-MODEL- Ver.R


Original text:FOXさん


 「異変」がおきているのは、もはや肉体だけではない。
 囚われたのは、身体ではなく精神。
 しかし、惣流・アスカ・ラングレーは自身に枷がはめられていることすら知ることができない。
 薄紅色の唇にうっすらと笑みを浮かべ、規則的な寝息を立てている彼女には。
 体操服のまま保健室のベッドに身体を横たえている彼女には。
 しかし精神の奥底をはっきりと覚醒させたままであっても。
 聴覚も触覚も鋭敏なままであっても。
 いや、だからこその「枷」なのだが。

 「こうして見ると、惣流ってやっぱり……」
 ささやくような声でもアスカの耳にははっきりと届く。もちろん、ごくりと唾を飲む音も。
 「いつもこうだったらなぁ」何人かの同意の声。
 当然それもアスカにははっきりと聞こえた。
 だが、普段なら激高するような言葉を聞かされてもまだ、少女は穏やかな寝息を立てたままだった。
 「よく寝てる……ぜ」だれかが少女の耳元まで顔を寄せてつぶやいた。
 「そりゃそうだろ。睡眠薬を飲んだんだから。なぁ?渚」
 「鎮痛剤だけどね」渚カヲルは無関心な声で答え、自身の指に巻かれた絆創膏を撫でた。

 ……そんなの、のんだっけ?
 闇の中に意識が沈み込んだままアスカは内心で首をかしげた。けれどもその疑問を長く持ち続けることはできない。

 「惣流さんが『頭痛くって、痛くって、超痛いんですぅ』ってあんまり言うもんだから保険医の先生が根負けしたんだよ」
 渚カヲルの言葉が少女の魂の奥底まで染み通り、それは見えない強制力として作用する。

 ……のんだんだわ。きっと。いえ、のんだのよ。だからアタシ、みうごきとれないんだもん。くらすのダンシがのぞいていても、なんにもできないんだもん。

 「そうそう。二時間はぐっすり眠ってしまう。ってやつだってさ」カヲルは不可思議な笑みを浮かべると「じゃ、僕は授業に戻るから」と立ち上がる。
 「お、おい……」男子生徒の不安げな声にカヲルは微笑む。「そうだよ。なにをやっても目が覚めないんだ」
 「え?」少年たちの声に困惑の色が混じる。
 「なにをやっても、ね。お姫様は夢の国なんだから」
 「マジかよ……」
 「ウソじゃないよ。これは真実さ」カヲルは微笑む。「でも、君たちも早く戻った方がいいよ。保険医は二時間は戻っては来ないけどね」
 そして閉じる扉。
 少年達は黙ったままアスカの穏やかな寝顔を見詰めていた。
 少年達の呼吸音が次第に大きく、荒くなっていく。
 彼らの頭のなかには同級生の声がしだいに大きくなっていく。

 ……なにをやっても、
 ……目が覚めない。
 ……どんなことをしても、
 ……だいじょうぶ。

 「二時間、か……」少年達の言葉が粘ついたものに変わる。
 体育の途中にもつれ合って転び、傷の手当てを理由に保健室に来た四人の少年たち。
 彼らが見つけたのは、彼らより先に気分が悪いと申し出て、洞木ヒカリに連れて行かれた惣流・アスカ・ラングレーだったのだ(ちなみにそのとき、アスカは気分が悪いとは思えないような大声で碇シンジに向かって「あとでお弁当持ってくるのよ。絶対だからね」と叫んだのだった)。
 硬い保健室のベッドの上で毛布をかぶっている少女を見つめている少年達のまなざしが好奇心を帯びたものから獣じみたものへと変わっていく。
 「なにをやっても……」
 ゆっくりと、ゆっくりと毛布がめくられていく。
 「おい……」
 「だいじょうぶ……だって……」
 かわされるささやきにはまだ、自制心が残されていた。
 しかし、美しいクラスメートの身体を覆うそれはしだいに持ち上げられていくのだ。
 やがてそれは重力に従って床に落ちた。
 少年達は息を呑む。
 そこには美しい妖精がいた。
 体操服の薄い生地だけで覆われた魅惑的な身体を無防備に投げ出し、無邪気な微笑みを浮かべて眠る妖精がいた。
 「惣流って脚……長いな」
 「腰も……きゅって……かんじ……で」
 「胸もけっこうあるんだなぁ」

 ……見ないで!見ないでよ!そんないやらしい目で見ないでよ!
 アスカは叫ぶ。しかしその唇はまったく動かない。

 「マジ、よく寝てるぜ」
 穏やかな寝息をたてている少女の顔に耳を寄せていた少年が、そっとアスカの頬を撫でる。
 「おいおい……」
 「大丈夫だって……な」最初はおっかなびっくりと、まるで貴重品を触るような繊細な手つきが次第に大胆に、そしていやらしいものへと変わっていく。

 ……やだ!やだ!触らないでよ!髪の毛なんて撫でないでよ!
 嫌!嫌!唇に触れないで、やだ、やだよ……。

 「おい、やばいぜ。ばれたら、先生に言いつけられたら……」
 「大丈夫だって。大丈夫だって」
 制止する声も、それを説得しようとする声も興奮のあまりかすれ、裏返っている。
 「ほら、こうしても……」
 おなかの上に乗せられた右手が、シーツの上に投げ出された左手がそっと持ち上げられ、万歳をするように大きく拡げられた。
 それでも少女は目覚めない。よりその膨らみが強調された胸を穏やかに上下させ、シャツの裾から可愛らしいおへそをのぞかせてすやすやと眠っていた。
 もう躊躇などするはずもなかった。
 少女のしなやかな肉体に、少年たちの手が次々と伸びた。
 体操服の裾がゆっくりと、ゆっくりとずり上げられていく。
 紺色のブルマからすらりと伸びた両脚がゆっくりと広げられ、膝を割られた無様に恥ずかしい姿勢を取らされる。
 そしてまだボリュームは足りないが、つんと立ち上がった美乳へと指先が伸びていく。
 最初はマッサージでもするような、あるいは少女の反応を調べるような手つきはすぐに、少年達自身の好奇心と欲望を満たすものへと変わる。
 アスカの「おんな」を象徴するバストの柔らかさと感触を確かめ、無惨に割り開かれた大理石の輝きを放つ内腿を愛撫する。
 さらに太股の付け根の部分に顔を寄せられ、ブルマ越しにおんなの膨らみを観察された。
 荒い吐息と鼻息を感じても、アスカはその躰をぴくりとも動かすことはできないのだった。

 ……ちくしょう、やめて!!気安く触らないでよ!このヘンタイ!ヘンタイ!

 だが、獣欲に囚われてしまったクラスメイトたちがこれしきのことで満足するはずはない。
 相手が「あの」傲慢なまでに気高い惣流・アスカ・ラングレーであるのだから。
 常に羨望の眼差しを浴び、太陽のように輝く容姿を持った少女なのだから。
 その彼女がまるで人形のように無防備に、少年たちの玩具になることを甘んじているのだから。
 少年たちはアスカの体操服を乱暴にずらしていく。
 染み一つない肌が彼らの視線にさらされ、すぐに下着があらわになる。
 一四歳にしてはお洒落に気を遣ったブラジャーに同級生たちは声にならないどよめきをあげる。
 「すげー」
 「ふ、フロントホックってやつ?」
 「スポーツブラじゃないんだ」
 彼らは争うように手を伸ばして少女のまだ成長途上のバストを護る下着を弄り、そのつややかな生地の手触りとレースの感触を楽しんだ。それからふっつりとホックを外し、彼らが夢想し続けた惣流・アスカ・ラングレーの双つの膨らみを若牡たちの視線のもとにさらけ出す。

 ……やだぁ……どうして、どうして声が,声がでないの?どうしてからだがうごかないの?
 アスカは悲鳴を上げる。いや、上げようとする。
 しかしその唇は彼女の意志に従わない。うっすらと開かれて、楽しい夢でも見ているかのように、笑みの形を保ったままなのだ。

 だから少女は穏やかな表情のままで、柔らかな乳房を若い獣たちに蹂躙される。
 つんと立ち上がった若々しい張りを指でつつかれ、膨らみを乱暴にこね回される。
 輝く肌の感触を掌で楽しまれたあと、先端の尖りをさわさわと刺激された。
 刺激のせいでピンクの果実がぷっくりと立ち上がると、少年たちはそれを「同意の証」と捉え、くすくす笑いながら指で転がして、こりこりと悪戯をしてさらに硬くしこらせようと試みる。
 そうしておいて、彼らはその美しい少女の乳首にむしゃぶりつく。
 左右それぞれのバストの先端をちゅうちゅうと吸い、舌で転がしてそのこりこりとした感触と甘い肌を味わう。
 アスカの吐息に次第に甘やかな成分が混じりはじめたことに気が付くと、さらに夢中になって双つの丘を唾液でべたべたになるまで舐め回し、あまつさえ乳首を甘噛みするのだ。

 のこりの二人も見物に徹するつもりなどさらさらない。
 大きく開いた太股を左右から撫で回し、艶やかでみずみずしい肌を存分に愉しむ。
 ブルマの裾に沿って這っていた指がくるくると円を描いて布地越しに少女の恥丘を撫で、乱暴にこね回して彼女の秘密の場所のぬくもりと柔らかさを味わう。
 さらに裾をずらして下着をのぞき見る。
 「おい、青のシマパンだぜ」と興奮気味にささやく彼ら。
 「惣流ってさ、処女かな?」ショーツがさらにずらされ、秘蕾をあらわにされてしまう。
 「うーん。どうかなぁ。見ただけじゃ分かんないよ……」

 ……助けて!こんなの、こんなのヘンだよ!どうして、どうして、どうしてカラダが動かないの?どうして、どうして目が覚めないの?
 クスリ、クスリが強すぎたんだ……。
 やだ、助けて、助け……。

