……うわ、うわ、うわ、なに考えてるんだ。こんなにすごい勢いで詰め寄ってくるなんて。

 ドアが開くと同時に、乗客たちは車内へとなだれ込んだ。
 身の危険を感じつつも逆らうこともできず、乱暴に背中を押されるまま車両の角へと押し込まれる。

 ……普段なら、こんなに押されないのに。
 少し不審に思い、そして納得する。
 ……やっぱりこの格好のせいだ。
 「男子の」制服のときはこんなに乱暴に押されなかったのに。いまのこの姿なら……。
 小さく溜息をつき、ガラスに映った己の姿を見る。

 そこにいるのは線の細い女子中学生。
 おろしたての壱中の制服を着た、ショートボブの内気そうな少女。

 ……これが「いまの」僕……なんだよな。
 確かに「とろとろしてないで奥に詰めなよ!」って言いたくなる感じだよな。
 ガラスのなかでなにか訴えかけるかのように目を潤ませている少女に、碇シンジは溜め息をついた。
 ……女性専用車両に乗るべきだったのかなぁ……。
 ガラスの中の少女がなんども首を横に振った。




碇シンジの選択






【サルベージ成功後:2日経過】

 「再構成のときに何らかの要因がはたらいたのは確か」Nervの技術主任がどこか歯切れの悪い口調で言った。「外的な要因というよりも……観測の問題というほうが適切かもしれないけれど」
 「その……よく……分かりません」付けたばかりのAカップブラジャーのストラップをブラウス越しに神経質にいじりつつ彼……碇シンジ……は訊ねた。
 「人物像って言葉があるでしょ」赤木リツコは言った。
 「……はい」
 「それ……ある人について別のだれかが抱くイメージは……その本人を形作る要素のひとつなの」
 リツコの言葉に首をかしげ、不安げに髪をいじった。
 「えっと……だれかが抱いた人物像が本人に『影響』するってことですか?」
 「ひらたく言えばそう。でも、もっと本質的なレベルの話だけれど」シンジのおずおずした口調に対し、リツコの言葉は明確だった。エンジンが掛かり始めたらしい。「エントリープラグのなかで消失したあなたをわたしたちはサルベージしたわ。でも、それは正確には『碇シンジという人物の再構成』と呼ぶべきものだったわけね。その再構成の素材として使えたのは、あなたが溶け込んだLCL……つまりあなたの生物学的な情報単位……と、あなたのパーソナルパターン。それから……」
 リツコの唇が少し皮肉げに歪んだ。
 「『碇シンジ』についての人々が抱いているもの、望んでいるもの。Aという人物の知る碇シンジ、Bという人物が望む碇シンジ、Cという人物が腹立たしく感じる碇シンジ。そういったもの」

 リツコはこう言っているのだ。
 碇シンジを知るものが彼に対して抱いている知識、イメージ。
 それらはお互い矛盾するものもあり、正しくないものもあり、また彼本人のみ知る「真実」とはかけ離れているかもしれないが、それらはすべて「碇シンジ」として投影され、彼という存在の一面となり、彼を構成する要素となるのだと。

 「でも、それって本当の僕じゃないわけでしょ?」
 「そうかもね。でも、それがそれぞれの人から見た『本当の碇シンジ』なのよ。だからよほどの違いでなければ矛盾にならないわ、わざわざ誰かについての細かな情報のすり合わせなんてしないでしょ。それに最大の補正要素として『本人の意志』が働くから。普通なら」
 ここでリツコは溜息をついた。
 「でも、あなたの場合、あなた自身が存在しなかったわけだから……」

 だから、再構成されるときにそれらの人々の意志が、思いこみが、理想が、高い優先順位で「新たな」碇シンジへ投影されたのだ。

 人々の「抱いている」さまざまな碇シンジ像が。
 人々が「かくあるべし」と望む碇シンジ像が。

 「だれかが僕が男じゃなくって、女の子だったらとか、女の子みたいだって思ってたんだ!」瞳に涙を溜めて彼は抗議した。「よけいな思考はシャットアウトするとか……できなかったんですか……」
 「もしシャットアウトしていれば、あなたはいまここに存在していなかったのかも」赤木リツコは言った。指でもてあそんでいた煙草をくわえ、火を着けて深く吸った。「パーソナルパターンだけではヒトの総体としてのディティルは再現できない。その細部を構成するのはたぶん他者の意識なのだわ。それらすべてがあなたというものを構成しているの。だからそれが欠けると、復元に失敗する。つまり、ヒトが存在するためには他者の目……それも多数の、多角的な観測視点が必要ってことなんでしょうね」
 碇ユイのサルベージ失敗の原因はそれだったのかもしれない。リツコは思った。あまりに強すぎる思念がひな形に大きすぎるゆがみを与え、だからユイではなくレイを作り出してしまったのだ。
 「そんなの、変です」少年は唇を尖らせた。それは桜色の花のつぼみを思わせ、その表情はまるでキスを誘っているようだった。「じゃぁ、もし僕のことをみなが忘れてしまったら、僕が消えてしまうってことですか?」
 「誰もが忘れてしまったら、それはいないことと同じじゃないかしら」
 端正といってもいい乙女の表情が蒼白になった。
 言い過ぎたかしら、Nervの技術主任は少し反省する。
 「大丈夫よ、いまはあなたが実存しているわけだから、あなたがそれを選択しない限り、そんなことは起きないわ。だけど、いまから男の子の肉体に戻るのは大変よ。もう一度溶けてもらうわけにはならないし……あら?」
 さらに蒼白になった少女がくたりと倒れ込んで、女博士は秘かに慌てた。



【4日経過】

 抵抗はしたのだ。こんな格好をすることには。
 揺れるリニアの窓に映る自分の姿に碇シンジは今日何度目かの溜息をついた。
 だが、結局それを受け入れてしまったのだ。
 いままでの男子学生服の代わりに、女子の制服を身につけることに。
 「気持ちは分かるけど、体型がほら、微妙に変わっちゃってるから」とミサト。
 確かにいままでのスラックスはウエストはずいぶん細くなっていたが、腰回りが妙にきつくなっており、シャツも肩はゆるゆるのくせに、ボタンを留めると胸が苦しいのだった。
 「男子のカッコウで女子トイレに行ったら不審者扱いされるわよ。あきらめなさい」とアスカにも言われてしまう(「じゃぁ男子トイレで」と言いかけたとたん、ミサトとアスカ、さらにはそこに居合わせた伊吹マヤが声を揃えて「やめなさい!」と叫んだのだった。犯罪を誘発しかねないと言われても彼にはどうもぴんと来なかったのだが)。
 やむなく「彼」はおろしたての制服を身につけてまだ朝のラッシュの続く通勤電車に乗っている。
 いつもの通学時間よりも一時間はやくミサトの車でNervの医療設備へ向かい、血液採取と尿検査、さらに簡単な診断を受けてからひとりリニアで学校へ向かい一限目のなかばほどに登校。
 これがここ数日繰り返されていた。
 大人たちにとって幸いなことに、Evaとのシンクロには何ら問題はなかった。むしろシンクロ値は以前よりもはるかに高いレベルで安定していた。
 プラグスーツをそっくり作り直さねばならないことくらい、問題でもなんでもなかった。
 ……ずっとこのままなのかなぁ。
 また彼は溜め息をついた。
 ……医療班のドクターも「非常に安定している」と言っていたし。
 ひとまわり大きな大人たちに囲まれていた女子中学生の表情はすこし暗かった。
 そのときだった。
 彼が異常な感覚に気づいたのは。
 ……え?
 だれかの手の甲らしいものがなんどか「彼」のスカートの上からお尻に触れていた。
 ……お尻……え?だれ?
 しかしガラスに押しつけられた状態の「彼」は振り返ることができない。
 ……なぜ?どうしてそんなことをするの?
 やがて軽く触れてくるだったその手が、スカートに包まれたお尻をさわりと撫で上げてくる。
 ……撫でてる?え?
 ひくりと背筋が痙攣する。肩が小刻みに震える。
 ……なに?なに?そんなことしてどうするんだよ!馬鹿じゃないの。
 ここにいたって「彼」はようやく状況を理解する。
 ……チカンだ。
 ……僕を女の子だと思ってるんだ。
 理解すると同時に可笑しくなってくる。
 男が男の尻を触ってなにが楽しいんだろう。バカみたい。
 だが、彼への悪戯はさらにエスカレートするばかり。
 「彼」のまぁるいお尻を手のひらで包み込み、ゆっくりと指を動かしてその弾力と形を楽しんでいるのだ。
 だが、碇シンジにとってはそれは不愉快であったが、同級生の少女たちが声を潜めて(ときには泣きじゃくって)話すような恐怖は感じることはなかった。
 ……ああ、一生懸命いろいろ触ってるよ。ホント、バカみたい。
 男の指が這い回る状態にうんざりしてしまう。
 余裕があるためか、なぜかいつもよりも強気の自分を発見する。
 やがてアナウンスとともにリニアは減速する。それは「彼」の目的地だった。
 ……降りなきゃ。それに、やめてもらわなきゃ、こんなこと。
 「彼」は息を吸った。
 「あの!」シンジは叫んだ。「僕のおしり、さわるのやめてくれませんか!不愉快です!」
 車内が凍りつく。男の手が慌てて離れる。
 そして、碇シンジ自身もその声にしばし凍りついていた。
 車内に響いたのは少女の澄んだ声だったのだ。
 自分のことを「ボク」と呼ぶ、愛らしくも凛々しい少女の声だったのだ。
 圧搾空気の音とともにドアが開いた。
 我に返ったシンジは肩で大人達を押しのけながらホームへ降り立つ。

 常夏とはいえ、外の空気がひどく清浄で涼やかなものに感じたのは、ただの錯覚だろうか。



【7日経過】

 ドアが開くと同時に身の危険を感じるほどの勢いで乗客たちは車内へとなだれ込んだ。
 逆らうこともできず、乱暴に背中を押されるまま車両の角へと押し込まれる。
 ……ああ、まただ。
 ごつん、とガラスにおでこをぶつけて、少し涙目になりつつ碇シンジは思った。
 ……一時間ほどずらしてもらって、ラッシュをやりすごしたいんだけど。
 それが難しいことは分かっていた。
 碇シンジの同僚でありクラスメイトである惣流・アスカ・ラングレーが彼の「遅刻」にいい顔をしないのだった。
 ……アンタね、アタシたちはできるだけ学校に行くべきなの。ただでさえNervの訓練やらなんやらで欠席が多いんだから、中学生で留年なんて格好悪いわよ。ほら、ノート取っといてあげたわよ。
 最近会話が増えた気がする赤毛の少女につよく主張されると、碇シンジはなぜか逆らえないのだった。
 だから「彼」はまだラッシュの続く車両に乗っているのだった。
 「!!」
 びくん、と躰が震えた。
 ……まただ。
 彼のお尻に男の手が性懲りもなく触れていたのだった。
 ……いい加減にしてほしいな。
 むっとする。ガラスに映る少女も頬を膨らませていた。
 ……なにが楽しくてこんなことするんだろう。触られているこっちが気持ちいいとでも思っているんだろうか。
 躰をよじって悪戯をしてくる指から逃れた。
 しかしそれも十数秒のこと。
 またそろそろと手が伸びてくるのだ。
 身をよじる。離れる。
 また伸びてくる。
 はぁ、と溜息をついてぎゅっと目をつぶる。
 ……数分辛抱すればいいか。
 「彼」は判断した。
 ……男を触って喜ぶような大人に、いちいち付き合っていられない。それにもし、昨日みたいにエスカレートしたら叫べばいいのだ。相手は声を出せばすぐに引っ込むような人間にちがいないのだから。
 ……それにちょっとくすぐったいだけだし……。
 碇シンジは壁にもたれかかって目を閉じる。もちろん細心の注意を払って。
 ……あ、また、おしり撫でてる。
 ……でも、昨日に比べたらずいぶんおとなしいなぁ。やっぱり声を出されたのが効いてるんだ。
 ……あ、下から上に……ゆっくり撫でるんだ。……あ、でも、これ以上。
 身をよじる。いやらしい手はすぐに離れた。
 ……ああもう、まただ。
 ……あれ?今度はおしりじゃなくって。腰のところを……あ、くすぐったい。ゆっくり……ゆっくり……指が……。

