その瞬間まで、彼はそれを日常だと信じていた。

 「おいどうしたぁ?」
 「いや、えと、メールが」
 不意に対戦ゲームを放棄したシンジに相田ケンスケは声を荒げた。
 「ちょっと待てくれよぉ。せっかくいいところなのに」
 「ごめん。でも……」シンジは上の空で携帯を見つめていた。
 「ったく、なにやってるんだよ」
 「まぁええやんか。そんなにイライラせんでも」いきり立つケンスケを鈴原トウジがなだめる。
 電子の閃光が鳴り響き、爆音きらめく一角。ここは彼ら三人の中学生男子がいつも学校帰りに立ち寄るアーケード。
 彼らがここで話すのは、退屈な日常への不満と、まだよく見えない未来への不安。
 照れ隠しが多分に混じり、いささか乱暴な口調となる身近な異性の話題。
 そのさなか、碇シンジのポケットに収まっていた携帯電話がメール着信を告げたのだった。
 画面を切り替えて眺める。
 それは惣流・アスカ・ラングレーからの、少年の幼馴染みであり(周囲にはまだ話すまいと決めているが)彼が愛し、守ろうと誓った少女からのものだった。
 だがそれは、まともに意味が通るものではなかった。

 「レイヲタスケテ、コンフォート18−B−6。カヲルハテキ、カヲルハテキ」

 首をかしげるシンジ。ひとつため息をついてアスカの番号につなぐ。
 しかし、彼女は電話に出なかった。
 なんども、なんども鳴らしても惣流・アスカ・ラングレーは彼からの電話に応えない。
 もう一度ため息をつき、それを仕舞おうとする。
 そのとき、電話が鳴った。
 だがそれはワンコールで切れた。
 シンジは着信履歴を確認する。彼の表情は凍りついていた。
 「おい、シンジ、どないしたんや?」
 「うそだ……うそ……だ」
 少年は荒い息を漏らした。
 彼の中にあるイメージがよみがえっていた。

 マジックミラー越しながらもシンジの目の前で、ワンピースを脱ぎ落とす母親の姿が。
 甘え声でおんなの部分を責めてほしいとせがむ美しい母親の姿が。
 「怖がらなくていいの。あなたをとっても気持ちよくするためなのよ」とささやきつつ、渡された手錠をシンジの手首にかけ、それをポールハンガーにつなぐ美母の欲望にまみれた瞳が。
 抵抗できなくなった彼のズボンのベルトにかかる母親のしなやかな指が。
 ブリーフを下ろしたときに現れた「それ」を目にしたときの彼女の笑顔が、「ああ、シンジったら、母さんのいやらしい姿でこんなにおおきく……」とうっとりつぶやくエロティックなあえぎが。
 「あむっ」と銜えた瞬間に熱く濃い汁を迸らせてしまった、つやつやした赤に塗られた唇と柔らかく熱い口腔の感触が。

 その母を、碇ユイを奴隷のように扱う渚カヲルの笑顔が。
 いま、彼の携帯を鳴らした画の天才の笑顔が。

 どうして、どうして……覚えていなかったのだろう。

 少年はふらふらと歩き始めた。
 アスカからのメールの意味を、少年は少なくとも半分は理解できていた。
 そして、どこに向かうべきかも。
 友人の声を背後に碇シンジは歩き始めた。

 この瞬間、彼の日常は終わりを告げる。



-MODEL- Ver.Y(2)






