続・ヒカリ日記



新しい季節、悪夢の快適な目覚め方

シンジは夢を見ていた。
朝が来た後も見ていたことだけは分かる、ただそれだけの夢だ。
目が醒めた世界には何も活かすことの出来ない会話があり、脳裏にも二度と蘇らせられない光景を目に、一掴みほども持って帰れるところのない何かを得たような感覚がただ後に残る。そんな夢。
ただ、それが悪夢であったことだけは確信できた。
寝間着の下は冷えて不快な汗に濡れており、胸には落ち着かぬ動悸が、全力の逃亡を遂げた後かの有様で脈打っていたのだから。
そんな夢だったのだろう。

「……っ、っあっ。な、この天井……っ、ここはっ……!?」

―― そうか、 (うち) なんだ。今はここが。
まず目に入った、馴染めぬ景色。
以前の葛城邸の物置とは違ってまともに整えられた白の壁紙、揃いの柄の天井クロス。そして、妙に薄暗く感じるからと自分でカバーを外した、輪っかむき出しの蛍光灯。たれ下がるスイッチ紐。
母の再婚以来の慣れぬ自室に一瞬の恐慌を覚え。次いでシンジは、その硬直を解くにも至らぬ内、又も訪れた驚愕でもって、

「……っ、うぇっ!? なっ。な、なんで……!」

と、今度こそベッドから跳ね起きんばかりに、悲鳴そのものの叫びを上げる羽目へ陥ったのだった。
自分ひとりで寝ていたつもりのそこに、低く背を丸めた何者か。華奢な輪郭の人影が。

「なんで、ここにアスカが――!?」

嘘だろう? と目をこすり、見開いて見ても、そこにアスカが居るようにしか見えない。消えてなくなりはしない。
シンジのベッドの上に蹲っている彼女は、夢でも幻でもない。
分厚くカーテンを引いた部屋の中は薄暗いが、見紛う事なきこの赤い髪。ゆるくウェーブのかかったハニーブロンドを、俯せた背に―― 素裸の背中に長く広げて。
そして、面差しは不確かに伏せたまま、『んっ、んっ……』と鼻で息を吸う悩ましいくぐもり。そのリズムと共に揺らされている、後頭部。

「んっ、ん、んんっ……うむぅ……っ、んん……」

それは、かつては同居人、同僚、同級生として過ごしたアスカのものだ。
シンジが間違うわけがない。
跳ね起き、逃げようとして、そこまでで両腿をアスカの手に抑えられ。仰向けから首を不格好に折り曲げて凝視する。
それでも信じられない。

「なんで……!?」

いつの間にか剥ぎ取られていたシーツがあった筈の場所に、彼女はシンジの足下から覆い被さっていた。

「なんで、そんなこと―― してるのさっ、アスカぁ」

アスカはすぐには答えを寄越さなかった。
シンジの下半身に伏せた顔で黙々と、唇を使っていたからだ。

「んちゅっ、んはぁ、あぁン……む、むぅンン……、んちゅっ」
「うあっ、あ、やめっ、やめてよ……アスカっ、ああっ」

顎よりもおでこを低く、俯きが垂らす前髪がカーテンになってはいても。見えなくたって他に解釈しようのない感覚が股間にあった。

(なんで……、舐めてるのっ!? アスカが、僕のを……!!)

ねっとりと濡れた優しいものにペニスを巻かれ。お湯よりも熱く、たしかな感触で密着してくる生暖かい中にぴったり包まれて、ぬりゅぬりゅと亀頭がしごかれている。
押し止めようもなくゾクゾクと、背筋を這い上がる圧倒的な快感。それをアスカがくれているのだ。
あの可愛い唇でのフェラチオという、義父との行為にシンジが見せつけられるだけだった服従奉仕で。

「うっ、うぁっ、ああっ」

シンジは太股に回されたアスカの手を振り解くことも出来ず、どうしてと聞き募ることも出来ず翻弄された。
咥えられた若茎に与えられる快感に、ただ喘がされる。

「んっ、んぅ……む、むふぅン……ン……、んぅンン……」
「ああっ、アスカっ。やめて、やめてアスカ……、あ、ああ……」

アスカの頬の内側、そして顎の裏が協力して、シンジの敏感な先端を挟み付ける。
波打つ舌の運びに乗せて四方から絞り上げ、どんなに一生懸命に扱こうと自分の手では得られることのない、恍惚の愉悦を与えてくれている――

「あすっ……アスカ! ああっ、アスカぁぁ……」

ひとたまりもなく、熱液が尿道に弾けるまで導かれた。
それは間違いなく、シンジがかつて味わったことのない、最高の快感に塗れた射精だったはずだ。
その刹那、絶頂感に占められる脳裏の隅に(いけない……!)と浮かびはした。
けれども、咄嗟に押しのけることも出来ただろう手に力が込められることはなく。シンジの左右の10本の指は、やり慣れた風情の仕草で頭部全体をスナップさせるアスカの、そのまばゆい髪にただ絡みついていたのだった。