 やがてリニアは速度を落とす。
 碇シンジは「すみません、僕、降ります!」とちいさく叫びつつ大人を押しのけてホームへ降りた。

 その声にどこか歪んだ笑みを浮かべている大人達のことなど気づきもせずに。



【10日経過】

 「シンちゃんったら、エプロンがさらに似合うようになったわねー」
 「あ、あの……えっと……」テーブルに皿を並べてゆく手が止まった。
 「ジャージでなければもっと可愛いのに」タンクトップにショートパンツのいつもの姿でビール缶を干していた葛城ミサトが笑い、ジャージ姿にエプロンを身につけたショートボブの少女はむっとする。
 「だって僕、男ですから」
 しまったという表情をミサトは浮かべ、すこし早口に謝罪する。
 少女……碇シンジ……は無言のままうなずいてそれを受け入れた。
 「電車通学、慣れた?」もう一人の同居人である惣流・アスカ・ラングレーがシャワーを終えるまでの沈黙に耐えられなくなったミサトは話題を変えた。
 「え……はい」碇シンジはぎくしゃくとうなずく。
 「そう、よかった。保安諜報部のレポートではそのあたり分かんないし」
 「レポート!」少女が小さな悲鳴を上げた。「そ、それってなにが書いてあるんですか?」
 「書いてあるってもねぇ」少女が青ざめていることも気づかずにミサトは言った。「『〇八三四時に乗車、〇九一八時に下車。監視対象に問題なし』だけだもの。ホントに仕事してるのかちょっち疑問ね」
 「そ、そうですか」
 「どしたの?なにか問題があるとか」ミサトの表情が曇った。「ひょっとして痴漢に遭ってるとか」
 「そんなことないです!」シンジは何度も首を振った。「そんなこと……だって僕、男なんですから……そんなの怖くないです」
 「そうなんだ。そうだよね。シンちゃん男の子だからちゃんと『止めて』って言えるんだ。えらいえらい」
 「そ、そんな、『えらいえらい』って子供みたいに言わなくても、あはは……」
 少女の笑顔がどこかそらぞらしいことにミサトは少し不審に思う。
 だがそれについて、ミサトは深く考えることはできなかった。
 まだ髪を少し濡らしたままのアスカがキッチンへ「お腹空いたー」と駆け込んできて、にぎやかな食事が始まってしまったからだった。

 だから碇シンジは真実を告げる機会を逃してしまう。
 自分のアイデンティティを維持するために「男の子であること」にこだわってしまった彼は、保護者である葛城ミサトに助けを求めることができなかった。

 早朝の通勤電車のなかで危険なゲームに興じていることを。
 「線の細い、可愛らしい女子中学生」の躰を制服越しにまさぐるいやらしい大人たちを徹底的に無視する「ふり」をするゲームを続けていることを。
 「僕が男だって分かってないんだ」と相手を内心で嘲笑いつつ、少年としての好奇心ゆえに「へぇ、痴漢ってこんないやらしい触り方をするんだ」と彼らの指遣いを鑑賞しているつもりになっていることを。
 女体への悪戯のやり方を観察しているつもりで、自身も知らなかった性感帯を教えられてしまっていることを。



【14日経過】

 「碇君、どうしたの?」
 「どうしたって……なにが?」
 「体育の授業、バスケットボール」机を寄せ合ってのお弁当を済ませた昼休み、実直な表情にかすかに不安をにじませて洞木ヒカリは言った。「ヘルドボールがすごく多かったじゃない。碇君がボールにしがみついちゃうから、ほとんどレスリングみたいになって」
 「そうそう、男子、みーんな困ってたわよ」
 「どうしてさ」苦笑するアスカにシンジは言った。汗ばんだうなじをぱたぱたと下敷きで扇ぎつつ。
 「そ、それは……女の子がすごい勢いで抱きついてきたら、男子はほら、ちょっと……困るじゃない?」惣流・アスカ・ラングレーの頬は少し赤みがかっていた。
 「僕だって男子だよ」
 ヒカリとアスカは顔を見合わせた。
 「そ、それはそうだけど……いまの碇君に、その……体操服みたいな薄着で抱き……ぶつかってこられたら男の子は困っちゃうんじゃないかしら。だって、いまの碇君ってその……外見は……女の子なんだから」
 「そうよそうよ」アスカがヒカリの婉曲な表現を補強する。「アンタに自覚がないもんだから、男子が困ってるのよ。たとえば……あ!」
 お小言の最中にアスカの顔が赤く、そして青くなった。
 「シンジ!ちょっとアンタ!なんてカッコウしてるのよ!」
 アスカの視線を追ったヒカリも真っ赤になった。「い、碇君!スカート、スカート!」
 「え?……ああ」二人の視線に気付いたシンジはしかし、落ち着いたものだった。「だって、暑いし」
 「ばかばかばか、パンツ丸見えじゃない」アスカは声を押し殺して言う。「さっきから男子が変な目でアンタを見ると思ったのよ。すぐ隠しなさい」
 「だって、暑いし」
 「はやく!」アスカとヒカリが声を揃えて命令した。
 苦笑を浮かべて碇シンジは姿勢を変える。
 すなわち、椅子の背もたれに抱きつくように腰掛けて、大きく開脚した真っ白なむっちりとした太股も、その奥の純白の下着をもクラスメイトの視線に曝す姿勢から、膝を揃えたおとなしい横座りの姿勢へと。
 「もう……心臓が止まるかと思った」ヒカリの頬はまだ赤みを帯びていた。「ダメよ、あんなはしたない格好しちゃ」
 「男子ならいつもしてるのに」
 「だーかーらー、アンタはもう、女の子なの。その、なんというか、カラダのほうは。風紀を乱すから無茶な格好は禁止!いいわね?ね」
 どこか、いや、かなり綾波レイに似た雰囲気を持った少女は唇をとがらしてそっぽを向いた。
 「……シンジ!」
 「だって」上目遣いに少女はアスカを見上げた。「だって僕、男なんだよ。男の子なんだから……」
 どきりとするアスカ。しかしそれは、碇シンジの台詞に対してではなかった。
 どこか陶然とした、いやどちらかというとどこかいやらしさすら感じさせるその瞳に驚かされたのだ。
 しかし、そのときのアスカは理解できなかった。
 その瞳の意味も、碇シンジが男であることにこだわりつづけていた理由も。

 惣流・アスカ・ラングレーも、その親友の洞木ヒカリもまだはっきりと口にしたことはなかったが、いまや周囲の男子同級生のみばかりか、男性教師陣からもまぶしそうに見られることの多い美少女へと変身したサードチルドレンは怯えていたのだった。
 自身の体と精神に起こりつつある変異に。
 朝の電車のなかで気づいてしまった事実に。

 だからその愛らしく、可憐な外観を持つ少女は、いままではまるでこだわったことがないにもかかわらず、なんども自身の台詞のなかに「男」という言葉をちりばめ、「男の子のように」乱暴なプレーをあえて行い、男子生徒と肌を触れあわせることがごく自然だと主張したのだ。
 そして、女の子なら「破廉恥」と指弾されるようなポーズもあえて取ってみせ、男子生徒のいやらしい視線にも平然と、いやむしろ寛容に振る舞ってみせたのだ。
 なぜなら自分は「男の子」なのだから、女の子のように恥ずかしがったり、男子の好奇心を全否定するわけにはいかないのだから。

 ……だって、だって僕は男なんだから!
 碇シンジはなんども自身に言い聞かせる。
 ……女の子じゃないんだから!
 そう、違うのだ。違うに決まっている。
 ……電車のなかでさわさわいじられて、うっとりした顔なんてするわけないんだ!
 「馬鹿なことしてる」とか「あ、こんなところを触ったら喜ぶと思ってるんだ」とか考えている人間が、気持ちよくなるはずなんてないじゃないか!
 あれはただ、ちょっと疲れていて、くすぐったかったからなんだ!
 いつのまにかあちこちから手が伸びてきて、ちょっと驚いただけなんだから!
 「よくなってきただろ?」だなんて!そんなことあるはずない!
 ずっと、ずっと無視できたんだから。
 「僕に触らないでください!」って言ったらこそこそ逃げ出した変態のくせに!

 帰宅後、碇シンジは浴室で丹念におのれの裸身を磨いた。
 朝のリニアで「変態男」達がゆっくりと撫で回した部分……小さなおしりや脇腹、太股……は特に丁寧に。
 「ああ、もう、どうして気になるんだろう」とつぶやきながら。
 瑞々しい肌にシャボンを塗りつける指遣いやタッチが、その「ヘンタイ」たちのそれをなぞっていることにまったく気がつかずに。
 男達を小声で罵倒する少女の表情が、リニアのなかでのそれ……夢見るような、もどかしげな表情……であることなど知りもせずに。

 その夜、碇シンジは生まれて初めて、「女の子」としての自慰をした。
 ちいさなクリトリスを刺激しては隣の部屋の惣流・アスカ・ラングレーに聞こえないようにびくびくしながら甘い溜息をついた。
 ショーツの上から臆病にゆっくりと、ぐりぐりと押しつぶすように動かすその指遣いは、今朝の通勤電車でスカート越しにされたものと同じだった。



【17日経過】

 今朝も「ゲーム」は行われていた。
 いやらしい男たちの手が制服の上からいくら這い回っても、碇シンジはそれを無視し続けるというゲームが。
 そして、けっして女性専用車へ「逃げたり」しないゲームが。

 ……ほら、ちゃんと無視できてる。
 DATのボリュームをわずかに上げて碇シンジは笑みを浮かべる。

 ……おじさんたち、本当に意味がないことに一生懸命になって。
 ……ほら、おしりを撫でられたって無視できてる。
 ……ほら、おしりの方から「ぐいっ」って手のひらを曲げて、スカート越しに指を動かしたって僕は平気。僕のえっちなトコロ……をごりごりやわやわされたっても気にするもんか。
 窓の外をじっと見つめ、自分の身体を這い回る男たちの手のことなど、まったく意に介していないように振る舞う。

 ……それにしても、この手、ひとりの手じゃないよなぁ。三人?四人?ああ、胸まで撫でてくる。もうっ、調子に乗りすぎだよ。
 さらにボリュームを上げてチェロの伸びやかな音色をヘッドホンの中に満たしてゆく。
 ……あ、まただ……太股をさわさわしてる。……ゆっくり……ゆっくり……でも、ぜんぜん……へいき……だから。
 ……もう……これ以上のコトされたら、また叫ぼうかな?「このオジサンたちがボクに悪戯してるんです」って。ふふっ、しばらく電車通勤できなくなったりして。
 情けない姿で警察に連行される男の姿を想像した少女は瞬間、いまの状況を忘れてしまう。

