「アスカ、満たされぬ愛」 ♯外伝 壱発目?
 (あるいはダークなKISS! KISS? KISS!?)




「つねりゃ紫、食い(吸い)付きゃ紅よ、『色』で育てたこの体」

《江戸時代の男性が自慢したくなる女性の愛情表現》



◆ ◆ ◆

 

『シンジ』とキスした。


「ちょ、ちょっとヒカリっ!!?」

シンジの驚いた声を無視してジッパーを下げ、『それ』をズボンから出す。
竿から袋まで出すと躊躇い無しに喉の奥までくわえ込む。
苦しかったけど、そんなやり方で自分の想いをぶつけられるのは私だけの『特権』の筈なんだ、
アスカにも、山岸さんや霧島さんにも、ましてこっそりと私の影から見ているノゾミにも譲れない
私だけの『モノ』なんだよ、と。


「んわっ!?」

彼の快感に満ちた顔を見たかったけど、私は彼の顔を見れなかった。
その時の私の顔は抑えがたい嫉妬がにじみ出ていたと思うから。


◆ ◆ ◆

 

二日前、私達は始めて体を重ねた。
彼のすべてを受け止めて、アスカに嫉妬していた心がほぐされたと思っていたのに。
誰よりも彼の傍にいられるんだって、ついに私はアスカに勝ったんだって思っていたのに。
翌日にはもうそれだけでは満足できないくらいに私の心は貪欲になっていた。


 

『ヒカリ。今ちょっといい?』

彼が私に話しかける。

『ははは、そうだったっけ?』

彼が私の話で笑う。

『今日もご苦労様』

彼が私の肩をもんでくれる。

そんな彼の行動が私に喜びを与えてくれる。

 

その一方で、どす黒い不安が私の中で広がっていく。

 

『ありがとう、宮部さん』

誰かにシンジが微笑む。

 

『北片さん、一寸いいかな』

誰かにシンジが話しかける。

 

『ふーん、そうなんだ。 じゃあ、山中さんはどんなプレゼントをしたの?』


誰かの話にシンジが聞き入る。

 

そんなシンジの行動の一つ一つが私に嫉妬に満ちたヤキモチを膨らまさせて。
私は言いようのない期待と不安に押しつぶされようとしていた。

 

そんな私にも、やらなければならない事があった。
今も眠り続けるアスカに私がシンジが付きい始めた事を報告しに行く事。
彼女に対する『洞木ヒカリ』のけじめだった。


 

◆ ◆ ◆



入院患者はたった一人、アスカ以外誰もいない中央病院の最上階。

病室には先客がいた。 今の私が心も体も命もすべてを賭けられるヒト。
そして、今の私に漠然とした、ぼんやりとした不安を生み出し続けている張本人。
ドアの窓越しに彼の姿を見付けた時、私の心臓は一足飛びにどんどテンポを上げて行った。

 

「あ、シンジ来てた…」

 

『今の僕の事を知ったら君は怒るかもしれないけど』

 

アスカの病室のドアが僅かに開いてた…そこから聞こえた彼の声。

 

『今でも僕はアスカの事が好きだよ』



その一言に溜まっていた嫉妬心が爆発した。
病室のドアを躊躇いなく開け、中に入ると後ろ手に鍵を掛け、ドアに付いた窓にカーテンをかける。
愕然としたシンジのそばに一息に近づくとベッドのすぐ側にあった椅子に無理やり座らせた。

「話、聞こえちゃったの?! ね、ねぇヒカリ!? 僕の話を聞いて!」

彼女が教えてくれた関節技と、最近益々肩こりの原因となった乳房でシンジの体を固定する。
ファスナーを開けまったく大きくなってない『シンジ』を両手でつかんで口の全てで包み込んであげる。
アンモニアの臭気が混じったどう表現したらいいのか判らない匂いと味が私の中に広がって来た。
唇の回りに当たる陰毛の感触が変にくすぐったい。

一通り唾液をまぶした後、したたる涎まみれの唇を見せ付けるように努力しながら宣告する。


「…ぷぁ…判ってるよ、シンジの気持ち…」
「じゃ、じゃあ辞めて! シテくれるのは嬉しいけどここじゃ嫌だよ」


 今の私がそんな事許す訳無いじゃない。

「いやよ」

「え!? なんで?!」

「今のシンジにとっての一番が私だと知らなかった以前だったら……こんな事しなかった。
 ただ体だけの関係なら…辞めたかもしれない」

NERVの女子制服の前を開け、ブラジャーごとシャツを引き上げる。
コレでもう、ドアを開けて入ってきた人に言い訳が出来なくなったのが判ったのか、
シンジの体から一気に力が抜ける。


「でもシンジの想いを知った今はもう我慢できない…ううん、我慢なんて絶対しない。
 私の気持ちを何時でもシンジに届けたいの」

見せ付けるように『シンジ』の先端をなめた時、舌に小さい裂け目を感じる。
確かここがおしっこと……とぼんやりと頭に思い浮かんだ。
舌先を使って軽くつつくとピクンとシンジの背が跳ねる。