 「まったく、なんてキミは勇敢な女の子なんだろう」
 渚カヲルは輝かんばかりの微笑みをアスカに向ける。両手を広げた芝居がかった仕草までくわえて。
 「い、い、言ったで……しょ。ヤられっぱなしになんてならないって」
 「そうだったね。確かそう言ったっけ。でも、結局僕のモノを欲しがって泣きながらせがむものだからつい忘れちゃうんだよ」
 ああっとアスカは顔を伏せ、しかし慌てて歯を食いしばって面を上げる。
 むっと立ち上る牝臭に理性がとろけてしまいそうだった。
 ひくつく花弁を目にしてしまうと、熱烈なキスをしてしまいそうだった。
 「頑張るね。アスカ」
 「気安く……呼ぶなぁ……ぁああ」
 ずん、と突かれて気力があっという間に萎えていく、代わりに純粋な歓喜と感謝が心の奥からこみ上げてくる。
 ……だめ、だめ、だめだったら。アイツはいま、レイを助けに行ってるのよ。アタシも、アタシもがんばらない……と。
 「残念。シンジ君はレイちゃんが調教されている場所にはたどり着けないよ。無理だね」カヲルは難なく彼女の心を読んでいた。
 「うるさ……い、アイツだって、やるときはヤルんだから」
 「無理無理、いくらキミのお気に入りの男の子だって、普通の人間にはたどり着くことはできないよ」
 「だまれぇぇ……ッ」
 「まだ分かってないようだね。キミが心を鬼にしてレイの調教に加わった場所は……十八階のとある部屋。違うかい?」
 「そ、そうよ、それがどうした……の……よ……え?」驚きは衝撃になり、同時に少女の反抗心を蒸発させ、それは剥き出しの獣欲へとつながってしまう。
 「うそ、うそ、そんな、ぁぁぁ……ンッ、い、いや……イ、いっちゃう……よぉ」
 がくがくと躰を震わせ、シーツに突っ伏した。
 ……ここまで強大なのか、「彼」の能力は。
 アスカは恐怖におののいてしまう。
 そう、碇シンジはレイの監禁場所にたどり着くことはできない。
 なぜならそこは、存在しない場所なのだから。
 碇一家が住むマンション、コンフォート一七はそう、本来「十一階」しかない建物なのだ。
 それなのにレイが無限の肛虐快楽地獄に落とされた場所は「十八階」。
 そう、渚カヲルは存在しないフロアを作り上げているのだった。
 惣流・アスカ・ラングレーが渚カヲルに牝奴隷として「おねだり」をして参加したレイへの調教。
 心を鬼にして愛らしい友人を責めたてて、ようやくシンジにメールで知らせることができたその場所の情報。だがそれはまったく意味を持たないのだ。
 アスカはぽろぽろと涙をこぼした。
 ……あんなにレイが嫌がっていたのに、あのクールな彼女が子供みたいに泣き叫んでいたのに。けれどもそれはあのコを助けるためだと信じていたのに……。
 「結局キミはね、僕の描いた絵の通りにレイを堕落させただけだよ。君も分かってるだろ?絶望ののちに味わう快楽がどんなに甘美なものかを」
 「ああ、ああ、あぁっ、あ、ああぁーッ」アスカはぶるぶると震えた。必死になって歯を食いしばる。
 「いや、楽しいね。掌の上で踊らされていることを知らない人形を見るのは」
 「うるさい、うるさい、うるさいぃぃぃッ!」
 「キミだって楽しんでたくせに、そんなに被害者面しちゃいけないよ。キミは必死で隠してたみたいだけど、帰りの車の中でスカートのポケットに手を突っ込んでオナニーに耽っていたのをユイはちゃんと見ていたんだよ。ま、あのレイの泣き顔はたしかにすごく『そそる』ものがあるからねぇ」
 「うるさい、うるさい、うるさいぃぃぃッ!ああ、ああ、おばさま、おばさま、あぁ、そんなに強く舐めないで、お願いぃぃッ!」
 返事はさらに熱心でかつ少女の弱みを突いたクリニングス。さらに少女の目の前に突き上げられるしどどに濡れた女陰。
 「どうだい?ボクのザーメンでどろどろの舌で奥まで舐められるのは?お返ししなくていいのかい?」
 ……ああ、ああ、駄目、駄目、駄目、だって彼女はアタシにとってとても大事なひとなのよ。
 大好きなオトコノコのママで、あたし自身が憧れるとっても素敵なひとなのよ。
 だが、逡巡する少女の花弁にカヲルの精液でべたべたになった舌がぬるりと侵入して動き回ると、泉の奥から湧き出す淫液をじゅるじゅるとすすられると、アスカの意志はぐずぐずになってしまう。
 ……ああ、ああ、だめ、だめ、だめだったら。
 しかしアスカは可愛らしい舌を伸ばして、それにちゅっとキスをしてしまう。
 目の前でひくつく、碇ユイの牝芯への舌愛撫をはじめてしまう。
 さらに熱心になった自身の牝孔への奉仕に禁忌も破壊され、少女の小指のさきほどに大きくなった肉芽をちろちろと舐めはじめてしまう。
 少女の舌遣いに感謝して、さらにさらに情熱的になった「お返し」にアスカのわずかに残った理性は蒸発させられる。
 「んんっ、ふむぅぅん……おばさま……ぁ、ユイおばさまぁ……」
 碇シンジの恋人は、泣きながら悪夢のような交接に溺れはじめる。
 アスカはすぐ目の前で卑猥な開脚姿勢で横たわるユイにシックスナインの体位でかぶさり、渚カヲルに尻穴を犯されるセックスに溺れはじめる。
 ユイのなめらかな両腕でウエストをぎゅっと抱かれて、ひと突きごとにアスカをけだものへと変えてゆく美少年のピストンからも、アスカ自身が敬愛する、でもとても淫らなマゾペットとして開花してしまった美夫人の情熱的な淫接吻からも逃れられることができないアスカは、カヲルを罵倒しながらもなんども極上の絶頂を迎えていた。
 柔らかでしかし強烈な締め付けを持つアナルホールを魔少年のペニスで犯されている一四歳の美少女は、快感と屈辱に泣きむせびつつ、カヲルに促されると碇ユイのひくつく花弁に熱烈なキスを繰り返す。
 渚カヲルに命ぜられると、自身の中で動き回るユイの舌と同じ動きをユイの中で再現して、麗夫人の分泌する蜜をさらに濃いものへとかえてゆく。
 けれどもアスカには決定的な施しは与えられない。
 渚カヲルが精を放つのはユイの口だった。
 彼はそのときが来るとにっこり笑ってアスカのアヌスからペニスを引き抜き、湯気すら出ているそれを奴隷夫人の唇を割って突き入れてためらわず放出するのだった。
 もちろんユイに否やはない。
 歓喜の声とアスカのすぐ目の前でひくつく花弁がユイの気持ちを素直に示していた。
 そうしてたっぷり出していただいた白濁液を喉を鳴らして飲み干すと、ザーメンが粘つく舌で愛おしい少女の肉襞をれろれろと舐め回すのだ。
 「ああ、ああ、お願い。お願い。アスカの中に出して、アスカに、アスカにせーえきちょうだい!」
 ついに理性も反抗心も揮発させてしまった美しい同級生に渚カヲルは微笑む。
 答えはさらなるピストンだった。
 快感に精神を破壊される恐怖と喜びが混じった歌声を上げるアスカに彼は言う。
 まさかコレが「お仕置き」だと思っていないよね?主人を裏切り、くだらぬ小細工をした罰がこんなものだと。
 コレじゃむしろ、キミを楽しませているだけみたいじゃないか。
 キミには自分の立場をきちんと教え込んであげる。
 それが罰であり、正しい教育というものだよ。
 尻穴を犯され、おんなの部分を舐め回される快楽に溺れ、美夫人の蜜を賞味することに夢中になっている惣流・アスカ・ラングレーには、その言葉の半分も理解できていなかったが、渚カヲルは気にもしていない。
 異性、同性のどちらの下半身も蕩けさせてしまうような笑みを浮かべて、同級生を穢していた。



