肉体決済 〜レイが全てを売り渡した放課後〜



13.アスカ悔し泣き、一人絶頂恥辱

「……ふぅっ、く、くぅっ」
 響くのは、アスカの排泄器官に深く突き刺さった内部からのバイブレーターによるモーター音と、棒きれに似たそれ一つで手もなく喘がされてしまっている彼女の息遣いだけ。
 四つん這いから大股開きで尻を高く。無駄毛どころか赤ん坊のような産毛さえ綺麗に剃り落としてしまったかのつるつるの股間が、黒いアナルバイブに蹂躙される様を掲げ見せる。屈辱の全裸姿を、真後ろから最高の位置で鑑賞しているこの男。相田ケンスケ。
 我慢が出来よう筈か。他でもない、天才美少女の惣流・アスカ・ラングレーに。
 耐えられるわけがない。『ギィ……ギ、ギギィィ……ィィィ―― 』というバイブレーターの蠢きで、皺の一本一本が引き延ばされ、変形していく肛門の様子から、性器の奥底まで覗き込めるように全開にした股ぐらを、無言のプレッシャーに促されて尚高々と無遠慮な視姦の前に差し出していかねばなどと。
(悔し……っッ。死ねっ、死ね、死ね、死ねっ! 死んじゃいなさいよっ、相田ッ!!)
 国連の特務機関本部所在地という唯一最大の価値を奪われ、今や真実、極東の一地方都市に過ぎなくなった第3新東京市。急速に人口を減らし未来を失いつつある街が用意する、通信講座にも劣るようなお粗末な教育で満足しているバカな子供達。短足で、肌が真っ黄色で、猿みたいな顔つきで。そんな、我慢ならない典型的労働者階級の子供らの中でも、輪を掛けてバカで、不細工で、ちんけな。
 馴れ馴れしく話しかけられることだけでも不愉快だった相手、相田ケンスケに、
(うあっ、あっ、あああっ! ……嫌よ、いやよぅ……。死んでも嫌、なのにぃ)
 生粋のエリート、金髪の白人美少女、アスカは請い願うしかない。
 そのズボンを脱いで、私にのし掛かって、そして犯して欲しい―― と。
 だからともすれば手元の床に落ちていきそうな悔し涙を堪えて、卑猥にくねくねヒップを揺さぶらせ、誘うのだ。
 何故ならば、相田ケンスケただ一人を除いて、何者にも明かすことの出来ない欲望に今、彼女の肉体から精神までがすっかり支配されてしまっているからである。
 業腹にもそんな欲望をアスカに植え付け、育て上げた張本人がケンスケであったが。最早今となっては憎悪も嫌悪も二の次にしてでも、頼らずにはいられない。
 他にはいないのだ。
 アスカのこの、変態的なまでの肉欲で飢えきった淫らなオンナを満たしてくれる男は。

