BEAUTIFUL PARTY

5話Bルート



著者.ナーグル














『まあ、ちょっとだけ待てオーク』



 族長は引き上げようとする一同を制止した。豚そっくりな円らな瞳をキョトンとさせ、部下達はいぶかしげな顔をする。雨が降ろうとしているのだから、一刻も早く暖かなねぐらに帰りたいのに、それを押しとどめようとする。族長のわがまま、奇行はオークの常でいつものこと(つまり、全てのオークに共通)だが、まだ何かあるというのか。

『なにがあるオーク?』

 仲間達の雄弁にして無言な視線に押され、古株の1人であるクビライが恐る恐る尋ねる。族長は気まぐれだ。たぶん先祖に猫の血が混じっているに違いない。猫といえば、昨年捕らえて共有妻にしていたワーキャットの女は大変に具合が良かった。元々は農家の娘が羊の放牧中、ワービーストに襲われて感染したらしいが、そんな娘を狩りの帰りに偶然捕らえられたのは行幸だった。靴底のように野暮ったく土臭い娘だったが、若さと瑞々しさは素晴らしかった。変身して逃げようとするところをトリカブトの香水を噴霧して弱らせ、半獣化したまま痺れて動けなくなっている娘を犯しまくった。半獣化した女というのは、人間とするのとも山羊とするのとも違っていて、大変に具合が良かった。

 それはともかく、族長は大変に気まぐれだ。唐突に比喩抜きで目が飛び出る勢いで部下を殴りつけ、首の骨を折って死んだ彼に『洒落だ』と言い放つ笑えない芸人だ。時折ふと思うのだが、族長はどこかオーク離れしていると感じることがある。それはいかに有能で神秘の力に秀でているといっても、種族の違うサテュロスのシャーマンを仲間に引き入れることからも伺える。まあ有能なのは間違いなく、彼の作る魔法薬(前述の香水など)や彼の考案する変態じみた性交方法には大変お世話になってはいる。だが混沌に汚染された異種とはあまりお近づきになりたくないのは確かだ。

(もしかしたら族長は……オーク)

 平気で混沌と接することが出来る族長は、単に器がでかいと言うだけだろうか。族長の瘡蓋だらけの体は、ありふれた皮膚病ではないかもしれない。
 前族長の死に様は古株の間では有名だ。ジャバーウォックなる怪物に襲われ、前族長と古株の多くは死んだ。得体の知れない真っ黒な煙のような息を吐きかけられた仲間達は悉くその場で昏倒し、ある者は全身を溶け崩れさせて発狂し、ある者は全身に屍肉のような臭いがこびりつき、無数の蠅を呼び寄せてしまい寝ることも出来なくなって三日後には蛆まみれの死体になった。運良く生き残った数人も、皮膚を犯す病魔に倒れ1ヶ月のたうち回って苦しんだ後、腐肉となった内蔵と血を吐いて死んだ。
 ……族長も肌に幾つもの斑点を浮かべて一時重篤状態になったが、唐突にけろりと回復した。そして空中分解寸前だった部族をまとめ上げ、オーク離れした活躍を見せて今の地位を確立した。たった1人で10人以上のホブゴブリンを八つ裂きにしたかつての戦いは今でも目に浮かぶ。彼を誇らしく思う反面、恐ろしくもある。その力がもし、混沌の汚染からきた物だとしたら…。

(ばかなかんがえオーク)

 彼は頭を振って今の考えを打ち消した。
 どちらにしてもだ。今は彼に従った方が良い。彼と彼のシャーマンのおかげで信じられないほどうまい汁を味わえている。それに今の自分は弱い。下克上と棚ぼたはオークの常。族長を追い落とし、その地位を奪うのはもっと後になってからだ。そう、その頃には混沌の汚染が深刻なまでに進んで、苦もなく熟した果実を味わえるかもしれない…。











『気づかないのかオーク?』

 肩をすくめると族長は部下達の鈍感さに呆れかえった。シャーマンも気づいていないようだが、となるとこれは、文句なしで彼の戦利品だと断言して良い。混沌の影響から、彼の鼻は並のオークとは比べものにならないくらい鋭くなっている。鼻をフンフンと鳴らし、胸一杯に湿った空気を吸い込む。雨の臭いにマユミたちの芳しい香りが混じり、得も言われぬ快感。たしかにこれだと馬鹿共は気づけないかもしれない。自分だけが気づいている優越感、それを皆に教えたときの達成感。全てが妖しく心をざわつかせる。

『じゃあ俺のものオーク』
『なにか………あるのかオーク?』
『んん、ああ、いや。何もないオーク。それよりおまえら、みんな集まれオーク。まだガエ(雨)時間あるオーク』

 ニヤニヤ笑いを満面に浮かべ、族長は部下達に指図した。



(なによ、こいつ、何考えてるのよ?)

