がらんどう@まにあっくさんの『ツバサの話(仮題)』


118 :がらんどう@まにあっく :06/09/13 19:03 ID:???
 お絵かきBBSを覗いたら、なんか一気に妄想が広がってしまったので書き込み。
 ちょっとだけ。



「ねえ――さん」

 アスカの声は震えていた。
 弱弱しい。
 今まで、彼女がそんな声を出したことをシンジは聞いたことが無い。
 惣流アスカ・ラングレーという少女は外に強さ、内に弱さを秘めてはいる。そのことは親しい人間の多くが知っていて、なかでも彼だけがその弱さを顕した姿を知っていた。いや、自分だけが知っているつもりだった。
 なのに。
 彼女は震えている。
 声だけではなくて、身体も震えている。
 そして、無意識に隣に立つシンジの手を強く握り締めていた。それしか縋るものがないかのような、そんな必死な力を感じる強さで。
 しかしそれでいてなお、アスカの震えは止まらない。
 蒼い眼差しは、目の前の女性に向けられていた。

「ツバサ・ラングレーです。よろしく、碇さん」



119 :がらんどう@まにあっく :06/09/13 19:05 ID:???
 ツバサの話(仮題)

 碇シンジが惣流アスカ・ラングレーと付き合うことになったのは、あの戦いからようやく半年が過ぎようかという頃だ。
 二人してジオフロント内の病院で入院していて、いつしか外のベンチにて語り合うのが普通になっていて。
 二人は話した。
 家族のこと。
 エヴァのこと。
 中学校のこと。
 大学のこと。
 生きていくというのは辛いということ。
 だけど死にたくはないということ。
 憧れていた人のこと。
 死んでしまった人たちのこと。
 そして――

「わたしさあ、あんたのことが好きみたい」
「僕も、好きだよ、アスカのこと」

 好きな人のこと。
 そうして二人は付き合うことになった。
 退院の時期は少しシンジが早かったが、無理を言ってアスカと同じ日になるようにしてもらった。まあ、自由に出歩く許可も得ていたので、先に二人の住む家を探したりとか、そういうことはシンジがした。その報告を受けて極めるのはアスカだったけれども。
 住処はほどなく見つかった。
 小高い丘の上にある、山際にある大きな家、そしてその何倍もの広さのある庭。
 二人だけで住むのには少し広すぎるようにも思えたが、アスカもシンジも余裕のある生活というのに憧れていたところがあった。どういう風に部屋を改造しよう、終末には友人を呼ぼう、庭でバーベキューを作ろう、などということを病院のベッドの上で、ベンチの上で話し合うのが日課となり、そして退院したその日のうちに二人はその家に入居した。
 まだ荷解きもしていない箱と箱の間の、それでも充分なスペースのある部屋で、二人はシーツにくるまって朝を過ごした。
 その日が、二人にとっての幸せの絶頂だった。