 ……でも……あと、一〇分ちょっとだし……騒ぎになるといろいろと面倒……かも。
 ……あ、フトモモ……何人がいじってるんだろ……。
 ……あ、スカート、持ち上げられて……ゆっくり、ゆっくり……馬鹿みたい。気付かないと思ってるのかなぁ。
 ……うわぁ、手が入って来ちゃったよ。もうそろそろ……叫ぼう……か……な?
 ……でも、まだ……だって、このあいだほど……ひどく、ないし。
 その「このあいだ」がいつなのか、そのときはなにをされたのか少女は深く考えもせずにそう結論づけた。

 ……あと、あと五分……もう少し我慢すればいいだけの話だし、そもそも僕はぜんぜん感じてないんだから……そう、感じてなんかいないんだから……あとしばらく無視していれば……。
 ……あ、昨日とちょっと違う……別なヒトなのか……な。ゆっくり、ゆっくりコスって……へ、へぇ……く、クリトリスをし、下から爪で軽く擦ると……ああ、で、でもやっぱり自分で「スル」ほうがましだよ。自分の部屋でがばーって脚を開いて、ぱんつ脱いで両手でいろいろいじったほうがずっと、ずっとマシ……。
 ……あ、爪で軽く……あ……も、もういいや、どうせこんなヘタクソなオジサン、無視、無視、ムシ……。
 ぎゅっと目をつぶって碇シンジは不埒な男たちの行為を黙殺することに決めた。
 車内の騒音を遮断してくれる音楽へと没頭する。

 「彼ら」と自分の認識に大きな隔たりがあることなどまったく理解できなかった。
 いや。
 理解することすら拒んでいた。


 最初は躰に触れられるだけで嫌悪の表情を浮かべ、蔑みの視線を投げかけつつ大声で拒絶の声を投げつけていたボーイッシュな女子中学生は、痴漢達のソフトタッチで徐々に開花させられてしまったと見なされていると「彼女」が知ったら、きっと声を立てて笑うだろう。

 その「なにも知らない」乙女……自分を「ボク」と呼ぶ華奢で小柄だけれどもどこか心の強さを感じさせる可愛らしい少女……はそれが性的なものであるかどうか曖昧な「くすぐったいタッチ」で異性の指に慣らされたのち、徐々に「融かされて」しまっていることも認めまい。

 脇腹や腰回り、あるいは肩などへの臆病な接触は男たちの邪な意図を少女に見誤らせるためのものであることも、その臆病さは少女に彼らを軽蔑させ、その行為を「たいしたものではない」と思いこませるためのものであったことも認めまい。

 腰や脇腹へのソフトなタッチは徐々にその範囲を拡げて、つい先日までだったら断固として拒否したお尻やお臍の周りまで男「たち」の手が這い回るようになり、さらにきわどいところまでその指が達するようになっても、そのショートボブの美少女が声を上げなくなったのは、彼女の身体がその刺激をもはや「拒めなくなったから」と見なされているなど断じて認めないだろう。

 一週間以上に渡った「レッスン」の結果、スカート越しにぐいと食い込ました指で後ろから秘所をぐりぐりと弄られると、無表情を装う美貌がたちまちほころびてしまうまでに「覚えて」しまった少女を乗客達が嘲笑っていることを知ったら泣いて抗議しただろう。

 スカートの中への侵入を躰をよじって拒否させていた乙女ゆえの恐怖心と清潔感が淫らな好奇心にとうに敗北してしまっている証拠として、「何人もの手でさわさわ太股を撫で回されると、顔をそむけつつもゆっくりゆっくり脚を開き、お尻を突き出す姿勢を取ってしまうこと」を挙げられたら「それは満員電車のなかで押された結果に過ぎない」と断固として言い張るだろう。

 スカートのなかでゆっくりと蠢き、少女の下着の感触と熱気を楽しむ痴漢の手の存在を一切無視していたはずの少女の冷ややかな表情が切なげに表情を変え、あるいは唇を噛みしめてふるふる震えるのは、背筋を這い上がる痛痒感……下着越しに丁寧に慎重に擦られて、甘い刺激を与えられるクリトリスからの……がそうさせているのだと少女を取り囲む男達すべてに知られていると言われても、けっして絶対に信じようとはしないだろう。

 背後からジャンパースカート越しに可愛らしいバストを弄られれば、固く目を閉じたままではあるけれど、彼らの指が動くたびにぴくりぴくりとちいさな身体を震わせて未知の快楽を表現するさまを男たちが心から楽しんでいることを知ったら、真っ赤になって怒っただろう。


 けっして、けっしてボクはそれを受け入れたわけじゃないんだと、ショートボブの美少女は叫ぶだろう。
 けっして、けっして感じているわけじゃない。女の子の快楽なんて、感じるわけなんてないんだからと叫ぶだろう。

 少女のさまを観察するものすべてが、少女のその言葉を即座に嘘だと断言することなど理解できずに。



【18日経過】

 おい、見てみろよ。クラスの男子が低く言った。
 少年たちの視線の先にいるのはショートボブの線の細い少女。
 つい先日までは男子生徒だった碇シンジ。
 「彼女」は机に腰掛け、ハイソックスをはいた両脚をぶらぶらさせて、惣流・アスカ・ラングレーと洞木ヒカリと屈託のない会話を交わしている。その光景を眩しいと感じてしまうほど、「彼女」は愛らしかった。
 そして、最初はきれいに揃えていたらしい両膝は緩み、脚を動かすたびに制服の奥に隠れているはずのショーツがちらりちらりとのぞいていた。
 「警戒心ゼロ」誰かが笑った。
 「まぁ、男だしな」他の誰かも言った。
 「だけどさ」それを受けた少年の声がさらに低くなった。。「あのパンツの中にあるのは惣流や洞木のと同じ……ものなんだよな」
 彼らは沈黙する。ショートボブの少女のスカートの中へと注がれる視線が熱を帯びたものになった。
 「アイツ、自分のものをどう思ってるのかな」
 「お、オレなら、超精密に観察する」
 「アイツ、オナったりするのかな」
 「……オレならずっと触ってるかも」冗談めかした口調が徐々に真剣なものへと変わっていく。
 「お……い」少年たちは息を呑んだ。
 机に腰掛けていた少女が大きく膝を立ててソックスを直しはじめたのだった。
 少年たちからは「彼女」の淡いピンクのショーツが完全に露わになっていた。
 真っ白な滑らかな太股の付け根も、クロッチに包まれた柔らかそうな膨らみも。
 叢の翳りすら少年たちには見て取れた。
 白ソックスを丁寧に直すあいだ、身じろぎするたびに少女らしいショーツの生地がよじれ、秘花の亀裂すらクラスメイトに披露されていた。
 生真面目な表情でソックスを直していた少女の視線がふと持ち上がり、少年たちとぴたりと合った。
 一瞬きょとんとしたのち、彼女は青ざめ、赤くなる。
 慌ててスカートを直す「碇シンジ」の表情はひどく恥ずかしそうで、まさに少女そのものだった。

 午後の体育の時間、碇シンジはさきの男子生徒たちに小走りに近づくと小声で文句を言った。
 「もう、ボクの……男のパンツなんかじーっと見て。ったく、いやらしいんだから……」
 しかしその表情はどこか切なげで、視線もけっして彼らの方へは向かわなかった。ただもじもじと運動靴の先を見つめているだけだった。
 「ナニ言ってるんだよ、碇」深く考えることなく少年のひとりが即座に言い返す。「男だったら、オレたちに見られても気にならないはずだろ?『いやらしい』のはどっちなんだよ?」
 碇シンジは沈黙していた。
 「あ……えっと……その……」
 「どっちがいやらしいんだよ?え?」
 シンジの沈黙に気付いていない少年が言葉を重ね、にじり寄る。
 「あ!あの!あの!」
 少女は声をうわずらせて後じさる。体操服の裾をぎゅっと下ろしてブルマをできるだけ隠そうとする。
 なにも言わずにくるりと振り向き、体操服の少女は背中を向けて歩み去る。

 彼女の肩がひどく華奢なことに、両手で隠そうとしているヒップの曲線に、太股の白さにクラスメイトの男子達は改めて気付くのだった。

 ……いつのころからか2−Aの男子生徒たちの一部が碇シンジによく声をかけるようになったことに、惣流・アスカ・ラングレーは気がついた。
 それは体育の時間のチーム編成のときもあれば、ちょっとした集団学習のときもあった。
 彼らは碇シンジに親密に声をかけ、彼が近づくと「男子同士のように」肩を抱いたり背中へ手を回して会話をするようになった。
 シンジが少し赤くなっていること、「さっき、男子とナニ話してたのよ」と訊いても答えないことに若干の不安を感じはしたものの、アスカはそれを「変わってしまったシンジをクラスが受け入れ始めた兆候」と捉えて安堵とともに葛城ミサトへ報告したのだった。
 ただ、碇シンジの「自覚の足りない姿勢」を注意する機会がさらに増えてしまったのは、アスカにとって悩みの種だった。
 ……もう、オトコノコ扱いしてくれるからって、それとコレとは話が別なのに。でもいいか、男子がアイツを友達扱いしてくれてるんだから。

 惣流・アスカ・ラングレーの想像は誤っていた。
 2-Aの男子のなかでは、姿の変わってしまった彼女を友達ではなく、もっと生々しいものの対象として捉え始めていたのだから。
 だがそのことで彼女を責めることは酷だろう。
 同性となった碇シンジよりも、アスカはずっと純真で幼かったのだから。



【25日経過】

 「乗るかね?」
 「あ、はい。ありがとうございます」
 シンクロテスト後のデブリーフィングを終え、帰宅しようとする碇シンジに穏やかな声がかけられた。閉じかけているエレベーターの扉が再び開き、シンジは小走りに箱へと駆け込む。
 「どうかね。体調は」
 「え、えと、大丈夫です。体調は……冬月副司令」柔らかな視線で見下ろしてくる初老の男性にショートボブの少女はうなずいた。
 「そうか、良かった」かすかにうなずき、さして世間話と変わらない質問をいくつか投げかける。
 シンジは校長先生と話す女生徒のような口調と態度でそれに答えた。
 「そうか、良かった」さっきと同じような柔和な表情で冬月はうなずく。「ところで、ずっと電車通学だね、シンジくん」
 「え、あ、はい」かすかに少女の表情が陰った。
 「不愉快ではないかね?」
 「え?」少女は少し青ざめる。
 「半時間強も満員電車に詰め込まれていてはうんざりするだろう?葛城君も融通が利かないな。だれかに送らせればいいのに」
 「え、いえ、そんな……」少女はぱたぱたと手を振った。「自動車通学なんて……そんな……あ、あの、アスカにまた叱られます」
 「ほう、そうなのか。そうか、彼女は『普通の生活』への憧れが強いからね」
 「え、ええ、そうなんです。だからアスカ、僕にもちゃんと学校に出るようにうるさいし……」
 「そうなのかね。なるほど」シンジを見る冬月の態度はもはや校長先生と言うよりも祖父のそれに近かった。
 やがて柔らかなアラームとともにエレベーターが止まり、「では、私はここで降りるよ」と冬月は穏やかな笑顔をシンジへ向けてから歩み去った。
 少し溜息をついて、少女はエレベーターの壁にもたれた。再び閉鎖空間になったエレベーター内部には少女の甘い体臭と石鹸の香り、それから冬月のものらしい整髪料の匂いが残っている。
 ……お願いするんだった。
 碇シンジは後悔する。涙がこみ上げてくる。
 ……車で送ってもらえば、あんな痴漢に遭わなくてすむのに。
 細い肩を震わせて、少女は一人、鋼鉄のはこの中ですすり泣く。
 ……車で送ってもらえば、我慢しなくていいのに。あんな恥ずかしいことを受け入れなくていいのに。

