What kills a rabbit

667 名前: 引き気味 投稿日: 2002/10/25(金) 19:26
QLASの成立って難しいよねと、某スレを見ててオモタ。
シンジ−アスカ、シンジ−レイ、アスカ−レイ。3つの辺の内、一つの成立は安直にもいけるだろうし、ハーレム的Vの字ラインを結ぶのも、男のエゴ的に何とか。
でも、先に結ばれた関係をもう一人から見たらどうだろうと。そん思い付きをメモってみたり。

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 庭の隅に置かれた物置のような勉強部屋。そのプレハブの窓からずっと見ていたのだと言う。

「あの人達の事は嫌いだった。……でも、羨ましかったんだ」


〜 What kills a rabbit 〜


 あたし達はもう随分一緒に居るのに、お互いのことなど何も知りやしない。
 どんな食べ物が好きで、どれくらいのお湯加減がお気に入りなのか。夕食の後は、ポテチを齧りながらファッション雑誌を捲るのがお決まりの過ごし方だなんてことは、アイツはとっくに承知だろうし、あたしだってそれくらいなら知っている。アイツはああ見えてチェロを弾かせたらちょっとしたものだし、気が細かいくせに変なところでズボラで、服のことなんかまるで気を遣わない。その上、趣味は最低だ。
 でも、ここに来るまでどんな生活をしていたのかや家族の事。思い出深い記憶だとか。一緒の時間を過ごしていれば、ふとした時にこぼすだろう昔話も、果たしてどれほどしたことがあっただろう?
 ヒカリやどうでもいい級友達と盛り上がったことはあったけれど、それも大した事の無い話だ。多分、お互いがどこかで分かっていたのだろう。あたし達は同じように癒えない傷を抱えていて、それは恐る恐る触わるのも躊躇われる、未だに剥き出しのままなのだと。
 あいつの傷に触れる事は、あたしの傷を刺激することでもある。だから避けていたのだろう。見たくも無い、忘れていたい事だったから。

 ――でも、だ。
 傷の舐め合いのような行為でも、確かにあたし達は癒されていく。
 当たり障りの無い会話だけを綴っていても、日々を面白おかしく過ごしていく事は出来るだろうけど、それだけでは満たされない飢えが収まってゆく。
 ああ、これだったのだ。あたし達に欠けていたものは……!
 その時あたしは、例え様の無い暖かさで胸が満たされる思いだったのだ。

 いつもの口喧嘩に、あたしの癇癪が暴力を振るわせる。それでまた居たたまれない夜を過ごして、あいつがまた何事も無かったように装って機嫌を取りに来るのを待つ――そんなもうお定まりになったシーン。その日違っていたのは何だったろう? あたしはそこで泣いてしまった。シンジが目を見張ったのが分かった。堪らず部屋へ駆け込もうとして、今度はあたしの袖を引きとめたシンジが自分に戸惑っていた。

「なによ? 言いたいことがあるならハッキリしなさいよ!!」
「いや、そんなつもりじゃ……」
「フン、情けない男。いつもいつもフニャフニャして、あんたホントはオカマなんじゃないの? 気持ち悪いったらありゃしないのよ!」
「……そんな言い方ってないだろう!」

 その日ミサトが帰ってこなかったのは幸いだったと思う。今度はお互いにキレて罵り合って、くたくたになるまで長々喧嘩した挙句、並んでひっくり返って夜通し語り合うなんて、クッサイにも程があるわ。
 きっとあたしもアイツも限界だったのよね。欲しい物が直ぐそこにあったのに、手を出せないで迷って……。だからそれからは毎日が楽しかったわ。

668 名前: 引き気味 投稿日: 2002/10/25(金) 19:26
 自分に余裕が出来ると、世間の眺めも変わるものなのだろうか。何をしても楽しかったし、ヒカリにも言われたものだ。最近丸くなったみたいだ、と。実はトゲトゲしさを隠さないあたしの態度にハラハラすることが多かったらしい。心配していたのだと言うから素直に謝ったらまた驚かれた。それでシンジとの仲を疑われたのはテレ臭かったけど、言われるほど進んだわけじゃない。
 ――そう、あたしは認めていた。アイツとの仲を進めたいと思う自分の気持ちを。