「…………」
 だが、後ろに立つケンスケは、ずっと黙ったままだ。
 アクションを起こそうとしている気配が無い。
 その気を見せない男の前で、丸出しの尻振りダンスを延―― ―もう何分経つ?―― 踊ってみせている自分は、さぞや無様なことだろう。
 あの人形女の尻出しポーズには大興奮して、鼻息荒くのし掛かっていっていた癖にと、レイに対して見せていた態度との差に憤りも湧く。
「ううっ……、っく、くぅふ……ふ、ふうっ……!」
 ああ、まただ。また……アタシはっ。
 恥辱のあまりに目がくらみそうになっている。それだけでまた、アスカはマゾヒスティックな絶頂へ駆け上ろうとしつつある己を自覚した。
 きゅうっとお腹の底が縮まった感覚がある。
 腸壁越しに子宮の裏を責めるバイブの一抉りが、殊更重く脳髄を痺れさせた。
 内腿を股から伝い落ちていく生ぬるい滴が、量を増す。
 なんてざまか。みっともない。
 情けなさで、固く瞑った瞼の裏に我慢している涙が、頬に流れ出していきそうだ。
 憎たらしい男の見ている前だというのに。
 それでも、嫌だ、お願いだからやめてよね―― と自分自身の肉体に呪い言を吐いてみても、アスカの心を裏切り慣れた躰は勝手に乳首を硬く尖らせて、クリトリスをしこらせていって、官能の波を集めるアンテナを敏感にさせゆく一方。
 ―― ダメだ。アスカの腕はもう、力を込めていられなくなっていた。
 女の子らしいしなやかさと、同年代の殆どでは挑戦の資格も与えられない本格的な軍事教練で鍛えられた筋肉を兼ね備えていても、マゾ開発された性感の昂ぶりに対してはまるで無力だ。
「うぁぁっ」
 とうとう、がくりと崩れ落ちてしまう。
 胸から上で、不格好に突っ伏してしまった。
 だが、体重にひしゃげた乳房の先で乳首を潰す床の冷たささえ無節操に心地よく感じながらも、それでも膝を震わせ震わせ、下半身は耐えきった。
 腰砕けでもまだ最低限、ケンスケに仕込まれた通りのおねだりダンスは踊り続けられている――
 ポーズを崩してしまって焦ったのにも、ほっとしたのにも、支配者の不興を怖れる弱者の心理の根の張りようが窺えようが、この今、気付ける余裕は無い。
 アスカは崩れ落ちた呻きに紛れて、咄嗟に顎を庇った手の甲へと歯を立てていた。
「ふぐっ―― ぐぐぐ、ぐ、フゥゥーッっっ」
 気を緩めればただちに唇を突いて出そうなあられもない嬌声を、噛みしめ噛みしめ、押し殺さねばならなかったのだ。
(ちっ、乳首まで……ッあ、あっ、ああン、あっ。い、今は、これ以上気持ち良いの……マズいのにっ……)
 自制が必要だと分かっているのに、胸はさっさと床へ自ら乳首を擦りつけてこねくり回すことに夢中になっている。止められない。
(あ、あぁあああ、ああっ。やだっ、やだあっ。アタシったら、どこまで……!!)
 みっともなさに、泣けてくる。
 相田ケンスケの目が、すぐそこにあるのだ。
 綾波レイの痴態を盗撮しておくため仕掛けられた幾つものカメラも、まだ停止したわけではない。
 こんな所で、何もされないのに一人で何度もイキ声を上げるような醜態を、これ以上重ねたくはない。
 けれど、けれどだった。
(お、お尻……おひりがっ)
 淡々と、常に淡々と一定のリズムを刻んで、アスカの裏門を掻き回しているバイブレーター。
 模して作られただけあって、アナルの締め付けの中深く填り込んでケンスケの腰遣いにも似た挿入感を与えているそれの形状は、屹立した男性器そのものなのだ。
(あぁふ、あふ、ぁぁあふふぅぅ……っッ!)
 決して、ケンスケが操っているわけではない。
 ましてや、ケンスケの本物のペニスにいつの間にか入れ替わったわけでもない。
 並外れたプロポーションできゅっとくびれた腰をゆらめかせているのも、男の見舞うピストンではなく、アスカ自身の反芻する動き。
 であっても。
(ああ、だめっ。い、イっちゃいそう……。ぁ、ぁ……ゾクゾクしてるのが、止まらなくなって……)
 内臓モーターによる回転と同期してのそれは、奈落めいた被虐快美を果てしなく墜ちゆくアスカのぼうっと蕩けた意識下では、錯覚のアナルセックスにケンスケと交わっているのとそう大差無いのだった。

 まだか。ここまでになっているのに、まだケンスケは襲ってこないというのか。
 ここでケンスケの手で直接蹂躙されさえすれば、一応は格好が付くのにと瀬戸際で苦悶するアスカは考えていた。
 自分でも笑ってしまうしかないような、ちっぽけなプライドを賭けた最後の一線。
 ついさっきは、相変わらずいけ好かない相手である綾波レイにまで見物されながら、一人でアナルオナニーにイキ狂っていたばかり。
 そこへまた、男をねだりながら、ねだっているだけで一人勝手に盛り上がってアクメを遂げるような、そんな色キチガイの女に成り下がってしまうのだけは避けたい。
 避けたい……のに、と。
(見られて、るのっ。見られて、撮られてるの……よぉっ。あ、あたし、アタシの……ぁああ、ぁ、バカみたいな……イっちゃうとこぉぉ!)
 床の上でじたばたと膝でにじりもがくアスカが、どれだけ紅いロングヘアを波打たせて足掻こうとも。前膣庭の美しいピンクのぬらつく様を丸見えにして、あひ、あひぃと、天才美少女の評判も台無しのみっともない貌で追い詰められていく一部始終は、結局は一対の肉眼と複数の機械レンズによってあらゆる角度から見届けられ、録画されてしまうのである。
 最後の、クライマックス寸前の歯ぎしりが崩壊するところまで。