◆ ◆ ◆



 「ああ、こわいよ……。こんなの、こんなの……やだよぉ」
 碇ユイの目には少女がひどく幼く、儚く映る。少女の勝ち気な言動も、聡明な表情もすっかり影を潜めていた。
 当然だわ。ユイは思う。この状況はどんなに気丈な女性でも打ちのめされてしまうもの。何度繰り返してもけして慣れることはできず、自分がいかに無力なものかを思い知らされるものなのよ。でもね、でもね……。
 「大丈夫よ。アスカちゃん」ユイは虚ろに快活な口調で、娘同様に愛おしい少女に声をかけた。「だいじょうぶ。大丈夫なのよ、アスカちゃん。だって……わたしたちはカヲルさまのペットなのよ。みんなそれを分かっているからだいじょうぶなのよ。かんがえてもごらんなさい、ペットが服を着ているなんて……とっても変じゃないかしら?」
 ああっとアスカがすすり泣く。ユイにぎゅっとしがみつく。
 惣流・アスカ・ラングレーが身につけているのは白いハイソックスとローファー。それに真っ赤な首輪。
 碇ユイも同様だった。
 「【リッキー】と【ジョー】をお散歩させるアルバイト」のときに履いているスニーカーとソックス、黒の首輪が彼女に許された装いだった。
 そして、二人の首輪にはリードが取り付けられていて、「飼い主」の歩調と合わせて進むことを強いられている。
 ここは白昼の団地内。
 学校帰りの児童が遊び、幼児を連れた若い母親達が笑いさざめく公園の中。
 そんな場所をユイとアスカは全裸同然の姿で引かれている。
 全身を朱に染め、思考をなかば麻痺させながら。
 「うそ、うそ、こんなのウソだ……よぉ」
 少女は恐怖に震えていた。
 こんな卑猥で卑劣な姿にされているというのに、彼女たちとすれ違うひとは誰も異常に気付かないのだ。
 午後の太陽に輝く肌をさらしているというのに、誰も驚かないのだ。
 ほとんどのひとが節度ある無関心を示し、わずかな残りの人々もただ、「大きな犬ですね」とか「可愛らしい犬ですね」と微笑むだけだった。
 そう。
 渚カヲルの「ちから」は碇ユイと惣流・アスカ・ラングレーは周囲の人間に「愛玩用の大型犬」として認識させるほどなのだ。
 魔少年の超常能力の強大さを少女は改めて実感し、その彼に支配されてしまった自身の運命を改めて哀しく予感する。
 もう逃れるはずなんてないのだ。逆らえるはずなんてないんだと。
 だからすれ違う大人に「まぁ、可愛いワンちゃんねぇ」と微笑まれると安堵してしまう自分を発見する。
 「ママー、あれなにー?あれ、はだかんぼだよ」と幼児が唖然とした表情で母親を見上げると、太股の付け根が急にぬるぬるしはじめた自分を発見する。
 その幼児の母親が苦笑しながら「そりゃそうよ、お洋服を着てるイヌなんてそんなにいないでしょ?」と、にこにこ笑いながら応える声に心の底から同意してしまう自分を発見する。
 無垢で善意に満ちたこどもたちに「あ、うちにもこんなイヌ、いたらいいなぁ」とはしゃぎながら撫で回されるころには、惣流・アスカ・ラングレー嬢の精神のどこかでなにか決定的な化学反応が起きていた。
 ふたたびリードを引かれて二人が歩き出し、全身を火照らせた碇ユイに「だいじょうぶよ、だいじょうぶ。わたしたちは犬なの。カヲルさまの犬なの。そうよ。犬なんですもの、裸で当然なのよ。首輪があって当たり前なのよ。そう、心配しないで。ほら、みんな私たちを犬だと思っているわ」と囁かれるころには、惣流・アスカ・ラングレーの頬を流れる涙は乾いていた。
 ユイの優しい心遣いは、耳元で何度も繰り返される呪文は、少女の恐怖をゆっくり融かして偽りの平安を与えていたのだった。
 だからもう少女はためらわない。
 美しい先輩にうながされると、「あ、アタシたちはイヌなんだから恥ずかしいわけなんてないもん。裸で歩いて当然!リードでつながれても普通なのよね?、そ、そうよ。アタシたちはイヌなんだから……」とうっとりつぶやくようになっていた。
 芝生の上に設置されたベンチに腰掛けたカヲルに命じられ、地面に膝をついて魔少年の太股に頬を乗せたポーズをなんの疑問も抱かずに取れるようになっていた。
 同じく彼のスラックスに熱を持った頬をすりつけているユイと見つめ合いながら、頭を撫で回される幸福に酔いしれるようになっていた。
 少年の指が少女のしみ一つない輝く素肌に軽く触れるたびに、紺碧の瞳をどんよりと澱ませて「あはぁ、カヲルさまぁ、カヲルさまぁ、もっといじって、もっといじって……」と蕩けるように甘い声でおねだりするようになっていた。

 だからすぐ背後から「カヲル君!」という緊張しきった声が聞こえるまで、その気配に気付かなかったのだ。
 少女の幼馴染みが険しい表情で渚カヲルを睨んでいることに、振り返るまで気がつかなかったのだ。
 少女は息を呑む。もう一人の美しいペットも小さく悲鳴を上げた。
 だが渚カヲルは動じない。にこやかに微笑んだままだった。
 「君に言いたいことがあるんだ」と碇シンジがアスカが聞いたこともないような厳しい声を出したときも、美しい笑みを浮かべたままだった。
 「なんだろう?シンジ君」実に優雅にカヲルは肩をすくめた。
 「その……」少年は深呼吸する。なにを言うべきかはここに来る電車の中でずっと考え続けていたのだ。「母さんとアスカをモデルにするのはやめてほしいんだ」
 「どうして?」
 「だって、君の絵のモデルをするようになってから母さんはどこか変わってしまったんだ。それに、アスカも」
 「どんな風に変わったんだろう?」
 「それは……」碇シンジは口ごもる。
 言えるわけなどない。

 あの快活で、どこかほんわりした少年の母親が、どこか儚く艶めかしい存在へと変わってしまっているなどと。
 戸棚の上の方に手を伸ばす母親の腰回り、そのウエストから急激なカーブを描く曲線がここ数週間のうちにどきりとするほど女を感じさせるものに変わっていることなど。
 風呂上がりにはおる清潔なバスローブ、その襟元を、その裾を必要以上に少年の前ではだけさせているように感じられることなど。
 そして、
 リビングで絨毯にぺたんと腰を落として洗濯物を畳んでいる、後ろ姿にどきりとすることが増えたなど。その背後からぎゅっと彼女の肩を抱き、首筋にキスを浴びせればどんなにいい声であえぐだろうと考えてしまうことなど。

