Go Quest13

 自分の身に纏(まと)っていた魔法使いの体を、一瞬のうちに光の渦が巻き取っていく。

 骨と皮しかない自分は渦に巻かれて軽々と浮き上がり、離れて落ちていく魔法使いの体を追うことすら出来ない。

 このまま、朽ち果てるのか。



 厭だ。



 もがいた指に、何かが当たった。

 ゆらゆらと揺らめく、細く半透明の紐のようなもの。

 その先に、魔法使いの胸の鼓動を感じた。

 自分をこの世に繋ぎとめる、命の源。

 必死になって捕まえた。

 離れないように、震える指で自分の手首に結びつけた。





 落ちていく魔法使いの手を取ったジャッキーは、そのままでは相手の重みに引きずられて一緒に沈んでしまうことに気づき、一旦下に潜って肩に担ぎ直した。

 そして、水面目指して泳ぎだす。



<・・・小僧、お前頑張ってるのは分かるけど、あんまりちんたらやってると水面まで息がもたねえぞ>



 自分より頭ひとつふたつみっつほど大きな魔法使いの身体を背負って、半分溺れるようにして泳いでいる弟子を心配する師匠。沼でのことを参考にしているらしく、無駄に喋って息を浪費することはないものの、浮いてるんだか沈んでるんだか分からないようなペースでは、せっかく溜めている息も水面にたどり着く前に無くなってしまう。大変だとは思うが、もう少しペースを上げた方がいいぞ。まあ、背中の魔法使いが気を失っているおかげで(その分重くはなっているのだが)暴れたりしないで、微かな息でもっているのが不幸中の幸いとでも言おうか・・・というようなつもりだったのだが。

 師匠の忠告を聞いた弟子が取った行動は、師匠の意に思い切り反するものだった。

 ジャッキーは、ああ、そうかと言うように頷くと、軽く身体を反転させて魔法使いの顎を取り、息を吹き込もうとし・・・


「えーーーーーーーーー!?何?!マジ??」



 魔法使いの顔のすぐ上に漂う魔王と目が合って、貴重な息を思わず全部吐き出して叫んでいた。



<何やってんだよお前はもうホントにバカだな!>

「(えーだってビックリしたんだもん:身振り手振り)」

<とにかく、今から俺の出す綺麗な空気を腹いっぱい吸い込んだら息止めて、魔王と魔法使いを繋いでる紐を切って俺に結んでそのへんの岩に突き立てて、お前は魔法使いを連れて陸(おか)に上がれ!いいな!!>

「(そんなぁ、師匠を置いて俺たちだけ助かるなんて出来ないよ!:口パク)

<・・・お前、分かってるだろうけど、魔法使いを置いたら俺を連れに戻って来いよ>

「(・・・もちろんだよ師匠!!:笑顔で頷く)」

<あ!間が空きやがった!!お前俺を見殺しにする気だったな!!!>

「(気のせい気のせい)」



 笑って誤魔化しながらジャッキーは腰に帯びた剣を抜くと、言われた通りにその刀身が発する清浄な風を吸い込んで、魔法使いの身体から伸びる繭の紐を切って剣の柄に結びつけ、手近な岩に剣を突き立てると、再び水面を目指して泳ぎ始めた。



 紐の先で漂う魔王の前を横切る時、あの蜘蛛のような手に足を掴まれそうになった。

 逃げなくちゃ、と思った瞬間、稲妻のように青い光が剣から紐を通って魔王の身体に走った。





 自分と魔法使いを引き離した忌々しい光が、今また自分の身体をバラバラにしようとしている。

 これ以上、自分をどうしようと言うのか。

 血も肉も無い、ただの骨と皮しかない自分から、これ以上何を奪い去ろうとするのか。

 自分が生きようとすることは、そんなに間違ったことなのか。



 負けるものか。

 こんな紐など引きちぎり、すぐに後を追って魔法使いの身体を取り戻してみせる。



<・・・いつまでそんなことを繰り返すつもりだ>



 これが最後だ。

 魔法使いの身体の全てを手に入れれば、魔法使いが生きてきたように自分も生き続けていけるはずだ。



<それはどうかな>



<本当に自分自身として生きていきたいんなら、いつまでもあんなロクでもないヤツの呪文に縛られてるんじゃねーよ>



どういうことだ。



<信じられないかもしれないけど、お前、本当はまだこの世に生まれてもいないんだぜ>



 嘘だ。

 

<本当だ。お前をこの世に呼び出したヤツの言葉を思い出せよ>



<<この世に生まれ出ずるより先に、闇へ還されようとするものよ>>

<<光のもとへ来らんと欲すれば、我が手を取れ>>



 ・・・この世に・・・生まれ出ずるより先に・・・

 

 そんな。

 まさか。



<俺が気に入らないのは、まだどんな風にでも生きられる可能性があったお前に呪文をかけて、魔王にしかなれないようにしてこの世に放り出したことさ。確かに、あの時のお前は不幸にしてこの世に生まれるチャンスを逃そうとしてたのかもしれない。
でもな、だからって魔王になるために生まれたかったわけでもないだろ?>



 そうだ。魔王なんかになろうとしたことはない。

 こうすれば生きられると言われたことをしていたら、いつのまにか魔王と呼ばれるようになっていた。



<<汝を闇に還さんとするものと戦え>>

<<さすれば汝、血肉を得て甦らん>>



<何が血肉を得て甦らん、だ。惑わせるようなこと言いやがって。なあ。甦るも何も、お前はまだ、本当のお前自身として生まれてないんだからさ>



<甦るってのは、そうだな、俺みたいなのは甦ったクチだろうな。無敵の剣士が伝説の魔法使いの剣として甦ったってワケだ>



<お前、心臓が無いから生きていけないみたいなこと言ってたよな>



<今の俺には心臓は無いけど、生きてるって胸はって言えるぜ>



<眠れ、魔王>



<次に目が覚めた時、お前は本当の自分に生まれているはずさ>



 剣の言葉に促されるように、ゆっくりと身体を丸めて目を閉じる魔王。

 その身体を、剣から溢れる青く柔らかな光が包み込む。

 光の中で魔王の身体は小さくなっていく。



<何に生まれるかは分からねえ。でも、それは間違いなくお前自身なんだ>





 そして、



「師匠―助けに来たよー!」



 傀儡として魔王を縛っていた小さな人形(ひとがた)は、ジャッキーの巻き起こした波間に消えていった。



「あれ?魔王は??」



<魔王?・・・そんなヤツは、もういねえよ>


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