「くぁっ、あっ、あぅふっ、ふぐぅ―― ぅぅぐふ、ふぅぅぅーっッッ!!」
 絶頂による痙攣で思い切り背をしならせて声を放ったアスカのオールヌードは、しなやかに伸びをする猫をどこか思わせる姿だった。
 ぶるぶると打ち振るわされるヒップの位置の高さも、その印象に寄与している。
 ぎゅっと握りの部分を数センチ、真っ白いヒップの中心よりひり出されたバイブレーターは、尻尾に見立てられようか。
 刹那にそこでも大きく痙攣し、収縮を見せた二枚のラヴィア花弁の隙間からでは、この放課後の綾波レイ籠絡の舞台に臨むに当たって、事前にケンスケに注ぎ込まれていた精液の名残が、確かにぶくぶくと奥から白く濁って吐き出されるシーンが演じられていた。
 かくもの淫猥極まりない、一人絶頂の現場。いくら西洋由来のプロポーションを誇ろうと所詮はまだ14歳に過ぎないアスカの躯が、既に少女を妊娠させる能力を持った牡によって穢し尽くされている証のような、ザーメン潮吹きの瞬間さえも、見逃して貰えていないことなんて分かりきっていた。
 これでアスカは、立派なアナルオナニー狂いだ。
 一時間足らずで二度もアナルバイブで逝ってみせた、変態娘だ。
 その手の破廉恥なタイトルを付けられて、ケンスケの動画コレクションに収められるのだろう。
 手の甲に付いた歯形を深くしながら、アスカは悔し泣きに瞼を震わせるしか出来なかった。



◆ ◆ ◆



 結局、ケンスケは手を出してこなかった。
 格好の無様を晒したアスカに、ここでらしくもなく皮肉の一つ叩かずにいるが、いつものニヤニヤ笑いで眺めているのだとは振り向かずにも分かる。
 ―― 何か言わねばと、アスカは声を張り上げた。
 何よ、今更……! と、赤くなった目で肩越しに睨む。
「も、もうとっくに、私のこんな格好なんか見飽きてる癖に! あんたの撮ったビデオとか写真とか、こんなとこばっかりでしょう!」
 否定も肯定もせず、ケンスケは肩を竦めるだけだ。
 いっそアスカは、お生憎様と言ってやりたいぐらいだった。彼女だって今や、この程度の恥辱で生娘のように女々しくむせび泣いたりはしないのである。
 恥ずかしくて堪らないけれど、でもこれくらい何よと言うぐらいには、開き直ることだって出来る。
「なんでよ!」
 故にこそケンスケの真意を疑って、アスカは眉間を険しくさせた。
 単に恥ずかしがらせたり、悔し泣きさせた所を犯したいだけなら、無駄なプロセスだったのにと言い募って。
「別に。俺も四六時中誰かのマンコに突っ込んでたいってガキじゃないしさ」
 ところが、アスカの激高にも、ケンスケはつれない態度だ。
 プレイの前の前戯として焦らしていたり、アナルオナニーショーのアンコールを要求したわけじゃないし、などと言う。
 最初からそのつもりが無かっただけだよと。
 それこそアスカにとっての屈辱だった。

(あいつっ、お人形の―― ファーストっっ)
 綾波レイを手に入れたから、アスカに興味を失った。そんな事が答えだとしたら、絶対に認められない。
「私の、どこに不満があるってのよ!?」
 床の上で身を翻し、自慢のバストを見せつける。
 胸元に片手をやって、ほら、ここを、これを見なさいよとまで言い募って。
 磨き上げられた大理石のようになめらかな肌に、純粋な日本人であるクラスメイトの少女達では太刀打ちできない見事な隆起が、双つ。
 突端の乳首は透き通った薔薇の色の、艶やかにも無垢な佇まい。
 無論、同じ年頃でも際だって発育の悪い綾波レイの胸になど、負けている要素は皆無。
 同居人だった碇シンジにさえ、はっきりと見せたことはない。色気づいたばかりの歳の男子などにとっては、目を奪われずにいて良いはずのない、最高の美少女の生の乳房だ。
 たまたまこの第3新東京市に住んでいて、同級生になる僥倖が無かったなら、一生同じ空間の空気を吸う機会さえ無かっただろう一介のカメラヲタクが、『別に』などと一瞥くれただけの生返事で済ませるなど、許し難い。
 幸運に感謝して、食い入るように見つめ、鼻の下を伸ばしてしかるべき。
 それを隠すことなくまっすぐさらけ出して、見ろ、眺めろとさえ口にした。自分が、惣流・アスカ・ラングレーが。
 だのに。