 ぬぷり。
 「柔らけー」
 「すんげぇ熱いよ。惣流のココ」
 太股の付け根の左右から、男子生徒たちが指を奥へと進めたのだ。
 「あ、サリサリしてる。惣流のシモのケ」
 ……ゆるして、ゆるして、ゆるして……二本も、ニホンも、指、ゆび、ユビ、入れないで!
 「うわぁ、ほんとにワレメなんだ。うわ!キツくてヌルヌルしてる!すんげー」
 「だけど、ヌルって入っちゃったぜ。ってことはさ、惣流って処女じゃないんだ」
 「うわ、ショック。だれとヤってるんだろ」
 「まさか碇?」
 「違うだろ、アイツは」
 女体についての知識を再確認すると同時に、嫉妬と征服欲に駆られた彼らは乱暴に美天使の花園を掻き回す。
 ……やめて、やめて、掻き回さないで、いやぁ、だめ、だめ、あ、あ、ウソだ。うそ、うそ、うそ……キ、キモチよく……なって……キモチいいなん……て……うそ……。
 「なぁ、これだけいじっても……」
 「起きないんだったら……」
 「それに、けっこう遊んでるっぽいし」
 「そ、そうだな……それなら……」
 男子生徒二人がかりで腰が持ち上げられ、ブルマとショーツが乱暴にずらされていく。

 ……うそ、やだ、やだ、そんなのやだ。
 クラスメイトに、クラスのコによってたかって乱暴される。
 顔見知りに犯されちゃ……。
 かおみし……り?
 アスカは愕然とする。
 少女はいま自分自身の体を弄り回している暴漢達が誰なのか分からないことに、いま気づいたのだ。
 瞳を閉じて暗黒の世界にいることだけが理由ではない。
 クラスのごく一部の男子をのぞくと会話もろくに交わしていないことも理由ではない。
 声を聞いても、それが誰なのかさえ分からないのだ。
 ……くすりのせいだ。くすりの、副作用のせいなんだ。
 アスカは絶望する。
 くすりの……せいだ。
 アスカは確信してしまう。
 ……ヒカリに借りたえっちなコミック……。
 ……たしかそんな話が載っていたわ。

 ……騙されてクスリを飲まされて、意識が混乱したままいやらしいコトされて、たっぷりナカダシされて、おクチもオシリも犯されて、だけどぜんぜん覚えてないの。
 覚えているのはただ、「とってもキモチのいいユメ」のことだけ。

 ……アタシ、アタシ、そうなっちゃうんだ。クラスの男子に犯されて、玩具にされて、だけどそんなことがあったことさえ「知らない」ようになっちゃうのね。
 ……だから、だから、アタシをれいぷして、その記憶を持っている男子の前でも、強気で元気な惣流・アスカ・ラングレーとして振る舞ってしまうんだ。
 ……ひそかなさげすみの視線に気が付かないで、いつものように振る舞って、それをこいつらたちはあざ笑うんだわ。

 「うわぁ、なんだか漏らしたみたいに濡れてきたぜ。惣流のココ」
 「チクビもさ、コリコリになっちゃって……」
 「眠っててもすっかりエッチになっちゃってるんだぜ、コイツ」
 「入れた指がさ、ぐいぐい締め付けられるんだ。マジ気持ちいいよ」
 「ク、ク、クリトリスも……大きくなってきてる!」

 体操服の上下も純白のブラジャーも、スポーティーなチェック柄のショーツもリノリウムの床に投げ落とされ、白いハイソックスだけを身につけたクォーター少女は少年たちに支えられ、大きく脚を開いて腰を突き出した姿勢を取らされてしまう。

 ……ああ、いっぱいのオチンチンに犯されるんだ。
 ……アイツとは、シンジとは……まだ、まだいっかいだけしか……なのに。
 ……ああ、何度も何度も恥ずかしいことされて、気持ちよくされちゃうんだ。
 ……抵抗できないまま、交代にオチンチンはめられて、アタシ、もっともっと気持ちよくなってしまうのね。
 ……乱暴に強引に、コイツらの好きなラーゲで犯されて、でも逆らうことなんてできないの。アタシはただ、オモチャにされるだけなの。
 ……ああ、そして最後はセーエキ注ぎ込まれるんだ。お腹いっぱいになるくらいに入れられちゃうのね。
 ……やだ、やだ、赤ちゃんできちゃう。アタシ、アタシ、誰かも分からないクラスメイトに犯されてニンシンしちゃうんだ……。

 惣流・アスカ・ラングレーは残酷な予感に胸を震わせてしまっていた。
 寝息を立てながら甘美な絶望に圧倒されていた。

 だから気が付かない。
 彼女が保険医に渡されて口にしたのがただのビタミン剤にすぎないことを。
 渚カヲルが保健室に現れたのはそのあとということを。
 アスカが放課後にヒカリに「借りた本」を返すことに「なっている」と言い出したのはカヲルであることを。
 「クスリ」の副作用についての「知識」を植え付けられたのがそのときであることを。

 だから気が付かない。
 惣流・アスカ・ラングレーは自分自身でその枷を、檻を作り上げ、完成させていたことを。



◆ ◆ ◆



 「ね?大丈夫?」
 「……」
 「まだ気分、悪いの?」
 「……大丈夫」
 「アスカ……」
 「だーっ!うるさい!大丈夫ったら大丈夫なの!」校門を出たアスカはくるりと少年へと振り向くと叫ぶ。しかしその心は震えていた。不安と安堵で。
 「だいたいアンタね、レディが着替えているところに普通入る?信じられない」
 「だって、分からなかったんだもの。最初はドアが開かなかったし」
 「ヘンタイ!覗き魔、エロオトコ」アスカはシンジの言い訳をいつもの調子で蹴散らした。シンジのボリュームがぐっと下がる。
 「それに……それに、クラスの男子が何人かいなくなってて、『保健室へ行った』って聞いたから……」
 「んで、アンタはアタシしかいない保健室に突撃かけたってワケ?バカじゃないの?ああもう!どうしてそんな早とちりするのかなー」
 「そんな言い方しなくてもいいじゃないか……」
 頬を膨らませる少年にアスカは「いー」と歯をむき出してから、きびすを返して歩き始める。
 「……心配して来てみたのに、こんな言い方するなんて」
 しかし少年の口調には安堵の響きがあった。
 授業が終わって着替えに戻ってきたときにふと耳にした「アイツら、惣流追っかけて保健室に行ったまま帰ってきてないのかな」というだれかの言葉に碇シンジは最悪の事態を想像してしまったのだ。
 だから、彼らしくもなく息せき切って保健室へ急ぎ、扉をなんども叩いてしまったのだった。
 どうしてもドアが開かないことを知ると、鍵を持っているはずの保険医を捜して走り回っていたのだから。
 「少女を守りたい」とひそかに誓った少年にとって、アスカに「バカでヘンタイ」呼ばわりされるされるくらいどうってことはなかったのだ。
 彼の脳裏をよぎった「アスカがなすすべもなく少年達の性の玩具にされてしまう」ヴィジョンに比べれば。
 とにかく碇シンジは安堵していた。
 だから、アスカに非難を浴びても悔しいとは思わない。
 無駄だとは知りつつも再び保健室へ戻り、力いっぱいドアをこじ開けようとしていたときに、突然隣に現れた従妹のレイに「保健室……普段は鍵なんかかかっていないわ……ほら」とぼそりと指摘され、からからと扉を開けられてひどくばつの悪い思いをしたことも辛いとは思わない。
 とはいえ、一応は言っておくべきだ。とシンジは思う。このまま大声で「ヘンタイ」呼ばわりされ続けたらクラスの女子からどんな目で見られるか分かったものではないのだから。彼は唇をへの字にして見せ、彼なりに威厳を持った声を出した。
 「……もう心配なんかしないからな。ぜったい」
 「なによぉ!バカシンジのくせに……ったくナマイキじゃない!」
 ぐるりとアスカは回れ右すると両手を伸ばしてシンジのほっぺたをぎゅっと摘む。彼のへの字に結んだ唇が情けなく歪んだ。
 「この口?アスカ様に向かって生意気なことを言う口は?」
 「な、にゃにすんだ……よ」
 「うるさい!オシオキに決まってるでしょ」
 「いたひ!ひあぁむぅ!あふぁっ!」
 「おらおらぁ!思い知ったかぁ!バカシンジ!」

 ……ごめん。ありがと。だけどね。ホントのこと、アタシいえないの。
 少女は矛盾した感情に揺れている。
 自分のことを心から案じてくれる「騎士」の存在を、大声で回りに誇示したいほどの喜びと、その彼にさえ真実を語れない良心の呵責に。
 話せるわけなどない。
 クラスメイトに、誰なのかも分からない、人数さえも分からないクラスメイトに玩具にされて、犯されそうになったなど。
 この惣流・アスカ・ラングレーがなんの抵抗もできないまま、好き放題に痴漢行為を受け入れてしまったことなど、心優しい少年に話す事なんてできるわけがないのだ。

 いや、ほんとうにそうだったのだろうか?
 アスカは思う。
 彼女が目覚めたとき、その身体は体操服姿のままだったのだ。
 もっともその体操服は水でもかぶったように汗で濡れていたために、綺麗に折りたたまれて籠に入れてあった(きっと万事抜かりのないヒカリの配慮だろう)制服を身につけようと下着姿になったところにシンジが飛び込んできて大騒ぎになったのだが。
 さらに保健室へ向かったはずの少年たちは、全員そろって校舎の裏の茂みで昼寝を決め込んでいたらしい……となると、それは白日夢だったと考えるのが自然だろう。
 しかしアスカは不安をぬぐい去ることができない。
 きちんと身につけていた下着にどことなく違和感があったことも理由のひとつだった。
 それに、アスカが目を覚ましたときに感じた部屋の残り香。
 それはアスカが使っているコロンではなかった。
 その覚えのあるシトラス系の香りは、だれか……間違いなく女性だ……がほんの少し前まで室内にいたことを物語っていた。
 いや、そう言えばベッド脇のカーテンもかすかに揺れていた。
 ほんの少し前まで誰かがいたのだ。

