『 Birthday Happy 』





「お前、おかしくないか。」
思わずそう聞いた。
いや、ずっとおかしいとは思っている。何せ、俺とこんなに長く付き合うヤツも 初めてだ。大概は俺に着いて来れなくなるのが通常だ。



「なぁ、ホンットーに永樹は俺のこと見てるか!?」
「永樹って、よく分かんないよね。だって、遊びに誘っても来ないじゃない。 無理に付き合ってない?」
「もう、いいよ。」
そんなような言葉を、片手で足りるほどの人数からだが、聞いた。
付き合った相手だけじゃない。クラスメイトからも似たような事を言われる。
「誰も好きになれないんじゃねぇの?」
「片城君ってかっこいいけど、付き合うって感じと違うのかもね。」
とか。
中身と外見のギャップというのだろうか。その辺は自分の事だから分からない。
「まぁ、アコガレはアコガレでいたほうがいいって事か。」
そう言ったのは、前付き合ってた人だった。

俺だって別に、全く好意のない人間と付き合うほど暇ではない。
ただ・・・・途中で飽きるのかもしれない。
「俺は?俺の事も飽きる?それでもいいから、とりあえず付き合ってみてよ。」
そんな事を自覚し始めた俺に、敦也は言った。
「俺、片城が今まで付き合った人達の事は知らないよ。俺は普通の人間だし、 片城の好みとは違うと思うし。でも、俺からは振らないからさ。少しでも俺に 付き合ってもいいと思ったら、試しでもいいから・・・・・」
いつもの天真爛漫さなどは影を潜めたかのように、歯切れの悪い言い方。
そんなに親しかったわけじゃない。寧ろ、ただ一年の時クラスメイトだっただけだと 言っていい。必要最低限の連絡事項以外を、俺は話した記憶がない。
敦也の周りはいつも人がたくさんいて、迷うことなく光の中を歩いている。そんな人間が、 俺とそう釣り合う筈もないから。
そう、思っていた。

あの時、目の前の敦也は顔を真っ赤にして、目をしっかり見て来た。
それに耐えられなかった俺が、俯いたんだった。
「・・・・・・・分かった。」
一言、俯いたまま答えた事を、未だに覚えている。



高校も二年になった時分の俺は、いい加減恋愛というものがバカバカしく思えていた。
5人目と別れた時、さすがに自分に嫌気が差したというのもあるし、面倒になった というのもある。
それでも、彼とは長く続いたほうだった。4ヶ月、という期間ではあったけれど。
女の子とは二ヶ月以上持った事がない。
「大切にしてやんないとね、不安になりやすいんだよ。」
とは、少しませた中学の頃の同級生の言葉だ。
「自分の時間を割かれて、電話毎日。やってられない。」
「お前、それ沢谷のこと嫌いって言ってんのと同義だろ。・・・・・かわいそうだなぁ。」
中学の頃、初めての彼女は”沢谷”といった。同じクラスで、同じ学級委員だった。
接点があったとすれば、ただ、それだけだ。
彼女とは、一ヶ月持たなかった。



(・・・・・まぁ、大人だったからな。羽柴は。)
・・・・・5人目。高校に上がってから付き合い始めたのは、数学教員だった。
別れたのは恐らく、俺に問題があった。恐らく、というよりは「やはり」と言ったほうが的確 だろう。
その羽柴も、俺が二年に上がる年に転任して行った。そのときの言葉が、
「まぁ、アコガレはアコガレでいたほうがいいって事か。」
だった。
大人だった羽柴は、言いたい事をはっきり言えなかったのだと、今なら思う。 そしてやはり、俺は彼に恋愛をしてはいなかったのだと。そうも、思う。
目の前の、何だか元気のない人物を見ていると。