 幻影に包まれたアスカは、唐突に動き始めたオーク達にビクリと体をすくませる。気づかれてはならないから、身動ぎ一つ、深呼吸一つも出来ない大変不自由な状態だ。じっとりと脂汗を浮かべ、オーク達の行動を見守っている。族長の指図に従い、不承不承ながらもオーク達が部屋の中央に集まってくる。勿論、女達も一緒だ。

「いや。やめ、てぇ。もう、許して、許してよ…。ああ、神様」

 アスカの視界の外にいたヒカリをアスカの真っ正面に引き立ててくる。数人のオークに引き立てられ、泣きじゃくる親友の無惨な姿に、アスカは息をすることも忘れて見入った。髪と言わず顔と言わず、全身にかけられた精液はホワイトチョコレートのようで、ぽたぽたと雫を垂らして清楚な尼僧をこれ以上ないほど淫靡に濡れ光らせている。萎えた手足で必死になって逃れようと藻掻いているが、大きな双乳を鷲掴みにされると、鞭打たれた犬のように体を縮めておとなしくなった。
 剥き出しの床へ、仰向けの姿勢で大の字に伸ばされた手足を押さえつけられたヒカリを、サテュロス・シャーマンが虚ろな目をぎょろつかせて見下ろした。

『めぇぇぇ。丁度良い、そいつ。こいつの相手させる』

 そう言いつつ、彼が背負っていた篭の中から取りだしたのは、リンゴ樽ほどもある黄土色をした苺…では当然ない。シャーマンが羊の胃袋の水筒から何か液体を注げば注ぐほど、それは大きく膨れあがっていく。いくつも節があって、細かい毛が無数に生えている黄土色の固まり。それがなにかわかっている周囲にいたオーク達は露骨に嫌な顔をしている。

「はぁ、はぁ…なにを」
『めぇぇぇ。いいか。暴れるな。暴れると、逆に危ない』

 この上何をされるのかと、不安に怯えているヒカリの腹に、それは置かれた。基本的に女性らしく、気味悪い物が苦手なヒカリはオークに触られたとき以上に怯えた目をして体をすくませる。毛はチクチクとしているが刺さるほどではなく、ブヨブヨしたそれは意外に柔らかく、そして冷たい。ビクビク、フルルと震えているそれは、ヒカリの体温を感じているのか不気味な蠢動を伝えてくる。

(なにあれ? ヒカリをどうするつも―――り!?)

 アスカの眼前で繰り広げられる惨劇の一幕。
 苺の「へた」に当たる部分から、あふれ出るように細長い体節をもった足が漏れ出てくる。わずかに遅れて、足の中央からねじくれたハサミを持った何かが突き出てきた。裸の男性の両足のようにも見える毛むくじゃらのハサミは細長く、根本の部分に瞬きをしない真っ黒な宝石のような目を備えている。

(虫の…頭!?)

「き………イヤぁぁ―――っ!」

 ヒカリが悲鳴を上げるより先に、それは6本の足で細腰をつかみ、がっちりと体を固定する。遅れて響くヒカリの悲鳴をよそに足先のかぎ爪が横腹に食い込み、うっすらと血が滲ませる。見た目よりも柔らかなハサミが右の乳房を挟み込み、くにゅりと変形させる。そんなことですら、オークに嬲られていたヒカリの体は反応してしまう。「はぅ」と小さく呻くと首を仰け反らせて全身を震わせる。チクリと刺す様な痛みを感じたが、それも一瞬で忘れた。

「うあっ!? い、ああうぅ」

 ヴァギナを再び蹂躙する得も言われぬ快楽がヒカリの全身を駆けめぐる。
 ヒカリの様子に満足そうにシャーマンは頷いた。下手に暴れると命に関わる事になったが、いきなりよがっているようなら大丈夫だ、と判断する。こうして大人しく、犯されながら少量の血を吸われてくれれば問題はない。

(あれって、まさかでっかいアリジゴク? そんな、嘘でしょ。虫がヒカリを、人間を)

