シーズン中ったって、どこかで息抜きの時間を持たなくちゃやってられない。
コンマ以下ゼロがいくつか続いてから1がやっとくるくらいのわずかなミスが命取りというけったいな職業柄の所為で、特にシーズンの半ば以降の神経は、どんなに頑丈なものであってもボロボロだ。
だから、たとえシャンペンシャワーを浴びずに終わった結果であっても、いやだからこそ、その日の夜くらい、傷心をなぐさめるべく女の子との熱い一夜を過ごしても許されると思う。
ごまかしとはったりが半分以上のカッコつけた上っ面の報道ほどに、実際は女を欲しているわけじゃないが、それでも健康な男子としてはそれなりに一夜のお相手は要る。
特にステディな子が欲しいわけじゃなく、下世話な言いかたをすれば、欲求処理のため。
だが、これでも名前と顔が売れているおかげで、後腐れなくという条件であっても抱かれにくる女性は後を絶たないから、今日もナイスバディなレディを連れてホテルへと直行するつもりだった。
その予定が覆されたのは、夜というにはまだすこし早い、そんな時間だった。
セルフォンに登録してあるの中から、メッセージを残してくれていた嫣然たる笑みの彼女を思い浮かべてその名前を探しだし、コールするためにちょっとコース周辺からもモーターホームの群からも外れた人気のない場所へ移動した時。
動体視力ほどはすぐれていないものの、わずかなエンジン音の差も聞き分けられるくらいには鍛えられた聴覚が、うめき声らしい音を拾ったのだ。
すでに押していたダイヤルボタンをストップさせ、あたりをうかがう。
鬱蒼とした茂みと、何のためなのかよくわからない、倉庫のようなコンクリートの建物。
その壁の陰、膝丈ほどもある雑草に紛れて人の足らしきものを発見し、ゆっくりと近寄った。
いくら夕焼けが暗闇に変わる直前の時刻だからといっても、お楽しみの最中ってことはないよな。
それらしき声も聞こえないし。
そんなコトを思いながら、足音を消すどころか、存在を主張するために草をわざとがさがさ鳴らしながら歩いた。
そして。
視界に入ってきたのは、うつ伏せになったヤローだった。
どうせレース騒ぎにかこつけて酔っ払った挙句にダウンしたんだろうと推測し、レディならどんな状態でも助けるが、ヤローならその心配はないと、時間のロスを口の中で罵りながら立ち去ろうとした時、脳裏の奥で何かがひっかかった。
数秒の間、視線を紫色の空に飛ばして考え、だがそれがなんであるかわからず、仕方なくもう一度、ヤローのところに戻る。
「おーい、大丈夫かー?」
心配してないことがありありとわかる口調で、それでも声をかければ、その体はぴくりと動いた。
草の陰になっていた頭が揺れ、わずかに見えたその髪の色に、どこか覚えがあるような気がした。
どころではなく。
「ハイネルっ!?」
ほんの数時間前まで、命のぎりぎりまでを賭けて戦っていたやつだったのだ。
年が近いのに性格からドライビングテクニックにいたるすべてが正反対であるというだけで、出会う前からかってにジャーナリズムにライバルと位置付けられた相手。
さすがにはじめはマスコミに踊らされ、お互いにいやなやつ、という印象であったが、それでも回を重ねてコース上で会ってみればそれほどでもなく、いつの間にか、これほどまでに自分を熱くするドライバーは今までいなかったということを確信して。
友情なんてものはおろか、まともに話すことすらなく、それでもいつしか、目があっただの肩が触れただのと繰り広げられる殴り合いがすっかりレクリエーション化してしまったほどには、関係は歩み寄りを見せた。
単なるドライバーとしてだけでなく、オフレコではあるがマシンデザインだとかにも携わっているということも聞いている多忙な彼が、なぜこんなところに転がっているのか。
いや、好きでここにいるわけではないだろうとは思うが。
名前を呼んでも反応がないことにいぶかしみ、その身体の横にしゃがみこんでみた。
「ハイネル?」
もう一度呼び、それでも答えがないのを確認して、その肩に手をかけて身体をひっくり返して。
どつきあいは繰り返しても、拳だの膝だのでしか相手の身体に触れたことはなく、このとき初めて、ハイネルの肩が思ったよりもはるかに薄いことに驚いた。
そして、その身体を見て、一瞬のうちに、怒りが脳を支配した。
どう好意的に見ても、それは、陵辱された痕だった。