 ―― ギリッ。
 奥歯を軋ませ、アスカは絶頂後の虚脱感にたゆたう下肢へ叱咤をくれて立ち上がった。
 外もすっかり暗くなっていた。室内の不自然な明るさが廊下に漏れるのを嫌ったらしく、ケンスケは厚い暗幕の掛かった窓側から離れて、撮影ブースを照らしていた照明の電源を切っていっている。
「わたしの時っ、わたしが……お尻でならシても良いって、撮って良いって、言った時は!」
 正確には、“言わされた”時。ケンスケは容赦などしなかった。
「あんた、途中でやめて家に帰してくれたりなんて、しなかったじゃない!」
 レイに対するやり方との違いをあげつらう。
「さっき、あいつがしてたみたいにここでお尻を出させて―― ! そのまま、あれを……あんなもの、持ち出してっ。さんざんトイレに行かせてから、止めてって言ってるのに、わ、私を……!」
 犯したんじゃない、と詰るアスカは、アナルバージンを散らされた日の屈辱に顔を俯かせていた。
 その一番の理由を、ケンスケが懐かしそうにいちいち言い直してくれる。
「止めて、っていうか。許して、だったっけ?」
「……っッ」
「惣流があんなしおらしいこと言ってくれるなんて、思ってなかったんだよな。や、惣流の場合、普段が普段だからさぁ。ギャップがね。あれにはコーフンしたよ」
 それに、と。
「あの日は土曜だったろ。時間に余裕ありゃ、そりゃ惣流の時みたいに浣腸してやって準備も整えられたかもだけど」
 記憶を蘇らせての羞恥と憤りに唇を震わせるアスカとは裏腹に、いかにも「応じてやっている」風の声を出すケンスケは自然体だ。
 裸のレイを立たせていた撮影ブースを明々と照らしていたライト群、全てをOFFにすると、今度は三脚に乗せたカメラ達に一つずつ録画分を再生させ、液晶を覗き込んでいる。
 手のひら大の画面の中には、黒いソックスと上履きだけを身に付けたアルビノ美少女の後ろ姿。首筋にかかる銀のショートヘアから真っ赤になったうなじを晒し、続く尾てい骨までのしなやかな背中のラインでフラッシュを受け止めていた。
「それに、惣流の方も覚悟出来てたわけだろ? 教えてやらなくても『ケツマンコ』なーんて言葉知ってたドスケベちゃんとさ、一緒にしちゃ綾波が可哀想ってもんじゃないの〜?」
「……な!」
「さっすが、ドイツ帰りは進んでたよなー」
 ピッ、ピッという電子音を手元に繰り返させて、画像データを順繰りにチェックしつつの含み笑いが、帯びる熱をいや増したアスカの耳朶を嬲る。
「……ざけんじゃ、ないわよ……」
―― あ? 何がさ」
 柳眉を逆立てた美少女は、元々は武闘派も武闘派。ケンスケとの間が開いており、そしていかにも高価そうな機材が立ち並んでいなければ、どうなっていたことやら。
 クラス委員長の女の子が止めに入る位の暴れっぷりで、その短気に火を付けた男子生徒達を締め上げていたのも、わりと最近までの話だ。
 相田ケンスケの毒牙に掛かり、男というものに対する無意識の恐怖感を植え付けられた今は、随分と大人しくなったのだが。
 代わりにアスカは、固めた拳をその場で振り上げていた。



◆ ◆ ◆



―― ―― っ」
「……お、おい、何だって……?」
 ただならぬ剣幕はさすがに伝わっていた。
 アスカが思い切り部長席のデスクを叩きつけた音は、彼女をもう舐めきっているケンスケにも反射的に首竦ませる勢いだったのだ。
「……帰るわ」
「へ?」
 聞き直そうとするケンスケを一顧だにせず、アスカは未だ異音を立て続けるバイブを無言で腰の下から引き抜いていた。
 デスクに放り出すと、壁の棚に置かれたダンボールから隠しておいた自分のタオルと制服を取り出す。
 さっと体の汗を拭いてから股間へも無造作にやって、汁液にまみれたそこをぬぐう。
 アスカ自身から分泌されたものばかりではなく、独特の臭気を放つケンスケの精液も混じった汚れを、体育の授業があった今日とて放課後まではスポーツバックから取り出さずにいたタオルに吸わせていく作業。
 股を軽く開いてわしわしとタオル生地を押し当てる所など、たとえ肉体関係のある相手でも本来異性に見せるものではないし、彼女ほどの容姿の持ち主が情事の始末をする眺めには生々しい淫猥さもあったのだけれども、
「…………」
「……あ、ああ。その、気をつけて帰れよ……」
 アスカは数刻前からとはがらりと雰囲気を変えていた。
 まるで―― ついさっき帰って行った綾波レイが、一つの取引の意図を胸に、服を脱ぎ落としていった時の様子を逆回しで再現している風でもある、そんな無表情。
 一通りを済ませたアスカがショーツへ足を通し、身だしなみを整えていく間中、ケンスケは液晶パネルを開いたカメラを手に抱えたまま、気勢を飲まれたかのように突っ立っていただけだった。

