ボクのヒミツたいけん


Scene.40 Another
Original text:引き気味


「なぁ」
 何度も払いのけられた手を性懲りもなくレイの肩に伸ばして、ここではフォースチルドレンの肩書きを持つ彼、鈴原トウジが食い下がった。
「自分、シンジの彼女とちゃうんか?」
「…………。それは……」

 鉄壁の防御かと思われた彼女のつれなさ。それを突破して、はじめてまともな反応を引き出した。
 綾波レイの渋面から、最終的には『……分かったわ』の一言を引き出すことになる。
 その取っかかりがこの台詞だったのは間違い無い。
 ―― そう。碇シンジの恋人の座にいるのは、綾波レイなのだ。あのセカンドの少女、惣流・アスカ・ラングレーでもなく、ましてや洞木ヒカリなどでもなく。
 そうして、そういった女の子にとっての譲れない一点こそが、いつもいつも彼女たちという本来とても用心深い生き物を、どうしようもなく愚かにさせてしまうのである。


◆ ◆ ◆


 骨組みだけの構造物が摩天楼のようにそびえる間を、それこそ天からの階段(きざはし)のように上り下り二本のエスカレーターが延々と彼方まで伸びていく。
 異様なまでの全長を誇るネルフ名物、本部幹道大エスカレーター。
 しかしこれも、セキュリティレベルが比較的に低かった階層を通り越してしまうと寂しいものだ。
 それこそE計画にまつわる人間の用事があるようなエリアともなれば、利用者は極限まで減少する。
 施設の巨大さなど、かえって人気の無さを強調するばかりになってしまう。
 つまり、四方に上下を加えての見渡す限りにおいて、学校の体育館何個分だろうかというこのだだっ広い空間にいるのが現在、レイとトウジの二人きり。
 それが良くなかった。
 今、ここでならと考えたのだろう。
 レイは強引に迫られていた。
 女の子を口説くというには内容は支離滅裂。なにか思案や準備を今日まで重ねてきた上でこの機を捉え行動に出たというわけではなさそうな、多分に衝動的にであっただろうことが容易に見て取れる。
 しかも言葉を連ねながらも視線は落ち着き無くアルビノの美少女、壱中帰りで直行してきたレイの半袖の袖口や赤いリボンで括られた襟元を這い回り、白い素肌―― その制服に隠された部分をまで盗み見ようと隙を窺っているのだった。
 目は血走っていて、あきらかに冷静さをどこかへ放り投げてしまっている。
 この少年が近頃とみにそういった目付きで自分を眺めてきていたことに、レイは気付いていた。
 気付けるようになっていた。
 碇シンジと恋人として交際しはじめてからだ。学校の少年たちが向けてくるこういった視線がどんな意味を持っているのかが、よく分かるようになっていた。
 敏感にもなっていた。
 だからはっきり言えば不快だったのだ。
 要するにトウジに元から目は無く、それでたいした戦略も携えずに、この愛想というものが無いにも程がある少女を口説こうなどと、どだい無理な話だったのだが。
 その筈だったのだが――

