砂浜で触手


Original text:PDX.さん


 その日、レイは海に来ていた。
 シンジに誘われて海水浴に来ていたのであった。NERV関係のこと以外に用事など存在しない彼女にとって、断る理由など無かった。
 二人のほかには、アスカ、ヒカリ、今回の海水浴の企画の立案者であるケンスケとその共犯者、トウジが参加している。
 おまけと言ってはなんだが、アスカがペンペンも連れてきていた。
 しばらく波打ち際で戯れた後、レイはビーチパラソルの下でぼおっとしていた。
 そんな彼女に話し掛けてきたのは、やはりというかシンジである。他愛も無い話題。そのうち、砂浜での過ごし方、遊び方の話になる。それらの多くは、レイにとって初めて聞くものばかりであった。
「……砂風呂?」
「うん、ほら、海岸の砂が熱くなってるだろ? 砂浜に横たわって、布団のように砂をかけて、サウナみたいに汗を流すんだ」
「楽しいの?」
「う〜ん、サウナで汗を流すのが気持ちいい、って人にはいいんじゃないかな」
「そう」
「試してみる?」
「……ええ」
 レイはサウナが好きというわけでもなかったが、嫌いというわけでもなかった。
 シャワーを浴びるのは好きだし、汗を流してさっぱりするのは心地よいことだと思ってもいた。
「それじゃ、用意するから横になってよ」
「ええ」
 表面の熱くなりすぎた砂を手で払い、レイが横になるスペースを用意するシンジ。
 そこに横たわるレイの身体に、砂をかけてゆくシンジ。
「熱すぎない?」
「……大丈夫」
 お腹から始めて、次第に全身に砂をかけてゆく。水着一枚しか着ていないレイの胸や腰を間近に見てドキドキしているシンジ。指先から落ちた砂がバストの膨らみにかかるのが、まるで自分の手で愛撫しているかのような錯覚にとらわれていたりする。
 一方レイもまた、乳房の先端を撫でるようにして覆ってゆく砂に、胸の鼓動を速めていた。

「何やってんのよアンタたち?」
「あ、アスカ」
 レイの身体をあらかた埋めたころ、ペンペンと遊ぶのに疲れたアスカがパラソルの下に戻ってきた。クーラーボックスからコーラを取り出し、腰に手をあてて豪快に飲み干す。その仕草を見てミサトそっくりだと思ったシンジであったが、それを言葉にしなかったのは賢明というものであろう。
「砂風呂だよ。サウナみたいなものなんだ」
「ふ〜ん」
「アスカもやってみる?」
「……そうね、ちょっと疲れたし」
 レイの時と同じようにしてアスカを砂で包み込むシンジ。その後姿を見ながら、レイは先ほど感じていた胸の高鳴りを思い出していた。
 一人で眠る夜、彼のことを想って自慰に耽るときと同じ鼓動。
 彼の指先が乳首に触れていたかのような錯覚。
 熱い砂のせいで全身汗を流し始めていたレイであるが、その身体のごく一部は、それとは異なる滴を漏らしていた。
 アスカの身体を砂山に埋めたシンジが、パラソルの下から何かを持ってくる。
「……帽子?」
 ここに来るときに二人が身につけていた麦藁帽子だ。
「顔だけ日焼けしちゃうといけないからね」
 二人の顔に帽子を載せるシンジ。
「何よ、アンタはしないの?」
「そう思ったんだけど、なんかケンスケが呼んでるみたいだから」
「あっそ」
 そしてシンジが離れてゆく。
 残されたレイとアスカは、特に会話を交わすこともなく、熱い砂の中で汗を流していた。