背中から見ただけではわからないよう、だが着ていた上品そうなスーツやシャツの前は無残なほどにずたずたに裂かれ、もちろんそんな状態ではスラックスも無事ではなく。
小さい頃から喧嘩だけは誰にも負けたことがなかったこの身体に、噂どおりの良いお育ちととりすましたその外見からは想像もつかないほど重いパンチを食らったことも数知れず、その瞬発力やスピードは並みじゃない。
身をもってそれを証言できるその強さを持ち合わせたこいつがこれほどやられているということは。
相手は、集団。
そして、多分、ハイネルに警戒心を抱かせないで近づけるやつらだ。
下郎めが。
まあ、やり返されてそいつらもぼこぼこだろうとは思うが。
だが、そんなことよりもまずこいつを何とかしないと。
本当ならこいつのモーターホームに送り届けるのがいちばんなんだろうけど、万が一、こいつをこんなにしたやつらがチームの中にいたことを考えるとあんまりいいとは思えない。
そうでなくとも、こんな姿は見られたくないだろう。
自分のところでもいいが、はっきりいって人を寝かせられるほど片付いちゃいないんだな。
それでも運がいいことに、素敵なレディと一夜を過ごそうととったホテルがあるから、そこへ行くとするか。
医療品とかはないかもしれないが、でかいベッドと熱い湯くらいは望めるだろうし。
「ハイネル?」
もう一度呼びかけ、やっぱり意識がないことを確認し、ひどい状態の前が他の目から隠れるよう、背負った。
そのとき両手首をもって引っ張りあげたんだが………自分の指が一周してもまだあまるその細さに、そんな場合じゃないと知りつつ、もう一度驚いた。
フロントでキーを受け取るとき、ホテルマンは不思議そうな顔をしたが、持ち前の商業用スマイルで誤魔化してさっさとエレベーターの扉に隠れた。
あの分じゃ、背中に担がれた人がハイネルだとは気づいていないだろう。
どんな理由だかは知らないが、公の場ではいつも逆立てている髪がほとんどおりてしまうと、がらりと印象が変わるからだ。
おおかた、酔っ払いを連れてきたと迷惑に思ったけど、客の手前、表情を取り繕った、くらいだろう。
そんなことを考えているうちに四角い箱はほとんど衝撃を感じさせないままに止まり、目の前の空間が開ける。
キー代わりのカードに印刷された番号を確認して、それぞれのドアにつけられた番号を見る。
それは、エレベーターからはちょっと離れた、L字型に曲がった廊下のほぼ突き当たりに見つけることができた。
人通りの多いエレベーター付近から見れば、死角になる部屋だ。
顔が売れている人間を泊めることに慣れているホテルだと、こういう気配りをしてくれるからありがたい。
部屋に入って、ドアがオートロックで閉まるのを確認してから、ハイネルをベッドの上に置いた。
わずかなうめき声がもれたものの、意識を取り戻す様子はない。
仕方なく、バスルームに用意されているタオルを濡らし、2度とは着れないだろうスーツやシャツを剥ぎ取って、その身体を拭きはじめた。
そして。
びっくりした。
反則じゃねぇかとも思った。
レーシングスーツ以外では、ビジネスマンばりのスーツ姿しか見たことのなかったハイネルの肌は、日にさらされることのない白さで。
かなり抵抗したのだろう、あちこちに残る痣や刃物らしきもので傷つけられた痕が痛々しいほどに細く。
形よくついている筋肉は、それでも自分と比べれは信じられないほどに薄い。
よくもこんな身体であのGに耐えているものだ。
いつも凄んで睨みつけるような、だけど真っ直ぐに前を見ているグリーンの瞳が閉じられていると、思ったよりもその容貌は幼いことに気づいた。
丁寧に泥と乾いた血を落としてやれば、昔、ガキの頃に見た彫刻のように整っているその造りが露わになる。
ちょっと寄せられた眉は細く、今まで見たどの女たちよりも綺麗なラインで、すっきりと通った鼻筋と、今は血の気のない、自分に対しては信じられないほどに悪口雑言を吐く唇は薄めで。
ほっそりした頬から顎の線は、同じ男であることが信じられないほどに華奢だ。
両手で回せば、5指を組むことすら出来そうなほどに細い首、深い翳りを落とすほどに浮き出た鎖骨。
わずかに上下する薄い胸板から、綺麗な逆三角形を形作る細い腰。
思わずゴクリと喉を鳴らしたその音で、己が何を考えているのか気づいて、慌てた。
ちょっと待て。
こいつは、男だろう?