 このジャイアント・アントライオンの変異種は、成虫にならず幼虫の姿のまま何年も生き続け、そして幼虫のまま単位生殖で卵を産む。巨大すぎて成虫になっても飛ぶことが出来ないが故に、プランクトンのような幼形成熟を選んだわけだが、その出産方法は大変に特異で温血動物の体内、特に人間やエルフなどの膣内に出産するのを好んでいる。自然状態の場合、不運にも巣に落ちた獲物は、死なない程度に血を吸われた後で胎内に卵を植え付けられ、巣の外に放り出される。そして巣から離れた場所で卵を改めて『出産』する。シャーマンはその卵を魔法薬の材料にする為、こうしてアントライオンを飼っているわけだが、丁度出産間近の時に彼女達を捕らえたのは渡りに船だったわけだ。

「う、くっ、うああ、あうぅぅ……はぁ、はぅぅ」

 乳房から乳ならぬ血を吸われ、胎内を犯されてヒカリが弱々しく呻いた。
 ピンク色をしたミミズじみた産卵管が二本、膣と大腸の両方に挿入され、ドクドクと脈打ってオリーブの実に形と大きさがそっくりな卵を送り込んでいく。ゆっくり、ゆっくりと膨れていく腹部の圧迫感。オークに犯されるだけでも地獄の辱めだったというのに、虫に犯させるという更に人間としての尊厳を踏みにじる行為に、そして変わらず反応してしまう己の体に、ヒカリは枯れ果てたと思っていた涙をまた流した。

(死にたい、死にたい、死なせて、誰か…ああ、アスカ)

「あ! あ! あ! ああっ!
 あう、うう、うんん……や、やだ。こんなの、不潔、不潔よ。こんなこと、お父さんだって、悪魔だって、ああ、神様、やめて、中に、ああ、中にぃ」











 禁断の虫姦に藻掻くヒカリの背後では、また別の惨劇が行われている。

「う…………………く、うぅ……」

 途切れ途切れにかすれ声の喘ぎ声を漏らすのはレイだ。よたよたと四つん這いで這い回る彼女を、オーク達が囃し立てて馬鹿笑いを上げている。
 真っ白なレイの体に夜を切り抜いたような黒い影がくっついている。一瞬、皮を剥がれて筋肉が露出でもしたのかと、ぞっとしない想像をするアスカだったが、目を凝らしてよく見れば、それがタコやイカなどの頭足類に酷似した、真っ黒な生物だと言うことが見て取れた。

(あれは、なに? 生き物なの?)

 アスカの頭脳でも、それの正体はわからない。ただ異相蜘蛛と同じく、異世界に源を持つ妖魔の一種であることは感じられた。
 その生物の名前は『シャドゥケープ』という。
 シャドゥケープは光が差さない洞窟や地下迷宮に生息している。天井に張り付き、闇に擬態して不運な獲物が通りかかるまで半ば冬眠状態のまま待ち続ける。そして、松明などの明かりを持った獲物が通りかかった瞬間、足を広げて音もなく舞い降りる。長さが1メートルを超える8本の触手と触手と触手の間の皮膜で不注意な犠牲者の上半身を包み込み、強烈な力で押しつぶし、ジャム状になった血肉を貪り食らうという、魔界に起源を持つ怪物だ。だが手の平サイズだとそこまでの力はないのだろう。嘴も人の爪ほどの硬さもなく、フイゴのように漏斗を蠢動させて吸着し、腹を膨らませて母乳を啜るのが精一杯らしい。だがそれには母を求める赤子の純粋さはなく、家を腐らせるシロアリの様な嫌らしさばかりだ。

「う、う………あ…………ん、あ…………や」

 手の平に収まるくらい小さなシャドゥケープが二つ、シャーマンが打った魔法薬の所為で一回り大きさを増し、母乳が出るようになったレイの両乳房に張り付いている。ぷっくりと膨れた頭部(本当は腹部)はうっすらと透けて灰色になっている。あれが自分でなくて良かった、とイカ・タコの類が大嫌いなアスカは思った。

「ん、くっ…………ふ……」

 吸い付かれる背筋を震わせるゾクゾクする悪寒 ――― 快感? ――― にレイは固く目を閉じ、否定する様に首を振る。だが赤く染まった体や、止めようのない震えに憑かれた体は彼女の思いを全て否定している。