「お前、おかしくないか。」
俺が意を決してそう聞くと、敦也は項垂れた首を上げた。
「おかしい?俺が?」
覇気のない顔が、俺をまっすぐに見る。やはり俺は視線を逸らす。
「おかしくないよー?うん。全然」
俺の部屋でダラダラしてるのは相変わらずのことだが、敦也の周りの空気が何か違う。 淀んでる。
「・・・・・・なら、別にいいけど。」
突っ込めない。俺はいつもそこで引いてしまう。それを「冷たい」と言ったやつもいた。
本に落としかけた目を、敦也に向ける。無理してるのではないか、と考える。 「俺からは振らない」と、敦也は俺に告白してきた時に言った。それをくそ真面目に守ってるん じゃないだろうか。本当は・・・・・・
「あああああ!!やっぱりダメ!俺、こーいうの性に合わない!ぜんっぜんダメ!!」
突然、敦也が吼えた。頭を抱えて、円卓にそのまま打ち付けるように首を上下している。
「・・・・・・・・・・敦也、円卓が壊れるだろ。」
「うわ!何ソレ!!冷たっ!冷たいよ、永樹!夏にまさしく水打つ冷たさ!!」
「何、バカ言ってんだ。」
「バカはいつもの事だろー!?今更だよ!永樹こそおかしいよ!!いや、そうじゃなく!」
・・・・・・夏の暑さに、頭を更にどうにかしたんだろうか。
「永樹さ、気づいてた!?昨日!昨日自分の誕生日だったろーーーー!?」
「あ」
忘れていた。ああ、そうだ。敦也はイベント好きだった。
「言い出すのずっと待ってたのに!プレゼントをねだるんじゃないかと、ずっと半年前から 楽しみにしてたのに!!過ぎちゃってるし!!!!!!」
いつもなら、両親が適当に祝ってくれていた。でも、それも中学までだ。高校に入ってからは 俺の帰りが遅くなったり、塾に行ったりしていたので自然と消滅していた。
おまけに、母はおとといから叔父さんが入院したとかで、泊まりで実家のほうに戻っている。 父親が俺の誕生日に「おめでとう」など、・・・・・・あの人は恥ずかしがって言うわけがない。
ああ、もしかして昨日夕飯に寿司をとったのは、そういう事だったんだろうか。珍しいぐらいにしか 思わなかったが。
「携帯の電源オフにしてたろ!?すっごいすっごいかけたのに!!」
「何時だよ、それ」
「11時頃!いい加減痺れも切れたんだよ!!」
敦也は、結構気が長い。俺は初めてそう思った。
「いいそびれたじゃん!当日におめでとうって言う気でいたのに!!織姫と彦星だって 逢瀬の日だよ!何で俺ら普通に過ごしてんのさーーーーー!!」
ああ、また泣く。この際、俺の誕生日が七夕なだけで織姫云々は関係ないだろうが。
・・・・敦也にそれが通じるわけもないか。俺は肩の力を落として言った。
「なら、何で今更言うんだよ。」
「だって、今言わなかったらもう一生言えないじゃん。永樹、自分が年食ったのも知らないまま ずっと過ごすんだぁぁぁあああああ!!!!」
座っていたはずなのに、敦也はいつのまにか膝をついた状態で天井に向かって叫んでいる。
「・・・・落ち着け・・・・・・・」
年を重ねたことを気づかず、ずっと過ごすなどそんなことはないだろう。
「だって、だって。もう、この年の祝いはこの年にしかできないんだよ!?それって凄い貴重な モンだよ!!なのに・・・・永樹のカバーーーーーーーーーーー!!」
今度はカバかよ。
「罰として!」
ビシッと敦也が俺を指差す。
「俺にプレゼントをねだりましょう!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
は?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「何だ、ソレは。」
「いいからねだってよぅ。俺、ずっと楽しみにしてたんだから!ねだってーーーー!!」
「暴れるな。床抜ける。」
「抜けないよ!俺、最近ちょっと痩せたもん!!永樹ほどじゃないけど!」
「何で俺の体重の増減を知ってる。」
「ちょっと前、抱えたから!」
威張るように、敦也が言った。
「・・・・・いつ・・・・・・・?」
俺の声は、自分でも予想外なほど低くなっていた。敦也が途端にビクリとする。
「先週。永樹、酒飲んだ後に倒れただろう。」
思い出した。敦也が酒の飲み方を教えてやると言って、酒瓶を持ってきた時だ。敦也はあの後 「永樹!!永樹は酒禁止!!俺以外の前で飲んだらダメ!絶対だめ!!!」と、執拗に言った。 理由は言わなかったが、俺も記憶が余りないので嫌な予感はしてた。
「俺、何もしてないからね!?ただ、ベッドまで運んだだけだし!」
弁解するあたり、何かあったんだろうとは思う。
「いいから!!いいからおねだり!!!」
折角バイトして、金も少ないけど貯めたんだから、と敦也が話を元に戻す。