 だから彼女は横暴になる。不安を紛らわせるために。
 ぐりぐりと少年のほっぺたをつねり、乱暴な男の子のような言葉で幼なじみをからかって額がくっつくほどの距離まで接近する。
 少年の瞳にちゃんと微苦笑が浮かんでいることを確認してからぱっと手を離す。
 「ったく……アスカったら……もう、ぜったいに心配なんかしないからな」
 「うっさいわねぇ。ったくシンジったらほんとーに心配性なんだからぁ」ひらひらと手を振って見せるアスカにシンジは深く溜め息をついた。
 だから耳元に甘やかな声でささやかれるとひどく驚いてしまう。
 「ね、パフェ食べにいこ。ね?」
 猫のように瞳をきらめかせて自分の横顔をのぞきこむ少女に碇シンジの鼓動は急に早くなる。
 「なんだよ、急に」赤くなった頬を見せないようにそっぽを向く彼の腕に、幼なじみの腕がするりとからまった。しなやかな制服が密着する。
 「ちょ、ちょっとアスカ」
 「パ……フェ。ね?行こうよぉ」鼻にかかった声で少女はおねだりする。「アタシ、すごく行きたいんだってばぁ」
 「ひとりで行けばいいじゃないか」アスカのような美少女の誘いをかくも無下に断れる男がいるなど、クラスメイトどころか赤の他人でさえとうてい理解できないにちがいない。しかしこの幼なじみの豹変する態度と我が侭に十分すぎる耐性を持っているシンジはかたくなな態度を崩さない。
 はぁっとアスカは溜め息をつく。「よーし、じゃぁさ、アタシがおごるわ!この惣流・アスカ・ラングレー様が会計をもってあげるわよ。だから……ね?」
 「……きっとパフェ以外のもっと高いものをアスカは注文して、それは僕がお金出すんだ……」
 「もぉ!拗ねないの!ね?ね?ね?」否定しないのが彼女らしいとシンジは思う。
 少年はもういちど深く溜め息をつき、「幼なじみのワガママ」に付き合うことを不承不承同意する。ぱっとアスカの表情が輝き、そのまま強引に少年を引きずっていく。
 もしそこにほかの誰かがいれば、碇シンジに強く嫉妬しただろう。
 喫茶店に行くことを了承しただけで、少女をここまで喜ばせることができる少年に。
 どことなく不安の影を引きずっていた少女の足取りを弾むように軽くできる少年に。
 そのクォーター少女に純粋な幸福を与えることができる少年に。
 その事実にほとんど気が付きもしない彼に。



◆ ◆ ◆



 やや太りじしの月に照らされた世界は、少女のために用意されたものだった。
 彼女が舞い、狩りをするための場所だった。

 路地を風のようにすり抜ける少女の頬には薄い笑みすら浮かんでいる。そのすぐ目前には複数の黒い影が立ちふさがっているというのに。
 中学校の制服を身につけたアルビノ少女の可憐な唇が動き、左手を虚空に突き出す。
 風が舞い、銀のリボンが実体化する。
 無造作にリボンを振った。
 彼女の前に立ちふさがる男たち、黒ずくめの彼らは音もなく切り刻まれる。銃を構える暇すら与えられなかった。
 重い音を立てて肉片と血潮が地面にこぼれ落ち、緑色に燃え上がる。
 速度を落とさず彼女は駆けた。炎を軽々と飛び越える。振り返りもしない。
 ある建物の前で足を止める。星を見上げ、月を見つめ、少し首をひねる。慎重な足取りで前へ二歩、左へ三歩進む。
 眉間に皺が寄った。かすかにうなり声を上げる。
 目の前には黒塗りのベンツが駐車してあった。
 「……ここ、なのに……」
 不機嫌そうにぐるぐると車の回りを歩き回る。
 「……駐車禁止」標識を見上げ、ぽつりとつぶやく。
 誰も乗っていない。誰も車を取りに来る気配もない。
 「悪いのは……」
 左手が一閃する。銀色の光がそれに続いた。
 「……星と月の巡り合わせ。それにルールを守れない誰か。……わたしじゃないの」
 金属の擦れ合う音ともに、ぱっくりとベンツが裂けた。切断面はカミソリで切られたかのように鋭利だった。
 ふぅっと溜め息をついて、槍でがらくた……ついさっきまでは高級輸入車だったもの……を押しのける。ようやく見えた地面に穂先を突き立て瞳を閉じた。
 どこの国の言葉でもない言語が少女の唇から漏れる。
 夜にかかわらず路地に光が満ちる。
 槍を引き抜いた。アスファルトには燐光を放つ紋様が残されていた。
 「あと、ひとつ」
 強烈なヘッドライトが彼女をくっきりと浮かび上がらせた。同時にブレーキ音。少女は少し眉をしかめた。
 横合いから布を裂くような銃声が響く。
 彼女を守る正八角形の光の盾はいかんなくその能力を発揮していた。その銃弾……ハマーの二脚架に据えられたミニミから吐き出された五.五六ミリ弾……はすべてが輝く壁の前で宙に浮いたまま静止している。
 「……こっちが近道」ぽつりとつぶやき、くるりと少女は向きを変える。
 《黒の男》たちの方へと、軍用車に搭載された機関銃の方へと。
 無造作に歩き始める。輝く壁を展開したまま。
 再びうなる機関銃。「壁」は全ての弾丸を受け止め、あるいは弾いた。
 剥がれるコンクリート。飛び散る火花。彼女には傷一つつけられない。
 彼女の歩みはとまらない。加速する。
 右手のリボンが槍となる。振りかざす。
 宙に舞う、なぎ払う。
 陣風のように駆け抜ける。銃声が止んだ。
 あとに残るのは四つの緑色の炎だけ。
 彼女は、レイは、「綾波」レイは先を急ぐ。



◆ ◆ ◆



 ……嫌われないかなぁ。ちょっと厳しかったかなぁ。

 アスカはソファーに身を投げ出して溜め息をついた。
 やっぱりちゃんと「させて」あげるべきだったのかも。
 ぐるりとパジャマ姿を巡らせてクッションを抱く。
 普段はあまり行かない喫茶店(いつも行くところにオトコ連れで入るには、顔見知りがいくらなんでも多すぎる)でパフェをたいらげたのち、少女は幼なじみと「碇家へ」帰宅したのだった。
 ボイスメモに「三五階の星野さん(たしかユイの恩師の友人の未亡人……トカなんとかだったはず)のところへ行ってきます」とユイの声が残されているのを、シンジよりも先に確認したアスカは、さも当然のように食器棚を開け、さらに戸棚からとっておきの紅茶を取り出す。
 そしてケトルがやかましく鳴き立てて中断を余儀なくされるまで、ソファーの上で碇シンジと唇を貪りあう。
 れろれろと舌を絡め合って、シンジが注文したものの、半分以上はアスカが平らげたチョコレートパフェの味を再確認しつつ、少年の両手が劣情に駆られるがままに少女の身体を撫で回す感覚に深い満足感を得ていたのだった。
 しかし制服のボタンを外し、下着姿を愛でられることまでは許したものの、それ以上へアスカは進むことができなかったのだ。
 お湯が沸いていることを口実に、シンジとの睦み合いを中断してしまったのだ。
 それは少年の愛撫に嫌悪を抱いたからでも、少年の行為に恐怖を感じたわけでもない。
 ひそかに、でも堅実に記録しているカレンダーによって今日が危険日であることを知っていたものの、ちゃんと「備え」は購入済みで、ハウスキーパーにも見つからない引き出しの奥に保管してあるのだから(もちろんシンジがそれを装着してくれることは間違いない。「はじめて」のときも「ゴム、あるから、大丈夫だよ」とアスカが顔を真っ赤にして告げないと、少年は挿入を決意しなかったのだから)
 しかしアスカはシンジを拒絶してしまう。冗談めかした口調ではあったけれども。
 なぜなら彼女は恐怖にとらわれてしまったのだ。
 もし少年と愛をかわしている途中に「あれ」を思い出してしまえば。
 少年達の欲望をかなえる人形にされてしまった自分が感じていた快楽を思い出してしまえば。
 愛しい幼馴染みとの交歓は、少女の内部でまったく違うものに……愛の確認という行為から淫らで穢らわしいものに……変わってしまうに違いない。
 いや、彼女がもっと恐れたのは「あれ」の快楽と少年の与えてくれる快楽を比べてしまうことだった。
 下劣で利己的に自らの欲望だけを優先した「彼ら」の行為で感じてしまった快楽を、大切な幼なじみの恋人が与えてくれる悦び……たしかにまだ稚拙で性急だけれども……とを比べてしまうオンナなど、恋をする資格なんかないと潔癖な少女は思う。
 でも、でも……。

 人形のように無抵抗なまま、男子の何十本もの指に弄ばれたとき。
 自慢の陶磁器のような肌を生暖かい舌に舐め回されたとき。
 感じやすい三つの尖りをちゅうちゅうと吸われ、甘噛みされ、れろれろと舐められたとき。

 彼女の精神は快楽に塗りつぶされてしまったのだ。
 屈辱も、怒りも、汚辱感も全て押し流され、従順に少年達の与えてくれる快楽を受け入れ、彼らの玩具と成りはててしまおうと思ってしまったのだ。
 たった一人のものしか許していない蜜園に、少年たちの性器を深く深く埋め込んでもらい、身勝手に性急にピストンされれば、もっと気持ちよくなれるにちがいないとさえ考えてしまったのだ。
 さらにクラスメイトたちに子宮の奥までたっぷり精を放ってもらえば、無上の快感を得られると確信してしまっていたのだ。
 そう、そのときは。
 その悪夢のような瞬間には。

 だから少女は少年との行為を打ち切るとひどく気まずい雰囲気のお茶ののち、ぎくしゃくとした挨拶を残して碇家を辞去したのだった。
 体の芯に残る邪悪な火照りが消えてくれない限り、恋人との交わりの最中に自分が最低で最悪のオンナになってしまうかもしれないと少女は恐れていたのだった。
 でも、自分の行為はシンジを傷つけたのかもしれない。
 アスカはちくちくとした悔悟の念にとらわれていた。
 「ふん!スケベシンジにどうしてこのアスカ様が気配りしなきゃいけないのよぉ。明日……明日ちょっと優しくしてあげるからいいの!」
 そう、そうすればいいのだ。
 少女は納得する。
 もう一回喫茶店でお茶をするのもいいし、「宿題を教えてあげる」ってコトでシンジの部屋に押しかけたっていいのだ。
 ……そのあと、その、スルことになっても……許してあげよう。やっぱり。ゴム、ちゃんと付けてくれれば大丈夫だもん。うん。だって、シンジだってオトコノコなんだし、それに、その、ずっと……して……ないし……。
 頬を桜色に染めた少女はさらに強くクッションを抱きしめた。
 ……シンジったら、いっぱい、いっぱい、キスするんだもの。そんなトコロ、汚いって言ってもキスするんだもん。あれ、恥ずかしいけど、すごく、すごく……キモチ……いいし……。
 「明日じゃなくって、いま気持ちよくしてやるよ」
 「!!!」
 アスカの無邪気な想像をいやらしい声が打ち砕いた。
 ソファーから跳ね起きたパジャマの肩に無骨な手が馴れ馴れしくまわり、少女の腰はすとんとソファーに落ちた。
 「そうそう。一晩中突きまくってあげるからね」
 侵入者に肩を抱かれてもがくアスカの背後から足音が聞こえ、さらにひとりが現れて卑しい笑みを浮かべた。
 「もちろん、アナルも犯してあげるよ。ダイスキなんだろう?」
 耳元で別の声がささやき、少女は凍りつく。
 「前と後ろ、同時にチンポはめてあげるからねぇ」
 また一人、背後から手を伸ばしてリモコンを取り上げる。たわいもないクイズ番組が消され、少女は世界から切り離された。
 「もちろんキミのリップもお兄さんたちのものだよ。いっぱい、いっぱい精液のませてあげるから、心を込めておしゃぶりするんだよ」
 左隣に男がどっかと腰を下ろすと震える少女の美しい髪を撫で、くすくす笑う。
 「……あ……あ……ああ」
 突然の闖入者達にアスカは声も出ない。クッションを抱きかかえたままソファーの上でただ震え、左右から伸びる男たちに淫らな指遣いで撫で回されることしかできない。

 ……どうして?どうして分からなかったの?五人も部屋に入り込んでいたのに!
 ……鍵だって、しっかりかけてあるはずなのに!
 ……それに……どうして……この、この……チカンたち……先週、アタシにいやらしいことをした……。
 なぜ!なぜ!アタシの家も、名前も知っているの?逃げ出したのに!シンジに、シンジに助けてもらったのに!!