 アスカだってそうだ。
 あの勝ち気で快活な少女がふと見せる表情に、クラスの男子生徒はおろか女子の一部までが「惣流ってさ、ときどきすごくエロい顔するようになったね」とささやくようになっていることなど。
 シンジと一緒の満員電車のなかで痴漢の指がさわさわと身体の上を這っていっても、今までのように激怒して大騒ぎすることがなくなってしまったことなど。少年が事態に気付いて少女を引っ張り出すまで、華奢な躰を震わせながら瞳を潤ませてどこか彼方を見つめているようになったことなど。
 碇シンジとの「ちょっと親密すぎるスキンシップ」が微妙に変化し、男の子のような言葉を彼に投げつけつつも、少女の太股の付け根が少年の膝や腰に押しつけられ、もじもじ動くようになっていることなど。
 そうしてその動きは、めざとく見つけた洞木ヒカリが息をのんで顔を真っ赤にするほど卑猥なものであることなど。

 そう、言えるわけなどない。
 けれども碇シンジには分かるのだ。
 これこそが彼、渚カヲルによるものだと。
 「僕は母さんに言うつもりだよ。もうカヲル君のモデルをするのをやめてって。もちろんアスカにも」
 渚カヲルは笑顔のままだった。
 「シンジ君がそうしたいのなら、そうすればいいよ。それは君と彼女たちの問題だ。でもそれにしても、君は本当にユイさんやアスカチャンのことが大切なんだね」
 二匹の大型犬……一匹は純白で、もう一匹はすこし茶色がかった金色の毛並み……をそっと撫でつつ輝くような笑みを向けるカヲルに碇シンジは意味もなく狼狽してしまう。
 「だって、大事な……家族だし」
 「そうだね、家族の絆は大切だよ。おや?」カヲルが目を細めた。近くの茂みから二頭のシェパードが姿を現したのだった。その真っ黒な犬たちは彼らの方へいっさんに駆け寄ってくる。
 「大丈夫だよ」獣の勢いに一瞬ひるんだシンジに少年は微笑んだ。「あれも僕のペットだから」
 その言葉を裏付けるように、シェパードたちはカヲルのすぐ近くで急停止し従順に頭を垂れた。
 「紹介するよ。【リッキー】と【ジョー】だ。兄弟なんだよ」その言葉が分かるかのように、二頭のシェパードは不気味なうなり声を漏らした。
 「ああ、それから、この二頭も紹介しておくよ」嫌悪の表情を浮かべてしまっているシンジにカヲルは続けた。シンジからなんとか距離を置こうとする茶色の犬の頭を撫でる。
 「この元気な女の子が」カヲルはすこし考える「……【アイカ】で」
 もう一方の手で白い犬の背中から腰をなでさすってやる。そちらは躰を震わせて甘え声を漏らした。「こっちは……そう、【ユウ】だよ。素敵な淑女だ。それに」
 シンジの表情を観察しつつカヲルは言う。
 「彼女はね、【リッキー】と【ジョー】の恋人でもあるんだ」
 ぱちりと彼は白い犬のリードを首輪から外し、シェパードの方へと軽く押し出した。
 「【リッキー】、【ジョー】、いいよ」
 白い犬の上げた悲鳴は、二頭の牡犬の低いうなり声にたちまちかき消された。


 碇シンジとカヲルのやりとりを震えながら見守るほかなかったユイは、渚カヲルの言葉が信じられない。
 こともあろうに、ユイを息子の前で乱暴なオスたちの慰めものしようというのだ。
 「いや、いや、そんな、ゆるして……」
 ノーブルな美貌を涙で濡らし、じりじりと後じさる。獣欲も露わに傲慢な足取りで近づいてくる二頭の雄から逃れようとする。
 「いやぁぁあああッ」泣き叫んで立ち上がる。なんとかして彼らの陵辱から逃れようとする。
 しかしできなかった。
 碇ユイは犬の姿勢から逃れられない。どんなに両脚に力を込めても手足を芝生に着いた姿勢から、ひとの姿勢に戻ることができない。
 「いや、いや、いや、ゆるして、ゆるして、ゆるして、シンジの、しんじのまえで……」
 泣きながら芝生を這う真っ白な裸身を、シェパードの前脚がやすやすと押さえつける。
 それだけでユイの身体からは力が抜けてしまう。
 彼女ができたのは身体を丸くするだけ。彼らが望む姿勢を取らないようにするだけ。彼らに向かって叱りつけることも、抗議することも、ましてや刃向かうこともできない。
 碇ユイの肉体も精神も、若牡たちに蹂躙され、支配されてしまったのだから。
 ユイにできるのは泣きながら慈悲を乞うだけ。
 しかし彼女の態度は彼らにとってはいつものことだった。
 彼らは嘲笑いつつ、その牝犬を「その気」にさせてやるのだった。
 いつものとおりに、楽しみながら。
 ああ、とユイは悲鳴を上げる。
 その黒い獣たちは彼女の柔らかな肌を舐め回しはじめたのだった。
 肩を、脇腹を、首筋を、背中を。隠しきれないところを全部ざらつく舌で舐め回された。
 特に彼らが熱心に責めたのはその「牝犬」のまあるい、脂肪がたっぷり乗ったむっちりとしたお尻だった。
 奥歯をぎゅっと噛みしめる。しかしあえぎ声を止めることはできない。身体が熱を帯びていくのを止められない。
 シェパードの兄弟たちは大喜びでさらに熱心に彼女の肌を味わうのだ。
 真っ白な肌から香る匂いが「恐怖」から「欲情」へと変わるころ、彼女の肌が犬の唾液でぬめ光るようになったころ、しっかり閉じていた太股がゆるみ始めたころ、【リッキー】はその鼻面をユイのヒップの奥へと突っ込む。
 ざらりと舐めあげる。
 「ひ、ひ、ひぃぃぃっ」
 ゆるむ襞を探り当て、ぐりぐりと舌を押しつける。
 「は、は、は……」
 奥へねじ込んでその蜜を味わう。じゅるりずるりとおおきく舌を動かして、前後の穴を舐め回す。
 そのたびにこの「牝犬」は素直になっていく。
 【ジョー】が軽いうなり声を上げて、ユイの頬を舐めた。彼はこう言っているのだ。
 ほら、いつものポーズを取りな。おれたちがかわいがってやるから、ほら、ほら。
 ユイは固く目を閉じる。ふたたび強く奥歯を噛みしめる。なんどもなんども首を振る。
 ……いや、いやよ、シンジの、シンジのまえなのよ、こんな、こんな、けだものとのまじわりなんて、穢らわしいせっくすなんて……。
 だが【ジョー】が太い威嚇の声をあげ、鼻面で彼女の肩を突くと、【リッキー】がその舌で激しく彼女の襞を舐め回すと、ユイの膝からは力が抜けてしまう。
 握りしめた拳からも力が抜け、ぐらりと身体を地面に投げ出してしまう。
 そして彼女は兄弟に命じられたポーズを取ってしまう。
 完全に屈服した犬が取るポーズを。
 仰向けになっておなかをさらし、それどころか膝を緩めてひくつく女陰まで牡たちの視線にさらすポーズを。
 シェパードたちは顔を見合わせて嗤う。ユイはすすり泣き、顔をそむけた。
 ずるりと舐め回される。左右から挟まれてむさぼられる。
 柔らかでたっぷりとした量感を持つバストが荒々しく左右から舐めたられる。
 身をよじろうとしても前脚で押さえつけられてしまう。
 「もういや!こんなのだめぇッ!」と悲鳴を上げてしまうが、【リッキー】にひと声吠えられて、【ジョー】に柔らかな乳房を軽く甘噛みされてしまうととたんにユイは淑やかな牝犬に戻ってしまう。真っ白な内腿まであらわになるほど躰を開き、自分が聞き分けの良い恋人であることをアピールしてしまう。
 自分を唖然とした表情で見下ろす碇シンジへちらり、ちらりと投げかける彼女の視線は発情しきった牝のものだった。

