岩場で触手


Original text:PDX.さん


 ベッドの上には、一組の男女。歳のころは二十歳かやや手前であろうか。
 少し線の細さを残す優しそうな青年が仰向けに横たわり、はちきれんばかりの美しい裸身を惜しげも無く晒す女が、その上に跨がって自ら腰を振っている。
「ああっ、あ、アスカっ!」
「まだ……まだよ……いっしょ、一緒に……あああ!」
 ベッドのスプリングがギシギシと悲鳴を上げる。そして、そのリズムが頂点にさしかかり、二人は同時に悦楽の頂へと舞い上がる。
「あ、アスカぁぁっ!」
「イく、イくぅぅ!!」
 熱い肉洞が男の器官を食いちぎらんばかりに噛みしめ、それに屈した男がありったけの精を撒き散らす。子宮へと降り注ぐ灼熱の滴に胎内を焼かれ、女もまた絶頂に達する。
 びん、と伸び切った二人の肢体から力が抜け、そのままベッドへと崩れ落ちる。
 ふらりと男の上に倒れ込む女を、男が優しく抱き留める。
「……最高だったよ」
「アンタのも、ふふ、素敵よ」
 シンジの唇を奪うアスカ。柔らかな舌を伸ばして、彼の口腔内を隅々まで犯す。
 そう、シンジを犯すのは、いつもアスカの側であった。
 様々な過去のいきさつから、彼女は男に屈し、男に組み敷かれる事をよしとはしなかった。
 碇シンジと恋仲になってからもそれは変わらず、ベッドの中でも、バスルームでも、必ず自分が主導権を握って放さなかった。そして、碇シンジはそれを受け入れ、彼女が望むスタイルでの性交に満足していた。


 翌日。
 アスカは愛車のハンドルを握り、いつもの入り江へと向かっていた。
 研究の合間に確保できた休日に、趣味のダイビングを満喫するためである。
 ダイビングといってもボンベを背負うような本格的なものではなく、水中メガネとシュノーケルの他にはフィンだけを装備した簡単な物だ。
 それでも、近年サンゴ礁化しつつある日本の海岸ならば、浅い水域でも水中散歩を堪能できるのである。
 しかし、彼女が駆るクルマには、同行者は乗っていなかった。
「明日はどうするの?」
「また海にでも行ってくるわ」
「洞木さんは?」
「ジャージとデート。邪魔しちゃ悪いでしょ」
「そうだね」
「何よ他人事みたいに。アンタのゼミの研究発表のせいで、明日も一緒できないんでしょーが」
「ごめんごめん」
 昨夜のシンジとの会話が脳裏をよぎる。
 同じ大学に通うアスカとシンジ。だが、ドイツで大学を卒業したアスカと、普通に日本の中学・高校を卒業したシンジとでは、同じ道を歩む事はできなかったのだ。
 そもそも二人の学部も異なれば過程も異なっているせいもあって、なかなかスケジュールが合わなかった。昨夜はなんとか都合がついたが、日中は今日のように別行動となることの方が多い二人であった。
 ほどなくして、赤いEVは人気の無い入り江の近くの路肩に車を停める。
 ドアをロックし、道具をまとめて突っ込んであるバッグをぶら下げて海岸へと降りてゆく。
 この入り江は海岸通りから離れた位置にあり、付近に民家がないせいもあって生活排水などの影響もなく、海中散歩にはもってこいのスポットであった。
 もっとも、不便なせいもあって釣り人すら訪れないマイナーな場所である。そんなこともあって、事実上アスカが独占している海と言えよう。
 タンクトップとカットジーンズの下にはあらかじめビキニの水着を着込んでいるため、準備はあっという間である。
 以前シンジと一緒にホテルのプールに出かけたときに、あまりの露出度に彼を慌てさせたといういわく付きの水着。
「ふふ」
 準備体操の前にUVカットのためのローションを全身に塗り込みながら、あの時のことを思い出して微笑むアスカ。他の男に彼女の肢体を見せたくないが故の慌てぶりがアスカには嬉しかった。
「さて、と」
 準備運動も終え、装備品を手にして海に向かう。波打ち際でそれらを身に付け、ざぶざぶと水に浸かってゆく。バストが浮力を感じるくらいになったところで海底を蹴り、そのまま泳ぎ始める。
 今日は、いつもより多少波が強い。それでも海水の透明度は高く、絶好のダイブ日和といえた。
(シンジも来ればよかったのに)
 彼にも都合という物があるのだが、アスカとしてはついついそう思ってしまう。この素晴らしい景色を、恋しい男と共有できるのであればなんと素晴らしい事であろうか。
 時折深く潜ったり、あるいは岩場に近づいて様々な動植物を観賞したり。時間が経つのを忘れてし海中の散歩を楽しむアスカ。
(そろそろ休憩しようかしら)
 気がつけばずいぶん泳いでいた。さすがに少し身体が冷えてきたかもしれない。一度上がって、ランチにすべきだろう。
 そう決めたアスカは、岩場を舐めるような距離まで近づいて、変化に富んだ景色を眺めながらバッグを置いた岸辺まで泳いでいた。
 その時。
 やや強めの波がアスカの身体を玩んだ。
(マズっ!)