 「それはね、アスカちゃん」少女の前に仁王立ちになった男が口元を歪めた。まるで少女の内心の叫びが聞こえたかのように。
 「君がそう望んだからだよ。『無理矢理気持ちよくされたい。恥ずかしいことをされたい。オモチャにされたい』と」
 「そう。だからセキュリティなど意味はないんだ」少女が抱きかかえていたクッションが難なく奪われる。
 「『悪戯されて犯される自分』を夢見ながらオナニーしているキミが我々を呼んだんだよ」
 「……うそ、うそ、うそ……あっ!ひ、ひぃぃん!」
 「嘘?こんなにマタのあいだをヌルヌルにして?」
 「お、あおッ!あ、ああああッ」
 アスカお気に入りの水色のパジャマ、そのズボンに男の手が入り込みゆっくりとうごめいていた。
 「嘘?クッションの角でオマタをこすってたくせに」
 アスカの左に腰掛けた男は嘲笑いさらに指を動かす。ぴちゃぴちゃとした水音が彼女自身の耳に届き、少女の精神は白熱する。
 「ほら、楽しもうねぇ」
 身体を丸めて抵抗する少女の細い肩が右隣の男にぐいと掴まれ、無理矢理男の方へむき直されて唇を奪われる。
 「むうぅぅぅッ!ふぅぅぅん!ふぅっ……ふぁぁぁッ」
 唇をこじ開けられ、舌をねじ込まれる。歯茎を、口蓋をねぶられて臭い唾液を流し込まれる。
 「このエロ中学生、キスしているうちに発情しちゃったみたいですよ。もうどろどろにお汁を吹きだした上にぎゅうぎゅうにワタシの指を締め付けて放してくれませんよ!」アスカの蜜壷を掻き回していた男が大声で報告する。
 「そりゃそうでしょう。わたしたちのチンポでさんざんイかされてからもう一週間以上経ってますから。禁断症状気味だったんじゃないですか?」
 「このスケベなカラダが幼馴染みと乳繰り合うくらいで満足できるわけなんてないのにねぇ」
 「んふぅぅ……ん。むぅぅ……ん」
 少女の瞳からは宝石のような涙が溢れ出す。
 しかし彼女は侵入者との濃厚なキスを拒むことはできない。それどころか柔らかな舌をいっぱいに突き出して男の舌と絡めていた。
 狭隘な姫孔の中を動き回る指からも、逃れることはできない。それを押しのけようとした少女の手はいつの間にか力なくソファーに落ち、しっかり閉じていれば勝手気ままな蹂躙を防げたかもしれない太股もいつの間にか破廉恥に開いて牡の指がうごめくたびに細腰をヒクヒクと痙攣させていた。
 だから侵入者達は惣流・アスカ・ラングレーの希望を叶えてあげるのだ。
 柔らかなネルのパジャマが彼女の下半身からするりと抜かれ、乱暴に上衣の前ボタンが吹き飛んだ。
 どろどろに濡れたコットンショーツが右脚から抜かれ、左膝にからまった。
 「寝るときくらいは締め付けられたくない」との理由で着ていた幼馴染みとおそろいのTシャツが剥ぎ取られた。
 そうして、男の人差し指がずぶりとアスカのアヌスへ侵入すると、可憐で従順で好色な少女奴隷が完成する。
 尻穴をほじられる指に後押しされ、命じられるとおりに隣に座る男の膝によじ登ってひしと抱きついた。
 「うわぁ、アスカのおっぱいの先、かちかちになってますねぇ」
 揶揄されても少女はそれを、男の胸板に痛々しく立ち上がったピンクの果実をこすりつけることを止められない。不浄の孔を悪戯する指がゆっくりとピストンすると、全身を痙攣させて輝く裸身を陵辱者に密着させてしまうのだった。
 男の膝にまたがらされ、甘え声を上げる淫人形に男はささやく。
 「ほうら、こうして欲しかったんだろ?たくさんの男たちにいじられて、悔しくて恥ずかしいけど気持ちよくして欲しかったんだろ?」
 耳元の言葉が脳へ直接入力される感覚。
 心が、精神が淫らな色に塗り替えられる感覚。
 アスカは逆らえない。絶望の涙を流しながらも、しゃくり上げながらも、「違う……違う……もん、アタシ、アタシ、こんなこと……やだよぉ」とつぶやきつつも、淫らにくりくりとまだ硬いヒップをくりくりと蠱惑的に動かしてしまう自分を発見する。
 「アスカは嘘つきだな。窓を開けていたんだろ?オレたちにまた来てもらえるように」
 男があごをしゃくる。ベランダに面する窓ガラスは開き、カーテンが風に揺れていた。
 「だって窓の外から聞こえてたんだよ。アスカのオナニー声が」
 「だって窓の外から見えてたんだよ。オマタの間に手を突っ込んで、腰をひくひくさせている姿が」
 「だって窓の外からでも分かったんだよ。アスカのいやらしい汁の匂いが」
 「そんな……窓の外……ここ……十一階なのに……鳥だってめったに……こない……のに」
 「アスカにチンポ入れるためなら、『障壁』をくぐり抜ける方法なんていくらでも考えるよ」
 「そうそう。アスカをいっぱいイかせてあげたいから、ボクたちがんばったんだからねぇ」
 「『愛しのシンジ君』はアスカのアナルなんていじめてくれないだろ?」
 少女を取り囲む男たちの声がわんわんとこだまする。
 「あ……たすけ……て……ぇ。あ……ああぁ……。ひぃは……ぁ……ッ」
 「おらぁッ!これだけのチンポが家庭訪問してくださってるんだぞ!ちゃんと挨拶しないか」
 彼らはいつのまにか全裸となり、卑猥なペニスを勃起させていた。
 そのまがまがしい凶器は血管を浮かせ、粘液をにじませて少女の美貌へと向けられていた。
 「あ……やだぁ……たすけて、たすけて……」
 「ったく素直じゃないガキだよなぁ。せっかく呼ばれて来てやったのに」ひひっ、と男は笑うと少女の身体を巡らせ、膝裏を抱えて卑猥なM字開脚姿勢にする。
 そして直立するペニスの上に少女の真っ白なヒップをじりりじりりと降ろしていくのだ。
 邪悪なまでに傘の開いた雄茎が少女のひくつく肉孔にあてがわれる。
 「いや!いや!いやぁぁ!」髪を振り乱して泣きじゃくるアスカ。「そこ、そこは、そこは……許して、許して……お尻、オシリ、オシリは許し……て……あ……かはぁぁぁぁ」
 彼女の首ががくんとのけぞり、ピンクの唇から涎がこぼれた。
 ずん、ずん、と華奢な肉体が沈んでゆく。
 「あ、あぐぅぅぅ……ひぃ……はぁ……ん」
 「ほら見ろ、うまそうにケツのアナでチンポくわえてるじゃないか」
 「ふぅ……ッ。ひぃぃぁ……。ふぅぅぅぅッ」
 「色っぽい顔になっちゃって」
 「いッ……うふぅ……ッ、あ、あああ……あはぁ……ッ」
 背後から抱きしめられた躰がゆっくりと揺すられる。灼熱の感覚と背徳の悪寒が脊髄を這い上がり、少女の抵抗心を融かされる。
 「いやぁ、チンポ全体をぎゅうぎゅうに締め付けて、アスカちゃんのアヌス、ほんとに気持ちいいですねぇ」
 「ああ、ああ、言わないで……そんなこと言わないでぇ」
 「アスカちゃんだって気持ちいくせに。ほら」
 「ひぃぃン!」
 「こんなにオッパイの先、尖らせちゃって」
 真っ白なお椀型のバストの上で恥ずかしいほど自己主張していた左右の蕾をぎゅっと摘まれた。アスカの声が一オクターブ高くなると男たちはさらに彼女に意地悪をする。乱暴に乳首を引っ張り、ころころと転がして少女に恥知らずに上半身を突き出させた。
 ねじり、爪を立て、指で弾いて、気丈な彼女をこどものように泣き叫ばせる。
 しゃくり上げる甘い汗で濡れたスレンダーな躰がゆっくりと持ち上げられる。菊門をごりごりと擦られ、裏返るような違和感と、原始的な排泄の快感が彼女を半狂乱にした。
 そしてずん、と落とし込まれる。
 硬く熱い肉棒がずるりとアナルへ侵入する感覚に、直腸を無理矢理押し広げられて蹂躙される感覚にアスカは泣きじゃくり、絶望し、慈悲を乞う。
 またゆるゆると持ち上げられる。
 鈍い快楽が脊髄を這い上がってきていることを改めて彼女は認識する。なんども首を振り、奥歯を噛みしめて思考にかかるもやを晴らそうとする。
 ずるり、ずるりと落とし込まれた。
 絶叫する。
 涙を流して許してと叫ぶ。
 その声、その表情全てが雄の欲望を高めてしまう要素を備えていることに気がつかない。
 屈辱的で悪夢のようなピストンが十数回繰り返された。
 惣流・アスカ・ラングレーはもう逆らえない。
 男による強制的な肛門性交にも。
 尻穴を貫かれるペニスが与えてくれる快楽にも。
 その快楽を与えてくれる陵辱者たちを美声でたたえようとする衝動にも。
 一四歳の美少女は珊瑚色の瞳に濁りをたたえて叫んでいた。
 「ああっ!ああ!嘘みたい!嘘みたいにキモチいいっ!助けて!シンジぃぃッ!アタシ……アタシじゃなくなっちゃうよぉ!」
 誰もが振り返る紅茶色の艶やかな髪を振り乱して鳴いていた。
 「どうして!どうしてなの?!アタシ、アタシ、こんなヘンタイみたいなせっくすがダイスキなのぉ?オシリのアナで犯してもらうのがダイスキなオンナノコになっちゃったの?」
 少女の告白への男たちの哄笑に包まれながら、彼女はエクスタシーを迎えさせられた。
 「おやおや、ナニとぼけてるんでしょうねぇ。このエロ女子中生は」
 アスカの尻にたっぷり放出したさきの男と「選手交代」してすっかり柔らかになったアスカのアナルに後背位でペニスを突き立て、ぐるりぐるりと腰を回して男は笑う。
 「処女のくせにアナルでイけるくらい『開発』されてたことを、僕たちの『チーム』に発見されたくせに」
 ……嘘、そんなの、そんなのおかしいよ。
 ……この人たちにチカンされたのは本当だけど、本当だけど、アタシ、アタシ、そんな「開発」されてない……。
 「トイレでケツの穴をいじめてやったら、自分の名前どころか中学校のクラスやケータイの番号までべらべら話しはじめたくらいに、お尻が弱かったくせに」
 ……トイレ?
 本来聡明な少女は内心で首をかしげる。そのような最悪の事態は起きていないはずなのだ。彼女の幼馴染みが、彼女がそうひそかに望んでいたようなナイトぶりを発揮し、彼女を絶体絶命の窮地から見事救い出してくれたはずなのだ。
 「おやおや、まだしらばっくれてるね、彼女は」
 男の一人が言った。まるで少女の内心が手に取るように分かるようだった。
 「じゃ、これを見て思い出しなさい」
 いつのまにか「六人目の」男が目の前に現れていた。その手にはスケッチブックがあった。
 アスカは彼に見覚えがあった。
 ……この人、近所の大学生だ……アタシをいつも、いやらしい目で見てる、気味の悪いヤツ……ああ、コイツにもアタシの秘密、知られちゃったんだ……。
 背後から尻孔を貫かれている少女の、ほぼ一八〇度に開いて男にまたがらされている白く張り詰めた太腿、そこに彼はにんまり笑ってスケッチブックを乗せた。
 その表紙にはただ、「ASKAの記録」とだけ書かれていた。
 息を呑む少女。それは鍵のかかった引き出しの奥にしまわれていたはずなのに。
 背後から手が伸びてページがめくられる。
 「ほら、ごらん」
 澱んだアスカの瞳が揺れた。ああ、と陶然としたつぶやきが漏れる。