 ルールが変わってしまった「ゲーム」から抜けるチャンスを逃したことを改めて認識した少女は声を殺して泣いてしまう。

 そう、三日前にその「ゲーム」は新たな局面を迎えてしまったのだ。


 「見てたんだろ!どうして助けてくれなかったんだよ!」
 三日前の朝のホームでショートボブの少女は黒ずくめの男二人を涙ながらに非難していた。
 「アイツら!あの痴漢たち!ぼ、ボクの下着の中まで指を入れて、そのうえ……そのうえ、ボクの中に……」
 ボタンの飛んだブラウスの襟元を震える指で押さえていた少女の言葉がとぎれ、嗚咽が混じる。
 しかし黒眼鏡の男たちは冷ややかだった。
 「なんら問題ではないように思えましたが」
 「自分もそう思いました。サードチルドレン」
 「ど、どうしてだよ!」
 男たちは当惑したようにお互いの顔を見た。口元にあるのは意地悪な笑みだった。
 「同意の上の行為に思えたので」
 「サードチルドレンは拒絶の声を上げる直前まで、非常に楽しそうでした」
 「ち、違う……ただ、ただ無視してただけだってば」
 「男の手がスカートの前後から侵入したときには、自分から脚を開いていました」
 「彼らの指が動き始めると、サードチルドレンは声こそ出しませんでしたが、唇ははっきりと動いておりました」チルドレンたちの守護者であるべき男の黒めがねがぎらりと光った。「自分は読唇術の訓練を受けておりますので、なにを言いたかったかも読み取ることができました」
 男の口元が歪んだ笑みの形に変わった。それは碇シンジの父親の表情を連想させる。
 愛らしい少女は真っ赤になってうつむいてしまう。肩を震わせて涙をこぼしはじめる。

 ……知られてしまった!
 ……一瞬、そう、ほんの一瞬、我を忘れてしまったことを知られてしまった!
 ……悪戯な指で敏感な肉芽をショーツ越しにくすぐられ、じんわりとこみ上げてくる尿意にも似たもどかしさにもじもじしていたところに、お尻を……それも谷間のはじまりあたりから排泄口のあたりを……爪でさわさわ意地悪されて、腰が融けてしまうような感覚に思考を白熱させていたことがばれていたのだ。
 ……生まれて初めて知ってしまった悦楽に押し流されて抗議の声も上げられなくなったばかりか、自分の足では立っていられなくなっていたことも見られていたのだ。
 ……扉に力なくもたれる身体をくるりと巡らされ、男たちによる淫らな環の中へ閉じこめられても、逆らうどころかふらつく身体を男たちにあずけていたことも見られていたのだ。
 ……全身をさわさわ撫で回されても、制服の中へ忍び込んだ指がブラウスのボタンをひとつひとつ外しても、抵抗できなくなっていたことも知られていたのだ。
 ……ブラウスを乱暴にはだけられて、あちこちから伸びてきた男たちの手で素肌を撫で回されているさまも、ついにブラジャーまで持ち上げられて柔らかなふたつの膨らみを弄られて息を荒げてゆくさまも、彼らはじっくり観察していたのだ。
 ……下着越しにクリトリスとアナルをくじられていくうちに、すっかり痴漢達の玩具になりはてた美少女が男の背広をぎゅっと掴んでしがみつき快楽に打ち震える様子を彼らは嘲笑っていたに違いない。
 ……そしてにやりと笑った男の指が湿ったショーツのクロッチをくぐり、敏感な肉芽をきゅうぅっと摘まれたときに少女が浮かべた驚きと恍惚の表情も彼らの観察対象だったのだ。
 ……彼らの執拗な悪戯に半ば意識が飛んでしまったショートボブの彼女の愛らしい唇が、「あぁ……いい……」と「だめだよぉ……こんなに気持ちよくなっちゃ……だめだよぉ……」と動いてしまったことも彼らは知っていたのだ。
 ……だから、牝蜜で熱くぬるむ少女の狭い花弁に不埒な指がこじ入れられたときの鈍い痛みで彼女が我に返るさまも、「や、やだ!やめて!ボクにそんなことしないでぇっ!」と糾弾とはほど遠い懇願の泣き声とともに、タイミング良く停車した駅のホームへよろよろと逃げ出すさまも余裕を持って眺めていたのだ。

 「……ひどいよ……ひどいよ……助けてくれたって、助けてくれたって……」
 「なぜでしょうか」シンジの涙混じりの言葉にも彼らは冷静だった。いや、むしろ冷淡だった。
 「痴漢されてたんだよ。ひどいコトされてたんだよ。あんな男たちに囲まれて、その……敏感なところを悪戯されてたら、抵抗できるわけ……ないじゃないか……な、なぜ笑ってるんだよ」
 唇を歪めて嘲笑する護衛二人に碇シンジは噛みついた。
 だが、彼らの笑みはさらに大きくなるばかり。
 「確かに、女性ならばそうだろう。女性ならば……ね」
 「え……?」シンジの目が見開かれる。もう一人もうなずいた。
 「そうだな。雄の欲望に対して本能的な恐怖を感じ、隷属してしまような牝の精神構造を完成させていれば……あのような行為を拒むのは難しいだろうな」
 「ち、ちがう!違うってば!」
 「なにが違うのでしょうか。サードチルドレン」
 「僕は、僕はそんな女じゃない!さ、逆らえないわけじゃないんだ」
 「そうなのかね?」
 「そうだよ!さっきのは、さっきのは……」
 「ちょっとおどろいただけ?」
 「そ、そう。ちょっと、ちょっと驚いただけだってば」言葉を探していたシンジは、護衛の皮肉げなほのめかしに飛びついた。
 「なるほど、とはいえ、一応保護者の葛城三佐へは報告しておきま……」
 「待って!」せっぱ詰まった表情で少女は男の言葉を遮った。「言わなくていい。報告しないでいいから。あ、あれはちょっとした事故みたいなものだから」
 乾いた笑い声を上げつつ、碇シンジは男たちにこのことを報告しないように懇願する。
 「碇シンジは通学の電車内で痴漢の与える快楽に溺れていた」などと報告されてしまうわけにはいかなかった。
 おそらくミサトは本気で痴漢達の行為に憤慨し、シンジに対して心から同情してくれるだろう。
 でも、だからといって、ミサトにこの件を知られてほしいとは思わなかった。
 自分が心から女に、いや女性からも見下されるような「メス」になってしまったと思われるような報告が行くことだけは避けねばならなかった。
 だから彼は繰り返し彼らに告げる。
 あれは全然たいしたことではないと。
 自分はちょっとした好奇心で痴漢たちに「好きなようにさせている」だけなのだと。彼らが少女という「餌」にどう食いつくかを試しているだけだと。
 今回はうまく彼らを「コントロール」できなかったが、今後は大丈夫だと。

 さきほどまで保安部の男たちを弾劾していた言葉とは一八〇度異なる言い訳を並べ立て、少女は彼らを「説得」しようとする。
 そして「分かりました。本件について、特に葛城三佐への報告はしないこととします」と彼らがうなずくと、痴漢たちに乱されたブラウスの襟元を押さえつつ彼女は深く安堵する。
 「では、明日も電車で通学するのですね。サードチルドレン」と訊ねられると「当然だよ、当然」と即座に答えてしまう。
 明日以降も自身に降りかかる不埒な悪戯に憂鬱になりつつも、笑顔を浮かべて「全然平気だから。大丈夫」と言ってしまう。

 こうしてこの愛らしい女子中学生は自ら逃げ道を閉ざしてしまった。
 嘘にまみれた言い訳とプライドの罠にかかってしまう。
 「ボクは男の子だから」という言葉だけを自身への免罪符として、「奴ら」の淫らな行為を容認してしまう。
 おのれの未来に漠とした不安を抱きつつも、自分が欲望に溺れることなんてない。と少女は確信していた。

 碇シンジの言葉が嘘であることを理解していないのは、「彼女」たった一人であることすら分かっていないのに。


【30日経過】


 「は、ああ、ああ……ッ。だめ、だめ、とまんない、とまんないよぉ……」
 せっぱ詰まった愛らしい少女の声が壁越しに聞こえてくる。
 「あ、あ、はやく、はやくイっちゃわないと、授業に遅れちゃうよぉ」
 くちゅくちゅという水音、鼻をすすりながらあげるか細い声。
 欲望にまみれた、「まるでAVのような」濡れた泣き声。
 ときどき、ごつん、どん、と壁に身体をぶつける音。

 授業をこっそり抜け出して、トイレの個室でニコチンを摂取していた男子生徒は、煙草の火が指を焦がしそうになっていることすら気付かずに耳を澄ましていた。
 音が聞こえてくるのは壁を一枚隔てた女子トイレ。
 普段なら生徒たちの喧噪で、音が漏れ聞こえることなどほとんど無い(ただし、「水を流した音」が男子トイレに聞こえてしまうらしいことで、女子生徒たちには著しく不評な)構造であったが、授業中の誰もいない時間帯なら、会話程度の声は通ってしまうらしい。
 その壁一枚向こうで、そのだれともしれない少女がなにをしているかは明白だった。

 少女は授業をサボってオナニーに耽っているのだ!

 少年の鼓動はいやでも高まり、息が荒くなる。
 そのまま全身を耳にして、いやらしい甘え声を聞き取ろうとする。

 「あ、ああ、もっと、もっと、もっと……」うわごとのようなつぶやきとともに、ごつん、どん、と壁に身体がぶつかる音がまた聞こえてくる。
 自分の指が与える快楽に夢中になった少女の身体が無意識に動いてしまっている音なのだ。
 「ダメ、ダメだったら、トイレでこんなコトしてたら……見つかっちゃうよぉ。だれかに見つかって、ボク、ボク、軽蔑されちゃうよぉ」
 理性では抑えられない欲望に翻弄されたあえぎ声に少年も触発されて自慰をはじめようとする。
 だが、男子トイレに教師がやってきたためにその行為は中止を余儀なくされた。
 それどころか、室内の煙草の匂いに気づいた教師に「どなたです?トイレは禁煙ですよ」と声をかけられ。やむなく保った沈黙を不審に思われた教師に「おい、ここを開けなさい」との声とともに激しく個室のドアを叩かれて、吸い殻だけでなくまだ一本しか吸っていないパッケージを下水へ流す作業で大わらわになってしまったのだ。

 だから、彼は気がつかなかった。

 教師が男子トイレの個室ドアを叩いた瞬間、「彼女」は心臓が止まりそうになるほど驚きつつも絶頂を迎えてしまったことに。
 「ああ、ああ、見つかっちゃった。トイレでオナってるところだれかに見つかっちゃったよぉ……」と全身を震わせていた少女は、いままでにないほど深い満足を得てしまっていたことに。

 身繕いを終え、さきほどまでの背徳的なオナニーの痕跡も、満員電車のなかで五人もの男性に囲まれての集団痴漢の痕跡……乱れたスカートの裾やブラウスの襟、「防壁」として身につけたはずなのに、降りたときにはそれは少女の粘液でどろどろの染みだらけになったばかりか、腹いせに破り裂かれてしまっていたスパッツ……のあとなどなにもなくなった少女が女子トイレから出て行くときに、騒ぎを聞きつけたほかの教師に丁寧にお辞儀をして「碇さんはすっかりお淑やかになったわね」と微笑されたことも知るはずもない。