 アスカは波に煽られ岩場に叩きつけられそうになった。だがパイロットとしての訓練が功を奏した。咄嗟にバランスを保ち、足ヒレをつけた爪先で岩場を蹴る事ができた。
 だが、その直後もう一度波に煽られ、今度こそ本当に岩場に叩きつけられてしまった。
(シンジ!)
 露出度の高い水着ゆえに全身が露になっている今、岩場にぶつかったら全身傷だらけになるのは避けられない。いや、生命に関わると言ってもよいだろう。眼前に迫る岩を見て、恐怖と後悔に目を閉じたアスカが心の中で叫んだのは、恋しい男の名前であった。


(……あれ?)
 衝撃が来ない。
 苦痛も無い。
 あれだけの勢いで岩場に叩きつけられたとあっては、大怪我は免れえないはずなのに。
 だがアスカの身体は何か柔らかい物によって抱き止められ、惨事に見舞われずに済んだのであった。
 辛うじて頭だけを水面から上に出していたアスカは安堵の溜め息をついた。そしておそるおそる目を開け、命の恩人(?)の姿を見ようとした。
「なっ、何コレッ!?」
 アスカが目にしたのは、岩場の壁を埋め尽くすイソギンチャクの群生であった。
 それも、大きなものは直径、高さとも二十センチはあろうというものがびっしりと壁面に並び、白い触手を海中にたなびかせていた。
 この大きなイソギンチャクが、クッションとなってアスカの身体を支えてくれたのだ。
 もしこれがカメノテやフジツボの群生であったら、今ごろアスカは全身を切り刻まれていたであろう。
「ふふ、ありがと」
 微笑んで、触手の群れから身体を引きはがそうとするアスカ。
 だが。
 身体が動かない。
「え? え??」
 苦痛は感じない。全身にまとわりつく触手の感覚は伝わってくる。だが、身体を動かす事が出来ない。辛うじて指先ぐらいは動くが、腕も、脚も動かない。
(まさか……イソギンチャクの……毒? 痺れてる?)