言われたところで、俺は欲しいものなどない。
「別にいらない。おめでとうって言ってくれんだろ?それでいいよ。」
俺は極力目を合わせずに言った。こんな言葉を吐くのも、酷く恥ずかしい。敦也の納得いかない! って顔が、目の端に映る。
本当に、ないのだ。何も。これを人は満たされているとか言うんだろうか。それとも欠けていると 言うのだろうか。
「じゃぁ、俺、どうしたらいいんだよ。おめでとうって、それを・・・・残したいのに。受け取ってくれな かったら、俺、永樹に何も残せないよ。永樹に・・・俺、すぐ忘れられちゃうよ。」
「ああ!?」
敦也の言葉に、俺は思わず眉を顰めた。
「お前、何言ってんの?モノがないとお前のこと、俺が忘れんの?そんな単細胞じゃねぇよ。 お前こそニューロンがどうかしてんじゃねぇの。」
「ニュ・・・・・?だって、永樹俺といても楽しくないだろ?邪魔じゃないの。」
「誰がそんなこと言ったんだよ。勝手に決めるな。」
パァッと敦也の顔が緩んだ。その余りの変化に、俺のほうが拍子抜けしたほど。
「永樹、大好き!」
そう言って、円卓を踏み越えて俺を腕に納める。
「な・・・・・・っ!!」
ってか、コイツ!また背、伸びただろ!!何か・・・・位置が違う。(頭の)
一通り抵抗してみたが、敵う訳もなく。仕方なくそのまま顔を上げずにいた。
何故、敦也は簡単に好きとか言うんだろう。敦也がバレンタインにチョコを貰わなかったわけ じゃないことくらい、知ってる。
きちんとホワイトデーにお返しをして、丁寧に断っていたことも、知っている。
何故、俺に付き合ってるんだろう。何で・・・・半年以上も・・・・・・・・。
「永樹。」
「あ?」
「明日、帰りに夕食行こう。俺奢るから。それならいいだろ?」
「・・・・ああ。」
「美味しい洋食屋見つけたんだ。パスタとか、すげぇ美味いの。」
「・・・・・・・・・」
一瞬、俺は敦也とその場所に行った相手に嫉妬を覚える。
「敦也。」
俺は顔を上げた。
「永樹・・・・顔、真っ赤。」
ニヘ、と敦也が笑う。悪戯っ子みたいな笑みだった。
「い・・・・言うなぁっ!!」
また俯いてしまう。ああ、くそ!
俺は敦也の頭をグイっと引っ張った。それから一瞬だけ唇を重ねて、すぐに下を向いた。
両手で敦也の服を掴んで、更に赤くなったであろう顔を隠すために。
「・・・・・・・永樹。顔、顔・・・みたい。」
敦也が俺の頭をやんわりと包む。俺はひたすら首を横に振った。
「俺、笑わないよ?なぁ、永樹。」
酷く、優しい声。俺の性格を知ってなおそういう声をくれるのは、もう・・・・・・。
俺の頬を包んで、少し屈む。俺は視線を上げられない。敦也を見ることができない。
「それでいいよ。永樹は、永樹でいいよ。俺、ちゃんと分かるようになるから。」
泣きそうに、なった。俺は目を閉じる。そうしないと、溢れそうだった。
ああ、そうか。こういう事なんだ。
悪いことをした、と思う。沢谷にも、羽柴にも。俺に付き合ってくれた人たちに。
俺は、好きという感情を履き違えていた。好意というものを。
・・・・・こういう・・・こと・・・・・・・・。


持て余しすらする感情を、初めて今。
なくしたくないと、そう思った。


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*******************20020708*************
ハイ。七夕・・・・でした・・・・。
自分が忘れていたことすら、ネタに変換してしまいました。ああ、おかしい・・・。本当は 花火が出てくる筈だった・・・・・。
全然違う話になったんですけど。甘すぎて、書いてる私が恥ずかしいんですが。 いや、楽しさもあるといえば、あるんですが。(微妙)

永樹に酒をなれさせようとした敦也のエピソードは、書けたら次あたりで敦也に語って 貰おうかと思います。敦也はベラベラ喋るでしょう。

そのうち羽柴は出るかもしれません。永樹争奪戦。(勝負になりません)
二人しか登場人物がいないっつーのは、楽なんですけどね。

相変わらず一発書きで、推敲の欠片も・・・・。読みづらかったらすみません@