 

(あ…こんなのが気持ちいいんだ)


胸にシンジのペニスと私の唾液をのせて、ゆっくりと愛撫してあげる。

最初は柔らかい、形のハッキリしなかったナマコみたいな物が、シンジの喘ぎにもならない息使いに
合わせて大きく堅くなってくる。
いつしか私は嫉妬心を忘れ、彼を口と胸で愛してあげる事に心を奪われていた。

「もう…だめ…でちゃうよ…ヒカ…やめて」

シンジの声に辞めない、と言う意思表示をこめて軽く首を振ったとき、私の前歯が
『シンジ』の先端に当たって、それが止めになったみたい。

膨らんだ先端から熱が飛び出して、私の口の中へと溜まっていく……?!

猛烈な息苦しさに、私は射精が終わったばかりの『シンジ』を吐き出した


◆ ◆ ◆

 

「けほ、けほっ」

精液のしずくが気管に入ったらしく、苦しんでいる私の背中をシンジはさすってくれている。


「気持ち、よかった?」
「…うん…でも、勘違いしてるんだよ。 『アスカが好き』って言ったのを聞いてしまったんでしょ?」

唇をぬぐいながらこくん、とうなずく。
でも彼も悪いんだ、「今の僕は洞木さんが好きなのに!」なんて言ってくれたのに。
あんなに人の心を虜にしておいて!

「さっきの話には続きがあったんだよ。 そこで、聞いていてくれないかな?」
「…うん」

涙目の私に一度断ったシンジは「責任取る為じゃ無いからね」と呟いた後、アスカの寝顔に向かって


「さっきの話をするね、アスカ。 一瞬たりとてアスカへの気持ちを忘れたことは無いよ。
 アスカの事、今も僕は好きなんだ。 大切なんだ。 ……でも、それだけになっちゃったんだ。
 今の僕には、もっと好き…違うね、『愛している人』が出来たんだ。
 インパクトの時、僕は誰よりもアスカを選んだはずなのに…ホント、ずるくなったと思うよ」

いつの間にか、私の手はシンジにしっかり握られていた。

「ごめんねアスカ。 僕、君を待てなかった。
 この数年、アスカの事を忘れた事はなかったけど、それ以上にこの温もりが、
 僕の隣にいてくれる彼女がいとおしくて仕方がなくなったんだ。

 だから、ヒカリの為にも今ハッキリ言うよ。 僕は、碇シンジは洞木ヒカリを愛してます。
 どんなにアスカに憎まれても、僕は彼女を選ぶ。だって僕が『自分で考え、自分で決めた』から」

 

『本当に…私でいいの…? 嬉しいよぉ…!』




私は信じられない位に嬉しかった。

でも。口から漏れたのは……。

 

「じゃあ、今すぐここで私を愛して」

「本気…なの…?」

「頭の中ぐちゃぐちゃで、何を信じていいのか判らなくって、それでもシンジが大好きで…信じたくて…
 だから、だからっ、何かハッキリしたものが欲しいの…」


◆ ◆ ◆

「うん。一昨日言ったよね。『寂しさを紛らわせるためなんていやだ!』って。 だから約束する。

 アスカが目を覚ました時、僕も一緒に謝るよ。アスカを裏切ったのは僕も同じなんだから。
 だからヒカリも約束して。 僕がおかしいと思ったら僕に言ってほしいんだよ。

 だから……僕と一緒に『汚れて』くれますか?」


シンジはずるい。 本当にずるい。

「お互いに望んだ事なんだから『不潔よ!』なんて、言わないでね?」

そんな事を言われたら、泣くことしか出来ないじゃないかぁ。


私は彼の胸に飛び込んでいた。

 

◆ ◆ ◆


今、私はイスの上のシンジに頬を寄せて、めいっぱい甘えている。
シンジと私、お互いの体液の臭いが交じり合って……どこか心地いい。
二人だけの香水を身に纏って、けだるい気分を味わいつつあったかい腕の中で睦み合っていた。
勿論、今も二度射精した『シンジ』は私の中にいる。

「ねぇ…。 あの頃、シンジはもし綾波さんがお母さんのクローンじゃ無かったら、好きになっていた?」
「忘れてない? 一度そのことは答えた筈だよ?」
 
あ、覚えてくれてたんだ。

「今も僕は綾波をそんな意味で見れないし、綾波と僕が兄弟みたいな関係だって知ったのは
 アスカやヒカリを好きになった後だよ?」
「え!?」
 
軽く驚いた私はシンジの顔を見上げる。
 
「あのイヤリングを渡した時に見せてくれた笑顔…それがヒカリを好きになった最初の理由。
 アスカからトウジの話を聞いてたし、僕自身アスカの事しか見ていなかったから
 気の迷いって言うか、『アスカの友達のやさしくてかわいい女性(ひと)』だって割り切ってたんだよ。

 でも、諫早であの時のイヤリングをして微笑んでいたヒカリの笑顔を見て、『欲しい』って思った。
 この笑顔をトウジにも、ううん、誰にも渡したく無いって思ってしまったんだ。
 アスカを好きなんだって自分に言い聞かせたんだけど、駄目だった。
 あの瞬間にもう心はヒカリのモノになってた気がする」

「じゃあ、彼女に『恋』を意識した事があるか…」

「ヒカリもしつこいね?  うん……? やっぱり綾波って綺麗だけど…なんか水晶みたいだったから…」
「水晶?」
「始めて綾波の笑顔を見たのは第五使徒戦直後なんだけど、『水晶を彫ったみたい』って思ったんだ。
 ほら、本当に純粋な水晶って透明でしょ? 『いろ』で染められない存在、って感じがして…」
 
ふぅん…あれ?
 
