都市はさわやかな朝を迎える



   act1.


  ここの所のニューヨークは、珍しく暖かい日々が続いていた。
 ジャッキー・グーデリアンは、陽気に誘われるまま、昼間から幸福な惰眠をむさぼっている。
 すると、ゴリラでも来襲してきたのかと思われるほどの勢いでドアが叩かれた。
「うるせーな、だれだよ!」
 ボサボサになった金髪をぐしゃぐしゃとかき乱しながらおっくうそうに立ちあがり、チェーンをかけたままのドアを開ける。
 すると、ドアの向こうには一人の青年が立っていた。
「今日午後の二時にアポをとっていたはずだ!早く中に入れてくれ!!」
 その様子があまりにもせっぱつまっていたので、グーデリアンは思わず彼を部屋の中に招き入れてしまった。

「で?用件は?」
 とりあえず応接間とは名ばかりの、かなり散らかっている部屋にグーデリアンは青年を通した。青年はアポをとっていると言ったが、そういった事務的なことは相棒が一手に引き受けているため、グーデリアン自身に覚えはない。しかし、青年の身元うんぬんより、貴重な客だという認識の方が強く働いたようだった。
 あまりといえばあまりのことに眠気はすっかり吹っ飛び、ようやく事態にたいする判断力というものがよみがえってくる。グーデリアンは目の前の青年を観察してみた。
 背は高かったが、ずいぶんスラリとした体つきである。美しい艶を持つ栗色の髪をしていたが、なぜかハリネズミのようにつんつんに上にたてられているのはどうしたことなのだろうか。
 色が白く、驚くほど整った顔をしていた。中でも、この緑の瞳はちょっとしたモノである。細い銀縁のメガネにさえぎられてはいたが、深く、それでいて透明度の高いグリーンの瞳は、人目を奪うのに十分な美しさだった。もっとも、グーデリアンの美しいもの探索センサーは女性にしか反応しないため、「綺麗だな」くらいの感慨しか持たなかったのだが。

「私は追われている」

 中に足を踏み入れたとたん、青年は落ち着いたようだった。まずフランツ・ハイネルだと名を名乗り、簡潔に身の上を語った。

 彼はある会社である研究にたずさわっていたのだが、彼の才能に目をつけたらしいライバル社からヘッドハンティングの誘いを受けたらしい。ところが、ハイネルはそれを断った。すると、とたんにライバル社からのいやがらせを受けるようになったという。いやがらせはだんだんエスカレートしていき、最近ではストーカーまがいの人物まで出るようになったため、こうしてグーデリアンの所を訪れたというのだ。
 申し遅れたが、ジャッキー・グーデリアンはここニューヨークで探偵まがいのことをやっている。もっと正確に言えば便利屋のようなものだ。一応本業、というか本業にしたい職業はあるのだが、そちらではいまのところ食っていけないため、ブリード加賀という相棒とともに副業としてこの商売をやっていた。
「話はわかったけどさ、オレに何をしろって言うわけ?」
「実は、私の会社の重大な取引がこの度行われ、私もそれに出席せねばならない。だが、この所どうも身の危険を感じるので、会議が終わるまで私のボディーガードをやってほしいのだ」
「ボディーガードぉ!?やだよオレ。何が悲しくて男に始終ひっついてなきゃなんないんだよ!そりゃあんたは綺麗な顔してるよ。そこらの女の子には負けないだろう。でも、いくらキレーな顔してたって男の相手なんてぜったいやだ!!」
「前金で2000ドル、:契約履行時にさらに2000ドル支払おう」
「ぜひやらせていただきます!!もう何なりとご注文を!!!」
 このあたり、守銭奴の相棒の性格が自分にも乗り移ってしまったようで悲しさを感じてしまうグーデリアンであった。しかし、背に腹はかえられない。
「んで?ハイネル。その会議っていつどこで開かれるんだ?」
「日本の東京で。今日出発するぞ」
「は?」
「お前、耳が悪いのか。会議は日本だが、途中にいくつか寄らねばならない場所がある。出発は今日だ」
「なにーーーーっ!!」

 このフランツ・ハイネルという男、冷静そうな外見をしているが、中身はなかなかとんでもない男のようなのであった。


act2に続く
テキストのページに戻る
HOMEに戻る