Gargoyle 13
もう何度目の交合になるのかも分からなかった。
欲を吐き出し、そして自らの体内に男の放った欲を受け止めると、その時は体中が歓喜で満たされ、細胞の一つひとつに染み渡って飢えを忘れた。
だが、満たされることを覚えてしまった体は貪欲に次を求める。
ハイネルはグーデリアンに命じられ、どんな靴音も吸い取るであろう分厚いカーペットに腰を落とした彼をまたぎ、正面から向き合う体制をとらされていた。
背後に伸ばされたハイネルの手は、何度精を注いでもなお衰えることを知らぬグーデリアンの剛直を握りしめ、自らの後庭に導いている。
激しく密な交情からくる疲れと、それでもなおわずかに残った理性からくるためらいの故か、ハイネルの頬は朱に染まり、眉が悩ましげに強く寄せられていた。
グーデリアンはけして自分からは動かなかった。
どうしてもこの熱い楔を体内に迎え入れたくて果たせずにいるハイネルが哀願するかのように濡れた緑の瞳を男に向けても、優しいが残酷な手つきで頬を撫でられただけだった。
欲しければ自ら奪いにでるしかない。
「あっ・・・・!」
意を決して腰を少し腰を下ろすと、激しい圧迫感と圧倒的な質量と共にグーデリアンの反りたった欲が体の内部に突き入ってきた。
まだ先端を迎えいれただけだと言うのに、自分を犯す凶器を歓喜と共に取りこむべく、体の内部が貪欲にうごめいているのが自分でも分かる。
「んん・・・・・」
白い体がしなやかにうねり、ハイネルの体が少しずつ沈んでいく。そのたびに生々しい男の欲が彼の体に呑みこまれていった。
苦悶と快楽がせめぎあい、眉を寄せてその感覚に耐えているハイネルの表情は壮絶な艶を放っている。
「あうっ!」
グーデリアンの手が腰にかけられ、一気に下にひかれた。
「ああっ!」
熱く潤った隘路を、暴力的なまでに滾った肉塊が切り裂くように突き上げていく。体内で放たれた精液が生々しい音をたてた。
一度深くまで突き入れると、グーデリアンは両手でハイネルの尻をつかみ、荒々しい仕草で立て続けに彼の体を上下に揺すりあげた。そのたびに深い場所を男の剛直で抉られ、ハイネルの唇から耐え切れずに甘い苦鳴が迸る。指などでは届くはずもない奥めいた部分に熱い楔が打ち込まれ、引かれるたびに体の内側からぞくりと甘い戦慄が這い上がってくる。狭い粘膜を無理に押し広げ、突き進んでくる屹立に白い体が跳ねる。
「あっ、ん、ん、んあ!」
双の腕だけで軽々とハイネルの上半身を扱うグーデリアンの膂力は驚くべきものだった。
赤黒い肉の棒が何度もハイネルの谷間を上下に行き来する。斜め上のベッドの位置からではベッドに横たわる男が二人の交合部を目にすることが出来ない。だが、淫らなリズムで律動をつづける二人の体、そのたびにあがる水音がけものじみた行為をまざまざと男に伝えているはずだった。
「ああ、っ、あ、んん」
「見てるぜ」
「んっ!」
動きを止めることなく、荒々しく貫き犯しつづけている体を引き寄せ、その耳元にグーデリアンが言葉を吹き込んだ。そのせいで体内に突き入れられた凶器の角度が変わり、ハイネルに息が詰まったような声をあげさせる。汗で滑る腕を必死でグーデリアンの太い首に巻きつけながら、彼は従順にグーデリアンの視線を追って斜め上に目をあげた。
濡れた緑の瞳が男の目とあう。
『あっ・・・うう、』
男はもはや肩にかなり深い傷を負っていることさえも忘れ去っているのだろう。自由の利かぬ体を無理に制し、みじめに打ち捨てられた冬の虫のようにベッドの上で体を丸め、怪我をしている方の手を己の屹立に伸ばして必死で擦りたてていた。ふさがりかけていた傷からまたわずかな出血が起き、零(あえ)した血と精でねっとりと濁った大気をさらに濃密なものにしている。
醜く変貌をとげた男の肉塊。雄としての盛りを過ぎ、性の機能も衰えている男の屹立はハイネルを貫いているグーデリアンのそれとは比べ物にならなかったが、それでも確かに堅く滾っている。理性も知性も捨てさってただ己の快楽だけを追っているその姿は獣そのものだ。
『は、はあ、・・・・うう』
ゆっくりと瞳を上に巡らし、ベッドに架された男の目を見やると、それだけで男の呼吸が更に追い詰められたものとなった。