 アイツが、シンジが好き。
 ずっとこのままそばに居て欲しい。あいつをアタシの物にしてしまいたい……。

 だから、人形女と嫌っていたレイのことも見直したわ。あんなボケボケっとしたやつを好きになった女の子同士なんだから、趣味が合うってことは認めなきゃならないし。嫌っていたのもシンジに対するこれまでの態度と理由は一緒。レイの態度は、どうしてもあたしの傷を刺激させたから。

「所詮は同族嫌悪ってやつだったのよね」
「……?」
「分からない? あんたとアタシが似た者同士だってことよ」
「……そう、そうね。確かに似ているかもしれない」
「シンジが好き?」
「……ええ」
「シンジを愛してあげたい? ふふっ、こんな風に。ね……」
「ああ……あ、気持ち、いい……」
「可愛いわよ、レイ」

 女同士の決着とか意気込んで、二人きりで話し合うその内に、こんな関係になってしまったのは意外だったけど。

「ねぇ、レイ」
「なに?」
「シンジが好きよね? アイツを一人占めしたいと思う?」
「……。ええ」
「正直よね、アンタ。アタシもそう。シンジを私だけの物にしてしまいたいわ」
「そう……」
「あん、そんな寂しそうにしないでよ。アタシ、レイのことも好きよ? もう、嫌いになんてなれないし、離してしまいたくないの。……いいえ、離せないわね」
「わたしもあなたが好き……」
「……でも、シンジのことも好き。だからと言って、ライバルの筈のあんたも好きになっちゃってさ。恋の勝利をって本気で戦うわけにもいかないし、悩ましいわよね」
「……?」
「あんたバカぁ? 二股って言うのよ、こーゆーの。シンジも好きでレイも好き、どっちもだなんて不誠実じゃない!」
「でも、私は二人とも大切だわ。そう思う事はおかしいことなの?」
「シンプルね、レイは。……正直、あたしもそれで良ければと思うけどさ、そうはいかないものじゃない……」

669 名前: 引き気味 投稿日: 2002/10/25(金) 19:27
 普段はシンジを取り合う二人として。でもその実、レイの部屋を愛の巣に、爛れた関係になってるのだと誰に話せるものか。
 折角仲良くなれたシンジにも隠し事を作ってしまって。レイにも口止めをしたものだから、様子が変だと心配するシンジにどう受け答えすれば良いのか、不器用なあの娘は苦労しているようだった。
 そんなどっち付かずをさせたのはあたしの責任。とうとうの破綻を招いてしまったのも、あたしの責任よね……。

「あ、ああっ……。アスカ、綾波ぃ?」
「し、シンジっ!?」
「あ、はぁぁ……あ、いかり、くん……?」

 まるで安っぽいドラマ。浮気の現場を抑えられて、おろおろとするしかないバカな女のような真似を、そっくりそのままなぞるしか出来ないあたし。
 ベッドで汗に塗れた裸同士絡みあって。誤解し様のないあたし達を前に、みるみるシンジの顔が紙のように白くなっていくのが分かった。
 様子見がてら、レイにまた食事をつくってやるつもりだったのだろう。スーパーの袋をドサッと取り落として、もつれる唇で必死に何かを言わなければと後退りながら。

「その……覗くとか、そんなつもりじゃ……。し、知らなかったんだ」

 あたし達もシンジも、隠す事も恥ずかしがることも忘れて、ショックとわけの分からない恐ろしさに震えていた。
 いっそ、罵ってくれればどんなにか良かった事か。日頃シンジを挟むようにしてレイに絡んで見せ、シンジやヒカリに気を回させていたのはあたしだ。霧島マナや山岸、あたし達以外の女と仲良くするシンジを浮気物者だと責めたのもあたし。そんな資格がある訳でもないのに。

「ごめんっ、本当にごめんよ……。す、すぐ帰るから」
「待ってシンジ! 話を……あたしの話を聞いて! お願い、待って!!」

 蹴躓き、慌てふためいて、シンジは逃げ出してしまった。――あたし達から。
 ハダカのままでも追っかければ良かったのだ。そこで捕まえて、謝るなり説明するなり、許しを請えば良かった。そんな後悔を後でしたところで、取り返しはつかないのだから。

 目の前で仲睦まじい様子を見せられて、寂しさに震えながらプレハブの小屋で泣いていたのだと。そんなシンジに、アスカが居てくれて良かったとまで言わせていたのに、あたしは何を仕出かしてしまったのだろう。
 レイのマンションから逃げ出したまま、その日シンジは帰って来なかった。次の日も、またその次の日も。



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