『夏の残骸』
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 祥夜に会わなくなってから、一週間が過ぎた。
 あれ以来、一度も祥夜の姿を見ていない。
 何度か、クラスの奴に祥夜が尋ねてきた事を聞かされた。
 俺は昼休みどころか他の休み時間も、とにかくひたすら祥夜を避け続けた。狭い構内では無理かと思われた行為も、実は案外そうではなかったことが分かった。
 終礼と共に席を立てばいい。そして技術室でも視聴覚室でも、どこでもいいから落ち着いてしまえばいいだけだ。幸い、祥夜のクラスと俺のクラスは離れている。俺のクラスは、階段の側だし、他の階に行くのも容易だ。
 放課後もさっさと席を立ってしまえば、特に何の問題もなかった。俺が避け続けている事に、とっくに祥夜は気付いているだろう。それが何故なのかも分からなくて、困惑しているかもしれない。
 けれど。
 俺は知っている。そんなのは一時の感情だ。
 一時の感情だから・・・・・・祥夜はすぐに諦めるだろう。
 会わないでいれば、きっと。
 そうしたら俺も諦められる。祥夜に期待しなくてもよくなる。
 あんなに苦しい思いをしなくても よくなるだろうから。





「明津。」
 思わず、名前を呼ばれて反応した。そして、振り向いてしまった。
 声で誰か分かったのに。

 じっとりとした目が、絡みつくように俺を見ていた。
 二週間ぶりに・・・・・・・・俺は祥夜を見た。

「・・・・・・・・いつからそこにいた・・・?祥夜。」
 門扉の前だった。柱の陰になっていたから、俺から死角になっていて、声をかけられるまで気付かなかったのだ。
 朝の、涼やかな風が祥夜の髪を撫ぜた。視線は変わらずに俺を捉えている。捕らえて・・・・・俺は囚われて動けない。
「・・・・・最近、ずっと避けてるけど、どうして。」
 明瞭な口調だった。瞳の中に俺が映っている。曇りのない目。思わず気圧されそうになる。
「何の話だ。」
「・・・・・・・・惚けるな。二週間も同じ学校にいて、顔あわせないほうがおかしいだろ?・・・・・・・・・俺、何かしたのか・・・・明津に。」
「・・・・・・・・いいや。」
「なら、何で。」
「・・・・・・・・・」
 離れたい。祥夜から、解放されてしまいたい。
 苦しい。
 苦しい。
 ・・・・・・・・・・・抱き締めたい。この腕におさめて、抱き締めて、離さないでいたい。閉じ込めてしまいたい。俺と違うものなど見て欲しくない。俺が見えないものなど、感じて欲しくない。俺を見て欲しい。・・・・・・・なんてエゴイズム。こんな感情はきっと、祥夜にはない。

「・・・・・・・・・・苦しいんだ。」
「苦しいんだよ、明津・・・・・・・・!」
 祥夜の腕が、俺の肩口を捕らえた。瞳には俺が映ったまま。視線の先にいるのは・・・・・・・・俺だった。
 俺は扉に背をつけたまま、ズルズルと腰を落とした。空の高さが目に入る。
 祥夜が俺に口付けてきた。俺は祥夜を抱いて、息を継ぐ間すら与えないようなキスをする。
 腕に抱いた存在は、二週間分を埋めようとするように、俺に応えてくる。頬が紅潮して、酸素を欲しがるような、息遣いが漏れた。
 首筋に落とすキスに、ヒクリと反応する。
「あ・・・く・・・明津・・・・・・」
 肌蹴た胸元が、息苦しさを思い出させた。
「明・・・津・・・・・・苦しい・・・苦しいんだ・・・・・・・・俺は、明津がいないと・・・苦しい・・・・・」
 祥夜の眉が潜められ、止め処ない涙が溢れる。太陽を背にした姿は、やけに綺麗だった。
 俺は、鍵を出して、扉を開ける。薄暗い家の中はシンとしていたが、外の暑さを持ち込んだかのような湿気が滞っていた。俺の部屋まで、祥夜の腕を引いた。促されるまま、祥夜はついてくる。
 ずっと涙を流しながら。
 涸れることを知らない 涙。
 俺だけを見て欲しい・・・とは、言えなかった。
 祥夜は子供のように泣いている。俺は・・・何も言えなかった。
 何も言えなかったけれど。
 祥夜を抱き締めて、俺は目を閉じた。
 苦しさがいつの間にか消えていた。




「明津」
 祥夜が俺を振り返って笑った。
 涼しげな夕刻の風が吹いている。いつの間にか、蝉の声が聞こえなくなっていた。
 空が高い。俺は・・・ゆっくりと・・・右腕を伸ばしてみた。


END

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