『海老鯛』

まさに晴天の霹靂。
俺の傍らにいるのは、至極綺麗な顔。
不機嫌な時、少々吊り目のその人は、目を細めて眉を顰める。その姿すら綺麗。
俺は、怒られても幸せだと思ってしまうのだけれど、できれば怒らせたくはない。勿論。
だって、やっぱり笑ってくれていたほうが綺麗だし、かわいいし。言うことないもん。
それに、相手が幸せっていうのが嬉しい。不機嫌だとスグに別れたがるし、一緒にいられる 時間が短くなるんだよね。早足になるし、用事はさっさと済ませようとするし。こっちの 話は聞いてくれないし、返答も当然のようにしないし。勝手に回れ右もするし。
ただ、その場にいる事すら許してくれない。触れなくても何でも。
ギロリとこっちを睨み付けて、そして
「まだ帰らないのか?」
って聞かれる時の、バツの悪さといったらない。俺は大概バカだから、頷いて帰らないの だけれど。そうすると、更に不機嫌なんだよね。


そして、今日は一体なんで怒っているんだろうか・・・・・。
正月も三が日を過ぎてから、俺は彼・永樹(えいき)の家を訪れた。初売りも終わり、親戚回りを 終え、やっと落ち着こうという4日。
家には永樹以外にはいない。というのも父親は既に仕事初め、母親も買い物に出かけている為だ。
玄関のベルを煩い程に押して、やっと、永樹は出てきた。
「・・・・・敦也か・・・・」
そう言って招きもせず、ごく自然に戸を閉めようとするのを足で制した。僅かな隙間に差し込まれた 足に、永樹は一瞥をくれた後にため息を吐いた。
・・・・・今迄にないくらいの不機嫌を感じる・・・・・・。

クリスマスの時は割と機嫌が良かった。俺のおねだりも聞いてくれたし、ちょっと怒っていた みたいだったけれど流してくれた感がある。
それから年末に差し掛かって大掃除だ何だと、何かと忙しく過ぎて、やっと会えたのが今日だと言う のに、この不機嫌さは何だろう・・・・。何かあったんだろうか。

永樹の部屋まで着いて来たはいいものの、ベットに寄っかかって本に目を落としているだけで、 一向にこちらを見ようともしない。俺は会えるのを凄く凄く楽しみにしていたのだけれど。
だって、一週間以上も会っていなかった。でも、馬鹿を承知で言うのなら、俺は目の前に永樹が いる事にホッとしている。無理にでも側にいたいというのは傲慢だと思うけれど、それでも 嬉しい。やっと見られた顔だから。

不意に永樹が顔を伏せた。体育座りの膝に、顔を埋めるようにしている。
「・・・・?どうしたの?永樹?俺がいるから??気分でも悪くなった?」
そう言いながら、俺は俺と永樹の間にある小さなちゃぶ台に手を付き、その肩に触れようとした。
すぐにそれは振り払われる。永樹の爪があたって、痛みが走った。
「訳、分かんないよ、永樹。何怒ってるんだよ?俺何かした?イブの事、まだ怒ってんの?」

クリスマスイブ、俺は半ば無理矢理永樹にキスをした。それは悪かったと思ってる。だから謝ったし、 それに対して永樹だって許してくれた筈だ。反省して、それ以来永樹にだって触れてない。
これでも、物凄く我慢しているのに。

「俺、別れないからね。それに永樹がそういう態度とったって、今日はここにいるもん。」
俺の頬は膨れ面を、まさに体現している事と思う。もう、本当に分かんない。
唐突に哀しくなってくる。永樹は本当に綺麗な人だ。俺には分不相応な事くらい、とても とても自覚している。まさに赤エビ(しかも市販のむき海老。冷凍もの)で、優雅に泳ぐ鯛を釣った 程の奇跡だ。
取りたてて取り得もないし、はっきり言って全て標準か、それ以下な自分。容姿も勉強も運動も。 性格に至っては子供っぽいのは否めないし、いい加減永樹も付き合っていられなくなったのかも しれない。
でも、俺は永樹が好きだ。頭脳明晰で、偶に分からない四字熟語が飛び出す口元も、いつも 堅く見える顔が、笑うと凄く柔らかく見えるとことか、バカな事する俺の頭を軽く撫でる仕種、 その時見せる「しょうがないな」っていう顔とか。
初めてキスをしたイブの日、慌てたように目を伏せ、顔を赤くしていた。普段の永樹には見られない 表情で、凄くドキドキした事。
何だか、だんだんと哀しい。自分の顔が、歪んでくるのが分かる。ああ、これ以上子供っぽいとこ 見せたら、本格的に嫌われる。分かってるのに。