「ふぅぅ……ふ……は、ん、うん……………………。あ……はぁ…………ああぁ。い、くぁ………あぁぁ」

 ニヤニヤと笑う様に口元を歪めてシャーマンがレイの足掻きを嘲笑する。

『めぇぇぇぇ。もっともっと母乳、出せ。魔法薬の材料、いくらあっても困らない』
「だ、め。ああ、あ………………あぅ……むり…………や……ひ……っ、んんっ」

 次々に成体には足らないが大小様々なシャドゥケープを取り出し、レイの体に衣服を纏わせるように貼り付けていく。乳でなくても良いのか暖かな体液を求めて秘所に殺到するシャドゥケープに、レイの体が淫らに狂い踊る。もっとも体の大きいシャドゥケープはフェロモンを感じ取ったのか、種が異なることにも構わず生殖肢を秘所に押し入れようとしている。既に濡れていた淫華は苦もなくそれを受け入れ、レイの体が衝撃に跳ね上がった。

「くっ……! あ、ああぁぁぁっ」

 吟遊詩人として厳しいダンスの鍛錬をしたレイの動きは、一つ一つにメリハリがきいている。
 淫靡なレイの舞踏に、シャーマンは彼女の処女を奪ったときのことを思い出していた。











 マナは生まれて初めての輪姦に声にならない悲鳴を上げていた。
 族長の提案に不満たらたらだった部下一同だったが、早速調子に乗っている様だ。残りわずかな時間でどれくらい犯すことが出来るのかという限界の挑戦に、概して闘争心の高い生物であるオークは常以上に積極的になっている。

「あぶ、ぐううぅっ! う、うっぐ、うぐ、うう、ううううっ」

 スレンダーで細身の体が二匹のオークに挟まれ、前後の穴を一度に犯されている。柔肉越しにごりごりとペニスがぶつかり合う異様な感触に白目を剥いて体をよじる。更に口にも別のオークのペニスが差し込まれ、喉を突き、舌を蹂躙される。胸のふくらみも陵辱箇所だ。乳首を重点的に激しく粘膜を擦りつけられ、迸る精液で白く汚されていく。両手は複数本のペニスを無理矢理つかまされ、複数同時手淫を強要されている。手だけではない。足の指や膝の裏、やわらかなヒップ、脇や背中、髪の毛にまでオーク達はペニスを押しつけ、手で擦るのとはまるで違うしなやかなマナの感触を楽しんでいる。

「ふぅぅうう、む、ぶぐっ、ふうぅぅうっ!」

 全身から一度に襲い来る言語を絶する官能の大渦。
 ろくに息も出来ないマナの呻き声が痛々しい。どれほどのオーク達に群がられているのだろう。アスカから見たら、マナは欠片も見えずオーク達が固まって醜い体を揺さぶっているようにしか見えない。ただオーク達の体の隙間から、ちらりちらりと助けを求めて見開かれた瞳が見えた。

『おいお前。口の奴はどけオーク』

 しがみつくマユミを引きはがしながら族長が指示する。抗議する部下に顔が見えてないと意味がないだろう、と嘯く。
 そしてアスカの目の前に、陵辱され尽くされたマナの姿が露わになる。

「う、うげぇぇぇ……げ、あ…………ぐ、はぁ、はぁ、はぁ……。
 ああ、ああ、あぅ」

 解放された口からドボドボと大量の精液を吐き戻すマナ。髪と言わず項垂れた顔と言わず、全身を白濁した精液で彩られ、肌色が3分に白が7分という有様だ。オーク達のペニスで支えられ、半ば空中浮遊をしている様な状態で、今なお犯され続けている。
 次々と降り注ぐ精液の雨の中、マナは精液に溺れるという例えが本当のことだったと身をもって証明していた。彼女の口から嘆きと喘ぎが途絶えることは、無い。

「あう、ぐっ、ふっ、ぐぅ、い、や、だ。ああ。も、もう、ひぃうぅ〜〜」












 永遠にそのままかと思われた族長の陵辱が中断され、解放されたマユミは床に横たえられている。横臥したまま肩で息をし、顔にかかった髪の毛を直そうともしない。いや、できないでいる。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。あ、ああ」

(マユミ―――)