 「あ、あの、ちょっと……」碇シンジは動転していた。渚カヲルと直談判を始めたときの勢いはもはやない。
 彼の目の前で行われている、渚カヲルのペット同士の交歓にひどいショックを受けてしまったのだった。
 少年自身、なぜここまで自身の戦意が削がれてしまったのかも分からない。
 犬同士の交尾ごときで、ここまで動悸が高まってしまうのかも分からない。
 しかし美しい白犬が黒いシェパード兄弟にねじ伏せられ、やがて屈服の姿勢で甘啼きするさまにひどく動揺してしまったのだった。
 ただの犬のはずなのに、あまりありふれているわけではないが、さほど珍しい光景でないはずなのに。
 「ね、ねぇ、やめさせてよ。なんだかその、可哀想だよ」
 「どうしてだい?」朗らかにカヲルは笑って見せた。「いつもやってることだよ。ほんとどこでもサカっちゃうんだからねぇ。見てごらん、楽しそうじゃないか」

 その白い牝犬はくんくん甘え声を漏らしつつ一頭のシェパードと顔を舐め合い、もう一頭に下半身の匂いを嗅がれ、舐められている。
 確かにその光景は、ありふれてはいないがよくあるものに過ぎなかった。
 碇シンジは言葉を飲み込む。
 しかしその目をなぜか逸らすことができない。
 なぜか動悸を鎮めることができない。