 少女の同僚でもあり、同級生でもある惣流・アスカ・ラングレーに「ねぇ、アンタ、最近登校がちょっと遅くなってるけど、診察が長引いてるわけ?」とブルーの瞳にかすかな愁いを含んだ表情で訊ねられても、
 「ううん、ちがうよ。一本電車を遅らせてるだけ。一本ずらしたら、ラッシュがだいぶ減ってるんだ」と朗らかに答えて友人を安堵させていることを。


【32日経過】


 「なに隠してるんだよ」
 教師に頼まれて倉庫へ教材を戻しに来たショートボブの少女は、少年の口調で明るく言った。
 「な、なんだ。碇か」
 少年達は一瞬ぎくりとしたのちにぎくしゃくと笑みを浮かべた。
 「良かったね。来たのが僕で。洞木さんやアスカだったら……ね、見せてよ」
 シンジのクラスメイト達は顔を見合わせたのちにうなずく。少年たちの隙間から女性の裸身が載ったグラビアがちらと覗いた。
 だれかが「ドア、閉めろよ」と低い声で言った。
 「分かってるよ。分かってるってば」少女はくすくす笑いながらドアを閉めた。

 「うわぁ、こうなってるんだ」少女の無邪気な声にクラスメイト達はどよめいた。しかし、少年たちはそれ以上言葉を発することもなく押し黙ったまま少女を見ている。
 衣服と呼べるものをまったく身につけていない金髪美女が大きく開脚しているどころか、マニキュアの塗られた指でぱっくりと女性器をひらいて見せている写真集をリノリウムの床にしゃがみ込んで見つめている少女……「事故」で女性へと変わってしまった碇シンジ……を見つめている。
 少し朱くなった頬を。
 ほっそりしたうなじを。
 スカートから剥き出しになっている可愛らしい膝小僧を。
 無造作にしゃがんでいるために容易に覗くことができる白下着を。
 姿勢を微妙に変えるたびに形を変えるショーツのクロッチに包まれた膨らみを。
 級友の視線を知ってか知らずか、彼女は言った。
 「けっこうグロいね……。ボクさ、自分のココ、ちゃんと見たことないんだよ」
 碇シンジが彼らと同じ性であったころ、彼はクラスのほとんどの人間と言葉を交わすことはなかった。
 それどころかこのような「秘密の集まり」に参加することも、昏い好奇心に満ちた会話をすることもなかった。
 だれかがごくりと喉を鳴らす音がひどく大きく聞こえる。しかし少女は彼らの濃密な雄の気配にまったく気付いていないようだった。
 そればかりか、無邪気を装って彼らを挑発するかのように振る舞うのだ。
 その表情も口調も、彼らの知る「碇シンジ」のものではなかった。

 「けっこう毛深いね、このひと、お尻の穴のところまで……こんなにすごくないなぁ……ぼくは」
 「指、すごい、三本も入れちゃって……ウソだろ?そんなに入らないよ」
 「あは、この人ったら本気でオナってるよ。クリをさ、一時間くらいいじってるとこんな顔になっちゃうんだよ。気持ちよすぎてバカになっちゃって、なんにも考えられないときの顔だよ。これ」

 これらの台詞は、碇シンジの同級生……好奇心と妄想で思考がパンクしそうになっている男子中学生たち……が口々に述べたこととさほど違いはなかった。
 だが、その言葉は愛らしい少女の声で述べられたのだ。
 「実物」がすぐ目の前にあることをあまりに無邪気にほのめかされつつ述べられたのだ。
 彼らは瞳を血走らせて少女を見つめていた。
 「彼女」がほんの一月前までは男だったという記憶がかろうじて暴走を食い止めていた。
 「な、なぁ……碇……」かすれた声でだれかが呼びかけた。
 「なに?」顔を上げた少女の目が丸くなる。「うわ、みんなのズボンのマエ、すごくなってる……」
 くすくす笑って立ち上がる。艶やかな唇がすこし意地悪に曲がった。
 「ごめん、戻らなくっちゃ」
 少年たちが一瞬殺気立つ。だが彼らはまだ理性があり、同時に臆病でもあった。
 「じゃ、また見せてね」ちらりと手を振って扉を開け、少女は小走りに廊下へと去る。

 扉が閉まると同時に少年たちはズボンを下ろして一心不乱に自慰をはじめてしまう。
 ここが学校であることなど気にもせずに。
 いくら秘密を共有し合うとはいえ同級生の目の前であることも気にせずに。
 彼らがペニスをしごきたて、空想のなかで交わる存在はもはや目の前の金髪美女写真ではなかった。
 男の子のような口調で喋る、少女の外見を持った同級生だった。
 スレンダーな少女が小悪魔的な笑みを浮かべつつ彼らに向けてとった開脚姿勢と下着を思い出しながら、少年たちはオナニーに耽るのだ。


【36日経過】


 「ね、シンジ」葛城ミサトのいない夕食の席で惣流・アスカ・ラングレーはすこし声を落として言った。「ヒカリがアンタのこと、ちょっと心配してる」
 アスカが残した野菜のソテーをフォークで口に運んでいた少女は首をかしげた。溜め息をついてアスカは続けた。
 「アンタの友達のこと。アンタがトウジや相田と付き合わなくなったみたいだってヒカリが言ってた。その代わり、違うタイプの男子とつるんでるって」
 赤毛の少女は正面から線の細い少女を見つめる。彼女はついと視線をそらせた。
 「確かにそんな感じにアタシにも見える。アンタがどんなのと付き合おうと知ったこっちゃないケド、アンタとつるんでる男子たち、女子には評判悪いわ」
 静かに、しかし断固とした口調でアスカは言う。
 「アイツら、ひとりじゃなんにもできないくせに、寄せ集まるとセクハラな会話をするか、女子をいやらしい目で見ることしかしないし、隠れて煙草吸うし、それに恐喝までしてるっていうし」
 「煙草を吸ったり、恐喝してるのは見たことがないよ」すこし考えてからシンジは言った。「確かに……ちょっとエッチかも」
 「ほら見なさい!」いきり立つアスカをシンジは制した。
 「だけどさ、オトコってみんなそうだよ。ケンスケだってそうだろ?」
 うっ、とアスカが詰まった。
 「エッチっていっても、いろいろ話をしたり、エッチなビデオや雑誌を持ってきたり、データを回したり……」
 「だーかーら、どうしてそんなのとアンタがつるむのよ。女の子の格好をしたアンタが」
 「ボクは女の子じゃない」
 「わかってる。わーかーってまーす」アスカは手を振った。「だけど、アイツらはそう思ってないわよ。アンタのこと、きっと『ガードの低い馬鹿オンナ』だと思ってる」
 「ふーん」
 「そういう態度やめて、人の話を聞きなさい!」アスカが怒鳴った。「アイツら、アンタをすっごくいやらしい目で見てるのよ。今日の体育の時だって、アンタ、体中触られてたじゃない!」
 バレーボールの授業のことをアスカは話しているのだった。

 アスカが要注意人物としている少年たちのグループに加わっていた碇シンジは、そのチームのなかで非常に好意的に扱われていた。
 サーブに失敗しても、レシーブでおかしなところに球を飛ばしても、彼らは特にシンジを責めることもなかった。
 ただ「ペナ(ルティ)」と称してほかの男子同様に軽くお尻を叩かれたり、触られたりするだけだった。
 ただし碇シンジのそれは、赤のブルマーに包まれた溌剌としたヒップだったが。
 また、レシーブの構えについても碇シンジには熱心な「指導」がついた。
 膝を曲げて、すこし開き、お尻を突き出す姿勢を取るよう何人もの男子たちがシンジの腰を、膝を、太股に手を当てて「正しい」姿勢を取らせようと努力する。
 どうしても崩れがちになると、シンジの背後から覆い被さるようにしてきちんとした構えにさせる。
 それはアスカやヒカリからすると、「体操服姿の華奢な美少女の全身を少年たちが口実を付けて触っている」ようにしか見えないのだった。
 あるいは「大柄な男子の下腹部にお尻を密着させるようなポーズで女子生徒が抱きしめられている」ように受け取られてもしょうがないほどの頻繁で不自然な肉体接触だった。
 さらに、待ち時間にベンチや怪談に腰掛けるときも、碇シンジは阻害されることはなかった。いや、彼らに言わせると「優遇」されていた。
 彼らは少女の姿をしたクラスメイトのための空間を確保してくれるのだ。
 男二人のあいだに作ったほんのわずかな隙間を指さされ「いかりぃ、ここに座れよ」と呼びかけられると、少女は「ありがと」と微笑むと華奢な体格にしてはボリュームのあるヒップをそこへ押し込み、クラスメイトの体温を感じながら他のチームの様子を見物するのだ。
 馴れ馴れしく腰や肩に手が回されても、偶然を装って胸の膨らみを弄られても、太股をさわさわ撫でられても、碇シンジはくすくす笑っているだけで、それを非難しようとしていないのだった。

 しかし、アスカの指摘をシンジは一笑に付した。
 「それ、アスカや洞木さんの思い違いだよ。そんなにいやらしく見えるなんて意外だなぁ。女子ってけっこう自意識過剰なんだ」
 「アンタ、馬鹿なの?」アスカは溜め息をついた。「知らないわよ。取り返しの付かないことになっても。いまのアンタって男子から見ると、すっごく……ああ、もう!やめた!お風呂入ってくる」
 ばん、とテーブルを叩いてアスカは席を立った。
 ショートボブの少女は溜息をつく。しかしその口元には笑みがあった。


 その夜もショートボブの女子中学生は声を殺して自慰をした。
 清潔なスポーツタオルを銜え、ショーツを脱ぎ捨て、大きく脚を開いて。
 「オジサン」たちに教えられて、すっかり巧みになった指遣いで。
 クリトリスを親指と人差し指で擦り立て、左手の中指をまだ純潔をかろうじて保っている牝襞へそっと差し込んで、Gスポットをそろりそろりと刺激する。
 ひくひくとうごめく腰がせり上がり、スレンダーボディが卑猥なブリッジを完成させてしまうころには、少女の瞳は欲望に蕩けてしまっていた。
 そして、少女は知っている。
 隣室の天才クォーター少女がこちらの気配に気付いていることも。
 しかし、なにも言えないまま、胎児のように身体を丸め、稚拙な指遣いでショーツの上から臆病に慰めることしかできていないことも知っている。
 ……アスカったら、本当に「オコサマ」なんだから!
 ほっそりした指先が与える甘美な刺激と惣流・アスカ・ラングレーへの優越感に碇シンジは震えていた。
 ……痴漢に触られたらきっと大騒ぎして逃げちゃうんだろうな。うまくコントロールすれば、マジですごくイイのに。もう、嫌なことなんて忘れちゃうくらいイイのに。
 ……男子の視線やスキンシップだって、こっちがしっかりしてたら全然大丈夫。
 ……アイツらのあの視線!ちょっとだけ見せて「あげた」ときのあの切なそうな顔!触れているうちにだんだん夢中になってきたところで「ダメ!」って言ったときのあの物乞いするみたいな目!
 ……オトナぶってる「だけ」のアスカにはきっと、全然理解できてないよ……。