 言うまでも無いが、イソギンチャクの触手には無数の刺胞が並んでおり、目に見えぬ毒針が仕込まれている。餌となる小動物をそれで捕らえて喰らうのが彼らの生きかたなのだ。
 日本の沿岸に生息する種類には、さほど強い毒を持つ物はいない。
 南方の海底に生息するスナギンチャクの中には猛毒を持つ物もいるが、その場合まっさきに激痛が襲ってくる。今のアスカのように、苦痛を感じずにいられることはない。
 だが、どうやらこのイソギンチャクは、苦痛は与えないものの随意筋を麻痺させる事はできるようだ。あるいは、触手に刺されたのが身体の一部だけであれば平気だったかもしれないが、前半身のほぼ全てを触手に埋め尽くされたことで全身の自由を奪われてしまったのかもしれない。
(う、うそ……)
 顔面蒼白になるアスカ。
 今すぐイソギンチャクの餌にされてしまうことはないであろうが、しかし彼女も自力では脱出できそうもない。
 なんとか両脚が海底についていて、顔が海面から出ているので呼吸はできる。
 だがもし満潮で水位が上がってきたら溺死は確実である。
(な、なんとか……)
 動かぬ手足に力を込めてみるが、やはり脱出はできそうもない。
 いやそればかりか、せっかくの大物を逃がすかとばかりに触手がさらに絡みついてくる。首に、腕に、脚にまつわりついた触手が、前半身ばかりか、背中以外の全身を包み込んでしまう。
「い、嫌ぁぁ!」
 ざわざわと蠢く触手が全身に絡み付いてくる感触。痛みこそ無いが、それでもわずかにぴりぴりした刺激が感じられるのは、アスカの柔肌に無数の毒針が打ち込まれている事の証だろう。
 動かぬ四肢は、しかし触覚を失ってはいないため、触手が全身を撫で回すおぞましい感触に襲われてしまう。身の毛もよだつとは正にこのことであるが、しかも逃げる事も出来ないのだ。
 首筋や胸の谷間、あるいは脇腹や太股の内側の柔らかい部分……シンジ以外の何者にも触れられた事の無い性感帯も容赦なく辱められる。
「いや……いやぁ……」
 無数の触手がざわざわと蠢く、その感触に身震いするアスカ。そして、彼女の無防備な素肌に、さらなる一撃が加えられる。
「ひいっ!」
 一瞬、左側の二の腕に電流が走ったかのような刺激が加えられた。やや間をおいて、今度は右のふくらはぎに。
「な、何!? ああっ!」
 アスカは知らなかったが、それはキャッチ触手による攻撃であった。普通の触手よりも太く長い攻撃用の触手。元気な獲物にとどめを差すために、あるいは同族同士のナワバリ争いのために用いられるものである。
 ただ太くて長いだけではない。通常の触手の倍以上の密度で刺胞が並び、強力な毒針攻撃を行うためのものなのだ。
 その『最強の武器』が哀れな獲物に襲いかかる。
 乳房に、太股に、内股に。まるで鞭を打たれたかのような刺激が次々とアスカの身体に降り注ぐ。それは、人ならぬ者の手によるおぞましい陵辱であった。
 しかしその一方で、アスカは気付いていなかったが、間違いなく彼女は性的に興奮していた。水着の下では乳首が堅く尖り、半ば開いたクレヴァスからは淫らな蜜が滴っていた。
「い、いや、ああっ、ああっ!」
 半裸に剥かれ、手足を拘束され、全身に鞭を打たれて泣き叫ぶ。そのあげくに乳首を勃て、花園を濡らし……生まれて初めて、アスカはマゾヒスティックな快感を味わっていた。そして、抗う事も出来ぬまま、絶頂へと導かれた。
「ああああーーーーーーーーっ!!」
 ひときわ大きな声をあげてのけ反る。その瞬間、アスカは悦楽のあまり失禁してしまった。シンジとのベッドインで絶頂に達しても、一度も失禁などしたことはなかったのに。
 だがそれが功を奏したのか、それまで彼女の全身に絡みついていた触手が、怯えるかのように離れていった。放たれた尿のせいで水温が急激に変わったせいか、あるいは尿に含まれるアンモニアのせいか。