 「あ、あ、あ、もう……ごめんね、ごめんね、たすけてくれようと……でも、でも、もう、ごめんね、しんじ、しんじぃ……」
 ユイは息も絶え絶えだった。
 【ジョー】に舌をねじ込まれ、あり得ないほど奥まで舐め回され、それから今度はずるりと引き抜かれると背徳感と快美感で神経が焼き切れそうになった。クリトリスを乱暴にこね回されると女の幸福で溺れそうになった。
 【リッキー】に顔中舐め回されても嫌悪など感じない。それどころか舌を伸ばして獣のそれと絡め合わせてしまう。
 両手両脚をきゅっと縮め、素直な牝犬としてユイは黒い兄弟の舌愛撫を受け入れていた。
 息子に見られていることも、自分の娘同然に愛しているアスカに見つめられていることももう気にならない。牡のフェロモン臭に酔いしれ、彼らのペニスを渇望するようになっていた。
 だから【ジョー】が太い声で命ずると、牝犬ユイは言われるがままの姿勢を取った。
 犬這いの姿勢で、美臀を大きく付きだした姿勢を。
 そこでユイは、自分が碇シンジと向き合う姿勢を取っていることに気づいてしまう。
 「ああ、ああ、だめ、だめよ」覚悟していたとはいえ、やはり衝撃的すぎた。
 泣きじゃくる純白の背中に【リッキー】の前脚が乗った。
 肌に浅く爪が食い込む感触だけで、ユイの花弁はふっくらとくつろいでしまう。
 その牝花に赤黒い犬のペニスがずるりと侵入した。
 「は、あ、ああ……」驚きのあまり口が半開きになっている碇シンジと視線を合わせたままユイは甘い吐息を漏らす。ルージュがなかば剥がれた唇からはたらたらと涎がこぼれた。
 成人男子とは形状は異なるもののごつごつとして長く骨入りのペニスに貫かれる感覚が与えてくれる悦びは、愛する息子の目の前で犯される屈辱を上回っていた。
 くぃっ、くぃっとリズミカルに腰が叩きつけられ、奥へ、さらに奥へと進んでいくペニスを碇ユイの肉襞は優しく包み込んで快楽をむさぼろうとする。
 そうしてユイは【リッキー】のペニスを受け入れ、彼のリズミカルな腰遣いに合わせて澄んだ声で悦びの歌を歌い始めてしまう。
 若牡に乱暴に突かれることの感謝を、息子に向かって話しかけてしまう。その言葉が通じないことを心の底からカヲルに感謝しながら。
 「あぁ、ああ、シンジ、彼、彼ったら、とっても乱暴なの。お母さんのことをただの牝……いいえ、ただの孔だと思ってるのよ。だからね、彼ったらサカってきたらすぐに私を犯すの。こんなふうにおさえつけてずぶずぶずぶーって、あ、あ、あはぁ、こんな腰遣い、こんな奥まで、ああ、すてき。こんなこと、『あの人』……アナタのお父さんは絶対してくれないし、できないわ……あ!はぁ……ン、びゅるびゅるってぇ、びゅるびゅるってなかにぃ」
 ユイは全身を震わせる。【リッキー】が射精を始めたのだった。しかしそれは人のものとは異なり水のように透明で、さらに量もとてつもないものだった。たちまち美夫人の牝壺は液体であふれかえり、犬がペニスを前後させるたびに外へ吹き出した。
 そしてその犬のペニス。
 射精のたびそれの根元が大きく膨らみ、瘤になっていくのだ。
 黒犬は乱暴に腰をこねくり返し、元のものよりもひとまわり大きくなった瘤をユイの花弁にごりごりと押しつける。
 「あ、あ、あ……あ、これ、これ、これがはいっちゃったら、これが、これが……あああああッッ!」
 彼女がぶるぶると痙攣する。先の液体によって十分潤滑され、乱暴な腰遣いと骨入りペニスで柔らかく下準備されたユイの牝孔はそれを受け入れてしまったのだ。
 「あ、あ、あ……もう、もう……」ユイは虚ろな声でつぶやく。しかしその表情は被虐の悦びで彩られている。
 不意に【リッキー】が彼女の背中から降りる。そのままぐるりと身体を巡らせ、ユイとは逆の方向を向いた。
 しかし、彼はユイとつながったままだった。
 真の「結合」が為されたからだった。
 牝の中へ挿入された根元の瘤、それは彼が射精を完全に終えるまではペニスが抜けることを許さない。
 満足そうに溜息を漏らした【リッキー】は本格的な射精を開始する。
 「あぁっ」ユイが啼いた。胎内に迸る液体の温度と粘度が増したのだった。
 さらに、ひと噴きごとに彼女の中に侵入した瘤がさらにその大きさを増していくと、彼女のクリトリスは外へ大きくふくれだしてしまう。
 そしてそれは裏側からはふくらんだ瘤で刺激され、表からは犬の毛皮と擦れ合い、信じられないくらいの悦びを女体に与えるのだ。
 「あ、あ、あー」
 胎内に精液を放たれるたびに碇ユイは獣じみた声を漏らした。
 クリトリスからの快楽に酔い、Gスポットをこすられる悦びに裏声で叫んだ。つきだしたお尻をくりくり振り、雄犬に擦りつけて悦びをむさぼった。
 我慢できなくなった【ジョー】が彼女の顔の前に屹立しきったペニスを突き出すと、碇ユイはどんよりとした瞳でそれを見つめ、大きく舌を伸ばして先端をねぶる。
 ぐい、と喉奥まで畜生のペニスを突っ込まれても素直な牝犬はけっして逆らわない。
 びゅるびゅると射精が始まると喉を鳴らしてそれを飲み込み、本番汁が迸るとその濃く、臭い液体に舌鼓を打ってしまう。それが屈辱とも、それがひととして決してやってはいけない行為であることももう考えられない。

 一時間近く牡とつながったまま、牝犬ユイはその幸福を噛みしめている。
 碇シンジの憮然とした表情も気にならない。
 惣流・アスカ・ラングレーの恐怖と哀れみと蔑みがブレンドされた視線も気にならない。
 ……ならないわ。なるはずがないじゃない。
 ……だって、ユイは牝犬ですもの。自分の姿を見れば即座に発情してくれるたくましくて若い恋人が、どこでもユイを押し倒して硬くて素敵なペニスをねじ込み子宮にたっぷり精液を注ぎ込んでくれる恋人が「ふたり」もいるのよ。
 こんな幸せが分からないなんて、ほんと、シンジってお馬鹿さんなのね。
 アスカちゃんもどうしてそんなに震えるのかしら。彼らのオチンチンに支配されるのって、とってもとっても素敵なのに。
 碇ユイはいまや、途方もない幸福感と、この悦びを教えてくれた渚カヲルへの感謝の念に支配されていた。



◆ ◆ ◆



 「洞木さん?」
 背中から呼びかけられて少女は振り返る。ふたつにくくったお下げが揺れた。
 「あ、ユイおばさま……碇君のお母さん!」
 「こんにちわ」ベンチに腰掛けているショートカットの女性は微笑んだ。活動的なワンピースを着た彼女の手にはリードがあり、その先には大きな黒いシェパードがいた。
 「あれ?碇君のところ、犬なんて飼ってましたっけ?」
 大親友である惣流・アスカ・ラングレーに「うちでお茶しない?すっごく美味しいケーキとお茶があるの!」と誘われ訪れた「うち」がなぜか碇家であることをなんども経験していた洞木ヒカリは首をかしげた。
 「違うのよ。これはアルバイト。お年を召した方の飼い犬のお散歩をしているのよ」
 すこし首をかしげて少女を見上げるユイ。その表情になぜかどきりとする。
 ……碇君のお母さんって、すごく若くて綺麗なのねぇ。
 ユイに笑みを返しつつ、少女は内心で溜め息をついた。
 「でもねぇ、この子たち元気すぎて、おばさん疲れちゃった」くすくす笑うユイにヒカリは吹き出す。
 「分かります。だってこの子……【マックス】っていうんですけど……すごい勢いで引っ張るんですよ。もう、今日だって、いつものコースじゃないし」
 「そうなのぉ。じゃぁちょっと座っていかない?洞木さん?」
 「あ、はい!あの、ヒカリって呼んでください。【マックス】……おいで」