 そして、絶頂に至れば、後は落ちていくのだということを、まだ知らないでいた。

120 :がらんどう@まにあっく :06/09/15 13:47 ID:???
「生活管理人でしょ」
 碇シンジは溜め息を吐いた。
「生活指導官」
「そう、それ」
 わざとだろう、アスカは意地悪に笑ってシンジを見ている。その顔がいつもどおりだったので、シンジは口を半ば開いてから閉じて、また溜め息を吐いた。
「もうすぐくるから」
 りょーかい、という返事をした彼女のソファーの隣りにシンジは腰掛けた。
(まあ、いいさ。きっとアスかも驚くだろうから)
 二人が一緒に住むということになって、どうしても保護者が必要ということになった。
 葛城ミサトはすでになく、それ以外のNERVの面々とも二人はほとんど交流はない。勿論、二人にしてみたら保護者なんかは必要はないというか、充分に節制した生活を行えるという自負もあったし、二人でなんの仕事もせずに二百年間一流ホテルに泊まり続けることができる程度の資産は持っていたのだが、その資産が問題になっていた。要するに彼らの年齢に対して、資産があまりにも莫大過ぎたのだ。
 二人の資産はNERVからパイロットに対して月々払われていた給金にプラスして、使徒戦役の成功に対する特別ボーナスやら何やら。一人分でも相当な額になるのに、二人分である。その上にちょっとした中小企業の重役並の補償金が振り込まれるという按配になっていた。
 そこらのシステムについては二人もよくわからなかったが、ミサトやその周辺が生前にそういう風になるように調節してくれていたらしい。あげくにミサトの遺産なども二人に入るようになっていた。
 普段かつかつの生活をしていたという印象が強いミサトであったが、どういう訳だか遺産はそれなりの額があった。むしろローンと生活費以外は全額を貯金し続けていた風ですらある。彼女がこの金でなにをするつもりだったのかということは今となっては謎だが、アスカなどに言わせれば「使い放題だと酒代に全部廻しちゃうから、リツコあたりがこうなるように手配してたんじゃないー?」とのことで、やけに説得力はあったが「どうだろう」とシンジは消極的に首を傾げる程度に済ませた。いずれ故人の悪口はあまりいうものではない。
 とにかくそんなこんなで二人は若くして資産家となった訳なのだが。
 その金額があまりにも膨大であるということが問題になった。
 というか、それをどういう風に使うかだ。

121 :がらんどう@まにあっく :06/09/15 13:51 ID:???
 二人のチルドレンは現在のところは思想云々でいうのならたいして危険な人物ではないが、まだ15歳なのである。将来にどうなるか解ったものではない。そしてその上に、現在のところはともかくとして、潜在的に危険な要素が眠っているとも分析されていた。心理的にも、思想的にも。
 特にシンジである。大人や社会に対する不信感などが深刻に根ざしている可能性は指摘されていた。もしもこの先にテロリストなどに接触されて共感を覚え、その資産でスポンサーになることなども考えられた。
 実のところ、テロリスト対策というのはこういう地道な個人資産の監視が重要なのである。
 どれほどの有能な人間だろうと個人で、しかも徒手空拳でできることはたかが知れている。ゆえに彼らはスポンサーを背後に持っていて、そこから出される資金で爆弾を買い、銃器を入手するのだ。そうでなくても生活費だってそれなりの額がいる。訓練をしなければ錬度は高まらないが、それだけでは金が入らない。とにかく金はいる。
 金のために活動しているテロリストもいるが、思想のためのテロでも同様に金は必要なのだ。


122 :がらんどう@まにあっく :06/09/15 13:52 ID:???
 さらに性質の悪いことに、こういうスポンサーというのは当局は知っていてもなかなか検挙できないケースが多い。社会的な影響だの組織の末端を通じての肢きりだの隠蔽工作だの……理由はさまざまだが、しかし、もしもシンジのような個人で出している場合は、別である。隠蔽工作をするにしてもたかが知れている。
 そしてもしももしもシンジがそのやって逮捕された場合、使徒戦役で活躍した英雄がテロリストのスポンサーになっていたという事実が喧伝されて、国連の威信も凋落するという寸法だ。
 ……そこまでいくと心配しすぎという感がなきにしもあらずだが、余計なことを心配するのが大人というものであり、実際にシンジにはそういうことになってしまう可能性があるというのも確かなのだ。その対策を練るのは当然である。
 そんなこんなのすったもんだで色々と調整したあげく、シンジはなんとか一人の管理官との同居を認めることにした。
 その管理官はシンジとは面識もなかったが、経歴からして信用できると思ったし、国連の側も太鼓判を押して進めるほどに有能な人物だった。さまざまな心理テストなどのチェックも通っている。
 そして何より――
「あ」
 今、車が外に止まる音がした。
「予定通りだ」
「ふーん」
 アスカは興味なさげにアイスティーに口をつけた。
「行こう、アスカ。こういう時はちゃんと出迎えないとさ」
 気だるげにしている彼女の手を引っ張って、シンジは玄関に向かう。

 その日から地獄が始まることを、彼はまだ知らない。



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