 理由はわからないが、何かがきっかけとなってイソギンチャクの一体がアスカから離れ、それにつられて次々と触手が引いてゆき、アスカは解放されたのだった。
 自由になったアスカは、仰向けのままでしばらく海面に浮いていた。
 やがて、手足が動く事に気付くと、ジタバタともがきながら大慌てでその岩場から離れていった。岸に上がると、バスタオルで全身を拭くことも忘れ、水着姿のままEVに飛び乗って逃げていった。


「ああっ、あ、アスカっ!」
「きて! きて! シンジ!!」
「「ああああーーーっ!」」
 ベッドを軋ませながら激しく交わる二人。いつものように、仰向けになったシンジの上にアスカが馬乗りになり、彼を犯すかのように腰を振り、そして果てる。
「……ねぇ、シンジ」
「なに?」
「アンタさぁ……アタシを犯したい、って思った事、ある?」
「どうしたの急に?」
「いいから答えて」
「……あるよ」
 アスカの意図がわからないままに、正直に答えるシンジ。彼とて男である。愛しい女を組み敷いて、乱暴に犯してみたいと妄想したことは一度や二度ではない。
 しかし、それを抑えて、アスカの欲しいままにさせてきたのは彼の選択だったのだし、彼もそんなセックスに満足していた。
「それじゃ……さ」
「ん?」
「たまにはさせてあげる」
「え? どうして?」
 アスカが、他人にいいようにされることを望まないことはシンジもよく理解していた。昔のように理不尽な駄々をこねているわけでなし、許容できる範囲のことであったから彼もそれを認めていたのに。
「た、たまには刺激が欲しいのよ」
「そ、そう」
 倦怠期の夫婦じゃあるまいし、とか内心思いつつ口にしない。それが彼の処世術であった。
「それじゃ……いいの?」
「い、いいわよ。アンタの好きにして」
「うん。わ、わかった」
 シンジは一度アスカにキスをすると、身体の位置を入れ替えた。二人がベッドインするようになって、これが初めての正常位である。
「それじゃ、いくよ」
「う、うん……きて……あああ!」
 シンジが、腰のモノの長さいっぱいに突き入れた。アスカは、初めて経験する受動的なセックスに身もだえする自分を感じ、わなないた。


 アスカは、久しぶりにこの入り江を訪れていた。
 あの日……イソギンチャク達による陵辱を経験したあの日以来、まるで怯えるかのようにここを訪れる事を避けていたのだった。
 だが、それでもアスカはここへ来てしまった。
『彼ら』が待っているこの入り江に来てしまったのだ。
 あれから何度も、彼女はシンジに自分を犯すようねだった。彼はそんなアスカに応え、彼が抱いていた妄想を具現化したかのように愛しい人を貪った。
 かつて一度も許した事の無かったバックからの挿入もされた。まるで犬のような姿勢で、後ろから突き込んでくるオトコを受け入れ、アスカは何度も達した。
 あの優しいシンジがこんな激しいセックスを求めていたなんて、と内心驚きつつ、自分のことをこれだけ強く求めてくれることに満足し、甘美な悦楽に酔いしれた。
 しかし、それでも……シンジは、やはり優しかったのだ。優し過ぎたのだ。
 アスカが本当に拒む事は無理強いしないし、その加減をわかってくれていた。
 だから。アスカはここに来た。
 あの日感じた、失禁するほどのエクスタシー。
 拘束され、望まぬ行為を強要され、そして恐怖と快感のあまり達したあの領域。
 シンジが決して与えてくれないであろう刺激を、アスカは忘れる事ができなかった。
 ビキニの水着だけを身に着け、あの岩場に向かう。
 海岸からは見えない位置に回り込むと、そこに『彼ら』はいた。垂直に切り立った岩の一面にびっしりと群生したイソギンチャク達。
 波に揺れる水面の中で、長い触手が草原のようにたなびいていた。
 アスカはごくりと生唾を飲み込むと、水中で水着を脱いでしまった。ブラの紐を使って、ブラとボトムを左手首に縛ってしまう。
 そして、アスカはゆっくりと足を進め、まるで恋人に抱かれるかのように両腕を広げながら、一面に触手の拡がる壁面へと身を投じた。
