Beautiful Party

外伝



著者.ナーグル















 物語はアスカ達がオーク達に捕らわれたまさにその日から始まる。光がろくに届かないカビ臭い地下室の中で、ミサトは途方に暮れていた。ため息を吐きつつ、ほとんど自由にならない体を今一度揺すってみた。だが、やはり手首、足首ときっちり荒縄で縛り上げられた彼女の体は自由になる気配が微塵もない。
 腕利きの冒険者である彼女らしくない失態といえるだろう。

(ダメか、あっちゃ〜まいったわねぇ)

 ついつい乗りで馬鹿なことをしたものだ、と思うがあれは仕方がない。うん、きっと加持やリツコも納得してくれる、訳がないわ。
 余裕があるのかないのか1人ボケとツッコミをする。事態が改善するわけではないが、多少は憂鬱な気分が軽くなった気がする。

(リツコの奴、怒るとチョッチ洒落にならないのよね〜)

 実際の所、洒落なんてものではない。
 これから自分に待ち受けているだろう、悲惨な運命は勿論イヤだが、それ以上にリツコ達の叱責の方が怖くて憂鬱だと思う当たり、自分はどこかおかしいのじゃないか。先刻まで激しい戦いを繰り広げていたため汗が滲んでいたが、それも冷えてなんともいえず居心地が悪い。
 薄闇の中にこの間誕生日を迎えてとうとう3…いやいや、永遠29歳の肢体がぼんやりと浮かび上がって見えている。自分の物なのに、自分の体ではない様な無機的な感じがする。無骨な鎧や綿入れなどを剥ぎ取られ、唯一身につけている下着同然の薄いチュニックシャツでは、その豊満な肉体を守る物としては如何にもたよりない。

(加持たちが来るとしても、ちょっと時間かかりそうだし、これは……んーと、やっぱりやられちゃうか)

 目だけを動かしてみれば、彼女が数分前まで身につけていた白銀の胸当て……ミサトの自慢の一品であるレア中のレア装備「女神の胸当て」が、無造作に部屋の隅にカビ臭いがらくたと一緒に転がされている。それの持つ本当の価値を知ったら、略奪者はどんなに目の色を変えるだろうか。畏敬に声を震わせることは間違いない。
 いや、喜ぶかもしれないが今ほど喜ぶだろうか。目の前でミサトのバックパックに入っていた携帯食料を貪り食らう獣臭い略奪者は、小さな村を丸ごと買えるほどの装備品以上に、その持ち主の肉体に興味を引かれている。彼にとってはミサトは神装備以上のお宝らしい。
 Fカップの球形をしていて、柔らかなそれでいて張りのある乳房、過酷な冒険者稼業で鍛えられたくびれた細腰、でもビールや何夜の暴飲暴食で適度に脂肪がついて町娘のように柔らかい。弓弦のようにしなやかな体はどこをきっても汁気に溢れていること間違いない。

(この魅力溢れる自分が自分で呪わしいわ)

 焦りがあまり見られないモノローグだが、実際の彼女は細かに震える漆黒の髪の毛が教える様に、初めて北方の荒地を旅したとき以上に怯えている。10年以上に及ぶ冒険者としての生活で、もっと酷い目にあったことは何度かある。今更、無碍に手折られる処女の様に泣き叫ぶことはない…と思うけれど、それでもそれが嫌なことで避けたいことであるのは間違いがない。

(うう、加持…リツコ…早く、早く助けに来てよ)











 アスカ達にとって先輩に相当する冒険者一行がいる。遊撃士(レンジャー)の加持リョウジ、錬金術師の赤木リツコ、そして女戦士の葛城ミサトの3人だ。彼女たち3人に彼女らの後輩にあたる3人、吟遊詩人の青葉シゲル、僧侶の日向マコト、魔法使いの伊吹マヤの3人が加わることもあったが、もっぱら3人で冒険をしている。アスカ達ほど短期に名を上げたわけではなく、どちらかと言えば地味な、よく言えば堅実に仕事をこなしているのだが、その実力は折り紙付きで名より実を取るならアスカ達よりミサト達に依頼をした方が確実だと、世間一般で評価されている。