 ……そうなんだ。そうだったんだ。
 ……アタシ、やっぱりコイツらに非道いコト、されちゃったんだ……。
 ……アタシ、オシリを犯されて、このひとたちの奴隷になるって誓ったんだ……。
 ……そうなんだ。やっぱりそうなんだ。
 ……アタシ、ここでいっぱい気持ちのいいこと教えていただいて、バージンもここで捧げたんだ……。
 ……そう、そうだったんだわ。
 ……アタシ、ごしゅじんさまたちにめいれいされたとおりに、めいれいされああいてとせっくすしたんだ……。

 少女はうっすらと微笑みを浮かべる。

 彼女の目の前に広げられたスケッチブックのページには、美しい少女が描かれていた。
 比較的広いトイレのなかで、両手を頭上のパイプにから伸びたロープに吊された全裸の少女が描かれていた。
 拘束されたままなんども男たちの指で強引に絶頂を迎えさせられた、淫靡で破廉恥なイキ顔を披露するアスカがいた。
 愛らしい唇いっぱいにペニスを頬張り、さらには左右にそれぞれ一本ずつの雄の生殖器を握って放さない惣流・アスカ・ラングレーがいた。

 ……そうなんだ。どうしてアタシ……忘れてたんだろ。

 彼女は思い出す。
 その「素晴らしくも甘美な」体験を。



◆ ◆ ◆



 プラットフォームの端まで抱きかかえられるように連れてこられた少女は背中を押され、ふらふらと足を進めた。
 ドアが閉じ、がしゃりと鍵がかかけられ、その「檻」は完成する。
 二人が外に見張りとして残り、閉ざされた空間で惣流・アスカ・ラングレーを共有することになったのは三人だった。
 彼女を電車内で蹂躙した痴漢達は準備周到だった。
 少女の手首に手錠がかけられ、頭上のパイプから降りてきたチェーンに爪先立ちになるように固定された。
 やわやわと制服の上を再び這い回る男達の掌。
 愛液の跡が残る内股をくすぐり、ぐしょぐしょになったショーツの底を丹念に弄る指。
 彼女は抵抗しない。しゃくり上げ、いやいやと首を振りながら、熱い吐息と甘い声を唇から漏らすだけ。
 ショーツを横にずらして太い指でずぶりとアナルを貫かれる。
 ああ、と嬌声が唾液で艶やかに濡れた唇から迸る。腰が前へ突き出されてはしたないダンスを披露してしまう。
 制服のスカートに侵入し、すべすべした少女のおへそをのあたりを撫で回していた男はにやりと笑ってショーツの中へと手を進める。
 「い、いぃぃぁッ……くぅぅぅッ」
 前後の穴を女泣かせの指で刺激された女子中学生は眉根を寄せて悩ましい声で泣きじゃくる。
 その唇を男に奪われる。
 淫らな刺激を受けて発情しきった彼女は、男の舌も唾液も拒めない。あごまでべとべとになりながら夢心地で陵辱者と舌を絡めてしまっていた。なんども強引に絶頂を迎えさせられ、ぶるぶると全身を震わせつつ口腔性交に熱中してしまう。
 鞄の携帯がなんども何度も鳴っていることも気にならなくなっていた。
 もう彼女は、屈辱も怒りも感じることができなくなってしまっていた。
 そこにあるのはただ、底なしの快感だけだった。
 一時間にわたって五人の男たちは入れ替わり立ち替わり少女の唇を、菊門を、秘裂を味わい、いたぶった。
 誰もが振り返る美貌がどろりとした欲望に彩られるころ少女の手錠が外される。突き出した舌を男にしゃぶられて夢心地の彼女はためらいなくその手を男の背中に回してしまう。
 愛おしい幼馴染みとキスを交わすときと同様に。

 そして彼女は全裸に剥かれる。
 まず最初に名前を尋ねられ、「あすかぁ……アスカっていうのぉ……」とろれつの回らない口調で少女が応えると男たちはにやりと笑い、「じゃ、アスカの裸を見せてもらおうね」と宣言する。
 少女に否やはない。
 ボタンをぷつぷつと外されて「はーい、アスカちゃん『万歳』ですよー」と言われるとなんの躊躇いもなく両手を高くかかげて上衣を抜き取られる。
 スカートをすとんと落とされて、下着姿を愛でられる。
 ブラジャーのホックを外されても逆らいもせず、成長途上の乙女の膨らみと先端の屹立したピンクの蕾を披露した。
 どろどろに濡れそぼったショーツがくるりと剥かれ、水蜜桃のようなヒップがあらわにされても彼女は淫らなキスに夢中だった。
 「はーい、アスカちゃん、右脚あげて」「つぎは左脚でちゅよー。アスカちゃん」と命じられると、言われたとおりに脚を上げ、締まった足首のところまで降ろされた下着を抜き取られた。
 ローファーとハイソックスだけの姿にされたアスカは男たちに、彼らが構えるカメラのレンズにその輝く裸身を鑑賞された。「気をつけ」を命じられ、表情を伏せることも許されず、恥ずかしいところを隠すこともできない少女は男たちの視線を肌に感じるだけで意識がショートし、がくがくと膝を震わせてしまう。
 全裸の美少女に再び自己紹介を命じ、彼女の鞄から抜き出した生徒手帳と携帯電話を丹念に調べて彼女が嘘をついていないことを確認すると、彼らが次に尋ねるのは少女の乙女の秘密だった。
 恋人の有無、恋愛経験、さらに性体験まで根掘り葉掘り男たちは尋ねた。
 言葉に詰まると自慢の髪の毛を掴んで揺すられ、小振りのお尻をぶたれてしまう。
 恐怖と羞恥と快楽で飽和されてしまったアスカは美しいソプラノで淫らな答えを返すのだ。
 もうだめだった。貞操はまだ保っていたものの、性的に未熟な少女の精神は男たちに完全に征服されてしまっていた。
 だから自慰の経験を尋ねられたときなど、無意識のうちに「気をつけ」の姿勢をくずしてしまい、包皮から顔をのぞかせた乙女の宝石をすらりとした指でくりくりと磨きはじめてしまったのだ。
 男たちは大喜びする。
 だから少女が肛門性交の経験がないと言い張っても、アナルの快楽を誰かに教え込まれたことも否定しても気にしない。
 快楽のあまり自分で立つこともできなくなったアスカの細腰を抱き、尖った乳首を左右から舐めしゃぶって半狂乱になったところで、市販の浣腸薬をちゅるりと直腸へ注入する。
 ずぶりと指で栓をして、痙攣する女子中学生の可愛らしい乳首への責めをエスカレートした。
 かちかちになったちっぽけな乳頭を舌で転がし、甘噛みし、しごきあげる。めいっぱい吸い上げてちゅうぽん、と離し、じんじんしたところをれろれろと舐めてやる。
 扉の外で見張りに立っている男たちが心配になるほどのよがり声を美少女は上げ続けた。
 そして、崩壊の時を迎えさせられる。
 下半身の圧迫感に青ざめた少女は洋式の便座によじ登らされ、男たちに美尻が丸見えの格好でしゃがむ姿勢を強要される。
 脊髄を這い上がる悪寒が彼女の精神を蝕んだ。排泄を許されない苦痛と直腸からの快感に思考が朦朧となったアスカは髪の毛を撫でられ、猫なで声で命令される。
 「さぁ、アスカちゃん。みんなの見ている前でお腹のナカのナカのものを全部出すんだよ」と。
 同時に少女のアヌスの栓が、陵辱者の指が抜かれる。
 惣流・アスカ・ラングレーは決壊した。とうに限界に達していた彼女が耐えることなどできるわけがなかった。
 「い、いぃぃぃッ!うはぁぁあぁぁ……ッ!見ちゃいや!お願い!みないでぇぇぇぇ……ッ!!!ああ、ああ、でる、でる、でちゃうょぉぉぉ!!!」
 凛とした表情を排泄の快楽に蕩かし、美しい恥辱の涙をこぼし、アスカは人として尊厳を奪われる。