「?」
 なにかが背中に触れたような気がした。
 横になる前に、砂の中に埋もれていた貝のかけらなどはシンジが取り除いていたはずであり、何も異物が触れるようなことは無いはずなのに。まして、何か動くものが触れるなどということがあるだろうか。
(何か、いる?)
 砂の中に何か小さな生物でもいるのだろうか。もしかしたら毒をもっているかもしれないし、そうでなくても鋭い爪などで傷つけられるかもしれない。
 せっかくシンジが埋めてくれたのだが、怪我をしたりしたら任務に支障が出る。
 そう考えたレイが立ち上がろうとしたとき、首筋に小さな痛みが走った。
「!!」
 チクリと針で刺されたような痛み。驚いて飛び起きようとしたが、その時既に彼女の身体の自由は奪われてしまっていた。
(四肢が麻痺している……神経毒?)
 首筋に毒を注射され、運動神経がブロックされたのであろうか。全身を覆う砂の熱さを感じるところからみて、感覚神経の方は冒されていないようである。
(……駄目、声も出ない)
 これでは隣にいるアスカに助けを求めることもできない。
 それまでは心地よい汗を流していたのであるが、今現在レイが流しているのは冷や汗以外の何物でもなかった。身体の自由を奪われ、正体不明の『敵』に接触されている。
 そして、その『敵』が新たな動きを見せ始めた。

(……なに……?)
 背中に感じる動きが、一つ、また一つと増え始めたのだ。砂の中でざわざわと蠢くそれは、どうやら何匹もの群れのようであった。それは……いや、それらは、レイの柔肌をなぞるようにして背中から前半身へと移動してくる。
 水着の肩紐に沿って移動してくるもの、脇の下から胸の膨らみのふもとへと迫るもの、わき腹から腹部を目指すもの。それらが、いずれも蠕動しながらレイの肌を舐めてゆく。
(……いや……)
 日頃冷静沈着な彼女とはいえ、正体不明の謎の生物……何か大型の蠕虫の類であろうか、そんなものに肌を撫でられて生理的嫌悪感を覚えないはずがない。しかし、身をよじることさえ出来ない現状では、この不快な辱めから逃れることもできない。
 太さは三センチほど、長さはどれほどあるのであろうか? 剥き出しの背中に触れたときの感触から察して、ゴカイのような無数の脚が側面に並んでいるようだ。なまじ運動神経がブロックされているため鋭敏になった感覚神経は、そんな情報をレイに伝えてくる。
 かと言って相手の正体が判明するわけでなし、身に迫る危険が減じるものでもない。
 せめてもの救いは、ワンピースの水着越しの感触で済んでいることである。薄い布一枚とはいえ、その安心感は大きなものであった。
(いや……助けて……碇君……)
 だがその意思が言葉として紡がれることもなく、レイの柔肌は謎の蠕虫によって汚されてゆく。熱い砂の中、その蟲だけがひんやりとした感触をレイに感じさせ、非現実的な触覚を与えてくる。
(い、いや……そこは……)
 乳房のふもとにとりついた蟲が、柔らかな膨らみを測るかのように表面を這い回る。その先端は、時折水着ごしにレイに噛み付きながら、次第に先端へと近づいてくる。
 シンジのことを想い、かつて彼に押し倒された時のことを思い出しながらそこを愛撫するときはあれほどの高揚と悦楽があるというのに、正体すらわからぬ蟲に乳房を辱められ、レイは恐怖に震えていた。
 それだけではない。腹の上に達した別の蟲はやはり水着越しに彼女の臍に頭を埋めようとし、太腿やヒップに至っては数匹の蟲がざわざわと蠢きながら唯一点……水着の股布へと殺到しようとしている。もしかしたら、先ほどシンジが砂をかけたときにレイが滴らせた蜜の香りが彼らを呼び寄せてしまったのかもしれない。
(いや……助けて……)
 首筋に触れたひんやりとした感触。砂の上に頭を出した蟲が、レイの首筋から頬をたどり、唇へと迫る。
(いや、いや! 助けて! 助けて碇君!)
 ぶんぶんと首を振ることすらできない。蟲が砂の上に這い出ているとはいえ、日焼けしないようにと顔に乗せられた帽子のせいで誰にも気付いてもらえない。そして、おぞましい蟲が可憐な唇に触れ、その中へと潜り込んだ。
(いやああああ!!)
 まず感じたのは塩辛さ。そしてそれが薄らいでからは、磯臭い匂いと、生苦い不快な味。
 目じりに涙を浮かべるレイに構うこともなく、蟲は彼女の口の中を犯してゆく。歯と歯茎の境目をなぞるように探り、頬の内側を這いまわり、そして舌に絡みつく。
「う、う、ううっ」
 小さなうめき声は、誰の耳にも届くことなく潮風の中に消えてゆく。
 そして、レイの口の中に、何か苦い液体が注ぎ込まれた。
「うううううっ!!」
 未だ男を知らぬ彼女が知るはずもなかったが、その液体の味も匂いも粘り具合も、人間の精液そっくりであった。
 それを吐き出すことも、飲み込むこともできずに不快な味と匂いに耐えるしかないレイ。
 口の中にたまった粘液が、じわじわと彼女の粘膜に浸透してゆく。いや、口腔粘膜だけではない。同時にそれを浴びせられた乳首にも、臍にも、そして局部にも、その粘液が染み込んでゆく。
(……なに……?)
 ドクン、と胸が高鳴る。先ほどまでの、恐怖に震え早鐘を打っていたのとは全く異なる鼓動。それはむしろ、シンジのことを想って自慰に耽るときのものに近かった。
 蟲の吐き出した液体に含まれる催淫成分によって無理矢理に発情させられているなどと知らぬレイは、自分の体の変化にただ戸惑うばかりであった。
(いや……なに……熱い……)
 ドクン、ドクン、と胸が高鳴る。全身を濡らしていた冷や汗が引き、まったく異なる熱い汗が滴り始める。
 レイの唇を犯していた蟲が再び蠢く。無数の脚の生えた胴体が歯茎を撫でたとき、レイは危うく絶頂に達してしまいそうになった。
(!!)
 ようやく、異変の正体に気付く。あの液体は何かの毒で、自分の身体はそのせいで発情しているのだ。
 そして、この生物の目的が自分を捕食することでないのだとしたら、発情させた上で何をしようとしているのか。そのことに思い至った。

