『幸福喪失』

都祇(ミヤギ)と京(ケイ)は双子だ。
何もかもが一緒で、両親すら見分けがつかなくて、赤ん坊の頃は名札が識別の必須アイテムだった。
小学も中学も、誰も二人の区別はつけられなくて、やはり名札だけが二人の違いだった。
そして彼らは、別々の高校に通った。
性格も似てる。癖も似てる。好みも似てるから、服装も髪型も似てる。
「そろそろ面倒だよね」と思ったとこも一緒。
いい加減、間違われる事にもうんざりだったので、高校は別にしたのだ。しかし結局、街中でお互いの高校の友人に間違われるので、同じ事だと気づいたのは入学して三ヶ月程経った頃だった。
「こんな事ならいっそ、同じ高校で良かったよな。」
「本当だね。」
そう言って、とりあえず苦笑いする。

そんな二人は、恋人ができたのも同時期だった。
お互いがお互いを紹介して驚くのも無理はない。
相手も双子だったからだ。
ただ奈月(ナツキ)と秦茨(シンジ)は都祇と京ほどは似ていない。顔にある黒子の位置が違うので すぐに区別がつく。
左に泣き黒子があるのが奈月。口元にあるのが秦茨。

「な、俺らの区別つく?」
試しに同じ服を着て、二人の前に立ってみた。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
無言、無言。
と、唐突に奈月が片方に抱き付く。
「や・・・・ッ・・・・」
「奈月の浮気者ーーーー!!!!!!」
腕の中で顔を蒼白にしながら離れようとしたのが都祇。
奈月は派手に京からパンチを食らう。
「ハイ、こっちが京ねV」
悪びれもせず、奈月が京を抱き寄せる。
「な・・・何しやがんだ奈月のバカッ!!俺の都祇にーーーーーーッッ!」
再びパンチ。
「だってこうでもしなきゃ分かんねぇだろ。」
「「うぅ・・・二人とも本当に俺らの事好き?」」
奈月の腕と、秦茨の腕の中で、京と都祇は呟いた。



「思い出せない?」
二人は同時に首を横に振った。
目の前には自分たちの恋人だと名乗る、二人の男。
秦茨と奈月が、長身を屈めて顔を覗き込んで来る。
「「ごめんなさい。」」
同時に謝る。

事故にあったのは、1週間前だった。
家族で親戚のうちに出掛けた折、前を走っていたトラックの荷台からダンボールが落ち、避けようとして横転。 幸い後続車も対向車も少なく、惨事には至らなかったものの、昏倒した二人からは記憶というものが抜け出ていた。
外傷は殆どなく無事だったことに安堵した彼らも、これには頭を抱えた。
記憶がない。
それは、どちらが都祇でどちらが京か分からなくした。
両親もわざわざ毎朝二人を確認しないし、服装は違っていたものの、好みの似ている二人は服の貸し借りも頻繁に していて、良く分からなかった。
とりあえず学校にはその事を話し、各々それぞれに通ってみたものの、記憶がないのだから 話しにはならず、結局自分がどちらの学校に通っていたのかは分からなかった。
問題なども特に理解できないわけではないし、授業も普通に聞ける。二人の頭脳レベルも運動能力も 大差がない上、通っていた高校も同レベルなので授業の進みもそう変わらない。
判断する材料が全くないと言って良かった。
仕方がないので、今は適当に学校に通っている。どちらか都祇で京か分からない以上、名前も安易に 呼べないので級友諸氏は苗字で呼ぶことに徹した。名前で呼ばれるのは、都祇と京が嫌がったせいもある。
「どっちかわかんないのに、同じだからってどっちでもいい扱いをされるのは嫌だ。」
というのが二人の意見だ。


「これじゃ・・・何もできないな。」
ぼそりと秦茨が言った。
「俺らだけでも区別つけばよかったんだけどね・・・・・。さっき秦茨とも話したんだけど・・・・・お前ら、 ベッドの中での反応とか、癖も似てるんだよな・・・。」
「「な・・・・ッ・・・何でそんな話までしてんだよ!!バカバカバカッッ!!」」
ダブル音声は流石にキツイ。
「いや、悪い。別にどっちでもいいってわけじゃないんだ。俺は同じ顔で同じ反応でも都祇がいいし。」
「俺だって、どんなに似てたって京がいい。」
「ただ、どこまで似てるのかと思・・・・」
奈月がそこまで言ったところで、奈月と秦茨は二人からパンチを食らった。
「「バカーーーーーッッ!!」」
二人の泣きださん限りの表情に、奈月と秦茨もバツが悪そうにする。
「ごめんな。」
「ごめん。」
抱きしめたい衝動に駆られるのを我慢した。どんなに似ていても、京と都祇は 別人だ。どんなに同じ部分があっても、誰に見分けがつかなくても。
それは秦茨と奈月が良く知っている。
「あ、そうか。・・・・・・ちょっと、ごめん。」
不意に秦茨が思い立ったように立ち膝になる。そのまま、自分の前に座っている ほうを抱き寄せた。
「な・・・・・・」
腕の中のほうは両手を突っぱねて離れようとする。
「や・・やだ・・・・・何かヤだから離れろ!!!」
もう一人がそれに割って入るように、声を上げた。
「・・・・・お前が、都祇だ。」
秦茨は京を離すと、都祇のほうを向いて笑った。
「奈月パーーーンチ!」
その横面に、奈月がグーで殴る。本気ではないにしても、半分は本気が入っていそうな重さを感じた。
「いや・・ごめん。ごめんな、奈月、京。」
両腕で都祇を抱きながら、渋面と笑いが混じった複雑な顔を秦茨は二人に向けた。 泣き出しそうな京と、怒りと苦笑を交えた奈月が身を寄せる。
「これが、一番早いと思ったんだ。」
「ああ、反応が違うのって・・・そういえば、これくらいー。」
「でも・・・でも!!!」
「信じらんない、見分けつけろよバカ!」
「「本当に俺らの事、好き!?」」
そのダブル音声に、秦茨と奈月は笑った。




「ね、本当に俺のほうが都祇なのかな?」
「俺のほうが、京?」
違和感は特にない。奈月を好きだと思うし、秦茨を好きだと思う。
「でも・・もし、もしも、だよ。」
都祇が切り出す。
「俺も思ってた。」
京が答える。

もし、俺たちがお互い、相手の恋人を好きになってたら?

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「「まさかね。」」
だって俺は、こんなにも奈月が好き。
だって俺は、こんなにも秦茨が好き。


だってもうそれ以外は、俺らにも分からないんだから。


書き終わり・20030920*****