 魂を抜かれた美しい愛玩人形は「セックスドールとしての完成度を高めるために」まずアナルを輪姦された。
 便座に腰掛けた男の膝に乗せられ、ずぶずぶと排泄孔を貫かれる。
 彼女の口から漏れるのは拒絶でも助けを求める声でもなく、悩ましい吐息と、せっぱ詰まったあえぎのみだった。
 後ろの穴を淫らに揺すられ、貫かれているあいだに少女は飾り毛と処女膜を検査された。
 「彼らのために」操を立てていたことを輝く髪の毛を撫でながら賞賛された彼女はにっこりと微笑んで、報酬としてクリトリスに与えられる快楽に感謝の叫びをあげてしまう。
 さらに「ご褒美」として彼女の唇のすぐそばに見学者達の硬くぱんぱんに張りつめたペニスが突きつけられた
 早熟なアスカは男達が何を求めているかよく分かっていた。
 きまじめだがアスカ同様早熟な親友との深夜の電話やチャットによりその手の情報についてはたっぷり知識を得ていたのだった。
 しかし二人とも「そんなコト、その、本当に大好きなひとのモノにしかできないよねー」と言葉を交わすのが常だったが。
 アスカ自身も「そんなこと」をもしする相手がいるとすれば、たった一人しか存在しないと思っていた。
 だが、アナルを貫かれたクォーター美少女はなんの躊躇もせずに血管の浮いた淫水焼けしたペニスにキスをし、鼻声を上げて柔らかな口いっぱいのそれを頬張る。
 もちろんそれは、少女がそうすると思っていた愛おしい幼なじみの、碇シンジのペニスではない。
 だが彼女にとってはそんなことはまったく気にもならない。
 なぜなら少女を取り囲むペニスはすべて「本当にだいすきなひとのモノ」だったのだから。
 だから彼女は粘液の苦い味に感涙しつつ、しなやかな指を残りのペニスに絡めてしごきはじめるのだ。
 だから彼女は「本当にだいすきな」男達に励まされ、指導されると熱心に忠実に舌を、指を用いるのだった。
 だから濃厚な雄汁を喉に流し込まれたとき、少女は歓喜に震えてしまったのだ。
 いやらしい臭いの白濁液を美貌にぶちまけられたとき、アスカはうっとりと微笑んでしまったのだ。
 尻穴に精液を流し込まれると幸福感で脳裏が真っ白になってしまったのだ。

 ドアの外から悲鳴とくぐもった声が聞こえてきたのはそのときだった。

 「知り合いか?アスカ?」
 アスカの目の前には二人の少年がいた。「見張り」によって特殊警棒でめった打ちにされ、顔を腫らし、抵抗心も蒸発してしまった壱中の生徒がいた。
 少女は震えていた。必要以上の熱心さで首を振る。彼女がなにかを偽っているのは明白だった。
 「素直なキミはどこに行っちゃったのかなぁ?」
 少女は視線を逸らす。
 「いいのかなぁ?そんな態度で」
 「い、いぃぃぃッ!あ、あああぁッ!」
 少女のブルーの瞳が見開かれた。全身を反り返らせて泣き叫ぶ。
 少女のクリットはごつごつした指に押しつぶされていた。そのままぐりぐりとひねられる。
 涙とともにアスカは陥落する。
 「クラスの……コで……す」
 「名前は?」
 「相田……と……」
 「もう一人は?」言葉を詰まらせる少女の敏感にされたクリトリスが再び責めたてられた。歯を食いしばるアスカ。
 もちろん彼女の忍耐は長くは続かない。残酷な痴漢の指による責めに耐えられるはずなどない。
 「いっ!ひぎぃいぃぃン!言います!言います!い、碇、碇……クンです!」
 「ほう、これがアスカクンの思い人なんだ」
 「!!!」シンジとアスカの両方が悲痛な声を上げる。
 ……アタシ……そんなことまで……こんな……大事なことを……。
 彼女はがっくりと首を折り、ぽろぽろと涙をこぼして泣きじゃくる。
 「せっかく助けに来たのになぁ……」男の蹴りがシンジの脇腹に叩き込まれる。苦鳴とともに身を折る少年。
 そうなのだ。
 男たちにアスカが連れ去られるところを偶然発見した少年は、彼女を追ってきてくれたのだ。
 ただ、ただ……。
 遅かったのだ。
 ほんの数十秒、手遅れだったのだ。
 すし詰めの車両から降りるのに手間取ってしまい、その数十秒のロスで碇シンジと相田ケンスケは勝ち気で美しいクラスメイトを見失ってしまったのだった。
 何度携帯を鳴らしても応えない少女に、少年は不安で胸が張り裂けそうになる。
 だから彼はもう一度丹念に駅舎のなかを探してまわったのだった。
 だからプラットフォームの端にあるトイレの確認が一番最後になってしまったのは、少年とその幼馴染みにとって不幸としか言いようがない。
 さらに、武器まで用意していた「見張り」に奇襲されるなど思ってもいない少年達に勝機などあるわけなどない。
 「アスカ」少女のアナルを貫いたまま男が耳元でささやいた。「どっちがシンジ君かな?」
 泣きじゃくる少女がタイルに膝をついてうめいている少年を指さす。
 「じゃぁ、もう一人が相田クンかい?」
 アスカは涙を浮かべてこっくりする。男はにやりと笑う。
 「おい、相田クン、キミにいい思いさせてあげるよ」男の笑みがさらに大きくなり、少女の蜜園を掻き回していた指で狭隘な孔をくちりと開いてみせた。悲鳴を上げるアスカ。「このガキの処女、君にプレゼントするよ」
 「いやぁぁぁッ!許して!許して!」
 「アスカ!ぐふッ」
 アスカが泣き叫び、立ち上がろうとしたシンジの腹部に再び蹴りが見舞われた。
 「んん?嫌かい?相田クン?」
 「……そんな、そんな……オレ、できないよ……」
 相田ケンスケの顔は青ざめていた。目配せをする男たち。
 「本当に?」
 「……あ、ああ……うん」
 少年の答えに対し、男たちは暴力で報いた。壁に押しつけ、腹部を顔をめった打ちにする。少年の悲鳴はすぐに泣き声に変わってしまう。
 「なぁ、相田クン」男の声は相変わらずチャシャ猫のような笑みの成分を含んでいた。「本当にこのアスカちゃんのバージン、いらないのかい?」
 「……や、やだよ……あ……ああ!止めてくれよぉ!もう殴らないでくれよぉ!やるよ……やるよ……惣流と……やるよ……」
 目の前で警棒を振り上げられた少年は捨て鉢な口調で少女をレイプすることに同意する。
 肛門性交を強いられて、熱い吐息を漏らす少女の前に彼は連れてこられた。制服のズボンとブリーフが下ろされる。
 「ほら見ろ、しっかりおっ立ててるじゃないか」哄笑にケンスケは顔をそむけた。だが、彼にとっての試練は始まったばかりだった。
 「おら!アスカ、お前のバージンを捧げるチンポだぞ!ちゃんとお口で『ご挨拶』するんだ」
 少女に拒絶は許されない。尻穴へのピストン運動とクリトリスへの刺激は彼女のプライドを根こそぎにしてしまう。
 惣流・アスカ・ラングレーのしなやかな両手が、なかば皮をかぶり、先端から透明な涎を垂らす同級生のペニスに添えられる。
 形の良い唇が、いつも彼に辛らつな言葉を投げつけていた唇が吐息とともに開かれ、先端をぱっくり銜える。
 「!!おおおッ!」ケンスケは悲鳴とも溜息とも言えない声を上げてしまう。
 「おいおい、もう暴発かよ」
 少女の唇は彼の精液でどろどろになっている。
 ネットや画像でそのようなシーンはおなじみだったにもかかわらず、その甘美な刺激は彼の脳髄をしびれさせていた。
 「ま、まだまだ元気そうだから、ちゃんとご奉仕してスタンバイするんだよ。アスカ」
 こっくりとうなずくとアスカは唇を舐め、放出された体液を全て飲み干し、改めて同級生への口唇奉仕をはじめた。
 まだ生白いシャフトをやわやわと刺激し、先端の包皮にそっと舌を差し込んで丹念にねぶっていく。唾液をいっぱいに溜め、じゅぼじゅぼと音を立てて口内の粘膜で若いペニスを刺激する。
 さらに男たちにはやし立てられるまま、大きく口を開けて根元の方までくわえ込む。
 「惣流!オレ、おれ、おれ!」ぎゅっと歯を食いしばっていたケンスケがか細い悲鳴を上げる。
 再度の暴発を受けてもアスカはもう動揺しない。二時間あまりの調教の結果、従順な精飲人形として目覚めさせられた少女は同級生のホルモン臭に支配され、欲情しきっていたのだった。
 上目遣いに淫らな瞳で微笑むとちゅうちゅう音を立てて少年のザーメンをすする。「はむぅぅ……ン」と悩ましいと息とともに名残惜しげにペニスから唇を離すと、そこには唾液と精液の混じり合った淫らきわまりないアーチが架かる。
 そして、惣流・アスカ・ラングレーは同級生の相田ケンスケに純潔を捧げる。耳元で「ケツ穴でイけるように仕込んでもらって、前後同時のセックスでバージンを無くすなんて、アスカちゃんってすごいラッキーな女の子だね」とささやかれると、本当にそうかもしれないとさえ考えてしまうほど彼女は堕落してしまっていた。
 そして、後ろから膝裏を抱えられ、自身の指で膣口を開く姿勢を強いられて恋人の目の前で同級生のペニスを受け入れるのだ。
 あまりに恥知らずで扇情的な光景にケンスケは言葉もなく、ふらふらと少女と密着してペニスを挿入しようと試みる。
 角度が合わず、何度もにゅるりと外れてしまう。それすらも彼女にとってはたまらない前戯となっていた。
 男に腰を持ち上げられる。ペニスに子宮の裏を突かれてアスカの意識は白熱した。
 そこに角度を合わせたケンスケがペニスを突き立てる。
 「あ、あああ……ッ!」淫らにほぐされたとはいえ、処女の未熟な隘路に灼熱の肉棒が入り込む感覚はアスカの意識を取り戻させるには十分だった。
 「シンジ……見ないで……見ないで……許して……アタシ、アタシを許してぇぇぇ……」
 だが、淫獄に捕らえられたのはアスカだけではないのだ。同級生の悲鳴にヒートアップしたケンスケはぐいぐいと腰を進め、その最中のあまりの締め付けの良さにまたも暴発しつつもさらなる先へ進もうとする。
 少年の樹液自身が潤滑剤となり、アスカの狭い肉洞に少年のペニスはじりじりと収まっていく。

