North Side

 Volume 1


 Hey,Guys!Did ya miss me? Okay,let us open the door to the next stage!


 さてFellows、元気にしてたかい?オレも皆に会いたかったぜ。
 ・・・とは言え、オレのことを知らない人たちもいるだろう。・・・むしろ皆知らないかな?少しばかり自己紹介をさせてもらおうと思う。
 
 オレの名はジェフリー・ガイ・カンパルスキー。ジェフって呼ばれたりジェフリーって呼ばれたりするけど、ここにいる大抵のヤツはオレのことをB.M、またはBig Messyと呼ぶ。ビッグ・メシー。・・・・そう、オレは認めたくはないが自分でも認めざるを得ない、究極の散らかし屋なのだった。ここのヤツらは親しみと幾許かの呆れを込めてオレのことをBig Messyと呼ぶわけだ。

 「ここ」ってどこかって?決まってるだろ?フランツ・ハイネル擁する新興CFチーム、シュトロゼック・プロジェクトさ!エース・ドライバーは今をときめくアメリカ1の(ヤツなら「世界一だろ?」と訂正を求めてきそうだが)セックスシンボルにしてドライバー、ジャッキー・グーデリアン。監督やレーサーの人気度、知名度、話題度で言ったら戦わずしてワールドチャンプはいただきのブランニューチームだ。
 もっとも、そんなものでワールドチャンプになったってオレたちは嬉しくも何ともない。オレたちが求めるのはあくまでレースを通して勝ち得る勝利なのだから。


 おっと、思った以上にムダな紙面を費やしてしまったみたいだからさっさと筆を進めていこう。断っておくが、筆を取るのはこれが二度目とは言え、オレはれっきとしたレース屋だ。決してライターじゃない。話があっちこっちに脱線したり文が支離滅裂だったりと読みにくいこと甚だしいとは思うんだが、そのあたりも素人の味ってことで許してもらえるとありがたい。

 ありがたいと言えば、以前にかねてから懇意だった雑誌記者に頼まれて我がチームの日常をほんの少しだけ切り取って書いてみたら、オレが思った以上に評判がよかったらしい。
 もちろん、それはオレの読みにくいことこの上ない文章にプロが手を入れてくれたからなんだろうが、それ以上に皆がフランツ・ハイネル監督やドライバーであるジャッキー・グーデリアン、そしてオレたちシュトロゼック・プロジェクトチームに興味をもってくれたり愛してくれたりしているからなのだろうと思う。
 ありがたいことだよな。心からそう思う。オレたちはその気持ちに、レースの結果で応えなければならない。誠意や真心なんていう目に見えないあやふやなものではなく、目に見える結果で返す。それがオレたちレース屋の使命だ。

 
 で、今回オレが再び筆を取ることになったのは他でもない。また執筆の依頼が舞い込んできたからだ。しかも、前回はレース雑誌に頼まれてチームの日常を紹介するというものだったんだが、今回は我がシュトロゼックが発行している会報用の記事だとのことだ。
 チームの会報と言えば、マシンなんかのことよりむしろドライバーのことをよく知りたいっていうファンが多いんじゃないかと思う。そうそう、うちの監督にはレーサーとしても人気があったフランツ・ハイネルが就任してるから、監督のことも忘れちゃいけないな。

 そんなわけで、今回はもう少しドライバーと監督に視点を絞って筆を進めていこうと思う。おっと営業営業。新生シュトロゼックチームでは、チームファンクラブの会員を受け付け中なのでよろしく!・・・・が、ちょっと申し込み者数が予想以上に多かったんで、事務手続きが遅れまくってるのが現状なのが申し訳ない。ジャッキーとハイネル監督がそれぞれ人気だっていうのに、あの二人が一緒になっちまったんだもんな。この異常なまでのファンの盛り上がりも理解できないことはない。


 前置きがずいぶん長くなってしまったがもう一度断っておこう。オレはマシンやレース事情には精通しているが文章に関してはド素人だ。心意気に結果が伴わないかもしれないが、採点は甘く頼めるとありがたい。


 さて、オレは今ドイツにいる。言うまでもなくシュトロゼックのメインテストコースがある、オレたちの拠点だ。CFは2週間前にならないと次戦の場所が発表されないという極悪なシステムをとっているせいで、次のレースに備えてここでテストドライブを繰り返している毎日である。
 今日の予定はちょうどハイネル監督とジャッキー、それとオレで取引先の一つと会食をするというものになっているので彼らの紹介をするにはグッドタイミングだと踏んだのだった。ちなみに、オレは元々はメカニック畑の人間なのだが、シュトロゼックにはとにかく人手が足りないせいで、今はマシンデバイスの取引等を受け持っている。レースやマシンにうといお嬢さん方のためにちょっと説明しておくと、デバイスっていうのは要するに「部品」っていう意味だ。

 説明してるうちに目的地に着いたぜ。ほら、ドアのところに『ミーティング室』ってあるだろ?ま、何度も言うようだがシュトロゼックはまだ結成して日が浅い。ミーティング室とは銘打ってあるものの、実際は会議が行われる他にも仮眠室になったり応接室になったり忙しいもんなんだけどな。

 ここにジャッキーとハイネル監督がいるはずだ。彼らはオレより先にここで軽い打ち合わせを進めておく予定になってる。ノックをして、と・・・・。



 ・・・・・・・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 おい、すげー音がしたぜ、今!!