「知っとるんやろ? シンジのやつ、ワシに断りもなく惣流に手ぇ出しよって」 
 憤懣やるかたない。そんな口ぶりで言い募ってみせるのは、ずいぶんと勝手な台詞。
 当のアスカが聞けば何時自分はアンタのものになったのだと柳眉を逆立てそうなものだ。
 が、トウジはあくまで正当な権利者として自分は不服を申し立てる資格があるのだと、そういう態度を通した。
「あなたと交際しているのは……」
 洞木ヒカリ、だったのではないか?
 ぐいっと肩から振り返らされたレイは、顰めっ面でそう訊き返した。
 シンジから聞いた話である。
「そや。ワシは委員長と付き合ぅとる」
 せやけどな? と、レイの言葉に頷いておきながら、トウジは更に続けてこう言ってのけたのだ。
「惣流かてワシの女やで? こっちはいわゆる、セフレっちゅうやつや」
「セフレ……?」
「セックス、フレンドいうてな……。つまり、つまりや……。ああもう! 要するにや、シンジが好きに手ぇ出したらあかんオナゴやっちゅう話や。それにな? シンジは委員長とも寝とんのやで!?」
「…………」
 ―― どない落とし前付けてくれんねん。
 臆面もなく、中途半端な関西弁で口にするそれは、完全にヤクザの理屈というやつだった。
 もっとも所詮、中学2年生のトウジ。いくら凄んで見せたところでチンピラ程度にも格好はついていなかったし、ましてその鼻息の荒さも、少年の目がレイのどこに向けられているのか容易に辿れた先を踏まえれば、ますます格好の付かない、馬鹿の見本みたいなもの。分不相応な欲望を抱いたそのままに、レイの非現実感さえ漂わせるガラス質の美貌を蹂躙したいと舌なめずりしている、助平ガキでしかない。
「な? 綾波ぃ」
 言葉に詰まったレイにチャンスと思い上がったのだろう。
 トウジはここで行動に出た。
 強引にレイの躰をたぐり寄せ、背中から両腕の中に抱き包んだのである。
「…………!」
 放して、と少女は当然抗った。
 ただ位置関係が悪かった。
 二人はエスカレーターに乗っていて、レイはジャージの少年の前。つまるところが、一段低い場所に立っていた。
 不利なポジショニングだ。
 上から覆い被さるトウジは体重を味方にしてレイを押さえつけることが出来たのに対して、レイは下から彼を跳ね退けるのに純粋な腕力ではなく、訓練によって培った技術を使わねばならない場面だった。 
 しかしこの時、氷の鉄面皮娘こと綾波レイは珍しく動揺してしまっていた。
 強引に事を成そうとする意図も露わなトウジに、恋人を持つ少女としてそれが起きてはならない過ちだと理解できるようになっていたレイは、ちゃんと身の危機を覚えてはいたのだが。

(落とし前……。碇くんが、彼の恋人を……?)
 人間関係における貸し借りとは、単純に一の損失を一でもって贖うというようなものではない。
 それが義務とされるものでもない。
 一という価値を決める物差しからして、単純に質、量からの換算でなどという話ではないし、もっとあやふやで、ケースによって幾らでも変わるものだ。
 それにこの場合、そもそもトウジの主張する「シンジの作った借りをレイが返せ」という理屈自体、事の経緯をもっと深く捉えていれば成り立つはずが無い分かる、詐欺のようなもの。
 けれどそれはレイにはまだ難しい話だった。
 地下のネルフで半ば実験動物のようにずっと育てられてきたこの少女には、まだまだ判断の難しい問題だった。
 回答を見付ける手がかりは、それ以外に時間の潰し方を知らなかった書物の乱読の中に、かろうじていくつか思い当たる記述があったぐらい。
 レイにはそれを表面的になぞる考え方しか思い浮かばない。
 だから少女は、恋人の作った負い目を埋めるのが彼女の、シンジの恋人としての義務だという理屈に道理を見てしまった。
 恋人だからこそという理屈には、甘いロマンティシズムのような感覚さえ覚えてしまった。
(わたしは……、わたしが、碇くんの恋人だもの)
 シンジに代わって負債を購う義務を果たすのなら、まさしくこれが恋人である証になる。
 セカンドチルドレンの少女にも、洞木ヒカリにも出来ないことだ。
 そんな、客観的にはなんとも愚かしい考え方に囚われたからこそ、隙を作ってしまったのである。
 鈴原トウジに。この歳で思いも寄らぬ幸運に恵まれてクラスメイトの女の子二人とのセックスを経験し、他の少女を見る目付きも一変してしまったヤリたい盛りの少年の、その前に。