 今でこそみんな得難い仲間であり、大親友だけれど。当初は友人の友人であるマユミはアスカにとって遠くて、そしてとても大事な存在だった。
 元々は酒場で魔法使いがメンバーが揃わず困っていた時に、ヒカリの友人であるマナの旧知の彼女を無理矢理誘って結成されたパーティだった。
 まだ魔法学校の学生で、難色を示す彼女の恩師や不安を隠せないマユミを絶対大丈夫だからと説き伏せた。絶対に守るから、自分が死んだとしてもあなただけは絶対無事だから。そう約束した…約束したのに。勿論、マユミだってアスカ達の保証を全部本気にしていた訳じゃないだろう。運が悪ければ死ぬことだってある、わかっていて冒険者として生きることを受け入れたはずだ。

(それでも、ごめん…。ごめんなさい)

 今も彼女に近寄ってくるオークを止めることも出来ず、無力に項垂れることしかできない。



『へっへっへ、チレド・バウ(親分)、本当に良いのかオーク?』

 ひねた笑みを浮かべて族長に伺っているのは、彼の弟のチンベだ。横目で族長とマユミとを交互に見ながら、ごくりと生唾を飲んでいる。

『良いぞオーク。俺があっちで、ちょっと、休んでる、あいだ、お前が、相手してやれオーク』
『あっち? さっきから何言ってるオーク? 何があるかおしえてほしいオーク』
『…ぐぅ、いいから、だまって、従えオーク』

 謎めいた族長の物言いや、最近とみに増すオークらしからぬ雰囲気に怪訝な物を覚えながらも、彼の提案は素晴らしいと思う。
 よろめきながら族長が離れると、喜々としてチンベはマユミに飛びついた。無造作に乳房を鷲掴みにし、指が沈み込む柔らかさと柔らかいだけではない予想外の弾力に頬をゆるませる。

「うっ………………あ……ああ…いや」

 執拗に敏感な胸を揉まれる感触にマユミは意識を取り戻し、目と鼻の距離で薄笑いを浮かべるまだ若いオークの顔に言葉を失う。恐怖と嫌悪に顔を引きつらせ、胸を突いて引き離そうとするがオークの力の前には無力だ。

『へっへっへ、そんなに嫌がるなよオーク。良いことしようぜオーク』
「い、いやいやいや、いやぁぁぁっ!」

 チンベはじたばたと藻掻くマユミの頭を床に押しつけ、無理矢理腰を高く上げさせる。避け得ない陵辱が迫ったことを悟り、内気な彼女は歯の根があわないほど体を震わせる。そんな彼女の見せる、精一杯の拒絶。相手が人間だったとしてもオークだったしても、嫌なことにはかわりがない。だが、それでもこいつだけは、こいつだけは、絶対にイヤだと、ダメだと本能的にマユミは感じた。族長に強姦された時以上に激しく暴れる。

「いや、いや、絶対に、絶対にイヤよぉぉ! 助けて、誰か、誰か、誰かぁ!」
『ぐひ、ぶひひひ、いくぜオーク』

 ハーピーやバンシーもかくや、という大声で泣き叫ぶ彼女の抵抗にチンベは四苦八苦しながらも、どうにか犬の交尾の様な無様な四つん這いの格好をさせる。

「イヤぁ―――っ! いや、ダメだったら、絶対に、イヤぁ―――っ!!」

 石畳に擦れて擦り傷が出来、爪が割れて血が出るのも構わず暴れるマユミにペニスを押しつけ、腰に力を込める。一瞬、マユミが息をのんで動きを止めた隙を逃さず、溺れるほど族長の精液を注ぎ込まれた淫唇を押し割る、若さ溢れるがむしゃらな一突きを打ち込んだ。

「んあああぁぁっ! きゃああぁぁぁ―――――っっ!!」

 マユミが遺伝子的に言うなら異父姉とも知らず(知ったところで止めはしないが)チンベはマユミの膣内を蹂躙する。今まで犯したどんな女とも違う暖かさ、言葉に出来ない絶妙の感触に雄叫びを上げて彼は腰をがむしゃらに振り立てる。

『ぶひひひっ、ぶひっ、ブキィー! なじむ! なじむ、なじむ、なじむ、実になじむオーク! 最高のヤシュ・カン(雌穴)だオーク! ブヒ、ブヒヒヒィ!』
「ああああ、誰か、誰か、助けて! アスカさん、マナさん! お母さん! 嫌、嫌、こんなのイヤぁ―――っ!」


























(ヒカリ、マユミ、マナ、レイ。……みんな、ごめんなさい)