(い、いや! それだけはいや!)
 NERVの女性職員から借りた少女小説や少女漫画の影響で、恋しい相手と幸福に結ばれることを夢見ていたレイ。そんな彼女にとって、異形のものに蝕まれ純潔を汚されることは、あまりにおぞましく、そして恐ろしいことであった。
 だが、彼女の身体は相変わらず身動きひとつできず、そればかりか全身のあらゆる性感帯が熱く疼き始めていた。水着の下では乳首が尖り、薄い包皮をおしのけるようにして陰核が勃起し、花弁のように開いた秘裂からは、トロリとした蜜が後から後から滴っていた。
 鋭敏になった身体の表面を、蟲たちがまるで焦らすかのように這いまわり、おぞましい愛撫を加えてくる。
 発情し熱を帯びた肢体は、それら異形のうねくりに呼応して悩ましい官能の鼓動を打ってしまう。レイの意思とは無関係に、悦楽を求めて疼きだした肉体は、蟲たちを誘うかのごとく牝のフェロモンを含んだ汗を滴らせてしまう。
(あ……ああっ!)
 蟲たちの動きが変化する。それまでは水着の上からレイの身体に触れていた彼らが、侵入口を模索するかのようにランダムに動き始めたのだ。乳首や臍などから遠ざかる蠕動。だが彼女の身体は未だ熱く疼き、悩ましい呼吸を繰り返している。
(だめ……ああ……)
 自分の身体が悦楽を求めていることに恐怖するレイ。恋しいシンジの手で愛撫されるならともかく、このような未知の存在に辱められて悦びを得るなど、あまりにもおぞましいではないか。
 だが、感じやすい部位への刺激が減ったことで疼きが熱さを増し、レイ自身を責めさいなむ。そして遂に、蟲たちの一部が水着の下に侵入してきた。
(ああああああっ!!)
 粘液にまみれた蠕蟲が、無数の脚で肌をくすぐってゆく。彼らの体表にぬらつく粘液は、先ほどレイの口に注がれたものと同様に催淫作用があるのだろう。彼らの触れた肌が鋭敏になり、そこをくすぐられることでこの上ない快感を味わってしまう。
(だめ! だめ! 許して! あああ!)
 きつく閉じた目尻からは涙が溢れ、レイの頬を塗らしてゆく。だがおぞましい蟲たちはそんな彼女をあざ笑うかのように、乳首に、そして秘裂へと殺到してゆく。
 最初に辱めを受けたのは、左の乳首であった。水着の下で堅く尖り、じんじんと熱く疼いていた先端に到達した蟲は、口を大きく広げてそこに噛み付いた。
(ぅああああああ!)
 蟲の口の内側には小さな歯がびっしり円周状に並んでおり、それらがいっせいに感じやすい突起に食い込んだ。そして、その傷口からあの粘液が浸透してゆく。乳首を灼かれるかのような刺激に声も無く悶絶するレイ。さらに、右の乳首にも同じ責めが加えられ、そればかりか乳首に噛み付けなかったもう一匹の蟲が乳輪に噛み付きさえする。
 一瞬の苦痛と、僅かに時間を置いて襲い掛かってくる灼熱の官能。
 それまでさんざん焦らされていたが故に、レイは乳首への刺激だけでたやすく絶頂に達してしまった。いや、達したところにさらなる刺激を加えられ、淫らな高みから降りることも許されずに喘ぎ続けることを強いられた。
 だが、レイを襲う辱めはそれだけではなかった。水着の下に潜り込んだもう一派の蟲たちは、彼女の秘めやかな亀裂へと襲い掛かったのだ。ぷっくらと膨らんだ恥丘を無数の脚がくすぐり、充血したクリトリスに異形の接吻が与えられた。
(!!)