「ああっ!」
 美しい獲物の肌にいっせいに絡みつく無数の触手たち。数えきれないほどのそれが柔肌にまとわりつき、チクチクと刺激してくる。
 前半身の全てが……首筋も、肩口も、乳房も、腹も、下腹部も、脚も……あらゆるところを一斉に愛撫される。しかも、前の時とは異なり、乳房と下腹部を遮る物は無いのだ。アスカの最も感じやすい所さえ、触手達の前に晒され、刺胞が突き立てる毒針の餌食となっているのだ。
「ああ……ああ……!」
 既に手足の自由は奪われている。触手達はせっかくの獲物を逃がすまいと、さらに触手を絡めてアスカの長い手足を拘束してゆく。あの時は水着によって護られていた乳首にも触手がまつわりつき、クレヴァスにさえ同じように触手が潜り込んでくる。
 そして、あの無慈悲な一撃がアスカの素肌に打ち込まれた。
「ひゃうっ!」
 キャッチ触手が、その一際強力な毒針をもって襲いかかってきたのだ。一本、また一本。イソギンチャク達が次々と、その魔手を伸ばしてくる。
「あっ! ああっ! ひっ!!」
 脇腹に、太股に、乳房に、軽く鞭で打たれたかのような痛みが走る。そして、その痛みを感じながら、アスカは快感に酔いしれていた。
 一糸纏わぬ姿に剥かれ、身動き一つ取れぬよう拘束され、その上全身を辱めるように愛撫され、鞭を打たれる……まるで自分が囚われの姫君にでもなったかのような錯覚。
「ひぃっ!」
 内股にも一撃。あとほんの数センチ内側にそれが触れていたら、アスカはそれだけで達してしまっていたかもしれない。実際彼女の乳首は堅くしこり、クリトリスも同じように充血して膨れ、ぱっくりと開いた花園には無数の触手が群がっている。
「ああ……いい……」
 ぶるっ、と身震いする。一方的に貪られる快感に酔いしれる。
「ああっ……!」
 だからアスカは気付いていなかった。右側の乳首を、イソギンチャクの一体によって咥え込まれてしまったことに。
 豊満な乳房全体に触手を広げ、胴体中央の口を開いたそれは、ちょうど咥え易いように尖った部分を飲み込んだのだった。アスカにとって幸いだったのは、イソギンチャクの口には歯が存在しなかったことであろう。
 乳房全体を咥えることはできなかったため、『彼』はその状態で食事を始めざるを得なかった。本来ならもっと胃袋の奥深くに飲み込んでから消化するのであるが、消化液を逆流させてそれを消化させるしか方法がなかった。
「ひっ!」
 乳首の先端に感じるチリチリとした熱い感触。
 刺胞の突き立てる毒針の刺激とも異なる責めにアスカは呻いた。まさかそれが、自分の乳首を今まさに喰われそうになっているのだとは彼女にはわからない。
 消化液といってもSF映画に出てくる宇宙人の体液のように、一瞬で鉄をも溶かしてしまうような強酸ではない。身体の大きさのせいもあって、アスカにとっては皮膚の表面を軽く炙られているかのような刺激としか感じられなかった。
 それでも、敏感な乳首を責められているとあっては穏やかではいられない。身をよじって逃れようとするが、貪欲なイソギンチャクは獲物を捕らえて離そうとしないし、そもそも満足に身動きが取れない。
 そして更に、もう片方の乳首も同じように咥え込まれてしまう。いや、それだけではない。咥え込むのに都合の良い突起がもう一ヶ所残っていたのだ。恐るべき捕食者が、そのご馳走を見逃すはずがなかった。
「あああアアアアーーーッ!」
 最も感じやすいその部分を口に含まれ、薄皮の下から頭を覗かせていた雌蘂に消化液を浴びせられたのだ。さらに、股間の部分に無数の触手が入り込み、柔らかな粘膜に毒針が次々と打ち込まれている。
「ああっ! イイッ! もっと! もっとぉ!!」
 乳首とクリトリスに焼き印を押し付けられるような、あるいはピアス穴を開けられるかのような無慈悲な陵辱を無想しながら、アスカは達した。
「ああああアアアアーーーーッ!!」