 やがてアスカとケンスケの腰が完全に密着したとき、少女のすらりとした脚は彼の腰に絡みつき、唇はこう叫んでいた。
 「ああ、すごい!お、お、オチンチン二本も入ってる!すごいの!すごいの!すごくいいの!すごくステキなの、アスカは、アスカはとってもシアワ……」



◆ ◆ ◆



 アスカの瞳が見開かれた。

 ここは駅のトイレではなかった。
 ここは自宅のソファーの上だった。
 相田ケンスケも、碇シンジもここにはいなかった。

 そして、彼女を蹂躙していた男たちも存在していなかった。
 いや違う。
 彼女を蹂躙していた男たちは存在しないも同然だった。
 少女の周りには四つの緑の炎がくすぶっており、少女の右隣の男には銀色の槍が大きく開けた口から後頭部へと貫通していた。
 しゅっ、と目にもとまらない速度で槍が戻る。
 陵辱者はカーペットに崩れ落ち、その形状を奇怪に変化させる。
 すなわち過去に少女をいたぶった痴漢の一人から、黒ずくめの男へと。
 さらにその肉体はぐずぐずと崩れ、真っ黒なカラスへと変化したのち緑色の炎へと姿を変える。
 惣流・アスカ・ラングレーの周囲には五つの炎と「六人目」の男が下半身を剥き出しにしてカーペットの上で腰を抜かしていた。
 その代わり、もう一人の侵入者がいた。
 それは小柄なアルビノの少女だった。
 それはプラチナブロンドをシャギーにした美しい少女だった。
 それはアスカと同じ中学校の制服を身につけ、奇怪な二股の槍を持っていた。
 それは、ルビーのような瞳を持ち、その口元には肉食獣の笑みがあった。
 「れ……い」アスカはつぶやく。その姿はアスカの知っている少女とひどく似通っていた。でもその全身から放射される気配は人外のものであることは明白だった。
 「あなたが下僕というわけね」アスカのことを一切無視してその「少女」は腰を抜かしている男に辛辣きわまりない口調で言った。「どうやって誘惑されたの?『同じマンションに住んでいる女の子を好き放題にさせてやる』とでも?『普段オナニーのネタにしている女子中学生を奴隷にできる』とでも?」
 「な、なぜ……」大学生は青ざめていた。
 「あまりに陳腐」少女は溜息をついた。「あなたがマンション前の護符を外し、彼らをマンションの中に引き入れたのね。あとは踊り場から『飛んで』、バルコニーに達すればいいのだから」
 「どうしてお前はそんなところまで知って……た、た、たすけてくれぇぇツ、ころさ、ころさないで……」大学生がアルビノ少女にすがりつき、部屋の隅まで蹴り飛ばされた。
 「レイプに参加するつもりでやってきたくせに。それに、彼女にみせた『世界』はあなたが創作したものでしょう。『惣流・アスカ・ラングレーを恋人の前で犯させる』なんて」
 ぐい、と少女が男の襟を掴む。無造作に玄関まで引きずっていく。
 ドアが開閉する音が聞こえ、しばらくのあいだ細い悲鳴とコンクリートとなにかが擦れ合う音が聞こえていた。
 それから数十秒後、どたばたという音と絶叫が聞こえてくる。
 「彼女」が戻ってきたのはその数分後だった。

 「大丈夫。肉体はダメージを受けていないから」
 ソファーに躰を投げ出して天井を見つめているアスカにアルビノ少女は言った。そっと手を伸ばし、乱れた紅茶色の髪の毛を直してやる。
 突然アスカがわっと泣き出し、少女にすがりつく。
 「イヤだったのに!恥ずかしいのに!やりたくなかったのに!アタシ、アタシ!どうして、どうして……」
 号泣するクォーター少女の背中に彼女はそっと手を回す。
 「貴女は悪くないの。あれは人の心の弱いところを突くもの。あれはそういうものなのだから。貴女は悪くないの」
 とんとん、と軽く背中を叩いてあげながら、呪文のように彼女はつぶやく。なんども何度も繰り返す。
 アスカの泣き声が次第に小さくなり、その涙が乾いてしまうまで。
 「あ、あの……ありがと……う」ぐすっと鼻をすすってアスカは不器用に笑った。少女は黙ったままだった。
 「あの、その、アレ……は?」
 「アレ……ああ、命までは取っていないわ」「黒の男たち」の下僕に身を墜とした男について彼女は簡潔に告げた。
 「あの……さ、アイツらっていったい何者なの?アタシに痴漢したヤツラじゃないの?」
 「違うわ」少女は首を振る。あの痴漢達は全員死んだわ。「カヲル」がそうしたの。彼女は胸の中でつぶやいた。「貴女は気にしなくていいの。もうこんなことは起こらないから」
 「でも!」いきり立つアスカを軽く手を挙げて制した。「大丈夫。あたしが守るから」アスカに額にすっと掌をかざす。
 「でも!そんな!ちょ、ちょっと……あれ?このシトラスのにお……い、どこか……で……」
 「忘れなさい。惣流・アスカ・ラングレー」
 穏やかな声とともにアスカの意識は安息へと沈む。
 「眠りなさい。惣流・アスカ・ラングレー」
 そっとソファーに同級生の肢体を横たわらせ、床に落ちたクッションをアスカのお腹に乗せる。
 ふぅっ、とアルビノ少女は溜息をつく。だがその表情はクッションを抱きかかえて眠るアスカと同様ひどく穏やかだった。
 くすりと笑って立ち上がる。
 ぐらりとよろめいた。絨毯に膝をついてしまう。
 ……やはりかなり……消耗してしまったのね。
 全身が汗まみれになっていることに少女はあらためて気付く。

 ……「カヲル」が拠点としている高層マンション区域を「封鎖」するために使った術。
 ……さらにそれを邪魔しようとする彼の使い魔と、そして彼自身と戦うためのエネルギー。
 ……「リンク」を断ち切ったはずなのにまだ稼働する使い魔が、惣流・アスカ・ラングレーを下僕に変えようとするのを止めさせた力。

 ちらと窓の外を見つめる。ぷっくりと膨らんだ月は彼女にとってとても心強いものだった。
 ……でも、いくら満月が近いからと言っても、無茶をしすぎたかもしれない。
 めまいと戦いながら立ち上がる。ゆっくりとベランダへ歩いていく。
 そっと窓を閉めて再び月を見上げる。
 その時、「綾波」レイの口元には笑みがあった。
 ……こんどこそ、勝てる。
 少女は月光の中に身を躍らせた。



◆ ◆ ◆



 なにか柔らかく、温かいものにのしかかられていた。
 なにかに拘束され身動きを取ることができなかった。
 なにか異常な事態が発生していた。

 温かく、心地よい眠りの世界からレイは急速に意識を覚醒させる。
 「!!!」
 「……ヒトが乗っかっても起きないってのも凄いわねぇ、シンジもそうだけど、アンタも相当なものよ」
 毛布にくるまっているレイの身体の上に制服姿のアスカがちょこんと腰掛けて見下ろしていた。
 「……重いわ。すごく」ぶすっとした声が出てしまうが気にしない。横目で時計を見る。
 ……三〇分以上寝過ごしていた。
 「うっさい」アスカはレイの額に手を伸ばす。ひんやりとした手がレイにはひどく心地よい。アスカの表情が曇った。
 「熱があるわよ。アンタ」
 「……大丈夫」やっぱり昨夜に消耗したからだ。レイは思う。でもなぜか、この美しい同級生の言葉にレイは反発してしまうのだ。
 「んなことないって」アスカはレイの瞳をのぞき込む。なぜかどきりとしてしまうレイ。
 ……だめ、昨夜のことを思い出すのは卑怯だわ。でも、あのときの彼女は……。
 気がつくと、アスカは彼女の吐息をくすぐったく感じるほどレイに接近していた。
 「あ……ちょっと」
 ……まさか、「使い魔」たちの性的拘束が残っている!?
 「だめ!だめ!アスカ!目を覚まして!同性どうしでなんて!だめ……あ」
 もがくレイのおでこにアスカは自分のおでこをくっつけていた。
 「やっぱり熱っぽいわ。三七度五分ってとこかな。おばさまに話しとく」そこまで言ってアスカはにんまり笑う。「ね、アンタ、いまひょっとしてなんかあやしーいコト、考えてなかった?」
 アルビノの少女は真っ赤になったまま黙っていた。
 「……起きる。学校へ行くわ」
 「寝てなさいって」
 「行く。なんて言われようと行くの」
 もがくレイの上にいまだに乗っかっていたアスカの眉がきりりと上がる。
 「あーそう、そうなの。アタシのありがたーい言葉、聞く気がないんだ」
 「……ないわ。ぜんぜん」
 「そーなんだ」
 「そうなのよ」
 「じゃ、実力行使ね」その言葉と同時にレイの視界がぐるぐると回った。
 「あ!あっ!きゃ!」さらにその視界は次第に暗くなっていく。
 「おっしゃー完了」パン、とアスカが両手を叩く。次の瞬間ベッドからたたき落とされ、下着を丸見えにしたままひっくり返る。
 部屋のドアが開き、ユイがひょいとのぞき込んだ。柳眉がきりきりと逆立つ。
 「アスカちゃん!レイちゃん!なにをやってるの!」
 「だって……」毛布にぐるぐる巻きにされたレイがぷはぁっと頭を突き出してむくれた。
 「レイが悪いのよぉ」でんぐり返ったままアスカは糾弾する。「アタシが熱があるから学校休みなさい。って言ってあげてるのにぜんぜん聞かないんだもん」
 「私の身体は私のもの。指示は受けないわ」
 「ったく、ナニサマのつもりよ!アンタって!」
 「『碇レイさま』よ、よろしくね」
 「うわ、この!ぜーったいゆるさない!そんなミノムシみたいなカッコウしてぇ」
 「そうしたのは、そうしたのは……貴女でしょう」
 「レイちゃん……アスカちゃん……」ユイがうなり声を上げた。すぅっと深呼吸する。
 「いい加減になさい!!」
 二人とも一瞬のうちに正座していた。レイに至ってはいまだに毛布でぐるぐる巻きのままだった。