 少女の肉体の最も感じやすい部位。そこは催淫毒によってジンジンと熱く疼き、あらゆる刺激を求めひくひくと震えていた。
 唯でさえ敏感だというのに、さらに感度を高められた性感アンテナ。そんな場所に噛み付かれ、無数の牙を突き立てられ、それらの傷口に新たな毒を注入された。
(−−−−−−!!)
 この瞬間、レイは数回、いや数十回たて続けの絶頂に導かれてしまっていた。達して、達して、また達して、気絶することもできずに悶え続け、そして盛大に失禁していた。
(ああ……死んでしまう……)
 おぼろげな意識の中でそう呟く。力の入らぬ肢体、その脚の付け根に蟲たちが迫るのを、レイはなすすべもなく感じることしかできなかった。
 既に淫らに花開き、たっぷりと蜜をたたえていた淫裂に蟲が潜り込む。先端こそ細いもの、胴体そのものは三センチはあろうという蠕蟲が、レイの処女地を蹂躙してゆく。
 処女膜を食い破られる苦痛すら、催淫毒に冒された身体にとっては悦楽のためのスパイスでしかなかった。そして彼女の純潔を汚した蟲は、さらなる奥地へと容赦なく侵入してくる。
(あッ……かはッ……)
 通常の男性器であれば届くはずの無い奥底までの侵入。子宮口周辺に二度、三度と突き立てられた牙によって打ち込まれた毒は、堅く閉じられた奥の院への扉をも開いてしまう。
 子宮口をこじ開け、胴体の蠕動と無数の脚を駆使してレイの最深部へと潜り込む蟲。出産の経験はおろか、経血を流したことすらない彼女にとって、それは苦痛の極みであった。
 だが、淫らな毒は彼女の身体を狂わせ、あらゆる苦痛を快感として味わわせてしまう。連続するオーガズム。そのうねりの中でわななき続けるレイ。
 最初に彼女の子宮に達した蟲が、やがてその長い胴体の全てを彼女の胎内に潜り込ませることに成功した。もし彼女が砂が埋もれていなったら、彼女の下腹部が妊娠初期の妊婦のごとく張っているのが見えただろう。
 そしてその蟲は、胎内でとぐろを巻いた後、逆に外へと出て行こうとする。子宮の中に居たモノが這い出てゆく感覚に再度喘ぐレイ。膣口から侵入したもう二匹の蟲が、先を争うかのように奥の奥まで潜り込んでゆく。出てゆく蟲と入ってくる蟲、未知の感覚がレイを悦がり狂わせる。
 最初に潜り込んだ一匹は、もう大半がレイの外へと這い出していた。しかし、子宮にまだ入っている尾部がぷくりと膨れ、そこから大量の粘液を放出した。
 それは、雌雄同体である彼らの卵子と精子の混合物であった。
(ああっ! ああっ!)
 粘液による強烈な刺激。これまでに注がれたどの毒よりも強力な刺激がレイの性感覚を飽和させる。
(もっと! もっとぉっ!)
 人外の悦楽に我を忘れて陵辱を望みすらするレイ。その願いをかなえるかのように、その粘液に含まれる成分が他の蟲を刺激し、彼らは次々と産卵を続けてゆく。
 陵辱のクライマックスは、二匹、三匹と侵入した蟲たちによる、おびただしい量の粘液の同時注入だった。
(あああああーーーーーーーーーーーーっ!!)
 きつく閉じた目の奥で何かが瞬く。
 受胎の悦び……オンナではなく牝としての本能をダイレクトにくすぐるような官能の波が何度も何度も押し寄せてくる。たとえそれが、異形の生物の毒による幻覚めいた擦り込みであったにしても、それは幸福感を伴う悦楽であった。
 大量の卵で子宮を満たされ、全身がバラバラになってしまいそうな最高の愉悦の中でレイは果てた。

