『正月LOVERS』

「あけましておめでとーございます!」
階下で、やったら元気な声がした。母親が何かを受け答えして いる声が聞こえる。
「永樹!敦也君来てるわよ。降りてきなさい。」
ああ、やっぱり。
俺はおざなりな返事をして、コートとマフラーを手にした。ドアを開けて 階段を降りるとすぐ玄関だ。そしてそこには想像した通りの顔をした敦也が、 大手を振って俺を迎えた。
「おめでとー永樹!初詣行こう!!」
「敦也・・・・・何故わざわざ混んだトコに行きたがるかな・・・お前は。」
と言った所で、ゴツ、と後ろから拳骨が飛んだ。
「いいから、行ってきなさい。あんた毎年そんな事言って、お参りに行かない んだから。偶には塾ばっか行ってないで、息抜きもいいでしょ。じゃ、よろしく ね。敦也君。」
「はぁい。」
元気よく母親に挨拶して、敦也が俺に向き直った。
「大丈夫だよ。もう三が日過ぎてるし、近所の神社に行くだけだもん。そんなに 人もいないって。」
やけに上機嫌な敦也が、玄関の扉を開けた。外へと続く道を。



確かに三が日を過ぎた神社は、人通りがまばらだった。寧ろ殆ど人がいないと 言っていい。俺と敦也を入れても境内に10人いない。
元旦から二日にかけては、かなりの数の屋台が出ていたのだろう。設置されている ゴミ箱には溢れるくらいに包み紙や串やパックが放り込まれていた。ゴミ収集車が 来るのは明日からだから、片付けもまだ済んでいないようだった。
屋台が参道の両脇にあったのだ、という痕跡だけ残して閑散とした境内に、俺は 幾分かほっとすものを感じる。元来、人ごみは余り好きではない。
「な、言ったろ?永樹、人ごみを理由にして本当は面倒なんだろー。別に祈らなく ったって受験も困らないんだろうし。・・・俺には必要だけど。」
ニヘ、と敦也は悪戯めいた笑みを浮かべる。
「ほんとは、初詣を口実に永樹と出かけてみたかったんだ。いっつも俺が行くと 家にあげるだろ?あんまり一緒に出かけた事、ないからさ。」
言いながら、敦也は幸せそうにした。俺は何だか恥ずかしくなって、思わず俯いてしまう。
「な、ついでだからきちんとお参りして行こう。小銭ある?」
「・・・ああ、それくらいなら。」
敦也はスキップでもしそうな勢いで賽銭箱に走ってゆく。踏みしめた砂利の音が 細かく鳴った。敦也の素直さに、俺は気圧されながらその後を追う。
「・・・全く、羨ましいよ・・・・・。」
苦笑が洩れる。
「早く、永樹!!」
手招く敦也に、俺も少し歩幅を早めた。