 その瞬間、またも彼女は失禁した。
 恋人とのセックスで経験した絶頂では、ただの一度も失禁した事などなかったというのに。
「ああ……」
 あの時と同じように、触手達が彼女を解放する。
 水面に浮かんで、荒い呼吸を繰り返しながら、アスカは感じていた。焼き印であれ、ピアスであれ、自分のそこには雌奴隷の烙印が押されてしまったのだと。


「あっ、あっ、ああっ!」
「ふふ……アスカ……敏感なんだね……」
 ベッドの上、アスカを組み敷いてその豊満な乳房を玩ぶシンジ。
 ツンと尖った先端を啄ばみ、吸い、そっと噛む。
「ひあああっ!」
 シンジのいいように犯されているアスカ。彼のペニスは深々と彼女の花園を抉り、密着した下腹部の間に挟まれ、転がされるクリトリスに電流が走る。
「ああああっ!」
 あれから、何度もあの入り江に、あの岩場に訪れたアスカ。
 その度に美しい裸体をイソギンチャク達に差し出し、全身に触手の洗礼を受け、乳首とクリトリスを酸で焼かれていた。
 それは、結果として彼女のそこを一際過敏にしてしまっていた。
 薄皮一枚剥かれた状態とでも言えばいいのだろうか。表皮を酸で洗われ、軽い火傷を負った状態と言ってもいいかもしれない。
 ただでさえ感じやすい部分が常にそのような状態になっていては、普段身に付けているブラやショーツと擦れただけでも刺激を受けてしまう。
 炎症を抑えるために軟膏を塗ったりしているが、傷が回復してもまだそこは正常な状態よりも皮膚が薄いようなものなのだ。
 そこをこうして愛撫されて、耐えられるはずがない。
 シンジの攻め手に、アスカはあえなく絶頂を迎えてしまう。
「あっ、あ、あ、い、いくぅぅっ!」
 美しい裸身が震え、びん、と伸び切る。そして、その後ぐったりと崩れ落ちる。
 だが、彼女の恋人はまだ熱い迸りを放ってはいないのだ。
「あ、だ、だめ、まだ、あああ!」
 達したばかりの感じやすい身体を、その火照りも冷めやらぬうちに犯され、アスカはまた悩ましい声をあげた。


 愛車のハンドルを握り、あの入り江へと向かうアスカ。
 だが、その表情は堅い。いつもなら、人ならぬ者達との逢瀬にうかれた表情すら浮かべているというのに。
 数日前に見かけたニュース。経済復興のための需要拡大策として建造されるシーサイド・リゾート施設の計画。風光明媚な沿岸に、ホテルや遊園地などを建設するのだという。その計画地の片隅に、あの入り江も含まれていたのだった。
 セカンド・インパクトの傷跡から立ち直った自然をわざわざ破壊してまで娯楽施設を造るのだという。
 ともあれ、そんな施設が建造されるとあっては、今までのような淫らな時間を過ごす事はできなくなってしまうであろう。
 工事のために多くの人が出入りするというだけでも、アスカの姿を見とがめられる危険性が格段に増してしまう。
 いや、そもそもあの岸壁が無事に残されるかどうかもわかったものではない。無粋な防波堤のコンクリートに取って代わられてしまう可能性が高いと言えるだろう。
 だからアスカは急いでいた。こんな時間に……とっぷりと日の暮れた夜中に、愛車を駆っていた。今日でなければ、今夜でなければいけないのだ。月明かりの無い暗い夜道を、アスカのEVが駆け抜けていった。
 波打ち際。
 いつもとは違い、最初から一糸纏わぬ姿になったアスカ。暗闇に慣れた目で周囲を確かめながら、通い慣れた岸壁へと向かう。
 薄暗い海中に咲く触手の花、花、花。今では愛しさすら感じるようになった『彼ら』は、今日も変わることなくそこに居た。
「いきなり悪いわね。今夜は、アタシも混ぜてもらうから」
 そう囁き、その触手の叢のただ中に我が身を投じる。
 闇夜に浮かぶ白い素肌にまとわりつく触手達。反射的に獲物に絡みつき、刺胞から毒針を突き立てる。
「ああ……」
 恍惚とした表情を浮かべ、蕩けた声を漏らす。乳房も、股間も、無数の毒針に刺されることを快感として受け入れることに慣れてしまっている。全身を撫でられ、無慈悲に鞭打たれる事でアスカは濡れてしまう。
