Go Quest4


<おいコラちょっと待て!お前自分の足の長さが分かってんのか?ガタガタガタガタ引きずりやがって脳震盪起こしたらどーしてくれんだよ!いざって時に俺が目ェ回して使い物にならなかったら、お前なんか3秒で魔王の腹ン中だぜ!!>

「え?なぁに??師匠」

<なぁに?じゃねーや、このバカ!自分の歩いて来た道見てみろ!!カタツムリでもあるまいに、なんで後ろにずーっと跡がついてるんだよ!>

 腰に下げた剣の猫目にギョロリと睨まれて、ジャッキーは後ろを向いてみた。確かに、小石まじりの道に細い線がついている。そしてそれは自分が歩いて来た通りの軌跡を描いているようだ。

「あれ?ホントだね。なんでだろう??」

<・・・お前の足が短いからだっつーのが見て分からねえ?いっちょ前に俺を腰に下げるなんざ10年早いんだよ、小僧>

 そう言われて見れば、腰に下げた剣の先が地面についていて、なるほど線はそこから引かれている。

<分かったら背中に回せって>

「でもさー背中にあったら抜くのに時間がかからない?」

<それより俺は腰に下げられたままじゃ抜かれることもないと思うぜ。お前、背後の敵に気づかないじゃねーかよ。いいか、俺を背負うってことは後ろに目がつくのも同じなんだから、どっちが安全かはいくらお前でも分かるよな!>



復活と同時に魔法使いフランネルを襲うかと思った魔王を追って旅に出たジャッキーたちだったが、その行く手は様々な魔物たちによって阻まれた。いざ魔物退治となるとジャッキーの経験値はゼロに等しい。ゼロでないと言えるのは、ひとえに手にした剣が元は向かうところ敵無しと評判の剣士だったおかげである。子どもが扱うには大きすぎる剣で戦うジャッキーの姿は、まるで剣に振り回されているようで・・・と言うか、魔物はもちろん山賊海賊盗賊、野良犬に人食い熊等々、そんな物騒な相手と戦うことなんてなかったジャッキーに代わって戦いの主導権を握っていたのは剣自身で、ジャッキーは文字通り剣に振り回されていたのだった。



「んー・・・でもさー」

 と、自分の瞳の高さに剣の猫目を翳しながらジャッキーが反論を試みようとした瞬間。剣が大きく弧を描いてジャッキーの背後の空を切り、短い叫び声をあげて黒い影が地面に転がった。剣の放つ青い燐光に照らされたその姿を見て、ジャッキーは思わず息を呑んだ。蝙蝠の羽を背中から生やした毛むくじゃらな猿が、今にもジャッキーの脚を噛み切ろうと鋭い牙の並んだ口を開けている。咄嗟にその牙から逃れようとするジャッキーの脚の動きとは裏腹に、柄に吸いついた右手は素早く脚と牙の隙間の地面に剣を突き立てた。一際強く輝く剣の青い燐光を浴びてもがくうちに、襲撃者の奇妙な体の輪郭が崩れていき、最後に残ったのは怯えた猿と蝙蝠、それにバラバラと地面に散らばる牙と爪だけだった。

 

<汝らに宿りし邪悪なる力は去った。行け、心優しき者たちよ>

 

 その言葉が終わるのを待って、ジャッキーはそっと、猿と蝙蝠の目の前に突き立てられた剣を抜いた。



 蝙蝠は黄昏の空へ、そして、猿は夕闇に沈む森の奥へと消えていく。

 やがて、彼らを迎える幾つもの影が見えてくる。



 ジャッキーはホッとしたように呟いた。

「あー良かった、師匠があいつらを逃がしてくれて」

<言っただろ、俺は伏魔の剣だって。魔力を封じ込めるだけで、魔物を殺すことは出来ない。それに、魔王から与えられた力を奪ってしまえば、あいつらはただの猿と蝙蝠だ。殺すことなんて無いさ>

 剣の猫目の虹彩が、すっと細くなる。人間で言うと、ちょっと目を細めて眉をひそめているような仕草なのだろう。

<恐らく魔王は完全に復活していない。だから、あんな俄か魔物どもがあっちこっちで騒ぎを起こしてるんだ>

「どういうこと?」

<魔王の力の源は、人々の発する怒りや憎しみ、恨みや悲しみだって聞いたことがある。その力を得るために、魔王は魔物を作り出す。真っ先に狙われるのが、今の連中みたいな動物たちだ。人間に痛い目に遭わされてるものたちも多いからな。幾つもの動物たちがひとつになれば、奇怪な姿を現すことになる。そして、その姿が人々に恐怖を与え、襲われた人間たちが反撃に出ることもある。中には腕に覚えのある奴が居て、魔物を倒すこともあるだろう。そうしたら、魔物となっていたものたちの仲間が敵討ちのために新たな魔物と化す。動物だけじゃない、人間だって魔が差すっていうくらいだから、いつでも魔物になる可能性がある。こうなってくると、世の中魔物だらけになっちまう。これこそ魔王の思うツボってやつだ。だから、その恨みの連鎖を断ち切るために俺は魔物に憑いた邪悪な力だけを払うのさ。魔王の飯の種を少しでも減らすためにな>

 

 剣の話を聞きながら、ジャッキーはさっきの剣の言葉を思い出していた。

 なぜ剣が襲撃者に対して「心優しき者」と言ったのかが、今、分かった気がする。

 きっと彼らには、どうしても守りたい大切なものがあったのだろう。もしくは、どうしても許せない相手が居たのだろう。そして、手段を選ばないほどにまで迷いが無くなってしまった時、その思いが強ければ強いほど、魔王につけこまれる隙間も大きいのかもしれない。

 本当は心優しき者であったはずなのに。

 例えそうでなかったとしても、邪悪な力の消えた後では心優しき者となれ。

 

 あれは、ひとつの呪文なのかもしれない。



 

「ねぇ、師匠。魔王がいなくなったら魔物も消えるのかな」

<そいつァ、俺よりお前の方が知ってるんじゃねーの?俺が魔王を封印しているあいだ、道を歩いてて魔物に会ったことがあるか?>

「ギガロスに攫われてヒナの餌になりかけたけど」

<そりゃお前、食物連鎖ってヤツだ。魔物とは違う。その連鎖は断ち切る必要ねぇぞ>

「ひどいな師匠、俺が食べられちゃっても良かったってこと?」

<そうだな、その時お前が食われてれば魔王の封印も解かれなかったってことだろ?やっぱり、どー転んでもお前が落とし前をつけることになるんだな>

「分かってるよ、任しといてよ!」

<何が任しといて、だ!お前に任せてたら魔王のところにたどりつくまでに体が幾つあったって足りないぜ!!まずは俺を背中に回せってーの>





・・・なんてことを繰り返しつつ、ふたりは旅を続けるのであった。




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