 「ん……あ……は」
 少女の肉体が大きく痙攣し、ぱたりと脱力する。
 甘い余韻にひたりつつ、まだゆっくりとクリトリスを撫で回している女子中学生の表情には快感と、襖一枚隔てた場所で身体を強ばらせている少女への優越感しかないのだった。


【38日経過】


 一週間ほど前に「いやらしい大人たちのひとり」がその快楽のポイントを見つけ出して以来、少女は電車に乗る前に下着を付けなくなった。
 「そこ」を悪戯されるとショーツがびしょびしょになるほど汚れてしまうからだった(そうなってしまったとき、背後の男はとても嬉しそうに「すごいね、潮吹きするようになったんだ」と彼女の耳にささやいたのだった)。
 「パンツを汚さないための方便にすぎないのだから」となんども言い聞かせつつ駅のトイレで下着を下ろし、鞄にそれを収めて階段を上る少女のうなじは赤く、そして足取りはどこかふわふわしていた。
 ラッシュアワーのいつものホーム、いつもの場所。
 同じ車両に少女は乗り、そして「いつもの場所」へと連れ込まれた。
 乗客の死角になり、万が一少女が我に返ってもすぐに降りることができない場所へと。少女を取り囲み、その若鮎のような肢体を存分に悪戯できる場所へと。
 もはや獣たちはまったく躊躇しなかった。
 「淫行遊戯にすっかりハマってしまった遅刻常習犯の女子中学生」に対し、なにを遠慮することがあろうか。
 あっという間に制服のスカートが持ち上げられ、真っ白なお尻と滑らかな下腹部が剥き出しになった。
 「よしよし、えらいぞ」ささやかれ、馴れ馴れしく髪を撫でられた。「今日もパンツを脱いできたな」
 少女は無言のまま、そっぽを向く。
 だが、男たちは気にしない。
 そのままブラウスのボタンをぷつぷつと外し、ブラジャーを持ち上げて、お椀型のバストを悪戯できるようになるころには、少女はうなじを朱く染め、吊革を握った腕が震えはじめるのだから。
 男たちの何十本もの指に滑らかな肌を、可愛らしい双胸を、まだ硬いがむっちりとしたボリュームを持ったヒップを撫で回されていくうちに、少女の無表情はたちまちとろけてしまうのだから。
 尖り始めたちいさな乳首をくりくり転がして遊んであげると、ぎゅっと閉じた唇が震えて真珠のような歯が覗かせて、甘い吐息を漏らしてしまうのだから。
 滑らかな内腿を撫で回されるうちに、きれいに揃えられた革靴がじりりじりりと肩幅まで広がって「悪戯してください」の姿勢になってしまうのだから。
 ヒップの谷の奥にある淑やかな窄まりをちくちく指で悪戯すると、少女の視線はたちまち虚ろになるのだから。
 クリトリスとGスポットを交代で意地悪することには少女の両手は吊革から外れて、淫らな指遣いを披露する卑劣な男にすがりついて「あ……あっあっ……」と切ない声を上げてしまうのだから。
 少女が男たちに……少なくとも彼らの指が与えてくれる快楽に……夢中になっていることは明白だった。
 耳元でささやかれる質問に対してうなずくか首を振ることが、あるいは「ボクに、ボクにいやらしい手で触らないでください!」との絶対拒否の言葉以外のコミュニケーション手段はないものの、少女と男たちには一種の「協定」とも言えるものが成立していた。

 すなわち、
 「『本番』を行わない限り、彼女は彼らの行為を拒否しない」
 「この淫らな振る舞いは車両内だけ。それ以外の場所では声もかけてはならない」
 というものが。

 おそらくバージンであろう彼女は、どんなに感じさせられても……クリトリス責めで正気を失うほど感じさせても、すっかりほぐれてしまった尻穴へ人差し指の第二関節まで挿入し、妖しい痛痒感で無言のまま半狂乱にさえても……蜜壷にペニスを突き立てることだけは許さなかったのだった。
 男のペニスをほっそりした手のひらでしごくことまでは(もちろん自分からではなく、男たちの手を添えての行為だったが)許したものの、それを彼女の幼膣へ侵入させることは断じて許さなかった。
 強行しようとしたものには「ボクに触らないで!変態!」との叫びとともに告発されて、下半身を剥き出しにした言い訳不能の状態で連行されてしまうのだった。

 今のところは、男たちはそのルールに則って、存分にその可愛らしい女子中学生を快楽に酔わせて楽しんでいた。
 そして、近い将来ルールが改正されるであろうと確信していた。
 無理もない。
 最初は身体に触れるだけで彼らを睨みつけ、弾劾していた生真面目娘が、いまやノーパンのまま期待に胸を震わせていそいそと乗車してくるまでに調教されてしまったのだから。
 菊肛をくちくちいじられていると、がくがく躰を震わせてつつっと唾液を制服にこぼしてしまいそうになる変態少女が、満員電車のなかで雄の生殖器でずぶと貫かれるという行為を夢見るようになるまでにさほど時間がかからないことは確実なのだから。

 その日の四〇分少々の車内で、その華奢な少女は三回絶頂を迎えさせられた。


【40日経過】


 「へぇー、すごいねこれ。電車のなかで撮ってるんだぁ」
 愛らしい少女の声が教材倉庫に響く。
 BGMは「あん……は、はぁ……」という舌足らずなあえぎ声。
 こっそり合い鍵が作られた教材倉庫のなかで少年七人と少女が一人、肩を寄せ合うようにして端末を見つめていた。
 そのスクリーンに映っているのは、どこかの女子校生。
 彼女は満員の電車のなかで制服を半ば剥かれて、ふらふらと身体を揺すっていた。
 「やめてください」「いやです」そうつぶやいてはいるけれど、抵抗はかたちだけのもののようだった。
 そう、これはアダルトビデオ。
 碇シンジの友人のひとりがネットから入手した「モノホン女子校生・実録痴漢モノ」の映像データ。
 「なぁ、碇、面白いビデオがあるけど、お前も見るか」とささやかれた少女は「いいね、ボク、そんなのずいぶん長い間見てないよぉ」とくすくす笑いながら放課後の教材倉庫へ現れ、場所を空けてくれた男子のあいだにぺたんと腰を下ろしたのだった。

 そして「上映会」が開始される。
 「うわぁ、何人に弄られてるんだ」スクリーンに映るブロックノイズ混じりの動画に男子生徒のひとりが声を上げた。
 信じられないほど短いスカートの中が丸見えになるアングルで、ピンクのショーツに包まれたヒップがいくつもの手で悪戯されていた。
 「三人……かなぁ。でもさ、ふふふ……どーしてこんなアングルで撮れるわけ?絶対やらせだよ」画面を注視しつつつぶやく少女の表情が悪戯っぽいものに変わる。「あ、でも、ほら、この『手』のヒト、他の二人よりずっと上手っぽいよ。見て見て!」
 ほっそりした指で画面をつつき、他の少年たちへ振り返る。
 「こうやってさ、クリのところをさわさわって優しく撫でてるでしょ。これいいんだよ」無邪気な少女の声に男子生徒たちはごくりとつばを飲む。「パンツの上からいじるときはね、もどかしいくらいに、くすぐったいくらいがいいんだよ。ゆっくり、ゆっくりいじられているうちにさ、むずむずして、くすぐったくなったクリトリスがじんじんしてきて……もう、それのことしか考えられなくなっちゃうんだよ」
 「い、碇……お前さ……」誰かがかすれた声を出した。「お前さ……自分でするときもそうしてるのか?」
 少女は少し考える。「うー、うん。時間があってアスカやミサトさんがしばらく帰ってこないって分かってるときは。パンツの上から、さわさわさわさわこするんだ。一時間くらいいじってたこともある。もうね、何回イったか分からなくなっちゃった」
 少女はクラスメイトたちがディスプレイなどもう眺めていないことに気がついた。彼らが見つめているのは自分だった。「女の子座り」しているために剥き出しになっている膝小僧と丸みが強調されているヒップだった。
 少女はくすっと笑った。
 「でもさ、時間がないときは直接、親指でくりくりくるくる転がして、それから中指を『くっ』って曲げて、上の方のところをこするんだ。もう、ソッコーでイけちゃう」
 少女は昂ぶっていた。
 自分の言葉に、無言になった男子達の視線に。
 彼らのズボンの前の、どんどん大きくなる膨らみに。

 ……ふふ、僕にえっちな悪戯したくて、こんな「上映会」に呼んだんだよね。だけど、だけど、僕の言葉に圧倒されちゃったんだ。
 このあいだ、えっちな写真集を見せてくれたときにはお尻撫でたりしてたくせに、今日は……ふふ、おとなしいんだぁ。

 通学時のリニアで変態達によって「開花」させられた少女は優越感にひたり、小悪魔的な笑みを浮かべていた。
 彼女の視線がディスプレイへ戻る。その表情がさらに淫靡なものへと変わる。
 「うわ、見て!オチンチン出してる。すごい!車内でヤっちゃうんだぁ。やっぱりこれ、ヤラセだよね」そこで少し置いてから少女は続けた。「それにしても……さ、僕、オチンチン見るのって久しぶりだよ」と。
 さらにわざとらしい口調で続ける。「もう僕、ぎゅって握ったときの硬さとか、熱さとか、ぬるぬるする感じとか忘れちゃったなぁ」
 言葉にならないどよめきの中、碇シンジは可愛らしい少女の顔と声でこう提案するのだ。
 「ね、せっかくだからさ……見せてよ。みんなのオチンチン。僕、男の子なのにオチンチンのこと、忘れちゃったらまずいだろ」
 性的な知識が豊富で、一四歳にもかかわらずレイプまがいの性体験すらあると仄めかしていた少年たちは思考が麻痺させ、沈黙していた。
 少女の笑みがもっと大きなものになる。上目遣いで彼らを見上げた。
 その仕草も言動も、思考の結果で為されたものではなかった。それは純粋な「反応」だった。
 唇をゆっくり舐めて、彼女は提案する。
 「ね、見せてくれたら……僕がいじってあげてもいいよ」

 少年たちは競争でもするかのようにベルトを緩めはじめた。

 「ね、ボク、上手いだろ?」
 左右の手で同級生のペニスを悪戯しながらショートボブの美少女はうっとりとした表情で自慢した。
 「だって一ヶ月前までは、『自分のオチンチン』をいじってたからね」
 「あ、う、碇、いかり……オレ、出そう……」
 「いいよ、出しちゃえ!出しちゃおうよ」少女のしなやかな手指が少年たちのペニスをしごき、先端のぬるぬるを人差し指でくるくると塗り拡げた。
 悲鳴に近い声とともに、白い液体が放物線を描いて飛んでゆく。
 「さ、次……きゃ」
 少女が押し倒される。ソックスを履いた足首が掴まれ、がばと広げられた。
 「ボク、男の子だよ」明らかに優越感にひたったまなざしで「彼女」はクラスメイトを見つめた。「ふふっ、それなのにボクのココにオチンチン入れたいんだ……男とセックスしたいんだ……」
 にっこりと微笑む。彼女を押し倒した少年は凍りついたまま動けない。
 「だめだよ!」少女は言った。「ボクはセックスするつもりはないんだ。ボクは男だから、男の人のオチンチンで『女』になるつもりはないんだ。あとオーラルセックスもイヤ。だって、自分のオチンチンを舐めたいと思わないもん」
 彼女は断固とした口調で宣言する。「もし強引にしたら、警察沙汰になるよ。ボクは泣き寝入りなんかしないよ」
 彼らはひるんでしまう。どうしていいのか分からなくなってしまう。
 そしてそこに、甘い代替案が提示されるのだ。
 厳しい表情を一瞬のうちに消え失せさせて、はにかみつつ提案するのだ。
 「その代わり……ね、『B』までだったらなにしてもいいよ」と。
 少女を押し倒したまま凍りついている男子生徒の様子に、肩を震わせて笑う。

