ラングレーがいた。
 全身を汗で濡らし、口元から白濁液をこぼしている彼女は、こどものように下半身を抱え上げられ、屹立するクリスの男根に色素の沈殿も、変形もない淑やかな花園をぐりぐりと押しつけられているのだった。
 「ああ……すてき」マヤは微笑んでいる。「シンジ君のこれしか知らないアスカが、クリスのあれを銜えさせられちゃうなんて。彼女、泣き叫ぶのよ。どんなに事前にほぐしてもらっていてもだめ。あれが入ってくるとどんな女も泣き叫ぶの。ああ、彼女どんな悲鳴を上げるのかしら……あ……あはぁっ」
 マヤの瞳が虚ろになり、全身が震える。
 「あ、あたし……」マヤは痙攣しながら虚ろに笑った。「考えただけでもイっちゃったぁ……あ、ああぁ!出てる!シンジ君のがびゅるびゅる……ひ、ひはぁッ」
 だがそれは碇シンジも同罪だった。
 美しい婚約者が獣のような巨人に調教されるさまを目前にして、彼は自分にすべてを捧げる柔らかで温かな人形に欲望をぶつけることを選択してしまったのだから。

 そして、彼らのすぐ前で、惣流・アスカ・ラングレーという女神が性奴へと堕とされる。
 「い、いや、そんな大きいモノ、入らない……ダメ……助けて……シンジ!シンジ!あ、あ、あ、お、ぉぉおおおお……」
 じわじわと彼女のなかにペニスが埋没されていく。
 アスカの涙ながらの懇願は自らの獣じみた声でかき消えた。極太の凶器を胎内へゆっくりと挿入されていくうちに彼女の思考は真っ白になっていた。
 「まぁ、アスカのオナカにクリスのかたちが」アオイが感極まった声でつぶやく。アスカの胎内へと突貫するクリスの性器は、それほどまでに巨大だったのだ。
 だが、巨漢はそのままゆっくりとアスカの身体を下ろしていく。紅茶色の髪を振り乱し、泣きながら慈悲を乞う声に一顧もせずに、ずぶずぶと彼女を肉欲地獄へと沈めていく。
 そして、アスカの真っ白なヒップが男の睾丸に密着する姿勢に達すると、にやりと笑って彼女の腰をゆさゆさと揺さぶってやる。
 目の奥で火花を散らし、「ひん!」と甲高い声を上げながら涙を飛び散らせるクォーター美女を前後左右に揺さぶり、自称花嫁修行中の美女の締め付けと熱さを心ゆくまで愉しむのだ。
 三〇分近くゆすり続け、アスカの全身の力が抜けてしまうと、つぎは腰の上でぐるりと彼女の身体を回して対面座位とする。
 そうしてぎゅっと抱きしめ、同時にずんずんと無慈悲に突き上げてやりながら、もうじき花嫁となる少女の面影をもつ美女が、ただの牝の表情になっていくさまをじっくり鑑賞する。
 美乳に育った胸をじっくりといたぶって苦痛と快楽の境界をおぼろにしてやり、無防備な尻穴を後ろからくじって泣きわめかせてやる。
 柔らかですべらかな抱き心地を堪能しつつピストンを続け、さらに甘い吐息を漏らす唇をたっぷりと蹂躙した。

 碇シンジがマヤの胎内に四回目の放出をする頃には、惣流・アスカ・ラングレーの表情から知性も理性も、勝ち気な気性もすべて消え失せていた。
 そこにあるのは美しい人形だった。
 快楽にだらしなく表情を歪ませて、「あ、ああ、くりとりす、くりとりすぐりぐりするとイイのぉ」と、「あ、ああ、そこ、そこを突かれるとアスカ気持ちいいですぅ!」と聞くのも恥ずかしい台詞を美しい唇からほとばしらせるセックス玩具だった。
 そうなってしまったところに、最後の一撃が与えられる。
 婚約者の碇シンジですらまだ汚したことのないアスカの子宮へ、クリスはたっぷりと精子を注ぎ込んでやった。
 それも快楽で惚けているアスカの頬を軽く叩き、ほつれ毛を頬に張り付かせた表情を無理矢理こちらに向かせてから「アスカ、いまから出してあげるからネ」と宣言し、どんよりとした彼女の瞳に理解の色が浮かぶまで待ってから、引き金を引いてやるのだ。
 絶望と恐怖の悲鳴を上げつつ、灼熱の雄汁が子宮を満たしていく幸福をたっぷりと味合わせてやるのだ。