「・・・・・バカ・・・・・・」
言ってしまった。こうなると、もう止まるもんではない。
「永樹のバーーーーカ!!俺、読心術なんて持ってないもん。分かんないよ!!会えるの、 すっごく楽しみにして来たんだから。怒ってるのはいいよ、誰だって不機嫌な時あるのくらい、 俺だって知ってるから。でも、ここにいるのも駄目?そこまで余裕ない??俺がいたら 邪魔?本も読めない?何で黙ってんの?口も利きたくないくらいに嫌いになった?でも・・・・ 別れてなんかやるもんか!!ザマミロ!!永樹のバカバカバカバカバカーーーーーーー!!!!!!」
言って、俺は泣き出した。我ながら情けない。永樹はきっと今頃呆れてる。あの綺麗な顔を 歪めて、瞳を細めて眉を上げて、怒っているに違いない。
永樹の手が、俺の頭に触れるのが分かった。不機嫌なくせに、どうしてこういう事をするんだろう。 いっそのこと突き放してくれればいいのに。そしたら俺だって、諦めるかもしれないのに。

俺は、触れてくる永樹の腕を掴んだ。ビクリと永樹の身体が強張ったのを感じた。
行儀が悪いと知りながらも、俺はちゃぶ台に乗り上げて永樹の背に腕を回して抱き締める。 滅茶苦茶にしたい気分だった。泣いて、興奮した勢いと、頭がごちゃごちゃしてて、ただもうどうし たらいいのか分からない。
ろくろく永樹の顔も見ないまま、顎を押さえつけて強引に唇を重ねた。
「・・・・んぅ・・・・・っ!」
トン・・・っと胸の辺りに何度か軽い衝撃を感じた。永樹の抗議。
もう、駄目だろうな、修復なんて、できない。
そう、思った。
何度かの抗議、その後、ゆっくりと永樹の腕が俺の背に回ってくる。
驚いて、思わず顔を・・・・見ようとしたのだけれど、永樹は俺の胸に顔を埋めて首を横に振った。
「バカはお前だ、敦也」
涙声みたいだった。
「俺・・・が・・・どんな気持ちでいたか、知りもしねーくせに、自分・・だけ・・・会いたがってたみたいな、 言い方、しやがってっ!」
そこで一旦言葉を切って、息を大きく吸う。
「さっさと会いに来やがれってんだ!馬鹿!!」
伏せられているから、表情は分からない。けれど、耳が赤かった。永樹は本来こういう事を言わない。 クールな、そして大人っぽい印象があるから。いつも俺が子供子供してるせいもあって(と、永樹も 含め周りの友人が言うから、そうなのだろう)、我が侭を言うのは俺で、許してくれるのは永樹で。 そういう図式だったし、永樹は俺の事を好きって言った事ないから・・・・てっきりそんな事はないと 思っていた。
「凄く、嬉しい。」
「何、かだってんだ、馬鹿」
「馬鹿でいいや。ね、永樹、顔見せてよ。」
「・・・・ヤダ。馬鹿。」
ぎゅう、と腕を背に絡めて、意地でも顔を上げようとしない。これはこれで幸せなんだけど。
永樹は細っこい身体をしているけれど、いくらなんでも腕に納まるという程小さくはない。 けど俺がちゃぶ台に上がっている分、いつもより小柄に見える。顔を伏せているから、余計。
そっと、永樹の髪に触れた。いつもと逆だなぁ、何て思いながら。黒い髪は俺の脱色された髪と 違ってサラサラしてて、指に心地よかった。
首筋の辺りに触れると、ピクリ、と永樹が震える。
「触んな。馬鹿!」
「ごめん、気持ち悪かった?」
「違・・・ッ・・・・」
思わず顔を上げてしまったらしい永樹の顔は、本当に赤くて。俺は思わず
「かわいいなぁ・・・・・」
と呟いたら、足蹴にされた・・・・・。鳩尾クリティカルだった。あの体勢から良く・・・と思うほど。

俺は、腹の痛みを抱えたまま言った。
「今年もよろしく、永樹」
「誰が・・・・
言いかけて、それからまた顔を伏せて俺の前に来る。
「・・・・よろしく」
すっごく小さな声だった。
「うん、永樹」
俺は、永樹の髪にキスを落とす。永樹は抵抗してこなかった。
「鯛も、海老に恋する事ってあんのかなぁ」
「?・・・逆だってねぇよ、馬鹿」
「逆は、あるんだよ、永樹」
訝しそうにしている永樹に、俺は今年が良い年になるような気がしていた。

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*******************20010102*************
すみません・・・。推敲も何もあったものではなく。

クリスマス駄文の二人です。何だかイメージ変わってしまったり。
書いてて「・・・こいつら、何歳なの?」と思いました。下は高校、上は大学くらいかな。(範囲狭ッ) 16から22くらいかと思っているのですが。
甘です。甘味処の様相を呈して来た気がします・・・。ガフガフ。
今年は「屍」の完結を。是非。「カレイド〜」はもうちょっとゆっくりして行きたいものですが。
そして合間にzaregotoを交えつつ、カウンタの復帰も早めに対処したいですし。
「亡骸」もはじめたいし、メルマガ「ライフ・ゲート」も完結させたいです。
そしてこの、敦也と永樹のバカバカカップルキス止まりもまた書きたいです。・・・敦也が先に進む気が ないので・・・この二人このままかと。(気が無いというか、思い当たっていないというか。)
近くにドラ●もんとか、サザ●さんとか住んでいるので、きっと年は取らないでしょう。(笑)

では、皆さんにとって良い年となりますよう。
そしてご迷惑でなければ、引き続きお付き合い戴けたらならば幸いです。