 そんなこんなでミサト達は某月某日、某市征服をたくらむ魔法使い退治を依頼された。特に驚く様なことは何もなく首尾良く部下のコボルド達を倒し、罠を乗り越え、魔法使いを追いつめた。あまりに一方的で、数年会ってないけどアスカ達はちゃんと上手くやってるかなぁ、と思い出して述懐するくらいに余裕溢れる冒険行だった。そんなこんなで秘密基地最深部に魔法使いを追いつめた一行。「くっ、ここまでか…」見た目はそうでもないが声が青葉に似ている魔法使いは玉座に逃げ込み、そしてあからさまに怪しい天井から垂れ下がる荒縄をおもむろに引いた。

 音もなく継ぎ目の無かった床に真四角の穴が開く。

「あくろぉぉぉぉ〜〜〜〜〜すっ!?」

 その1メートル四方もない狭い穴の中に、狙いすました様にスピアチャージ中のミサトは吸い込まれていった。
 謎の奇声を残して。











 さほど深い縦穴ではなかった様で、ミサトはさして重いケガを負うことはなかった。だが頭部を強打したミサトは数分ほど意識を失っていた。致命的な数分といわざるを得ない。その数分の間に、ミサトは地下迷宮の奥底に住まう主に捕らわれてしまっていた。
 ミノタウロス ――― いわゆる牛頭人身の怪物だ。身の丈は2メートルほどで、筋骨隆々とした体躯と太い腕がその力を物語っている。その出自は様々な諸説があるが、もっとも一般的なのは混沌に汚染された人間が変じた怪物で、奇跡的に血が固定化されて純粋な種族として確立された。というものと、とある滅びた海洋王国の王妃が雄牛に欲情を抱き、そして出来た怪物であるという物である。このミノタウロスは頭部と下半身のみが牛に酷似し、両刃の大斧を武器としているという、捻りも何もない教科書に載せたくなるほどオーソドックスな姿をしている。

(直に私のご飯も食べ尽くしちゃうわね。そうしたら、すぐに…)

 わかっていても背筋に怖気が走る。
 食欲の次は性欲。そしてそれが満たされたら物欲、そして満足して睡眠を取る。知能よりも腕力なミノタウロスらしい大変にわかりやすい行動を取るだろう。
 そしてその予想は当たっていた。

『フッ、フッフッ。ブフッ、ブフ』

 唇についたバターを舐めとり、鼻息荒くいそいそとミサトに近づいてくる。逃れることも出来ないまま捕まり、引き寄せられる。足を縛る縄をちぎり取られ、不自由な体勢からの開放感にミサトはため息をつく。逃れられないことは悟っている。いかに力自慢の彼女でも、ミノタウロスと力比べをして勝てるわけがない。
 覚悟を決めたミサトは目を閉じ、体の力を抜いて頭をミノタウロスの胸板へと預けた。むっとする獣臭に鼻をしかめるが、あくまで抵抗をしない。

『ブモーッ!』 「ふぁ、ああぁぁ」

 膝をつき尻を高く突き上げさせた格好のまま、ミサトを前のめりに押し倒す。泥で汚れた石床の上に頬を押しつけられ、ミサトはギリギリと屈辱に歯ぎしりをする。覚悟を決めたことと許容することは別問題だ。下帯がむしり取られ、剥き出しの股間に冷たい空気が触れる。怒りで火照った彼女の体を遠慮無くミノタウロスは嬲り回していく。

「くっ……ううっ」

 尻、背中、腹、そして重たく揺れる乳房に指が這い回る。

「ふっ、あうぅ、ちょっ、ううっ…下手くそ」

 悪態をつきたくなるほど下手くそだ。レイプという精神的にも最悪な状況で感じるわけもないが、それにしても華奢な女体を労る様な愛撫ではない。

(うう、だけど…)

