オトメゴコロ・完結編


Original text:STさん


〜ライト版〜

画面にザーザーと砂嵐が映っている。ディスクは既に終わっているのだ。
シンジはしばらく呆然とそれを見つめ続けた。突然、自分の中にやり場のない感情が浮かび上がる。
この感情は何と言えば言いのだろう? 怒りか、恐怖か、それともとまどいか。その衝動はどんどんと膨れ上がり、このままじっとしている事などできそうになかった。

「う・・・うああーーっ!!」

頭を激しく掻き毟り、バクバクと脈打つ胸を抑えながら、シンジは部屋を飛び出した。階段を駆け下り、靴を履くのももどかしく玄関を飛び出す。道路へと出た彼は、何かを振り払うかのように走り出そうとしたが、ふと誰かに呼び止められた。

「あら、シンジ君。どうしたの慌てて」

「あ、キョウコさん・・・」

隣家に住むアスカの母親であった。

「ずいぶん急いでいるのね。デートにでも遅れそうなの?」

ほのぼのとした雰囲気で聞いてくる。

「デ、デートなんかじゃないですよ。そんなんじゃないんです。そんなんじゃ・・・」

シンジの様子に気づいたのか気づいていないのか、キョウコはホッとしたように話続ける。

「あらそう? 良かったわ。もしシンジ君が他の子とデートだなんて事になったら大変だものね。アスカをお嫁に貰ってもらえなくなっちゃうわ。あいにくアスカは出かけてるけど、今度シンジ君から誘ってあげて。やっぱり男の子の方から・・・」

コロコロと笑い話す。アスカの名前を聞いてビクリと震えたシンジの変化には気づいていないのだろうか。
脳裏に映像の中のアスカの痴態がよみがえる。再び得体の知れない感情が満ちていく。

「あら? どうしたのシンジ君・・・行っちゃった。そんなに急ぎの用事だったのかしら。でも・・・あの表情気になるわね。そろそろ良い頃かしら。ユイにも相談してみましょう」

走り去るシンジを見送りながら笑みを浮かべる。彼女はシンジのおかしな態度に気がつかないふりをしていただけのようだ。その妖艶な笑みを見たらシンジは気がついただろう。それが映像の中のアスカの表情と重なる事に。

シンジは走っている。
何故、自分は走ってるんだろう。それは分からないが、とにかくジッとしていたくなかったのだ。あのままでは自分が取り残されてしまうような気がして。誰かに縋りたかったのかもしれない。あの映像を見て確かに自分は欲望を感じていた。それを誰かにぶつけたかったのだろうか・・・。

「ハアッ、ハアッ、ハアッ・・・」

疲労が限界を超え、道端のベンチに座りこみうなだれる。体が酸素を欲しがる。そして心は答えをくれる人を求めた・・・。

「あれ、碇君じゃない。どうしたの?」

その少女はそこに現れた。




◆ ◆ ◆




月曜の朝。学生達にとって最も憂鬱な時間である。
その中で、教室に集いお喋りに興じる四人の女の子達の表情は何故か明るかった。
週末の出来事について談笑しているようだ。微笑ましい光景である。

