Time Enough for Love

Original text:引き気味


『 生まれることのなかった少年 』


 十一年後には取り壊しも始まり、廃墟そのものでしかない姿を晒す第3新東京市の建設職員用団地だが、勿論二〇〇四年の現時点ではそうではない。
 ここに暮らす人々のありふれた生活が詰め込まれた、彼らの穏やかで暖かな、帰るべき我が家だ。
 ユニットバスの窓を湿気がこもらないよう薄く開いておけば、表に面したそこから朝と晩と、通路を行ってまた帰ってくる住人達の足音が驚くほどはっきり伝わってくることもある。慌ただしかったり、いかにも疲れた風であったり。
 急ピッチで進む巨大都市建設は、集められた人員の数も膨大なものだ。なかば間に合せのように作られた団地はそれだけ手狭で、隣近所とも混み合っていて。だからこそシンジには、綾波レイの部屋を訪れた時の静まり返りきった不気味さを、ここに重ね合わせて見ることは難しかったのだった。
 同じ間取りなのだろう部屋の中、たとえ一人きりで待っていたとしても。あの少女が暮らしていた荒れ果てた場所とは何もかも様子が違って見える。
 そうした印象の重ならない最たるものが、そもそもが記憶すら残っていなかった母親だった。
 自分が3歳の頃、27歳で死んだ母親のことなど面影も思い出せないでいたシンジである。葛城ミサトや赤木リツコよりもまだ歳下でしかない彼女――綾波ユイのことを、どうして母として見ることが出来ようか。
 なにより、彼女は綾波ユイであって碇ユイではなく、そしてここには碇シンジがいない。
(あ……)
 窓から聞こえてきたのは、もうすっかり耳に馴染んだパンプスの足音だ。
 火を使っている最中であったのに、思考に深く沈み込んでしまっていたことに気付いて、慌ててシンジはガスレンジの火を止めた。


◆ ◆ ◆


「すいません、少し焦がしてしまって」
「気にしないで」
 シンジの仕度した夕飯を済ませて、シンクに並んで食器を片付けながら、ユイはおかしそうに笑ってみせた。
「仕事を済ませて帰ってきて、またご飯の用意だなんて一仕事、しないで済んでるんだもの」
 洗っていた最後の茶碗を布巾を持つシンジへと渡し、きゅっと蛇口を絞める。
「それに不思議ね。あなたに料理を教えたのは私じゃなかったって話だけど……」
 それを出来なかった、ことによれば出来なくなる道を敢えて選んだ自分。そのことに触れるユイは微笑んではいても、苦い横顔だ。
「なのに、なんだか懐かしい味のような気がするのよ」
「母さん……」
 息子だと名乗る得体のしれない少年でしかなかったシンジに聞かされてのことだが、既にユイに疑いは無い。
「ほんとうに、不思議ね……」
 渡された食器をシンジが全て拭き、シンクの上に吊るされた棚に戻し終えても。ユイはじっとそこを動かないまま、自分が産むことのなかった息子を見詰め続けていた。

「…………」
「……ンッ、んんっ」
 言葉を交わすことなく、二人の影は一つになっていた。
 頭一つ分背丈の足りない少年に軽く膝を曲げて、ユイの方が覆い被さるように口付けを行う。
 どちらがより積極的なのか区別が付かなくなるまで、息苦しくなるほどに貪り合って。唾液の糸を引いて一度顔を離せば、既に幾度となく男女として躰を重ね合った二人だ。見つめ合う瞳だけを合図に、そろそろと姿勢を変えていくのだった。
 シンジがゆっくりと姿勢を下げ、ユイの前に跪いていく。
 ユイは少年と視線を絡めあったまま、帰ってきて一度シャワーを浴びた後に着替えたワンピーススカートをたくし上げていった。
 静かににじり寄っていたシンジの前に曝け出された純白のシルク生地。清楚ながら精一杯のお洒落らしくレース細工が散りばめられたショーツの中心には、小さく滲んだ染みが。
 そこに気付いてじっと見詰める先を移した少年に、ユイは羞じらった。
「ぁ……」
 か細く漏らされた吐息。
 男臭さとはまるで無縁で、少女にすら見えるほど線の細い少年が、それでもやはり雄の情欲を刺激されているのは明白だ。
 食い入るようにされて頬を染め上げるユイは、一回りの歳の差を思わせないほどに初心な乙女に似て見えた。
 その一方で、
「凄い……」
 ゆっくりと下着を剥ぎ取っていく少年に息を呑ませるほど、露わになった媚肉の場所にははっきりと募りゆく欲情のサインを示していたのである。
「こんなに……」
 嬉しそうにシンジが口にする。
 本来であれば三歳になる自分自身という息子を抱える母親であった筈の女性の、その未だ可憐なピンク色をした秘所を間近にして。ごくりと生唾を飲む少年のズボンの中では、既に固くなったペニスが生地を突き上げんばかり。
 こんなに――。その先は何だろうか。
 こんなに濡らして?
 ユイには自覚があった。ショーツに手を掛けたシンジに協力するように脚の位置を変え、足首まで引き下ろされれば左右を順に抜いてやり。そして促される前に控えめに両脚を開き、よく見えるように――いや、よく見て貰えるようにして。
 女性器に注がれる熱い眼差しを意識するほど、女である泉の奥から浅ましい衝動の湧き出す感触があった。
(あぁ……)
 それとも、こんなにいやらしく肉の入り口をヒクつかせていることをだったろうか。こんなにも物欲しそうに、クリトリスを大きくしてしまっていることの方だったろうか。
「だって、貴方が――」
 口をついて出かけた言い訳の仕方が、『だって』だとは。そんなものの言い方、学生時代以来ではないだろうか。
 少年よりもずっと大人である自分。少年からすれば、実の母親である自分。学生時代からの俊才という評価を損ねることなく、尚も職場ではハイレベルな領域に研究を進めている、磨き抜いてきた知性を備える筈の自分。自分とはこういう人間なのだ、こう振る舞うべきなのだという何もかもを今、その通りにはまったく出来ずにいる、ぎこちない自分に、(こんな歳で……)と自嘲しつつも。その甘酸っぱい羞恥心すらもがユイの胸をときめかせる。
「だって……」
 掠れる囁き声で告白することへの躊躇。それを、トクントクンと胸の鼓動を弾ませるユイは、なんとも大人げない媚態ではないかと充分承知しつつ、思い切って振り切ってしまえたのだった。
「――あなたが、わたしを女にしてくれたんだもの」
 一度口ごもり、はにかむように口にしてしまった彼女の瞳は、潤んだ熱情に輝いていた。
「か、母さん……!」
 それこそが、その事実こそが、この未来からやってきた少年の自制心を焼き切ってしまう一言なのだと、ユイは充分理解していたのである。