 ごろりと転がされ、今度は仰向けにされる。チュニックごとブラジャーを引き裂かれ、剥き出しにされた男の手に余る巨乳がぶるん、と大きく震えた。白い柔肉とその頂点で息づくピンク色の乳首にミノタウロスはむしゃぶりつく。女日照りだったミノタウロスは、ちゅぷりと粘ついた音を立てて吸い付き、赤子の様にチュウチュウと音を立ててしゃぶる。その一方でもう片方の胸肉を剛毛の生えた指先が揉みしだいていく。決して上手くはない、がむしゃらなだけの乱暴な愛撫にも関わらず、徐々にミサトの体は反応していく。

「はぁ………はぁ………はぁ、あ……んんっ、う、はぁ……」

 ビク、ヒクッと体が時折痙攣する。感じたわけではないが、その度にゾクリと冷たい物が背筋を走り、胃もたれの様に重いモノが体内に澱んでいく。

(う、恨むわよ、加持ぃ)

 あの危険な香りのする男とはまだ18の時に出会って付き合い、その後別れ、再開したときよりを戻して今に至っている。そして彼女曰く、「あの馬鹿」が徹底的にこの体を開発し尽くしたから、こんな状況にも関わらず体が反応してしまう。

「うっ、うん、うん、ううっ。あはぁ、うううっ」

 いい様に弄ばれるうちに、徐々にミサトの体が仰け反っていく。もうどれくらい舐められ、揉まれているのかミサトには時間の感覚がつかめない。ただとにかく、下手でぎこちなくて自分勝手で、少しも気持ちが良くないはずなのに、体が熱を帯びていくのを止められない。

「気持ち、良くなんか、無い…はずなの、に…。ああ、はぁ、あああ」

 熱い吐息が漏れる。肩で息をするのを止められない。体は強張り、無意識のうちに扇情的に体をくねらせることしかできない。無骨なミノタウロスに比べれば、たおやかな白百合同然のミサトの体が、思う様に陵辱されていく。

(ん、あ、やだ。く、くる…きちゃう)

 それだけはいやだ、とメチャクチャに体をよじる。だが、不器用ながらも諦めない愛撫にとうとう門扉は内側から押し開けられる。

「嘘、嘘、嘘、あ、あ、んああ、あっ、あっ、ああ、あああぁ―――っ!」

 ミノタウロスにちゅう…と音を立てて強く乳首に吸い付かれた瞬間、ミサトの目は見開かれ、無様に甲高い悲鳴とともに愛液を噴き出した。全身が茹でた様に赤く染まり、ヒクッ、ヒクッ、と腰が痙攣して愛液が溢れるのが止められない。ハッ、ハッ、と短く浅い息を断続的に繰り返し、ぐったりとミノタウロスの腕に体を預ける。

「う、くぅぅ。あんた、胸ばっかり、大概に、してよ」

 口だけは達者だが、ぐったりと弛緩したミサトはこれ以上抵抗する気力も体力もなかった。なすがまま、あぐらを掻いて座り直したミノタウロスに改めて抱え上げられても無抵抗なままだ。背後から抱きかかる様にミサトを抱きしめる。足を大きく開かせ、その中心で赤くグロテスクなほどに息づくラヴィアを、背後から太い指先で弄ぶ。白く濁った愛液をこぼす秘所は抵抗も出来ず、太い指先の出し入れを許している。

「ふぁ、あっ、あっ、ああっ。うう、感じて、無い。感じてなんか、いない…。うう、加持、加持ぃ」

 『じゅぱ、じゅぱ、じゅぽっ』 淫らな水音を立ててミサトの下の口が啼いている。さらに重たくたっぷりとした乳房を、開いている左手で掬い上げる様に揉み弄んでいく。スポンジのように柔らかく弾力に富んだ乳肉をこね回し、先端の乳首を指先で摘んでコリコリと揉みほぐしていく。