とりあえず汚れたタオルを洗いに、その体から離れることにした。
シンクで泥と血を洗い落とすと同時に、自分の中の考えも洗い落とすつもりで、不必要なほどに罪のないタオルに力を入れた。
目の前には、いつもの余裕の欠片もない男の顔がある。
思わずその鏡を割り壊したい衝動に耐えながら、躍起になってソープを使った。
そして、戻ってくる現実。
多分、後で知ったら嫌がるだろうが、それでもやらねばならないだろう、いちばん被害のひどい、そこ。
役立たずのスラックスを、なるべく刺激を与えないように注意しながら引き抜く。
自分と同じモノのはずなのに、その肌の白さの所為か、まるで違うものに見える。
同じ白人とくくれる相手だが、小さい頃から外で能天気に遊んでいた自分とは違い、きっと室内に閉じこもって小難しい本でも読んでいたに違いないと確信させるほど、日にさらされていない肌。
そういえば、レーシングスーツ以外では、堅っ苦しい服しか着ているのを見たことがなく、腕ですら日にさらしているのを見た覚えがない。
しかも、レーシングスーツは空気を通さない生地で作られているためにテストのような軽い走行直後ですら、かなり汗でむせ返るから、結構上をはだけている奴は多いというのに、こいつはそんなくだけた格好すらもしない。
それが、鍛えても薄いままの体躯にコンプレックスを抱いているからだということを知ったのは、もう少し後だったが。
このときはただ、見慣れた自分の体との違いに、ただ驚いていた。
熱い湯で絞ったタオルで、ハイネル自身の血と誰のものかもわからない精液を拭い取る。
なるべく痛みを与えないように力を抜いて、だがこびり付いてしまっているものは簡単には落ちてくれず、何度もタオルが往復する感覚に、ハイネルが呻き声をあげた。
手を止めて顔を見やれば、髪の色よりもやや濃い目の陰をつくる睫が震え、焦点の定まらない深緑職の瞳が現れた。
「大丈夫か、ハイネル?」
感覚が戻ってきていないのだろう、いぶかしむような表情で俺を見、己の状態を目の当たりにし―――途端に半身を起こし、狭いベッドの上を逃れられる限りのベッドヘッドまで後ずさった。
おおかた、襲った奴らと間違えたのだろうと見当はついたが。
まあ、確かに記憶が飛ぶ前の状態を考えれば、全裸に剥かれている今の状態は喜ばしいものであるはずもない。
だから、俺は両手、とは言っても右手にはまだ濡れたタオルを持ったままだったが、軽く肩のあたりまで上げて敵意のないことを表明した。
「ハイネル?」
穏やかな声色を作って名を呼べば、シーツを手繰り寄せて肩から覆うようにしつつも俺を見た。
「グー……デリ、アン…?」
それは、今までに聞いたことのない声だった。
もう数え切れないくらいに乱闘騒ぎを起こし、それ以上に何度も罵られるように名前を呼ばれてきたが、こんな、まるで捨てられた仔猫が威嚇しつつも不安に苛まれているような声は、聞いたことがなかった。
それでも、その中に多少の安堵の色があることも、ちゃんとわかった。
とりあえず、敵ではないと認識はしてもらえたらしい。
「草叢に寝っころがってんの見つけたんだけど、呼んでも起きねぇから、ここへ連れてきちまったんだが」
かなり端折っていえば、ハイネルはと単に眉をひそめた。
だが、わざわざ言わなくていいことまで言う必要もないだろうし、と思って、そのまま手にしていたタオルをハイネルのほうに差し出した。
「まだ、完全にはきちんと拭いてないから、これ、使え。歩けそうなら、風呂に入った方がいいんだが」