「……あっ!?」
 胸をまさぐられた。
 制服の上から這い回った二つの手のひらが、まず壱中制服のベスト越しにその柔らかな双丘の存在を確かめるようにし、そしてすぐに、前の合わせの間から両手首を交差させてそれぞれ深くに、内側へと入り込んだ。
 背後から抱きしめるトウジの回した右手によってレイの左の乳房が持ち上げられ、それと同期した左手によって右の乳房がベストの内側から掘り出される。
「うほっ。やわっこいのぅ〜」
「あなた、なにを……!」
「何をもヘチマもあらへんやろ? まずはオッパイ揉ませてぇ〜な。ほれ、モミモミしたるさかい、力抜かんかい」
「……っあ、やめ……てっ」
 華奢な両肩からずり下がったベストは、そのままレイの上腕の動きを阻害する拘束衣へと変貌した。
 手慣れた動きである。
 それも当然。鈴原トウジは壱中の制服を着た女の子相手に淫行に耽るのには、既に一家言を持つといっていい経験を持つ。
 洞木ヒカリと何度もやっているように、乳房を揉み上げる動き自体でベストを脱がしていく。するするっと、レイの肘を巻き込んで腰の辺りまで落ちるようにしてしまう。
 乳首の位置を簡単に突き止められてしまって、より切実になった貞操の危機でもがきはじめた彼女の動きを、更に不自由にさせるために。
 トウジとの肉体関係に抵抗感を捨てきれずにいるアスカ相手で覚えたやり口だ。
 ついでに、次から次へと愛撫のステップをあげていって、乗り気でない女の子をパニックへと追いやっていく手も、そのアスカを何度も何度もSMめいたプレイで犯し抜く日々から身に付けた、トウジなりのセックスの作法だった。
「ん〜? 綾波の乳首、ひょっとしてもう硬くなっとるのとちゃう?」
「そんな、こと……っ」
「もしかして……わしのモミモミで、シンジのモミモミ思い出したんか? 似とっても不思議やあらへんからなぁ〜。なんせほら、シンジにセックス教えたんわ、ワシの委員長やからな」
 つまりは、自分のテクニックの真似事をシンジはしていたのだと。そうニヤニヤする。
「こういうの何やろな。間接キッスならぬ、間接モミモミっちゅうんか? 自分、実はシンジにやなくて、人ふたり挟んで今までもワシにおっぱいモミモミされとったっちゅうことや」
「……なにを馬鹿なことを、言っているの!」
 シンジ以外に肌を許したつもりのないレイは当たり前のように憤慨するも、トウジは自分で口にした屁理屈を随分と気に入ったようだった。
「どれ、そしたら色々と確かめてやらんといかんな。なにごとも確認が大事やっちゅうしな」
「っぅッ!? だ、ダメっ。だめ、やめて……っ」
 勃起しきっていた股間のこ強ばりをわざとアピールして、レイの腰になすりつける。
 びくっとした彼女の意識がそこに集まっているうちに、するっと襟元のリボンを抜く。
 抜き取ったまま手首をひねって、丁度目の前に落ちるように放り投げる。
 自然、レイはそれを目で追ってしまう。
 その横顔を襲って、トウジはレイの唇を奪った。
―― ッ、ンーッッ!?」
 伸ばした舌先で、『……っ!?』と少女の強ばらせた唇を割り、前歯とその下の歯茎を舐める。
 入り口どまりであっても口の中などという極めてナイーブな部分を侵されたのはさぞ衝撃だったことだろう。それが怒りになって噛みつこうとしてこない内に、それで蹂躙出来るだけ蹂躙してさっと引いく。
「ぷはぁ」
「……ッ、っッ!」
 赤い瞳に涙さえうっすら浮かべて睨み付けるレイと、『ごっそさん』と悪びれもしないトウジとの口元の間。繋がった涎の糸。
 それはすぐにぷつんと切れて垂れ下がって、レイの唇の端を汚した。
「あなたは……!」
 顔をはっきり歪め、珍しく大声を上げようとしたレイが次の文句を口にする前に、キスの強奪さえも陽動にしたトウジの魔手は、失われたリボンのあった直ぐ下を起点にブラウスを駆け下り、お腹との隙間からスカートの内側に入り込んでしまっていた。
「なっ……!」
 壱中のスカートの仕様では、そこからトウジの目当てまでは些か遠い。スカートのウェスト部分の締め付けも、侵入させたトウジの手の自由な動きを邪魔してくれる。
 だから本命はもう片手。
 いつの間にかレイの胸は解放されていて、そのかわりに両腕が彼女のスカートの内側を狙っていたのだった。
 揉みしだいていた乳房を離れた左手は、お腹のところの隙間から。そして利き手である右手が、レイの腰でホックを外す。
 わずかな手間取りも見せることなく、ファスナーを下ろして中に巧みに忍び込む。
 すぐそこが、綾波レイの生太腿。そして飾りのないショーツに包まれた股間だ。
「どや〜? もう濡らしとったりは、せぇへんかいのぅ?」
「あうっ!?」
 あっという間のタッチが、レイの秘部をなぞり回した。
 濡らしてなどいない。感じているわけが、欲情している筈が無い。
 鈴原トウジ相手になど。
 しかし異様に手際の良いトウジの攻めだ。
「ほほ〜? うほほほほ、これが綾波のオメコかいの。こっちもやわやわやな。なんや、パンツの上からやと委員長や惣流と比べると薄い感じか? 綾波、こういう髪しとるんやし、下の毛ぇもやっぱ白髪なんやろなぁ。どれ、ちょいと直で触らせてんか〜?」
 股間の部分の布地が、ずいっと横にのけられる。
 これまでの攻防でスカートの中にたちこめていた微かな熱気。それがあってさえ尚ひんやりとした直の空気が、露わにされた性器を撫でた―― それを知覚する間もなく、レイの秘唇にはトウジの指先がねじ込まれていた。
「だ、だめっ。ダメだわっ。そこは、碇くんだけ……!」
 それを唇で例えれば、軽く、軽くだけ食まされたぐらい。
 しかしシンジにのみ許した膣口をすら容易く穿つことのできる至近距離。レイの体温にこれ以上なくダイレクトに指先が触れてきたのは、秘められた媚粘膜になのだ。
 レイの血の気は引き、同時に羞恥が頬を火照らせ、動転した足は太腿を大慌てで閉じ合わせながら大きく姿勢をもつれ崩れさせていた。
 すぐ後ろの、トウジの胸へと。
「あなたになんて、私はっ。……ダメっ、ッ―― !!」
「気にせんでええって。言うたろ? これも今まで間接でワシに手マンされとったのが、今日は直接やっちゅうだけや。自分もよ〜知っとる可愛がり方したるさかい、安心してアヘってればええわ」