 数分後、ショーツとハイソックスだけになった少女の全身を同級生の指が、舌が這い回っていた。
 甘くひそやかな歓喜の声を上げる彼女は、リズミカルに両手を動かして少年たちの精液を絞り出してゆく。
 彼女はとても楽しそうだった。
 少年たちが彼女を女神のように崇め奉って、「奉仕」してくれることにどうしようもない優越感を抱いてしまう。
 たとえ少年たちの愛撫が通学電車の痴漢達のそれにはまったく及ばないとしても。
 また、同僚であり同居人でもある惣流・アスカ・ラングレーが、こんな淫らな行為なんて想像することもできないだろうと考えては笑みがこぼれた。
 「あ、あ、おっぱい舐められるの……気持ちいい。あ、これ……ぺろぺろされるのって癖に……なりそう……」
 乱暴に臆病に、少女の肌の感触と味を満喫するクラスメイトたちによる何時間にも渡る「奉仕」の快楽に酔っていた。


【45日経過】


 「ずいぶん楽しんでいたね」
 ホームを数歩進んだところで、背後から声がかけられた。
 ……ルール違反だ。降りてからは声をかけないことになってたのに。
 ぎゅっと拳を握ってから碇シンジは振り返る。
 怒りを内包した視線で声の主を見上げる。
 そして少女は凍りつく。
 「冬月……副司令」
 そこに立っていたのはリニアの車内で彼女に変質的行為の限りを尽くした男たちの一員ではなかった。
 「いつからかね」大股で近寄ってきた初老の男は言った。グレーのスーツを着た姿は秘密機関の上層部員というよりも、学校の教師のようだった。
 「あ、あの……い、一ヶ月くらい前からです」ぽろぽろと涙をこぼしながら少女は男に告げた。「逆らえなくって……恐くって……」
 「そうか。それは気の毒に」
 「……ああ、もう……ボクはイヤなのに、周りをぐるっと囲まれて……」
 ……ああ、簡単に涙を流せるんだ。ボクって。
 共犯者としての立ち位置を一瞬のうちに被害者のそれに置き換えた少女は、その変わり身の早さに内心で驚いてしまった。
 「そうか、それは……」冬月もかける言葉がないようだった。少し考えた後に続ける。「ちょっと落ち着いて話のできるところへ行こう」
 シンジは瞳に涙を浮かべたままうなずき、うつむいたまま冬月と並んで歩き出す。
 男の手がそっと少女の細い肩に回り、「もう大丈夫だから」と言われると、感謝に満ちたぎこちない笑みを浮かべることさえできることに彼女は驚いてしまう。
 ……すごいや、ボクって。
 碇シンジは自分でも驚いていた。
 「保護欲をそそられる女子中学生」をこんなにうまく演じられるなんて。


 しかし、少女の自惚れは十分足らずで打ち砕かれた。
 「あ、あの……副しれ……い。こ、ここは……」
 「ご休憩○×円」
 「ご宿泊△○円」
 そして鮮やかな、毒々しいまでのネオン。
 冬月が彼女を連れてきたのは駅裏に林立するラブホテルの前だった。
 「ああ、そうだよ」男の表情には普段の柔和なところがどこにもなかった。あるのは酷薄な肉食獣のそれだった。「ここでじっくり言い訳を聞かせてもらおう」
 「言い訳ってなんのこと……きゃぁ」少女は悲鳴を上げる。男に制服のスカートを大きく持ち上げられてしまったのだ。
 「下着はどうしたのかね」
 「そ、それは……途中で脱がされて……」持ち上げられた裾をなんとか押さえようと努力するが、淫蜜に濡れそぼった飾り毛も、粘液の跡の残る内腿も隠すことはできなかった。
 「では、鞄の中に脱ぎたての下着が入っているのをどう説明するのかな?」
 「そ、それは、あ、あ……」少女はがたがたと震え出す。知られているのだ。なにもかも。
 「お願いです!」少女は懇願する。男の理性に呼びかける。「ぼ、ボクは確かにいけないことをしました。でも、こんなのは、こんなところ、人に見られたら……あ、う、あぁ……」
 「電車の中では見られても気にしなかったのではないかな」少女の後門へずぶりと人差し指を突き立てた男は笑った。そのままゆっくりと指を曲げ、ゆるりと動かすとたちまち少女の表情が悦楽にまみれたものへと変わる。
 「さぁ、聞かせてもらう。保安部のレポートは、詳細にはほど遠いものだったからな」スカートを下ろされ、肩を抱かれた。
 脚をもつれさせつつエントランスへ入った彼女は、冬月に命ぜられて「どの部屋にするか」を自分で決めさせられる。
 「そうか、『ジャグジーのあるお部屋』が君はいいのか。なるほど、泡風呂のなかで私に許しを請いたいのだな。君は」
 「ゆるして……ゆるして……ください。副司令……」
 「とても楽しみだよ」おのれの欲望を隠そうとしない冬月に衝撃を受け、もはやひとりでは立っていられない美少女に男は微笑んでみせた。それから少女のおとがいに手を伸ばし、まっすぐこちらを見つめさせた。
 「まず、私のことは『冬月先生』とよびなさい。いいね」
 念を押し、つよく見つめておいてから、おとがいを掴んだまま数回揺する。
 涙をこぼしながら彼女はうなずく。
 「は、はい……冬月……せんせい」
 「よろしい。素直にしていればすぐに終わるよ」
 そして女子中学生とその祖父といってもいい男性とのカップルはエレベーターへと消えた。

 男女が交わることを主目的として作られたその室内で、冬月「先生」は碇シンジを断罪する。

 男の手で制服を剥かれた女子中学生は、ベッドの上で犬這いの姿勢を取り、さらには両手でヒップの谷間を拡げるよう命じられた。
 その姿勢で「冬月先生、これがついさっきまで痴漢たちに悪戯されたボクのアナルとヴァギナです……どうか純潔を保っているかどうかを確認ください」と泣きじゃくりながら言わされた。
 声が小さいという理由で、二十回以上の言い直しを命ぜられ、隣の部屋まで聞こえるくらいの大声で叫んでいるうちに、少女の思考は被虐の色に染まってゆく。
 男の指で丁寧に「検査」されるうちに、少女の唇からは甘い嗚咽が漏れるようになる。
 あっというまにGスポットを見つけられて、かすれた悲鳴とともにひくりひくりと腰を振ってしまう。
 クリトリスをどう弄られるといちばん感じてしまうかもばれてしまって、彼女はシーツに涎と涙をこぼしながら「ごめんなさい。冬月先生ごめんなさい」と叫んでしまう。

 表に返されて、滑らかな肌と可愛らしいバストを確認される。すっかり敏感になった乳首をぐりぐり摘まれると、泣きながら彼女の淫行について語りはじめる。
 言葉を詰まらせたり、答えをためらうことは許されなかった。
 シンジの言葉が冬月の気に入らないものであれば、それは嘘だと断言された。
 そしてそのあとには懲罰が待っていた。
 可愛らしいお尻に容赦ない打擲が与えられ、ちっぽけなクリトリスがひねりあげられると、少女はたちまち耐えられなくなり号泣とともに「真実」を述べる。
 冬月「先生」が正しいと認める真実が謝罪の言葉とともに述べられるのだった。

 痴漢達の指遣いに好奇心を刺激され、気がつくとそれに溺れていたこと。
 同級生男子がこちらに向ける視線を受けているうちに、身体が熱を帯びるようになったこと。
 無意識のうちに蠱惑的で淫らなポーズを取って男子を誘惑するようになり、それどころかここ一週間ほどは放課後に誰も来ない倉庫で、男の子達のオナニーを手伝うようになったこと。そのお返しにまだ稚拙だけどいやらしく情熱的な指と舌で全身を悪戯してもらっていたこと。

 キスもセックスも、口唇奉仕も拒み続けたのは、それらは碇シンジにとって「女性になる」行為に他ならなかったからだと。
 男の手によって快楽を与えられることは碇シンジにとってまだ許されることであっても、男のペニスを受け入れることは容認できなかったからだと。

 「いやなのかね?男性のペニスを受け入れるのは」上着だけを脱ぎ、ベッドにあぐらをかいた冬月は可笑しそうに訊ねる。少女にベッドに膝立ちするように命じ、その前後を両手でくちくち虐めながら。
 「だって、だって!オチンチンを、オチンチンを入れられてヨロコブのは女の人だけでしょ!?もし、もしボクがオチンチンを入れられちゃったら、もしそうなっちゃったら、ボクは、ボクは女の子になってしまいますからぁっ!」
 アナルとGスポットの両方を同時に攻められた少女は全身をぶるぶる震わせて尋問者にしがみつくと、涙ながらそう叫ぶのだった。

 「検査」が終わるころには、碇シンジは男の命ぜられるままのポーズを取り、破廉恥な台詞をいくらでも叫ぶようになっていた。

 ベッドに仰向けに横たわり、一八〇度近く開脚した上にほっそりした指で処女花を拡げてみせることも。
 「冬月先生。これがボクのいやらしいあ、アソコ……い、いえ、マンコです!痴漢に指でピストンされて、とっても気持ちよくなっちゃったいやらしいアナです!」と叫ぶことも。
 まだまだボリューム不足の胸を、その先端を転がしては、切ない表情を父親の片腕である男に鑑賞されることも。

 「ようやく素直になってくれたな」頭を撫でられて少女はすすり泣く。
 「ではその身体を清めてあげよう」優しい言葉に少女はうなずく。それが男とともに浴室へ入り、全身をいやらしく磨かれることだと分かっていても、少女はもはや反発することも拒絶することもできない。
 それどころか「私の服を脱がせてくれるかね」と命ぜられると頬を染めてこっくりしてしまうのだ。

 浴室で冬月によって若々しい肉体をぬるぬると清められていくうちに、碇シンジは自身のタブーをひとつ破ってしまった。
 老人の手のひらで全身を撫で回されて息も絶え絶えになったところで、その唇を冬月へ捧げてしまったのだ。
 拒絶の声を上げることもできないまま唇を割って侵入してきた相手の舌に口腔内を蹂躙され、臆病に逃げ回る自分の舌に絡みつかれた。
 少女はたちまち夢中になった。
 シャボンでつるつる滑るお互いの身体を密着させ、冬月の「お膝」に乗った状態で彼につよく抱きついてのキスに夢中になった。

 全身に塗りつけられたシャボンを落としてもらう途中で、碇シンジはまたしても自身が設定したタブーをひとつ破ってしまう。
 すなわち老人の固く屹立したペニスへの「お口を使っての御奉仕」を命ぜられるままにはじめてしまう。
 両手を使って丁寧に冬月のペニスを清めていくうちに彼女の体温は上がってしまっていた。
 そこに「さぁ、君の可愛らしいお口でこれをもっと綺麗にしてくれないかね」と命ぜられると、ふらふらと身体を前屈させて暖かな小さな舌を突きだして、赤黒い雄ペニスを舐め回してしまっていた。
 いつのまにかタイルに仰向けに横たわる冬月の上にシックスナインの姿勢でまたがって、喉奥まで彼のペニスを銜えておしゃぶりすることになんの抵抗も感じなくなっていた。
 それどころかこのポーズを取れば「オチンチンを舐めさせてもらえた上に、オシリの穴と女の子の穴の両方をいじってもらえる」ことを発見して嬉しくなってしまう。
 雄のペニスも、匂いも、ぬるぬるした液体の味も、どろりとした青臭いザーメンの味も、匂いも、舌触りにも、嫌悪を感じていないことに少女は気付いてしまう。
 そしてそれを自身の成長の証だと、贖罪の精神の表れだと考え、喜びを感じているのだった。