 全部自分の所為だ。
 眼前で改めて繰り広げられる痴の惨劇に、アスカは言葉もなかった。リーダーとして皆を導き、危険に身を投じつつも無駄な危険を回避し、栄光を約束するはずの自分が無力に何も出来ないでいる。これ以上の屈辱はない。父の死後、家名の断絶と財産と領地の没収を命じられたとき以上の屈辱だ。
 こんなにも激しい怒りを覚えたこともない。最愛の母キョウコが死んだ後、躊躇いもせず元は召使いで愛人だった女性を後添えに迎えた父に感じた怒り以上の怒り。
 オークが人を蹂躙する理不尽はない。あのお人好しでとろくさい女を義姉と呼ばなければいけなくなったあの時以上の大理不尽。
 そしてなにより、貴族としてのプライドを捨てきれず荒れに荒れた自分に変わらず接して、一生懸命姉になろうとしていた義姉の気持ちを気づかなかった、愚かすぎる自分自身。考えてみれば、義母が財産目当てな訳がなかった。母キョウコの幼なじみであり親友だったという義母が悪人なわけがなかったのに。父の死後、養う義理も縁もないはずのアスカの母であろうとして、必死になって我が儘を言う自分の為、貴族生活の名残を再現しようと無理に無理を重ね、結局、義母も苦しい生活の中で過労に倒れた。贅沢をやめようとしない自分はあの時、どれだけ義母と義姉に迷惑をかけてきただろう。マユミやヒカリにも相当甘えて迷惑をかけてきた自負があるが、それ以上の無理をさせて、あげくに一分も感謝をしていなかった。それが当然だと思ってずっと生きていた。
 最終的に、家名の再興は愚か贅沢もできないとわかった時、躊躇いもなくアスカは家族を捨てて冒険者として生きる道を選んだ。血の繋がらない家族への嫌悪を捨てきれず、彼らの献身を気づいても感謝することも出来ず、見下し続ける。自分から家族に背を向けた。拒絶してしまった。

(やだ、どうして、今頃になってあの人達のことを…)

 胸が熱く締め付けられるように痛い。
 本当はもっと早くに、自分の思いこみの強さと愚かさを自覚していなければいけなかった。そうすれば、あの人なんて遠回りな呼び方ではなく、義姉さん、お義母さんと素直に呼べていたはずなのに。

(馬鹿、だ、私…。今頃、今頃自分の愚かさを自覚するなんて)

 義姉と義母の顔が、眼前のレイ達の惨劇に重なる。自分のやったことの尻ぬぐいをし続けているだろう、あの二人は今、どうしてるのだろう。手の平を噛みしめ、溢れ出ようとする嗚咽を堪えるアスカ。

(ごめん、ごめんなさい、ごめんなさい、みんな、みんな、私がしっかりしていれば…。それなのに、私だけが、こうして安全な場所で)

 本当は大声を上げて自分の存在を露わにして、皆と同じ境遇に自分を落とすべきだという投げやりな気持ちもある。そうすれば、今の内側から体を灼く焦燥は多少なりとも緩和されるはずだ。
 だが、そんなことは許されない。考えることを放棄して、楽な無思考へ逃げることは許されない。レイがレイであり、マナがマナであり、マユミがマユミ、ヒカリがヒカリである様にアスカもまた、アスカであることを皆に望まれているからだ。

(う、ううう。無理よ、私には、みんなの期待は重すぎる…)

 あろうことか守るはずの皆に庇われ、起死回生の一矢として期待されている。
 壁から逃れるという魔法使いの様な不可能を実現させ、たった1人でオークの集団を倒して皆を救うこと。それが最後の希望であり、リーダーであるアスカの義務だ。

(でも、やらないとダメなのね)

 涙の浮かんだ目を敢えて閉じず、キッと唇を噛みしめてアスカは地獄を見続けた。この屈辱と怒りを糧に、オーク達に裁きと復讐の鉄槌を下す為に。

(わかってる、わかってるわ。覚悟を決めるわよ、アスカ。絶対、絶対に逃げて、生き延びてあなた達を助けるから)

 改めて思いを強くするアスカだったが、ふと、奇妙な違和感を感じて物思いを中断する。なにかが、おかしい。
 何がおかしいのか、すぐにはわからない。レイ達4人はアスカを中心とした扇形の円弧の部分で犯されている。嫌でも目に入る淫地獄。オーク達は相変わらず存在し、シャーマンとその下僕の虫たちも変わらずいる。変わらずに仲間達を犯している。空気に混じった湿った水の臭いはいよいよ強くなり、いよいよ雨が降り出す気配が濃厚だ。既に日は陰り、暗くなった室内を照らす為の松明の火が頼りなく揺らめいている。
 なにが、変わったのか。この違和感の原因は…。