「あんた、あいつにシンジの連絡先、教えてやったんでしょう?」
 髪留めを最後に付け、すっかり何事もなかったかの素振りを取り戻したアスカが、戸口から振り向かず投げ付けてきた言葉。
 綾波レイと交わした最初の取引について尋ねているのだと、遅れてケンスケは理解した。
 こいつはよろしくない。ちょっとぼんやりし過ぎじゃないか。ケンスケは軽く頭を振って失調を追い出し、それからもう一度、相手がこっちを見てもいないのを承知でゆっくり、左右に振ってみせた。
「取り引きの内容を余所に漏らしたりしない。商売人のイロハだぜ?」
「その余所様を、契約を結ぼうって現場に潜ませておいたやつの言う台詞じゃないわね。しかも、読みを外して二日連続で時間をとらせて」
 せせら笑いで指摘されて、ぐっと思わず詰まらされる。
「とどのつまり、アンタがやってんのはゴッコなのよ。―― 取り引き? 純粋な商売?」
 ハン、と鼻で笑うアスカ。
「恐喝王ミルバートン、だったかしら? 強請の王様に憧れでもしてんのなら、もっとらしく、貫禄でもつけてみたらどうなの? ホームズマニアのコスプレサイトでも、お得意のネット漁りで見付けてきて」
 『そいつ、ハゲでデブだったらしいけど』と皮肉げに付け加える。
 
 かの恐喝王、女の敵、アーサー・コナン・ドイルが創作したキャラクターであるミルバートンは、あまり容貌に恵まれた描写はされていない。
 そして、現在の力関係が築かれる以前、彼女が口汚くケンスケを罵る時、その悪い意味での典型的な東洋人らしさをあげつらうことはしばしばだった。
 金髪碧眼のクォーター娘、惣流・アスカ・ラングレーは、彼を含めた壱中の男子達からすると確かに芸能界やハリウッド映画の中の話じゃなかろうかというほど規格外の美貌を持ったアイドルだったが、また同時に凶悪な『性格ブス』であることも衆目の一致するところ。人種差別的な言いようも平気の平左の、とんでもない高慢ぶりだったのだ。
 チビでメガネの猿。今じゃ懐かしいくらいの罵り台詞をわざとらしく思い出させて、しかしどうしようというのか。
 今、本気で対立してしまえば、被るダメージはアスカの側が圧倒的だろう。
 ケンスケは訝しんだ。

「わかんねぇな。俺のそのゴッコのおかげでまだ助かってるんだって、自称エリート様なんだから分かってるわけだろ? 惣流の方から条件とか制限とか、全部無しで好き勝手にして良いって言うなら、それこそお前、明日から第3新東京市中のスーパーアイドルにさせてやるよ」
―― 第3新東京市の、ね」
「充分じゃねーの? 今だって壱中の惣流アスカっていや、余所の中学どころか高校にだって名前が知れてるんだ。そのアイドル様が下の毛ツルっツルに剃られてケツマンコほじくり回してるアヘ顔ばら撒きゃ、デートの申し込みどころかお前、センター街あたりのスカウトマンだって行列してやってくるってもんだぜ。人気爆発だなぁ、おい」
 一年前ならともかく。目の前にいるアスカに、かつてのネルフが付けていた要人警護体制はとられていない。
 賭けの要素もあるが、ネルフ自体から以前の権勢が失われているのだから、それはまず確実だとケンスケは踏んでいた。
 でなければ、今日までその超重要人物の肢体を好き放題に貪ってきて、無事で済んでいる説明が付かない。
 エヴァンゲリオンパイロットの肩書きにしても、もう現役の物ではないとも聞く。
 繁華街の裏筋で取り引きされているようなインディーズビデオのアイドルにまで堕としてやることだって、ケンスケの力で充分に可能である筈……。
 しかし、アスカは怖れる気配も見せず、挑発的な言葉を連ねてくる。
「でも、第3新東京市どまりなのよね。どうせなら、ドイツのママにもバレるってぐらい世界中にばら撒いてやるって言ったらどうなの?」
「…………」
「それが限界なのよね」
 わざとらしい溜息が聞こえた。
「粋がってみせられるのも、この街の中どまり。でも、外にまで手を伸ばしたら? 外の連中はここの事なんてほったらかしだけど、決して甘いわけじゃない。……結局はアンタも、ここから一歩も出られないんだわ。いくら事情通を気取ってみせても、忌々しい境界線を越えて外に、この街の外に出て行くことは出来ないのよ」
 この鳥籠の街からは―― 。そう吐き捨ててローファーの底で廊下を蹴った音が、タンッと場違いに小気味良く響いていた。