「んっ、んく……んくん……ン」

こくとくと喉を鳴らして、アスカは最後までシンジの出した精液を飲み干していた。



◆ ◆ ◆



「……なんっ、で。なんでさ……!」

ズボンを下ろされたままの格好で呆然と背を丸く。ようやくシンジが出せた声は、みっともないまでに震えていた。

「なんで、こんなことするのさ。アスカは……と、義父さんとしてれば良いんだろう? こんな―― ことはさ……っ!」

ベッドからひたりと素足で降りたアスカは、そんなシンジに構うでもなく、こちらは隠そうともしないオールヌードのままサイドボードでティッシュを手に集めていた。

「…………」

カーテンの隙間からの清々しい朝日と、常夜灯の黄色い薄明かりの両方に照らされて。ぼうっとゆるやかなカーブの稜線を浮かび上がらせる、アスカの剥き出しのバスト。
ぴんと立った粒のような二つの乳首さえもが、すぐそこに間近だ。
飛び散った白い粘液、シンジが出した精液なんてものが掛かっているのを、アスカは何も言わない手付きで静かに拭き取って、ゴミ箱に捨てている。
後始末の生々しさが、自分のただ一方的に絞られただけの射精を余計に惨めにさせるようだった。

一方で、顔を苦々しく歪めて吐き捨てながらも、シンジは横目に盗み見るアスカのそこから視線を逸らすことができなかった。
さっきまで、そのいかにも柔らかそうな二つの膨らみは、シンジの腿の間にあった筈だ。
さんざん見せつけられてきたように、義理の父の腕の中で揉みしだかれているのではない。
さっきは少し伸ばせばシンジの手が届いた。
同居していた頃ならこんな形での息苦しさは抱くことなく、こっそり魅入られていられた―― アスカの美しい裸の胸を、さっきならば直に確かめることも出来たろうか。
どんな素敵な感触だったろう―― 。押しつけられていた太股には、それが確かにあった筈だ。

(なにを考えているんだ、僕は)

流されるばかりでいたお陰でちらとも覚えていないことを、惜しいと思ってしまう浅ましさ。同意もなく一方的な吸茎を施された憤りと共に、たしかにあったその矮小な感情を、シンジは恥じた。
悔しいと、恥じた。
性欲ばかりが頭に浮かんでくるようじゃ、あの父親と一緒じゃないか、と。

「答えろよ、アスカ……!」

そんな苛立ちを誤魔化すようでまた情けないのだけれども、荒れた気分ばかりが募る。ぶつけてしまう。
アスカの意図がまるで分からなかった。
母親の再婚でヒカリたちの家の実態を知って以来、 () () () () () になってしまっているのに、面と向かって投げかけたことなど数えるくらいしかない、問いかけだった。

「……たのよ」

ぽつり、と。
黙然と佇んでいたアスカが不意に発した声は、よく聞きとれないものだった。

―― っ」

少女も口に出してしまうつもりは本当は無かったのか。
重い空気の中、漏らされた言葉に自分で動揺したかの微かな身じろぎを見せながら。次には鬱屈を吐き出すかの強い口調で、シンジに吐き捨てていた。

「お父さまが、ヒカリのお父さまが言ったのよ! アンタに……してこいって。しゃぶってやってこいって。アンタの……アンタなんかの、情けないお子様ちんちんに、フェラチオしてやってこいって!」
「なんっ……だって……?」

ぎりぎりと、ティッシュを握りしめた細い指に力が込められていた。

「だからって……」

シンジは、分からないと首を振った。

「言われたからって、やれって命令されたからって……アスカはするっていうの? その通りに。言うことを聞いて。あいつは……あんなやつなのに……!」
―― そうよ」

そう言って、はじめてアスカが振り向いた。
寝入っていたシンジの床を勝手に侵しながらも、ずっと合わそうともしないでいた目を、はじめて真っ正面に向けて。

それはどんよりと濁った瞳だった。
生気にまるで欠けた、人形のような瞳だった。
使徒との戦いが一番辛く、誰もの心を荒ませていた頃とまるで同じ――
空虚な笑みにへらっと唇を歪めて、アスカは言って捨てた。

「やれと言われればしてやるわよ。言われる通り、言われた通りに! フェラチオだろうがセックスだろうが。……アンタいい加減なんで、なんでこのアタシが―― っ、ッ」

() () アタシ』という、かつて共に暮らしていた頃はよく聞かされていた言葉を、はっと気付いたように、そして痛々しく顔を歪めながら言い換えて、

「ふ、ふふふ、あはっ。こんなアタシなんか、あんな腐れオヤジに言われてほいほい股を開きにやって来るのが、似合いなのよ」

ほらっと、剥き出しの乳房を揺らす何かも露わな我が身を指し示す。

「アンタだって知ってるじゃない」

下宿している葛城ミサトのマンションを毎週末のように空け、洞木の家で姉妹達やシンジの母と並べられて調教される夜を日常同然にしてしまった、哀れな美少女の――過去の苛烈さの残骸を覗かせるように、

「くっさいザーメン飲まされて、お尻の穴にまで腐れチンポ突っ込まれちゃっても、ひぃひぃ悦がってイイです、嬉しいです―― ってね、言われる通りにしてみせてるでしょ?」

だから当然だろうと、うそぶいてみせるのだった。
あの中年男の気まぐれから出た命令に過ぎないとはいえ、自分はただ実行するだけ、してみせただけ。
いちいちその内容に何かを感じたりすることなんて、ないのだと。

「……あは、アンタのママと同じよね」

宿していた鮮やかな輝きも今は昔。がらんどうとなってしまった蒼い瞳でねめつけて、ベッドの上で愕然とするシンジにアスカは言い放った。
あんたの母親だって、あの腹の弛んだ旦那様にそうしろって言われれば、実の息子の股の間にキスしにやって来るのよ、と。



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Original text:引き気味@北京之春
From:エロ文投下用、思いつきネタスレ(7)