「昨日の男達もまあまあだったわね」

そう話すアスカの顔は何故か色艶が良く、その整った顔立ちも、思い出した内容に緩んでいる。

「そうね。結構上手な人も多かったわ」

普段はアスカに同調しないレイも、今朝は機嫌が良いようで、無表情さの中にも何か艶が混じっている。

「疲れたけど、やっぱ一ヶ月に一度のパーティーだもんね。思い切り楽しまないと損よね」

腰をさすりながらも、マナの表情はいつもより三割り増しの笑顔だ。

「でも、ちょっと趣味が偏った人が多くありませんでしたか?」

遠慮がちにマユミが言うと、同意見が続いた。

「そうね。あたしなんか7回も連続でお尻に出されちゃった。7回よ7回!」

通りで今朝はお腹の調子が悪いはずよ、とアスカがこぼす。

「そんな事言っちゃってぇ。『もっとぉ』って大声出して注いでもらってたじゃない」

マナが意地悪く笑う。

「な、何言ってるのよ! あんただって、さんざんよがってたくせに! しかもその後あたしの中から垂れてきた精液を直接口つけてすすってたじゃない。この精飲マニア!」

真っ赤になってアスカが怒鳴り返す。

「・・・あなたも、もっと吸ってとよがってたわ」

「う、うるさいわよレイ。あんただって人のこと言えないでしょうが!」

いつものような口喧嘩。しかし会話の内容が異常だ。女子中学生の話す事とは思えない。
だんだんと声が大きくなる言い争いは、誰かが止めない限りおさまらない。
そして、いつも仲裁役をさせられる少年はまだ登校していない。しょうがなくマユミが間に入る。

「二人とも、あんまり大きな声を出さない方が・・・」

二人とも教室という事を思い出したのだろう、取り繕うように声が潜められる。

「そういえばマユミはフェネス達を連れてこなかったわね。最近参加させるのが多かったのに」

「え、ええ。前の日に悪さをしたので、反省させようと思いまして」

その出来事を思い出す。あれが無ければ、パーティーよりもさらに素敵な週末になっていただろうに・・・。
何があったのかと聞かれても話すわけにもいかない。
そして、それと同じような思いが、四人の女の子達の胸に秘められているのだ。
一人の少年への思い。それを共有している事で、彼女達はライバルであり、また同じ思いを抱く同士でもあった。

昨日のパーティーでは、それぞれ20人は相手にしただろうか。
男に跨り、激しく腰を振るアスカ。
二つの穴を自分で広げ、挿入をねだるレイ。
何本もチン○を咥え、注がれる精液を喉を鳴らして飲み込むマナ。
バックから突かれながら胸を掴まれ、嬉し涙を流すマユミ。

男の足の指も、お尻の穴まで悦びの表情で舐めた。
口にチン○を突っ込まれながら、別の男には鼻の穴に射精された。全ての物が精液の臭いにそまった。
口の中の精液は、泡立つほどに噛んでから飲み込まされた。
激しく喉を突かれて嘔吐してしまった時も、吐瀉物にふくまれるのはドロリとした白い精液だけだった。
妊娠させるぞと叫び膣内射精された時も、妊娠させてと叫び返し、精液を受け止めた。
男達も自分達も、これがプレイだとわかっているのだ。

「・・・そういえば、ヒカリがまだ来てないわね。昨日も約束してたのに顔をださなかったし、体調でも悪いのかしら?」

洞木ヒカリは何故か昨日のパーティーにも顔を出さず、連絡も無かった。
アスカが心配を口にした時、教室の入り口が開き、碇シンジ少年が入ってきた。
その表情は、どこか緩んでいるような照れているようなもので、教室内を少し見回した後、無言で自分の机についた。何かそわそわとしている。

彼の姿を目にした時、少女達の胸が高鳴る。昨日の男達にはあんなにはっきりと、そして簡単に求める事ができたのに、何故、彼を前にすると言えなくなるのだろうか。そして彼と触れ合ったときほどの興奮を得る事は、ついに昨日はなかったのだ。

今度のチャンスは逃さない。彼の童貞は私がもらう。四人とも口には出さずに同じ思いを固めていた。

シンジ・碇君・・・と彼女達が声をかけようとした時、彼の表情が動き、入り口へと小走りに近寄った。
その先には・・・いましもドアをくぐろうとしたヒカリの姿があった。

「お、おはよう洞木さん・・・」

照れたような声のシンジの挨拶が響く。

「「「「・・・洞木さん・・・?」」」」

今までは『委員長』と呼んでいたはずなのだ。


「あ、おはよう碇君。今日は落ち着いてるみたいね」

朗らかに挨拶を返すヒカリ。教室の隅から注がれる疑惑の視線にはまだ気づいていない。

「う、うん。ありがとうって言えばいいのかな。その あれをするのがあんなに素敵だって教えてもらっちゃったんだから・・・。あれじゃあ皆がしたがるのも分かる気がするよ」