 いったいどれだけの時間が過ぎたであろうか。あれほどいた蟲たちはいずこへと消え去り、レイはようやく自分が海水浴に来ていたことを思い出す。
(私……そう、海に来て……砂風呂……)
 身体を埋める砂から伝わってくる熱。全身にびっしょりとかいている汗。
 だが、全身にまとわりつく、汗ではないぬめり。
「……あ」
 声が出る。
(指……動く……)
 理性と身体の自由を取り戻したレイは、むっくりと起き上がる。砂の小山が崩れ、湿気を帯びた砂にまみれた美少女の肢体が白日の下に顕わになる。
(あれは……一体……)
 自分を襲った謎の蟲について思いをはせようとしたレイの耳に、もう一人の少女の弱々しい声が届いた。見ればビキニ姿のアスカも、全身に湿気を帯びた砂がこびりついている。
「……はぁ、はぁ……ひ、酷い目にあったわ」
「……そうね」
 その瞬間、二人は互いに視線を向け合い、そこにいる相手が自分と同じ経験をしたであろうことを悟り無言で見詰め合った。
「立てる?」
「……ええ」
「とりあえず海で身体を洗いましょ。砂がこびりついてかなわないわ」
「……そうね」
 辛うじて腰の抜けていなかった二人は、よろよろと立ち上がって波打ち際へと歩いていった。
 水着の下に潜り込んだ蟲たちのせいで全身砂だらけだったので、それを洗い流すのに苦労した。しかし不思議なことに、あれだけ深い挿入をされたはずの女性器の内側には砂粒は一つもこびりついていなかった。
 そして二人とも、性器に指を挿入して中身を掻きだすようにしての洗浄を行ったりはなかった。何故かそれをしてはいけないような気がして、水着の下に入り込んだ砂を洗い流すのが精一杯であった。

 帰りのリニアの中。
 少年達は遊びつかれたのか、シートに座り込んで爆睡している。
 その寝顔を見つめて苦笑するヒカリ。
「私達が起こしてくれるものと思って、いい気なものね」
「いっそ置き去りにしない?」
「……それは酷いと思う」
 レイのツッコミに笑うヒカリとアスカ。
「二人とも砂風呂なんてしていたのね。気付かなかったわ」
 トウジとの夫婦漫才に明け暮れていたヒカリは、シンジが二人を埋めていたことにすら気付いていなかった。
「ヒカリはヒカリで楽しんでたんでしょ?」
「ええ、楽しかったわ」
「でもヒカリは、鈴原がいればいいんでしょ?」
「え、あ、その」
 照れる彼女を見てやれやれ、と苦笑するアスカと、無言で頷くレイ。
「ら、来週もまた来ない? みんなで一緒に」
「もっちろん!」
「……問題ないわ」
 即答したアスカとレイは、それぞれ無意識に自分の下腹部に手を当てていた。
 そう。近いうちにまた海に来なければならない。
 この子たちを孵し、無事に海に還してあげなければならないのだから。


 終




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