 満足げに溜め息をついてからずるりとクリスはペニスを引き抜き立ち上がる。
 ぐったりとソファーに横たわるアスカの口元に、無言のまま硬度を失わない凶器を突きつける。
 軽く頬を平手打ちする。
 「セックスが終わったら、オクチで奉仕するんダ」髪の毛を掴んで揺さぶられると、海色の瞳に涙を浮かべながら、もうすぐ碇アスカとなる女性は唾液を舌にのせて熱心にそれをねぶり始めた。
 自分の体液と精液のこびりついた肉棒を、甘い吐息を漏らしながら奉仕しはじめる。
 買ったばかりのラブソファーに股間からしたたっていた樹液を、同僚の、いや先輩人形に言われるがまま指ですくい取り、自身の大理石のような肌に塗りつけながら、フィアンセのことなどすっかり忘れてフェラチオ奉仕に没頭するのだ。



◆ ◆ ◆



 「シンジ君、シンジ君」
 碇シンジは浅い眠りから引き戻された。
 ぼんやりとしたまま首を振る。
 記憶がよみがえり、青ざめる。
 彼は裸ではなかった。乱交前と同様のジーンズにTシャツ姿だった。
 「目が覚めた?」彼を揺すっていたのは阿賀野カエデだった。
 「もう朝よ。ずいぶんお疲れだったわね」栗色のショートカットを左手で直しつつ、カエデは微笑んだ。
 シンジはリビング内を見回した。彼女はいない。
 彼が愛を誓い、そして先ほど裏切ってしまった相手はいなかった。動悸が速くなる。
 「あの!あの……アスカは?」
 「それなんだけど……提案があるの」カエデは振り返る。「サツキ!アオイ!」
 その声に呼ばれ、三人の人影が隣室から現れた。
 サツキとアオイ、そしてマヤだった。
 「マヤ……さん?」二人に挟まれて現れたマヤは黒い首輪を身につけ、それはアオイの手にした鎖につながっていた。
 「アスカなんだけど……クリスがあと数日『貸して』ほしいんですって」アオイが言った。
 「『もう少し磨き上げて、生意気なところや、自分だけ気持ちが良くなりたがるところを矯正したい』そうよ」サツキが続けた。
 「でも、でも、アスカは?アスカはそんなこと承知するはずなんて……」
 「はい。これ」サツキが携帯電話を手渡す。それには一件のメッセージが入っていた。シンジは携帯を耳に当てた。

 「お願い!お願い!連れてって!このままにしないで、このままじゃ、このままじゃ、アタシ、アタシ……」
 受話器の向こうで泣いていたのはシンジの婚約者だった。
 「は、はい。言います。言います……」すすり泣きながらアスカは続けた。「あのね、あのね、シンジ、あのね、アタシ、さっきからずっと……イかせてもらえないの。あ、あの、ペニスで、クリトリスを『しゅっしゅっ』ってコスられたまま、胸を悪戯されて、ディープキスされてるけど……イれて、イれてくれないのぉ」
 シンジは唖然とするしかない。たった一度のセックスだけで、あのアスカが虜にされるようなことなどあるのだろうか。
 その表情を読み取ったのか、アオイは気の毒そうな、しかしどこか優越感を含んだ口調で言った。
 「あれからね、アスカは一度もイかせてもらえなかったの。指と唇で死ぬほど感じさせられて、ペニスでの悦びを教えてもらったあと、ずーっと生殺し」
 「……クリスったら、クリスったら、ひどいんだよ、アタシにあんな気持ちいいコト教え込んだくせに、『もう一回』って言ってもシてくれないんだよ」アオイの言葉を裏付けるように、留守番電話のなかのアスカの声は駄々っ子のようだった。
 「ずーっとペッティングと『スマタ』ばっかり。アレを四時間以上も続けられたんだもの。麻薬を打たれちゃうより辛いかもね」サツキがうっとりとした口調で言った。「それにアスカちゃん、オナニーもあんまりしないコだったから」
 「……だから、だから、クリスのアパートでなら続きをしてくれるっていうの。だから、だから……だって、だって!もう我慢、ガマンできないんだもん!ぶっといチンポ、欲しいんだもん!」
 そこでメッセージは終わっていた。