「う゛っ、うぐ、うう〜〜っ。や、だ。ああ、もう…」

(やだ、こいつ、だんだん、上手に)

 下手なだけだった愛撫が、徐々にミサトの弱点を巧みについてくる。飴細工の様にとろりと惚けた目をしてイヤイヤとミサトは首を振る。犯されるのはまだいい、盗賊団に潜入したは良いが捕まり、一晩中嬲り物にされたことだってある。加持には内緒だが、とある盗賊団を油断させる為に敢えてその体を自由にさせたことだってある。だが、その時だって真の意味で感じて達したことはなかった。今回だって心が折れて本当の意味でイくことはない。それは確信している。

(だけど、でも、体は、反応してる)

 ミノタウロスの黒くて固い獣毛にまみれた下半身の中で、そこだけ異様に赤くて粘つく生殖器が隆々とそそり立つ。人間の物とは形が違い、どちらかといえばやはり蹄が割れた四足獣のそれによく似ている。どちらかといえば長さに比べてほっそりしていて、亀頭のような箇所がなく、先端から根本までがぬるぬるとした粘液に包まれた海綿体で構成されている。重要なことは、内部に恥骨があって決して萎えることがないことだ。

「こ、これで、私を…」

 両脇を捕まれて軽々と抱え上げられながら、ゾクリと冷たく焼ける様に熱い焦燥感にミサトは息をのむ。このグロテスクなペニスでこれから犯されるのだ。太さはなんとか入らなくもないが、長さが驚異的だ。人間の肘から手の先まで、およそ50cmほどの長さがある。到底、全て納められる物ではない。

(でも、こいつはそんなこと考慮するはずがないわ…)

 犯されるその瞬間、過程を想像してしまい、ゴクリと喉を鳴らして粘ついた唾液を嚥下する。そう言えば、と強がりながらミサトは思い出す。陵辱の経験はあるけれど、相手は人間だった。人間以外に犯されるのはさすがに、初めての経験だ。かつてアスカ達に講義したとき、最悪の時に抵抗し続けるのは愚作であり、いかに無事に生き延び、逆襲や救出の機会を待つことが冒険者の行動だと嘯いた。そして、それは間違いのないことだと自分でもわかっている。だけど、今彼女は無性に泣きわめいて抵抗し、逃げ出したいと思っていた。

「む、無理よ。人間じゃないのに、こんなの、獣姦とどこが違うっていうのよ…。加持、リツコ…」

 地下通路奥の暗い空間からは何も聞こえてこない。加持の呼び声もリツコの持つカンテラの明かりも何も見えない。
 手で固定するまでもなく隆々としている生殖器に、ミサトの淫らに開花したヴァギナを押し当てる。当人の意志に反して、そこはいつでも受け入れる準備を整えていた。

「あ、ああ、や、加持ぃ…加持、加持……」

 ミノタウロスがぐっと力を込めた瞬間、ズブリと先端部分がミサトの胎内に飲み込まれた。

「ひっ、ぐ…………っっ!」

 鋭い杭で刺し貫かれた。そう錯覚するほど鮮烈なイメージがミサトの脳裏を閃かせる。稲光のような瞬きは、生殖器から噴き出る雄牛の精液だ。大量の真っ白な精液がミサトの胎内に溢れかえり、次代の命を創造する。このままだと、妊娠してしまう。雄しかいないミノタウロスは繁殖する為に人間型生物の女性、すなわち人間・エルフ・ハーフエルフなどをパートナーとして利用する。それ故に妊娠させる能力はオークほどではないが8割以上だという話だ。

(妊娠したら、死んじゃう…私、死んじゃう)

 命を生み出す行為であるはずなのに「死」しかミサトは感じられない。自分が殺されていく、身の毛のよだつ想像にミサトは背面座位で犯されながら喘いだ。激しく上下に揺さぶられ、膣内を激しくほじくられてミサトは泣きわめく

「ぐぐっ、ふっ、あっ、ああっ、ああああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っ!」

 涙を流して長く尾を引く嬌声を上げる。バネ仕掛けの様に痺れていた足先が知らず知らずに前に伸ばされ、ブルブルと脹ら脛を震わせる。

(か、固い、固い。堅くて熱くて、ああ、長いのが…)


 ズンッ!