ハイネルは、俺の手のタオルとベッドの脇に落とされた服のなれ果てをしばらく見つめていたが。
「…できれば、バスルームを使わせてくれ」
と呟いた。
多分、食べたくはないだろうとは思ったが、ハイネルがバスルームに篭っている間にルームサービスを取り、遅めの夕食の用意をした。
女性以外に対してこんなに甲斐甲斐しくなる自分を客観的に見て力なく笑ってみたが、まあ、仕様がないかと簡単にケリをつけた。
いくらなんでもあの状態の相手に対して持つべき感情でないことは、これでもわかっているつもりだ。
いやその前に、同性に対して、というべきか。
どんなに過酷なレースを前にしても見たことがなかった、あの怯えた瞳を思い出し、自制心にグラスファイバー製の鎖を巻きつける。
かなりの時間をかけてから、ハイネルはおずおずと出てきた。
服はないから、バスローブだけをまとい、いつもなら立ち上げている髪も素直に重力に従っている。
「ごめんな、眼鏡、拾い忘れてきちまった」
その姿を見て違和感に気づき、いつものハイネルのアイテムがないことを軽い口調で謝れば、あれは度が入っていないもので代わりはいくらでもあるという答えが返ってきた。
トレードマークの髪と眼鏡がなく、かっちりしたスーツではなくバスローブだけというハイネルは、今までの印象を根底から覆すに足りた。
精密機械だのなんだのといわれているいつものお堅いイメージは欠片もなく、どちらかといえば頼りなげな、庇護欲をかきたてられてしまう感じがある。
「大丈夫か」
思ったことをもう一度そのまま素直に訊けば、ハイネルはかすかに頷いた。
「よく、あることだから」
その台詞に、俺が固まった。
「よく、あるのか?こんなことが?」
ちょっと待て。
そんなさらっと、なんでもないふうに言うようなことか、これは?
かなり間抜けな顔をしたんだろう、ハイネルは微苦笑した。
がちがちに固まっていた表情がほんの少しほぐれたのを見て、内心、ほっとした。
「よく、あること、だ」
もう一度ハイネルは繰り返した。
小さい頃から、女の子に間違われるような姿だったため、しかも学生時代は特に男子ばかりの寮にいた所為もあり、愛の告白だの付き合ってくれだのは当り前、有無を言わせずに強姦されかかったこともあって。
そうでなくとも相続争いの関係から誘拐未遂なんてしょっちゅうで、その途中経過で慰み者にされかかったことだってあり。
この世界に入ってからは、ドライバーという席にのみじっとせず、設計やらデザインやらにまで手を出すハイネルを邪魔扱いするやつらや、親の七光りで走っていると思われてのやっかみも多く。
そういう奴らが、堂々とけんかを仕掛けてくるとかひどいときは命を狙うということもあるのに、なぜかハイネルに性行為を強要する傾向があるということ。
そんなコトを、あまりにも淡々と語るから、思わず聞き入ってしまった。
そして、突然に、つい先日見た雑誌のフレーズが脳裏をかすめた。
『嫌いなもの : 他人という名の人間』
そのひとことは、そこだけ拡大になっていわけでもなく、太字になっていたわけでもなく、単なる活字として、他の言葉と一緒に並んでいた。
それなのに、なぜかそこから目が離せなくなってしまった。
それは、どこにでもあるような、三流雑誌。
CF専門誌ならいざ知らず、芸能関係だろうがでっち上げの事件だろうが、ゴシップになるなら何でも扱うような、紙の無駄遣いトップテンに入るもの。