 手足が自由を失う前に、勃起した乳首をイソギンチャクの一体の口に含ませる。同じようにもう片方の突起も与え、勿論、一番感じやすい部分も惜しげも無く差し出す。
「ああ……いい……」
 過敏になった性感帯を酸で灼かれ、淫らな烙印をあらたに刻みつけられる。意志すら交わす事のできない者達に性器を嬲られる悦びに酔いしれる。
 だが、今夜彼女がここを訪れた目的はそれだけではなかった。
 来るべき時……深夜の零時丁度に達した時、触手達の動きが変わった。
「あ……」
 それまでアスカの全身に絡みつき、いつものように『食事』を続けていた触手達が、いっせいに彼女から離れていったのだ。それに伴い、アスカの手足が自由を取り戻す。
 アスカは名残惜しそうに自ら彼らに素肌を捧げてみるが、触手達は彼女に触れるだけで、あの毒針を突き立てようともしない。
「そう……始まるのね」
 アスカは満足げに微笑むと、触手の叢に沈み込むかのように身を投げ出し、その瞬間を待つ。
「……!」
 触手が小刻みに震えている。いや、触手だけではなく、イソギンチャクの本体が震えているのだ。海水を飲み込み、そして再びそれを吐き出す。吐き出されたそれは、真っ白に濁っていた。
「ああ……!」
 イソギンチャク達に合わせるかのように身震いするアスカ。美しい裸身は、濁った海水により覆い隠されてゆく。彼らの放つ精を全身に浴びているという事実に、彼女は酔いしれていた。
 そう。この夜、今月の新月の零時丁度に、彼らは一斉に卵と精子を海中に放つのだ。
 そのことを知ったアスカは、その瞬間に……この岸壁に群生している彼らにとって、おそらく最後の生殖の瞬間に立ち会うためにここに来たのだった。
 この地を訪れては何度も愛し合った『彼ら』の精を全身に浴びながら、アスカは己の手で乳首とクリトリスを……『彼ら』に刻まれた烙印を確かめるかのように愛撫し、絶頂に達するのだった。それは紛れも無く、彼らとの性交であった。
「あ、あ、ああーーーっ!!」


「う〜ん」
「どうしたのアスカ?」
「……高価いわよねぇ、これ……」
「これって……この水槽?」
「うん」
「そりゃ高価いよ。こんな大きなの」
 シンジは呆れながら答えた。
 最近、アクアリウムを始めたアスカ。部屋には、幅四十五センチほどの水槽があるのだという。
 何を飼っているのかと尋ねたとき、イソギンチャクという返事を聞いてシンジは呆れたものだった。
 だがそれは、アスカにとっては大切な存在なのだ。
 あの夜。水着を身に着ける代わりに左手首にぶら下げておいた小瓶。
 アスカは、己の全身に浴びせられた海水をその小瓶に入れて持ち帰ったのだった。
 あらかじめ自室に用意しておいた水槽にその中身を移した彼女は、数日の後に受精卵から孵化した幼生達を観察する事ができた。
 熱帯魚の餌にするためのプランクトンを与えたりして育てたが、幼生同士で共食いをしてしまうなどの理由でずいぶん数が減ってしまった。
 それでも、小さな小さなイソギンチャクと言えるまで育った彼らが、今では水槽の側面や底面に貼り付いて、か細い触手を一人前にゆらゆらさせていたりする。
 そして今、ショッピングセンターのアクアリウム用品売場でアスカが見ているのは、全長2メートルほどもある大きな水槽だったのだ。
「だってアスカ、これじゃ水槽ってよりバスタブじゃないか」
「そうよねぇ」
 くすりと微笑むアスカ。やけに艶っぽい彼女の意図が、シンジには理解できなかった。
 それはそうだろう。水槽の一面にびっしりと生えた大きなイソギンチャク達にその裸身を捧げ、乳首もクリトリスも欲しいままにされて絶頂を味わう恋人の姿など、彼に想像できるはずもなかったのだから……。


 終




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