 重々しい圧力と共に最奥をつかれてミサトは息を詰まらせた。
 さらに灼熱のペニスがミサトの体奥を穿ち、蹂躙する。「ヒィ」と小さく悲鳴を上げるとミサトは大きく首を仰け反らせた。汗を吸った髪の毛が振り乱され、たわわな乳肉が大きく揺れ跳ねた。気を失いそうなくらい全身が熱い。胎内で燃える火の性で脳まで茹だっていく気がする。これ以上入らないというくらい奥の奥まで挿入され、子宮と膣が外にめくり出されそうな勢いで半分抜き出され、再び突き込まれる。

「ひ、ひぃぃ〜〜〜〜っ! し、死ぬ〜〜〜〜!」

 ミノタウロスの生殖器はまだ半分以上が外に露出している。

『ブモ、ブモモーッ!』

 快感にモーモーと鼻息も荒かったミノタウロスだが、それだけではいよいよ物足りなくなったのか、やがてミサトの体を脇からつかむと、これまで以上に激しく上下に動かし始める。

「いひ、ぎっ、ひぃっ、やめて、ああ、やめ、おねがい、おねがっ、ああっ! やぁ、あ、ああぁ」

 ジュブジュブと交合とは思えない様な音を立て、泡だった愛液と精液が吹きこぼれていく。舌を出して喘ぎ、逃れようとミサトは前のめりになる。だが多少射精して落ち着きを取り戻したのか、ミノタウロスは動きを変えた。彼女の髪の毛を右手でつかみ、左手で乳房を背後から揉みしだき始めた。これまでとうってかわった、やたらゆっくりとした腰使いで犯され、目を白黒とさせてミサトは抗議の呻きを上げた。

「うあっ、あっ………あっ……ああっ…」

 ミノタウロスのスローモーな動きにあわせる様に、ミサトの喘ぎもゆっくりと断続的な物に変わる。紅潮した肌にじわじわと汗が滲み、玉の雫となって滴り落ちる。快感から反射的に逃れようと中腰になった瞬間、髪を引っ張られて引き戻され、抜けかけたペニスがまた限界まで挿入される。その度に結合部からは愛液と精液のミックスジュースが泡となって溢れ出る。

「はぅ、ふぁ。あう……うっ、ああ、いや、加持、リツコ…」

 先ほどから噴水の様に大量の精液が胎内に噴き出されている。生殖器の形状といい、この射精プロセスといい、どちらかといえば人間よりも牛に近い生態をしているらしい。ともあれ、胎内に精液の迸りを感じるたびに、ミサトは小さく自分が達して少し持ち上げられていくのを感じていた。限界まで高みに持ち上げられたとき、自分がどうなるのか…。

「ひゃう、ふぐ、ぐぅ、ああ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ああ、くる…」

 そして、その時はすぐ目の前に来ていた。小刻みに体を痙攣させ、ほとんど全裸なのに薄ら寒い地下迷宮で暑さしか感じない。その時、遠く…いや、意外に近くを駆ける足音と自分の名前を呼ぶ声を聞いた気がした。

『…………っ! ………っ!』

(幻聴…?)

 ふと、正気に戻った目をして闇の奥を見据える。墨の様に黒い闇の奥で光で瞬いた様な気がした。

『ミ……ト!』

(加持…くん?)