この男もきっと、昼の光の下(,もと)では人徳者の仮面を付け、もっともらしい企業人の顔をして辣腕を振るっているのだろう。女のみならず同じ性の者をも欲望の対象にする浅ましさは褒められたものではないが、正当な取引の上に・・・例えその『取引』が純粋にチェックに書き込まれた額面のみによるものだとしても・・・成り立ったものであれば誰に咎(とが)されることもない。
『はあはあ・・・・は、』
荒い息。一心に醜くふくれた性器をこすりたてる姿。
男の姿を視界にとらえ、浅ましい、と思うハイネルの見えぬ刃は、しかしそのまま自分にも突き立てられている。
この男は・・・ベッドに縫い付けられ、酒と血と精の匂いにまみれ、本能のままにただ自分の欲を満たすことにのみ突き動かされているこの男は、異常な空間にあって理性という名の薄皮を剥がされただけなのだ。
日の光の下では"人"としての形を取っている男も、ほんの少し箍を外してやるだけで獣の本性が顔を出してくる。
ハイネルはあえて男の姿を視界の隅にとらえたまま、自分を犯し続けているグーデリアンへと更に密着するように腰を振りたてた。まるで男に自らの姿を見せつけるかのように。
「あっ、いい、グーデリアン・・・・あっ!」
唇を寄せていくと、グーデリアンはその舌を自らの舌で口内に招きいれ、吸い上げてきた。夢中で舌を絡め、汗に濡れた金髪を両腕でかき抱く。
ベッドの上の男は、ハイネルの痴態を目に彼を想像の中で犯して自らを高めていく。
そう。明日の朝目覚めた時、男は不審に思うに違いない。
ベッドもシーツも、そして自分自身の装いも乱れ切り、部屋には流れ去らず滞留したままの濃い血と酒、そして精の匂い。肩口にはまるで食い破られたかのような傷があり、夥しい出血にも関わらずアルコールのせいか痛みさえ感じない。男の象徴をむき出しにしたままの滑稽な格好で目覚めた男は、過ぎた酒のせいで朦朧とした意識で今夜のことを思い出すかもしれない。
知的で冷たいフランツ・ハイネルという青年の娼婦も逃げ出すような淫猥な姿を。陽気な笑顔で知られるジャッキー・グーデリアンという名の男の逞しい体躯と闇さえも貫く青い瞳を。
だがきっと男は夢だと思うに違いない。太陽の灯りのもとにあれば、男は"人"として生きる。男の人としての理性が、道徳心が、そして判断力がそう断じるはずだった。
隠微な夢を見たことに、男は少しだけ後ろ暗い気持ちになるだろう。だがシャワーと共にわずかな背徳への罪悪感を洗い流した男は、身支度を整えてホテルをあとにする頃にはまたいっぱしの企業人としての顔をしているに違いない。
獣としての本性を、スーツ一枚で押し隠して。
「あっあっ・・・・ああっ!」
自ら激しく体を上下に揺さぶってグーデリアンの雄を受け入れ、ハイネルは白い喉をさらしてことさら高い声で啼いた。片手は濡れそぼってもう何度目かの放出を待ちかねている自身を慰撫さえしはじめている。
もう理性など、道徳などどうでもよかった。体の内からわきあがる飢えを満たしたいと欲する情動に従うことが獣の所業というのならばそれでよかった。
何故今まで無意味な抵抗を繰り返してきたのか、それさえも分からなくなっていく。
『うっ・・・・う、うう・・・・』
低いうめき声をあげながら、男が何度目かの放出を果たした。動きを止めぬまま愉悦の叫びを口にしながらハイネルは視界の隅で男の姿をとらえている。
この男を見ろ。高邁な理想論をぶちまけるその口で金で買った体を舐めまわし、むしゃぶりつき、醜悪に滾った欲望を突き立てることしか考えられなくなっているこの獣を。血と精と汗と、けがらわしい情欲のみで満たされたこの獣と同じ異形が、狂おしい飢えをもたらす得体の知れぬ影がこの体の中にも棲みついている。
「あっ・・・・・ん、んっああっ!!!」
ひときわ深く、抉るように打ち込まれた雄に、ハイネルもまた欲望のたけを吐き出す。
びくびくと震える体をなおも貫きながら、グーデリアンも熱い精を白い体の奥深い場所に注ぎ込んでいった。
かつえていたものが満たされていく。
例えそれが一時の慰めであろうと、すぐにまた夢寐にも忘れえぬ飢えがやってくるとしても、今刹那のこの時に満たされていればそれでよかった。
男が目覚めた時に残るのは、隠微で曖昧な記憶と酒の匂い、そして肩口に残された深い傷だけ。
だがこのひとときに得た無上の快楽を思えばこれは正当な取引である。この男がこれまでずっとそうしてきたように。
この夢は、獣だけが見る、けだものが見せる夢なのだ。
夢寐・・・(むび)