バッドエンド・アフター・ストーリー

376 名前: 通行人S 投稿日: 2002/09/03(火) 13:07
 QLASバッドエンド・アフター・ストーリー タイトル未定(笑)


「……綾波レイ、出頭しました」
 わざと、軍隊式の敬礼をする。
 予想通りに司令たる葛城ミサトの眉は不機嫌に歪められていた。
 軍属扱いとはいえ、レイがそのような真似をするのは、彼女は好んでいない。
 だからそうしたのだ。
「……綾波レイ博士、アナタが何故ここに呼ばれたのか、解るでしょ?」
 とりあえず、ミサトは敬礼云々で文句をつけるつもりはなかった。時間の無駄だ。レイはそんなことを聞くような女ではない。
 それを言うなら、今からの話も、また――
「……監査部の加持三佐からですか?」
「――そう。さすがに週に五人は多すぎるって」
「記憶調整なら、去年に開発されたシステムを使えば十五分ですみます」
「そんな意味で言ってんじゃないわ」

 レイは、笑った。

 超然と、あるいは艶然と。
 微かに――しかし確かに笑ったのだ。
「……何がおかしいの?」
 ミサトはその微笑から目をそらさなかった。そらしたら負けだと思った。
 何がどう負けだという理屈とかは関係ない。
 レイの心をどうこうしようとすねなら、その眼差しを受け止めないと駄目だと思っていた。
「私の私生活のことに、皆さん熱心ですね」
 その笑顔を貼り付けたまま、レイは言った。
「当然よ」
「チルドレンだったから?」
「……他に言葉が欲しい? “公には”それで十分のはずよ」
「…………」
「アナタが何であんな真似をするかは、もうみんな知ってるわ」
「…………」
「だけどね……こんなことで、こんなことばっかり続けていて……」
 ――あの二人が哀しむ
 そういおうとして、ミサトはやめた。
 それがどういう結果を生むのか解らなかったということもある。しかし、何よりもしなかった理由は、レイの心の奥底に燻っている「何か」を彼女は知っていたからだ。
「もう、いいわ」
「――はい」
「今回は戒告だけにしておくけど、いつまでもこちらからのフォローはできないものと、そう思いなさい。いつまでも監査部も保安部も、あなたを中心に回っていられるわけじゃないんだから」
「……はい」
「帰りなさい」
「綾波レイ、部署に戻ります」
 立ち去った。

377 名前: 通行人S 投稿日: 2002/09/03(火) 13:07

 ……十数分後、司令の執務室はロックがかけられた。
「でも……なんで、レイは……こんなことばかりを……うっ」
 彼女の息は洗い。
「以前にリツコが言ってたわね。人は己を傷つけることによって、大切な人をも汚す代償とすると」
 ミサトの声は優しく、しかし何処か平坦だった。
 しばらく、猫が水溜りに舌を入れているかのようなピチャピチャという濡れた音が続いた。それと荒い呼吸と。
「……せ、先輩のぉ〜〜あうっ、そこは……! 言ってるのは、自傷行為の、一、例、です、ね……」
「――解らないでもないわ。自分を責めたいのに、大切な人にあたり散らしたり、大切な人には何もいえず、自分を痛めてその代償にしたり……」
 人間の心とは不可解なものなのだと、そう思った。
 そしてレイには、かつてはその心すらも満足になかったのだ。
 それを与え、育て上げた二人が、レイの心を最も傷付けたのだ。――皮肉、とは思わなかった。最も傷つくのは大切な人からの裏切りというのは、神話時代からの通例なのだ。
 それに多分、今の自分がしている行為も、また――
「司令は……いつも不機嫌なことになったら、私も呼びますね……」
「……………」
 一瞬の指の動きの停滞に割り込むように、彼女は言った。
 ミサトは声もなく、次の言葉を待つ。
「いつも、思ってました。司令もまた、自分を傷つけたいんだって、だから――」
「――やめて」
 顔を逸らし、出した声は弱く脆い。

「けど、私は、愛してますから」

 愕然と、ミサトはかつての親友の部下の顔を見た。
 微かに入れられた光の中で、上気していた幼い笑顔を。
「……私は、愛してます」
 繰り返された言葉。
「あなた……」
「だから、そんなに辛そうな顔をするのは、やめてください……泣かないでください……」

 くぐもった声が薄暗い執務室にしばらく続いた後、嬌声が生まれ、それも消えた。


 つづく?

 
 ……次回から本格的に(笑)
 ミサトともう一人は以後の人間関係をあらわす端的な例みたいな感じで(笑)

 逃避の構図、みたいな(爆)

 つーか、加持生きてるのにね……。



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