そうして彼女は嘘をついた9

259 名前: 1−2 投稿日: 2003/09/08(月) 11:59
 ……別にイジメているつもりはゲンドウにはないし、アスカの方にだってイジメられているつもりもなかった。
 ただ、最初がいけなかったと彼は思う。
 あの日の翌日、早速とばかりに持ってきたアルマイトの弁当箱の中身は、ちと若者向けではあったがそれなりにまっとうな代物だった。それに安堵するでもなく、彼は黙々とそれを箸で口に運んだ。しかしその間――。
(食べづらい……)
 と思った。
 ベンチのもう片方の端から少しだけ彼に寄った場所に座り、アスカがにこにことした笑顔で彼の顔を見ている。
 ――美味しい? 美味しいの?
「はじめてのおりょうり」をした小学生の女の子が、父親の感想を待っているかのような感じであった。
 ってか、ノリ的にはまったくそのまんまだ。
 彼は黙々と食べている。
 食べている。
 食べている。
 アスカはにこにこと笑っている。
 笑っている。
 笑っている。
 食べる
 笑う。
 食べる。
 笑う。
 ………………。
(どうしたものか)
 食べ終わり、魔法瓶の冷えたお茶を喉に流しながら、ゲンドウは悩んだ。
 本気で悩んだ。
「あの日」以降、人間関係を適当に遠ざけ続けてきたのだが、そのツケを今払うはめになっていた。元々からして人と関わるのが苦手だと言うのに、嫁(予定)の若い女性に手料理を作ってもらって、さらにそれについてどうこう言えなどというのは拷問にも等しい。
「ごちそうさま」
 と箸を置き、弁当箱の蓋を閉じるのには、かなり以上に勇気が必要だった。
 彼女の次の言葉を、それ以上の覚悟を搾り出して待つ。

「あの――美味しかったですか?」

「うむ」
 ゲンドウはそう言った。言ってから、無言で弁当箱を手渡した。
「正直なところおっしゃってください」
「……………」
「シンジなんか、わたしが作っても『けっこうイケる』としか言いませんから」
 だったら俺だってそう言っても構わないだろう――などと思わなかったのは、彼も父親として息子の不備(?)を補ってやろうと思ったからかも知れない。
 別に不満はなかったのだ。
「そうだな」
 司令時代に舌は肥えているが、学生時代の粗食を持ってこられても文句一つ言わずに食べられるという自信はある。
「この唐揚げは、冷凍だな」
「―――――」
 こんなことを言ったのは、イジワルのつもりではない。
「アスパラは煮込みすぎている」
 ただ、厳しいことを言えばもう来ないかも知れないと、ただそれだけを考えていた。
「それにかけているマヨネーズも、小さい袋入りのが売っているのだから、先にしておく必要はなかった」
 人に疎まれていることには慣れている。
「ポテトサラダはドイツ風でよくできているが」
 どう言えば嫌われるのかは解っていた。
「かぶらの甘酢漬けの酢がこぼれたのがかかって、風味がおかしくなっている」
 言ってて馬鹿馬鹿しくなってきた。
「飯は水が多すぎで柔らかい」
 腹に入ってしまえば同じだというのに。
「それと、ちゃんと冷やして蓋をしないと傷みやすいから、気をつけるといい」
 アスカの顔には、まだ笑みが浮かんでいた。
 さっきとは違う。
「上等じゃない」と彼女が心の何処かで思っていたことは確かだ。

260 名前: 背信者・我乱堂 投稿日: 2003/09/08(月) 12:06
>>257 PDX.さん

> いったいどういう経緯で、アスカ自らこのような振る舞いに出ているのかが
>やはり興味深かったり。

呼び方に注目(笑)
時間軸としては一番後ですね。多分。
ことによるとエピローグ以降。

>>「おまえが二人が籍を入れる前に、一足先に嫁イジメをやっているという――」
>(爆笑中)
> まぁこの二人だと、艶っぽい噂になるよりこっちの方が可能性あるかもねぇ。

後でこの前後は全然違う風に書き直すかも。
ちょっと最近「E.G.コンバット」読み直したせいで、ノリがそれッポイ……。

261 名前: PDX. 投稿日: 2003/09/08(月) 12:49
>>260 我乱堂さん

 あぁ、あの呼称は既に籍を入れた後くらいなんですか?
 婚約している時点で、からかい半分に口にしてもおかしくはないので、
特に何の疑問も抱かずにあの台詞はスルーしてしまいましたが(^_^;

262 名前: 背信者・我乱堂 投稿日: 2003/09/08(月) 19:57
>>261 PDX.さん

からかい半分に言うほどの余裕がこの二人に出るかなあと……。
かなり切羽詰ったというか、「遊び」な関係ではないというイメージなので。
ああ、書いててよく解らない(爆)

しかしそれはともかくとして。
「いつものノリで失敗」って、いつ失敗したんだろーか、私……。
じっと思い返すと――
――――
…………
ま、まだ終わらんよ……。
色々と。

えーと。
>>259はまず全面改訂することになると思います。
ってか決定しました。
でも次は1−3ね。
明日か明後日。

263 名前: PDX. 投稿日: 2003/09/09(火) 02:07
>>262 我乱堂さん

>かなり切羽詰ったというか、「遊び」な関係ではないというイメージなので。

 そのあたりが判断できるほどの情報がこちらにはまだないものですから(笑)