「ああっ。アッ、ぁあ〜ンンン!!」
 ――ベッドに、ベッドに行きましょう?
 壁へと自分を押し付け、むき出しになったヒップをまさぐるのを止めないままズボンを脱ごうとするシンジに、息も絶え絶えユイは願いはした。
 居ても立ってもとばかりにむしゃぶりついて来た少年に熱烈なクンニ奉仕で蕩かされたユイは、玄関から幾らも離れていないそこで危うく、大声を上げながら達してしまうところだったのだ。
「我慢、出来ないよ……。母さん!」
 だがシンジはもう、止まらない勢い。
 過去に戻って会いに行ってみれば、何故か自分を産んでくれてはいなかった母親の、その処女を。自分こそが奪った。
 抱いて、硬くなった性器で突き破って、そしてこの人のそこは血を流していたのである。
 自分が、母である筈のこの人をおんなにしたのだ。一から全て、男と女で交わり合う悦びを教え込んで、こんなにも淫らに変貌させたのだと。他ならぬ母親自身の口から囁かれた少年は、既に脳裏を沸騰させている。
「ンァ、ぁッ!? だめだわ……! ま、待って!?」
 気忙しく取り出された若い肉茎が太腿の内側に押し当てられて、そうやってヒップを突き出し待ち受けている上へ上へとなぞっていく。
「母さん!」
「ダメよ、そんな……。母さんだなんて、私のことをそんな大声で――」
 シャワーを浴びた後で、ユイは窓を開けないままではいた。
 けれども、急拵えの部分が目立つこの部屋はどれだけ、この人に知られてはいけない禁断の交わりを外へ漏らさずにいてくれるだろうか。
「ぁああッ、あっ、シンジ――!!」
 慄きながら、しかし恍惚として。
 心の中だけではまだ(シンジ君……!)と呼び続けている少年に、背中から貫かれる。どうしようもなくぬめってしまう淫裂から深くを、荒々しい抜き差しで突き崩されていく。
「んんっ……ふぅぅん」
 この歳になるまで男を迎え入れたことのなかった女陰を暴れ狂う若い牡槍に開発されていく悦びの、酔いしれんばかりの心地ときたら。若手ながら既に先達たる知の巨人たちに伍する働きをして見せているユイをして、本当にどんどん馬鹿になっていってしまうと思わせるほどのもので。
(このっ……子は、わ、わたしの……。私が生んだかもしれなかった、可能性世界から来た、未来の……息子で……)
 しかし、この倒錯した官能で胸を一杯にする幸福感は、知ってしまえばどうしてもう手放すなどと考えられるだろう。
「わたしっ、わたし、自分の……息子に、おんなにされてぇ……!! あああッ、あああっ。凄い、凄いわ……! こんなのって、ああ、あああン!!」
 母親の媚肉を熱く爛れさせ、愛蜜をとろとろと垂れ流すほどに下拵えの整った花芯へと、灼熱の欲望を突き立てる。
 若さに猛り狂うその根本までを埋もれさせて、回帰させて。遮二無二突き上げるのだ。
「あぁ! あぁ! あぁぁ……!」
 若く美しい母親が、なすすべもなく十四の少年に歓喜の悲鳴を上げさせられていく。
 そうしてグッと腰を押し付けるように放ってきたシンジの精を、子宮の入り口に届くほど深く受け止めた。そう察知してからの愉悦の湧き上がった巨大さに、一瞬にして意識を灼かれてしまったユイに。
「はぁ、ぁ、ぁぁ……。シン、ジ……。好きよ、大好きよ――」
 二人分の体重をどさりと壁へとぶつけながら、悩ましげな呻きで身震いを続ける。それ以外は無かったのである。





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