普段なら見向きもしないそれが、なぜ手の中にあったのかというと。
表紙に、見慣れた顔と見慣れた文字がプリントしてあったからだった。
『フランツ・ハイネルのすべて』
重力の法則を真っ向から否定するような髪型に銀色の細いフレームの眼鏡をかけた、世間では勝手にライバルと格付けしてくれている相手。
めくったページの中には、ハイネルのプロファイルから家族構成、学歴と取得した賞や肩書きの数々に並んで、好きなものや理想などが綿々と書き連ねてあった。
性格的になのかわざとなのか、ハイネルはインタビューの類を好まず、専門誌にすらなかなか口を割らない。
技術的なことになれば話は別だが、プライベートなことはほとんどと言っていいほど、黙秘権を行使する。
そんな彼が、どう考えたってこんな雑誌のために会う時間を割くとは思えず、グーデリアンは、載っている活字の10割が今までに彼が受けた正式なインタビューなどから勝手に拾い集めてきたものだろうと見当をつけ、ダストボックスへ放り込もうとした。
その、一瞬。
ふと、何か目を引く文字が入ったように思って、ページを広げなおした。
コース上でもモーターホームでも、顔を見れば喧嘩をしている相手だが、実は嫌悪の感はない。
本当に嫌いな相手とは、一応の礼儀上、わざとらしい嫌味な笑顔をつけての挨拶はしても、それ以上の会話はしない。
仲良しこよしで友達になりたいというわけではなかったが、好きか嫌いかといわれれば、きっと好きと答えるだろう。
以前、姉貴と妹が言っていたことがある。
『だって、あんたって昔から、好きになる子はいじめてたタイプだもんね』
そう、姉が笑うのを、奥歯を噛みしめながら睨んだが、効果はない。
『気のない子には適当に愛想をふりまいてるのにねー』
妹までが一緒になってけらけら笑うのに、頭を抱えた。
それでも、それはあながち間違いではなかったし。
がーがーがなりたてるハイネルから、だが本当に自分を傷つけるような言葉を聞いたことがなかったから、嫌われてはいないはずということも感じていた。
ハイネルが、本当にそう、何かのはずみにでも言ったのか、はたまたこの雑誌のライターが勝手に書いただけなのかはわからなかったが、それでもその言い方はしこりが残った。
己が、ハイネルの中で『他人』の中にくくられているのかどうか、わからなかった所為かもしれないが。
そして、できれば『他人』ではないといいと、ぼんやり思ったのだ。
だが、今この状態を見、ハイネルの過去を垣間見れば、あの言葉はきっとハイネル本人の口から出たものだろう。
勝手にハイネルのイメージを綺麗な外見と聡明な頭脳からだけで創り上げ、それに対して劣等感を抱き、自分がその高みまで上がれないことをやっかんでハイネルを貶めようとする、『他人』。
ハイネル本人をわかってやろうとしない、『他人』。
白いタオル時のバスローブに包まり、怯えるように視線をさまよわせるハイネルを、守ってやりたいなんて思ってしまった。
そんなコトをいえば、きっと相変わらずの口の悪さと喧嘩っ早さでどつかれるだろうけど。
膝を抱えているこんな姿よりも、きっとその方が何十倍もいいだろうから。
今は、まだ、言わないでおこう。
いつもどおりの、俺のままで。
「ハイネル、着替えどうする?俺のだと、ハイネルほっそいから余っちゃうだろう?」
なんてちょっと唇を歪めて訊いてやろう。
相手は男で。
自分は女が好きだったのに。
『他人』じゃなくなりたいと思った時点で、もうもとには戻れないんだろうな。