BEAUTIFUL PARTY

7話Aルート



著者.ナーグル















福音歴25年

 この年、中央王国どころか大陸全土を揺るがす大惨事が発生した。
 既に絶滅したと思われていたピンクオークの集団、いや大軍が炎の竜巻のように現れたのだ。

 当初、国王は精鋭の一部を差し向ければ容易く鎮圧できると楽観的に考えていた。正規の騎士団ではなく一部民兵の混じった傭兵主体の槍兵と弓兵の部隊を向けただけだった。しかし、これは凡庸だったとはいえ国王を責めるのは酷なことかもしれない。実のところ国王のみならず、王国の誰しもが1週間とたたずに鎮圧できると考えていたからだ。

 だが、兵隊達は返り討ちにあい、見るも無惨、語るも無惨な方法で1人残らず虐殺された。
 そしてオーク達の進軍は風のように速かった。破壊は炎だった。事をなせば森に消え、森と同化したように気配を無くし、これと決めた目標は絶対に攻め落とし、その攻撃は雷鳴のように突然だった。
 全滅の報告が王宮に伝わる前に、オーク達は通り道にある全ての村と町を蹂躙していった。
 女達は子供を作れるなら、種族も年齢も問わずに集められ、ピンクオーク相手の地獄のような集団輪姦の果てに孕まされ、自分たちを滅ぼす敵の子供達を産まされる。それ以外の人間は一切の差別なく、楽しむだけの拷問を受けたすえに、殺され、塩漬け肉とされてオーク達の食卓を満たした。

 それでも当初は王国の人間は気楽に考えていた。オーク相手に本気を出すことを恥と考え、兵力を小出しにしては各個撃破されていった。10の町と1万の民が犠牲になるに及び、さすがに顔色を変えて大軍を編成してぶつけたが、それすらも撃退された。
 2万人のゴブリン・ピンクオーク連合軍は数十のオークロードと、彼らを上回る力を持った1人のオーク…いわばオークキングなる新種によって統率されており、オークキングの力は人間の予想を遙かに超えていた。神話の時代に言われたように、定命の者には決して殺せない。それほどの怪物だった。
 彼はオークとは思えない卓越した知略と軍略で軍を指揮し、武力にも秀でて名だたる将軍や騎士、英雄を正面からの戦いで討ち殺し、生首を槍の穂先に掲げた。彼の部下であり、後に彼の兄弟と判明したオークロード達も恐るべき力を持っていた。特に魔法使い、ウォーチャンター、シャーマン、暗殺者、獣使いである5人はオークキングに勝るとも劣らない力を持ち、王を支え、人間達を蹂躙した。

 遂に国王は焦土作戦を決断した。
 かつてピンクオークとの戦で取られた自国と国民を切り刻む最悪の作戦だ。
 ピンクオークは町を襲えば襲うほどに肥え太る軍隊蟻とネズミが混じったような災厄だ。これは言葉を返せば、襲う集落がなければ勝手に食い合って縮小していくことを意味する。
 他国に頭を下げて援助を乞い、オーク達が来る気配が見えたら町を焼き、畑を踏みにじってひたすらに逃げる。逃げられそうに無い足手まとい、特に女性は涙をのんで夫や恋人が死なせる。各地で親の、夫の、恋人達の慟哭が響き渡った。数年に渡る焦土戦で国土は荒廃した。誇張抜きで草は枯れ、空は陰り、土は腐って沼となった。しかし、この血を吐くような我慢比べは、最終的に人間側に微笑んだ。

 略奪する物がなくなったオーク達は互いに殺し合い、同盟を結んでいたオーガやゴブリン達とも争うようになった。ねずみ算の増加がおさまったオーク達は徐々に数を減らし、同士討ちを始めていく。オークキングの直属部隊は鉄の規律と恐怖でさほどの損耗はなかったが、しかし人間相手の戦を継続できる状況ではなかった。
 継戦が不可能であることを悟ったオークキングは軍を解散し、生き残っ十た数人の兄弟達と共に森の奥深く、闇の中へと消えていった。
 不老の怪物であるオークキングはその後も数十年ごとに現れては人間に戦を挑んだが、兄弟であるオークロード達が寿命、あるいは戦いで死亡していなくなったため、その戦力は格段に減少していった。数回の戦の後…数百年後になるが、流れ者の戦士の手によりオークキングはトドメを刺されることになる。

 ともあれ、この第2次オーク大戦によって中央王国の命運は尽きた。
 国力の減少は隠しようもなく、荒廃した国土に絶望した人材の流出が起こり、さらには絶望した王の放蕩に拍車がかかり、国民に重税を課し、自分は贅沢をするという典型的なパターンにより人心も離れた。大戦終了から8年後の福音歴37年、農民一揆が発生した。これに領主や騎士達が合流して巨大なうねりとなって全土を包み、ついには国王を捕らえ、国民裁判にかけて処刑するという絶対王政、封建主義の終わりを象徴する事件となった。
 もっともこの革命政府は3年と持たずに内部分裂を起こし、他国に亡命していた王弟を迎え入れて再度王政が始まり、後期中央王国の黄金時代が始まるのだが、ともあれ、前王朝の寿命を200年縮めたと言われるオーク大戦は多くの謎をふくんだまま、歴史書の1ページとなった。

 後世の歴史家達は一様に綴っている。

 ピンクオーク達はどこにいたのか?
 特にオークキングはどこに?

 神話の時代から生き残っていたわけがない。彼らほど強力な力を持った存在が、ずっと隠れていられたとは信じられない。オークの成長速度から考えて、おそらく大戦の数年から10年前に彼らが生まれたと推測されている。
 その場合、一番の疑問は誰が、あるいは何が彼らの母親だったのかだ。ピンクオークの力は父親より、母親のそれを強く受け継ぐことが知られている。

 諸説は数多く、数百年前のエルフ・ダークエルフ戦争で行方不明になったエルフの王女や、地獄から来たデーモンなど様々だ。
 だがその中に、簡単なはずのオーク退治に失敗して消息を絶ったアスカ達、竜を挫く者の名前は…なかった。

 良きにつけ悪しきにつけ、彼女たちの名前は遂に歴史に刻まれることはなかったのだ。




NORMAL END








初出2009/06/05

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