「あの女がアンタを頼る内容なんて、とっくに想像が付いてるの。別に、言質を取らなきゃならない程の話じゃないわ」
 暫し無言の、お互いの間に張り詰めた隔たりを破って、アスカがいくらか険しさを引っ込めた声を出した。
 譲歩を仄めかしているのだろう。
「ふぅん?」
 ケンスケは手にカメラを握りっ放しだったことを思い出し、液晶パネルを丁寧に閉じてから、デスクの上に置いた。
 ついでで、広い卓上の空いたスペースへ行儀悪く尻を乗せる。
 『帰る』と言った癖に、まだ暫くは掛かりそうだなと見当を付けたからだ。
「自分の場合と照らし合わせてみれば、って感じのご推察なわけ? 仲は良く無いと思ってたけど、おたく自身は気が合うって思ってるんだ。向こうさんと」
「…………。アンタには分からないでしょうね」
 果てしなく高いプライドを抱え、やたらに尖った生き方をしていた癖、たやすく性奴隷扱いへとエスカレートするだろう理不尽な取り引き―― 見え見えの罠にさえ手を出してアスカが願ったのは、一夏を戦友として、同居人として過ごした少年の消息だった。
 碇シンジ。
 ケンスケにとっては数少ない友人の名前であり、その一方で、強い嫉妬を抱かされた相手。人型決戦兵器エヴァンゲリオンの、世界に四人しかいないパイロットの内の一人だ。
 彼らの半分とはトリオとして常につるんでいたのに、一人ケンスケにだけ与えられることのなかった地位の持ち主でもある。
 もっとも、当事者である少女たちにとっては、四人ではなく三人であったことに拘りを見出しているのだろうが。
(確かにあいつは、シンジは特別だったよ)
 鈴原トウジと共に街の外に連れて行かれたシンジが、今仮に戻って来たとしてもと、ケンスケは思う。
 今時気恥ずかしくも「友情」を口に出来たかもしれない仲。そこに戻るつもりは、今更無い。
 だが、前ほど妬ましさに苦しめられる事も無くなっていた。
 心境の変化というやつだ。
(特別も特別、あいつ一人をエサにするだけで、惣流に霧島に山岸に、それから綾波か。何人食えるんだか。ほんっと、羨ましいモテモテっぷりだよなぁ、シンジ。……トウジ、お前負けてるぜ?)
 へらっと口元を緩めて、埒もない考えを浮かべてみる。
(俺のこの相変わらずのモテなさ加減を、へへっ、自慢してやりたいくらいだよ)
 傍らにやった手で大事に撫でてみるカメラの中には、エヴァパイロットの綾波レイがバックヌードを晒している姿がたっぷり収録済み。
 視線を戻して入り口の方を眺めてみれば、もう一人のエヴァパイロット、アスカの、スカート越しでも分かるキュッと引き締まった上向きのヒップがそこに。これをじっとしげしげ眺めやっていても、今のケンスケには文句を付けられない特権がある。

 ふと思いついたままに、ケンスケは言ってみせた。
「何でも良いけどさ、惣流。帰る前にも一回、こっちにスカートめくってパンツ見せてくんない?」
 なんか撮りたくなったんだよね。理由にもならないそれを告げるだけで、躊躇いはしてもぶすっと黙ってアスカは従ってくれる。
 なにしろこのとびきり綺麗な金髪の女の子は、相田ケンスケ専属のモデル―― オールヌードも、ハメ撮りすらもOKの、生きたマネキン娘なのだから。




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Original text:引き気味
From:エロ文投下用、思いつきネタスレ(4)