男神と女神の社が並んでいて、どちらにも賽銭箱が置いてある。二社共に賽銭を済ませ、 俺は何となく空を見上げた。快晴。でも、肌を突き刺す寒さは一月のそれだ。
「寒い?」
「あ?・・・・ああ。大丈夫。」
「知ってる?ここの紅葉、結構有名なんだって。秋になったら来て見ようよ。」
敦也が指差した一直線上に、紅葉の木がある。鳥居を挟み込むようにして両脇に植えられた 大木は、今は寂しくなった枝を空に向かって伸ばしている。 「もう秋の話か?まだ大分あるぞ。」
俺は些か呆れたように返答した。それでも敦也は臆する様子もなく、
「うん。じゃー。春にはまたお花見しような!」
と満面の笑みで言う。
「・・・・まだ一月だってのに。」
そう言った俺の声が聞こえたのか聞こえないのか、左手にある社殿のほうを見て急に 駆け出す。
「おみくじ!!永樹、おみくじ引こうvv」
100円を入れると、籤が出てくるようになっている自動おみくじ機を、敦也は嬉々として 引く。出てきた結果を見て顔を顰めたり、一喜一憂している。
恐らく元旦には開いていたのだろう。今はもうピタリと閉じられている売店は、正月 飾りなどが売られていたに違いない。俺はヒタと閉じられた木戸を見ながら、出てきた 籤を開いた。
「永樹、どうだった?」
「良くもなし、悪くもなし。」
言いながら俺は、敦也のほうに歩んだ。社殿の影にある木の枝におみくじを結ぶ。日が 当たらないそこは、少し気温が下がっているようだ。俺は肩を竦めた。
「あー、やっぱそういうもんだよねー。にしてもちょっと堅い言い回しで、俺良く 分かんないとこもあったよ。あーでもね、恋愛、『良い人幸せあり』って書いて あったよ!良い人って、永樹の事だよな、この場合vv」
カーーーーーっと顔が熱くなるのが分かった。寒かった筈なのに、顔だけが火照った のがあからさまに感じられた。そんな俺に気付いているだろうに、敦也は気にする 風もない。・・・・・そういう、飄々としたとこが、そういう、素直なとこが、俺は ・・・・・・・羨ましい、と思う。
「去年も色々あったけど、今年も色々あるだろうけど。よろしくな、永樹。」
言いながら敦也が手を差し出してくる。俺はマフラーに顔を埋めるようにして、その手を 握り返した。上目遣いで見ると、敦也が悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。
「・・・・・わ・・・・・・!!」
そのまま手を引かれて、俺はバランスを崩す。
「幸せ〜。」
敦也が俺の背に腕を回した。
「バ・・・・ッ・・・バカ敦也!!見られたらどーすんだッッ!?」
「大丈夫大丈夫。社殿の影で、俺らの姿なんて回り込まないと見えないって。」
もがく度に、踏みしめた砂利が小さく音を立てる。
「あ・・・敦也・・・・!!」
咎めるように、言う。それでも敦也はお構いなし。
「もうちょっとだけ。・・・俺だって、偶にはスキンシップしないと不安になるんだから。」
「お前の、どこが、不安だって・・・!!」
「永樹が、目を合わせてくれないとか。」
「・・・・っ・・・・・ひ・・・卑怯者・・・・・」
「冗談冗談vでも、永樹あんまり言葉にも出さないし、態度にも出さないし。こういう時の 我侭は・・・駄目?」
尻尾の垂れた犬が、目の前にいる錯覚を起こす。敦也の(犬)耳が、下を向いた気がした。 俺はそういうとこに逆らえない。
「・・・・別に・・・嫌では・・・ないけど・・・・・。」
外だっていうのが、何か問題あると思うくらいで。
「良かったv」
そう言って、更にぎゅう、と力が込められる。俺の頭が、敦也の肩口にある。いつの間に こんなにでかくなったんだコイツ、と思った。去年の今頃はまだ"若干敦也のほうが背が高い"、 程度だった。それがもう、5.6センチは違う。俺だって伸びた筈なのに。何やら 敦也が相手なせいか、子供じみた理不尽な感情を持ってしまう。
ほんの少しだけ敦也の肩に頭を預けた瞬間、足音と話し声が聞こえた。俺はつい、 思いっきり敦也を突き飛ばしてしまった。
敦也がぽかんとした顔で俺を見ている。
「わ・・・悪い・・・・!」
俺は言ってから敦也に背を向けて駆け出した。逃げ出す必要はないと分かっていた。 けれど、色々な感情が交じり合って収拾がつかなかった。ここで背を向けたら敦也が どう思うかとか、それも分かっていた筈なのに。なのに・・・・。
「永樹!」俺を呼ぶ声が、後ろからした。途中で三人組の参拝客と擦れ違い、俺は彼女らが 振り返ってこちらを見ている視線を感じながら、敦也が追ってくる事を想定していた。
意に反して追ってこないと分かったのは、鳥居を抜けてからだった。