「知らない。知らないわ! あ、あなたの言ってること、勝手なだけで……っッああぅっ!? あ、あーっ!!」
 ほころぶ気配さえ見せていなかった、レイのすっとした一本筋の亀裂を押し割って、クリトリスが押さえられてしまっていた。
 トウジの無骨な親指が腹の場所で按摩のような刺激を加えてくる。
「ほれほれ、綾波のお豆やなぁ。いきなりは無茶やからな。皮の上から可愛がったる。やけど、あんまり素直に出来んようやと、意地悪もしたるで? ちょん、ちょんって、な? な? どや〜?」
「ヒッ!? ッア、アッ!? ああっ!!」
 脅迫だった。抵抗するようなら―― と、軽く鞘を剥いて顔覗かせた秘核の先端部分に、その過敏さを泣かせる責めを加えてくる。
「大人しゅうしとるなら、良〜い案配にここのお豆、コネコネしといたるわ。どうせや、綾波もこうやってコネコネされんの、お気に入りなんやろ?」
 知っているのだぞと、自信満々に告げてくる。それは悔しいながらも事実だった。
 レイは、そうやって優しい愛撫でじわじわとクリトリスを尖らせていってもらうのが、そうやって徐々に気持ちを盛り上げていく愛撫をシンジにしてもらうのが、本当にお気に入りだったのである。
(でも……)
 それは実は、トウジのやり方だった。
 鈴原トウジのやり方で自分は気持ち良くされてしまっていたのだと、そう告げられたレイは胸が潰れそうな気分になっていたのだった。
 自分が受け入れたのはシンジだけだった筈。
(……碇くんとだから)
 自分は幸せな気持ちで、その快感を素晴らしいとセックスに喘いでいられたのだ。
 だが、違ったのだぞとこの少年がレイに言う。
 お前はずっと、碇シンジではなく鈴原トウジのセックスに気持ちいい気持ちいいと夢中になっていたのだと。
 断固として受け入れられない、拒絶すべき主張だった。
 しかし、
「……ぁ、ぁあ、あ……。あ! あっ、あっ、あっ……!」
 優しい愛撫だった。
 じわじわと快感を送り込まれて、包皮との間での摩擦でクリトリスを磨き上げられていって、レイの官能は呼び覚まされてしまっていた。
 それこそそう。
(お、同じ……なの? ほんとうに。ああ、ほんとうにこれは、碇くんと……同じ……ッ、っっ!)
 馴染みのある愛撫。お気に入りのその可愛がられ方で、強ばっているだけだった下腹部の裡には溶け出す温みが生まれだしていて、それがトウジの指を食まされているスリットにじわと潤いを沁み出させている。
 いつしかレイは、自分では立っていられなくなっていた。
 後ろのトウジに支えられながら二人してエスカレーターにしゃがみ込み、ゆっくりと下降を続ける鋼鉄の階段の真ん中、ああ、ああぁ……と、哀しい声を零しているのだった。
 ボタンを外されたブラウスの前はすっかりはだけられ、ブラジャーもずらし上げた乳房を丸出しにして。上気して常より朱の差した雪肌の中、一際目を引く両のピンク色の乳首を交互にいじられながら。
 裾の乱れきったスカートの内側に潜り込んだ手で、クチュクチュという耳に届いただけで赤面せざるをえないような羞ずかしい音がするくらい、性器をほぐされてしまって。
 このままでは本当に、シンジを裏切ってしまう。
 背中に押し当てられたトウジの硬い股間の感触を思えば、身震いするばかり。
 しかし抗おうとするための力は出てこず、真っ暗な思いが目を眩ませる。
(ああ、碇くん……)
 一つ一つの愛撫、全てがそう―― レイの知るシンジのやり方と同一のものであり、それが彼女の乙女心にザクザクと刺し傷を与えていたのだ。
「よしよし。こうしとるとなんや、普段が嘘みたいに可愛いのぅ、綾波? 顔、真っ赤やないけ。そないにわしの指は堪らんのけ? ん〜?」
「ああっ、ああぁ……」
 ほとんど完全に掌中にした格好のレイが自分の愛撫ひとつひとつで喘ぎをあげ、すっかり股間を愛液まみれにしてしまっていたことでトウジも悦に入っていたし、二人ともがもう、確信していた。
(ここでや。ヤったる、ヤったるで! すまんなぁシンジ。お前の綾波、食わせて貰うわ)
(ここで、もう……ダメなのね……)
 もぞりと中腰になって位置を変えたトウジが、手すりの壁に寄りかからせたレイの真正面に回り、スカートの中からレイの下着を引き抜いた。
「ええやろ? な? そろそろ見せてもらうで?」
「だめ……。ダメっ」
 ふるふると髪を揺らして嫌がるレイにも、ここまできたトウジが構うはずがない。
「こっちこそ駄目や―― っ、と。ほれ、ご開帳ぉ〜」
「ああっ」
 スカートを押さえようとするレイの腕をはらいのけ、めくり上げた下。トウジが目にしたのは、ガールフレンドである洞木ヒカリ、セックス奴隷にしてしまっている惣流・アスカ・ラングレーに続いて三人目になる、少女の性器だった。
 綾波レイの下腹部は先に抱いた二人より随分と血色の薄い―― 白すぎる肌をしており、それだけにピンク色の粘膜を白日の下に晒した女性器の縦溝構造はやけに生々しかった。
「おほほ。こない涎垂らしおってからに。濡れ濡れや。綾波ももう辛抱堪らんのやないけ? ……あれやな、嫌よ嫌よもっちゅうか、下の口が正直やっちゅうか」
 それに、と。
「ほんま、こっちの毛も白髪なんやなぁ」
 肌からして、雪のように白いのだ。
 ぱっと見にはまるで無毛かと見まがうヘアの薄さとくれば、なにやらもっとずっと幼い女の子を犯そうとしているような、そんな背徳感があった。
「ええわ。ゾクゾクしてくるで」
 舌なめずりをして、トウジは組み敷いた少女に顔を寄せ、迫った。
―― ええな? 犯したるで」
「……だめ。だめっ……」
 レイの返した声はひどくか細かった。
「駄目や。堪忍してやらへん。自分な、シンジのしでかした不始末の埋め合わせをせないかんのや」
「……碇くんの、洞木さんと……セカンドの分の?」
「そや。シンジの恋人やっちゅうならな」
「…………」
「恋人や言うのが間違いだっちゅうならええで? 赤の他人に責任とらすことやないもんな」
 顔をそらし、普段の彼女とは別人のように弱々しく震えていたレイは、一度だけ下からトウジの顔を見上げてきた。
 眉間に皺をよせ、涙を滲ませた赤い瞳は苦悩も露わ。
 それでも、
「…………。分かったわ……」
 と、一言。
 それが、綾波レイの、諦めなのだった。