イラスト:目黒腹蔵さん「Max, mon amour 〜その日(1)〜」


 ヒカリは最初、【マックス】とユイの連れている二頭のシェパード……【リッキー】と【ジョー】……といがみ合うのではないかと懸念したが、その心配は不要だった。三頭の犬たちは、彼らにしか分からない会話をすぐに始めてしまったのだから。
 ヒカリはオレンジのスカートの裾をきちんとそろえて腰掛けた。ふわっと香るユイの匂いが心地よかった。
 そうして少女と美夫人はたわいもない会話を弾ませる。
 学校でのアスカのこと、それからヒカリのこと、それからちょっとだけシンジのこと。
 アスカがクラスにおいてもその美貌と性格で君臨していることを改めて知って、ユイはなかば喜び少し心配した。
 ……ほんと、ユイさんってアスカのママみたい。彼女が「ユイおばさまはね、アタシのもう一人のママなんだから」って言うのも分かるわ。まぁ、ちょっと違う意味もあるような気もするけれど。
 微笑みを浮かべ、ユイの方を向いていたヒカリがふと振り返る。
 そこには【マックス】がいた。いささか年老いてしまったものの元気いっぱいの洞木家の愛犬が。
 しかし彼はひどく物欲しげな表情を浮かべていた。洞木ヒカリが聞いたこともないうなり声を上げてすぐ足下ににじり寄っていた。
 「ど、どうしたの?おまえ?」
 答えの変わりに黒い大型犬はひょいと起きあがり、前脚を少女の膝に乗せた。
 「ちょっと!だめ、汚れちゃうじゃない!下りなさい!下りなさいってば!」
 慌てて前脚を払おうとする。だが「彼」の手は離れようとしない。それどころか鼻面をヒカリの下腹部に押し当てて擦りつけ、さらに匂いをかぎ始める。
 「なに!何をするの!」
 凍りつく少女にユイがささやく。
 「きっとうちのコたちに聞いたのよ。『ニンゲンのオンナって牝犬と一緒』ってことを」
 「え、ええ?」
 「きっと【マックス】くん、ヒカリちゃんのことが大好きだったのよ。だけどその『大好き』をどうしてよいか今まで分からなかったのね。だけどもう大丈夫」
 耳元で囁かれる声は蕩けるように甘く、背筋が凍るほど断定的だった。
 「【リッキー】と【ジョー】が彼に教えてあげたから。大好きなニンゲンの女の子を自分のものにする方法を……ね」
 ちらりとヒカリを見上げたのち、【マックス】は飼い主のスカートの中に頭を突っ込む。
 「あ、ああ、だめだ……よぉ。まっくすぅ……」若々しい匂いを放つ乙女の花園を、ショーツ越しに愛犬の舌でねぶられる。細い悲鳴を上げて少女の背中が反り返った。
 華奢なウエストにユイの手が回り、しっかりと支える。つやつやした黒髪をそっと撫でながら、女はさらに囁く。
 「ほら、すごくいいでしょ。自分の指でもこんなに気持ちよくなることなんてないでしょ?彼はあなたが大好きだから、こんなに気持ちよくできるのよ」
 「あ、ひ、あ、あ……」
 「ほら、もっと大きく脚を開いて、ね?」ユイのほっそりした指がヒカリの膝裏に回り、そっと持ち上げた。
 そうしておおきく拡げたユイ自身の太股の上に乗せる。
 「あ、あ、おばさ……まぁ」
 「ほら、こうすれば【マックス】くんはもっと楽にヒカリちゃんを楽しめるのよ。もちろん、あなたもね」
 人通りのほとんどない公園のベンチの上で、美しい人妻と可愛らしい女子中学生が下着の底が見えるほどおおきく太股を開いていた。
 彼女たちの膝元には大型犬が座っている。
 それらは彼女たちのショーツの隙間から舌を突っ込み、音を立てて牝蜜をすすっている。
 お下げの女子中学生の足下には【マックス】が。
 ショートカットの人妻の足下には【リッキー】と【ジョー】が。
 「ね、ステキでしょ?とっても……すてきでしょ?」
 「ああ、ああ、こんな……ああ、ああっ」
 美貌の人妻の問いかけに、ヒカリは涙をこぼしつつもうなずいてしまう。
 わたし……なにをしているの?
 ヒカリは自問自答する。ひそかに好意を抱いている男の子には、まだ下着姿さえ、いや私服姿でさえ見せたことがないのに。自分自身の指で慰めることだって週に三回しかやらない(コダマお姉ちゃんなんて毎晩なんだから)わたしが、まっくすに……犬に舐められて気持ちよくなってるなんて。
 ああ、駄目、こんなのおかしいわ。こんなに下着をぬるぬるさせて……あ、あ、そのぬるぬる、マックスが全部舐めてる。なめてる、あ、あ、あ、とける、とける、あたし、とけちゃう……。
 「ね……ね……とっても……とっても……いい……でしょぉ?」ユイがまたささやく。
 こくこくとうなずいている自分を洞木ヒカリは発見する。
 「じゃぁ……邪魔っけなぱんつ、脱いじゃおうか?……ほらぁ」
 碇シンジの母親はにっこり微笑むと腰を浮かし、自身の下着……藤色のレースで飾られたそれは、洞木ヒカリにはとても卑猥なものに見えた……を脱ぎ落とす。
 「ね?」にっこり微笑まれてヒカリも慌ててそれに従う。
 そしてさらに、ノーブルな美貌の女性に促されるとおりに、彼女と同じ姿勢を……さっきまで腰掛けていたベンチの座面に熱を帯びた頬をのせた犬這いの姿勢を……とってしまう。
 活動的な少女らしいスカートをお腹のところまでまくりあげ、水着の跡も鮮やかなちいさなお尻を高々とかかげてしまう。
 「この姿勢……よ。この……姿勢……が正しい……のよ。ヒカリちゃ……ん、アナタがまっくすくん……にあいしてもらうときのポーズは……こう……よ」
 少女と見つめ合いながら碇ユイは微笑んだ。形の良い唇からたらりと涎がこぼれ落ちる。クラスでも評判の表情がだらしなく蕩けた。
 背後からヒカリの耳に聞き慣れた音が届いていた。
 それは犬が長い舌を伸ばして皿に入った水を飲む音だった。碇ユイの背後に回った黒いシェパードたちが彼女の蜜を存分に味わう音だった。
 そしてすぐに洞木ヒカリの唇からも甘い声が漏れはじめ、その背後からは犬が液体を存分に味わう音が聞こえはじめた。
 「あ、ああ、ああ……まっくす、まっくす、まっくすぅ」
 そばかすの浮いた愛らしい表情を、おんなの、いや、牝犬の表情に変えて洞木ヒカリは愛犬の名前をつぶやいていた。
 おでこをほとんどくっつけんばかりの距離で、犬のペニスのすばらしさを、それがどくどくと精液を迸らせるときの子宮への快楽をクラスメイトの美しい母親が舌足らずに讃えるさまを聞かされていくうちに、彼女もそれを期待するようになる。
 さらにその「すばらしいせっくす」を得るためにはある「ちょっとした約束のようなもの」が必要になるとほのめかされると、「する、わたし、わたし、します、そのけーやく、しますぅっ」とつぶやいてしまう。
 その瞬間、少女のすぐ隣にとても美しい、天使のような容貌を持つ男子生徒が立っていることに気付かずに。
 その「誓い」は自身の魂を売り渡してしまうものであることになど気づきもせずに。