(そうだ。あれが、オーク達の族長が、いないんだ)

 あいつは、最も油断できない片眼のオークは一体どこに? 首を動かさず、目だけ動かして室内を探るがどこにも姿が見えない。ただ嫌な気配ばかりが強くなっていく。そもそも、どうしてレイ達をこんな風に改めて犯さなければならないのか。それがなにより不可解だった。単に陵辱するなら、部屋のどこででも、あるいは巣に帰ってからでも良いはずだ。それなのに、アスカを中心とした場所でこうして4人を犯している。いや、犯させている。

(まるで、まるで………私が、ここにいるのが、わかってるみたいに)

 むっとした汗の臭いがアスカの鼻梁をゆがませる。
 偶然、偶然のはず。酸っぱい唾液と共に不安をアスカは飲み込んだ。アスカがいるのが部屋の中心だから、中心で唯一開けた場所がアスカの目の前だったから、だから、全ては偶然のはず。オーク達が気づくはずはない。マユミ達の身を犠牲にしたカモフラージュがばれるはずがない、ばれてはいけないのだ…。だから、そう、横目に見えるのは悪い夢。目の錯覚、何かの間違いのはずだ。

『むぅ、うううぅ』

 全裸のオーク族長が呻くと、股間から生えた二本の生殖器がミリミリと生木が裂ける様な音を立てて強張っていく。ほっそりとしていた上側の貧弱な方は太さと堅さをいやまし、通常サイズのペニスに負けないほどの逞しさにレベルアップを果たしている。そして主力である下側のペニスは太さはさほど変わらないが見た目からして堅さと形状が増していくのが見て取れる。黒光りする全体は岩の様な光沢を帯び、ニキビか水疱の様なでき物が、亀頭といわず竿の部分といわず一面に浮き上がっている。やがてその水疱はプチプチとに割れ弾けた。中から半透明をした小さな小さな触手があらわれ、うじゅるうじゅると果実に群れ集るショウジョウバエの蛆の様に蠢いている。

(な、なにしてるのよ。なんで、あんな風に形が変わっていくのよ。お、おかしいでしょ。いくらオークでも、こんな短時間で肉体の変異が起こるなんて、あり得ないわ。そもそも、なんでこいつ私のすぐ横でこんなことしてるのよ)

 気がつけばアスカのすぐ隣にいた族長は、全身に玉の汗を浮かべ、苦痛と全身を焼く熱さに呻き声を上げていた。一部、手持ちぶさただったオークがただごとでない族長の様子に言葉を失い、気味悪さを感じて顔を引きつらせている。その様子から、これがオーク達にとっても普通でないことがわかる。族長は奇異と畏怖の目で見られていることを無視し、溜まった大便を捻り出す様に呻き、息み続けている。

(く、ずいぶん久しぶりで唐突だオーク)

 良い女を犯した後はいつもこうだ。

 以前にもあった肉体の変異。あの日、ジャバーウォックに遭遇して生き延びて以来、少しずつ体と心が変異していった。筋力の異常な増大から始まり、輪をかけて強くなった性欲。大量にそれも非常に早く精液が生産される様になり、オークにとっての清涼飲料である血とオーク酒を飲んでいる限り、精力が尽きると言うことはなくなった。さらに二本目のペニスが ――― 最初は小指よりも小さな突起物として ――― 生えだし、やがて使用に耐える立派な一物、いや二物となった。その次に起こったのは下半身を中心に瘡蓋ができていった。皮膚病かと思ったが、脇の下にヴァギナ状の亀裂ができ、その中に小さな指を備えた3本目と4本目の腕が隠されているとわかったとき、太股に出来たケロイドがイソギンチャクに似た口であると知ったとき、それが皮膚病などではなく、混沌の変異だと(ようやく)悟った。
 おそらく、彼の命はそう長くない。遠からず、醜い腐肉の固まりになるか、あるいは理性も何もなくしたビーストマン(ブルー)かもっと別のケイオスクリーチャーへと変異するかだろう。だが、彼はそれを奇妙に清々しい気持ちで受け入れている。三日と持たずに死んだ前族長に比べれば、自分はよっぽどこの力を楽しんでいる。この力のおかげで大変に楽しい思いをしてきた。それにこの力がないなら無いで、いつ弟や副官に寝首をかかれていたかわからない。

