act 4.
ロンドン。無事L.Aまで到着したグーデリアンとハイネルの二人は、当初の予定通り飛行機に乗り、イギリスまで飛んだ。ハイネルが言うには、ここロンドンには3日ほど滞在する予定なのだそうだ。今日はロンドン滞在2日目である。
グーデリアンはホテルの一室で、今日何度目かわからないため息をついていた。
「あーあ、ヒマだよなぁ。どっか遊びに行こうかな」
せっかくのアフタヌーンティーも、さほどおいしく感じられないのは精神状態のせいだろう。アフタヌーンティーだというのに「イングリッシュ・ブレックファスト」をちびちびとやっていたのだが、すでに冷め切ってしまっている。
ハイネルは目が回るほど忙しい日常を送っているらしく、昨日は取引先との会談、今日は本社の人間との会議、明日は関連会社の視察と、休む間もない。まるで大統領並みのスケジュールだ。仕事先に出向いている間は、ハイネルをつけねらっているというライバル会社の輩も手だしをしてこないので、グーデリアンはついてくる必要がないとのことだった。さすがにライバル会社としては、その存在をハイネルの会社に知られたくはないのだろう。
あれでけっこう優しいハイネルはグーデリアンに気をつかい、自分が仕事でほとんどいない3日の間は好きに過ごしていいと言っていた。ホテルは申し分のない一流の、しかもスイート。支度する間もほとんど与えなかったから何かと不自由だろうと言って、日当に300ドルも置いていく始末だ。よほど心が広いのか、お坊ちゃん育ちで金の感覚が普通とは違うかのどちらかだろう(そして、グーデリアンは後者だとふんでいる)。
本来なら、ここぞとばかりに遊びに出かけているシチュエーションだ。実際、グーデリアンも最初は嬉々として出かけるつもりだった。・・・が。
「そんな気になれないんだよなぁ」
そう、そんな気になれないのである。ロンドンのこのホテルに着いたのは昨日の午前8時頃である。当然、長旅や時差のせいで疲れがたまっているだろうに、彼はシャワーを浴び、さっぱりと身だしなみを整えると、さっそうとこの部屋を出て行ったのだった。あの細い体からは、どこにもくたびれた様子をうかがうことができなかった。もちろん疲れはしているだろうが、強い精神力がそうは見せないのだ。
グーデリアンは自分の分にとあてられた寝室で横になっていただけで、眠ってはいなかったのだが、ハイネルはそれに気づいていないようだった。サラサラと書きつけを済ませるとフロントに電話をし、それを終えるとさっさと部屋を出ていってしまった。
グーデリアンは疲労のせいでぼんやりとした視線をなんとはなしにハイネルに送っていたが、彼が部屋を出て行くとベッドを下り、書きつけを手にとった。
当然だが、それは自分あてだった。仕事が忙しいので3日ほどはほとんど留守となる。その間はボディーガードは不要なので、少しでも羽を伸ばしてほしい。必要経費の一貫として毎日300ドルを支給するので役立ててくれ。食事等はすべてこの部屋にチャージしておいてかまわない・・・等々。あの短い時間でしたためられたメモは、グーデリアンに対する気遣いでいっぱいだった。さらに30分ほどすると、ハイネルがフロントにたのんでおいたルームサービスまでが届けられたのだった。
そうしてグーデリアンはロンドン滞在一日目をどこに出かけるでもなく無為に過ごし、二日目もバルコニーに出てお茶などしながら時間をつぶしている。
ハイネルは昨日夜の11時過ぎに戻り、ろくに会話もないままシャワーを浴びると寝室に行ってしまった。そして、朝7時にはここを出ている。
それでも出かけ際にはグーデリアンに、何か不都合はないかと聞いてくる。
「優しいんだね、ハイネルちゃんは。ミーは感激よー♪」
とふざけたら、
「ふん!仕事をおろそかにされたら困るから多少待遇をよくしているだけだ!」
とあごをそらした。が、白い頬が少し赤くなってしまっていたので、グーデリアンは笑ってしまった。いつもクールでそつないように見えていたハイネルが、実は照れ屋でとても優しい面もあるのだと気づいてから、グーデリアンはハイネルのことがとても好きになっていた。もちろん、友人としての「好き」だったけれど。