 慌てて立ち上がったハイネル監督と、その向こうにジャッキーの姿が見える。ジャッキーのヤツは見事に床にひっくり返っていた。あーあ、イスまで倒れてる。ヤツが座ってたイスごとひっくりかえったらしい。ありゃ相当痛いだろう。


「いってー!!ハイネルてめえ、危ねえだろ!」
 
「ジェ、ジェフリーではないか!おそ、遅かったな、書類は忘れずに持ってきたか?」

「は、はあ・・・。あの、監督・・・今すごい音がしましたけど、大丈夫なんでしょうか?」

「こ、このバカのことか?このバカのことは気にしなくていい。それよりご苦労だったな。掛けてくれ」


 ハイネル監督は白皙の頬をうっすらと染め、いつもよりも上ずった口調でそう言いながらオレに席を勧めた。
 いや、監督とジャッキーが二人でいる部屋に入ってくとほぼ例外なくこんな感じなんだからさすがに慣れはしたんだけど・・・またジャッキーがひどいからかい方でもしてたんだろうか?ナゾだ。


「監督、大丈夫ですか?何か顔が赤いですけど・・・・」

「いや!何でもない!何でもないぞ!少しも、全く、明らかに何でもない!そ、そういえば少しだけカゼ気味かもしれないな。ごほんごほん!と、とにかくいいから君は早く腰掛けたまえ」

「はあ・・・・」


 ハイネル監督は滅多に見せてくれないような笑顔をオレに向けてくれつつ、何やら袖で口元をごしごしと拭ったりしている。・・・・・カゼでもひいたのかな?
 腑に落ちないでいると、オレにかけられたのは別の声。


「いてーよっ!ていうかB.M!お前もっとオレのこと心配しろよ!オレはお前のチームのエースドライバー様なんだぜ!?」


 オレがハイネル監督に言われるまま席に腰を落ちつかせると、ようやく立ち上がったジャッキーが後頭部を押さえながらオレの方をにらみつけた。ああ、ありゃやっぱり相当痛かったんだな。でもご心配なく。こんなの日常茶飯事もいいところだ。


「ジャッキー、おめーがゴリフよりタフなのはよく分かってるからな。心配するだけムダだろ」

「全く、このチームってこんなヤツらばっかりで困るぜ。揃いも揃ってドライバー様より監督の方が大事ってヤツらばっかりなんだもんな。お前ら、オレにナイショでホントに『シュトロゼック内フランツ・ハイネル親衛隊』でも結成してるんじゃないのか?」

「おめーも入りたいんなら考慮してやらないこともないぜ。入会金は倍取るけどな」

「これだよ!あーあ、エースドライバーだって言うのに愛されてねえよな、オレ。ハイネル聞いたか?今のB.Mの言葉。これで分かったろ?お前の大事な大事なドライバー様のオレが、スタッフのヤツらからどんなにひどい扱いを受けてるのか!これはもう、監督に慰めてもらうしかないな。な?ハイネル」

 慰めて〜、などと裏返った声をあげてジャッキーのヤツは片手をハイネル監督の首に回すとぐいと自分の方に引き寄せた。オレたちが腰掛けているのはキャスター付きのイスなので、簡単に監督の体がジャッキーと密着した。


「・・・・・。・・・・・・・・」


 ハイネル監督の肩に腕を回したまま、ジャッキーが素早く何かを耳打ちする。この距離であってもオレには届かないほど小さな声だった。
 ハイネル監督はいつもの冷静さがウソのようにその言葉に反応して背中を震わせたが、ふと顔をあげた拍子にオレと目が合い、慌てたようにジャッキーの顔を手で押しやった。
 ジャッキーはにやにやしながらオレの方を見ている。いかにもその青い目がオレに対して何かを語りかけてるようなんだが、でもあいにくオレにはヤツが何を伝えたいのかがサッパリ分からないのだった。
 悪いなジャッキー。お前と目と目で通じ合うには、あと100年くらいはかかりそうだ。もっとも、ジャッキーのヤツはオレのその鈍さでさえ楽しんでる節があるんだが。