『ぐぅ、これで、良しだオーク』

 落ち着いたと判断した族長は呻く様に呟いた。よろつきながらもしっかりと自分の足で立っている。一時はどうなることかと思ったが、これなら問題はなさそうだ。それよりもチ○ポにできたこの無数の繊毛がどういうものなのか、早く試してみたくて仕方がない。彼らはどこまで行ってもオークなのだ。猛毒を持っていて、犯した女を殺してしまうとかでなければよいが。

(昇天させるのなら大歓迎オーク)

 今世紀最高のギャグを思いついた族長はな笑いを堪えきれないでいる。これで今世紀最高と思う当たり、オークの知的水準がしれる。ともあれ、彼は迷うことなくアスカの正面へ向かう。

『くっくくく、待たせたなオーク』

 まるで見えている様に、アスカの顔を正面から見すえると、鼻を鳴らして深く早く空気を肺に吸い込んだ。
 ゾクリと冷たい物を背筋に感じてアスカは呼吸を止める。

(まさか、見えてる、訳がないのよ。私は音を立ててないわ。マユミの魔法も、まだ、切れてない。見つかるわけがない、見つかるはずがないのよ)

 恐怖に胃を締め付けられ、カラカラに渇いた喉がひくつく。皮膚の強張りさえも強烈な意志の力で押さえ込むアスカの全身に生ぬるい汗が浮かび、背筋やこめかみを伝いまた一つ滴り落ちていく。
 その瞬間、アスカは唐突に悟った。オークが気がついたのは目でもない。音でもない。勿論、第6感などという高等な物ではない。
 ならば何にオークは気づいたのか。

 生温く全身を包む蒸れた臭い…。

(まさか、嘘、そんな、汗!? 私の匂いを)

 最悪の予感と予想に焦点の合わない目でアスカは族長を見つめる。合わないはずの視線があった様な気さえする。勿論、そんなのは気のせいだ。彼はアスカの方を見ているがアスカを見ては、見えてはいない。探る様にアスカが擬態している壁を見ているが、目はきょろきょろとして落ち着きが無く、鼻ばかり花粉症の人間みたいにぐずぐずとならしている。
 族長には見えてはいないがアスカの姿は手に取る様に嗅ぎ分けている。目を閉じればよりリアルに知覚できる。

『ここかオーク?』

 臭いの元である分子の一つ一つを鋭い嗅覚で察知しながら、オークはアスカのいる当たりの壁に手を伸ばす。目を開けたままだと馬鹿なことをしていると思うところだが、目を閉じて鼻に意識を集中すれば捜し物の存在は明白だ。暗闇に浮かぶ女の輪郭の匂い。マユミが何か魔法を唱えていたことを、今彼は思い出していた。彼女の使った魔法は、これだったのだ。そしてこれこそ、マユミが我が身を犠牲にしても隠したかった大切な物。
 伸ばされたオークの手がアスカの頭を探り当てた瞬間、彼女を包んでいた接触消去型の幻影が消失した。
 偽りの映像が消え、その下から現れたのは黄金の現実。人魚の女王を思わせる青い瞳が瞬き、ふわりとやつれていても輝きを失わない蜂蜜色をした髪の毛が揺らいだ。象牙色をしたなめらかな肌が怯えて震え、白銀の甲冑が不安にきしむ。殺意を込めた瞳が憎々しげに族長を睨む。優しく儚げな唇から似合わぬ罵りが溢れる。

「くっ、うう、ちく…しょう」

 突然のアスカの出現に、オーク達が一斉にどよめく。
 マユミたちに気を取られて、彼らは全くアスカに気がつかなかった。それに気づいた族長の目に驚嘆しつつ、目と鼻の先に隠されていたご馳走を見逃していたことに不満の嘶きを上げる。

『ブヒーッ! 気づかなかったオーク!』
『またバウ(族長)の一人勝ちかオーク!』

 ざらざらした指でアスカの髪の毛をかき分ける様に頭をつかむと、族長は身をかがめて間近で最後の美姫の顔をのぞき込んだ。
 陵辱を避け得ない絶望的な状況にも関わらず、凛とした目からは光が消えず、食いしばった唇から血を滲ませている。この気高い顔をすぐに泣かせ…いや、啼かせることを思うと、背骨に虫が這ってる様なゾクゾクした興奮が走る。

『…その顔、いつまで持つかなオーク』







初出2008/11/10 

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