『COUNT 1000』

俺の家から、彼の家まで、大凡1キロ。

胸の奥の蟠りを、・・・・それを、「蟠り」と言うのかは知らないのだけれど・・・・抱えながら向う。
自転車は使わない。1キロと一言に言っても結構あるのだけれども、俺は歩く。その距離を。
この蟠りを抱えて。

ピタリとその家の前で止まる。あと数歩。あと・・・・・・。
呼び鈴を押そうと思う。けれどもそれは少々憚られる行為だった。それは、いつかの終焉を思い出させられ、俺の心を乱した。

ピンポン。

鳴った音は家の中で響いて、俺の耳には鈍い音にしか聞こえないのだ。




返事のない家、何時まで待っても、幾ら押しても、声を出して呼んでも、ドアを叩いても。
焦げた匂いが鼻を突き始める。
呼び鈴を押した時には、夕飯のいい匂いだった筈だ。
「・・・・お母さん・・・・・」
どんどん。
「お母さん・・・・!」
どんどんどん。
「お母さん!!!!!!!!!」
どんどどんどんどんどんどん・・・・・・!!!
呼ぶ声が更なる恐慌を沸き上がらせて行く。庭の前に回ってみても、閉じられた雨戸の奥は計り知れない。
・・・・・・・幼かった自分・・・・・・・・・。




どたばたと駆ける音がした。
ガチャリ。
「ああ、良く来たな。」
呼び鈴を鳴らして5秒としないうちにドアが開き、彼は俺を迎え入れた。俺は安心する。
「さ、入れよ。」
彼は俺を手招いて、そして案内するように背を向けた。
俺はその背に抱き着いた。
「・・・・まだ・・・早いだろ。」
彼はそう言った。
俺は首を横に振った。彼の背に顔を埋めて、手を回して、そして動かなかった。
「大丈夫だよ。俺は、いつでも此処にいて、お前を待ってるから。絶対にスグに出るから。待たせたりもしないから。」
俺は首を縦に振った。
「大丈夫。絶対・・・・」
この世の絶対は、何処にあるのだろう?少なくとも俺はそれを持っている。此処に。




「お母さん!!!!!!!」
幼い自分。何もできなかった自分。
白い車の、明滅する赤いランプ。けたたましい音。それが、もう少しでも・・・後5分でも早く俺の家の前に着いたのならば。
きっと・・・・・・・。




「今日だったか・・・お前がこんなになるなんて、この日くらいだからな・・・・」
彼は俺に好きにさせたまま、そう言った。
「だから矢鱈、来たがったのか。・・・・・・・まぁ・・・・いいさ。そういう時は必要だから。」
台所から、グラタンの匂いが漂ってくる。
「・・・・おいしそうだな・・・・」
俺は、彼の背に埋めていた顔をやっと上げて言った。
「ポテトグラタン、この間食べたがってたろ。今、レンジに入ってるとこ。そろそろだな。」
「食べる。」
「いっぱい食え。お前の為に作ったんだから。」
彼は俺を振り返って笑った。俺はただ頷いた。


1キロ。
微妙に遠い。けれども俺はその道を歩きたいと思う。不思議と焦燥感はないのだ。
信じていられる。今迄だって、一度たりとて彼は俺を待たせた事はない。だから・・・・・・信じている。

彼は、ドアを開けた時の俺の顔が好きだと言う。
そして哀しいと言う。
とても嬉しそうに見えるのに、泣いているように見える時もあると言う。
それが・・・・何だか切ないと・・・・・。



彼は俺を抱き締めて、優しく包む。俺は恥ずかしくなって、顔を背け離れようとするのだけれども、 彼は離さない。
そうして何時ものように俺の髪に、キスを落す。
「・・・・早い時間じゃないといいのに。」
ふざけた様に、彼は言った。
「バカヤロウ!」
俺は言葉だけを乱暴に吐き出す。

♪ピッピッピッピッピッ

レンジの音が響いた。
「ああ、できたみたいだ。冷めないうちに、食うか。」
彼は俺の手を引いて台所に招き、テーブルにつかせる。
チーズの絡んだグラタンを自信たっぷりに運んでくると、用意していた皿に盛ってくれた。実際、彼の料理は美味しい。俺はそんな彼が好きだと思う。
向かいの席で微笑む彼に、俺が子供扱いされていると感じる。けれど、それすら心地よいと思う。
「・・・・グラタン・・・・本当に、子供扱いだよな・・・二十歳超した男にさ・・・」
美味いなぁ・・と思いつつもそんな事をぼやいてみる。
「食べたいって言ったろ。俺は願いを叶えてやりたいの!好きにさせろよ、それくらい。・・・・・・・ それに・・・・子供扱いしてるヤツ相手に、あんな事はしねぇけど?俺、子供には甘いからね。」
俺はグラタンを詰まらせ、咳き込む。顔が熱くなるのが分かった。
「・・・バ・・・・ッバカヤロウ・・・・ッッ!!」
「はいはい。野菜も食えよ、その海鮮サラダ、ドレッシングから作ったんだから。」
幸せだと・・・思う。




呼び鈴を押す一瞬の躊躇。怖いと未だに思う。それでも「押せるようになっただけ、進歩だ。」と彼は言う。俺はその言葉を信じる。
絶対。
俺はそれを持っている。あの日に無くした物を、彼は再び俺にくれた。
迎えてくれる家。温かいもの。




ピンポン。
階段を降りる音。駆け足の音。すぐに開くドア。迎えてくれる人。

ドアの開く瞬間、彼が顔を見せる時、俺がいつも、笑えているといい。

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― 20011005 ―
1キロという距離で責めてみました。(笑)
正直、1日4.5HITがせいぜいのサイトです。だから1000は凄く遠く感じているのでとても嬉しいです。 まぁ・・・実質的には1千人の方が来たわけではなく、「更新」とか、ページの「戻る」でもカウントが 増えてしまうようなので、かなりアテにならんのですが・・・。(自分でも踏むし。笑)
でもとても嬉しい。
ダラダラとこれからも書いていきたいです。ほそほそと。
・・・・相変わらず暗いですが〜@根暗なのか・・・それとも幸せ過ぎるのか・・・・。(あう@)