 今度は聞き間違えようのないはっきりとした声が聞こえた。

『ミサト!』

 ミサトの顔が喜びに輝く。幻聴ではない。すぐ、近くにまで来ている。すぐ近くまで、加持が来ている。助けがそこまで…。

「あああぁぁぁっ!」

 その時、ミサトの喉を裂く様な哀切な悲鳴が溢れた。あからさまに欲情した桃色の喘ぎ声に、明らかに闇の奥の気配が一変する。スパイクが石を削る甲高い足音が聞こえる。本当にすぐそこまで来ている。だが、性交に夢中になったミノタウロスは気づかず、目前にまで迫った本射精目指してラストスパートをかけている。

「んあっ、あっ、あっ、あっ、いやぁぁぁぁ! やめて、やめてぇーっ!」

 喜びに満ちていたミサトの顔が瞬時に絶望で彩られた。自分はもうまもなく達してしまう。心は何とか守れたが、体が反応して達してしまうのは避けられない。最悪なことに、丁度助けに来た加持の目前で、自分がイく所を彼に見せつけることになりそうだ。

(そんなの、冗談じゃ、ないっ!)

「ああ、あう、ううっ、いやっ! いや、来ないで! 加持、ダメ、来ちゃダメ! 来ないでぇ!」

 絶頂の気配に、ミサトの腹部が硬直して波打つ。ジュワリと愛液が射精を待ちかまえる様に胎内から溢れ出て、最愛の男に寝取られる様を見られてしまうという、背徳的でマゾヒスティックな感情にミサトは身をよじった。こんな時になって、加持のことを父親の代わりでなく、1人の男として愛していることを悟ることになるなんて、運命とはどこまでも残酷なのだろう。

(耐え、なきゃ。でも、このままじゃ、もう)

「あは、はっ、ゃっ、きゃう、うっ、うっ、あう、あっ、あっ、ああっ、ああっっ!」

 ミサトの抵抗もむなしく、ぎゅう…と硬直した膣がミノタウロスのペニスを締め付ける。それが最後の一打ちになったのだろう。大きく嘶きながらミノタウロスは限界までペニスを挿入し、大きく全身を震わせた。同時に待ち望んでいた加持の顔を闇の奥に見つけたミサトは、全身を震わせて望まぬ絶頂に甘美なる悲鳴を上げた。

「来たら、ダメ、見ない、で。 ああ…!? あっ! あああ、あっ、ああああ―――――っ!!」

 ミノタウロスは絶頂に震えるミサトの体を抱きしめ、全身で覚えようとする様に撫で回し、嘗め回しながらドクドクとペニスを脈動させながら大量の精液を吐き出していく。数秒間そのまま絶頂に体を硬直させ、小刻みに震わせているミサト同様、余韻に浸っていたミノタウロスだったが、ふと彼は気配を感じて面を上げた。

『―――ぶもっ!?』

 額に鷲の尾羽と檜で作られた矢2本、3本と続けざまに撃ち込まれる。自分が死んだということにも気づかず、死に際して種を残そうと限界を超えた量の精液と血液を噴き出しながら、ミノタウロスは仰け反り、そのまま倒れ伏した。それでもなおそそり立つペニスを支えにミサトはしばらく上体を起こしていたが、やがてミノタウロスとは逆に、前のめりに倒れ伏した。

「ああ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
「ミサト!」

 床に顔を打ち付ける寸前、飛び込んだ加持が彼女をすくいあげる。加持、それにリツコと知り合いの姿にミサトは安堵すると共に、最悪の所を見られたことに深い嫌悪を感じていた。二人ともこれがどうかして関係が変わるわけではない。恐らく、何も変わらないだろう。だが、自分はどうか。人間の野党や盗賊などに拷問されたり陵辱されたりするのとまるで違う、地獄の様な体験をした自分が変わらないままでいられるはずがない。

(あーうー。最低なところを見られちゃったわね。うう、加持の奴、もっと早く来いってーのよ。あんたが遅いから私は…。あ、あれ、変だわ。なんで、わたし、あの子達のことを…)

 助かったことを実感することもできず、ミサトはどういうわけか後輩のアスカ達のことを思い出していた。
 虫の予感? 言いしれぬ怖気は陵辱の残り香から来る物ではない。後輩達への不安が冷たい感触となって胃の腑をえぐる。

「アスカ…」












初出2009/05/27 

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