 「……なんで僕まで」
 「うっさい、そもそもアンタが早起きしてればこんな騒動にならなかったのよ」
 応接間の絨毯にアスカとシンジは並んで正座させられていた。彼の父親は騒動の発生直後にそさくさと出勤している。
 「そうよ。シンジにも責任の一端があるわ」
 レイの寝具を整え、もう一度彼女を寝かしつけた(ユイの言葉にレイはひどく素直に従ったばかりか、あとでホットミルクとクッキーを持ってきて欲しいとおねだりまでしたのだった)ユイが断言した。
 「ほら、おばさまもそう言ってるじゃないの。反省なさい」
 「……アスカちゃん」
 「……はーい。反省してますー」
 本当に分かっているんだか。ユイは嘆息する。本当にときどき男の子みたいなことをするんだから。アスカちゃんったら。
 一〇分ほどシンジの生活態度とアスカのレイに対する無礼な行為についてお説教をしたのち、ユイは手首に目を落とす。
 「このままだと遅刻ね。車で送ってあげるわ」
 「アタシ、助手席がいい!」さきほどまで神妙だった表情をぱっと輝かせるアスカにユイは溜息をつくと同時にたまらなく愛おしさを感じるのだった。



◆ ◆ ◆



 「着いたわよ」ユイがイタリア車のサイドブレーキを引く。ここは校門まで一ブロックほど離れた路地だった。
 結局いつもよりも一〇分ちかく早く着いたためか、道路にはまだちらほらとしか生との姿は見えなかった。
 「じゃ、行くね」シンジが後部座席のドアを開ける。
 「あっ、ちょっと待ちなさい」アスカがそれに続こうとするが、ユイはそれを制止して、シンジだけを先に行かせる。少年は素直にうなずくと振り向きもせずに校門へと歩いていった。
 「おばさま……?」少し不安げなアスカにユイは微笑んでみせる。さっきアスカがレイにそうしたように顔を近づけ、おでこをくっつける。
 「あのね。アスカちゃん、お願いがあるの」ユイは穏やかに笑った。
 「なに?おばさま?」
 「シンジのこと……よろしくね」ユイの言葉にアスカが息を呑む。
 「え?ええっと?え?だって、いままでも……あ!」
 分かっているんだ。ユイおばさまには。アスカは突然理解した。少年と少女がもはや幼馴染みではなく、若い恋人になってしまったことを少女の敬愛する女性は気がついたのだと。
 「アレはね、そういうことには疎い子だから、きっとアスカちゃんには迷惑をかけると思うの。でも、いい子だから……その、シンジは」
 「う、うん」アスカは何度もうなずいた。自分が母親になるならこんな人にと憧れていた女性に認められ、託された喜びに涙が浮かんできた。頬を染めて告白する。「分かってる。シンジったらね、実はちょっと……格好いいのよ」
 「よかった。アスカちゃんがどんどん可愛くなっていくのに、うちのアレはああだから……。息子の母親としては心配していたのよ」
 「そんなぁ」くすくす笑う少女に、ユイはきりっと表情を引き締めた。
 「でもね、アスカちゃん、ちゃんと気をつけるのよ」
 「……え……え、ええええっ!」
 ……ひょっとして……ばれてるの……かな?
 真っ赤になる少女にユイが浮かべる笑みはひどく複雑だった。
 「この年でわたし、まだおばあちゃんにはなりたくありませんからね」
 「は、はい!はいっ」
 美少女と美母は抱き合ったままくすくす笑う。
 それはとても美しい光景だった。


 下駄箱の前でシンジは立っていた。少女の幸福な気分はさらに加速する。
 「なんだったの?母さんと」
 「内緒よ、内緒。女同士のとってもとっても大事な話」
 「ふーん」シンジはそれ以上の追求を諦めたようだった。靴を履き替えて階段へと向かう。
 不意に振り返った。
 「あのさ、アスカ」
 「な、なに?」
 「母さんの膝、見た?」アスカは少し眉をひそめて記憶をまさぐる。
 「……怪我、してなかった?擦り傷みたいな」
 「……うん。珍しいよね」
 「アンタこそ珍しいわよ。どうしたのよ」
 「その、母さんが朝からスカートって珍しいじゃない。そ、それで」
 「ふーん」
 「なんだよ。その言い方は」
 「別にぃ」
 それでこの件はおしまいだった。教室に入った二人はクラスメイトとのやりとりに気を取られてそれどころではなくなってしまったのだから。
 二人にとっての幸福な時間は、まだまだ続いていたのだから。



◆ ◆ ◆



 碇ユイの幸福な時間、それは彼女が車をマンションに戻すまでしか続かなかった。
 地下駐車場にパークして、彼女はエレベーターに乗る。
 三五階のボタンを押した。それは自宅のある階ではなかった。
 震える足取りで一室に向かう。ブザーを押す。
 ドアのロックが解除され、ユイはうつむいたまま部屋へと足を進めた。

 ぱたぱたという足音と荒い呼吸音が近づき、その正体を現した。ユイは息を呑む。
 そこにいるのは二頭の獣だった。
 どちらも体高が一メートルを超える真っ黒いシェパードだった。
 ユイにはひどく懐いているらしく、ワンピース姿の彼女に身体をぶつけるほど身をすり寄せる。
 その犬たちに震える指でリードを取り付け、部屋の奥に声をかける。
 「あの……星野さん、いまからジョーとリッチーをお散歩につれていきます……ね」
 優しい老婦人の感謝の声がすぐに返ってきた。しかしユイの目には涙が浮かんでいるのだ。
 「さ、行きましょう」ユイは人間に呼びかけるかのように二頭の犬に声をかけた。

 意外なほど人のいない午前の公園を碇ユイは進んでいた。
 いや、むしろ連行されられていたという表現が正しいだろう。
 左右の手に持ったリードは手首に絡みつき、彼女は二頭のシェパードに着いていくしかないのだった。
 不意に「彼ら」が右へ折れ、舗道からはみ出した。植え込みの方へと、陰の方へと進む。
 ユイが細い悲鳴を上げた。しかし逆らうことはできない。
 人目につかない空間へと連れ込まれたユイは青ざめたまま立ちすくむ。
 犬の首からリードが音もなく外れた。
 《ジョー》がふんふんと鼻を鳴らしつつ、彼女のスカートの中に無造作に頭を突っ込んだ。そのまま内腿を、ショーツ越しの淫花を舐め回す。
 「い、いいいっ!あ……」眉根を寄せて快楽に耐えようと努力する。人から獣へ堕ちるその時をできるだけ遅くしようと努力する。
 ワンピースのポケットで電話が鳴っていた。
 「……まだ強情なんだね。ユイ」
 「ああ、カヲル……さま」授業中のはずなのにとちらりと思考がかすめるが、息子と同級生の美少年の言葉はそんな疑念などかき消してしまう。
 「昨日は大変だったね。ユイ」
 ユイは唇を噛みしめる。「彼」はなんでも分かっているのだ。
 「あのね、ユイ。僕はちょっと事情があって、そっちに行けないんだ。そう、君にチンポをあげる仕事は別の誰かにやってもらわなくっちゃいけないんだ」
 「あ、あああ、は……い」ユイの女の部分が急に熱を持ち始める。さらに畜生の舌遣いが熱心になった。
 「分かっているみたいだね。ユイ。その通りだよ」
 「カヲルさま!カヲルさまぁ!」ユイは泣き出した。「ひどすぎます!そんな、犬がシェパード犬が代理のご主人様だなんて!」
 「いやかい?いやならいいんだよ。その代わり、ユイは今後、二度とオーガズムを迎えることはできなくなるんだよ」
 「ああ……」
 「だって、ユイは貞淑な人妻に戻りたいんだろ?だから僕はユイに見えない貞操帯をプレゼントしてあげるんだ」
 「お願いです……お願いです……お願いです……」
 「耐えられないよね。ユイには。夕べ一晩中オナニーしていたようなユイには。犬に押し倒されて、四つん這いになって押さえつけられて、もう少しでレイプされそうになった記憶をオカズにしちゃうようなユイには耐えられないよね?」
 「ああ……ああ……ああ……」
 ユイはぽろぽろと涙をこぼしながら背中へ手を回す。
 しゅるりとエプロンが解かれ、ワンピースのファスナーが下ろされる。
 肩のなかばまで脱いだところで《リッチー》が乱暴にワンピースを引き落とした。続いて《ジョー》がサイドストリングのショーツを解く。
 いまだに二十代の容貌をひそかに誇っていた美母は涙をこぼしながら獣の姿勢を取った。二頭の犬が堂々とした態度でブラジャーを剥ぎ取った。
 「そうそう。良くできましたね。ユイ」カヲルの声が電話から響く。「じゃ、宣言してもらおうか」
 しゃくり上げながら彼女は快楽にまみれた声で、新たに「主人」となった獣たちに告げる。

 いまこのときから自分は碇ユイではなく、「牝犬ユイ」だと。
 昨日の無礼を心からお詫びすると同時に、二度とあのような態度は取りませんと。
 どうか自分を「いっぴきの牝犬」として犯してくださいと。

 電話の向こうからぱちぱちと拍手が聞こえ、《ジョー》が乱暴に肩をぶつけて彼女にあおむけの……犬としての絶対服従を受け入れる姿勢を……ユイに取らせる。
 長くざらざらとした《リッチー》の舌がユイが恥知らずに緩めた太股のあいだを舐めはじめると《ユイ》は歓喜の声を上げ、鼻を鳴らしてもっともっととせがんでいた。
 《リッチー》は寛大なご主人様だった。
 せがまれるまま牝犬のあらゆるひだを……クリトリスもアナルも、もちろん陰裂のその奥も舐めつくし、愛液を求めて体の奥深くまで舌を潜り込ませて、《ユイ》を思い存分鳴かせる。
 彼女の周りをぐるぐる回っていた《ジョー》がいきり立った赤黒いペニスを彼女の唇に近づけると歓喜の声とともに《ユイ》はそれを口に含んでれろれろと舐め回し、先端をつんつんと舌でつついて驚喜させる。

 「楽しんでいるようだね、ユイ」
 カヲルの声が遠くから聞こえてくる。しかしもう、いまの《ユイ》にはそれがなんと言っているか分からない。
 なぜ、自分がこんなことをしているかも分からない。
 《ジョー》に命じられるまま犬這いの姿勢を取り、膝と肘に擦り傷を作りつつも、雄犬のペニスの期待に胸を震わせている牝犬には分かるはずなどないのだった……。




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