『制限時間』


じっと座っている。
というのも、それしか出来ないからだ。
床にべったりと座り込んで、投げ出されてたファッション誌をおざなりに開いている。
けれど、それはさっきからずっと同じページで止まっていた。俺が雑誌なんかに目を落として ないからだ。
俺の視線はその苛々している後ろ姿をずっと捉えている。で、手持ち無沙汰な俺はただボーっ と見ているだけ。
休日の今日、今週はレポート課題などもなく、趣味すら皆無に近い俺はやる事が本当にない。 それでいつも彼の元を訪れるのだが、今日は切羽詰まっているらしい。机に 向かったまま、ガリガリとペンの音だけが部屋に響いている。
俺の周りの空気がぼんやりと緩慢なのに対し、彼の周りはピリピリと張り詰め忙しな さそうだ。

いつもだったら休日に仕事は持ち込まない。その前に終わらせておいて、俺に付き合って くれている。
ただ、年に数回あるのだ。こういう事も。どーしても終わらない時が。
クリエイターと一言に言われても、彼がどういった分野の仕事をしているのか俺は良く 知らない。少し前に「クライアントが凄く煩い。」と彼は言った。その時点で、苛々が読み取 れる程だった。
良く話は聞かなかったが、夏に新色を発売する口紅か何か・・・とにかく化粧品のCMの依頼で、 今は絵コンテだとか、シナリオだとか・・・の段階とか言っていた。
とにかくクライアントの注文が厳しくて、今までにないくらいのリテイクを食らい、半ば辟易 しつつも、フリーでやってる身にはチャンスな仕事だし意地も手伝って現状となっているようだ。 ・・・・・やっぱり良くは分からないのだけれど。



彼がフリーでいるのは、・・・・俺のせいだ、と分っている。
友人の事務所からの依頼を受け、彼は仕事を家でこなす。偶に撮影現場などにも居合わせる らしいけれど、自分の名前は極力出さずに下請けでやっているらしい。
本格的にやれば相応の評価を貰えると思う。そうして彼を縛っていると知っていても、俺には まだ「好きにしていい」と言い出せない。
言いたいのに・・・・・・・。
・・・扉がすぐに開かない事は、今でもこんなに恐い。
チャイムを鳴らしたら、彼がものの数秒で出てくる事に慣れた俺は、未だにその甘えを消せない でいる。
いつかいつか、と希望観測だけを盾にして。



(あ、何かそろそろヤバそうだな。)
こういう時の人間の第六感は信じたほうがいい。それが自分のものでもだ。大概外れない。
「やってられるか・・・・・・」
ああ、ほら来た。
ユラリという擬音語が背後に見えた気がした。低い声は凄みを帯びている。
彼によって投げ出され、飛ばされたペンが俺の近くに落下した。数枚の紙切れが彼の周りを舞って から、床に落ちる。
苛々最頂点だ。
普段の彼は俺を嗜める程の余裕があるし、勉強も見てくれるし、要望すれば夕食すら希望のものを 作ってくれたりするのだが。そう、凡そ大人な人間なのだけれど。
駄目な時は、駄目だ。
通常は「完璧」を地でいっているだけに、やはりこういう側面を見ると「ああ、人間なんだなー」 と思えて少々安心する。ちょっと不謹慎だな、と思うけど。

「・・・悪いけど、あんま見てないでくれるか?」
「今まで気にしなかっただろ。」
「気になり始めると、気になるんだ。」
「・・・・・我侭・・・・・」
「もう少し・・・あと2.30分もすれば終わると思うんだけど。」
「そう言って、あれから3時間経ってるんだけどなぁ。」
彼は再び机に向かう。俺はやはり視線を注いでいたが、邪魔はしちゃいけないだろう、やはり。
ので、退出しようとした時だった。
「やっぱ、ダメだ!」
そう言って彼は立ち上がって、クルリとこちらを振り向く。
「すっげぇ気になる。」
そう言うと、ずかずかと俺の前にやってくる。
「?」
俺を一睨みした後、グイと俺の腕を引っ張り上げて立たせる。
「??」
そして無言のまま俺を抱えた。
「!?」
唐突過ぎて、声も出なかった。確かに俺は標準身長よりちょっとは、ちょっとは 低いかもしんないよ!? 抱えやすいかもね!?でも、コレって屈辱じゃないか!?
抗議の言葉も思いつかずに、ただ手足を上下にバタつかせた。そんな事すら気にする素振りもなく、 彼は俺を抱えたまま歩き出す。
数歩先のベッドに俺を無造作に下ろすと、のしかかるようにして被さって来た。
「ちょ・・・・っ・・・・・!仕事!!仕事あんだろ!?」
「邪魔したのは、成海(なるみ)だろう。」
うわ、目がマジだよ。
連日遅い上、昨日からは寝ていないと言っていた。精神状態も悪いんだろうか・・・・。 いつもならこんな強引なことはしないし、されたことない。
「・・・終わるのか?仕事。なぁ、弥栄(やさか)。」
「終わるんじゃない、終わらせるんだ。」
あー、目がちょっと虚ろかもな・・・・やっぱダメかもしんないな・・・・。
俺があれこれ思考しているうちに、弥栄はシャツのボタンを外し始める。
「弥栄、やっぱやめたほう良くない?俺、邪魔しないように向うに行こうと思ってた とこだし。」
「なぁ・・・やさ・・・・ ・・・・っっ・・・・!!」
熱い手が胸元に触れ、首筋に押し付けられた弥栄の唇に思わず反応してしまう。
ビクリ、と背が撓った。
やだなぁ、慣らされるってこういう事なのかなぁ。
「やめない。確かに仕事も切羽だけど、成海に対しても切羽だから。気付いてたか? もう一週間以上も久しぶりなんだけど?それなのに、自覚ないかのように視線注がれる 方の身にもなれよ。」
「・・・・弥栄・・・・本当に余裕ないんだね・・・・」
珍しい。横暴な弥栄など、もう今後見れないんじゃないだろうか。
「んーーーー、・・・1回だけだからね?制限時間30分内。それ以上は俺、弥栄を蹴って でも逃げるから。」
「どうだか?逃げられるとは思えないけどな。・・・いつもの通りだと。」
ニヤリと弥栄が笑う。何か・・・何か分かんないけど、屈辱だ!!
「1800秒じゃキリ悪いし。2000秒だなV」
「何で秒に直すんだ・・・弥栄」
「今回の、テーマだから。」
「?」
「CMは一本15秒。その中で、どれだけの情報を詰め、かつインパクトがあるかが勝負。」
「・・・・・・俺とこうなった時くらい、仕事忘れれば・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・そうなんだけどね。」


翌日。
弥栄は死にそうになりながら、クライアントの下に向かった。
自業自得。

INDEX  †  1000  †  10000



20020309
ひどく暇になった(しかしやる事がないわけではない←やる気ない・・・人間失格。) 土曜の午後、仕事場。
私はまたこんなの書いてますが。バレたらどうする、自分!

というわけで、前回の1000ヒットの時と同じ彼らの甘話です。(笑)
名前・・・出してなかったもんなぁ。分からないかも。
次はまた、半年後くらいにでも。キリ良さげな数字の時、また彼らに見えたいと 思います。
・・・・もう少し、デザイン系の仕事を勉強しないとな・・・。分からん。(いい加減、全て 感覚で書くのもどうか。)
・・・・・・書きあがったら、誤魔化して書かなかった部分は「Egoist」に上げたいです。(苦笑)