「ッ―― !!」
 気忙しくジャージのズボンを膝まで下ろし、自分のそそり立ったペニスを構えたトウジがレイの両足の間に進めてきた腰をそのまま秘部に押し当てて体重を掛けてきた時。
 レイは呻き声をこそ堪えることが出来たが、涙が頬を伝い落ちていったのは留められなかった。
「……っぅ、ぅ、うううっ……」
「泣かんでもええんやで、綾波。この事はシンジには黙っておいてやるさかい。何も心配あらへん。そうや、二人だけの秘密や。約束したる」
「ううっ、うっ、うううっ……」
 荒い息を吐きかけられながら、膣の奥深くにまで好いたわけでもない少年のペニスを潜り込まされる。
 そうして、シンジがしてくれていたのと同じやり方で突かれて、突かれて、突かれまくって。
「ぅああアッ! アッ、アアッ!」
 気が付けば、恋人とのベッドでそうだったのと変わらない陶酔の只中、相手にしがみ付いてあられもない喘ぎをあげさせられていたから。
「碇くん……。ああっ、アッ、いかり……くんっ! ああっ、あっ、あんッ! あっ、あああーっ!!」
「っほ、おお……ぉ、綾波……。か、堪忍な、こない泣かせてもうて。堪忍、堪忍や。秘密に、……秘密にしといたるから、なっ。やから……やから、お、おおお! イクで、イクで綾波ぃ〜」
 だからレイは、絶望しながらその子宮で鈴原トウジの精液を飲み干したのだった。
 