 それが「浸透」だった。
 それこそがレイがもっとも恐れていた事態だった。



◆ ◆ ◆



 「母さん!どこに行ってたの!」
 ドアを開けた瞬間に叫びに近い息子の声を聞いて、ユイはほっと安堵する。
 ああ、ここにはまだ平穏で正常な世界が存在しているのだと。
 だから彼女は嘘をつく。少年のために、そして夫のために。
 「レイちゃんの調子が良くなさそうだから、ちょっと病院に行っていたの。そうしたら、一晩検査のために入院しなさいって……まぁ、そんなに慌てなくていいのよ。ただの検査なんだから」
 蒼白になったシンジの様子に、碇ユイは心温まるものを感じると同時に、良心の呵責を、いや被虐と嗜虐の混じり合った感情を覚えてしまう。
 ……淫らな責めに魂まで抜かれてしまい、命じられたとおりにレイを淫人形に変える所業に手を貸してしまったことへの後悔。
 ……獣との交わりに夢中になったあげく、アスカの親友に獣姦の悦びを教え込んでしまったというマゾヒスティックな感情。
 そのどちらも彼女の牝芯から蜜を分泌させてしまう。
 「そ、そうなんだ。でも……」
 「大丈夫よ。明日の夕方には帰ってくるから。迎えに行きましょう。ね?」
 「う、うん……なに?それ?」うなずいた彼の目が丸くなる。ユイに続いてドアの隙間からするりと入り込んだ二匹の犬を、真っ黒なシェパードを発見したのだ。
 「しばらく預かることになったの。【リッキー】と【ジョー】よ。とってもよい子たちなのよ」
 「でも、その犬」シンジの表情は厳しく、声は嫌悪にまみれていた。「その犬、カヲル君のところの犬じゃないの?」
 「そうよ。それがどうしたの?」くすりと笑うユイに、なぜかシンジはどきりとしてしまう。
 「だってその犬、今日すごく乱暴なところを見たんだ。危ないよ」
 「大丈夫よ。慣れてますもの。私たち、とっても仲良しなのよ」ぱっとしゃがんで二頭の黒犬を抱き、ほおずりをする。
 「母さん……」シンジは絶句し、目を逸らす。
 それは彼女が犬と抱き合うさまに、なにかひどく淫猥なものを感じてしまったから。
 同時に無防備にしゃがみ込んだスカートの奥……藤色のショーツから透けて見えるやや濃いめの陰毛の翳りと、ひどく鮮やかなクロッチの部分の染み……が見え、鼓動が急激に高まってしまったからでもある。
 「僕、もう寝るから」背中を向けたまま少年は母親に宣言した。「それに、僕はその犬の面倒は絶対みないからね」
 「大丈夫よ。母さんがちゃんと面倒見ますから。大丈夫よ」くすくす笑う母親に憤然とした表情で少年は自室へ向かい、ドアを閉めた。
 息子の背中を見つめていた碇ユイの表情がしだいに変化する。
 淡い希望から深い後悔へ、さらに背徳への怖れから被虐の期待へと。
 二頭のシェパードに頬ずりしながら麗夫人は彼らに何事かささやいた。
 太い声で二頭は同意する。

 碇シンジは携帯電話を見つめていた。
 ……なぜ思い出すことができないのだろう。
 僕はなにかとても大事なことを渚カヲルに話しに行ったはずなのに。
 それなのに、それなのに、僕の頭の中には真っ黒な雄シェパードたちが白い美しい犬と交尾したことしか残っていない。
 なぜなんだろう?どうしてなんだろう?
 けど、少なくとも分かる。
 彼は要注意だ。彼はなにかを隠している。彼はなにかをたくらんでいる。
 碇シンジは真剣な表情で、携帯電話の着信履歴を見つめていた。

 だから気がつかない。
 少年が自室に消えるのを見守った彼の母親が、二頭の犬とともに浴室へと向かったことを。
 虚ろな悦びをたたえた表情のまま、一糸まとわぬ裸身になるとシェパードたちと一緒に浴室へと向かったことを。
 いつもより大きなシャワーの水音でさえ消せない、押し殺した甘いあえぎがやがて浴室から漏れてきたことを。
 それが「ああ、ああ、【リッキー】さまぁ、【ジョー】さまぁ、ユイは幸せです。いつでも愛していただけるなんてとっても幸せです……」という碇ユイの濡れ爛れた睦み声であることを。


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Original text:FOXさん
Illust:目黒腹蔵さん