小声での会話なのだが、何故か四人の少女にははっきりと聞こえていた。一言ごとに表情が怖さを増していく。

「や、やーねぇ。そう改まって言われると照れちゃう。私なんかがが初めてでホントに良かったの?」

「うん・・・。とっても気持ち良かったし、その、洞木さんも・・・綺麗だった」

「「「「・・・・・・」」」」」

ヒカリが頬を赤らめた時、肩をたたく人影に気がついた。

「おはようヒカリ」

「とてもいい朝ね」

笑顔の四人がいつのまにか周りを取り囲んでいた。だがその目が笑っていない。顔の筋肉だけでわらっているような笑顔だ。

「あ、あら、おはようみんな。い、いったいどうしたの?」

「あのね、ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・」

「付き合ってくれますよね」

笑顔が消えていく。変わって現れたのは人間の闇を前面に出したような酷薄な表情。
がっしりと腕をつかむ力は同い年の少女とはとても思えない。
四人が身にまとう雰囲気は、まるで国家反逆者を連行する秘密警察だった。

「ちょ、ちょっと!」

「あなたには弁護士を呼ぶ権利も、黙秘する権利もないわ。素直に吐くなら、せめて楽な最後を・・・」

「い、いやーっ! 助けてーっ!」

これから自分にふりかかる恐怖を想像させるようなレイの言葉に、ヒカリは激しく恐怖した。
その声にも容赦せず、四人の執行人はズルズルとヒカリを引きずっていく。

「やめろよ! 洞木さんに何をするつもりだよ!」

強い声が響いた。一瞬、誰が言ったのか分からなかった。それほど普段のシンジの口調とは異なっていたのだ。
シンジはヒカリの腕を引き、呆然とした四人から引き離した。ヒカリはそのままの勢いでシンジの胸の中に倒れこむ。

「大丈夫? 洞木さん・・・」

「え、ええ。ありがとう・・・」

シンジの胸の中でヒカリが小さくつぶやく。その頬は紅潮し、傍から見るとまるで恋人達の抱擁だ。その事に気がついたシンジが慌てて身を離す。

「あっ、ご、ゴメン・・・」

非礼を詫びるが、ヒカリの表情はまだうっとりとしている。そう、まるでもっと抱き合っていたかったかのように。

「碇君って優しいね。それに、さっき助けてくれた時の態度、かっこよかった・・・」

「「「「・・・・・・」」」」

俯き、はにかむかのようにつぶやくヒカリ。その目には四人の姿はもう映っていないようだ。

「そ、そんなこと無いよ。ただ洞木さんを守ろうと思って・・・」

「・・・ヒカリって呼んでほしいな・・・」

「え・・・」

「「「「・・・・・・」」」」


見詰め合うシンジとヒカリ。重ねて言うがその目には既に四人の姿は映っていない。

「あ、痛っ・・・、足首を捻っちゃったみたい」

「え、大丈夫かい」

「少し痛む・・・。保健室まで連れて行ってくれる?」

「うん。さあ掴まって」

「「「「・・・・・・」」」」

二人は寄り添うように歩き廊下へと向かう。

 ガラガラ ピシャン

教室のが入り口閉まる。


「「「「・・・・・・・」」」」


 二日酔いの頭を抱えながら、葛城ミサトは担任するクラスへと向かっていた。廊下の向こうに女生徒に肩を貸して歩いていく男子の姿が見える。怪我でもしたのだろうか? まずはクラスでその事について聞かなければ。
ドアに手をかけた時。


「「「「うがーーーっ」」」」


 バキッ ガシャーン ドカッ ガランガラン

獣のような叫びと破壊音が響いた。いったい何事だ! 学級崩壊か、それとも使○の15年ぶりの来襲か?!
二日酔いの頭が答えを導き出す前に、ミサトは弾ける様に吹っ飛んできたドアの直撃をくらい気絶した。


 ライト版 終




Menu