264 名前: 引き気味 投稿日: 2003/09/09(火) 08:05
いかにして浮気にもつれこむのやら、読み手への焦らしプレイ続行中ですな (;´∀`)
再始動のお陰で徐々に見えてきましたが、とりあえず私が以前に書いたアレは、完全にゲンドウの性格が違ってましたなぁ(汗

265 名前: 1−3 投稿日: 2003/09/09(火) 12:28
「……馬鹿だろう、お前?」
「………………」
 それに反論せず、ゲンドウは手元のグラスを持ち、くいっと一息にあおった。
 マスターが微かに心配そうに眉をひそめたのは、ゲンドウの飲んだ「グリーン・アラスカ」は、数あるカクテルの中でも一番アルコール度数が強い部類に入る代物だからと、この男があまり避けに強くないのを知っているからだ。
 それをカクテル・グラスにいれたのならまだしも、ロック・グラスのを一息というのは――。
 冬月は溜め息を漏らし、「オールド・パル」と言った。
「……彼女の性格はそれなりに知っている……それで引き下がるような子じゃない……その分、こっちとしてもタルテソス文書だの裏死海文書だののことを聞かれなくてすむのはありがたいが」
 ゲンドウは「もう一杯」とグラスをマスターに差し出した。
「グリーン・アラスカを」
「碇さん」
「構わんよ。――わしが責任をとる」
 今でも人に言うときには「ワシ」なのに自分で苦笑しながら、冬月は言った。
 マスターは僅かに逡巡した後。
「解りました」
 とタンカレー・ジンとシュルトリューズ・グリーン・VEPを棚から取り出した。
 それを見ながら、
「なあ、碇よ、今までずっと聞かなかったが、お前はあの時に彼女に……ユイくんにちゃんと言えたのか?」
「……………………」
「五十億年の孤独――その中で彼女に疑問を残さないようにと、お前が」
 言いかけた言葉は、ゲンドウの声で途切れた。
「先生」
 続いての言葉を待つ冬月に、
「先生」
 ともう一度言った。
 そこで。
「はい、先にオールド・パルです」
 気が利かないバーテンダーだな――と彼が思ってマスターを見ると、マスターは右の人差し指を唇に当てていた。
「――――?」
 視線の先を追うと、碇ゲンドウの姿がある。
 いつもそうしていたように、両肘を立てて指を組み、その上に顎を乗せて。
「先生」
 寝言だった。
「碇、お前……」
「そっとしておいてあげましょう」
 その言葉に黙って頷いた彼は、手元に置かれたグラスに目をやった。
(オールド・パル……“古い友”という意味だな……まさか、俺と碇が、な……)
 苦笑した。

266 名前: 背信者・我乱堂 投稿日: 2003/09/09(火) 12:37
>>263 PDX.さん

すいませんすいません。
情報を小出しにするのも限度がありますやね……。
もうすぐ一周年ですし。
なんとかその時までにはそれなりのものをだしたいと思います。

>>264 引き気味さん

>いかにして浮気にもつれこむのやら、読み手への焦らしプレイ続行中ですな (;´∀`)

あうあうあう……。
一年前、書き出した時点では「これでいーや」と思ったけど、今となっては……ちと厳しい。

「失敗」の可能性大きいので、ごめんなさいエロ小説スレの方、しばらくそっとしておいてやってくださいm(__)m
プレッシャーに……負けそう。
なんとか形にはしますので、その時に、ね?

ちなみに酒については「BARレモンハート」から。
十三巻。

267 名前: PDX. 投稿日: 2003/09/09(火) 17:55
>>265 1-3
 おぉ、オヤジ二人の会話(笑)
 寝言で「先生」と言いつづけているゲンドウ……夢の中で冬月に小一時間説教
されているんでしょうか(^_^;

>>266 我乱堂さん
 書き手それぞれにペースがあって当然ですからあまり急かしたくはないのです
が、掲示板SSだとさすがに(^_^;

268 名前: ST 投稿日: 2003/09/09(火) 20:38
>ちなみに酒については「BARレモンハート」から。

二人の近くにサングラスとトレンチコート姿で
競馬新聞を読んでるひとがいるんでしょうかw

269 名前: 背信者・我乱堂 投稿日: 2003/09/10(水) 12:34
>>267 PDX.さん
> 寝言で「先生」と言いつづけているゲンドウ……夢の中で冬月に小一時間説教
>されているんでしょうか(^_^;

「アスカくんを挑発するようなことを言うなどと……。
 一体どういうつもりなのかと問い詰めたい。
 小一時間ほど問い詰めたい」

 ……というのを最初書きましたが、さすがに自主規制しました(自爆)

> 書き手それぞれにペースがあって当然ですからあまり急かしたくはないのです
>が、掲示板SSだとさすがに(^_^;

 すいませんすいませんすいませんすいません……。

>>268 STさん

>二人の近くにサングラスとトレンチコート姿で
>競馬新聞を読んでるひとがいるんでしょうかw

多分います(笑)
つーか絶対います。
毎日のように人情話と酒についての薀蓄が繰り広げられているバーなのです。


ちなみにどうでもいいことですが、私の中では綾波の愛読書に「BARレモンハート」がなっています。
なんでだか私にだって解りません(爆)

270 名前: PDX. 投稿日: 2003/09/11(木) 11:01
>>269 我乱堂さん

>自主規制

 まぁ笑っちゃいますし、冬ムーンが2ちゃんねらーかどうかということに
なりますしねぇ(^_^;
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