ピッ
パタ
・・・・・・・・・・・・・・
パタ
ピッ
・・・・・・・・・・・・・・

何度目かの携帯の開け閉めを繰り返した。画面を見て敦也の番号を選び、また折り畳む。
(あーーーー・・・・もぅ・・・・・・)
煮えきられない自分が酷く嫌いだ。悪いのは俺だ。そんな事は分かっている。
(何で追ってこないんだよ。馬鹿野郎!!)
的外れな怒りと焦燥。
連絡もない。
時計の針を見ると、午前12時をとうに過ぎていた。幾らなんでもこれからでは常識外な時間だろう。 俺はそう思って携帯を枕元に置いて、布団にくるまった。リモコンでヒーターの電源を オフにして、漫然としないまま俺は眠りについた。


ピルルルルル
携帯電話の音で、俺は目を覚ました。
ピルルルルル ピルルルルル
電話は無遠慮な程、夜の闇に響く。何かの異質。堅い機械音は、まだ目の冴えない俺を 覚醒に導く。
「・・・・・はい・・・・・」
携帯をとりながら時計を見ると午前1時13分。寝てから一時間 たっていない。
「・・・・・・永樹?・・・・・ごめん・・・・」
酷く控えめな声が、電話向こうでした。
「敦也・・・。何だ、こんな時間に。」
そういう事を言いたかったわけじゃないのに、俺は自然と我を張っている。
「・・・・ごめん。」
様子がおかしい。俺は訝しく思うが、問い質せないでいる。何か聞こうと思って、 謝ろうと思って・・・思っているうちに敦也のほうが先に口を開いた。
「・・・・・・いたい。」
「あ?」
「逢いたい、永樹。」
最初はっきりとしなかった声は、今度はきちんとした音を持って俺の耳に届いた。
「お前、時間考えろよ。今何時だと思ってる?」
「・・・・1時15分・・・・」
「午前のな。」
「ごめん・・・・・・。」
敦也が再び謝って、しばしの沈黙が訪れる。俺は少しだけ深く息を吸った。
「・・・・・昼間は・・・・悪かった・・・・・。」
俺は唐突にそれだけをやっと言えた。電話向こうの気配が、少しだけ変わった のが分かる。
「・・・永樹ッ・・・俺、本当は今永樹の家の前にいんだ・・・・ッ」
俺は少し面食らって、ベッドから出ると、カーテンを開いた。暗い筈の夜はそれでも街の明か りを反射させて、遠くで光っている。門柱の前も、街灯でぼんやりと明るい。その薄い明かり に照らされて、黒い影があった。一見して、敦也だと分かる。俺の部屋の窓をじっと 見上げている。
「・・・・敦也・・・・・」
俺は携帯電話を切った。ピッという電子音だけがして、敦也と俺を繋いでいたものが、 一瞬で無に返る。それでも敦也は窓を見上げたまま動かない。
俺はカーテンを引くと、パジャマの上にコートを羽織った。・・・・・酷い脅迫だ、と強がりを 思いながらも、敦也のこの行動が、昼間の自分のせいだとはっきり分かり始めていた。