◆ ◆ ◆


「まぁ、なんや」
 ブラウスとベストを整えたレイは、立ち上がってすっかり皺になってしまったスカートを直しているところだった。
「場所考えとらんかったのは謝るわ。頭、ぶつけて痛ぅしたりはしとらんか?」
「…………」
「は、はは。それなら良んやわ。怪我が無いのがなによりやもんな」
 一足先に自分の身繕いを済ませたトウジはさすがに決まり悪そうで、黙って背中を向けたままのレイの態度にも、さっきまでのように強気で出ようというつもりはない様子だった。

 エスカレーターはまだ底に着かず、静々と地下深くに潜り続けている。
 レイの上げた最後の悲鳴もただ飲み込むだけだったこの奈落への巨大坑道は、終始、静けさで満たされているまま。
 一時繰り広げられた少年と少女の交情の情景も、ここでは何の意味も無いというかのごとく。
 ふと我に返ってみれば、それは苦痛なくらいの静けさで、罪悪感どころかの達成感でもってぱんぱんとジャージの埃を払ったトウジにすら、なにかを口にし続けていなければと思わせるものだった。
「っちゅうかな、その、ワシ結構意外だったんやで?」
「…………」
「シンジのやつ、綾波みたいなおなご相手に思っとったより上手いことやっとったんやなぁっちゅうか。自分、随分となんや……開発されとったみたいやん?」
 こう、ぎゅ〜っとしがみ付いてきて、と。
「エロかったわぁ」
 などと惚けたことをほざくものだから、
「……ッ」
 レイはくるりと振り返って、スナップのきいた平手打ちをくれてやったのである。



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