「と、とにかく!」

 咳払いの後、ハイネル監督が妙な雰囲気を打ち破るかのように大きな声を出した。だが、やはり頬が赤い。

「大丈夫ですか?監督。本当にカゼでもひいたんじゃ・・・・」

「だーいじょーぶだーいじょーぶ!ハイネルがカゼをひいたらオレがゆっくりじっくりたっぷり看病してやるから!な、ハイネル?」

「うるさい!誰が貴様の看病などいるか!大体貴様のことだ、看病などと言いつつ結局は私に・・・・」


『私に?』


 疑問の声はジャッキーとオレ、二人分重なっていた。オレは純粋な疑問からその言葉を発したんだが、ジャッキーのヤツは例のにやにや笑いを口元に浮かべている。それが何を意味してるのかは、やっぱりオレには分からない。
 ハッとしたようにハイネル監督がまた咳払いをした。大丈夫だろうか。いくら自己管理に気をつけてるとは言え多忙極まりない人だ、本当にカゼでもひいたんでは・・・・。


「と、とにかく!ジェフリー。例の資料は持ってきてくれたか?」

「あ、はい。こいつです。これが今日の会食相手のデータです」


 監督にうながされてオレが手にしていた書類を差し出すと、彼の柳眉がみるみるうちに寄せられていった。ヤバイ。これはヤバイぞ。
 いつもは凛とした輝きにうっとりするくらいにキレイなグリーンアイズが、今は背筋も凍る冷たさでオレを見据えていた。


「・・・・ジェフリー」

「・・・・はい、監督」

「・・・・・ジェフリー・ガイ・カンパルスキー」

「は、・・・・はい」


 ここで大きく監督は息をついで。そこから一気にまくしたてた。


「どうして資料がこんなにくしゃくしゃになっている?この資料は確か、たった二時間ほど前にPCから打ち出されたばかりだったのではなかったか?それがなぜほんの二時間でこんなに惨めな姿をさらさなくてはならなくなったのか、その経緯を私にも理解できるように簡易かつ必要十分に説明してくれ、ジェフリー・ガイ・カンパルスキー!!」

「そりゃーB.Mのことだ。受け取った途端あっという間にそのプリントをどっかにやっちまって、部屋中ひっくり返して探し回ってたんだろ?どうせ。あの部屋、オレでさえ感心するくらいキッタねえもんな。さすがB.M。Big Messyの名に恥じない見事な散らかしっぷりだぜ。最初にお前にそのあだ名つけたヤツ、チームで表彰したいくらいだな」

「グーデリアン、貴様は黙ってろ!!私は今彼と話をしているのだ!」

「そんな冷たいこと言わずにオレのことも構ってくれよ、スウィートハート」

「・・・・・ジェフリーより先に、お前と話し合う必要がありそうだな、グーデリアン」

「そうそう。やっとオレの方を向いてくれてうれしいぜ、ハニー!で、何について話し合う?次のデート?それとも臨時ボーナス?あ、実はオレたちの挙式の日取り!?オレ様は全世界のスターだからな。お色直しは最低五回で頼むよ、ハニー」

「誰だ!こんなバカを我がチームのエースドライバーに据えたのは!」

「またまた〜!お前だろお前。お前が愛しのダーリンであるこのオレをこのチームに引っ張ってきたんじゃないか!幸せすぎて忘れちまったのか?幸せボケか?」

「ボケてるのは貴様だろうが!グーデリアン貴様、私が貴様をこのチームに引き抜いてやった恩も忘れてよくもそのような口をきけたものだな!」

「オレがこのチームに来てやったんだろうが!お前がオレに感謝するのがスジってもんだろ!」





 ジャッキーとハイネル監督は、もはやオレの存在そっちのけで何やら二人で言い合っている。内心ホッとしないわけでもなかったが、この言い争いが終われば結局またオレはハイネル監督からお小言を食らうことになるだろう。

 ・・・・うう、そうなのだ。
 オレは大抵の仕事は人並以上にこなせる自信があるのだが、とにかく整理整頓と資料管理だけは死ぬほど苦手なのだった。それでなくともハイネル監督は何事にもキッチリした人だ。オレの部屋に足を踏み入れたら、怒りのあまり血管が切れるかショックで卒倒するかのどちらかに違いない。レイアウト自体はオレが今使わせてもらってる部屋もハイネル監督の仕事部屋も一緒のはずなんだが、もはや同じ造りの部屋とは思えない有様になってるもんな。



「す、すまない。少し取り乱してしまった。この私としたことが」


 そう言ってハイネル監督がバツが悪そうにイスに座り直したのは、優に10分以上が経過してからのことだった。子供じみたやりとりをまたもやジャッキーと繰り広げてしまったことに対してハイネル監督は自分を責めて恥ずかしく思っているようだが、正直オレたちは彼らのこういったやりとりを見るのが好きだ。
 純粋に楽しいからでもあるが、レースに関しては常に妥協を許さず厳しい態度を崩さないハイネル監督の、素の優しい部分に触れられることができるような気がするからでもある。
 ハイネル監督のこういった裸の部分を引き出すことに関しては、つくづくジャッキー・グーデリアンという男は才能を発揮する男だと今更ながら恐れいってしまう。



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