 だから、最後のタブーすら、簡単に乗り越えてしまったのだ。
 ベッドへ再び連れて行かれ、部屋に据え付けの器具で腰を突き出したM字開脚に、両手も使えないように固定されて「どんなに逆らっても男のペニスを受け入れてしまう姿勢」で大きなベッドの上に投げ出された少女を冬月はいやらしい手つきで撫で回し、舐め回す。
 痴漢たちに、早熟な同級生男子達に全身の性感を高められてしまった少女はたちまちのうちに我を忘れた。
 腋下を舐められて「あ、あ、ふゆつき……せんせ……す、すごいです、そこ、くすぐったくって、ヌルヌルしてぇ」と泣きじゃくる。
 身体の底の部分……前門の襞が終わったところから菊門すぼまりまでのあいだ……をそろりそろりと執拗に爪の先で擦り立てられると「冬月先生!冬月先生!ボク、ボク、ここは、ここはやめてくださいっ!」と全身を痙攣させて喜びを表現する。
 拘束されたまま、再びキスされるとさっきのときよりはるかに情熱的に舌を絡めて、積極的に喉を鳴らして男の唾液を飲み干した。
 拘束されたままのフェラチオにも抵抗はなかった。むしろ髪の毛を掴まれて強引に前後させられてペニスが喉奥にこつん、こつんと当たるたびに甘美な屈辱が押し寄せてきて牝膣からの蜜がさらに濃くなっていくのが分かるのだ。
 絶頂を迎えたときに「イク」と叫ぶよう躾けられると、素直にそれを受け入れる。そして「イク」と叫んだとたんにその言葉からも快楽を得ることができること。「イク」と叫べば絶頂間際のもどかしい上り坂からいっぺんに頂上に達せられることを覚えてしまうと「ああ、ああ冬月先生!ボク、ボク、あ、イキます!イク、イク、いくぅぅ!」となんのためらいもなく熱唱するようになった。
 だから、二時間以上の拘束愛撫による快楽で思考能力を完全に失ってしまった少女に「さっきまで君が銜えていたペニスで、ここを奥まで突いてもらえばもっともっと気持ちよくなれるんだがね」
 そう仄めかされた少女が躊躇したのはほんの数秒。
 欲望と羞恥に頬を染めて「冬月先生……ボクとセックス……してください」とおねだりしてしまう。
 「いいのかね?それは君が女になることを意味しているのだよ」真摯な口調で確認する冬月はしかし、同時に少女のGスポットとクリトリスを同時責めしてさらにさらに、彼女の理性を奪っていた。
 だから、碇シンジの答えはイエスだ。それしかあり得ないのだった。
 「なるぅ!なります!ボク、ボクは女になります!女の子になってもいいです!いえ!女の子にしてください!ボク、女になりたいです!」と涙ながらにお願いするのだった。

 破瓜の痛みと肉体をこじ開けられ、穿かれる苦痛。
 しかしそれすらも快楽になってしまうことに少女は気付いた。
 本当の愛を知ってしまえば、本当に愛を捧げる相手との交わりならば、それはすばらしい快楽になるのだと。
 自分がその「本当の、本物の、正しいセックス」のときまで純潔を保つことができたことに、碇シンジは心から安堵し、感謝するのだった。

 だから、父親よりも年上の男にのしかかられての無惨なほどの開脚姿勢を強いられる自分自身の姿を天井に映る鏡に発見したときも、彼女は哀しいとは思えなくなっていた。
 泣いても、懇願しても冬月コウゾウの腰が残酷にうごくたびに狭隘な肉体へペニスが埋め込まれていく感覚に、怯え、泣きつつも同時に「ひと突きごとに冬月先生に支配されてゆく自分」を発見してしまう。
 男にキスをされているときは、彼の背中にしっかり抱きついているときは、ペニスの与える苦痛を忘れていられることを知ると、「先生、先生、ボクにキスしてください。ああ、あ、ん、んふぅっ」と頬を染めて、まるで本当の恋人のように陵辱者を抱擁するようになっていた。

 そしてついに、究極のタブーも破られてしまう。
 「さぁ、君の中へに私のものを流し込んであげるからね」と囁かれると少女は蒼白になった。
 「お、お願いです、ボク、ボク、そんなこと、そんなことされたら妊娠しちゃいますっ!」
 「なるほど、十分に君は『女』だったのか。それは実にけっこうだ」
 細い悲鳴を上げる少女。だがそれは冬月の獣性をさらに高めるだけのこと。
 彼女を苦痛で泣き叫ばせつつ、さらに残酷にピストン運動を行うのだ。
 そうして少女はまだ幼い子宮へ男の精を流し込まれてしまった。
 どくどくと流れ込む液体の熱さに「ひどい、ひどいです……」としゃくり上げつつも、少女は甘美な絶望感にひたるのだった。


【「選択」後:7日】


 副司令の執務室のアラームが鳴り、冬月は鷹揚に「入りたまえ」と声をかけた。
 圧搾空気の音とともにドアがスライドし、小走りに少女が入ってくる。
 ショートボブも愛らしいサードチルドレンだった。
 「あの……冬月先生、訓練が終わりました」頬を染めて上目遣いで男を見つめる。その表情は先週までの「彼」には見られないものだった。
 「学校はどうかね」
 「楽しいです。通学も……先生のおっしゃるとおり、女性専用車両に乗ることにしました」
 「そうか。私の時間が空けば、公用車で送ってあげよう」
 「あ、ありがとうございます」少女は真っ赤になって目を潤ませている。
 彼女は公用車の後部座席で冬月の膝に乗せられてのセックスがお気に入りになのだ。
 黒塗りの高級車で登校できるという優越感と、その中でいやらしく乱れてしまう背徳感がミックスされた感覚が大好きになってしまったのだった。
 「そう言えば、惣流君が君のことを話していたよ。『ずいぶんお淑やかで、女の子らしくなったのでほっとしている』と。『評判の悪い男子とも付き合わなくなった』そうじゃないか」
 「そ、そうですか……恐縮……です」
 「私の教育の成果かな」
 「は、はい!冬月先生のおかげです」少女はなんどもうなずいた。「ボクをレディとして躾け直してくれた冬月先生がいらっしゃらなければ、もう、どうなってたか」
 「『どうなっていたか』だね」
 「は、はい!申し訳ありません」
 「構わんよ」冬月は笑った。祖父といってよい男のペニスの虜にされてしまった少女にとって、痴漢の指も、同級生の性急なタッチや早熟なペニスはもはや眼中にないらしい。良い傾向だった。
 「さて」ペンを置き、冬月は改めて少女を見つめた。
 「おいで」机の上を指さす。
 「はい」うっとりと微笑むと少女は制服のスカートの中へ手を入れて、優美にショーツをするすると下ろした。
 そのまま執務テーブルへよじ登ると膝立ちになり、ゆっくりとお臍が見えるほど大きくスカートを持ち上げる。
 連日の中出しセックスでペニスのカリでごりごりと擦られる感覚に目覚め、さらには子宮口を男性器でこつこつとノックされる快楽を教え込まれた少女はストリッパーさながらの行為になんの抵抗もなかった。
 そしていつもの呪文を唱える。サードチルドレンを淫らな奴隷へと変える呪文を。

 「冬月先生、先生のいけない生徒の碇『ユイ』に教育を施してください……」
 老教授はゆっくりとうなずくと、まるでなにかを冒涜するかのように中指を突き立てた左手を「ユイ」のはやくも雫がぽたぽたと散っている執務卓の上へ置いた。
 十四歳のユイは頬を染めてゆっくりと腰を落とし、そのごつごつした中指を幼い胎内へ収めると熱くて同時に柔らかい肉襞できゅうきゅう締めあげつつ騎乗位のように腰を振りはじめた。
 「ああ、ああ、先生。冬月先生!先生の指チンポ素敵です……ユイは、ユイは……冬月先生の全部が……指も、ても、唇もオチンチンも大好きです……」
 ショートボブを乱れさせ、ノーブルな美貌から隠語を迸らせながら、冬月の愛玩生徒は感激の表情で腰を振っていた。

 ……見たまえ……私は成功したぞ。
 冬月はある男へと心の中で呼びかける。
 ……ここにいるのは紛れもなくユイ君だ。十四歳のころの、早熟なユイ君だ。
 ……私の望んだ、私を慕い、私しか見えないすばらしいユイ君だ。
 ……成功したのだ。本当のあるべきユイ君を復活させることに。

 男は机の上で快楽を貪る女子中学生の肉洞で締め付けられている指をゆっくりと抜いた。
 それから彼女の細い腰を持ち上げて机の上から下ろし、その代わりに自分の膝の上へ載せた。
 対面姿勢の発情美少女は息を荒げたまま手を伸ばして「冬月先生」のズボンのベルトを緩め、ボタンを外していきり立ったペニスを取り出した。
 軽い少女の肉体をペニスの上に下ろしてゆく。
 「あ、ああ、せんせい、ふゆつきせんせい。ああ、やっぱりこれ、ユイはこれがいちばんスキです」
 「たった一週間で痛みを感じなくなるどころかペニスの虜になってしまうなんて、ユイはいけない生徒だな」
 「だって、だって……」頬を染めた少女の表情は、恋する乙女そのものだった。「毎日なんども先生に中出しセックスしていただいたんですもの……」
 冬月の精子を毎日流し込まれ、すべてを受け入れることを強いられた少女は、新た階梯を上り始めていた。
 硬いペニスを飲み込んだ少女は男の首にしがみつくとハイソックスの足首を男の腰へ回してゆっくりと動き始める。
 感極まって涙を流し、男の唇を貪っている少女……ユイは幸福そのものの表情だった。

 ……見るがいい。この表情を。

 はやくも軽いアクメに達したらしい女子中学生が可愛らしい声で「ボ、ボク……ユイは、ユイは、い、イク、イクゥ」と叫び、きゅうきゅうと冬月のペニスを締め付けて少女子宮への射精をおねだりする。
 射精する代わりに腰を突き上げて「教育」がまだ続くことを教えてやると、ユイは切ない歓びの声を上げた。

 ……これが正しい選択なのだよ。
 冬月は心中で勝利を宣言する。

 「先生!冬月先生!ユイは、ユイは先生を愛してます!だから、だから!」
 記憶どおりの声で十四歳のユイが愛を誓っていた。涙ながらに、すばらしい締め付けでペニスに奉仕しながらセックスに夢中になって。

 だが、その誓いの言葉は冬月の記憶には存在していないことも、その理由も分かっていた。

 十一年前に喪われたユイは、冬月のことなど見ていなかったのだから。

 男は少女の腰を掴むと乱暴に揺すりはじめた。
 愛らしい悲鳴はしかし、すぐに賞賛と感嘆の淫ら声に変わることは分かっていた。

 冬月は心中で繰り返す。

 ……これが正しい選択なのだよ。分かるだろう?

 それが誰に向けての言葉なのか、もはや冬月コウゾウ本人も分からなくなっている。




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Original text:FOXさん