カシャン
門扉の閂を外し、俺は一身にこちらを見ている敦也の視線を避けながら、その前に立った。
「・・・・・・・ごめんなさい・・・・・・・・」
限りなく殊勝な態度で、敦也が項垂れる。俺の罪悪感が心中を埋めた。
「いや・・・俺が昼間・・・・」
「・・・・・・・・・!?・・・・・っ・・・・・敦也・・・・・!?」
ぎゅう、と抱きすくめられた。敦也から視線を逸らし続けてた俺は、敦也がどんな顔をして いたのかすら分からない。
「・・・ごめん、ごめん、ごめん・・・・・・!!」
「・・苦し・・・・っ・・・敦・・・・・っっ」
「だって、我慢できなかった。俺、だんだん我侭になる。永樹が俺を見てくれなくっても いいから、俺が見てればいいと思ったのに、なのに最近はそれだけじゃ不安なんだ。 ・・・・永樹の背中を見てて、追いかけたかったのに足が竦んだ。俺、嫌われたくない。 永樹の、側にいたいんだ!」
俺の耳元で、敦也は声を押し殺すようにしてそう言った。俺は抵抗の力が抜けるのを、 他人事のように感じた。冷えた空気が肌を突き刺してゆく。それを感じさせなくなる程の 感情が、どこに向いているのか俺は分かってはいた筈だった。
「敦也。」
「・・・ごめん。もう少し、もう・・少し・・・・・」
離すまいとして、敦也が力を込める。いつの間に俺はこんなに小さくなったんだろう、と 場違いな事を思った。何で敦也は俺を置いて一人ででかくなったんだろう。
「敦也。俺は、嫌ってなんかいない。」
「・・・・・うん。」
分かってるのか、分かってないのか、敦也は返事をした。
敦也の力が徐所に抜ける。俺は逆に、敦也の背に腕を回して、そして顔を真っ直ぐに見た。 目線を逸らさず、真っ直ぐに。
「で、俺は、敦也が・・・・好き、だから。だから・・・俺だって・・・一緒にいたいとは、 思ってる。」
言い終えてすぐ、俺は視線を逸らして下を向いた。これ以上は耐えられなかった。
「・・・・永樹・・・・」
驚いたような間の抜けた声。敦也のほどけかけた腕が、再び力を持つ。明るい声が少し 頭上でする。
「永樹、俺も大好き!ね、キスしていい?」
「〜〜〜〜・・・・・・ッ・・・・・んなの、聞くな!」
「うんv」
敦也はきっといつもの子供みたいな笑みを浮かべてる。それは容易に想像できた。敦也の肩口 に顔を埋めたまま、俺はバカみたいに自分のセリフの気恥ずかしさを反芻していた。
敦也はゆっくりと身長分、少しだけ屈んで静かなキスを落として満足そうに笑う。その顔を 見て、ドキリとした。俺の予想に反して、やたら大人びた顔をしていたから。
「永樹。ごめんな。無理、言わせて。」
そう言って、いつもより少しだけ、敦也は大人な顔で笑う。
「・・・・・泊まってく、か・・・・・・?」
「いいの?」
「いいも、悪いも・・・・・ヘクシッ・・・・」
責任の一端は、どう考えても俺にあるんだろうし。
「ぎゃ、永樹が風邪をひく!!」
オロオロとしながら、敦也が俺の手を引いた。
「今年の初夢はー、富士山見てたら鷹が飛んできて、空は快晴で。傍らには竹と梅が生えてて。 俺は永樹と二人で茄子を食べてるに違いない!!」
と、敦也が大馬鹿な事を言ってるのを、何となく熱くなってきた頭で聞いた。


案の定、俺はその後二日寝込んだ。

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助けてください・・・・・・・。凄いです・・・・。これ、直しいれて三度目のものです・・・・・。
この場合「直し」っていうのは、最初からストーリー変えて練り直しって事です・・・・・・・。普段 そういう事しないんですが・・・・。(あ、でも途中から直し2回目のものが引っ張られて来て ますが)
いい加減こいつらもネタ詰まりですか?そうですか・・・。我の貧困な怪獣脳では限界地?(言葉 おかしいです。)
ああ、でもどうしても先生出したいよぅ・・・。出して一波乱させるまではまんじりとしない んですがー!(いや、別に波乱にはならないですが。多分。)


というわけで。

あけましておめでとうございます。

昨年一年。本当にお世話になりました!普段かかないような甘々なものから、「亡骸」 みたいな訳分からないシリアスまで。エロは表に置かず、面倒なパス申請だというのに・・・・。 わざわざ申請下さった方々にも感謝です。

よろしければ今年も、愚者・更科をお願い致します!