 「そ、そんな……」
 「圧倒的な快楽に押し流された可哀想なアスカちゃんは、『旦那サマに可愛がってもらって満足する』という選択肢を思いつかなかったみたいね」カエデがにっこり笑う。「せっかくだから、クリスにしっかり躾けてもらいなさい。『従順で貞淑な娼婦』に。そう、こんな風にね」
 そう言ってカエデはマヤのお尻をぽんと叩いた。
 「あ……」震えながらゆっくりと伊吹マヤは膝を折った。そして踵を付けたまま大きく膝を緩めた姿勢を取る。
 あっ、と声を上げたのは今度はシンジだった。マヤはシンジにそのスカートの中が見える姿勢をみずから取っていたのだった。
 そしてマヤは下着を着けていなかった。シンジの視線には無毛ながらもきらきらと蜜を滲ませる粘膜が丸見えだった。
 うっとりとした表情でシンジを見上げながら、彼女ははっきりとこう言ったのだ。
 「わたくし、わたくし伊吹マヤは、碇シンジさまの婚約者の代わりとして、身も心も捧げることを誓います」はぁっとマヤは吐息を漏らした。「新妻として、旦那様の身の回りのお世話から、その性欲のはけ口として利用ください。どのようなご要望にも従います……」
 ふふっとカエデが笑った。「マヤってお料理上手だし、家事も得意で、そのうえとっても従順で素直なのよ。ひょっとしたらアスカちゃんよりいいお嫁さんかも」
 「それに」お嫁さん、という言葉に反応して少女のように頬を染めるマヤを見下ろしながらサツキは言った。「マヤはマゾだから、どんな恥ずかしい命令でも聞くわよ。たとえば……『コンパの席に呼び出してストリップ&まな板ショー』とか」
 ああ、とマヤが感極まった声を上げる。デニムのスカートの奥がはやくも洪水になっていることにシンジは気が付いた。
 「それとも、どこかのスワッピングパーティにマヤを提供するのも素敵かも。アスカちゃんが『返却』されたときにテクニックを発揮できるようにね」アオイがメガネを光らせながら提案する。それだけでマヤはぶるっと全身を震わせてしまっていた。
 「そうよ」アオイが言った。「これは双方の同意が必要なの。アスカちゃんと、貴方と。アスカちゃんが同意すればクリスのチンポが与えられ、あなたが同意すれば……」彼女は軽く鎖を引いた。マヤが「ひっ」と悲鳴を上げる。「この奴隷妻が貸し与えられるわ。さぁ……決めて」

 碇シンジの前にリードが差し出される。



◆ ◆ ◆



 数分後、伊吹マヤ、いや「碇」マヤは靴下と首輪以外のものを脱ぐよう命じられた。

 さらに数分後、靴下と首輪に、小さなエプロンだけを身につけた碇マヤはキッチンで後ろから碇シンジとセックスをしていた。
 その表情に悦びの色を浮かべ。
 その声に悦びの調べをのせて。


【to be continued】





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Original text:FOXさん
From:エロ文投下用、思いつきネタスレ(3)