「…………『アメジスト』は? あれはちゃんと『紫色』に染まってるよ?」
「『紫水晶』は…ヒカリだよ」
「へ? わたし?」
「同じ水晶だけど…『いろ』に染まってる…『紫』…高貴とされたいろ、初号機の、僕の大好きないろ…」
「にゃはぁっ!」

シンジの両手が私のお尻の穴をつつく様にしながら撫で回し始める。
唇がブラウス越しに私の乳首を含んで、糸切り歯をそっと当ててくる。
そしてあそこは油でも縫ったみたいに……あふれた二人の体液に濡れていた。
 
 
 
「そして、ぼくが大切にしたいいろ…それに染まったヒカリは…僕だけのモノだよ…!」


◆ ◆ ◆

 

今、私はアスカの目の前でまたシンジに抱かれてる。 お互いに全く服を脱がないままで。

看護士さんが来た時の言い訳なんかじゃない。
そんなの、今の私たちが纏っている臭いをかげばすぐに判る。

唯互いの想いをぶつけ合う…本心だけを。 だから飾る理由なんか無い。
ばれてもいい…問題になったとしても。
今アスカが目覚めてもいい…。 それこそ私の望む事かもしれなかったから。

お互いにもう何度果てたかも判らない。


落ち着くたびに『シンジ』がすぐ力と熱さを取り戻して、その熱が私のココロを灼いていく。

 

いきなりシンジは私の体を繋がったまま180度くるんと回した。

「んん!」


目が覚めないだけでアスカは寝返りも結構うつ。 だから…。

「ひっ!?」

アスカの顔は目を瞑っているとはいえ私たちのほうを向いていた。

 

◆ ◆ ◆


二律背反 − Ambivalenz と言う言葉がある。


相反する物事が同じ条件をもって存在している、というもの。
今の思いがそう。 目が覚めて欲しい思いと……逆に目覚めて欲しくない思い。

アスカが目覚めて私達を責めれば…一時はお互いにつらくても…アスカが判ってくれなくても、
 どんなに蔑まれても私はある意味…安心できる。
でも、アスカが無理やり私からシンジを奪おうとするかもしれない。
シンジが好きだからって言うより、彼を奪った私に対する復讐のために。
 
 
目覚めなければ…その間シンジの温もりをアスカから独占できる。
でも、いつか目覚める彼女の影におびえ続けなきゃならない。

それに、目覚めて欲しいと私自身が今でも望んでいるのも……事実なんだ。

ふとアスカと鈴原の顔がダブった。  もし、あのまま私が鈴原を求め続けていたらこの苦しみは?


「だめ?!」
「え、何? どこか痛かったの?!」

 

あわてて頭を振る。

いまの私はシンジの『女』。 私の全てはもうシンジの物。
シンジが私を必要としている限り変わらない、私の誓いなのよ。 

何を迷っているんだろう。私はシンジに「選ばれた」んじゃないの。

精一杯股を開いて、自分から腰を動かす。


(たとえ貴女に恨まれても、私がシンジをを選んだの…シンジの言う通り自分の意思で。
だから、だからアスカぁ…)

シンジに貫かれた私のアソコをアスカの寝顔に見せ付けて

「シンジを…頂戴ぃぃ!!」


 

初めて感じる絶頂感と
精液も出ない、はぜる様に震えるだけになった『シンジ』を感じながら、私は気を失った。

 

◆ ◆ ◆

 

「えっと、こんな時ってどうしたら……いいの?」
「ちょ?! 私に聞かないでよ、こんな事態はアタシも初めてなんだから」
 
病室のドアの前で顔を見合わせる通りすがりの看護士二人。
「やっぱりノック、するべきかしら」
「お願い、責任は私が取るから  今はそのままにしてあげて?」
 
後ろからいきなり声をかけられ、ビックリした二人は振り返って相手を確認する。
 
「「伊吹主任代行?!」」
 
二人のネームプレートから名前を手帳に拾いながら彼女はお願いした。
 
「で、でもやっぱり、その」
「今の事は黙っていてくれないかしら。  口止め料ならちゃんと払うし、責任は私が全て負うから」
 
 そういうことなら、と離れていく二人の背中を見つめる彼女は邪悪な笑顔を浮かべていた。
 
 
「彼女を壊す材料が、また一つ」
 
 

 

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